説明

廃酸石膏の製造方法

【課題】高純度の廃酸石膏を低コストで製造する。
【解決手段】廃酸石膏の製造方法は、銅製錬において発生する硫酸を含んだ廃酸に水硫化ソーダを加え、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整して硫化反応を行い、砒素を硫化物として除去する廃酸処理工程と、砒素の硫化物を除去した廃酸にアルカリを加えて中和反応を行うことで石膏を作製する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬で発生する廃酸からの廃酸石膏の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬で発生する亜硫酸ガスは、回収された後、硫酸製造の原料とされる。その処理段階の前段で、亜硫酸ガスを工業用水等の冷却水で洗浄・冷却する工程があるが、当該冷却水中には砒素を中心に銅、亜鉛、カドミウム等の重金属を含んだ薄硫酸、いわゆる廃酸(硫酸濃度100〜300g/l)が発生する。通常、廃酸は炭酸カルシウム、酸化カルシウム等のアルカリで中和を行い、石膏を製造することで処理される。
【0003】
このような廃酸を原料とした石膏(以下、廃酸石膏とする)の製造技術として、例えば、特許文献1には、銅製錬において発生する硫酸濃度100〜200g/lの廃酸に水硫化ソーダを添加して酸化還元電位が0±10mVとなるまで硫化を行い、亜鉛以外の重金属類を硫化物として除去した後、清澄液に炭酸カルシウムを加え、pHを2.0〜3.5の範囲となるように中和して石膏を製造することを特徴とする低不純物品位の廃酸石膏製造方法が開示されている(特許文献1の図1及び明細書の段落0014〜0018)。そして、これによれば、不純物を多く含む廃酸から低不純物品位の石膏を製造する方法を提供し、あわせて重金属の硫化殿物中に亜鉛を含ませないようにし、石膏製造工程の負荷の軽減を図ることのできる廃酸石膏の製造方法を提供することができると記載されている(特許文献1の明細書の段落0026)。
【0004】
また、特許文献2には、硫化剤を用いて砒素を硫化物として沈殿させ、かつ濾過補助剤を併用して硫化砒素を分離させることによって、廃棄物に含まれる硫酸からヒ素を除去する技術が開示されている。特許文献2では、99%以上の良好なヒ素の分離度を達成するため、該硫化剤として硫化ナトリウムと二硫化ナトリウムの混合水溶液を用い、H2S雰囲気を維持した状態で、廃棄物に含まれる硫酸の砒素含有量によって該硫化ナトリウムの量を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3945216号公報
【特許文献2】チリ国特許第35025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、廃酸に水硫化ソーダを添加して酸化還元電位が0±10mVとなるまで硫化を行い、亜鉛以外の重金属類を全て硫化物として除去するとしているが、これでは水硫化ソーダの使用量が多く、コスト面で不利である。
また、特許文献2に記載の発明においては、廃酸から砒素を良好な回収率で回収しているが、それのみでは重金属を回収した後の廃酸から高純度の廃酸石膏を製造することができない。
【0007】
そこで、本発明は、高純度の廃酸石膏を低コストで製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、廃酸中の酸化還元電位が20〜150mV(vs.SCE)となるように硫化反応を行うことで選択的に廃酸から砒素を除去し、その後、中和反応によって廃酸石膏を作製することで、硫化工程での水硫化ソーダの使用量を抑え、且つ、高純度の廃酸石膏を作製できることを見出した。すなわち、廃酸に含まれる砒素を選択的に硫化物として除去することによって、後に作製される第1の廃酸石膏への付着水からの砒素の混入を良好に抑制することができる。具体的には、第1の廃酸石膏中の砒素の含有率を0.004質量%以下に抑制することができる。また、砒素を廃酸液から選択的に除去・回収することで、自溶炉等の溶錬炉への繰り返し物中の砒素の装入量を容易に制御することが出来る。尚、上記の硫化工程において、廃酸中に含まれる銅成分も硫化物として除去される。
【0009】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅製錬において発生する硫酸を含んだ廃酸に水硫化ソーダを加え、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整して硫化反応を行い、砒素を硫化物として除去する工程と、砒素の硫化物を除去した廃酸にアルカリを加えて中和反応を行うことで石膏を作製する工程とを備えた廃酸石膏の製造方法である。
【0010】
本発明に係る廃酸石膏の製造方法の一実施形態においては、石膏を作製する工程は、廃酸にアルカリを加えてpH1.2〜1.6に調整して第1の中和反応を行い、第1の廃酸石膏を作製する工程と、第1の廃酸石膏を除去した後の廃酸にアルカリを加えてpH9.5〜11.0に調整して第2の中和反応を行い、不純物金属を含んだ第2の廃酸石膏を作製する工程とを備える。
【0011】
本発明に係る廃酸石膏の製造方法の別の実施形態においては、第1の廃酸石膏を作製する工程に使用されるアルカリが、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、又は、水酸化カルシウムであり、第2の廃酸石膏を作製する工程に使用されるアルカリが、酸化カルシウム、又は、水酸化カルシウムである。
【0012】
本発明に係る廃酸石膏の製造方法の更に別の実施形態においては、第2の廃酸石膏は回収されて、自溶炉又は溶錬炉へ繰り返し原料として利用される。
【0013】
本発明に係る廃酸石膏の製造方法の更に別の実施形態においては、第2の中和反応において生成される石膏スラリーの一部を第1の中和反応で用いる中和槽に戻す工程を更に備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃酸中の酸化還元電位が20〜150mV(vs.SCE)となるように硫化反応を行うことで選択的に廃酸から砒素を除去し、その後、中和反応によって廃酸石膏を作製する。これにより、硫化工程での水硫化ソーダの使用量を抑えることができ、さらに廃酸石膏における砒素の含有量が良好に抑制される。従って、高純度の廃酸石膏を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る廃酸石膏の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(廃酸石膏の製造方法)
図1に、本発明に係る廃酸石膏の製造方法のフローチャートを示す。
本発明に係る廃酸石膏の製造方法は、まず、銅製錬において発生する廃酸を硫化反応槽へ供給し、これに水硫化ソーダを加え、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整して硫化反応を行う。次に、これを硫化物シックナーへ移し、沈殿物(砒素、銅の硫化物)をフィルタープレスで除去し、濾液を硫化物シックナーへ戻す。
前述したように、特許文献1では、酸化還元電位を0±10mVとして当該硫化反応により、亜鉛以外の重金属を全て硫化物として除去するとしているが、その場合、水硫化ソーダの使用量が多く、製造コストが高くなる。
これに対し、本発明は、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整して硫化反応を行うことで、廃酸に含まれる主として砒素を選択的に硫化物として除去する。このため、次工程で作製される第1の廃酸石膏への付着水からの砒素の混入を良好に抑制することができる。具体的には、第1の廃酸石膏中砒素の含有率を0.004質量%以下に抑制することができる。また、砒素を選択的に除去・回収することで、自溶炉等の溶錬炉への繰り返し物中の砒素の装入量を容易に操作することが出来る。
ここで、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整するのは、酸化還元電位が150mVを超えると砒素を十分に回収できず、後工程へ砒素が流れてしまうという問題が生じるためであり、一方、酸化還元電位が20mV未満では特許文献1に記載の技術のように、水硫化ソーダの使用量が増え、製造コストが高くなるという問題が生じるためである。
【0017】
次に、硫化物シックナーのオーバーフロー液を回収し、石膏反応槽へ移す。続いて、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、又は、水酸化カルシウム等のアルカリを石膏反応槽へ加え、pH1.2〜1.6に調整して第1の中和反応を行う。第1の中和反応をpH1.2未満とした場合、第2の廃酸石膏工程へ移る硫酸の成分が多くなり、これを中和するための炭酸カルシウムや酸化カルシウム、水酸化カルシウムといった中和剤の使用量が増加し、製造コストが高くなるという問題が生じる。また、第1の中和反応のpHが高ければ、それだけ多くの砒素が沈殿物(第1の廃酸石膏)に含まれる。このため、第1の中和反応はpH1.6以下で行われている。
続いて、石膏反応槽の反応液を石膏シックナーへ移し、沈殿物を遠心分離機、フィルタープレスなどの濾過機にかけた後、液体分を濾過することにより、残った固体分である廃酸石膏(第1の廃酸石膏)を得る。この廃酸石膏は、上述のようにpH1.2〜1.6の範囲において中和反応を行っていることにより、重金属の混入が抑制され、純度の高い石膏となっている。このようにして作製された廃酸石膏(第1の廃酸石膏)は、重金属の混入が抑制されているため、外販用としての品質を十分に確保している。
なお、このように中和反応においてpHが2未満であると、石膏の粒子が微細化し、石膏の脱水性が悪くなり、輸送費用が高くなるという問題が生じる。そこで、第2の中和反応槽内の廃酸溶液(石膏スラリー)の一部を第1の中和反応槽に繰り返し循環するように配管で接続し、第2中和槽の廃酸溶液の液面表面の高さに対して1/2以下となる高さ位置から石膏スラリーを第1中和槽の液面表面へ供給されるようにして液循環させてもよい。このように石膏スラリーを循環させることによって局部的な石膏溶質濃度の上昇による微細結晶核の発生を抑制し、石膏の粒子を大きく成長させることができる。
【0018】
次に、遠心分離機やフィルタープレスなどの濾過機にかけた後に得られた濾液を第1の廃酸石膏シックナーに戻す。続いて第1の廃酸石膏シックナーのオーバーフロー液を回収し、第2の中和槽へ移す。続いて、酸化カルシウムや水酸化カルシウム等のアルカリを加え、pH9.5〜11.0に調整して第2の中和反応を行う。第2の中和反応をpH9.5〜11.0に調整して行うのは、廃酸中に含まれるCd及びZnがこの範囲で全て水酸化物として回収することができるためである。このとき、pH9.5未満であれば、Cd及びZnの水酸化物としての反応が進行せず、廃酸溶液中に溶解したままとなり、第2の廃酸石膏中で回収することができないという問題点があり、一方、pH11.0超の場合、一旦水酸化物となったCd及びZn等が再び廃酸溶液中に溶け出すという点で問題となる。
続いて、第2中和槽内の廃酸溶液(石膏スラリー)を第2の廃酸石膏シックナーへ移し、沈殿物を遠心分離機にかけ、固液分離した後、残った固体分である廃酸石膏(第2の廃酸石膏)を得る。この廃酸石膏は、上述のようにpH9.5〜11.0の条件で中和反応を行っているので、第1の中和反応後に廃酸溶液中に残留している重金属を水酸化物として第2の廃酸石膏中に含ませることができる。このようにして製造した廃酸石膏(第2の廃酸石膏)は、自溶炉又は溶錬炉へ繰り返し原料として利用することができる。
【0019】
次に、第2の廃酸石膏シックナーから、遠心分離機やフィルタープレスなどの濾過機を通り、得られた濾液を再び第2の廃酸石膏シックナーに戻す。そして、第2の廃酸石膏シックナーでオーバーフローされる分の廃酸溶液は、排水処理設備へ移される。上述のように、原料廃酸に含まれていた重金属系の不純物が上記各工程によってほとんど回収されているため、排水処理設備における排水処理工程に加わる負荷が軽減されている。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0021】
(実施例)
表1に示す硫酸及び重金属を含む廃酸原液を硫化反応槽へ供給し、酸化還元電位が70mV(vs.SCE)になるように水硫化ソーダを加えて硫化反応を行った。廃酸中の砒素成分は0〜4g/Lであった。
【0022】
次に、反応液を硫化物シックナーへ移し、沈殿物(硫化砒素を主成分とする硫化物)をフィルタープレスで除去し、濾液を硫化物シックナーへ戻した。
【0023】
次に、硫化物シックナーのオーバーフロー液を回収し、石膏反応槽へ移す。また、このオーバーフロー液を採取して液組成を測定した。当該組成を表1に併せて示す(硫化後液)。続いて、炭酸カルシウムを石膏反応槽へ加え、pH1.2〜1.6に調整して第1の中和反応を行った。続いて、石膏反応槽の反応液を第1の廃酸石膏シックナーへ移し、沈殿物を遠心分離機にかけ、固液分離後に、残った固体分である廃酸石膏(第1の廃酸石膏)を得た。表2に、このとき得た廃酸石膏(第1の廃酸石膏)の組成の分析結果を示す。
【0024】
次に、遠心分離機にかけ、固液分離後の液体分を第1の廃酸石膏シックナーに戻した。続いて石膏シックナーのオーバーフロー液を回収し、中和槽へ移した。また、このオーバーフロー液を採取して液組成を測定した。当該組成を表1に併せて示す(中和後液1)。
【0025】
続いて、第2の中和槽へ酸化カルシウムを加え、pH9.5〜11.0に調整して第2の中和反応を行った。続いて、第2中和槽の廃酸溶液を第2の石膏シックナーへ移し、沈殿物を遠心分離機にかけ、固液分離後の残った固体分である廃酸石膏(第2の廃酸石膏)を得た。表2に、このとき得た廃酸石膏(第2の廃酸石膏)の組成の分析結果を併せて示す。
【0026】
次に、遠心分離機で第2の廃酸石膏を分離した際に得られた液体分を第2の廃酸石膏シックナーに戻す。続いて第2の廃酸石膏シックナーのオーバーフロー液を採取して液組成を測定した。当該組成を表1に併せて示す(中和後液2)。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
(評価結果)
表1及び表2に示す結果より、廃酸原液の硫化によって、砒素(As)が選択的に除去され、その後の第1の廃酸石膏の作製をpH1.2〜1.6で、第2の廃酸石膏の作製をpH9.5〜11.0でそれぞれ行うことにより、外販製品となる第1の廃酸石膏及び排水処理に送る中和後液2に砒素がほとんど含まれていないことが確認された。
表2の組成分析により、第1の廃酸石膏には不純物がほとんど含まれていないことが確認された。
表2の組成分析により、砒素以外の重金属が第2の廃酸石膏に含まれることによって回収されたことが確認された。
表1の中和後液2の組成分析により、最後に排水処理設備へ送られる液には硫酸及び重金属がほとんど含まれていないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬において発生する硫酸を含んだ廃酸に水硫化ソーダを加え、酸化還元電位を20〜150mV(vs.SCE)に調整して硫化反応を行い、砒素を硫化物として除去する廃酸処理工程と、
前記砒素の硫化物を除去した廃酸にアルカリを加えて中和反応を行うことで石膏を作製する工程と、
を備えた廃酸石膏の製造方法。
【請求項2】
前記石膏を作製する工程は、
前記廃酸にアルカリを加えてpH1.2〜1.6に調整して第1の中和反応を行い、第1の廃酸石膏を作製する工程と、
前記第1の廃酸石膏を除去した後の廃酸にアルカリを加えてpH9.5〜11.0に調整して第2の中和反応を行い、不純物金属を含んだ第2の廃酸石膏を作製する工程と、
を備える請求項1に記載の廃酸石膏の製造方法。
【請求項3】
前記第1の廃酸石膏を作製する工程に使用されるアルカリが、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、又は、水酸化カルシウムであり、
前記第2の廃酸石膏を作製する工程に使用されるアルカリが、酸化カルシウム、又は、水酸化カルシウムである請求項2に記載の廃酸石膏の製造方法。
【請求項4】
前記第2の廃酸石膏は、自溶炉又は溶錬炉へ繰り返し原料として利用される請求項2又は3に記載の廃酸石膏の製造方法。
【請求項5】
前記第2の中和反応において生成される石膏スラリーの一部を前記第1の中和反応で用いる中和槽に戻す工程を更に備えた請求項2〜4のいずれかに記載の廃酸石膏の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12230(P2012−12230A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147674(P2010−147674)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(500483219)パンパシフィック・カッパー株式会社 (109)
【Fターム(参考)】