説明

廃液中の目的物質の濃縮方法および濃縮装置、ならびに、廃液のリサイクル方法およびリサイクル装置

【課題】省エネルギーで効率的に廃液中の目的物質を分離濃縮することのできる濃縮方法および濃縮装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、目的物質を含有する廃液中から、上記廃液よりも高い濃度の上記目的物質を含有する液体を分離する、目的物質の濃縮方法であって、上記廃液を霧化する霧化工程と、上記霧化工程により上記廃液から生じた霧粒子を分級する分級工程とを含むことを特徴とする、目的物質の濃縮方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液中の目的物質の濃縮方法および濃縮装置、ならびに、廃液のリサイクル方法およびリサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の露光や現像で使用すテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(以下、TMAHと略す)を含有する現像液(たとえば、TMAH濃度が2.38重量%)は、その濃度が現像後の半導体等の寸法精度に影響を及ぼすため、厳密に濃度を制御する必要がある。このため、使用済みの現像液(たとえば、TMAH濃度が1重量%未満)は通常は廃棄されており、廃棄するためには生物処理(たとえば、特許文献1参照)や焼却処理を行う必要があった。
【0003】
しかし、使用済みの現像液は、TMAHの濃度が使用前よりも減少しているものの、半導体にそのまま使えるレベルの清浄度を有しているため、かかる使用済みの現像液を再利用することを目的として、現像液中のTMAHの濃度を制御する方法が多数検討されている。
【0004】
このような方法として、たとえば、特許文献2(特開2004−118197号公報)には、TMAHを含む現像液の廃液の濃度を測定して、必要量の高濃度のTMAHを加えることにより、使用済みの現像液を再利用する方法が開示されている。また、特許文献3(特開2002−253931号公報)には、RO膜(逆浸透膜)を用いて廃液中のTMAHを濃縮することにより、現像液を再利用することが開示されている。また、特許文献4(特開平11−128691号公報)には、電気透析等を用いて廃液中のTMAHを濃縮することにより、現像液を再利用することが開示されている。
【0005】
しかしながら、これらのRO膜、電気透析や、蒸留などによりTMAHを濃縮し、TMAH濃度を制御する方法は、大量のエネルギーや大規模の設備を要するため、実用化は困難であった。また、高濃度のTMAHの添加などにより、TMAH濃度を制御する方法においては、別途新たなTMAHを準備する必要があり、完全なリサイクルを行うことはできなかった。また、液晶用途など使用条件が緩和される用途に現像廃液を転用する場合でも、現像廃液の大部分が水であるため、移送効率が悪かった。
【0006】
一方、特許文献5(特開2007−118005号公報)には、アルコール溶液中の目的物質であるアルコール等は、表面に移行して表面過剰となる物性があり、表面濃度が高くなる性質を利用して、超音波振動により表面の溶液を霧化させて、発生したミストを凝集させることにより、高濃度のアルコールを分離する方法が開示されている。しかし、実用上の観点から、より高濃度の目的物質を分離できる効率的な濃縮方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−70599号公報
【特許文献2】特開2004−118197号公報
【特許文献3】特開2002−253931号公報
【特許文献4】特開平11−128691号公報
【特許文献5】特開2007−118005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、省エネルギーで効率的に廃液中の目的物質を分離濃縮することのできる濃縮方法および濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、目的物質を含有する廃液中から、上記廃液よりも高い濃度の上記目的物質を含有する液体を分離する、目的物質の濃縮方法であって、
上記廃液を霧化する霧化工程と、
上記霧化工程により上記廃液から生じた霧粒子を分級する分級工程とを含むことを特徴とする、目的物質の濃縮方法である。
【0010】
上記廃液は現像液の廃液であることが好ましい。また、上記目的物質はテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドからなることが好ましい。
【0011】
上記霧化は、超音波霧化法を用いて行われることが好ましい。また、本発明は、上記の濃縮方法を用いる廃液のリサイクル方法にも関する。
【0012】
また、本発明は、目的物質を含有する廃液中から、上記廃液よりも高い濃度の上記目的物質を含有する液体を分離する、目的物質の濃縮装置であって、
上記廃液を霧化するための霧化装置、
上記霧化装置により上記廃液から生じた霧粒子を分級するための分級装置を備えることを特徴とする、目的物質の濃縮装置にも関する。
【0013】
上記霧化装置が、上記廃液を超音波振動で霧化する超音波振動子を備えることが好ましい。また、上記分級装置がサイクロン分級機、フィルター、静電気吸着装置であることが好ましい。また、本発明は、上記の濃縮装置を備える廃液のリサイクル装置にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、省エネルギーで効率的に廃液中の目的物質を分離濃縮することができる。また、本発明においては、廃液を霧化した後、霧粒子を分級することにより、特許文献5に記載されるような従来の方法よりも高濃度のTMAHを含む液を分離できる。
【0015】
また、本発明を用いて濃縮された目的物質を含む液体は、余分な水が除去されており、リサイクルする際の移送コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TMAHの化学式(構造)を示す図である。
【図2】霧化により生じるTMAHを含む霧粒子の粒子サイズと該霧粒子中のTMAH濃度との関係を説明するための模式図である。
【図3】霧化分離を用いた濃縮装置(リサイクル装置)の構成を示す模式図である。
【図4】一般的な現像液供給から廃液処理の工程を示すフロー図である。
【図5】リソグラフィプロセスの各工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を説明する前に、図4を用いて、一般的な現像液供給から廃液処理の工程の一例を説明する。まず、20〜25重量%のTMAH(化学式:(CH34NOH、図1参照)水溶液を準備する。TMAH水溶液は、現像液メーカーから購入することができる。TMAH自体は固体であり、濃度が高いと析出するため、制御できる20〜25重量%程度での供給が主である。次に、TMAH水溶液を、調合システムを用いて所望の濃度(2.38重量%)となるように純水で希釈する。希釈されたTMAH水溶液(現像液)を、タンクフィルタでフィルタリングし、リソグラフィ装置の現像部へ供給する。
【0018】
リソグラフィ装置の現像部においては、温度制御を行い、基板上に塗布されたレジストを露光により反応させ、アルカリであるTMAHでレジストの一部を溶かし、パターニングを行う。なお、レジストがネガ型かポジ型かにより、溶ける部分は逆になる。
【0019】
TMAHによるレジストの溶解処理後に、純水による水洗処理を行うため、現像液廃液タンクには、2.38重量%のTMAHを含む現像液、純水、溶かしたレジストが送られる。このため、現像液の廃液中には、0.5重量%程度に薄められたTMAH、レジスト成分および純水が排出される。この廃液を廃棄する場合、TMAH水溶液はアルカリ性を示すので、酸で中和した後にバイオリアクタを用いた活性汚泥法で生物処理し、放流している。TMAHの固体成分はフィルタでろ過できるが、TMAH自体は有機物であり、放流できないため、生物処理、燃焼処理などの廃液処理が必要である。
【0020】
一方で、この廃液をリサイクルする場合、この0.5重量%程度に薄まったTMAH廃液は大部分が水であり、再使用するためには、濃縮処理が必要となるが、きわめて濃度が薄いため下記3点の問題があった。
(1) 蒸留する場合、大部分の水を蒸発させるため、大きなエネルギーロスが発生する点。
(2) RO(逆浸透)の場合、リジェクト効率が悪く、有機RO膜が劣化する点。
(3) 電気泳動の場合は電流が多い点。
【0021】
図5は、リソグラフィプロセスの各工程を示すフロー図である。図5を用いて、実施形態1〜3で処理対象となる各廃液が発生する状況を説明する。まず、図5(a)に示すように、ウエハチャック42上に設置されたウエハ(基板)41上に、吐出ノズル43からレジスト44を吐出し、スピンコーティングにて均一な膜を形成する。塗布中に、基板41からこぼれたレジストがレジスト廃液45となる。次に、図5(b)に示すように、基板41上に、吐出ノズル43からTARC(上層反射防止膜)材46を吐出し、スピンコーティングにて均一な膜を形成する。塗布中に、基板41からこぼれたTARC材がTARC廃液47となる。次に、図5(c)に示すように、パターン51を描画したマスク5を介して、レジスト膜48に露光部分と未露光部分を形成する。次に、図5(d)に示すように、現像ノズル61から現像液62をレジストにかけて、露光部のレジストを溶解する(ポジレジストの場合)。現像中に、基板41からこぼれた現像液が現像廃液63となる。以上の工程により、図5(e)に示すようなレジストパターン49が形成される。
【0022】
本発明者らは、現像廃液を霧化させたときに生じる霧粒子のサイズと、該霧粒子中のTMAH濃度との関係について検討した。その結果、図2に示すように、TMAHを0.5重量%含有する廃液(TMAH分子1は主として表面に存在している)は、超音波振動子2によって霧発生部11で霧化され、発生した霧粒子のサイズが小さいほど、該霧粒子中のTMAH濃度が高く、逆に、霧粒子のサイズが大きいほど、該霧粒子中のTMAH濃度が低くなることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0023】
すなわち、本発明の濃縮方法は、目的物質を含有する廃液中から、上記廃液よりも高い濃度の上記目的物質を含有する液体を分離する方法であり、少なくとも(1)廃液を霧化する霧化工程と、(2)上記霧化工程により上記廃液から生じた霧粒子を分級する分級工程とを備えることを特徴とする。
【0024】
また、上記霧化を行う方法としては、超音波霧化法などが挙げられる。霧化装置としては、超音波振動子を備える超音波霧化機などが挙げられる。
【0025】
上記「分級」とは、粒子をその大きさにしたがって選り分けることを意味する。分級工程においては、霧粒子のうち所定の粒子サイズよりも小さい霧粒子を分離回収することが好ましい。分級装置としては、サイクロン分級機、フィルター、静電気による吸着装置などが挙げられ、特にサイクロン分級機を用いることが好ましい。
【0026】
目的物質は、霧化により廃液から濃縮分離できるものであれば特に限定されないが、廃液の表面に移行して表面過剰となる物性を有することが好ましい。具体的には、例えば、現像液に含まれるテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドや、リソグラフィプロセスで用いられるTARC(上層反射防止膜)材料、半導体、液晶のリソグラフィプロセスで用いられるレジストの廃液に含まれるPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)やPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、乳酸エチル、2−ヘプタノン、MMPシンナー(3−メトキシ-プロピオン酸メチル)が挙げられる。
【0027】
廃液は、上記の目的物質を含有する廃液であれば特に限定されないが、現像液の廃液であることが好ましい。現像液の廃液としては、例えば、現像液ユーザーにおいて、半導体などの製造の際のリソグラフィ工程で発生する廃液や、現像液メーカーにおいて、現像液の製造時に発生する現像廃液や、現像液で槽や配管を洗浄した際に排出される廃液が挙げられる。ただし、現像液以外の廃液についても、本発明の方法により低エネルギーで濃縮することが可能である。
【0028】
以下、実施形態を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(実施形態1)
図3に、本実施形態における霧化分離を用いた濃縮装置(リサイクル装置)の構成を示す。リソグラフィ装置(現像部)31から排出されたTMAHを含有する廃液は、廃液タンク32に回収され、該廃液を霧化するための超音波霧化機(霧化装置)33に移送される。超音波霧化機33に移送された廃液は、超音波霧化機33に備えられた超音波振動子により生じる超音波振動により、その表面から霧化され霧粒子が発生する。
【0030】
該霧粒子を含む気体は、サイクロン分級機34に移送され、粒子のサイズにより分離(分級)される。TMAH濃度の高い小さな霧粒子は、回収タンク35に回収される。他方、TMAH濃度の低い大きな霧粒子は、下の排水ライン36に回収され、バイオリアクタで浄化処理された後に放流される。
【0031】
このようにして、回収タンク35には、リソグラフィ装置(現像部)31から排出された廃液よりも高い濃度のTMAH(目的物質)を含有する液体を分離することができる。濃縮分離されたTMAH溶液は、再利用のための原料として再精製された後に、現像液の原料や規格緩和用途等へリサイクルされる。濃縮せずに0.5重量%程度のTMAH溶液を移送する場合と比べて、10重量%程度に濃縮した場合、移送にかかるエネルギー効率は20倍改善され、移送コストを削減できる。また、廃液ライン36に流れる廃液中のTMAH濃度が低いため、バイオリアクタの負荷が減り、よりきれいな排水を放流することができる。
【0032】
本実施形態では、霧化に要するエネルギーは、蒸留を用いる場合の蒸発潜熱(蒸発エンタルピー)のおよそ1/5から1/10のエネルギーである。また、熱をかけることがないので、TMAH自体の熱分解は起こらない。
【0033】
(実施形態2)
半導体リソグラフィプロセス時に使用するTARC(Top Anti-Reflection Coating:上層反射防止膜)材料の廃液をリサイクルする用途においても、本発明を適用することができる。TARC材料の廃液とは、例えば、図5(b)を用いて説明した上記TARC廃液47である。
【0034】
(実施形態3)
半導体、液晶のリソグラフィプロセス時に使用するレジストの廃液のリサイクルにも、本発明を適用することができる。レジストの廃液とは、例えば、図5(a)を用いて説明した上記レジスト廃液45である。レジストの廃液からは、例えば、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)やPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)を濃縮分離できる。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法および装置は、現像液のユーザー(半導体などのデバイスメーカー)、廃水処理メーカーにおいて、現像廃液をリサイクルする際に使用することができる。また、現像液メーカーにおいて、現像液の製造時に発生する現像廃液や、現像液で槽や配管を洗浄した際に排出される廃液をリサイクルする際にも、本発明の方法を使用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 TMAH分子、11 霧発生部、2 超音波振動子、31 リソグラフィ装置(現像部)、32 廃液タンク、33 超音波霧化機(霧化装置)、34 サイクロン分級機、35 回収タンク、36 排水ライン、37 バイオリアクタ、41 基板、42 ウエハチャック、43 吐出ノズル、44 レジスト、45 レジスト廃液、46 TARC材、47 TARC廃液、48 レジスト膜、49 レジストパターン、5 マスク、51 パターン、61 現像ノズル、62 現像液、63 現像廃液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質を含有する廃液中から、前記廃液よりも高い濃度の前記目的物質を含有する液体を分離する、目的物質の濃縮方法であって、
前記廃液を霧化する霧化工程と、
前記霧化工程により前記廃液から生じた霧粒子を分級する分級工程とを含むことを特徴とする、目的物質の濃縮方法。
【請求項2】
前記廃液は現像液の廃液である、請求項1に記載の目的物質の濃縮方法。
【請求項3】
前記目的物質はテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドからなる、請求項1に記載の目的物質の濃縮方法。
【請求項4】
前記霧化は、超音波霧化法を用いて行われる、請求項1に記載の目的物質の濃縮方法。
【請求項5】
請求項1に記載の濃縮方法を用いる廃液のリサイクル方法。
【請求項6】
目的物質を含有する廃液中から、前記廃液よりも高い濃度の前記目的物質を含有する液体を分離する、目的物質の濃縮装置であって、
前記廃液を霧化するための霧化装置、
前記霧化装置により前記廃液から生じた霧粒子を分級するための分級装置を備えることを特徴とする、目的物質の濃縮装置。
【請求項7】
前記霧化装置が、前記廃液を超音波振動で霧化する超音波振動子を備える、請求項6に記載の濃縮装置。
【請求項8】
前記分級装置がサイクロン分級機、フィルター、静電気吸着装置である、請求項6に記載の濃縮装置。
【請求項9】
請求項6に記載の濃縮装置を備える廃液のリサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−613(P2013−613A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130972(P2011−130972)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】