説明

廃液処理方法及びその装置

【課題】廃液が、重金属及び/又は放射性核種などの複数種類の元素を含む高塩濃度であっても、これら複数種類の元素を容易に除去することが可能な廃液処理方法及びこの方法に用いる装置を提供する。
【解決手段】重金属及び/又は放射性核種と選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセル6、7を、流入口と流出口を備えたカラム3に充填し、カラム3内に流入する廃液中から前記重金属及び/又は放射性核種を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液中から、重金属及び/又は放射性核種を含む複数種類の元素を除去することが可能な廃液処理方法及びこれを用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃液中に重金属や放射性核種などが含まれている場合には、例えば沈殿法、イオン交換法、溶媒抽出法等によって、これらを除去することが行われていた。
【0003】
しかし、このような従来の処理方法では、処理後に多量のスラッジが発生したり、処理工程が複雑で高コストを要するという課題があった。
【0004】
近年、このような課題に対して、抽出剤又は吸着剤からなる芯物質をポリマー等のカプセル壁で取り囲んだ、所謂マイクロカプセルを用いる処理方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、廃水から異臭味物質、有機毒性物質、重金属などを同時に除去するアルギン酸ゲルを用いる処理方法が記載されている。この方法では、カプセル内に内包された活性炭によって異臭味物質、有機毒性物質が除去され、活性炭を被覆するフィルム状のアルギン酸によって重金属が除去される。アルギン酸は藻類等の細胞壁を構成する成分の一つで、240,000程度の分子量を有する高分子化合物であり、カルボキシル基を有するため、陽イオンとイオン交換して重金属を除去する。
【0006】
また、特許文献2および特許文献3には、主に銅イオンを抽出する抽出剤を内包したマイクロカプセルを用いる処理方法が記載されている。特許文献2には、5−ドデシルサリシルアミドオキシム(LIX860)をアルギン酸で内包したマイクロカプセルを用いる方法が記載されている。一方、特許文献3には、キレート試薬を含有したマイクロカプセルを用いる方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−70384号公報
【特許文献2】特開2003−113427号公報
【特許文献3】特開2003−183744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の処理方法は、廃液が高塩濃度の場合、イオン交換容量が不足して廃液から重金属を完全に除去し難くなるという課題があった。
【0008】
また、特許文献2と特許文献3に記載の処理方法は、銅イオンと選択的に反応するマイクロカプセルを用いているため、溶存する重金属が多種類の場合にこれらを除去することが困難であった。
【0009】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、廃液が、重金属及び/又は放射性核種などの複数種類の元素を含む高塩濃度であっても、これら複数種類の元素を容易に除去することが可能な廃液処理方法及びこの方法に用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の廃液処理方法は、重金属及び/又は放射性核種を含む元素が溶存する廃液を、前記重金属及び/又は放射性核種のうち特定の重金属及び/又は放射性核種と選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルと接触させて、前記廃液中から前記重金属及び/又は放射性核種を除去することを特徴とする。前記廃液には複数種類の元素が溶存し、且つ前記マイクロカプセルは特定の重金属及び/又は放射性核種と選択的に反応し又は吸着する物質を含む複数種類を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の廃液処理装置は、重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルを、流入口と流出口とを備えたカラムに充填してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の廃液処理装置は、重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルを、フィルターにコートしてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の廃液処理方法によれば、重金属及び/又は放射性核種などを含む高塩濃度の廃液から、特定の重金属及び/又は放射性核種を容易に且つ選択的に除去することができる。さらに、本発明の廃液処理方法によれば、複数種類の元素を含む廃液から、これら複数種類の元素を容易に除去することができる。
【0014】
また、本発明の処理方法を用いた廃液処理装置によれば、簡便な同一の装置で、廃液中から重金属、放射性核種などを連続的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明において使用されるマイクロカプセルは、粒子径0.1〜1.0mm程度の球状を有しており、重金属、放射性核種に対して選択的に反応又は吸着する物質をアルギン酸で内包している。以下、重金属等と選択的に反応する物質(液体)を抽出剤とし、選択的に吸着する物質(固体)を吸着剤とする。抽出剤としては、除去する重金属や放射性核種の種類に応じて、例えばリン酸トリブチル(以下、TBP)、ビス2-エチルヘキシルリン酸(以下、DEHPA)、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ2-エチルヘキシルエステル(以下、EHPNA)、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)モノチオホスフィン酸等の中性又は酸性の有機リン系溶媒;トリn−オクチルアミン(以下、TOA)、トリイソオクチルアミン等の塩基性の非リン系溶媒等を用いることができる。また、吸着剤としては、不溶性フェロシアン化物等の微粉体等を用いることができる。
【0017】
マイクロカプセルには、上記抽出剤又は吸着剤に加えて、さらに鉄酸化物のような比重の大きい物質を内包してもよい。水と比べて比重が軽い抽出剤又は吸着剤をマイクロカプセル化した場合、作製したカプセルが水に浮かびカラム処理が困難になる場合がある。このため、鉄酸化物を加えて比重を調整することが好ましい。鉄酸化物のような磁性材料を用いる場合には、磁石を用いて使用済みのマイクロカプセルを容易に回収することができる。なお、廃液中に有機物が存在する場合には、活性炭をマイクロカプセル化してもよい。これにより、廃液中から有機物を選択的にカプセル内に閉じ込めて除去することができる。
【0018】
次に、マイクロカプセルの作製方法の一例を、抽出剤のTBPを用いて示す。
【0019】
まず、TBPを1重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液等のアルギン酸塩溶液と混合した後、1mol/リットルの塩化カルシウム水溶液等の多価陽イオン溶液に滴下し、120〜180rpmで攪拌して、アルギン酸を架橋させて、TBPを内包したマイクロカプセルを得る。なお、アルギン酸ナトリウムとTBPとの混合比(容量)は10:1とした。ここでは、TBPを用いたが、TBP以外の上述した抽出剤、吸着剤についても同様にしてマイクロカプセル化することができる。
【0020】
次に、本発明の廃液処理方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る廃液処理装置である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の廃液処理装置1は、ウラン、セシウムなどの多種類の元素が溶存する廃液が入った廃液タンク2と、マイクロカプセルA6とマイクロカプセルB7とが充填されたカラム3と、廃液をカラム3に連続投入するための廃液供給ポンプ4と、カラム3で処理された処理液が送られる処理液タンク5とを有している。マイクロカプセルA6は、ウランを選択的に吸着するTBPを内包しており、マイクロカプセルB7は、セシウムを選択的に吸着する不溶性フェロシアン化物を内包している。
【0023】
以上のような構成により、廃液処理装置1では廃液処理に際して、まず、ウランとセシウムが溶存する廃液タンク2から、廃液供給ポンプ4を用いて、廃液をカラム3の流入口に供給して、マイクロカプセルA6、マイクロカプセルB7と接触させる。これにより、廃液中からウランとセシウムを一度に除去することができる。ウランとセシウムが除去された処理液は、カラム3の流出口から処理液タンク5に送られる。
【0024】
本実施形態では、TBPと不溶性フェロシアン化物がそれぞれ内包された2種類のマイクロカプセルを用いたが、廃液中から除去する元素の種類に応じて抽出剤又は吸着剤を選択し1種類又は2種以上のマイクロカプセルを用いてもよい。
【0025】
また、カラムから排出された処理液中に重金属、放射性核種などが残存しているかどうかを確認するため、計測器を用いてもよい。これらの元素濃度が基準値以上の場合、処理液を再度カラムに戻して、連続して再処理を行う。なお、廃液処理装置は、放射性元素などの飛散、漏洩を防止するため、グローブボックスやフード等の負圧に制御された気密室内で用いることが好ましい。
【0026】
したがって、本実施形態によれば、異なる抽出剤又は吸着剤を内包したマイクロカプセルを混合してカラムに充填し、廃液をこのカラムに供給することによって、廃液中から複数種類の元素を同時に且つ容易に除去することができる。
【0027】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る廃液処理方法について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る廃液処理装置である。なお、図1と同一部分には、同一符号を付し、その説明を一部省略する。
【0028】
図2に示すように、上述した、TBPを内包したマイクロカプセルA6と、不溶性フェロシアン化物を内包したマイクロカプセルB7を、それぞれ別々のカラム22、23に充填してもよい。これによって、同一の装置を用いて、ウランとセシウムが溶存する廃液中から、連続的にこれらを除去することができる。
【0029】
以上のような構成により、この廃液処理装置21では廃液処理に際して、まず廃液タンク2から、廃液供給ポンプ4を用いて、ウランとセシウムが溶存する廃液を第1のカラム22に供給して、マイクロカプセルA6と接触させて、廃液中からウランを除去する。次に、第1のカラム22を経て、ウランが除去された廃液を第2のカラム23に供給して、マイクロカプセルB7と接触させて、廃液中から、残存するセシウムを除去する。ウランとセシウムが除去された処理済みの廃液は、処理液タンク5に送られる。
【0030】
したがって、本実施形態によれば、内包する吸着剤又は抽出剤が異なるマイクロカプセルを、それぞれ別々のカラムに充填し、廃液をこれらのカラムに連続して供給することによって、廃液中から複数種類の元素を容易に除去することができる。
【0031】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る廃液処理方法について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係る廃液処理装置である。なお、図1と同一部分には、同一符号を付し、その説明を一部省略する。
【0032】
図3に示すように、廃液処理装置31では、廃液をカラム3に供給した後、重金属及び/又は放射性核種と反応又は吸着したマイクロカプセルA6とマイクロカプセルB7が充填されたカラム3に、薬剤タンク8から、薬剤供給ポンプ9を介して薬剤を供給し、重金属及び/又は放射性核種を溶離させて、薬剤受けタンク10に、重金属及び/又は放射性核種を回収してもよい。
【0033】
ここで、テクネチウムが溶存する廃液に対して、テクネチウムの抽出剤としてTBPを用いた場合の反応式を用いて説明する。
+T+3TBP⇔HT・3TBP
【0034】
上式に示すように、水中のテクネチウムは、過テクネチウム酸(T)の形態で存在しており、TBPによってテクネチウムTBP錯体(HT・3TBP)を生成し、水から分離されている。水中のH濃度が高い場合には、上記式の平衡は右に移動して、溶存するテクネチウムとカプセル内のTBPとが反応し易くなる。一方、H濃度が低い場合には、上記式の平衡が左に移動して、カプセル内に抽出されたテクネチウムを溶離することができる。そのため、薬剤として処理液に比べてH濃度の低い薬剤を用いることにより、カプセル内からテクネチウムを溶離することが可能となる。
【0035】
したがって、本実施形態によれば、重金属及び/又は放射性核種と反応又は吸着したマイクロカプセルに薬剤を供給してこれらの元素を溶離し、回収することによって、マイクロカプセルを再利用することができる。
【0036】
上記いずれの実施形態においてもマイクロカプセルをカラムに充填して用いているが、該カプセルをフィルターにコートして用いてもよい。これにより、重金属、放射性核種の他に、さらに微粒子が分散した廃液であっても、抽出剤又は吸着剤を内包したマイクロカプセルがプリコートされたフィルターに廃液を通液させることによって、カプセル内に重金属及び/又は放射性核種を閉じ込めて除去するとともに、微粒子を捕捉することができる。
【0037】
したがって、本発明の廃液処理方法によれば、廃液中に、重金属、放射性核種などの多種類の元素が溶存する場合でも、これらの元素と選択的に反応し又は吸着する、抽出剤又は吸着剤を用いることによって、スラッジ等の二次廃棄物が発生することなく、一度に多種類の元素を廃液から除去することができる。
【0038】
このような本発明の廃液処理方法を用いた廃液処理装置によれば、簡便な装置を用いることによって、容易に且つ低コストで重金属、放射性核種などを廃液中から処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る廃液処理装置を示す概略系統図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る廃液処理装置を示す概略系統図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る廃液処理装置を示す概略系統図である。
【符号の説明】
【0040】
1…廃液処理装置、2…廃液タンク、3…カラム、4…廃液供給ポンプ、5…処理液タンク、6…マイクロカプセルA、7…マイクロカプセルB、8…薬剤タンク、9…薬剤供給ポンプ、10…薬剤受けタンク、21…廃液処理装置、22…第1のカラム、23…第2のカラム、31…廃液処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属及び/又は放射性核種を含む元素が溶存する廃液を、前記重金属及び/又は放射性核種のうち特定の重金属及び/又は放射性核種と選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルと接触させて、前記廃液中から前記重金属及び/又は放射性核種を除去することを特徴とする廃液処理方法。
【請求項2】
前記廃液には複数種類の元素が溶存し、且つ前記マイクロカプセルは特定の重金属及び/又は放射性核種と選択的に反応し又は吸着する物質を含む複数種類を有することを特徴とする請求項1に記載の廃液処理方法。
【請求項3】
重金属及び/又は放射性核種を含む複数種類の元素が溶存する廃液を、前記重金属及び/又は放射性核種の一部に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルと接触させて、前記廃液中から前記重金属及び/又は放射性核種の一部を選択的に除去する第1の除去工程と、
前記第1の除去工程を経た廃液を、残った重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルと接触させて、前記廃液中から残りの前記重金属及び/又は放射性核種を除去する第2の除去工程と
を有することを特徴とする請求項2に記載の廃液処理方法。
【請求項4】
前記マイクロカプセルには、前記重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質の他に、鉄酸化物が含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の廃液処理方法。
【請求項5】
重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルを、流入口と流出口とを備えたカラムに充填してなることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項6】
重金属及び/又は放射性核種に対して選択的に反応し又は吸着する物質を含むマイクロカプセルを、フィルターにコートしてなることを特徴とする廃液処理装置。
【請求項7】
前記廃液処理装置は、負圧にされた気密室内に設置されることを特徴とする請求項5又は6に記載の廃液処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−14841(P2007−14841A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−196645(P2005−196645)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】