説明

延伸フィルム及び延伸フィルムの製造方法、並びに位相差板

【課題】配向軸の傾斜角度が種々変更でき、偏光板との貼り合わせ効率を高め得る延伸フィルムを簡便な設備で製造する方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムを延伸することにより得られ、光軸がフィルムの流れ方向に平行でも垂直でもない方向とされている延伸フィルムの製造方法であって、予め幅方向に対して若干斜交する角度方向に配向した延伸フィルムを、加熱しつつ幅方向に収縮させることにより配向軸の傾斜角度を調整する延伸フィルムの製造方法、及びかかる製造方法による、幅方向に対する配向軸の傾斜角が20〜70度である延伸フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸フィルム及び延伸フィルムの製造方法に関するものであり、特にフィルムのいずれかの辺に対して傾きのある分子配向軸を有し、優れた光学特性を有する延伸フィルム及び延伸フィルムの製造方法に関するものである。また本発明は、このような延伸フィルムによって形成される位相差板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータやテレビジョン受信機用のモニター(ディスプレイ)に代表される液晶表示装置が、種々の表示手段として広く普及している。これらの液晶表示装置において、液晶セルの両側に偏光子を配置し、さらに液晶セルと偏光子の間に位相差フィルムを設けることで表示の視認性を向上させる技術が知られている。
【0003】
ここで位相差フィルムは、液晶表示装置の形状に合わせて長方形に成形される。また液晶表示装置に使用される位相差フィルムの性質として、長方形の各辺に対して斜め方向に分子配向されていることが要求される場合がある。
この様な長方形の各辺に対して斜め方向に分子配向されたフィルムは、従来次の様な工程によって製造されていた。
即ち従来技術においては、まず高分子フィルムを長手方向又は長手方向に直交する方向(以下、幅方向と称する)に一軸延伸させて分子配向を起こした延伸フィルムを生成する。この工程によって製造された延伸フィルムにおいては、分子配向軸は、フィルムの一方の辺に対して平行であり、他方の辺に対しては垂直である。
【0004】
そして次の工程として、フィルムの各辺を斜めに切り取り、長方形のフィルムを成形する。
より具体的には、一軸延伸させて分子配向を起こした延伸フィルムを斜めに打ち抜き、小さめの長方形フィルムを作る。この長方形フィルムは、見かけ上、各辺に対して傾斜した配向軸を持つこととなる。
【0005】
しかしながらこの方法では、高分子フィルムを長手方向に対して傾斜させて打ち抜くので、高分子フィルムの幅方向の端部に使用できない部分が多量に発生し、フィルムの歩留りが悪いという問題があった。
そこで、高分子フィルムを延伸する段階で、斜め方向に分子配向させ、幅方向の端部近傍まで使用可能で歩留りの高い延伸フィルムを作成する方法が望まれていた。そのような方法として特許文献1〜4に開示されている発明等がある。まず、特許文献1について説明する。
【0006】
図6は、特許文献1に開示された図面を転載したものである。ただし説明を容易にするために文字部分は加筆している。
特許文献1に開示されている発明は、フィルム(ポリマーフィルム)の両端を保持し長手方向へ進行させる際に、一方の端の保持開始点108から保持解除点109までの距離L2を他方端の保持開始点から保持解除点までの距離L1に比べて長くするものである。そのことにより、開始時において長手方向(進行方向)の位置が同じである両端の保持位置が、フィルムが長手方向へ進行すると、一方端の保持位置が他方端の保持位置に対して進行方向の後方側にずれることとなる。そのため他方端の保持位置が進行方向後方側へ引っ張られたような状態となり、フィルムを斜め方向に延伸することができる。
【0007】
特許文献1に開示された発明では、一方の端の保持開始点から保持解除点までの距離L1と他方端の保持開始点から保持解除点までの距離L2との差を大きくするため、図6の様にテンターの走行路の一方を大きく迂回させている。
より具体的に説明すると、図6に示すテンターは、一対のレール100,101を有し、両者にそれぞれクリップ(図示せず)が固定されている。そして当該クリップでフィルムの端部を保持し、レールの走行に伴ってクリップを走行方向に移動させる。
【0008】
ここで一般のテンターでは、一対のレール100,101の全長が同一であるが、特許文献1では、レール100,101の全長に差を持たせている。即ち図6の様に、一方のレール101に大きな迂回部103を設け、この迂回部103によって、距離L1とL2に大きな差異を設けている。
より具体的に説明すると、テンターの導入部は、図6の様にレール100,101の走行路は共に直線であり、レール100,101は平行である。
そして導入部を過ぎると、一方のレール100は直線的に走行し続けるが、他方のレール101は、カーブを描いて大きく迂回する。当該エリアが延伸エリアとして機能する。
そしてレール101は迂回路103を過ぎると、直線方向に走行し、一方のレール100と平行に走行する。
図6に示すテンターでフィルムを延伸させると、迂回部103が設けられた延伸エリアで、フィルムが斜め方向に延伸される。
そして迂回部103を過ぎると延伸はそれ以上進まず、配向方向が安定する。即ち特許文献1によると、フィルムの配向軸を傾斜させる部分は迂回部103のみであり、迂回部103を過ぎると配向軸の傾斜角度は変化しない。この様に特許文献1に開示された発明では、フィルムを斜め方向に延伸させる作用によってのみフィルムの配向軸を傾斜させる。
【0009】
しかしながら位相差フィルムには、配向軸の傾斜角度が幅方向に対して45度程度のものが必要な場合がある。この様な大きな配向角度を得るためには、迂回部103を大きくして距離L1とL2に大きな差異を設け、迂回部103で位相差フィルムを実質的に45度方向に斜め延伸する必要がある。
しかしながら、実質的に45度方向に斜め延伸される程度に迂回部103を大きくし、距離L1とL2を大きくすると、フィルムに皺が生じてしまうという問題があった。
そこで特許文献1に開示された発明では、フィルムに予め溶剤を含浸させておき、この状態で、迂回路103を有する延伸エリアでフィルムを斜め方向に延伸し、その後に溶剤を揮発させてフィルムの皺を取ることとしている。
即ち前記した様に、テンターは、レール100,101が平行に走行する導入部と、一方のレール101が迂回する延伸エリアと、再度レール100,101が平行に走行する揮発分蒸発エリアを有している。そして特許文献1に開示された発明では、迂回路103を有する延伸エリアでフィルムを斜め方向に延伸して配向軸の傾斜角度を設け、揮発分蒸発エリアを走行する際にフィルムを加熱して溶剤を揮発させ、フィルムの皺を伸ばす。
即ち迂回路103を有する延伸エリアでフィルムの配向軸を所望の角度まで傾斜させ、その後の揮発分蒸発エリアは、単に皺を取るだけであってフィルムの配向軸の傾斜角度は変化しない。
この様に、特許文献1に開示された発明では、フィルムを斜め方向に延伸するだけで配向軸を傾斜させている。
【0010】
また特許文献2に開示されている発明は、フィルムを横又は縦方向に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で延伸方向とは相違する縦又は横方向に引張延伸することにより、配向軸を前記一軸延伸方向に対して傾斜させている。
【0011】
さらに特許文献3に開示されている発明は、フィルムの幅方向両端を把持手段によって把持し、把持手段の走行距離を幅方向両端で異ならしめ、且つフィルムの走行方向を途中で変更することにより、フィルムの配向軸を幅方向に対して傾斜させている。
【0012】
そして特許文献4に開示されている発明は、フィルムを搬送方向(又は傾斜方向)に延伸又は収縮を規制してから、傾斜方向(長手方向)に延伸又は収縮を規制することによって伸縮比率を変更することで、フィルムが伸縮する方向を変更してフィルムの配向角を調節させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−086554号公報
【特許文献2】特開2000−009912号公報
【特許文献3】特開2007−090532号公報
【特許文献4】特開2007−030466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら特許文献1の方法によると、迂回路103を通過する際にフィルムに大きな負担がかかり、所望の延伸方向以外にもフィルムに応力がかかってしまう場合がある。そのため製造されたフィルムの品質がばらついたり、部分的に所望の方向以外の方向にフィルムが延伸されてしまう場合がある。
即ち特許文献1に開示された発明では、専ら迂回路103を有する延伸エリアでフィルムを斜め方向に延伸し、斜め方向に延伸する作用だけで配向軸を所望の角度まで傾斜させる。そのため延伸時にフィルムに強い力が作用し、延伸方向と垂直方向に縮み方向の応力が作用する等により、フィルムの品質がばらついたり、部分的に所望の方向以外の方向にフィルムが延伸されてしまう場合がある。
【0015】
また、特許文献1でも指摘される様に斜め方向に強く延伸するとフィルムに皺が発生する。特許文献1の方策によって、皺は幾分改善されるものの、特許文献1の方策は、一旦発生した皺を伸ばすものに過ぎず、皺の発生による品質低下は否めない。
また特許文献1に開示された方法は、揮発分を多量に含有させるため、水や溶剤を浸漬させる浸漬槽が必要になるなど設備が大がかりとなる。
さらに特許文献1に開示された方法は、溶剤を蒸発させる工程が必須であるから、溶剤を排気する排気設備や、溶剤中毒を防ぐための防護策が必要となる。
【0016】
そして特許文献2の方法では、左右の搬送速度差をつけることによりフィルムにツレシワ、フィルム寄りが発生してしまうことにより、望ましい配向軸の傾斜角度(例えば45度)が得られないという問題がある。
【0017】
また特許文献3の方法によると、フィルム走行方向を変更するために設備が大規模なものになってしまい、設備コストが増大するという問題がある。
【0018】
そしてまた特許文献4の方法によると、作成した延伸フィルムを位相差フィルムとして用いた場合、二軸性が極めて高くなってしまうという問題がある。即ち、延伸フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが一般的な位相差板に求められる下記式(1):
0.5≦(nx−nz)/(nx−ny)≦2 ・・・(1)
の関係を満たすことができないという問題がある。
【0019】
そこで本発明は従来技術の上記した問題点に注目し、延伸フィルムの分子の配向軸の傾斜角度が種々変更可能であり、簡便な設備で製造可能であり、さらに安定した品質の延伸フィルム製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、長尺状のフィルムであって、配向軸の傾斜角度が幅方向に対して5度以上20度未満にプレ延伸されたプレ延伸フィルムの幅方向両端を保持し、当該プレ延伸フィルムを加熱して熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていくことを特徴とする延伸フィルムの製造方法である。
【0021】
本発明では、熱収縮により配向軸を目的とする角度に傾ける前に、前もってより緩やかな角度に配向軸を傾斜させるプレ延伸の工程を有する。
そのことにより、配向軸を変更する際に高分子フィルムにかかる負担を分担することができる。したがって、高分子フィルム配向軸を一度に急激に傾けた場合に比べて、配向軸をより大きな角度まで傾斜させることができる。加えて、高分子フィルムの性質を段階的に変化させることができるので、製造された延伸フィルムの品質の均一化が容易である。
さらに本発明では、高分子フィルムを熱収縮させて配向軸の傾斜角度を急なものとする。
以下、この原理を説明する。
例えば、図4の様に幅方向に延伸されたフィルム105であって、且つ配向軸(矢印)に傾斜角度が無いフィルム105を使用し、この幅Wを図4(a)から図4(b)の様に縮めた場合を想定すると、図4に示すように、分子の配向軸の傾斜角度は何ら変化しない。
しかしながら、図5に示す様な幅方向に延伸されたフィルム106であって、且つ配向軸(矢印)が僅かに傾斜したフィルム106を使用し、このフィルム106の幅Wを図5(a)から図5(b)の様に縮めた場合を想定すると、図5の様に配向軸の傾斜角度Aが急角度になる。
即ち当初のフィルム106の傾斜方向は、図5(a)の矢印a−b,c−d,e−f・・・で図示される方向である。
そして例えば、図5(a)のa点、b点、c点、d点・・・を保持し、フィルム106の幅Wを縮めると、図5(a)のa点、b点、c点、d点・・・の長手方向の位置が変化しないので、図5(b)の様に、配向軸の方向が寝る方向となり、傾斜角度Aが急角度になる。
従って、小さい傾斜角度でプレ延伸されたプレ延伸フィルムの幅方向両端を保持し、当該プレ延伸フィルムを加熱して熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めて行くと、配向軸の傾斜角度が急傾斜に変化する。そしてフィルム両端の保持間隔を調整することにより、所望の傾斜角度に配向軸が傾斜した延伸フィルムを得ることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明は、長尺状のフィルムに対して配向軸の傾斜角度を長手方向に対して5度以上20度未満に延伸することによりプレ延伸フィルムを形成する工程と、形成したプレ延伸フィルムを加熱して熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていく工程とを連続して行うことを特徴とすることをする請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法である。
【0023】
本発明は、プレ延伸フィルムを形成後すぐに熱収縮するものである。このようにすると、延伸フィルム製造にかかる時間を短縮することができるので、製造作業の効率化を図ることができる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていく際に、プレ延伸フィルムの両端を幅方向中心線に対して均等に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法である。
【0025】
本発明では、幅方向中心線に対して均等に熱収縮させることにより、延伸フィルムの幅方向における各種特性のバラツキを低減することができる。
【0026】
請求項4に記載の発明は、プレ延伸フィルムを加熱して熱収縮することにより、プレ延伸フィルムの分子配向軸の幅方向に対する傾きを20度以上70度未満にすることを特徴する請求項1乃至3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法である。
【0027】
本発明によると、分子配向軸を幅方向に対して大きく傾けた延伸フィルムを製造することができる。
【0028】
請求項5に記載の発明は、幅方向の拡縮調整が可能なテンター式延伸機によりプレ延伸フィルムを加熱し、熱収縮させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法である。
【0029】
本発明では、幅方向の拡縮調整が可能なテンター式延伸機を使用しても好適に実施することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法によって製造された延伸フィルムであって、延伸フィルムの幅方向に対する配向軸の傾斜角度が20度より大きく70度より小さいことを特徴とする延伸フィルムである。
【0031】
請求項7に記載の発明は、請請求項1乃至5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法によって製造された延伸フィルムであって、延伸フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが下記式(1):
0.5≦(nx−nz)/(nx−ny)≦2 ・・・(1)
を満たすことを特徴とする延伸フィルムである。
【0032】
本発明の延伸フィルムは請求項1乃至5のいずれかの延伸フィルムの製造方法によって形成される。そのため、幅方向に対して大きく傾斜した配向軸を有する延伸フィルムや、優れた光学特性を有する延伸フィルムを提供することができる。
【0033】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の延伸フィルムが少なくとも1枚以上含まれて形成されることを特徴とする位相差板である。
【0034】
本発明により製造された延伸フィルムは重ね合わせて位相差板として使用することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、高分子フィルムに過度の負担を掛けずに配向軸の傾斜角度を変更することができるという効果がある。そのため、配向軸の傾斜角度を大きくすることが可能であるという効果がある。加えて、製造された延伸フィルムの品質の均一化が容易であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の位相差フィルムの製造方法に使用可能なフィルム延伸機の一例を示す平面図である。
【図2】図1とは異なる本発明の位相差フィルムの製造方法に使用可能なフィルム延伸機の一例を示す平面図である。
【図3】図1、図2とは異なる本発明の位相差フィルムの製造方法に使用可能なフィルム延伸機の一例を示す平面図である。
【図4】幅方向に一軸延伸した高分子フィルムを収縮した際の配向軸の変化を示す説明図であり、(a)は収縮前の高分子フィルムを示し、(b)は収縮後の高分子フィルムを示す。
【図5】幅方向に傾斜する方向に延伸した高分子フィルムを収縮した際の配向軸の変化を示す説明図であり、(a)は収縮前の高分子フィルムを示し、(b)は収縮後の高分子フィルムを示す。
【図6】従来の延伸機を示す概略平面図である。
【図7】比較例3で使用可能なフィルム延伸機の一例を示す平面図である。
【図8】図2の延伸機の試運転時の状態の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0038】
本発明において延伸フィルムの材料たる高分子フィルム(熱可塑性樹脂フィルム)については原料樹脂に特に限定はなく、目的に応じて適宜、適切な熱可塑性樹脂からなるフィルムが選択される。具体例としては、セルロースアセテート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレートやポリアミド等が挙げられる。また、より好適にはポリカーボネート、および環状オレフィン系樹脂を使用することが好ましい。
【0039】
本発明の第1の実施形態の延伸フィルムを製造方法は、基本的に連続的に供給される長尺状の高分子フィルムfを把持(保持)しながら搬送し、高分子フィルムfを搬送しつつ搬送方向に対して傾斜する方向へ延伸する方法である。そして、特徴的な工程として以下の3つの工程を含むものである。
(1)目的とする配向軸の傾斜角度(20度以上70度未満であり、例えば45度)より緩やかに傾斜(5度以上20度未満)させる工程(以下プレ延伸工程と称す)。
(2)プレ延伸工程を経て配向軸が緩やかに傾斜した延伸フィルム(プレ延伸フィルム)を一旦巻き取る工程(以下一時巻取工程と称す)。
(3)巻き取った延伸フィルムに対して角度調整のための加熱収縮処理を行う工程(以下角度調整工程と称す)。
以下に本発明の第1の実施形態について、図1の延伸フィルム製造装置1を用いて延伸フィルムを製造する例について説明する。ただし、本発明において図1の延伸フィルム製造装置1を使用することが必須でないことは当然である。
【0040】
図1(a)における延伸フィルム製造装置1は大きく分けてプレ延伸用延伸機2と角度調整用熱収縮機3から構成されている。
【0041】
プレ延伸用延伸機2は、従来公知の延伸機であって実質的に特許文献1に開示されている延伸機と同様なものも使用できる。また、特許文献4で開示されている斜方延伸機と実質的に同様なものなども使用できる。なお、本実施形態で使用するプレ延伸用延伸機2は特許文献1に開示された延伸機に比べて両端の保持開始点から保持解除点までの距離の差が小さく、フィルムの延伸される角度が小さいものとした。
具体的に説明するとプレ延伸用延伸機2は、把持部材6、引き出しロール8、巻き取り用ロール9、レール10を少なくとも備えている。そして、引き出しロール8に取り付けた高分子フィルムfを引き出し、フィルムfの両端を把持部材6で把持して巻き取り用ロール9側へ向かって走行させ、巻き取り用ロール9の手前で高分子フィルムfを開放し、巻き取り用ロール9で巻き取るものである。
【0042】
ここで、把持部材6は引き出しロール8から引き出された高分子フィルムfの両端を把持したまま、図示しないチェーンと一体にレール10上を走行するものである。ここで、レール10は対になるレール10aとレール10bより構成されるものであり、レール10a及びレール10b上をそれぞれ把持部材6が走行する。
そして、片側端部を把持した把持部材6が走行する経路は、他端部を把持した把持部材6が走行する経路より長くなっている。即ち、片側のレール10aに対し、レール10bは迂回する経路をとっている。なお、把持部材6がレール上を走行する速度は両端で略同じとする。
【0043】
つまり、プレ延伸用延伸機2は図1で示されるように引き出しロール8側から巻き取り用ロール9側へ向かってA、B、Cの3つの連続するエリアに分割されている。そして、各エリアにおいてそれぞれレール10の幅が異なっている。
エリアAにおいてはレール10a,レール10bの幅が等間隔であり、エリアBでは片側のレール(レール10b)が迂回しており、エリアCにおいては再び等間隔で進行している。そして、エリアAとエリアCは共にレールの幅が等間隔であるが、エリアAに比べてエリアCのレール10の幅は広くなっている。
また、このプレ延伸用延伸機2は加熱炉を設ける構成としてもよく、その場合加熱炉はAエリアからBエリアに跨って設置されていることが好ましい。
【0044】
角度調整用熱収縮機3は、把持部材11、引き出しロール12、巻き取り用ロール13レール14、加熱炉15を少なくとも備えている。そして、引き出しロール12に取り付けた高分子フィルムfを引き出し、高分子フィルムfの両端を把持部材11で把持した後、巻き取り用ロール13へ向かって走行させて巻き取り用ロール13で巻き取るものである。
ここで、把持部材11はレール14上を走行するものであり、引き出しロール12から引き出された高分子フィルムfの両端を把持して走行するものである。ここで、レール14は対になるレール14aとレール14bより構成されるものであり、レール14a及びレール14b上をそれぞれ把持部材11が走行する。
そして、高分子フィルムfの両端の把持部材11は巻き取り用ロール13に近づくにつれて、互いに近づく方向へ移動することにより幅方向の距離が近づくものである。つまり、引き出しロール12側から巻き取り用ロール13へ向かってレール14aとレール14bの距離は狭まっている。
【0045】
詳細に説明すると、角度調整用熱収縮機3は引き出しロール12側から巻き取り用ロール13側へ向かってD、E、Fの3つの連続するエリアに分割されている。そして、各エリアにおいてそれぞれレールの幅が異なっている。つまり、まずエリアDにおいてはレール14の幅が等間隔となっている。次にエリアEにおいては、走行方向へ進むにつれてレール14a及びレール14bがそれぞれ幅方向中央に向かって徐々に傾斜してレールの幅が狭くなっていく。そして、エリアFにおいては再びレール14の幅が等間隔となっている。
ここで、エリアDとエリアFのレール14の幅は共に等間隔であるが、エリアDに比べてエリアFのレール14の幅が狭くなっている。加えて、エリアEにおいて両端のレール14はそれぞれ幅方向中央に向かって傾斜しているが、走行方向における傾斜の開始地点及び傾斜の終了地点、さらに走行方向に対する傾斜の角度は同じとなっている。したがって、レール14は走行方向に沿って幅方向で左右対称に配置されている。
【0046】
また、加熱炉15はエリアD〜Fに跨って設けられており、高分子フィルムfを熱風によって加熱するものである。
【0047】
次に、上記した延伸機1を用いて延伸フィルムを製造する例について説明する。
まず、引き出しロール8に長尺状の高分子フィルムfをロール状にして取り付ける。そして、Aエリアにおいて、図示しないロール等の搬送装置を使用して高分子フィルムfを巻き取り用ロール9側に向かって走行させる。
高分子フィルムfを巻き取り用ロール9側に一定距離走行させると、高分子フィルムfはその幅方向両端を把持部材6によって把持される。そして、高分子フィルムfを引き続き巻き取り用ロール9側に向かって走行させる。
【0048】
次に高分子フィルムfがエリアBに侵入すると「プレ延伸工程」が開始される。具体的には、片側端部を把持している把持部材6がもう一方の端部を把持している把持部材6から離れる方向に移動する。つまり、一方の把持部材6は巻き取り用ロール9側へ直進し、もう一方の把持部材6は高分子フィルムfの幅を広げながら巻き取り用ロール9側へ進む。言い換えると、一方の把持部材6が走行方向に対して斜行する。
このことにより、走行方向垂直に延伸されていた高分子フィルムfの延伸方向が走行方向垂直から傾斜して、高分子フィルムfに緩やかな配向角がつく。即ち、目的とする配向軸の傾斜角度(20度以上70度未満であり、例えば45度)より緩やか(5度以上20度未満)に高分子フィルムfの配向軸が幅方向に対して傾斜する。
また、エリアA(高分子フィルムfの幅方向が等間隔)の部分で対向する位置にあった両端の把持部材6間の距離が進行と共に広がっていくことにより、高分子フィルムfを延伸する力も大きくなっていく。そして、高分子フィルムfを延伸する力が大きくなると共に位相差値が上昇する。そして、「プレ延伸工程」が終了する。
【0049】
ここで、本実施形態ではエリアBの「プレ延伸工程」により、配向軸の傾斜角度を目標とする配向軸の傾斜角度より緩やかな角度にしている。そして、後述する「角度調整工程」にて配向軸の傾斜角度を目標とする配向軸の傾斜角度とするものである。このように、配向軸を目標とする傾斜角度に傾ける前に目標とする角度より緩やかな仮の角度にする工程を設けることにより、一度に目標とする傾斜角度にしてしまう延伸方法と比べて、高分子フィルムfの配向軸を急激に傾けずに配向軸の傾斜角度を傾けることができる。そのことにより、ツレ(不均一な引っ張り応力の結果生じる筋状ムラ)、シワ、フィルム寄り(局部的な厚みむら)等の問題が発生しにくいという利点がある。
【0050】
そして最後に、高分子フィルムfはエリアCに侵入し、幅方向の長さが変化しないまま巻き取り用ロール9側に向かって走行して、巻き取り用ロール9に巻き取られる。このことにより、「一時巻取工程」が完了する。
【0051】
次に、プレ延伸を行った(巻き取り用ロール9に巻き取った)高分子フィルムfを角度調整用熱収縮機3の引き出しロール12に取り付ける。
そしてDエリアにおいて、図示しないロール等の搬送装置を使用して高分子フィルムfを巻き取り用ロール13側に向かって走行させる。
高分子フィルムfが巻き取り用ロール13側に一定距離走行させられると、高分子フィルムfはその幅方向両端を把持部材11によって把持される。そして、高分子フィルムfは引き続き巻き取り用ロール13側に向かって走行させられる。
【0052】
次に高分子フィルムfがエリアEに侵入すると、両端部分を把持している把持部材6が互いに近づく方向へ移動する。このとき、加熱処理を行うことにより高分子フィルムfを熱収縮させる。つまり、高分子フィルムfを加熱炉15によって加熱して熱収縮させると共に、幅方向中心側に向かって両側から熱収縮の縮み量に合わせて間隔を窄めることで、高分子フィルムfの配向軸の角度調整を行うものである。
このことにより、「角度調整工程」が完了する。
【0053】
最後に高分子フィルムfはエリアFに侵入する。エリアFでは高分子フィルムfは幅方向の長さが変化しないまま巻き取り用ロール13側に向かって走行し、巻き取り用ロール13に巻き取られる。そのことをもって高分子フィルムfに対する配向軸を傾斜させる工程がすべて終了し、延伸フィルムの製造が完了する。なお、巻き取られた延伸フィルムは次工程(例えば切り抜き等の工程)へ送られる。
【0054】
上記した実施形態ではプレ延伸用延伸機2を使用して、プレ延伸(高分子フィルムを予め幅方向に対して若干斜交する角度方向に配向させる延伸)を行ったがプレ延伸を実施する方法及び延伸機はこれに限るものではない。プレ延伸に使用する方法及び延伸機は配向軸をフィルムの幅方向に対して5度以上傾斜させるものであれば特に制約されず、公知の方法及び延伸機を採用することができる。
なお加熱収縮前フィルムの配向軸の傾斜角度が5度未満である場合、配向軸の傾斜角度を20〜70度の範囲に調整する際に幅方向に大幅な収縮を要するため、収縮後のフィルムに弛み、シワが発生しやすく、本発明においては好ましくない。
【0055】
次に本発明の第2の実施形態について説明する。本発明の第2の実施形態の延伸フィルムを製造する方法は、第1の実施形態で行った「プレ延伸工程」と、「角度調整工程」とを有し、これらを連続して実施するものである。
以下に本発明の第2の実施形態について、図2の延伸機21を用いて延伸フィルムを製造する例について説明する。ただし、本発明において図2の延伸機21を使用することが必須でないことは当然である。
【0056】
図2における延伸機21は、把持部材26、引き出しロール27、巻き取り用ロール28、レール29、加熱炉30を少なくとも備えている。そして、引き出しロール27に取り付けた高分子フィルムfを引き出し、高分子フィルムfの両端を把持部材26で把持して巻き取り用ロール28側へ向かって走行させ、加熱炉30の出口で高分子フィルムfを開放し、巻き取り用ロール28で巻き取るものである。
【0057】
ここで、把持部材26はレール29上を図示しないチェーンと一体に走行するものであり、引き出しロール27から引き出された高分子フィルムfの両端を把持して両端を同速で走行するものである。なお、レール29は対になるレール29aとレール29bより構成されるものであり、レール29a及びレール29b上をそれぞれ把持部材26が走行する。また、高分子フィルムfの両端部を把持した把持部材26が走行する経路は、延伸機21の前半部分と後半部分で異なっている。
【0058】
詳細に説明すると、延伸機21は大きく分けて前半部分のプレ延伸実施部22(図2のエリアA)と、後半部分の熱収縮実施部23(図2のエリアB)に分けることができる。
まずプレ延伸実施部22においては、把持部材26が走行するレール29a,29bはまず等間隔で引き出しロール27側から巻き取り用ロール28側へ進む。そしてその後、片側端部のレール29aはそのまま直進し、他端部のレール29bは直進するレール29aから離れる方向であり、引き出しロール27側から巻き取り用ロール28側へ向かう方向へ進む。つまり、片側のレール29bのみ走行方向に対して斜行する。
【0059】
次に熱収縮実施部23においては、まず、把持部材26が走行するレール29a,29bが両端側から幅方向の中央側へ向かって徐々に傾斜してレール29aとレール29bの幅が狭くなっていく。換言すると、高分子フィルムfの走行方向へ進むにつれて両端のレール29a,29bが互いに近づく方向へ緩やかに傾斜している。そして、レール29は幅が狭まった状態で等間隔を維持して巻き取り用ロール28へ向かって進む。
なお、このとき熱収縮実施部23の開始点(レール29a,29bが互いに近づく方向へ傾斜を開始する地点)から、各レールの幅方向への傾斜が終了する点までの間、即ち、両端のレール29a,29bが傾斜している部分は走行方向に十分長い距離が確保されている。
なお、この熱収縮実施部23には加熱炉30が設けられており、加熱炉30は高分子フィルムfを熱風によって加熱するものである。
【0060】
次に、上記した延伸機21を用いて延伸フィルムを製造する例について説明する。
まず、引き出しロール27に長尺状の高分子フィルムfをロール状にして取り付ける。そして、プレ延伸実施部22において図示しないロール等の搬送装置を使用して高分子フィルムfを巻き取り用ロール28側に向かって走行させる。
高分子フィルムfは巻き取り用ロール28側に一定距離走行させられると、その幅方向両端を把持部材26によって把持される。そして、高分子フィルムfは引き続き巻き取り用ロール28側に向かって走行させられる。
【0061】
そして、両端を把持部材26によって把持された高分子フィルムfが巻き取り用ロール28側へ向かって一定距離走行すると、片側端部を把持している把持部材26がもう一方の端部を把持している把持部材26から離れる方向に移動する。
このことにより、走行方向垂直に延伸されていた高分子フィルムfの延伸方向が走行方向垂直から傾斜する。そして、高分子フィルムfの配向軸が幅方向に対して緩やか(5度以上20度未満)に傾斜する。
また、初めに高分子フィルムfの幅方向において等間隔を維持して進んでいた両端の把持部材26のうち、片側端部の把持部材26が斜行する(もう一方の端部を把持している把持部材26から離れる方向に移動する)ことによって、高分子フィルムfを延伸する力が大きくなり位相差値が上昇する。そして、「プレ延伸工程」が終了する。
【0062】
続いて、高分子フィルムfは熱収縮実施部23を走行する。ここで、熱収縮実施部23ではプレ延伸後の「角度調整工程」を行うものである。
【0063】
つまり熱収縮実施部23では、プレ延伸実施部22にて走行方向に対して傾いた方向へ延伸させた(プレ延伸の終了した)高分子フィルムfに対して、角度調整のための加熱収縮処理を行うものである。そのことにより、高分子フィルムfの配向は目的とする配向軸の傾斜角度(幅方向に対して20度以上70度未満であり、例えば45度)にする。
【0064】
具体的には、まず加熱炉30により高分子フィルムfを加熱して熱収縮させる。このとき、両端部分を把持している把持部材26を互いに近づく方向へ移動させ、高分子フィルムfの熱収縮の縮み量に合わせて幅方向中心側に向かって両側から間隔を窄めていく。そのことにより角度調整を行い高分子フィルムfの配向軸を目的とする配向軸の傾斜角度(20度以上70度未満であり、例えば45度)にする。
【0065】
高分子フィルムfの配向軸が目的とする傾斜角度になると、両端部分を把持している把持部材26は互いに近づく方向への移動を終了する。そして、把持部材26は高分子フィルムfの幅方向の距離を保ちながら、巻き取り用ロール28側へ走行する。
【0066】
続いて、把持部材26は巻き取り用ロール28の手前で高分子フィルムfを開放する。そして、開放された高分子フィルムfを巻き取り用ロール28が巻き取ることにより、高分子フィルムfの配向軸を傾斜させる工程が終了する。つまり、延伸フィルムの製造が完了する。なお、巻き取られた延伸フィルムは次工程(例えば切り抜き等の工程)へ送られる。
【0067】
ここで第2実施形態のように「プレ延伸工程」と「角度調整工程」を連続して行う場合、「プレ延伸工程」で配向角が所定の角度になるかどうかを予め確認しておく必要がある。即ち、第1の実施形態のように「プレ延伸工程」の後で高分子フィルムfを一旦回収するという工程がないため、延伸機の試運転時等において「プレ延伸工程」で所定の配向角になるかどうかを確認してから延伸フィルムを製造する必要がある。
【0068】
「プレ延伸工程」における配向角を確認する方法として、例えば、レールの幅を変更可能なテンター延伸機を使用するという方法が考えられる。具体的に説明すると、まず試運転時において図2の延伸機21を図8のようにする。即ち、延伸機21の熱収縮実施部23におけるレール29を等間隔にする。そうして、その延伸機21で試運転を行うことにより高分子フィルムfに対して「プレ延伸工程」のみを実施する。このとき、延伸機21の外部まで高分子フィルムfを搬送して配向角を測定することで「プレ延伸工程」の配向角を確認する。
なお「プレ延伸工程」において所定の配向角になっていることが確認されると、熱収縮実施部23の前側部分においてレール29a,29bを両端側から幅方向の中央側へ向かって徐々に傾斜させる。即ち、図2の延伸機21と同じ状態にする。そして、上記した第2の実施形態の延伸フィルムの製造を行う。この方法によると「プレ延伸工程」の角度を確認した後に延伸フィルムの製造を行うことができる。
【0069】
また他の方法として、延伸機を一旦停止するという方法も考えられる。即ち、図2の延伸機21を一時停止して、熱収縮実施部23の前側部分(プレ延伸実施部22よりの部分)で高分子フィルムfを切り抜いて配向角を確認するという方法である。
【0070】
上記した各実施形態において使用する各延伸機はとくに限定されるものではなく、テンター式、パンタグラフ式、リニアモータ式等の適宜の延伸機を使用することができる。
【0071】
また、上記した各実施形態における「プレ延伸工程」において、フィルムの揮発分率は5%(パーセント)未満が好ましく、さらに好ましくは3%(パーセント)未満である。
【0072】
上記した第2の実施形態では、「角度調整工程」の際に高分子フィルムfの両端を幅方向において均等に収縮させたが、両端の保持間隔を狭めることができれば、収縮の方法はこれに限るものではない。例えば図3のように一方の端部側からのみ収縮させてもよい。しかしながら、高分子フィルムfの幅方向の特性ばらつきを小さくするという観点から両端を均等に収縮させることが好ましい。
【0073】
また上記した各実施形態において、加熱収縮処理による角度調整(「角度調整工程」)は幅方向に収縮させる際の収縮率、温度変化、収縮処理を行う時間等を制御することにより行うものである。したがって、これらは目的とする配向軸の傾斜角度等に応じて適宜に変更される。
しかしながら、幅方向に加熱収縮させる際に高分子フィルムの長手方向に延伸を行う(縦延伸を行う)と、製造する延伸フィルムに高い二軸性を発現してしまうため、縦延伸を行わないほうが好ましい。
【0074】
加えて、上記した各実施形態の高分子フィルムfの厚さについても特に限定されるものではない。高分子フィルムfの厚さは製造する延伸フィルムの使用目的などに応じて適宜に決定することができる。しかしながら、加熱収縮処理を安定させ均一の質の延伸フィルムを製造するという観点から、3mm以下が好ましく、さらに好適には1μm〜1mmが好ましく、より好適には5μm〜500μmが好ましい。
【0075】
本発明により製造される延伸フィルムは特に限定されるものでなく、例えばプラスチックフィルム等であってよい。
また、本発明により製造される延伸フィルムの長手方向の長さ及び幅の長さは特に限定されるものではなく、適宜の長さであってよい。
例えば、製造効率の向上や長尺の偏光板等と効率よく接着することを目的に、上記した適宜の延伸機で長尺のプラスチックフィルムを連続して延伸処理してもよい。
【0076】
本発明により製造される延伸フィルムの用途は特に限定されるものでなく、適宜の用途に使用可能である。しかしながら、配向軸が斜め方向に傾斜しているという観点から位相差板等に好適に使用することができる。より詳細には、配向軸の傾斜角度が20〜70度で、下記式(1):
0.5≦(nx−nz)/(nx−ny)≦2・・・(1)
[nxは位相差フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、ここで、遅相軸方向とは位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向を指し、nyは位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を示し、nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率を示す。]
の関係を満たす延伸フィルムを製造し、位相差板として用いることが好ましい。
また、位相差板としては波長590nmで測定したレターデーション値が10乃至1000nmを満たすことが好ましく、さらには100乃至170nm又は220乃至290nmを満たすことがより好ましい。
【0077】
なおこのような位相差板は、例えば液晶表示装置における複屈折特性の調節や視角変化による着色化の防止や視野角の拡大などの種々の目的で用いうる。また偏光板との接着による楕円偏光板や円偏光板等の各種光学素材の形成などにも用いうる。
【0078】
また、本発明で製造された延伸フィルムを位相差板に用いる場合、複数の延伸フィルムを重ね合わせた延伸フィルムの重畳体を位相差板として使用することが可能である。
この場合、重ね合わせる延伸フィルムの枚数は任意であるが、光の透過率などの観点から2〜5枚が好適である。
また、重ね合わせる各延伸フィルムの組み合わせは適宜変更可能であり、重ね合わせた延伸フィルムの配向軸の傾斜角度、原料、位相差等は同じでもよいし、異なっていてもよい。これらは適宜変更してよい。
【0079】
なお本発明の延伸フィルムを位相差板として使用する場合、例えばポリカーボネートや環状オレフィンのようなポリオレフィン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレートなどのように透明性に優れる延伸フィルムを使用することが好ましい。この位相差板の厚さは使用目的に応じた位相差等により任意に決定してよいが、好適には1mm以下が望ましく、より好適には1μmから500μmが望ましく、さらに好適には5μm〜300μmの厚さであることが望ましい。
【0080】
上記したような延伸フィルムを重ねて重畳体を形成する場合や位相差板(延伸フィルム)と偏光板を接着する場合等において、層間の屈折率の調節による反射の抑制や光学系のズレ防止、ゴミ等の異物の侵入防止などの観点より延伸フィルム間や位相差板と偏光板の間が固着処理されていることが好ましい。
なお、固着処理に使用される接着材等は特に限定されるものではなく、例えば透明な接着材等を好適に用いることができる。また、光学特性の変化防止等の観点から粘着剤を好適に使用することができる。
【0081】
またさらに、本発明によって製造された延伸フィルム(位相差板は)、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理されたもののように紫外線吸収能をもたせたものであってもよい。
【実施例】
【0082】
本発明について、実施例及比較例をあげて具体的に説明するが、本実施例は本発明を限定するものではない。
なお、本実施例で採用した各種物理物性や光学特性の測定方法は、以下の通りである。
【0083】
(1)レタデーション、Nz係数、配向軸の傾斜角度の測定
大塚電子製位相差フィルム検査装置RETSを用いて、測定波長590nmの値で幅手方向を5cm間隔で測定した。また、Nz測定時の傾斜角度は45°で測定した。Re、Nz及び配向軸の傾斜角度は平均値とした。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
[nxは位相差フィルムの遅相軸方向の屈折率を示し、ここで、遅相軸方向とは位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向を指し、nyは位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を示し、nzは位相差フィルムの厚さ方向の屈折率を示す。]
【0084】
(2)厚み
アンリツ(株)製触針式厚み計KG601Aを使用し、幅手方向の厚さを1mm間隔で測定した。得られた値の平均値を厚みとした。
【0085】
〔実施例1〕
ポリカーボネートフィルム(株式会社カネカ製 エルメックR−フィルム無延伸品)を図1のプレ延伸用延伸機2に準じた延伸機に導入し、波長590nmで測定したレターデーションが570nmで配向軸が幅方向に対して6度傾斜した厚さ40μmで幅1000mmのポリカーボネートフィルムを得た。そして、そのポリカーボネートフィルムを図1の角度調整用熱収縮機3に準じたテンター延伸機に導入し160℃に加熱して、両端把持具間の幅方向距離を均等に狭くすることにより、幅方向に40%の収縮処理を施して延伸フィルムを得た。次に大塚電子製位相差フィルム検査装置RETSを用いて、この延伸フィルムの特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが69〜71nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は44〜46度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は1.0〜1.1であった。
【0086】
〔実施例2〕
配向軸が幅方向に対して6度傾斜したポリカーボネートフィルムを160℃に加熱して、両端把持具間の幅方向距離を均等に狭くすることにより、幅方向に35%の収縮処理を施して延伸フィルムを得た。即ち、収縮率を35%としたほかは実施例1に準じて延伸フィルムを得た。この延伸フィルム特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが119〜122nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は26〜29度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は1.4〜1.5であった。
【0087】
〔実施例3〕
配向軸が幅方向に対して6度傾斜したポリカーボネートフィルムを160℃に加熱して、両端把持具間の幅方向距離を片側だけ狭くすることにより、幅方向に40%の収縮処理を施して延伸フィルムを得た。即ち、両端把持具間の幅方向距離を片側だけ狭くしたほかは実施例1に準じて延伸フィルムを得た。この延伸フィルム特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが67〜74nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は42〜47度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は0.9〜1.1であった。
【0088】
〔比較例1〕
収縮率を0%としたほかは実施例1に準じて延伸フィルムを得た。この延伸フィルム特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが540〜550nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は6度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は1.5であった。
【0089】
〔比較例2〕
配向軸が幅方向に対して傾斜をもたない、すなわち配向軸が0度のポリカーボネートフィルムを使用した以外は実施例1に準じて延伸フィルムを得た。この延伸フィルム特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが88〜92nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は0〜1度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は1.1であった。
【0090】
〔比較例3〕
図7に示される延伸機40により、波長590nmで測定したレターデーションが570nmで配向軸が幅方向に対して6度傾斜した厚さ40μmで幅1000mmのポリカーボネートフィルムを得た。そして、そのポリカーボネートフィルムを150℃に加熱してロール周速差による縦延伸機41に導入し、長手方向に5%の延伸処理を施して延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの特性を測定した結果、波長590nmで測定したレターデーションが57〜71nm、幅方向に対する配向軸の傾斜角度は44〜46度、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzとしたときの(nx−nz)/(nx−ny)は7.0〜7.3であった。
【符号の説明】
【0091】
1 延伸機
2 プレ延伸用延伸機
3 角度調整用熱収縮機
4 角度調整延熱収縮機
6 把持部材
8 引き出しロール
9 巻き取り用ロール
f 高分子フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のフィルムであって、配向軸の傾斜角度が幅方向に対して5度以上20度未満にプレ延伸されたプレ延伸フィルムの幅方向両端を保持し、当該プレ延伸フィルムを加熱して熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていくことを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
長尺状のフィルムに対して配向軸の傾斜角度を長手方向に対して5度以上20度未満に延伸することによりプレ延伸フィルムを形成する工程と、形成したプレ延伸フィルムを加熱して熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていく工程とを連続して行うことを特徴とすることをする請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
熱収縮させつつ前記両端の保持間隔をしだいに狭めていく際に、プレ延伸フィルムの両端を幅方向中心線に対して均等に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
プレ延伸フィルムを加熱して熱収縮することにより、プレ延伸フィルムの分子配向軸の幅方向に対する傾きを20度以上70度未満にすることを特徴する請求項1乃至3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
幅方向の拡縮調整が可能なテンター式延伸機によりプレ延伸フィルムを加熱し、熱収縮させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法によって製造された延伸フィルムであって、延伸フィルムの幅方向に対する配向軸の傾斜角度が20度より大きく70度より小さいことを特徴とする延伸フィルム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法によって製造された延伸フィルムであって、延伸フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzが下記式(1):
0.5≦(nx−nz)/(nx−ny)≦2 ・・・(1)
を満たすことを特徴とする延伸フィルム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の延伸フィルムが少なくとも1枚以上含まれて形成されることを特徴とする位相差板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−235610(P2011−235610A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111236(P2010−111236)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】