説明

延伸フィルムおよびその製造方法

【課題】偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造する際の染色工程において、良好な染色時間で樹脂層を染色し偏光子層を形成することができる延伸フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、基材フィルムと、当該基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の樹脂層とを備え、当該樹脂層は、ケン化度(モル%)および平均重合度が以下の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなり延伸されている、延伸フィルムに関する。
96モル%<ケン化度≦98モル% (1)
93モル%≦ケン化度≦96モル% かつ 平均重合度≧2500 (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルム、延伸フィルムの製造方法、偏光性積層フィルムの製造方法および偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置などの表示装置における偏光の供給素子等として広く用いられている。かかる偏光板として、従来より、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子層とトリアセチルセルロースなどの保護フィルムが積層されたものが使用されている。偏光子層(偏光フィルム)においては、高い光学性能が求められるとともに、近年、液晶表示装置のノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などモバイル機器への展開などに伴い、薄肉軽量化が求められている。
【0003】
薄型の偏光板の製造方法の一例として、基材フィルムの表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む溶液を塗布して樹脂層を設けた後、基材フィルムと樹脂層からなる積層フィルムを延伸し、次いで染色、架橋(固定)、乾燥し、樹脂層から偏光子層を形成することにより、偏光子層を有する偏光性積層フィルムを得る方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。これをそのまま偏光板として利用したり、該フィルムに保護フィルムを貼合した後、基材フィルムを剥離したものを偏光板として利用したりする方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−2816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような偏光子層を備えた偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造方法に用いられる延伸フィルムであって、偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造する際の染色工程における染色時間を短くすることができる延伸フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は染色工程における染色時間が短く、高い製造効率で製造することができる偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材フィルムと、当該基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の樹脂層とを備え、当該樹脂層は、ケン化度(モル%)および平均重合度が以下の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなり延伸されている、延伸フィルム。
【0007】
96モル%<ケン化度≦98モル% (1)
93モル%≦ケン化度≦96モル% かつ 平均重合度≧2500 (2)
上記樹脂層は、好ましくは、5倍超の延伸倍率で一軸延伸されている。
【0008】
また、本発明は、上記延伸フィルムの製造方法であって、基材フィルムの一方の面に、ケン化度(モル%)および平均重合度が上述の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、当該積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する。
【0009】
また、本発明は、基材フィルムと、当該基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光性積層フィルムの製造方法であって、上記樹脂層形成工程および上記延伸工程を経て延伸フィルムを製造した後、当該延伸フィルムの樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成する染色工程を有する。
【0010】
また、本発明は、保護フィルムと、当該保護フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光板の製造方法であって、上記樹脂層形成工程、上記延伸工程および上記染色工程を経て偏光性積層フィルムを製造した後、当該偏光性積層フィルムにおける偏光子層の基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程と、当該多層フィルムから基材フィルムを剥離する剥離工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の延伸フィルムおよび本発明の製造方法により製造された延伸フィルムによると、偏光性能および耐水性を低下させることなく偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造する際の染色工程において、良好な染色時間で樹脂層を染色し偏光子層を形成することができる。また、本発明の製造方法によると、効率よく偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の延伸フィルムの製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図2】本発明の偏光性積層フィルムの製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図3】本発明の偏光板の製造方法の概要を示すフローチャートである。
【図4】実施例1,2および比較例1,2について、樹脂層の形成に用いられるPVAのケン化度の中心値と平均重合度に応じてプロットした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
[延伸フィルムの構成]
本発明の延伸フィルムは、基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の樹脂層とを備える。樹脂層は、ケン化度(モル%)および平均重合度が以下の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなり延伸されている。
【0014】
96モル%<ケン化度≦98モル% (1)
93モル%≦ケン化度≦96モル% かつ 平均重合度≧2500 (2)
延伸フィルムは、偏光性積層フィルムまたは偏光板の製造に用いることができる。延伸フィルムは、後述する本発明に係る延伸フィルムの製造方法により製造されるものであってもよいが、これに限定されない。以下、延伸フィルムの各構成要素について詳細に説明する。
【0015】
<樹脂層>
樹脂層に用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、たとえば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0016】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ケン化度が93モル%〜98モル%のものを用いる(式(1)および式(2))。また、ケン化度が93モル%〜96モル%のポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合は、平均重合度が2500以上のものを選択する(式(2))。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が98モル%以下であることにより、延伸フィルムを用いて偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造する際の染色工程において、良好な染色時間で樹脂層を染色し偏光子層を形成することができる。さらに、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が96モル%より大きいことにより、またはケン化度が96モル%より小さくても93モル%以上でありかつ平均重合度が2500以上であることにより、延伸フィルムを用いて偏光性積層フィルムまたは偏光板を製造する際に、たとえば染色工程で水溶液に浸漬させても、十分な耐水性を有する。
【0017】
ここでいうケン化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式で定義される数値である。
【0018】
ケン化度(モル%)=(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)×100
ケン化度は、JIS K 6726(1994)で規定されている方法で求めることができる。なお、樹脂層に用いるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が一つの値に定まらずに幅を有する場合、式(1)および式(2)における「ケン化度」は、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度の中心値を意味する。
【0019】
ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、すなわち結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
【0020】
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、一部が変性されている変性ポリビニルアルコールでもよい。たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものなどが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行なった場合には、後の工程で二色性色素を吸着しにくくなり、偏光性能が低くなってしまう不具合を生じる。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726(1994)によって定められた方法によって求められる数値である。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が96モル%以下の場合は平均重合度が2500以上のものを選択し、好ましくは8000以下であり、さらに好ましくは5000以下である。また、ケン化度が96モル%を超える場合は平均重合度は特に限定されるものではないが、好ましくは1000〜10000であり、さらに好ましくは1500〜5000である。
【0022】
このような特性を有するポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば日本合成化学工業(株)製のAH−26(ケン化度:97.0〜98.8モル%、平均重合度:2600)、AH−22(ケン化度:97.5〜98.5モル%、平均重合度:2200);たとえば日本酢ビ・ポバール(株)のJM−33(ケン化度:93.5〜95.5モル%、平均重合度:3300)、JM−26(ケン化度:95.5〜97.5モル%、平均重合度:2600)などが挙げられ、これらは本発明の樹脂層の形成において好適に用いることができる。
【0023】
上述のポリビニルアルコール系樹脂中には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤が添加されていてもよい。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物などを用いることができ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが例示される。添加剤の配合量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系樹脂中20重量%以下とするのが好適である。
【0024】
かかるポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが本発明の延伸フィルムの樹脂層を構成する。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製膜することができるが、所望の厚さの樹脂層を得やすいという点から、ポリビニルアルコール系樹脂の溶液を基材フィルム上に塗布して製膜することが好ましい。樹脂層は、延伸されており、好ましくは5倍超、さらに好ましくは5倍超でかつ17倍以下の延伸倍率で一軸延伸されている。延伸後の樹脂層の厚さは10μm以下であり、好ましくは7μm以下である。
【0025】
<基材フィルム>
基材フィルムに用いる樹脂としては、たとえば、透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられ、それらのガラス転移温度Tgまたは融点Tmに応じて適切な樹脂を選択できる。
【0026】
このような熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、(メタ)アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、およびこれらの混合物、共重合物などが挙げられる。
【0027】
基材フィルムは、上述の樹脂1種類のみからなるフィルムであっても構わないし、樹脂を2種類以上をブレンドしてなるフィルムであっても構わない。該基材フィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、安定的に高倍率に延伸しやすく好ましい。また、プロピレンにエチレンを共重合することで得られるエチレン−ポリプロピレン共重合体なども用いることもできる。共重合は他の種類のモノマーでも可能であり、プロピレンに共重合可能な他種のモノマーとしては、たとえば、エチレン、α−オレフィンを挙げることができる。α−オレフィンとしては、炭素数4以上のα−オレフィンが好ましく用いられ、より好ましくは、炭素数4〜10のα−オレフィンである。炭素数4〜10のα−オレフィンの具体例を挙げれば、たとえば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等の直鎖状モノオレフィン類;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の分岐状モノオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどである。プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。共重合体中の当該他のモノマー由来の構成単位の含有率は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行なうことにより求めることができる。
【0029】
上記のなかでも、プロピレン系樹脂フィルムを構成するプロピレン系樹脂として、プロピレンの単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、および、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
【0030】
また、プロピレン系樹脂フィルムを構成するプロピレン系樹脂の立体規則性は、実質的にアイソタクチックまたはシンジオタクチックであることが好ましい。実質的にアイソタクチックまたはシンジオタクチックの立体規則性を有するプロピレン系樹脂からなるプロピレン系樹脂フィルムは、その取扱い性が比較的良好であるとともに、高温環境下における機械的強度に優れている。
【0031】
ポリエステル系樹脂は、エステル結合を有するポリマーであり、主に、多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合体である。用いられる多価カルボン酸は、主に2価のジカルボン酸が用いられ、たとえば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチルなどがある。また、用いられる多価アルコールも主に2価のジオールが用いられ、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。具体的な樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレート、などが挙げられる。これらのブレンド樹脂や、共重合体も好適に用いることができる。
【0032】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、好ましくはノルボルネン系樹脂が用いられる。環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、たとえば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、およびこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびにそれらの水素化物などが挙げられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0033】
環状ポリオレフィン系樹脂としては種々の製品が市販されている。具体例としては、Topas(登録商標)(Ticona社製)、アートン(登録商標)(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)(日本ゼオン(株)製)、アペル(登録商標)(三井化学(株)製)が挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリル系樹脂としては、任意の適切な(メタ)アクリル系樹脂を採用し得る。たとえば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(たとえば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)が挙げられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂として、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
【0035】
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートなどが挙げられる。また、これらの共重合物や、水酸基の一部を他種の置換基などで修飾された物なども挙げられる。これらの中でも、セルローストリアセテートが特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例としては、フジタック(登録商標)TD80(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UF(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UZ(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD40UZ(富士フィルム(株)製)、KC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
【0036】
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合されたポリマーからなるエンジニアリングプラスチックであり、高い耐衝撃性、耐熱性、難燃性を有する樹脂である。また、高い透明性を有することから光学用途でも好適に用いられる。光学用途では光弾性係数を下げるためにポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、波長依存性を改良した共重合ポリカーボネートなども市販されており、好適に用いることが出来る。このようなポリカーボネート樹脂は広く市販されており、たとえば、パンライト(登録商標)(帝人化成(株))、ユーピロン(登録商標)(三菱エンジニアリングプラスチック(株))、SDポリカ(登録商標)(住友ダウ(株))、カリバー(登録商標)(ダウケミカル(株))などが挙げられる。
【0037】
基材フィルムには、上記の熱可塑性樹脂の他に、任意の適切な添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、たとえば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、および着色剤などが挙げられる。基材フィルム中の上記にて例示した熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。基材フィルム中の熱可塑性樹脂の含有量が50重量%未満の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性等が十分に発現されないおそれがあるからである。
【0038】
基材フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層との密着性を向上させるために、少なくとも樹脂層が形成される側の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等を行ったものであってもよい。また密着性を向上させるために、基材フィルムのポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層が形成される側の表面に、プライマー層等の薄層を設けてもよい。
【0039】
(プライマー層)
プライマー層としては、基材フィルムとポリビニルアルコール系樹脂層との両方にある程度強い密着力を発揮する材料であれば特に限定されない。たとえば、透明性、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑樹脂が用いられる。具体的にはアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0040】
プライマー層を構成する樹脂は、溶媒に溶解した状態で用いてもよい。樹脂の溶解性により、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル類、塩化メチレン、トリクロロエチレン、クロロホルムの如き塩素化炭化水素類、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類など、一般的な有機溶媒を用いることもできる。ただ、有機溶媒を含む溶液を用いてプライマー層を形成すると基材を溶解させてしまうこともあるので、基材の溶解性も考慮して溶媒を選択するのが好ましい。環境への影響を考慮すると水を溶媒とする塗工液からプライマー層を形成するのが好ましい。中でも、密着性がよいポリビニルアルコール系樹脂は好ましく用いられる。
【0041】
プライマー層として使用されるポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール樹脂およびその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものが挙げられる。上述のポリビニルアルコール系樹脂材料の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるのが好ましい。
【0042】
プライマー層の強度を上げるために上記の熱可塑性樹脂に架橋剤を添加してもよい。樹脂に添加する架橋剤は、有機系、無機系など公知のものを使用することができる。使用する熱可塑性樹脂に対して、より適切なものを適宜選択すればよい。たとえば、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系の架橋剤を選択することができる。エポキシ系の架橋剤としては、一液硬化型のものや二液硬化型のもののいずれも用いることができる。エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジまたはトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等のエポキシ類が挙げられる。
【0043】
イソシアネート系の架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのケトオキシムブロック物またはフェノールブロック物等のイソシアネート類が挙げられる。
【0044】
ジアルデヒド系の架橋剤としては、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒド等が挙げられる。
【0045】
金属系の架橋剤としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物が挙げられ、金属の種類は特に限定されず適宜選択すればよい。金属塩、金属酸化物、金属水酸化物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル、ジルコニウム、チタン、珪素、ホウ素、亜鉛、銅、バナジウム、クロム、スズ等の二価以上の原子価を有する金属の塩及びその酸化物、水酸化物が挙げられる。
【0046】
有機金属化合物とは金属原子に、直接有機基が結合しているか、または、酸素原子や窒素原子などを介して有機基が結合している構造を、分子内に少なくとも1個有する化合物である。有機基とは、少なくとも炭素元素を含む官能基を意味し、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アシル基などであることができる。また、結合とは共有結合だけを意味するものではなく、キレート状化合物などの配位による配位結合であってもよい。
【0047】
上記金属有機化合物の好適な例としては、チタン有機化合物、ジルコニウム有機化合物、アルミニウム有機化合物、および珪素有機化合物が挙げられる。これら金属有機化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
上記チタン有機化合物の具体例としては、例えば、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等のチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタンキレート類;ポリヒドロキシチタンステアレート等のチタンアシレート類等が挙げられる。
【0049】
上記ジルコニウム有機化合物の具体例としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0050】
上記アルミニウム有機化合物の具体例としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウム有機酸キレート等が挙げられる。上記珪素有機化合物の具体例としては、例えば、上述したチタン有機化合物およびジルコニウム有機化合物で例示した配位子を有する化合物が挙げられる。
【0051】
上記の低分子架橋剤の他にも、メチロール化メラミン樹脂やポリアミドエポキシ樹脂などの高分子系の架橋剤なども用いることができる。かかるポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズ(登録商標)レジン650(30)」や「スミレーズ(登録商標)レジン675」(いずれも商品名)などがある。
【0052】
熱可塑性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン、ジアルデヒド、金属キレート架橋剤などが特に好ましい。
【0053】
プライマー層を形成するために用いる熱可塑性樹脂と架橋剤の割合は、樹脂100重量部に対して、架橋剤0.1〜100重量部程度の範囲から、樹脂の種類や架橋剤の種類などに応じて適宜決定すればよく、とりわけ0.1〜50重量部程度の範囲から選択するのが好ましい。また、プライマー層用塗工液は、その固形分濃度が1〜25重量%程度となるようにするのが好ましい。
【0054】
プライマー層の厚みは、0.05〜1μmが好ましい。さらに好ましくは0.1〜0.4μmである。0.05μmより薄くなると基材フィルムとポリビニルアルコール層との密着力向上の効果が小さく、1μmより厚くなると、延伸フィルム、さらにはこれを用いて作製する偏光性積層フィルムおよび偏光板が厚くなるため好ましくない。
【0055】
[延伸フィルムの製造方法]
図1は、本発明の延伸フィルムの製造方法の概要を示すフローチャートである。本発明の延伸フィルムの製造方法は、基材フィルムの一方の面に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程(S10)と、積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程(S20)と、を有する。以下、図1におけるS10〜S20の各工程について、詳しく説明する。
【0056】
<樹脂層形成工程(S10)>
ここでは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成する。基材フィルムに適した材料は、上述の延伸フィルムの構成の説明で述べた通りである。なお、基材フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の延伸に適した温度範囲で延伸できるようなものを用いることが好ましい。延伸前の基材フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性の点から、好ましくは1〜500μm、より好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは5〜200μmである。
【0057】
樹脂層形成工程(S10)で形成される樹脂層の厚み、すなわち延伸前の樹脂層の厚みは、3μm超かつ60μm以下が好ましい。60μmを超えると、最終的に得られる延伸後の樹脂層の厚みが10μmを超えてしまうことがあり好ましくない。
【0058】
本発明における樹脂層は、好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒に溶解させて得たポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムの一方の表面上に塗工し、溶剤を蒸発させることにより形成される。樹脂層をこのように形成することにより、薄く形成することが可能となる。樹脂層に適した材料等は、上述の延伸フィルムの構成の説明で述べた通りである。ポリビニルアルコール系樹脂溶液を基材フィルムに塗工する方法としては、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを公知の方法から適宜選択して採用できる。乾燥温度は、たとえば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。乾燥時間は、たとえば2〜20分である。
【0059】
なお、本発明における樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを基材フィルムの一方の表面上に貼着することにより形成することも可能である。
【0060】
また、基材フィルムと樹脂層との密着性を向上させるために、基材フィルムとポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層との間にプライマー層を設けてもよい。プライマー層は、ポリビニルアルコール系樹脂および架橋剤などを含有する組成物で形成されることが、密着性の観点から好ましい。プライマー層に適した材料等は、上述の延伸フィルムの構成の説明で述べた通りである。プライマー層の形成にあたり、使用する塗工方式は特に制限されるものでなく、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、などを公知の方法から適宜選択して採用できる。
【0061】
<延伸工程(S20)>
ここでは、基材フィルムおよび樹脂層からなる積層フィルムを延伸し延伸フィルムを得る。好ましくは、5倍超かつ17倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。さらに好ましくは5倍超かつ8倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。延伸倍率が5倍以下だと、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層が十分に配向しないため、偏光性積層フィルムまたは偏光板を得る際に、樹脂層を染色して得られる偏光子層の偏光度が十分に高くならない不具合を生じることがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると延伸時の積層フィルムの破断が生じ易くなると同時に、延伸フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性・ハンドリング性が低下するおそれがある。延伸工程(S20)における延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行なうこともできる。多段で行なう場合は、延伸処理の全段を合わせて好ましくは5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行なう。
【0062】
延伸工程(S20)においては、積層フィルムの長手方向に対して行なう縦延伸処理や、幅方向に対して延伸する横延伸処理などを実施することができる。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、圧縮延伸方法などが挙げられ、横延伸方式としてはテンター法などが挙げられる。
【0063】
また、延伸処理は、湿潤式延伸方法と乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、積層フィルムを延伸する際の温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
【0064】
[偏光性積層フィルムの製造方法]
図2は、本発明の偏光性積層フィルムの製造方法の概要を示すフローチャートである。本発明の偏光性積層フィルムの製造方法は、基材フィルムの一方の面に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程(S10)と、積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程(S20)と、延伸フィルムの樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成する染色工程(S30)とを有する。
【0065】
以上の工程を経て、基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光性積層フィルムが得られる。この偏光性積層フィルムは、たとえば、感圧式接着剤を介して他の光学フィルムや液晶セルに貼り合わせるなどして用いたり、後述する偏光板の製造に用いることができる。
【0066】
以下、各工程について詳しく説明する。樹脂層形成工程(S10)と延伸工程(S20)は、上記の延伸フィルムの製造方法と同様の工程であるので説明を省略する。
【0067】
<染色工程(S20)>
ここでは、延伸フィルムの樹脂層を、二色性色素で染色する。二色性色素としては、たとえば、ヨウ素や有機染料などが挙げられる。有機染料としては、たとえば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックなどが使用できる。これらの二色性物質は、一種類でも良いし、二種類以上を併用して用いても良い。
【0068】
染色工程は、たとえば、上記二色性色素を含有する溶液(染色溶液)に、延伸フィルム全体を浸漬することにより行う。染色溶液としては、上記二色性色素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色溶液の溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されても良い。二色性色素の濃度としては、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.02〜7重量%であることがより好ましく、0.025〜5重量%であることが特に好ましい。
【0069】
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率をより一層向上できることから、さらにヨウ化物を添加することが好ましい。このヨウ化物としては、たとえば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンなどが挙げられる。これらヨウ化物の添加割合は、染色溶液において、0.01〜20重量%であることが好ましい。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムの割合は重量比で、1:5〜1:100の範囲にあることが好ましく、1:6〜1:80の範囲にあることがより好ましく、1:7〜1:70の範囲にあることが特に好ましい。
【0070】
染色溶液への延伸フィルムの浸漬時間は、10秒〜5分間の範囲であることが好ましく、30秒〜3分間であることがより好ましい。本発明においては、上述の通り、式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を有する延伸フィルムを用いることにより、上述の浸漬時間であっても十分に樹脂層を染色することができる。また、染色溶液の温度は、10〜60℃の範囲にあることが好ましく、20〜40℃の範囲にあることがより好ましい。
【0071】
染色工程において、染色に次いで架橋処理を行うことが出来る。架橋処理は、たとえば架橋剤を含む溶液(架橋溶液)中に延伸フィルムを浸漬することにより行なうことができる。架橋剤としては、従来公知の物質を使用することができる。たとえば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物や、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどが挙げられる。これらは一種類でも良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0072】
架橋溶液として、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、たとえば水が使用できるが、さらに、水と相溶性のある有機溶媒を含んでも良い。架橋溶液における架橋剤の濃度は、これに限定されるものではないが、1〜20重量%の範囲にあることが好ましく、6〜15重量%であることがより好ましい。
【0073】
架橋溶液中には、ヨウ化物を添加してもよい。ヨウ化物の添加により、樹脂層の面内における偏光特性をより均一化させることができる。ヨウ化物としては、たとえば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。ヨウ化物の含有量は、0.05〜15重量%、より好ましくは0.5〜8重量%である。
【0074】
架橋溶液への延伸フィルムの浸漬時間は、通常、15秒〜20分間であることが好ましく、30秒〜15分間であることがより好ましい。また、架橋溶液の温度は、10〜90℃の範囲にあることが好ましい。
【0075】
最後に洗浄工程および乾燥工程を行なうことが好ましい。洗浄工程としては、水洗浄処理を施すことができる。水洗浄処理は、通常、イオン交換水、蒸留水などの純水に延伸フィルムを浸漬することにより行なうことができる。水洗浄温度は、通常3〜50℃、好ましくは4℃〜20℃の範囲である。浸漬時間は通常2〜300秒間、好ましくは3秒〜240秒間である。
【0076】
洗浄工程は、ヨウ化物溶液による洗浄処理と水洗浄処理を組み合わせてもよく、適宜にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、プロパノール等の液体アルコールを配合した溶液を用いることもできる。
【0077】
洗浄工程の後に、乾燥工程を施すことが好ましい。乾燥工程として、任意の適切な方法(たとえば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥)を採用しうる。たとえば、加熱乾燥の場合の乾燥温度は、通常、20〜95℃であり、乾燥時間は、通常、1〜15分間程度である。以上の染色工程(S30)により、樹脂層が偏光子としての機能を有することになる。本明細書においては、偏光子としての機能を有する樹脂層を偏光子層といい、基材フィルム上に偏光子層を備えた積層体を偏光性積層フィルムという。
【0078】
(偏光子層)
偏光子層は、具体的には、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層に二色性色素を吸着配向させたものである。偏光子層の厚さ(延伸後の樹脂層の厚さ)は、上述の通り10μm以下であり、好ましくは7μm以下である。偏光子層の厚さを10μm以下とすることにより、薄型の偏光性積層フィルムを構成することができる。
【0079】
[偏光板の製造方法]
図3は、本発明の偏光板の製造方法の概要を示すフローチャートである。本発明の偏光板の製造方法は、基材フィルムの一方の面に、ポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程(S10)と、積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程(S20)と、延伸フィルムの樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成する染色工程(S30)とをこの順番に実施し偏光性積層フィルムを作製した後、偏光性積層フィルムの偏光子層の基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程(S40)と、多層フィルムから基材フィルムを剥離する剥離工程(S50)とをこの順に備える。
【0080】
以上の工程を経て、保護フィルムと、保護フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光板が得られる。この偏光板は、たとえば、感圧式接着剤を介して他の光学フィルムや液晶セルに貼り合わせるなどして用いることができる。
【0081】
<貼合工程(S40)>
ここでは、偏光性積層フィルムの偏光子層の基材フィルムと反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る。保護フィルムを貼合する方法としては、粘着剤層で偏光子層と保護フィルムを貼合する方法、接着剤層で偏光子層面と保護フィルムを貼合する方法が挙げられる。
【0082】
(保護フィルム)
保護フィルムは、光学機能を有さない単なる保護フィルムであってもよく、または位相差フィルムや輝度向上フィルムといった光学機能を併せ持つ保護フィルムであってもよい。
【0083】
保護フィルムの材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂フィルム、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロースのような樹脂からなる酢酸セルロース系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのような樹脂からなるポリエステル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルムなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルムを挙げることができる。
【0084】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、適宜の市販品、例えば、Topas(登録商標)(Ticona社製)、アートン(登録商標)(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(登録商標)(ZEONEX)(日本ゼオン(株)製)、アペル(登録商標)(三井化学(株)製)を好適に用いることができる。このような環状ポリオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、エスシーナ(登録商標)(積水化学工業(株)製)、SCA40(積水化学工業(株)製)、ゼオノア(登録商標)フィルム((株)オプテス製)などの予め製膜された環状ポリオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
【0085】
環状ポリオレフィン系樹脂フィルムは、一軸延伸又は二軸延伸されたものであってもよい。延伸することで、環状ポリオレフィン系樹脂フィルムに任意の位相差値を付与することができる。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行われ、加熱炉にて、ロールの進行方向、その進行方向と垂直の方向、またはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、環状ポリオレフィン系樹脂のガラス転移温度近傍からガラス転移温度+100℃までの範囲である。延伸の倍率は、一つの方向につき通常1.1〜6倍、好ましくは1.1〜3.5倍である。
【0086】
酢酸セルロース系樹脂フィルムとしては、適宜の市販品、たとえば、フジタック(登録商標)TD80(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UF(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UZ(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD40UZ(富士フィルム(株)製)、KC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)を好適に用いることができる。
【0087】
酢酸セルロース系樹脂フィルムの表面には、視野角特性を改良するために液晶層などを形成してもよい。また、位相差を付与するため酢酸セルロース系樹脂フィルムを延伸させたものでもよい。酢酸セルロース系樹脂フィルムは、偏光子層との接着性を高めるため、通常はケン化処理が施される。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が採用できる。
【0088】
上述したような保護フィルムの表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層などの光学層を形成することもできる。保護フィルム表面にこれらの光学層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0089】
保護フィルムの厚さは、薄型化の要求から、できるだけ薄いものが好ましく、90μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。逆に薄すぎると強度が低下して加工性に劣るため、5μm以上であることが好ましい。
【0090】
(粘着剤層)
粘着剤層を構成する粘着剤は、通常、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂などをベースポリマーとし、そこに、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物などの架橋剤を加えた組成物からなる。さらに、粘着剤中に微粒子を配合して、光散乱性を示す粘着剤層を形成することもできる。
【0091】
粘着剤層の厚さは1〜40μmであることが好ましいが、加工性、耐久性の特性を損なわない範囲で、薄く塗るのが好ましく、より好ましくは3〜25μmである。3〜25μmであると良好な加工性を有し、かつ偏光フィルムの寸法変化を押さえる上でも好適な厚みである。粘着剤層が1μm未満であると粘着性が低下し、40μmを超えると粘着剤がはみ出すなどの不具合を生じ易くなる。
【0092】
偏光子層上または保護フィルム上に粘着剤層を形成する方法は特に限定されるものではなく、偏光子層上または保護フィルム上に上記したベースポリマーをはじめとする各成分を含む溶液を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した後、セパレーターや他種のフィルムと貼り合わせてもよいし、セパレータ上に粘着剤層を形成した後、偏光子層面もしくは保護フィルム面に貼り付けて積層してもよい。また、粘着剤層を偏光子層もしくは保護フィルムに形成する際には必要に応じて偏光子層面もしくは保護フィルム面、または粘着剤層の片方若しくは両方に密着処理、たとえば、コロナ処理等を施してもよい。
【0093】
(接着剤層)
接着剤層を構成する接着剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などを用いた水系接着剤が挙げられる。中でもポリビニルアルコール系樹脂水溶液が好適に用いられる。接着剤として用いるポリビニルアルコール系樹脂には、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるビニルアルコール系共重合体、さらにはそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などがある。水系接着剤には、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などが添加剤として添加されてもよい。このような水系の接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層は、通常1μmよりもはるかに薄く、通常の光学顕微鏡で断面を観察しても、その接着剤層は事実上観察されない。
【0094】
水系接着剤を用いたフィルムの貼合方法は特に限定されるものではなく、偏光子層または保護フィルムの表面に接着剤を均一に塗布、または、流し込み、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロールなどにより貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、接着剤は、その調製後、15〜40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常15〜30℃の範囲である。
【0095】
水系接着剤を使用する場合は、フィルムを貼合した後、水系接着剤中に含まれる水を除去するため、乾燥させる。乾燥炉の温度は、30℃〜90℃が好ましい。30℃未満であると接着面が剥離しやすくなる傾向がある。90℃以上であると熱によって偏光子などが光学性能が劣化するおそれがある。乾燥時間は10〜1000秒とすることができる。
【0096】
乾燥後はさらに、室温またはそれよりやや高い温度、たとえば、20〜45℃程度の温度で12〜600時間程度養生しても良い。養生のときの温度は、乾燥時に採用した温度よりも低く設定されるのが一般的である。
【0097】
また、非水系の接着剤として、光硬化性接着剤を用いることもできる。光硬化性接着剤としては、たとえば、光硬化性エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤との混合物などを挙げることができる。
【0098】
光硬化性接着剤にてフィルム貼合する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法などにより、フィルムの接着面に接着剤を塗布し、2枚のフィルムを重ね合わせる方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物である2枚のフィルムを、概ね垂直方向、概ね水平方向、または両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。
【0099】
偏光子層または保護フィルムの表面に接着剤を塗布した後、偏光性積層フィルムと保護フィルムとをニップロールなどで挟んでフィルム貼り合わせることにより接着される。また、この積層体をロール等で加圧して均一に押し広げる方法も好適に使用することができる。この場合、ロールの材質としては金属やゴム等を用いることが可能である。さらに、この積層体をロールとロールとの間に通し、加圧して押し広げる方法も好ましく採用される。この場合、これらロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。上記ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層の、乾燥または硬化前の厚さは、5μm以下かつ0.01μm以上であることが好ましい。
【0100】
偏光子層と保護フィルムの接着面には、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を適宜施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0101】
接着剤として光硬化性樹脂を用いた場合は、フィルムを積層後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
【0102】
光硬化性接着剤への光照射強度は、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cm2であることが好ましい。照射強度が0.1mW/cm2以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm2以下である場合、光源から輻射される熱および光硬化性接着剤の硬化時の発熱によるエポキシ樹脂の黄変や偏光フィルムの劣化を生じるおそれが少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤に応じて適用されるものであって特に限定されないが、上記の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cm2以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm2以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚さは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上でかつ2μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上でかつ1μm以下である。
【0103】
活性エネルギー線の照射によって偏光子層や保護フィルム上の光硬化性接着剤を硬化させる場合、これらフィルムの透過率、色相、透明性など、全工程を経た後の偏光板の諸機能が低下しない条件で硬化を行うことが好ましい。
【0104】
<剥離工程(S50)>
本発明の偏光板の製造方法では、図3に示すように、保護フィルムを偏光子層に貼合する貼合工程(S40)の後、基材フィルムの剥離工程(S50)を行なう。基材フィルムの剥離工程(S50)では、基材フィルムを多層フィルムから剥離する。基材フィルムの剥離方法は特に限定されるものではなく、通常の粘着剤付偏光板で行なわれる剥離フィルムの剥離工程と同様の方法で剥離できる。保護フィルムの貼合工程(S40)の後、そのまますぐ剥離してもよいし、一度ロール状に巻き取った後、別に剥離工程を設けて剥離してもよい。
【0105】
(他の光学層)
上記偏光板は、実用に際して他の光学層を積層した偏光板として用いることができる。また、上記保護フィルムがこれらの光学層の機能を有していてもよい。
【0106】
他の光学層の例としては、ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルム、表面に凹凸形状を有する防眩機能付きフィルム、表面反射防止機能付きフィルム、表面に反射機能を有する反射フィルム、反射機能と透過機能とを併せ持つ半透過反射フィルム、視野角補償フィルムが挙げられる。
【0107】
ある種の偏光光を透過し、それと逆の性質を示す偏光光を反射する反射型偏光フィルムに相当する市販品としては、例えばDBEF(3M社製、住友スリーエム(株)から入手可能)、APF(3M社製、住友スリーエム(株)から入手可能)が挙げられる。視野角補償フィルムとしては基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向されている光学補償フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなる位相差フィルム、環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムが挙げられる。基材表面に液晶性化合物が塗布され、配向されている光学補償フィルムに相当する市販品としては、WVフィルム(富士フィルム(株)製)、NHフィルム(新日本石油(株)製)、NRフィルム(新日本石油(株)製)などが挙げられる。また、環状ポリオレフィン系樹脂からなる位相差フィルムに相当する市販品としては、アートン(登録商標)フィルム(JSR(株)製)、エスシーナ(登録商標)(積水化学工業(株)製)、ゼオノア(登録商標)フィルム((株)オプテス製)などが挙げられる。
【0108】
(両面樹脂層積層フィルム)
本発明にかかる延伸フィルム、偏光性積層フィルムおよび偏光板の製造方法は、樹脂層形成工程(S10)での樹脂層の形成が、基材フィルムの一方の表面上に形成される場合のみでなく、基材フィルムの両方の表面上に形成される場合も含まれる。
【0109】
両方の表面上に樹脂層が形成される場合、偏光板の製造方法においては、S10〜S50の各工程を経て2枚の偏光板が形成される。この場合、貼合工程(S40)を経て、第1保護フィルム/第1偏光子層/基材フィルム/第2偏光子層/第2保護フィルムからなる多層フィルムが得られる。
【0110】
基材フィルムの両方の表面上に樹脂層が形成される場合、多層フィルムから基材フィルムを剥離して偏光板を得る剥離工程(S50)とは、多層フィルムを、第1偏光子層と基材フィルムとの間で剥離により分離する第1剥離工程と、分離された一方である基材フィルム/第2偏光子層/第2保護フィルムからなる積層体を基材フィルムと第2偏光子層との間で剥離により分離する第2剥離工程とを含む。第1剥離工程により第1偏光板が形成され、第2剥離工程により第2偏光板が形成される。
【実施例】
【0111】
[実施例1の偏光板の製造]
<基材フィルムの作製>
エチレンユニットを5重量%含むプロピレン/エチレンのランダム共重合体(“住友ノーブレン W151”;Tm=138℃)の両側にプロピレンの単独重合体であるホモポリプロピレン(“住友ノーブレンFLX80E4”;Tm=163℃)を配置した3層膜を多層押し出し機で作製して基材フィルムとした。各層の厚み比は、3/4/3とした。かかる基材フィルムのトータルの厚みは90μmであった。
【0112】
<プライマー層の形成>
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製、平均重合度1100、ケン化度99.5モル%、商品名:Z−200)を95℃の熱水に溶解させ濃度3重量%の水溶液を調整した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製、商品名:スミレーズ(登録商標)レジン650)をポリビニルアルコール粉末6重量部に対して5重量部を混ぜた。得られた混合水溶液をコロナ処理を施した基材フィルム上にマイクログラビアコーターを用いて塗工し、80℃で10分間乾燥させ厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
【0113】
<樹脂層形成工程(S10)>
ポリビニルアルコール粉末にJM−33(日本合成化学工業(株)製、平均重合度3300、ケン化度93.5〜95.5モル%)を用いて、これを95℃の熱水中に溶解させ濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調整した。得られた水溶液を上記プライマー層の上にリップコーターを用いて塗工し、連続して80℃で2分、70℃で2分、60℃で4分間乾燥させ、基材フィルム、プライマー層、樹脂層からなる三層の積層フィルムを作成した。
【0114】
<延伸工程(S20)>
積層フィルムを160℃の延伸温度で5.8倍に自由端縦一軸延伸し、延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの樹脂層の厚みは4.1μmであった。
【0115】
<染色工程(S30)>
その後、30℃のヨウ素とヨウ化カリウムの混合水溶液(ヨウ素濃度0.6重量%、ヨウ化カリウム濃度10重量%)である染色溶液に浸漬して染色した後、10℃の純水で余分なヨウ素液を洗い流した。次いで76℃のホウ酸とヨウ化カリウムの混合水溶液である架橋溶液に浸漬させた。その後10℃の純水で4秒間洗浄し、最後に80℃で300秒間乾燥させた。以上の工程により樹脂層から偏光子層を形成し、偏光性積層フィルムを得た。
【0116】
<貼合工程(S40)>
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製、平均重合度1800、商品名:KL−318)を95℃の熱水に溶解させ濃度3重量%の水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(住友化学(株)製、商品名:スミレーズ(登録商標)レジン650)をポリビニルアルコール粉末2重量部に対して1重量部を混ぜて接着剤溶液とした。このポリビニルアルコール系接着剤を偏光性積層フィルムの偏光子層に塗布した後に保護フィルム(コニカミノルタオプト(株)製のTAC:KC4UY)を貼合し、保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層/基材フィルムからなる多層フィルムを得た。
【0117】
<剥離工程(S50)>
多層フィルムから基材フィルムを剥離し、保護フィルム/接着剤層/偏光子層/プライマー層から成る偏光板を得た。基材フィルムはその多層フィルムから容易に剥離された。
【0118】
<偏光性能の測定>
上述のようにして得られた偏光板を感圧式接着剤を介してガラス板に貼り付けて、50℃、5kg/cm(490.3kPa)で20分間オートクレーブ処理した後、光学特性を積分球付き分光光度計(日本分光(株)製、V7100)にて測定した。波長380nm〜780nmの範囲においてMD透過率とTD透過率を求め、以下に表す式(3)、式(4)に基づいて各波長における単体透過率、偏光度を算出し、さらにJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行い、視感度補正単体透過率(Ty)および視感度補正偏光度(Py)を求めた。なお、偏光板の測定は保護フィルム側をディテクター側とし、プライマー層側から光が入光するように機器にセットした。
【0119】
単体透過率(%)=(MD+TD)/2 ・・・・式(3)
偏光度(%)=√{(MD−TD)/(MD+TD)}×100 ・・・・式(4)
「MD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光板サンプルの透過軸を平行にしたときの透過率であり、式(3)、式(4)においては「MD」と表す。また、「TD透過率」とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光板サンプルを透過軸を直交にしたときの透過率であり、式(3)、式(4)においては「TD」と表す。
【0120】
染色工程(S30)においては、染色溶液への浸漬時間を種々試した。視感度補正単体透過率(Ty)40.5%、視感度補正偏光度(Py)99.99%以上である偏光板を得るために、染色溶液への浸漬に要した時間は26秒であった。
【0121】
[実施例2の偏光板の製造]
樹脂層の形成時に使用したポリビニルアルコール粉末がJM−26(日本合成化学工業(株)製、平均重合度2600、ケン化度95.5〜97.5モル%)であること以外は実施例1と同じ方法により偏光板を作成した。得られた延伸フィルムの樹脂層の厚みは4.7μmであった。
【0122】
視感度補正単体透過率(Ty)40.5%、視感度補正偏光度(Py)99.99%以上の偏光板を得るために、染色溶液への浸漬に要した時間は62秒であった。
【0123】
[比較例1の偏光板の製造]
樹脂層の形成時に使用したポリビニルアルコール粉末がPVA624(クラレ(株)製、平均重合度2400、ケン化度95〜96モル%)であること以外は実施例1と同じ方法により偏光板を作成した。得られた延伸フィルムの樹脂層の厚みは4.4μmであった。染色工程では、樹脂層が染色される前に溶解してしまい、偏光板を作製することができなかった。
【0124】
[比較例2の偏光板の製造]
樹脂層の形成に使用したポリビニルアルコール粉末がPVA124(クラレ(株)製、平均重合度2400、ケン化度98〜99モル%)であること以外は実施例1と同じ方法により偏光板を作成した。得られた延伸フィルムの樹脂層の厚みは5.4μmであった。視感度補正単体透過率(Ty)40.5%、視感度補正偏光度(Py)99.99%以上の偏光板を得るために、染色溶液への浸漬に要した時間は330秒であった。
【0125】
以上の結果を表1に示す。表1においては、各実施例および比較例の樹脂層形成時に使用したポリビニルアルコールの種類と、視感度補正単体透過率(Ty)40.5%、視感度補正偏光度(Py)99.99%以上の偏光板を得るために、染色溶液への浸漬に要した時間と、耐水性の評価結果を示す。耐水性については、染色工程での浸漬中に樹脂層の溶解が観察されなかった場合は「あり」、かかる時間内に樹脂層の溶解が観察された場合は「なし」として評価した。
【0126】
【表1】

【0127】
図4は、表1に示す結果をプロットした図である。図4においては、樹脂層の形成に使用したPVAのケン化度の中心値を横軸に示し、平均重合度を縦軸に示す。図4において、式(1)または式(2)を満たす範囲Aは白色で示し、式(1)および式(2)いずれをも満たさない範囲B1,B2はハッチングを付して示した。
【0128】
図4に示すように、式(1)または式(2)を満たす範囲Aに含まれる場合(実施例1,2)は、染色工程において、所望の偏光性能を得るために要する染色溶液への浸漬時間が短く、また耐水性にも優れる。式(1)を満たさず、平均重合度の点で式(2)を満たさない範囲B1に含まれる場合(比較例1)は、耐水性が十分でなく、染色工程において樹脂層が染色溶液に溶解しやすい。ケン化度の点で、式(1)および式(2)いずれをも満たさない範囲B2に含まれる場合(比較例2)は、染色工程において、所望の偏光性能を得るために要する染色溶液への浸漬時間が長くなる。
【0129】
偏光性積層フィルムおよび偏光板の偏光性能は、視感度補正単体透過率(Ty)が40%以上であることが好ましく、視感度補正偏光度(Py)が99.9%以上であることが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の樹脂層とを備え、
前記樹脂層は、ケン化度(モル%)および平均重合度が以下の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなり延伸されている、延伸フィルム。
96モル%<ケン化度≦98モル% (1)
93モル%≦ケン化度≦96モル% かつ 平均重合度≧2500 (2)
【請求項2】
前記樹脂層が、5倍超の延伸倍率で一軸延伸されている、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の延伸フィルムの製造方法であって、
前記基材フィルムの一方の面に、ケン化度(モル%)および平均重合度が以下の式(1)または式(2)の関係を満たすポリビニルアルコール系樹脂からなる樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程と、
前記積層フィルムを一軸延伸して延伸フィルムを得る延伸工程と、を有する、延伸フィルムの製造方法。
96モル%<ケン化度≦98モル% (1)
93モル%≦ケン化度≦96モル% かつ 平均重合度≧2500 (2)
【請求項4】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光性積層フィルムの製造方法であって、
請求項3に記載の製造方法により延伸フィルムを製造した後、
前記延伸フィルムの前記樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成する染色工程を有する、偏光性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
保護フィルムと、前記保護フィルムの一方の面に形成されている厚さ10μm以下の偏光子層とを備える偏光板の製造方法であって、
請求項4に記載の製造方法により偏光性積層フィルムを製造した後、
前記偏光性積層フィルムにおける前記偏光子層の前記基材フィルム側の面とは反対側の面に保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る貼合工程と、
前記多層フィルムから前記基材フィルムを剥離する剥離工程と、を有する、偏光板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68804(P2013−68804A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207456(P2011−207456)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】