説明

廃油中のPCB分析方法

【課題】PCBを使用していた電気設備等に残存しているPCBを無害化処理するとともに電気設備自体も清浄化する必要性が出てきており、PCBのさまざまな不純物が混じっている土壌、底質、廃絶縁油等について、不純物による妨害を除去し、微量のPCBを精度良く分析する方法を提供する。
【解決手段】廃油中のPCB濃度をECD検出器付ガスクロマトグラフによって分析する方法において、該溶液をクロマトグラフ担体によって精製して得られる液体をECD付ガスクロマトグラフに注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃油に含まれているPCB(ポリ塩化ビフェニール)を分析する方法に関するものである。
PCBによる環境汚染は広がっており、さまざまなところにおいてPCBが検出されている。PCBに汚染された土壌や底質の場合、油分や溶媒や洗滌剤や水等が混在していることが多い。この様なさまざまな不純物を含む土壌や底質による環境汚染を予防するためには、これらの中の微量なPCB濃度を正確に分析測定しなければならない。
またPCBは絶縁性に優れていることから、PCBの毒性が知られる以前においては電気設備等に広く使用されていた。以前PCBを使用していた電気設備等はその後、保管され現在も残っている。そのためそれらの電気設備等に残存しているPCBを無害化処理するとともに電気設備自体も清浄化する必要性が出てきている。そのために、近年PCBの無害化処理の研究が進められ、その結果電気設備の清浄化とPCBの無害化処理のための設備の設計建設が進みつつある。
PCB無害化処理設備においては、設備内を流れる廃絶縁油や設備から排出される廃絶縁油があり、これらの廃絶縁油は微量のPCBに汚染されていると共に溶剤や洗剤等も含んだ廃油である。処理設備を適切に運転管理するために、設備内を流れるこれらの廃絶縁油中の低レベルPCB濃度を、日常的に頻度高く分析測定しなければならない。
また処理設備から排出する処理済廃油中のPCB濃度は排出基準値以下でなければならない。そのために、処理済廃油中のPCB濃度をオンライン的にしかも正確に分析測定しなければならない。
本発明はさまざまな不純物が混じている土壌、底質、廃絶縁油等について、不純物による妨害を除去して微量のPCBを精度良く分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃油等に含まれるPCBの濃度を分析する方法として、国が定めた公定法の分析方法がある。この方法は廃油中の混在物質からPCB成分を完全に分離精製してから、ECD検出器付ガスクロマトグラフ或いは高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計によって濃度を分析する方法である。なおECD検出器付ガスクロマトグラフとは電子捕獲型検出器付ガスクロマトグラフのことである。
この方法はPCBを精度良く分析することができる。しかしPCB成分を分離精製するための前処理操作に長時間を要し、分析経費は高額であるという欠点を有している。
PCBに汚染されている可能性のある汚泥や廃絶縁油等に関して、簡便に一次的に汚染度を評価したい場合がしばしばある。その時は、迅速に且つ安価に分析測定する方法が望ましいのである。公定法による分析法はその様な場合に適しているとは言えない。
PCBの無害化処理設備において、設備の運転管理のために設備内を流れている廃絶縁油のPCB濃度を分析測定する必要がある。この場合の分析測定は頻度高く行わなければならず、そのため短時間で迅速に行うことができるものであることが望まれる。そのためには公定法による分析方法は実用的ではない。より簡便で迅速に且つ安価に行うことのできる分析方法が望ましいのである。
従来、PCB濃度分析測定の公定法において、検出器付ガスクロマトグラフ(以下ECDガスクロと称す)或いは高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計(以下GC−MSと称す)が使用されている。GC−MSは、分析精度は優れているものの分析操作は複雑であり高度な技術を必要とするものである。また導入費用は高価であるため、広く使用されてはいない。一方、ECDガスクロは、その分析操作は比較的簡便でありまた導入費用は比較的安価であるため、PCB等の迅速分析に広く使用されている。つまり、PCB濃度分析に関しては、ECDガスクロが適していると考えられている。
PCBに汚染された廃棄物を無害化処理する際、PCB汚染廃棄物としての基準値は0.5mg/kgと定められている。PCB無害化処理設備から処理後の廃絶縁油を排出する際において、PCB濃度が基準値を下回っていることを分析測定して判定することが必要である。従ってPCB濃度分析計はこのレベルのPCB濃度を正確に測定する能力を持たなければならない。
しかし、ECDガスクロはこの様な低レベルのPCB濃度測定には不適な場合がある。つまり、ECDガスクロはハロゲン化有機物に対して選択性が強く感度も高いとされているが、鉱物油等の廃油中のPCB濃度を測定する場合には問題がある。廃油中には正体不明の妨害物質がありその除去が困難であり、そのため低レベルのPCB濃度を測定する場合には測定値の正確さが悪くなってしまうからである。そして基準値0.5mg/kg程度のPCB濃度にたいしては、ECDガスクロによって判定することは難しいと言われている。その様な低レベルのPCB濃度に対して正確な値を得るためには、GC−MSによって再度測定する必要があると言われている。
この様に、ECDガスクロは廃油中の低レベルのPCB濃度を分析測定する場合、測定値の正確さが低いという欠点がある。
そこでさらに別の方法が研究されている。それはガスクロマトグラフと負化学イオン化質量分析計を用いる方法である。この方法は廃油中に含まれる妨害物質等の影響を受け難く、簡便な前処理操作によって迅速に正確に分析測定することができるとされている。しかしこの方法は高価な分析装置を必要とするものであり、産業界全般としての実用性は低いものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
廃油中のPCBを分析測定する際、従来の公定法分析は、PCBを分離精製する複雑な前処理操作を行うために時間と費用が掛かり過ぎるという欠点がある。またECDガスクロは廃油中の低レベルPCB濃度を分析測定する際、測定値の正確さが劣るという欠点を有している。
そこで本発明は、廃油中の低レベルPCB濃度を分析測定する際高価なGC−MSを用いずに、すでに広く実用されているECDガスクロを用いて、簡便に迅速にそして正確に分析測定する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ECDガスクロを用いて廃油中の低レベルPCB濃度を分析測定する際、分析精度が低下する原因は廃油中に含まれる正体不明の妨害物質による妨害である。そこで本研究者らは廃油中の妨害物質の除去方法について鋭意研究した。その結果、廃絶縁油等に含まれる妨害物質を除去する簡便且つ有効な方法を見出し、低レベルPCB濃度をECDガスクロによって正確に分析測定することを可能とした。
即ち、廃油中のPCB濃度をECD検出器付ガスクロマトグラフによって分析する方法において、廃油に精製水と非極性溶媒を加えてPCBを抽出し、溶媒相液を取り出し、該溶媒相液を脱水処理した後濃縮乾固し、該濃縮乾固物をヘキサンに溶解して溶液とし、該溶液をクロマトグラフ担体によって精製して得られる液体をECD検出器付ガスクロマトグラフに注入することを特徴としたPCBの分析方法である。
【発明の効果】
【0005】
廃油中のPCB基準濃度を分析測定する公定法はPCBを分離精製してから測定する方法であるため、時間と費用が多く掛かっていた。本発明の方法によって廃油中のPCBを分析測定する場合、微量のPCBに対しても廃油中の不純物等の妨害物質による影響をなくして、迅速に且つ正確に分析測定することができる。
さらに、従来PCBの微量分析は、高価で操作も複雑なGC−MSに頼る必要があるとされていたが、本発明の方法によると分析計として広く使われているECDガスクロ分析計を使用することができる。そのため分析測定費用は安価に実施することができる。
また本発明の分析方法を用いることによって、自動分析装置を実現することも容易に可能である。そして自動分析装置を用いて分析測定する場合、多量のサンプルを迅速に分析することができるため、工程中のオンライン的分析に供することも可能である。
【作用】
【0006】
本発明をさらに詳細に説明する。
PCBに汚染された廃油中には通常、溶剤や洗滌剤や水等の不純物が混在している。例えばPCBを無害化処理する設備から排出される処理済廃油の場合、絶縁油の他に洗滌剤と水およびその他不純物が混在している。そしてこの廃油はエマルジョン化していたり或いは2相に分離していたりしている。本発明の方法はこの様な廃油中のPCB濃度を正確に分析測定する方法である。
本発明の方法は、分析するためにサンプリングした廃油をまず十分に混合攪拌して均質な乳化状液とすることから始める。通常サンプリング液は不均質な液であり、そのために分析測定値は大きくばらついてしまい、信頼性を欠くことになる。そこで分析測定値のばらつきを避け、分析精度を上げるために、サンプリング液を均質化することが必要である。混合攪拌の方法としてはいろいろな公知の方法が実施可能であるが、超音波洗浄器によって数分間乳化混合する方法が容易であり均質化効果も大きいので好ましい方法である。
廃油をこの様にして混合乳化液として均質化し、この液中のPCB濃度を分析測定する。そうするとサンプリングによる分析測定値のばらつきを無くすことができる。なお、サンプリングした廃油がすでに十分均質化している場合には、この操作を行う必要がないことは言うまでもないことである。
次に混合乳化液に精製水を加え、さらに非極性溶媒を加えて、PCBを溶媒中に抽出する抽出操作を行う。抽出操作の詳細は次の様である。混合乳化液から少量サンプルを分液ロートに採取する。採取する混合乳化液の量は特に制限はないが、通常の分析として2.5ml程度の定容量とすることが適当である。
精製水はヘキサン洗滌水を使用する。精製水は妨害物質を除去する作用と廃油中に不純物として含まれている洗滌剤中の界面活性剤の濃度を低下させる作用をしている。従って加える精製水の量は界面活性剤の濃度によって変わり、サンプル混合乳化液の5〜50倍の量を加える。通常前記サンプル量に対して20倍の約50ml程度が好ましい。
非極性溶媒はPCBの抽出媒体としての作用をし、通常ジクロロメタンを用いるが、ヘキサン等の他の溶媒でも可能である。加える量はサンプル混合乳化液の2〜10倍であり、通常4倍の約10ml程度が好ましい。
次いで、分液ロート中の混合乳化液、精製水、溶媒の混合液を十分に振とうし、分液ロート内液を混合攪拌する。振とう操作としていろいろな公知の方法があり、それらのいずれの方法によっても実施可能であるが、振とう器を用いて数分間激しく振とうする方法が実用的である。振とう後、分液ロートを静置する。通常数分間静置すると2相に分離し、溶媒としてジクロロメタンを用いた場合下部に溶媒相、上部に水相ができる。精製水は水相となり溶媒は溶媒相となる。そしてサンプル混合乳化液中のPCBは溶媒に溶解して溶媒相に移る。なお、溶媒としてヘキサンを用いた場合はこれと異なり、上部に溶媒相、下部に水相ができる。
【0007】
そこで、分液ロートの下部より溶媒相を抜き出す。この場合溶媒相と水相の境界面を鮮明として区分することが重要である。そのことによって、この混合液から溶媒相だけを取り出すことを容易に実施することができる。通常は溶媒相と水相は数分間できれいに分離し、境界面は鮮明である。
しかし、廃油中に洗滌剤が混入している場合、その洗滌剤による発泡現象が生じ、このため溶媒相と水相の境界面は乱れてしまい、溶媒相と水相を明確に区分することは難しくなる。そうすると、混合液から溶媒相のみを取り出すことは厄介なことであり、処理に手間がかかり、分析誤差を増やす原因となる。そこで種々実験研究したところ、廃油に洗滌剤が混入している場合、エチルアルコールの様なアルコール類を加えることが非常に効果的であることを発見した。エチルアルコールを加えたところ、2相の境界面は鮮明となった。
この加えるアルコールは通常エチルアルコールであるが、メチルアルコール等他のアルコールでも可能である。量は混合乳化液と同量程度とし、前記の場合約2ml程度が好ましい。
【0008】
分液ロート下部の溶媒相液中には微量の水分が混入していると考えられるので、脱水処理して溶媒相液中の水分を除去する。脱水処理の方法は公知の方法が幾つもあり、それらのいずれの方法によっても実施可能であるが、無水硫酸ナトリウムを用いる方法が実用的である。この方法は、ガラスフィルターに無水硫酸ナトリウムを層状に乗せて、これに分液ロートから抜き取る溶媒相液を流し、流下する脱水液を回収する方法である。この脱水処理は、前述の分液ロートから溶媒相液を抜き出す際に、連動して行う。無水硫酸ナトリウムの量は溶媒相液の量に応じて選定するが、前記例の場合では5g程度が適当である。脱水処理後の溶媒相液は適当な容器、例えば100mlのナス型フラスコに受ける。
【0009】
分液ロート中には水相側の液が残っている。この水相液中にPCBが微量混在していると考えられるので、これに再度非極性溶媒を加えて混合攪拌して、PCBを溶媒中に抽出する。この抽出操作は前記の抽出と同じ溶媒を同量加えて行う。なお、この場合は水相側にアルコールが混在しているため、アルコールを加える必要はない。抽出分離は前記と同様に行ない、分液ロートの下部から溶媒相を抜き取る。その際、前記ガラスフィルターによって脱水処理して、前記フラスコに受ける。
水相側に残っている微量PCBをほぼ完全に抽出することが大事である。そのために再度、水相液に溶媒を加えてPCBを抽出する。この抽出操作は少なくとも2回以上行うことが必要であり、望ましくは3回実施する。
1回の抽出操作で約10mlの溶媒相液を抜き取るので、3回抽出すると全部で約30mlの溶媒相液が得られる。これが前記フラスコに溜まっている。
脱水処理後、ガラスフィルターにPCBが微量付着していることが考えられるので、溶媒で洗滌する。洗滌用溶媒は前記溶媒と同一とし、量は前記例の場合5ml程度が適当である。洗滌用溶媒をガラスフィルターの上部より流し、下部から流出する洗滌溶媒液を前記フラスコに受けて、溶媒相液に加える。
【0010】
前記フラスコには約35mlの溶媒相液が溜まる。これに前期溶媒を加えて定容量とする。これは分析測定値の換算をし易くするためであり、定容量に関する制約条件はない。前記例の場合50mlの定容量とすることが適当である。
次に、前記フラスコ中の50mlの溶媒相液から一定量を容器に抜き出して濃縮乾固する。容器は通常の分析操作に使うもの、例えば100mlのナス型フラスコを使用する。濃縮乾固操作は溶媒相液中のジクロロエタン等の溶媒を蒸発して除去する操作である。溶媒を蒸発させる操作としていろいろな公知の方法があり、それらのいずれの方法によっても実施可能であるが、ロータリーエバポレーターを用いて行う方法が実用的である。
抜き出す量は、濃縮乾固操作をし易くするため少ない方が望ましい。通常は10mlの定容量を100mlナス型フラスコに抜き出して、これをロータリーエバポレーターで濃縮乾固する。
濃縮乾固操作によって得られる乾固物にヘキサンを加えて溶解する。加えるヘキサンの量は少なめの量が良い。それは、次に行うクロマトグラフ担体による精製効果を高めるためである。通常、1ml程度の定容量として前記フラスコ内へ加え、乾固物を溶解する。
乾固物を溶解したヘキサンをクロマトグラフ担体によって精製する。クロマトグラフ担体としてはいろいろな公知のものがありそれらのいずれによっても実施可能であるが、シリカゲルを用いる方法が実用的である。この方法においては、通常の分析操作において使用するガラスカラムにシリカゲルを充填し、このカラム上部よりヘキサンを流下させて精製する。この場合、シリカゲルの量は少な過ぎても多過ぎてもいけない。
前記の1mlヘキサンに対する場合2g程度とすることが好ましい量である。この操作でシリカゲルカラムより流下するヘキサンを容器に受ける。容器は通常の分析操作で使用するもの、例えば100mlナス型フラスコを使用する。
精製操作において、乾固物を溶解したヘキサンの容器、前記例では100mlフラスコ、の内壁面にヘキサンが付着残留しない様にすることが大事である。そこで数ml程度のヘキサンをフラスコに入れて、内面を洗滌する。洗滌後のヘキサンを前記のシリカゲルカラム上部より流下させて、下部より流下するヘキサンを前記のフラスコ容器に受ける。
次に、クロマトグラフ担体、前記例ではシリカゲルカラムカラム上部よりヘキサンを流下させて展開する。この時、下部から流出するヘキサンを前記のフラスコ容器に受ける。この操作で使用するヘキサンの量をいたずらに多量とする必要はない。クロマトグラフ担体の量に応じて選定する。前記例のシリカゲルの場合、50ml程度の量が適当である。
クロマトグラフ担体から流出した前記フラスコ容器中のヘキサンを蒸発濃縮して一定容量とする。蒸発濃縮操作はいろいろな公知の方法があり、それによって実施可能であるが、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮する方法が実用的である。濃縮後の一定容量としては特に制限はないが、通常1ml程度の定容量とする。
得られた1mlのヘキサン溶液中には、クロマトグラフ担体によって妨害物質を除去し精製されたPCBが含まれている。
前記1mlヘキサン溶液から、通常5μlをマイクロシリンジで採取し、これをECDガスクロに注入する。
この様な方法で妨害物質を除去処理すると、ECDガスクロは廃油中の妨害物質に妨害されず、低レベル濃度のPCBを迅速に正確に分析測定することができるのである。
なお、分析サンプルの廃油中に洗滌剤が含まれていない場合もある。この場合には、前述の精製水およびアルコールを加えることをせずに、本発明の方法によって廃油中の低レベル濃度のPCBを迅速に正確に分析測定することができる。これも本発明の範囲である。
【実施例1】
【0011】
本発明の方法を実施例に基づいてさらに詳しく説明する。
分析方法の正確さを検証するためにサンプル液を調合して作成した。まず、PCBを含まない絶縁油10gを採り、この中にPCBを0.05mg混入した。次に、家庭用の液体洗剤10gと精製水90gを混合し洗滌液を調合した。先の絶縁油と洗滌液をビーカーに入れ混合し、これを分析サンプル廃油とした。サンプル廃油中のPCB濃度は0.455mg/kgに調合したことになる。この液体は2相の液が混合した状態の褐色掛かった懸濁液である。攪拌棒で混合攪拌したが、容易に均質化しないものであった。
サンプル廃油を試験管に移して、超音波洗浄器で約5分間振動したところ、均質な乳化液を得ることができた。この操作を何回も繰り返してサンプル廃油のすべてを乳化液とした。目視観察によると、サンプル廃油は均質な乳化液状となっており、この均質化方法が適切であることが分かった。
一方、あらかじめ100mlの分液ロートにヘキサン洗滌水50mlとエチルアルコール2mlを入れて混合しておいた。ここに、前記乳化液から2.5gを採取し、加えた。そしてさらにこれにジクロロメタン10mlを加えた。
分液ロートを振とう器にかけて、数分間激しく振とうし、内部液を混合した。その後分液ロートを静置したところ、数分後には内部液体は上下2相に分離した。これは廃油中のPCBをジクロロメタンに抽出する操作である。分液ロート内の2相液の境界面は、目視観察によると鮮明な状態となった。
溶媒相液中には微量の水分が混入していると考えられるので、脱水処理して溶媒相液中の水分を除去することとした。ガラスフィルターに無水硫酸ナトリウムを層状に乗せて、これを分液ロートの下部に設置した。次に分液ロートの下部から溶媒相液を抜き出し、ガラスフィルターに流下させて、溶媒相液の脱水処理を行なった。流下した溶媒相液を100mlのナス型フラスコに受けた。
この時分液ロートには水相液が残っており、水相液には微量のPCBが混在していると考えられる。そこでこれにジクロロメタン10mlを再度加えてPCBの抽出操作を行なった。数分間激しく振とうし、その後分液ロートを静置したところ、数分後には内部液体は上下2相に分離し、その境界面は鮮明な状態となった。そこで前記と同様にして、下相の溶媒相を前記のガラスフィルターを通じて脱水処理を行い、前記のフラスコに抜き出した。
分液ロートに残っている水相液からPCBをより完全に抽出するために、さらに前記と同じ抽出操作を行い、溶媒相液を前記と同様に脱水処理をして前記フラスコへ抜き出した。
脱水処理後のガラスフィルターには、PCBが微量付着していることが考えられるので、溶媒で洗滌する。洗滌用溶媒は前記溶媒と同一とし、量は前記例の場合5ml程度が適当である。洗滌溶媒をガラスフィルターの上部より流し、下部から流出する洗滌液を前記フラスコに受けて、溶媒相液に加える。
この時、前記フラスコには約35mlの溶媒相液が溜まっている。これに約15mlのジクロロメタンを加えて、50mlの定容量に調整した。
この液から10mlを正確に抜き取り、100mlのナス型フラスコに移した。このフラスコをロータリーエバポレーターにかけて、ジクロロメタンを蒸発させ、内部の液を乾固させた。次にこのフラスコにヘキサンを1ml加えて、フラスコ内部の蒸発乾固物をヘキサンに溶解した。
一方、あらかじめシリカゲル2gを充填したガラスカラム(太さ13mm、長さ150mm)を準備しておいた。そしてフラスコ内のヘキサンをガラスカラムの上部から静かに流下させて、下部から流出するヘキサンを別の100mlナス型フラスコに受けた。
前記の蒸発乾固物の入っていたフラスコにフレッシュなヘキサンを約3ml加え、内面をきれいに洗滌した。洗滌後ヘキサンをガラスカラムの上部から流下させ、下部から流出するヘキサンを前記フラスコに受けた。
次に、フレッシュなヘキサン50mlをガラスカラムの上部から静かに流下させて、シリカゲル内部を展開した。ガラスカラムから流下するヘキサンを前記フラスコに受けた。このフラスコ内には全部でヘキサンが約54ml溜まっている。
このフラスコをロータリーエバポレーターにかけて、ヘキサンを蒸発させて、残液量を正確に1mlとした。この液の中から5μlをマイクロシリンジで取り、ECDガスクロに注入した。
その結果、ヘキサン中のPCB濃度は0.20×10−3mg/ml、即ち0.20mg/l であることが測定できた。これを分析サンプル廃油中のPCB濃度に換算すると0.40mg/kgとなる。即ち始めに調合した分析サンプル廃油のPCB濃度0.455mg/kgとほぼ一致している。
従ってこの分析方法によって、この分析サンプル廃油のPCB濃度を正確に分析測定できたといえる。
【実施例2】
【0012】
次に分析サンプル廃油として次の様に調合して分析測定を行なった。
PCBを含まない絶縁油10gにPCB0.025mgを混入した。次に、家庭用の液体洗剤10gと精製水90gを混合し洗滌液を調合した。先の絶縁油と洗滌液をビーカーに入れ混合し、これを分析サンプル廃油とした。サンプル廃油中のPCB濃度は0.227mg/kgに調合したことになる。この液体は2相の液が混合した状態の褐色掛かった懸濁液である。攪拌棒で混合攪拌したが、容易に均質化しないものであった。
分析測定手法は実施例−1と全く同様として行なった。
その結果、 ECDガスクロによる分析測定の結果ヘキサン中のPCB濃度は 0.095×10−3mg/ml 、即ち0.095mg/lであった。これをサンプル廃油中の濃度に換算すると、0.19mg/kgとなる。 即ち始めに調合した分析サンプル廃油のPCB濃度0.227mg/kgとほぼ一致している。
従って分析サンプル廃油のPCB濃度を正確に分析測定できたといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃油中のPCB濃度をECD検出器付ガスクロマトグラフによって分析する方法において、廃油に精製水と非極性溶媒を加えてPCBを抽出分離し、溶媒相液を取り出し、該溶媒相液を脱水処理した後濃縮乾固し、該濃縮乾固物をヘキサンに溶解して溶液とし、該溶液をクロマトグラフ担体によって精製して得られる液体をECD付ガスクロマトグラフに注入することを特徴とした廃油中のPCBの分析方法

【公開番号】特開2006−200907(P2006−200907A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9914(P2005−9914)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(300064320)株式会社エコアップ (7)
【Fターム(参考)】