説明

廃熱利用装置

【課題】膨張機のフリクションの増大を検出できる廃熱利用装置を提供する。
【解決手段】ランキンサイクル(31)と、膨張機(37)により回生された動力をエンジンに伝達する動力伝達機構と、を備える廃熱利用装置において、動力伝達機構は、膨張機(37)からエンジン(2)への動力の伝達を断続する断続手段(35)を備え、膨張機(37)は、膨張機(37)の回転速度を検出する回転速度検出手段(37a)を備え、断続手段(35)を切断したときに、回転速度検出手段(37a)により検出された膨張機(37)の回転速度の上昇に基づいて、膨張機(37)のフリクションの増大を検出するフリクション増大検出手段(71)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃熱利用装置、特にランキンサイクルと冷凍サイクルを統合したものに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの廃熱をエネルギとして再利用するランキンサイクルシステムが知られている。エンジンの廃熱を回収しこの熱によってランキンサイクルを稼動して膨張機(タービン)によって回転エネルギを得る。このようなシステムとして、過熱器においてエンジンの廃熱を回収した蒸気により駆動されるタービンと、電磁クラッチによりタービンのシャフトに連結される第1プーリ、クランクシャフトに設けられた第2プーリ、及び、第1プーリと第2プーリとに張設されたベルトによりタービンからクランクシャフトへ動力を回収する動力回収手段と、タービンの過回転を判断すると、電磁クラッチにより第1プーリをタービンのシャフトに連結し、タービンのシャフトにかかる負荷を調整するECUと、を備える廃熱回収装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−101283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1では、膨張機(タービン)が過回転を判断した場合に電磁クラッチを締結してタービンの過回転を防止することが示されている。
【0005】
一方で、膨張機のフリクションが増大した場合には、ランキンサイクルの効率が低下するために、膨張機のフリクションの増大を予め検出する方法が望まれている。従来技術は、膨張機のフリクションの増大を検出する方策は開示されていない。
【0006】
これに対して、膨張機に歪みセンサ等のトルクセンサを用いてフリクションの増大を検出する方法も考えられるが、センサの追加による膨張機の大型化が避けられず、また温度による誤差が大きいため誤検出の可能性がある。
【0007】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、エンジンの廃熱を回収する廃熱利用装置において、膨張機のフリクションの増大を検出できる廃熱利用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エンジンの廃熱を冷媒に回収する熱交換器と、熱交換器を出た冷媒を用いて動力を発生させる膨張機と、膨張機を出た冷媒を凝縮させる凝縮器と、凝縮器からの冷媒を熱交換器に供給する冷媒ポンプと、を備えるランキンサイクルと、膨張機により回生された動力をエンジンに伝達する動力伝達機構と、を備える廃熱利用装置に適用される。この廃熱利用装置において、動力伝達機構は、膨張機とエンジンとの動力の伝達を断続する断続手段を備え、膨張機は、膨張機の回転速度の検出する回転速度検出手段を備え、断続手段を切断したときに、回転速度検出手段により検出された膨張機の回転速度の上昇に基づいて、膨張機のフリクションの増大を検出するフリクション増大検出手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ランキンサイクルの運転中に膨張機を無負荷で回転させたときの膨張機回転速度の上昇に基づいて、膨張機のフリクションの増大を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の統合サイクルの概略構成図である。
【図2A】本発明の実施形態の膨張機ポンプの概略断面図である。
【図2B】本発明の実施形態の冷媒ポンプの概略断面図である。
【図2C】本発明の実施形態の膨張機の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態の冷媒系バルブの機能を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態のハイブリッド車両の概略構成図である。
【図5】本発明の実施形態のエンジンの概略斜視図である。
【図6】本発明の実施形態のハイブリッド車両を下方から見た概略図である。
【図7】本発明の実施形態のランキンサイクル運転域の特性図である。
【図8】本発明の実施形態の膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両の加速が行われたときの様子を示したタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施形態のランキンサイクルの運転停止からの再起動の様子を示したタイミングチャートである。
【図10】膨張機のフリクションの増大の検出動作を示す説明図である。
【図11】膨張機のフリクションの増大の検出動作の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1は本発明の前提となるランキンサイクルの、システム全体を表した概略構成図を示している。図1のランキンサイクル31は、冷凍サイクル51と冷媒および凝縮器38を共有する構成になっており、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51を統合したサイクルのことを、これ以降統合サイクル30と表現する。図4は統合サイクル30が搭載されるハイブリッド車両1の概略構成図である。なお、統合サイクル30は、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51の冷媒が循環する回路(通路)及びその途中に設けられたポンプ、膨張機、凝縮器等の構成要素に加え、冷却水や排気の回路(通路)等を含めたシステム全体を指すものとする。
【0013】
ハイブリッド車両1では、エンジン2、モータジェネレータ81、自動変速機82が直列に連結され、自動変速機82の出力はプロペラシャフト83、ディファレンシャルギヤ84を介して駆動輪85に伝達される。エンジン2とモータジェネレータ81の間には第1駆動軸クラッチ86を設けている。また、自動変速機82の摩擦締結要素の一つが第2駆動軸クラッチ87として構成されている。第1駆動軸クラッチ86と第2駆動軸クラッチ87は、エンジンコントローラ71に接続されており、ハイブリッド車両の運転条件に応じてその断接(接続状態)が制御される。ハイブリッド車両1では、図7Bに示すように、車速がエンジン2の効率が悪いEV走行領域にあるときには、エンジン2を停止し第1駆動軸クラッチ86を遮断し第2駆動軸クラッチ87を接続してモータジェネレータ81による駆動力のみでハイブリッド車両1を走行させる。一方、車速がEV走行領域を外れてランキンサイクル運転域に移行したときには、エンジン2を運転してランキンサイクル31(後述する)を運転する。エンジン2は排気通路3を備え、排気通路3は、排気マニホールド4と、排気マニホールド4の集合部に接続される排気管5とから構成される。排気管5は途中でバイパス排気管6と分岐しており、バイパス排気管6にバイパスされる区間の排気管5には、排気と冷却水との間で熱交換をさせるための廃熱回収器22を備える。廃熱回収器22とバイパス排気管6は、図6に示すように、これらを一体化した廃熱回収ユニット23として、床下触媒88とその下流のサブマフラー89との間に配置される。
【0014】
図1に基づき、まず、エンジン冷却水回路について説明する。エンジン2を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路13、14を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ15で再び合流し、さらに冷却水ポンプ16を経てエンジン2に戻る。冷却水ポンプ16はエンジン2によって駆動され、その回転速度はエンジン回転速度と同調している。サーモスタットバルブ15は、冷却水温度が高い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を大きくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に増やし、冷却水温度が低い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を小さくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に減らす。エンジン2の暖機前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせて冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる。一方、バイパス冷却水通路14側のバルブ開度は全閉になることはなく、ラジエータ11を流れる冷却水流量が多くなったときに、バイパス冷却水通路14を流れる冷却水の流量は、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる場合と比べて低下するが、流れが完全に停止することがないようにサーモスタットバルブ15が構成されている。ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14は、冷却水通路13から分岐して後述の熱交換器36に直接接続する第1バイパス冷却水通路24と、冷却水通路13から分岐して廃熱回収器22を経た後に熱交換器36に接続する第2バイパス冷却水通路25とからなる。
【0015】
バイパス冷却水通路14には、冷却水とランキンサイクル31の冷媒とで熱交換をさせる熱交換器36を備える。この熱交換器36は蒸発器と過熱器とを統合したものである。すなわち、熱交換器36には2つの冷却水通路36a、36bがほぼ一列に、また、冷媒と冷却水が熱交換可能なようにランキンサイクル31の冷媒が流れる冷媒通路36cは冷却水通路と隣接して設けられている。さらに熱交換器36の全体を俯瞰したときにランキンサイクル31の冷媒と冷却水が互いに流れ方向が逆向きとなるように各通路36a、36b、36cが構成されている。
【0016】
詳細には、ランキンサイクル31の冷媒にとって上流(図1の左)側に位置する一方の冷却水通路36aは、第1バイパス冷却水通路24に介装されている。この冷却水通路36a及びこの冷却水通路に隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器左側部分は、エンジン2から出た冷却水を冷却水通路36aに直接導入することで、冷媒通路36cを流れるランキンサイクル31の冷媒を加熱するための蒸発器である。
【0017】
ランキンサイクル31の冷媒にとって下流(図1の右)側に位置する他方の冷却水通路36bには、第2バイパス冷却水通路25を介して廃熱回収器22を経た冷却水が導入される。冷却水通路36b及びこの冷却水通路36bに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器右側部分(ランキンサイクル31の冷媒にとって下流側)は、エンジン2の出口の冷却水を排気によってさらに加熱した冷却水を冷却水通路36bに導入することで、冷媒通路36cを流れる冷媒を過熱する過熱器である。
【0018】
廃熱回収器22の冷却水通路22aは排気管5に隣接して設けている。廃熱回収器22の冷却水通路22aにエンジン2の出口の冷却水を導入することで、冷却水を高温の排気によって例えば110〜115℃程度まで加熱することができる。廃熱回収器22の全体を俯瞰して見たときに、排気と冷却水とが互いに流れる向きが逆向きとなるように冷却水通路22aが構成されている。
【0019】
廃熱回収器22を設けた第2バイパス冷却水通路25には制御弁26が介装されている。後述するように、制御弁26は、エンジン2の内部にある冷却水の温度を指すエンジン水温が、例えばエンジン2の効率悪化やノックを発生させないための許容温度(例えば100℃)を超えないように、エンジン出口の冷却水温度センサ74の検出温度が所定値以上になると、この制御弁26の開度を減少させるようにしている。エンジン水温が許容温度に近づくと、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させるため、エンジン水温が許容温度を超えてしまうことを確実に防ぐことができる。
【0020】
一方、第2バイパス冷却水通路25の流量が減少したことによって、廃熱回収器22により上昇する冷却水温度が上がりすぎて冷却水が蒸発(沸騰)してしまったのでは、冷却水通路内の冷却水の流れが悪くなって部品温度が過剰に上昇してしまう恐れがある。これを避けるため、廃熱回収器22をバイパスするバイパス排気管6と、廃熱回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とをコントロールするサーモスタットバルブ7をバイパス排気管6の分岐部に設けている。すなわち、サーモスタットバルブ7は、そのバルブ開度が廃熱回収器22を出た冷却水温度が所定の温度(例えば沸騰温度120℃)を超えないように、廃熱回収器22を出た冷却水温度に基づいて調節される。
【0021】
熱交換器36とサーモスタットバルブ7と廃熱回収器22とは、廃熱回収ユニット23として一体化されていて、車幅方向略中央の床下において排気管途中に配設されている。
【0022】
バイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、例えば熱交換器36でランキンサイクル31の冷媒と熱交換することによって十分低下していれば、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が小さくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に減らされる。逆にバイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、ランキンサイクル31が運転されていないことなどによって高くなると、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が大きくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に増やされる。このようなサーモスタットバルブ15の動作に基づいて、エンジン2の冷却水温度が適当に保たれ、熱がランキンサイクル31へ適当に供給(回収)されるように構成されている。
【0023】
次に、ランキンサイクル31について述べる。ここでは、ランキンサイクル31は、単純なランキンサイクルでなく、冷凍サイクル51と統合した統合サイクル30の一部として構成されている。以下では、基本となるランキンサイクル31を先に説明し、その後に冷凍サイクルに言及する。
【0024】
ランキンサイクル31は、エンジン2の冷却水を介してエンジン2の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、過熱器としての熱交換器36、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44により接続されている。
【0025】
冷媒ポンプ32の軸は同一の軸上で膨張機37の出力軸と連結配置され、膨張機37の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ32を駆動すると共に、発生動力をエンジン2の出力軸(クランク軸)に供給する構成である(図2A参照)。すなわち、冷媒ポンプ32の軸及び膨張機37の出力軸は、エンジン2の出力軸と平行に配置され、冷媒ポンプ32の軸の先端に設けたポンププーリ33と、クランクプーリ2aとの間にベルト34を掛け回している(図1参照)。なお、本実施形態の冷媒ポンプ32としてはギヤ式のポンプを、膨張機37としてはスクロール式の膨張機を採用している(図2B、図2C参照)。なお、膨張機37には、膨張機37の回転速度である膨張機回転速度を検出する回転速度センサ37aが設けられている。
【0026】
また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「膨張機クラッチ」という。)35(第1クラッチ)を設けて、冷媒ポンプ32及び膨張機37を、エンジン2と断接可能にしている(図2A参照)。このため、膨張機37の発生する出力が冷媒ポンプ32の駆動力及び回転体が有するフリクションを上回る場合(予測膨張機トルクが正の場合)に膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37の発生する出力によってエンジン出力軸の回転をアシスト(補助)することができる。このように廃熱回収によって得たエネルギを用いてエンジン出力軸の回転をアシストすることで、燃費を向上できる。また、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32を駆動するためのエネルギも、回収した廃熱で賄うことができる。なお、膨張機クラッチ35は、エンジン2から冷媒ポンプ32及び膨張機37に至る動力伝達経路の途中であれば、どこに設けられていてもよい。
【0027】
冷媒ポンプ32からの冷媒は冷媒通路41を介して熱交換器36に供給される。熱交換器36は、エンジン2の冷却水と冷媒との間で熱交換して、冷媒を気化し過熱する熱交換器である。
【0028】
熱交換器36からの冷媒は冷媒通路42を介して膨張機37に供給される。膨張機37は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。膨張機37で回収された動力は冷媒ポンプ32を駆動し、ベルト伝動機構を介してエンジン2に伝達され、エンジン2の回転をアシストする。
【0029】
膨張機37からの冷媒は冷媒通路43を介して凝縮器38に供給される。凝縮器38は、外気と冷媒との間で熱交換して、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、凝縮器38をラジエータ11と並列に配置し、ラジエータファン12によって冷却するようにしている。
【0030】
凝縮器38により液化された冷媒は、冷媒通路44を介して冷媒ポンプ32に戻される。冷媒ポンプ32に戻された冷媒は、冷媒ポンプ32により再び熱交換器36に送られ、ランキンサイクル31の各構成要素を循環する。
【0031】
なお、冷媒通路44は、図8に示すように、冷媒ポンプ32の入口から上方に延びている。
【0032】
次に、冷凍サイクル51について述べる。冷凍サイクル51は、ランキンサイクル31を循環する冷媒を共用するため、ランキンサイクル31と統合され、冷凍サイクル51の構成そのものは簡素になっている。すなわち、冷凍サイクル51は、コンプレッサ(圧縮機)52、凝縮器38、エバポレータ(蒸発器)55を備える。
【0033】
コンプレッサ52は冷凍サイクル51の冷媒を高温高圧に圧縮する流体機械で、エンジン2によって駆動される。すなわち、図4にも示したようにコンプレッサ52の駆動軸にはコンプレッサプーリ53が固定され、このコンプレッサプーリ53とクランクプーリ2aとにベルト34を掛け回している。エンジン2の駆動力がこのベルト34を介してコンプレッサプーリ53に伝達され、コンプレッサ52が駆動される。また、コンプレッサプーリ53とコンプレッサ52との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「コンプレッサクラッチ」という。)54(第2クラッチ)を設けて、コンプレッサ52とコンプレッサプーリ53とを断接可能にしている。
【0034】
図1に戻り、コンプレッサ52からの冷媒は冷媒通路56を介して冷媒通路43に合流した後、凝縮器38に供給される。凝縮器38は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。凝縮器38からの液状の冷媒は、冷媒通路44から分岐する冷媒通路57を介してエバポレータ(蒸発器)55に供給される。エバポレータ55は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配設されている。エバポレータ55は、凝縮器38からの液状冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
【0035】
エバポレータ55によって蒸発した冷媒は冷媒通路58を介してコンプレッサ52に戻される。なお、エバポレータ55によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
【0036】
なお、エバポレータ55、及び、凝縮器38とエバポレータ55とを接続する冷媒通路44の一部及び冷媒通路57は、冷媒ポンプ32の入口よりも高い位置に配置される。また、冷媒通路44は、冷凍サイクル分岐点45において分岐し、冷媒通路57に接続する(図8参照)。
【0037】
ランキンサイクル31と冷凍サイクル51とからなる統合サイクル30には、サイクル内を流れる冷媒を制御するため、回路途中に各種の弁が適宜設けられている。例えば、ランキンサイクル31を循環する冷媒を制御するため、冷凍サイクル分岐点45と冷媒ポンプ32とを連絡する冷媒通路44にポンプ上流弁61、熱交換器36と膨張機37とを連絡する冷媒通路42に膨張機上流弁62を備える。また、冷媒ポンプ32と熱交換器36とを連絡する冷媒通路41には、熱交換器36から冷媒ポンプ32への冷媒の逆流を防止するため逆止弁63を備えている。膨張機37と冷凍サイクル合流点46とを連絡する冷媒通路43にも、冷凍サイクル合流点46から膨張機37への冷媒の逆流を防止するため逆止弁64を備えている。また、膨張機上流弁62上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65に膨張機バイパス弁66を設けている。さらに、膨張機バイパス弁66をバイパスする通路67に圧力調整弁68を設けている。冷凍サイクル51側についても、冷凍サイクル分岐点45とエバポレータ55とを接続する冷媒通路57にエアコン回路弁69を設けている。
【0038】
上記4つの弁61、62、66、69はいずれも電磁式の開閉弁である。圧力センサ72により検出される膨張機上流圧力の信号、圧力センサ73により検出される凝縮器出口の冷媒圧力Pdの信号、回転速度センサ37aにより検出される膨張機回転速度の検出信号等がエンジンコントローラ71に入力されている。エンジンコントローラ71では、所定の運転条件に応じ、これらの各入力信号に基づいて、冷凍サイクル51のコンプレッサ52や、ラジエータファン12を制御するとともに、上記4つの電磁式開閉弁61、62、66、69の開閉を制御する。
【0039】
例えば、圧力センサ72により検出される膨張機上流側圧力及び回転速度センサ37aにより検出される膨張機回転速度に基づいて膨張機トルク(回生動力)を予測し、この予測膨張機トルクが正のとき(エンジン出力軸の回転をアシストすることができるとき)に膨張機クラッチ35を締結し、予測膨張機トルクがゼロないし負のときに膨張機クラッチ35を解放する。センサ検出圧力と膨張機回転速度とに基づくことで、排気温度から膨張機トルク(回生動力)を予測する場合とくらべ、高い精度で膨張機トルクを予測することができ、膨張機トルクの発生状況に応じて膨張機クラッチ35を適切に締結・解放することができる(詳細は特開2010−190185号公報参照)。
【0040】
上記4つの開閉弁61、62、66、69及び2つの逆止弁63、64は、冷媒系バルブである。これらの冷媒系バルブの機能を改めて図3に示す。
【0041】
図3において、ポンプ上流弁61は、冷媒ポンプ32の入口に設けられる(図8参照)。ポンプ上流弁61は、冷凍サイクル51の回路に比べてランキンサイクル31の回路に冷媒が偏り易くなる所定の条件で閉じることで、ランキンサイクル31への冷媒(潤滑成分を含む)の偏りを防止するためのもので、後述するように、膨張機37下流の逆止弁64と協働してランキンサイクル31の回路を閉塞させる。膨張機上流弁62は、熱交換器36からの冷媒圧力が相対的に低い場合に冷媒通路42を遮断し熱交換器36からの冷媒が高圧になるまで保持することができるようにするものである。これによって、膨張機トルクが十分得られない場合でも冷媒の加熱を促し、例えばランキンサイクル31が再起動する(回生が実際に行なえるようになる)までの時間を短縮させることができる。膨張機バイパス弁66は、ランキンサイクル31の始動時等にランキンサイクル31側に存在する冷媒量が十分でないときなどに、膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32を作動させるように開弁し、ランキンサイクル31の起動時間を短縮するためのものである。膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32を作動させることで、凝縮器38の出口あるいは冷媒ポンプ32の入口の冷媒温度が、その部位の圧力を考慮した沸点から所定温度差(サブクール度SC)以上に低下した状態が実現されれば、ランキンサイクル31には十分な液体冷媒が供給できる状態が整ったことになる。
【0042】
熱交換器36上流の逆止弁63は、膨張機バイパス弁66、圧力調整弁68、膨張機上流弁62と協働して膨張機37に供給される冷媒を高圧に保持するためのものである。ランキンサイクルの回生効率が低い条件ではランキンサイクルの運転を停止し、熱交換器の前後区間に亘って回路を閉塞することで、停止中の冷媒圧力を上昇させておき、高圧冷媒を利用してランキンサイクルが速やかに再起動できるようにする。圧力調整弁68は膨張機37に供給される冷媒の圧力が高くなり過ぎた場合に開いて、高くなり過ぎた冷媒を逃すリリーフ弁の役割を有している。
【0043】
膨張機37下流の逆止弁64は、上述のポンプ上流弁61と協働してランキンサイクル31への冷媒の偏りを防止するためのものである。ハイブリッド車両1の運転開始直後、エンジン2が暖まっていないとランキンサイクル31が冷凍サイクル51より低温となり、冷媒がランキンサイクル31側に偏ることがある。ランキンサイクル31側に偏る確率はそれほど高くないものの、例えば夏場の車両運転開始直後には、車内を早く冷やしたい状況にあって冷房能力が最も要求されることから、冷媒の僅かな偏在も解消して冷凍サイクル51の冷媒を確保したいという要求がある。そこで、ランキンサイクル31側への冷媒の偏在を防止するため逆止弁64を設けたものである。
【0044】
コンプレッサ52は、駆動停止時に冷媒が自由通過できる構造ではなく、エアコン回路弁69と協働して冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止することができる。これについて説明する。冷凍サイクル51の運転が停止したとき、定常運転中の比較的高い温度のランキンサイクル31側から冷凍サイクル51側へと冷媒が移動して、ランキンサイクル31を循環する冷媒が不足することがある。冷凍サイクル51の中で、冷房停止直後はエバポレータ55の温度が低くなっていて、比較的容積が大きく温度が低くなっているエバポレータ55に冷媒が溜まり易い。この場合に、コンプレッサ52の駆動停止によって凝縮器38からエバポレータ55への冷媒の動きを遮断するとともに、エアコン回路弁69を閉じることで、冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止するのである。
【0045】
次に、図5はエンジン全体のパッケージを示すエンジン2の概略斜視図である。図5において特徴的なのは、熱交換器36が排気マニホールド4の鉛直上方に配置されていることである。排気マニホールド4の鉛直上方のスペースに熱交換器36を配置することによって、ランキンサイクル31のエンジン2への搭載性を向上させている。また、エンジン2には、テンショナプーリ8が設けられる。
【0046】
次に、ランキンサイクル31の基本的な運転方法を図7A及び図7Bを参照して説明する。
【0047】
まず、図7A及び図7Bはランキンサイクル31の運転領域図である。図7Aには横軸を外気温、縦軸をエンジン水温(冷却水温度)としたときのランキンサイクルの運転域を、図7Bは横軸をエンジン回転速度、縦軸をエンジントルク(エンジン負荷)としたときのランキンサイクル31の運転域を示している。
【0048】
図7A及び図7Bのいずれにおいても所定の条件を満たしたときにランキンサイクル31を運転するもので、これら両方の条件が満たされた場合にランキンサイクル31を運転する。図7Aにおいては、エンジン2の暖機を優先する低水温側の領域と、コンプレッサ52の負荷が増大する高外気温側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。排気温度が低く回収効率が悪い暖機時は、むしろランキンサイクル31を運転しないことで冷却水温度を速やかに上昇させる。高い冷房能力が要求される高外気温時はランキンサイクル31を止めて、冷凍サイクル51に十分な冷媒と凝縮器38の冷却能力を提供する。図7Bにおいては、ハイブリッド車両であるので、EV走行領域と、膨張機37のフリクションが増大する高回転速度側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。膨張機37は全ての回転数でフリクションが少ない高効率な構造とすることが難しいことから、図7の場合では、運転頻度の高いエンジン回転速度域でフリクションが小さく高効率となるように、膨張機が構成(膨張機各部のディメンジョン等が設定)されている。
【0049】
図8は膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両1の加速が行われたときの様子をモデルで示したタイミングチャートである。なお、図8の右側には、このときに膨張機37の運転状態が推移する様子を膨張機トルクマップ上に表している。膨張機トルクマップの等高線で区切られた範囲のうち、膨張機回転速度が低く膨張機上流圧力が高い部分(左上)が膨張機トルクが最も大きく、膨張機回転速度が高く膨張機上流圧力が低くなるほど(右下に進むほど)膨張機トルクが小さくなる傾向になっている。特に斜線部の範囲は、冷媒ポンプを駆動する前提では膨張機トルクがマイナスになって、エンジンに対しては負荷となってしまう領域を表している。
【0050】
運転者がアクセルペダルを踏込むt1までは、定速走行が継続されて膨張機37が正のトルクを発生させており、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが行われている。
【0051】
t1以降、膨張機37の回転速度、すなわちポンプ32の回転速度がエンジン回転速度に比例して上昇するが、排気温度或いは冷却水温度の上昇は、エンジン回転速度の上昇に対して遅れを有する。そのため、ポンプ32の回転速度の上昇によって増大した冷媒量に対して回収可能な熱量の割合が低下する。
【0052】
従って、膨張機回転速度が上昇するにつれ、膨張機上流の冷媒圧力が低下し、膨張機トルクは低下する。
【0053】
膨張機トルクが低下すると、膨張機37や冷媒ポンプ32はエンジンの駆動力によって回転させられることになり、むしろエンジンの負荷になってしまうので、膨張機トルクが所定以下になるようなときには膨張機クラッチ35を切断し、膨張機37の引き摺り現象(エンジンによって回されて却ってエンジンの負荷になること)を回避する。
【0054】
図8では、膨張機クラッチ35を切断するt3よりも前の、t2のタイミングで膨張機上流弁62を閉塞しており、t3のタイミングで膨張機上流圧力は膨張機下流圧力と殆ど差がない。このように、膨張機クラッチ35の切断前に、膨張機上流弁62を閉塞することによって、膨張機上流の冷媒(膨張機に流入する冷媒の)圧力を十分低下させ、膨張機クラッチ35を切り離した際の膨張機37の過回転を防止している。
【0055】
t3以降、エンジン2の放熱量の上昇により膨張機上流圧力が再び上昇し、t4のタイミングで、膨張機上流弁62が閉状態から開状態へと切換えられ、膨張機37への冷媒の供給が再開される。また、t4で膨張機クラッチ35が再び接続される。この膨張機クラッチ35の再接続により、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが再開される。
【0056】
図9は、膨張機上流弁62が閉じられ膨張機クラッチ35を切断した状態の、ランキンサイクルの運転停止から、図8(t4の制御)と異なる態様でランキンサイクルが再起動する様子をモデルで示したタイミングチャートである。
【0057】
t11のタイミングで運転者がアクセルペダルを踏込むとアクセル開度が増大する。t11では、ランキンサイクルの運転は停止されている。このため、膨張機トルクはゼロを維持している。
【0058】
t11からのエンジン回転速度の上昇に伴ってエンジン2の放熱量が増大し、この放熱量の増大によって熱交換器36に流入する冷却水温度が高くなり、熱交換器36内の冷媒の温度が上昇する。膨張機上流弁62は閉じているので、この熱交換器36による冷媒温度の上昇によって、膨張機上流弁62の上流の冷媒圧力、つまり膨張機上流圧力が上昇していく(t11〜t12)。
【0059】
この運転状態の変化によってランキンサイクル非運転域からランキンサイクル運転域へと切換わる。膨張機上流弁62がなく、ランキンサイクル運転域に移行したときに、即座に膨張機クラッチ35を切断状態から接続状態へと切換えて膨張機37をエンジン出力軸と連結したのでは、膨張機37がエンジン2の負荷となる上にトルクショックが生じてしまう。
【0060】
一方、図9では、ランキンサイクル運転域へと切換わったとき、即座に膨張機上流弁62を閉状態から開状態へと切換えることはしない。すなわち、ランキンサイクル運転域に移行した後も膨張機上流弁62の閉状態を続ける。
【0061】
やがて、膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差圧が大きくなって所定圧以上となるt12のタイミングで膨張機37を運転(駆動)できると判断し、膨張機上流弁62を閉状態から開状態に切換える。この膨張機上流弁62の開状態への切換によって膨張機37に所定圧の冷媒が供給され、膨張機回転速度がゼロから速やかに上昇する。
【0062】
この膨張機回転速度の上昇で膨張機回転速度がエンジン回転速度に到達するt13のタイミングで、膨張機クラッチ35を切断より接続へと切換える。膨張機37が十分に回転速度を増す前に膨張機クラッチ35を接続したのでは、膨張機37がエンジン負荷となるし、トルクショックも生じ得る。これに対して、エンジン出力軸との回転速度差がなくなるt13で膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37がエンジン負荷となることも、膨張機クラッチ35を締結することに伴うトルクショックも防止できる。
【0063】
次に、膨張機37のフリクションの増大の検出について説明する。
【0064】
膨張機37の回転のフリクションが増大した場合には、膨張機37の回転に支障が出てランキンサイクル31の効率が低下する。そこで、次のような方法によって、膨張機37のフリクションの増大があるかを検出する。
【0065】
図10は、膨張機37のフリクションが増大しているかを検出するための検出動作を示す説明図である。
【0066】
エンジンコントローラ71は、ランキンサイクル31がランキンサイクル運転域にある状態において、膨張機クラッチ35を解放するとともに膨張機バイパス弁66を開弁して、膨張機37を自由回転させ、このときの膨張機回転速度を検出することによって。膨張機37のフリクションの増大を検出する。
【0067】
ランキンサイクル運転域では、膨張機クラッチ35を接続し、膨張機37の回転によってエンジン出力軸の回転をアシストする。
【0068】
ここで、エンジンコントローラ71は、膨張機クラッチ35を切断するとともに、膨張機バイパス弁66を開弁して、膨張機37への冷媒の流れをバイパスする。この結果、膨張機37が無負荷状態となり、また、膨張機37に供給される冷媒の圧力が低下するので、膨張機37は慣性によって自由回転する。
【0069】
ランキンサイクル運転域において膨張機クラッチ35を切断するとき、膨張機上流圧力が所定値以上、または膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差が所定差以上である場合は、膨張機37の回転によってエンジン回転をアシストしている状態であり、これを直ちに無負荷状態とした場合は冷媒の残圧を受け、アシストトルク分の自由回転によって、膨張機37の回転速度が一旦上昇する。
【0070】
その後、膨張機37は、ベアリングや軸受等の自身のフリクションによって漸次回転が低下する。
【0071】
エンジンコントローラ71は、膨張機37を無負荷としたときの膨張機回転速度の上昇分を検出して、膨張機37のフリクションの増大が発生していないかを判定する。
【0072】
すなわち、エンジンコントローラ71は、膨張機回転速度の上昇が所定値以上の上昇である場合は正常と判定し、膨張機回転速度の上昇が所定値未満である場合は、膨張機37のフリクションが増大していると判定する。このように、膨張機クラッチ35を切断したときに、膨張機37の回転速度の上昇に基づいて膨張機37のフリクションの増大を検出すると、次のような理由で高い診断精度が得られる。残圧がない状態での自由回転による膨張機37の回転速度の低下は、フリクション増大の有無で差が出にくいのに対し、残圧がある状態での膨張機37の回転速度の上昇は、僅かなフリクションの増大によっても比較的大きく目減りし、フリクション増大の有無で差が出易いからである。そして、上記の検出動作では、クラッチ切断とほぼ同時にバイパス弁66を開弁することにしているので、回転速度の上昇に基づいたフリクション増大の検出を、膨張機37が過回転(回転速度が過剰)となるのを防止しつつ行なうことができる。また、冷媒ポンプ32は、膨張機37により回生された動力で駆動されるポンプとなっているので、膨張機の回転速度を上昇させる場合に過回転を生じにくくさせ、回転速度の上昇に基づいたフリクション増大の検出が実施し易い構成となっている。
【0073】
膨張機37のフリクションが増大した場合は、たとえば膨張機37の回転軸や軸受、ベアリング等に何らかの異常が発生している可能性が高い。この場合、エンジンコントローラ71は、運転者に警告を通報して、サービスセンターでの点検を行うことを促すことができる。なお、膨張機回転速度の上昇の所定値は、例えば、設計値における上昇の90%に低下している場合に、フリクションの増大と判定する。
【0074】
なお、膨張機37は、予め許容回転速度が設定されている。エンジンコントローラ71は、膨張機クラッチ35を切断して膨張機回転速度が上昇したときに膨張機回転速度が許容回転速度を超えない範囲の冷媒圧力を予め把握しておき、フリクションの増大を検出するときに、予め膨張機37の冷媒圧力を予め把握しておいた圧力に設定しておくことが望ましい。
【0075】
例えば、膨張機37を無負荷としたときに、膨張機37が許容回転速度に到達しない範囲での上限の圧力を予め実験等によって求めておき、エンジンコントローラ71が、検出した膨張機上流圧力が、上限圧力以下である場合に(上限圧力以下まで下がったところで)膨張機クラッチ35を切断するようにしてもよい。
【0076】
また、膨張機37を無負荷としたときに、膨張機37が許容回転速度に到達しない範囲での膨張機の上流圧力と下流圧力との上限の圧力差を予め実験等によって求めておき、エンジンコントローラ71が、検出した膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差が、上限圧力差以下である場合に(上限圧力差以下まで下がったところで)膨張機クラッチ35を切断するようにしてもよい。
【0077】
図11は、膨張機37のフリクションが増大しているかを検出するための検出動作の別の例を示す説明図である。
【0078】
前述のように、エンジンコントローラ71は、ランキンサイクル運転域では、膨張機クラッチ35を接続し、膨張機37の回転によってエンジン出力軸の回転をアシストする。
【0079】
ここで、エンジンコントローラ71は、膨張機クラッチ35を切断する。この結果、膨張機37は無負荷状態となり、ランキンサイクル31の冷媒によって膨張機回転速度が上昇する。
【0080】
エンジンコントローラ71は、このときの膨張機37の回転速度の上昇分を検出して、膨張機37のフリクションの増大が発生していないかを判定する。
【0081】
一方、エンジンコントローラ71は、膨張機回転速度を検出して、膨張機回転速度が予め設定された許容回転速度に対して余裕分を持った所定回転速度以上となったか否かを判定する。所定回転速度以上となった場合は、膨張機37が許容回転速度に達することを防ぐために、エンジンコントローラ71は、膨張機バイパス弁66を開弁して、膨張機37への冷媒の供給を停止する。膨張機37は、膨張機バイパス弁66が開弁した後は冷媒による駆動力が与えられないため、自身のフリクションによって漸次回転が低下する。
【0082】
このように、図11に示す方法では、前述の図10で説明したように、膨張機クラッチ35の切断と膨張機バイパス弁66の開弁とを同時に行った場合と比較して、膨張機回転速度の上昇分が大きくなるので、膨張機回転速度の上昇が判定しやすく、膨張機37のフリクションの増大の判定が行いやすい。
【0083】
なお、図8において前述したように、エンジンコントローラ71は、膨張機トルクが所定以下になるようなときには膨張機クラッチ35を切断し、膨張機37の引き摺り現象を回避するように制御する。
【0084】
このとき、膨張機クラッチ35を切断するt3よりも前の、t2のタイミングで膨張機バイパス弁66を開弁するように構成することができる。このように、膨張機のフリクション増大の検出を行なわないときは、膨張機クラッチ35の切断前に、膨張機バイパス弁66を開弁することによって、膨張機上流と膨張機下流との冷媒圧力差を十分低下させることができ、膨張機クラッチ35を切断したときに膨張機37が過回転することを防止することができる。
【0085】
以上のように本発明の実施形態では、ランキンサイクル運転域において、膨張機クラッチ35を切断して膨張機37を無負荷としたときの膨張機回転速度の上昇を検出するように構成した。
【0086】
このように構成することによって、膨張機37を無負荷としたときの膨張機回転速度の上昇に基づいて、膨張機37のフリクションの増大を検出することができる。特に、歪みセンサ等のトルクセンサを用いる必要がないため、膨張機37の大型化、コストの上昇を避けることができる。残圧がある状態での膨張機37の回転速度の上昇は、僅かなフリクションの増大によっても比較的大きく目減りし、フリクション増大の有無で差が出易いため高い診断制度が得られる。クラッチ切断の際にバイパス弁66を開弁することにすれば、回転速度の上昇に基づいたフリクション増大の検出を、膨張機37が過回転(回転速度が過剰)となるのを防止しつつ行なうことができる。
【0087】
また、膨張機37を無負荷としたとき、膨張機37の膨張機回転速度が膨張機37の許容回転速度を上回らないように、膨張機バイパス弁66を開弁して、膨張機37を駆動させる冷媒の圧力を低下させる。これにより、膨張機37を無負荷状態で駆動力を与えることがなくなり、膨張機37の過回転を防止して故障を未然に防止する。
【0088】
また、膨張機クラッチ35を切断するときに、膨張機37の膨張機上流圧力または膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差を検出し、膨張機上流圧力が所定圧力以下、又は圧力差が所定圧力差以下のときに膨張機クラッチ35を切断するので、膨張機37が無負荷状態のときに過剰な駆動力を与えることがなくなり、膨張機37の過回転を防止して故障を未然に防止する。
【0089】
また、膨張機のフリクション増大の検出を行なわないとき、例えばランキンサイクル運転域において、膨張機トルクの低下等によって膨張機クラッチ35を切断する場合には、予め膨張機バイパス弁66を開弁しておき、膨張機を駆動させる冷媒の圧力を低下させることによって、膨張機の過回転を防止して故障を未然に防止する。
【0090】
以上説明した本発明の実施形態では、ハイブリッド車両を例に説明したが、これに限られるものでない。エンジン2のみを搭載した車両にも本発明の適用がある。エンジン2は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【符号の説明】
【0091】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン
2a クランクプーリ
12 ラジエータファン
30 複合サイクル
31 ランキンサイクル
32 冷媒ポンプ
33 ポンププーリ
34 ベルト
35 膨張機クラッチ
36 熱交換器
37 膨張機
73a 回転速度センサ
51 冷凍サイクル
52 コンプレッサ
54 コンプレッサクラッチ
55 エバポレータ
65 膨張機バイパス通路
66 膨張機バイパス弁
71 エンジンコントローラ
92 エジェクタ
98 流量制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの廃熱を冷媒に回収する熱交換器と、前記熱交換器を出た冷媒を用いて動力を発生させる膨張機と、前記膨張機を出た冷媒を凝縮させる凝縮器と、前記凝縮器からの冷媒を前記熱交換器に供給する冷媒ポンプと、を備えるランキンサイクルと、
前記膨張機により回生された動力を前記エンジンに伝達する動力伝達機構と、
を備える廃熱利用装置において、
前記動力伝達機構は、前記膨張機から前記エンジンへの動力の伝達を断続する断続手段を備え、
前記膨張機は、前記膨張機の回転速度を検出する回転速度検出手段を備え、
前記断続手段を切断したときに、前記回転速度検出手段により検出された前記膨張機の回転速度の上昇に基づいて、前記膨張機のフリクションの増大を検出するフリクション増大検出手段を備えることを特徴とする廃熱利用装置。
【請求項2】
前記ランキンサイクルは、前記膨張機に導入する冷媒をバイパスさせるバイパス通路と、前記パイパス通路への冷媒の導通を断続するバイパス弁と、を備え、
前記フリクション増大検出手段は、前記断続手段を切断したとき、前記バイパス弁を制御して前記バイパス通路を導通させることを特徴とする請求項1に記載の廃熱利用装置。
【請求項3】
前記フリクション増大検出手段は、前記断続手段を切断したのと同時に、前記バイパス弁を制御して前記バイパス通路を導通させることを特徴とする請求項2に記載の廃熱利用装置。
【請求項4】
前記ランキンサイクルは、前記膨張機に導入する冷媒をバイパスさせるバイパス通路と、前記パイパス通路への冷媒の導通を断続するバイパス弁と、を備え、
前記フリクション増大検出手段は、前記断続手段を切断したとき、前記膨張機の回転速度が前記膨張機の許容回転速度以下となるように、前記バイパス弁を制御して前記バイパス通路を導通させることを特徴とする請求項1に記載の廃熱利用装置。
【請求項5】
前記膨張機の上流側の冷媒圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記フリクション増大検出手段は、前記圧力検出手段によって検出された前記膨張機の上流側の冷媒圧力が所定圧力以下である場合に、前記断続手段を切断することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の廃熱利用装置。
【請求項6】
前記膨張機の上流側の冷媒圧力と下流側の冷媒圧力との差を検出する圧力差検出手段を備え、
前記フリクション増大検出手段は、前記圧力差検出手段によって検出された前記膨張機の上流側の冷媒圧力と下流側の冷媒圧力との差が所定圧力差以下である場合に、前記断続手段を切断することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の廃熱利用装置。
【請求項7】
前記膨張機のフリクション増大の検出を行なわないときは、前記膨張機が動力を回生しているときに、前記バイパス通路を導通させた後に、前記断続手段を切断すること特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の廃熱利用装置。
【請求項8】
前記冷媒ポンプは、前記膨張機により回生された動力で駆動されるポンプであること特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の廃熱利用装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−76370(P2013−76370A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216765(P2011−216765)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】