説明

廃液回収装置

【課題】噴霧状の廃液を回収するにあたり、装置周辺への廃液の飛散を低減する。
【解決手段】廃液回収装置1は、上端の廃液供給孔6を通して廃液としてのシンナーが噴霧状に供給され、下端の排出孔7からシンナーを排出するハウジング5と、廃液供給孔6の下方に配置され、カール状に湾曲形成した金属線材の寄り束ねからなる第一霧化廃液捕集部20と、第一霧化廃液捕集部20の下方に配置され、千鳥配列された複数の断面山形状の上段山形偏向板32、中段山形偏向板33、下段山形偏向板34からなる第二霧化廃液捕集部30と、を備える。また、ハウジング5の下部にはエア孔12が複数穿設された傾斜壁4aが形成され、エア孔12に対してエアの流入を許容し、シンナーの滴下を遮断する複数の偏向板11からなるルーバーが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アームの先端にスプレー塗装装置や回転塗装装置が取り付けられた塗装ロボットによる塗装工程においては、従来、塗料の色替え時の際に、塗料配管に塗料とともにシンナーを霧化排出することにより、塗料配管や、スプレー塗装装置の塗装ノズルまたは回転塗装装置の回転カップ部を洗浄して次色の塗装に備えている。前記塗装ノズルや回転カップ部に付着する汚れの定期的な洗浄方法も同様であり、塗料配管に塗料とともにシンナーを霧化排出して塗装ノズルや回転カップ部を洗浄している。
【0003】
霧化排出された塗料およびシンナーは例えば特許文献1に記載の装置により回収され、廃棄または再利用される。特許文献1の技術によれば、塗装装置から霧化排出された塗料やシンナーは、塗装廃液受け装置内に配設された塗料粕取りフィルタに向けて排出され、ホースを介して捕集タンクに導入される。そして、特許文献1には、排出された塗料またはシンナーが上部開放ケースの内面に当たってケース外に飛散するのを防止するために、ケースの上部縁端に飛散防止フィルタをケース中心方向に向けて傾斜配設する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2545568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術によると、塗料粕取りフィルタに向けて霧化排出された塗料またはシンナーは、塗装装置の霧化エアによって塗料粕取りフィルタの表面に衝突し、液滴となった塗料またはシンナーの殆どがエアとともに塗料粕取りフィルタに跳ね返されて上方に飛散する。この霧化エアとともに跳ね返る塗料やシンナーは微細なために前記飛散防止フィルタでは防ぎきれず、床面や周辺の装置を汚すおそれがあった。
また、洗浄後のシンナーは再利用可能なことから、ケース外に飛散すると回収ロスも多くなり、不経済となる。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するために創作されたものであり、噴霧状の廃液を回収するにあたり、装置周辺への廃液の飛散を低減できる廃液回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る廃液回収装置は、上端の廃液供給孔を通して廃液が噴霧状に供給され、下端の排出孔から廃液を排出するハウジングを備えた廃液回収装置において、前記ハウジング内に、前記廃液供給孔の下方に配置され、カール状に湾曲形成した金属線材の寄り束ねからなる第一霧化廃液捕集部と、前記第一霧化廃液捕集部の下方に配置され、千鳥配列された複数の断面山形状の山形偏向板からなる第二霧化廃液捕集部と、を設けたことを特徴とする。
【0008】
この廃液回収装置によれば、廃液は廃液供給孔を通して第一霧化廃液捕集部に吹き付けられ、金属線材により捕集されて微粒体から液滴に変換される。一方、エアは金属線材間の隙間から下方に向けてスムースに流れるため、第一霧化廃液捕集部の上部においてエアの跳ね返りは殆ど生じない。そのため、エアの跳ね返りに伴って生じる廃液の跳ね返りが殆ど発生せず、ハウジング外への廃液の飛散が防止される。
さらに、第一霧化廃液捕集部から第二霧化廃液捕集部に滴下した廃液は、山形偏向板の傾斜面に沿ってスムースに流下する。山形偏向板の傾斜面にエアが接触することにより、エア中に含まれる微粒子状の廃液も傾斜面を流下する液滴の廃液により捕集される。エアは、山形偏向板の傾斜面に沿ってスムースに下方に向けて流れるため、エアが上方に跳ね返って反転流となり第一霧化廃液捕集部からのエアの流れを妨げるという問題も生じない。ひいては、廃液供給孔から第一霧化廃液捕集部へのエアの流れがスムースに維持されることとなり、ハウジング外への廃液の飛散が一層防止される。
【0009】
また、本発明に係る廃液回収装置は、前記ハウジングの下部に、エア孔が複数穿設された傾斜壁を形成し、前記エア孔に対してエアの流入を許容し、廃液の滴下を遮断する複数の偏向板からなるルーバーを設けたことを特徴とする。
【0010】
この廃液回収装置によれば、廃液については排出孔からのみ排出させ、エアについては排出孔に加えてエア孔から排気させることができる。これにより、ハウジング内におけるエアの流れが淀みなくスムースになり、ひいては廃液供給孔におけるエアの逆流も生じにくくなって、廃液回収装置の周囲への廃液の飛散が一層低減される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、噴霧状の廃液を回収するにあたり、装置周辺への廃液の飛散を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る廃液回収装置の側断面図である。
【図2】本発明に係る廃液回収装置の平面図(一部破断)である。
【図3】図1におけるA−A断面図である。
【図4】図1におけるB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1ないし図4において、本発明に係る廃液回収装置1は、平断面視して矩形閉断面を呈するハウジング5を有する。ハウジング5は、一定閉断面形状の中空の四角筒胴部2と、四角筒胴部2の上部に形成される四角筒上部3と、四角筒胴部2の下部に形成される四角筒下部4とから構成される。
【0014】
四角筒胴部2の4つの側壁2a〜2dは、四角筒上部3においてはそれぞれハウジング5の内側かつ上方に向けて傾斜する傾斜壁3aとして形成されている。一方、四角筒下部4においては、互いに対向する2つの側壁2a、2bに関しては、ハウジング5の内側かつ下方に向けて傾斜する傾斜壁4aとして形成され、残りの側壁2c、2dに関しては、そのまま鉛直な側壁として形成されている。四角筒上部3の上端には廃液供給孔6が開設され、四角筒下部4の下端には排出孔7が開設されている。
【0015】
四角筒胴部2の側壁2a、2bの内面の上部にはそれぞれ水平状の支持プレート15が取り付けられており、この支持プレート15に支持枠9が水平状に載置されている。支持枠9は四角筒胴部2の側壁2a〜2dの内面に倣った四辺の枠組みからなり、支持プレート15に載置された二辺間には複数の支持バー10が等間隔で掛け渡されている。つまり、各支持バー10は側壁2a、2b間の幅方向に沿って延設される。支持枠9および支持バー10には第一霧化廃液捕集部20が載置される。
【0016】
さらに、四角筒胴部2の側壁2a、2bの内面において、各支持プレート15の下方には水平状の支持プレート16が取り付けられており、この支持プレート16に第二霧化廃液捕集部30が載置されている。
【0017】
第二霧化廃液捕集部30の下方には、複数(本実施形態では4枚)の偏向板11が四角筒胴部2および四角筒下部4の側壁2c、2d間に掛け渡される態様で位置している。各偏向板11は、側壁2c、2d間に掛け渡される辺を長辺とする矩形の平板からなり、各板面が水平方向に対し同じ傾斜角度θを有するようにして、第二霧化廃液捕集部30の下方近傍から排出孔7近傍にかけて、上下方向に間隔を空けかつ横方向(側壁2a、2b間の幅方向)に重なり代をもってずれて設けられる。最上段の偏向板11は、その一方の長辺部が支持プレート16の下方近傍の側壁2aに当接し、他方の長辺部が一方の長辺部よりも低い位置にある。順次、下段の偏向板11は側壁2b寄りに重なり代をもってずれて位置し、最下段の偏向板11は排出孔7の上方に位置する。
【0018】
以上により、複数の偏向板11は概ね、側壁2aの下端から連なる傾斜壁4aの上方に配設される。側壁2aの下端から連なる傾斜壁4aは、図4にも示されるように、細かな円孔からなるエア孔12が複数開設されたパンチングメタル13として形成されている。図1において、このパンチングメタル13として形成された傾斜壁4aの外側には排気ダクト14が接続される。また、排出孔7には不図示の回収槽に通じる回収配管8が接続されている。以上から、複数の偏向板11は、パンチングメタル13のエア孔12に対して、エアの流入を許容し、廃液の浸入を防ぐルーバーを構成する。
【0019】
第一霧化廃液捕集部20は、微細な線径の金属線材により形成された金属タワシ21からなる。金属線材としては、ニッケルシルバー、ステンレス、真鍮、鉄、銅等の線材が挙げられる。金属タワシ21は、金属線材をしごくことにより、線材の断面を円形から略楕円形状に変形させ、線材の性状を直線形状からカール状に湾曲した形状に変更したうえで、線材を寄り束ねるように巻き取って原型として略円柱形状に成形されたものからなる。この金属タワシ21は、一定の厚みを有する扁平直方体状として前記支持枠9および支持バー10上に敷き詰められる。線材はカール状に湾曲する性状を有するため、線材はお互いに空間を有しつつ絡まり合う。支持枠9および支持バー10に対する金属タワシ21の敷き詰め作業は、ハウジング5内に支持枠9が載置された状態で行ってもよいし、支持枠9をハウジング5に入れる前の段階で行ってもよい。
【0020】
第二霧化廃液捕集部30は、支持プレート16に載置され、四角筒胴部2の側壁2a〜2dの内面に倣った四辺の枠組みからなるフレーム31を備えており、側壁2c、2dに臨む二辺間には複数の山形偏向板(上段山形偏向板32、中段山形偏向板33、下段山形偏向板34)が掛け渡されている。つまり、各山型偏向板は側壁2c、2d間の幅方向に沿って延設される。山形偏向板は例えば断面L形を呈した部材であり、側壁2c、2d間の幅方向から見て、コーナー部を頂上とした山形を呈するように配される。山形偏向板としては例えばL形鋼が用いられる。
【0021】
上段山形偏向板32は側壁2a、2b間の幅方向に等ピッチで複数設けられる。中段山形偏向板33、下段山形偏向板34も同様に、それぞれ側壁2a、2b間の幅方向に等ピッチで複数設けられる。各段のピッチ寸法は同一であって、各段の山形偏向板は、その上段あるいは下段の山形偏向板に対して側壁2a、2b間の幅方向に半ピッチの位相ずれをもって位置している。つまり、上段の隣り合う山形偏向板同士の隙間中心の下方に下段の山形偏向板がその頂上部を合わせて位置することとなる。これにより、山形偏向板(上段山形偏向板32、中段山形偏向板33、下段山形偏向板34)は、側壁2c、2d間の幅方向から見て千鳥配列となる。
【0022】
「作用」
例えば、ロボットアーム52の先端に取り付けたベル形塗装ガン50のベルカップ51の付着物を除去する場合、ベルカップ51をハウジング5の廃液供給孔6の直上に位置させ、図示しない塗料配管経由でベル形塗装ガン50にシンナーを供給し、ベルカップ51を回転させることによりシンナーを廃液供給孔6を通してハウジング5内に噴霧する。
【0023】
霧化したシンナーは、廃液として第一霧化廃液捕集部20の金属タワシ21上にエアとともに吹き付けられる。吹き付けられた霧化シンナーは、金属タワシ21の金属線材により捕集されて微粒体から液滴に変換される。一方、エアは金属タワシ21の金属線材間の隙間から下方に向けてさほど抵抗無くスムースに流れるため、金属タワシ21の表面上でのエアの跳ね返りは殆ど生じない。つまり、金属線材は細線であり、様々な方向に湾曲して絡み合っているため、金属線材に当たった際のエアの上方への跳ね返り量は極めて少ない。したがって、エアの跳ね返りに伴って生じるシンナーの跳ね返りが低減され、ハウジング5外へのシンナーの飛散が防止される。ハウジング5の上部には内側に傾斜した傾斜壁3aが形成されているため、この傾斜壁3aに遮られることによってもシンナーの外部への飛散が防止される。金属タワシ21を下方に通過したエアには、金属タワシ21で捕集しきれなかった微粒のシンナーが含有されるが、当該シンナーは後記するように第二霧化廃液捕集部30により捕集される。
【0024】
金属タワシ21により液滴となったシンナーは第二霧化廃液捕集部30に滴下する。第二霧化廃液捕集部30において、液滴のシンナーは先ず上段山形偏向板32の傾斜面32aに沿って流下し、次いで中段山形偏向板33の傾斜面33aに沿って流下し、最後に下段山形偏向板34の傾斜面34aに沿って流下する。金属タワシ21を通過してきたエアも同様に、上段山形偏向板32の傾斜面32aに沿って流下し、次いで中段山形偏向板33の傾斜面33aに沿って流下し、最後に下段山形偏向板34の傾斜面34aに沿って流下する。傾斜面32a〜34aにエアが接触することにより、エア中に含まれる微粒のシンナーは、傾斜面32a〜34aを流下する液滴のシンナーにより捕集される。
【0025】
山形偏向板(上段山形偏向板32、中段山形偏向板33、下段山形偏向板34)が山形に形成されているため、エアは各傾斜面32a〜34aに沿ってスムースに下方に向けて流れる。したがって、エアが上方に跳ね返って反転流となって第一霧化廃液捕集部20からのエアの流れを妨げるという問題も生じず、ひいては、ベルカップ51から第一霧化廃液捕集部20へのエアの流れがスムースに維持されることとなり、ハウジング5外へのシンナーの飛散が防止される。
【0026】
次いで、第二霧化廃液捕集部30から滴下するシンナーの内、一部は側壁2bの下端に連なる傾斜壁4aに滴下してこれに沿って流下し、排出孔7から回収配管8を経由して図示しない回収槽に回収される。残りのシンナーは偏向板11上に滴下したうえで、排出孔7から回収配管8を経由して図示しない回収槽に回収される。このとき、複数の偏向板11は互いに横方向(側壁2a、2b間の幅方向)に重なり代をもってそれぞれ傾斜配設されているので、ある偏向板11から滴下したシンナーは必ずその下段に位置する偏向板11により受け止められて最終的に最下段の偏向板11から排出孔7に滴下することとなり、パンチングメタル13のエア孔12に滴下することはない。
【0027】
一方、第二霧化廃液捕集部30を通過したエアは偏向板11間の空間からパンチングメタル13のエア孔12を通して排気ダクト14からスムースに排気される。このようにエアがスムースにハウジング5外に排気されるため、ハウジング5内においてエアの対流がさほど生ずることもなくなってシンナーの回収もスムースとなる。
【0028】
以上のように、ハウジング5の内部に、廃液供給孔6の下方に配置され、カール状に湾曲形成した金属線材の寄り束ねからなる第一霧化廃液捕集部20と、第一霧化廃液捕集部20の下方に配置され、千鳥配列された複数の断面山形状の山形偏向板(上段山形偏向板32、中段山形偏向板33、下段山形偏向板34)からなる第二霧化廃液捕集部30と、を設けたことにより、廃液供給孔6からの廃液の跳ね返りを低減でき、廃液回収装置1の周囲への廃液の飛散が低減される。
【0029】
また、ハウジング5の下部に、エア孔12が複数穿設された傾斜壁4aを形成し、第二霧化廃液捕集部30と前記傾斜壁4aとの間に、エア孔12に対してエアの流入を許容し、シンナー(廃液)の滴下を遮断する複数の偏向板11からなるルーバーを設けたことにより、シンナーについては排出孔7からのみ排出させ、エアについては排出孔7に加えてエア孔12から排気させることができる。これにより、ハウジング5内におけるエアの流れが淀みなくスムースになり、ひいては廃液供給孔6におけるエアの逆流も生じにくくなって、廃液回収装置1の周囲への廃液の飛散が一層低減される。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。説明した実施形態では、ベル型塗装ガンのベルカップに付着する汚れをシンナーにより定期的に洗浄する場合について説明したが、塗料の色替え時の塗装装置の洗浄に実施することも無論可能である。また、廃液供給孔に噴霧状に供給される廃液としてはシンナーに限られることなく実施可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 廃液回収装置
4a 傾斜壁
5 ハウジング
6 廃液供給孔
7 排出孔
11 偏向板
12 エア孔
20 第一霧化廃液捕集部
21 金属タワシ
30 第二霧化廃液捕集部
32 上段山形偏向板
33 中段山形偏向板
34 下段山形偏向板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端の廃液供給孔を通して廃液が噴霧状に供給され、下端の排出孔から廃液を排出するハウジングを備えた廃液回収装置において、
前記ハウジング内に、
前記廃液供給孔の下方に配置され、カール状に湾曲形成した金属線材の寄り束ねからなる第一霧化廃液捕集部と、
前記第一霧化廃液捕集部の下方に配置され、千鳥配列された複数の断面山形状の山形偏向板からなる第二霧化廃液捕集部と、
を設けたことを特徴とする廃液回収装置。
【請求項2】
前記ハウジングの下部に、エア孔が複数穿設された傾斜壁を形成し、
前記エア孔に対してエアの流入を許容し、廃液の滴下を遮断する複数の偏向板からなるルーバーを設けたことを特徴とする請求項1に記載の廃液回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35164(P2012−35164A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175716(P2010−175716)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】