説明

延伸フィルム

【課題】高温環境下に曝された場合であっても、光学特性、特には透過率および透明性の劣化が生じず、高温環境下での使用にも十分耐え得るポリプロピレン系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムであって、100℃以上170℃以下の温度で、倍率1.3倍以上に固定端延伸されており、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下である延伸フィルムである。当該延伸フィルムは、液晶表示装置用の光学フィルム、たとえば、位相差フィルムとして、また偏光フィルムに貼合される保護フィルムとして好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置に適用される位相差フィルムとして、また偏光フィルムの保護フィルムとして有用な、ポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量で薄型であるなどの特徴を生かして、各種の表示用デバイスに用いられている。液晶表示装置は、液晶セル、偏光板、位相差フィルム、集光シート、拡散フィルム、導光板、光反射シートなど、多くの光学部材から構成されている。そのため、当該光学部材を構成するフィルムまたはシートの枚数削減や膜厚の低減等の改良により、液晶表示装置の生産効率や明度の向上および軽量・薄型化などを図ることが可能であり、このような研究が盛んに行なわれている。
【0003】
液晶表示装置は、その用途によっては、厳しい耐久性能が求められる。たとえば、カーナビゲーションシステム用の液晶表示装置は、それが置かれる車内の温度や湿度が高くなることがあるため、通常のテレビやパーソナルコンピュータ用の液晶表示装置と比較して、より高い耐湿熱性が要求される。かかる用途に用いられる液晶表示装置に適用される偏光板にも、高い耐湿熱性が求められる。
【0004】
従来、偏光板は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの両面または片面に透明な保護フィルムが積層された構造のものが用いられている。保護フィルムには、トリアセチルロースに代表されるセルロースアセテート系樹脂フィルムが多く使用されており、その厚みは通例30〜120μm程度である。また、保護フィルムの積層には、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を用いることが多い。しかし、二色性色素が吸着配向された偏光フィルムの両面または片面に、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロースからなる保護フィルムを積層した偏光板は、湿熱条件下で長時間使用した場合に、偏光性能が低下したり、保護フィルムと偏光フィルムとが剥離しやすかったりする問題があった。
【0005】
そこで、少なくとも一方の保護フィルムを、セルロースアセテート系以外の樹脂で構成する試みがある。たとえば、特許文献1には、偏光膜の両面に保護フィルムを積層した偏光板において、その保護フィルムの少なくとも一方を、位相差フィルムの機能を有する熱可塑性ノルボルネン系樹脂で構成することが記載されている。また、特許文献2には、ヨウ素または二色性有機染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの一方の面に、非晶性ポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムが積層され、他方の面には、セルロースアセテート系樹脂など、非晶性ポリオレフィン系樹脂とは異なる樹脂からなる保護フィルムが積層された偏光板が記載されている。さらに、特許文献3には、ポリビニルアルコール系偏光フィルムに、ウレタン系接着剤とポリビニルアルコール系樹脂とを含有する接着剤を介して、シクロオレフィン系樹脂からなる保護フィルムを積層することが記載されている。
【0006】
しかし、ノルボルネン系樹脂などの非晶性ポリオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系樹脂)は、最近実用化された樹脂であって、一般に高価である。また、保護フィルム上に粘着剤層を形成することがしばしば行なわれるが、粘着剤層は、その調製に用いられるアセトン、トルエン、酢酸エチルなどの有機溶剤を含むことがあり、このような場合、保護フィルムが当該残存有機溶媒によって侵食される恐れがある。
【0007】
一方、特許文献4には、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光子の両面に保護フィルムが積層されており、保護フィルムの少なくとも一方がポリプロピレン系樹脂からなる偏光板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−43812号公報
【特許文献2】特開2002−174729号公報
【特許文献3】特開2004−334168号公報
【特許文献4】特開2007−334295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献4に記載されるようなポリプロピレン系樹脂フィルムは、アセトン、トルエン、酢酸エチルなどの有機溶剤に対して耐性を有するとともに、特に水分遮蔽性および偏光フィルムとの接着性に優れる。しかしながら、真夏の自動車の車内に代表されるような、過酷な高温環境下に晒されると、透過率および透明性が低下することがあった。このようなポリプロピレン系樹脂フィルムの透過率および透明性の低下は、当該フィルムを適用した液晶表示装置の輝度を低下させ、また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを偏光フィルムの液晶セル側の面に配置した偏光板を備える液晶表示装置においては、正面コントラストが低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、高温環境下に曝された場合であっても、光学特性、特に透過率および透明性の劣化が生じず、高温環境下での使用にも十分耐え得るポリプロピレン系樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、透過率および透明性低下の原因が、ポリプロピレン系樹脂フィルムから発生するブリード物にあることを見出した。そして、さらに検討を行なった結果、所定の条件で延伸処理を施したポリプロピレン系樹脂フィルムは、過酷な高温環境下においても、透過率および透明性の低下が極めて小さいことを見出した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、ポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムであって、100℃以上170℃以下の温度で、倍率1.3倍以上に固定端延伸されており、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下である延伸フィルムが提供される。
【0013】
上記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体からなることが好ましい。
【0014】
本発明の延伸フィルムは、液晶表示装置に用いられる光学フィルム、たとえば、位相差フィルムとして、また偏光フィルムの保護フィルムとして好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温環境下における透過率および透明性の低下が大幅に抑制されるポリプロピレン系樹脂フィルムおよび当該ポリプロピレン系樹脂フィルムからなる光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<延伸フィルム>
本発明の延伸フィルムは、100℃以上170℃以下の温度で、倍率1.3倍以上に固定端延伸されたポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムである。このような特定条件で固定端延伸を施すことにより、高温環境下に晒されたときの透過率および透明性の低下がほとんど生じない、具体的には、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下、さらには0.3ポイント以下であるポリプロピレン系樹脂フィルムが得られる。固定端延伸とは、フィルムの両端を固定しておき、当該固定された両端間の距離を広げながらフィルムに熱を与えることにより、フィルムを広げた方向に延伸する方法である。
【0017】
ここで、「ヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下」とは、この延伸フィルムを100℃で150時間保持したときに、当該保持後のフィルムが示すヘイズ値(単位%)と、当該保持前のフィルムが示すヘイズ値(単位%)との差が0.5以下であることを意味する。たとえば、後述する実施例1では、保持前のヘイズ値が0.8%で保持後のヘイズ値が0.9%なので、ヘイズ値の変化は0.1ポイントとなっており、また比較例1では、保持前のヘイズ値が1.5%で保持後のヘイズ値が38.6%なので、ヘイズ値の変化は37.1ポイントとなっている。100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が0.5ポイント以下である本発明の延伸フィルムは、光学フィルム、たとえば、液晶表示装置に用いられる位相差フィルムとして、また同じく液晶表示装置に用いられる偏光板において偏光フィルムに貼合される保護フィルムとして好適である。本発明の延伸フィルムの適用により、高温環境下における液晶表示装置の表示性能を向上させることができる。100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が0.5ポイントを超えると、液晶表示装置の輝度が低下したり、さらには正面コントラストが低下したりする場合がある。なお、ヘイズ値は、JIS K 7105に準拠して測定される。
【0018】
本発明の延伸フィルムは、上記条件で固定端延伸されたポリプロピレン系樹脂フィルムであればよく、たとえば、未延伸のポリプロピレン系樹脂フィルムを上記条件で固定端延伸したフィルムや、未延伸のポリプロピレン系樹脂フィルムに対して他の延伸処理(たとえば、自由端一軸延伸等の自由端延伸)を施した後、上記条件で固定端延伸したフィルムなどであることができる。固定端延伸と他の延伸処理とを組み合わせる場合、これらがどのような順序であっても、高温環境下における透過率および透明性の低下が生じにくいポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることができるが、ブリードを一層効果的に抑制する観点から、上記条件での固定端延伸が最終の延伸処理であることが好ましい。
【0019】
本発明の延伸フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、5〜100μmが好ましく、10〜80μmがより好ましい。厚みが100μmを超えると、それを用いた液晶表示装置の薄肉化において不利である。また、厚みが5μmを下回ると、製造時においてフィルムにシワなどが発生しやすくなり、巻き取りや貼合時の取り扱い性に劣る場合がある。
【0020】
本発明の延伸フィルムを、偏光板を構成する偏光フィルムの保護フィルムとして用いる場合、波長590nmにおける面内の位相差値R0は20nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5nm以下である。この保護フィルムの面内の位相差値R0が20nmより大きいと、その保護フィルムが貼合された偏光板を液晶表示装置に適用した際、黒表示時における光漏れが大きくなり、コントラスト比の低下が顕著となる傾向にある。また、余分な面内の位相差値R0を持つことにより、液晶表示装置の視野角特性に悪い影響を与える可能性がある。
【0021】
なお、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、厚みをdとするとき、面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthは、それぞれ下式(I)および(II)で定義される。
【0022】
0=(nx−ny)×d (I)
th=[(nx+ny)/2−nz]×d (II)。
【0023】
また、上記延伸フィルムのMD方向(machine direction、縦方向)と遅相軸または進相軸とのなす角度θは±5°以下であることが好ましく、より好ましくは±3°以下である。当該角度θが±5°よりも大きくなると、液晶表示装置に適用した際、黒表示時における光漏れが大きくなり、コントラスト比の低下が顕著となる傾向にある。
【0024】
さらに、上記延伸フィルムの面内の位相差値R0、MD方向と遅相軸とのなす角度θから計算される透過率パラメータは0.03%以下であることが好ましく、より好ましくは0.007%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下である。透過率パラメータが0.03%よりも大きくなると、液晶表示装置に適用した際、黒表示時における光漏れが顕著となり、コントラスト比の低下が顕著となる傾向にある。なお、透過率パラメータは、下記式:
透過率パラメータ=sin22θ×sin2(π×R0/590)
によって算出される。
【0025】
一方、上記延伸フィルムを位相差フィルムとして用いる場合、面内の位相差値R0は30〜500nmの範囲内であり、かつ、厚み方向の位相差値Rthは20〜500nmの範囲内であることが好ましい。この範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に合わせて、適宜選択することができる。面内の位相差値R0は、より好ましくは100nm以下であり、厚み方向の位相差値Rthは、より好ましくは80nm以上300nm以下である。
【0026】
なお、本発明の延伸フィルムを位相差フィルムとして用い、これを偏光フィルムに貼合する場合、偏光フィルムの吸収軸と延伸フィルムの遅相軸とのなす角度は、その用途に応じて適宜選択される。たとえば、波長板として用いる場合、偏光フィルムの吸収軸と延伸フィルムの遅相軸とのなす角度は、5〜85°であり、視野角補償フィルムとして用いる場合、偏光フィルムの吸収軸と延伸フィルムの遅相軸とのなす角度は、実質的に0°または90°である。
【0027】
位相差フィルムとしての上記延伸フィルムの透過率パラメータは0.03%以下であることが好ましく、より好ましくは0.007%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下である。透過率パラメータが0.03%よりも大きくなると、液晶表示装置に適用した際、黒表示時における光漏れが顕著となり、コントラスト比の低下が顕著となる傾向にある。
【0028】
本発明の延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、実質的にプロピレンの単独重合体からなる樹脂であってもよいし、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂であってもよい。プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂は、透明性、加工容易性において有利である。したがって、ポリプロピレン系樹脂として、プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなる樹脂を用いることにより、本発明の延伸フィルムの製造工程での取り扱い性をより向上させることが可能となる。
【0029】
ここで、「実質的にプロピレンの単独重合体」は、プロピレンユニットの含有量が100重量%である重合体のほか、未延伸フィルムの生産性向上等を目的として0.6重量%程度以下の範囲でエチレンユニットが含有されたプロピレン/エチレン共重合体も含むものとする。
【0030】
プロピレンと他の共重合性コモノマーとの共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーの1種または2種以上を少量共重合させたものであることが好ましい。具体的には、このような共重合体からなるポリプロピレン系樹脂は、コモノマーユニットを、たとえば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下の範囲で含有する樹脂であることができる。共重合体におけるコモノマーユニットの含有量は、少なくとも0.6重量%を超え、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。コモノマーユニットの含有量を1重量%以上とすることにより、加工性や透明性を有意に向上させ得る。一方、コモノマーユニットの含有量が20重量%を超えると、ポリプロピレン系樹脂の融点が下がり、耐熱性が低下する傾向にある。なお、2種以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来するユニットの合計含有量が、上記範囲であることが好ましい。
【0031】
プロピレンに共重合されるコモノマーは、たとえば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンであることができる。α−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4);1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5);1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6);1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7);1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8);1−ノネン(C9);1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0032】
上記α−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。
【0033】
共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。好ましい共重合体として、プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体を挙げることができる。プロピレン/エチレン共重合体やプロピレン/1−ブテン共重合体において、エチレンユニットの含有量や1−ブテンユニットの含有量は、たとえば、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法により赤外線(IR)スペクトル測定を行ない、求めることができる。
【0034】
延伸フィルムの透明度や加工性を向上させる観点からは、共重合体は、プロピレンを主体とするプロピレンと上記α−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましく、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体であることがより好ましい。プロピレン/エチレンランダム共重合体におけるエチレンユニットの含有量は、上述のとおり、1〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることがさらに好ましい。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分の範囲内であることが好ましく、0.5〜50g/10分の範囲内であることがより好ましく、0.5〜15g/10分の範囲内であることがさらに好ましい。MFRがこの範囲内にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく、樹脂組成および膜厚が均一な延伸フィルム作製用未延伸フィルムを得ることができる。
【0036】
本発明の延伸フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、公知の重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合性コモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。重合用触媒としては、たとえば、次のようなものを挙げることができる。
【0037】
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒など。
【0038】
上記(1)および(2)の触媒系におけるマグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報などに記載の触媒系が挙げられる。上記(2)の触媒系における有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、テトラエチルジアルモキサンなどが好ましく用いられ、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランなどが好ましく用いられる。
【0039】
また、上記(3)のメタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、特許第2668732号公報などに記載の触媒系が挙げられる。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法などによって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
【0041】
ポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤などを挙げることができる。添加物は、複数種が併用されてもよい。
【0042】
酸化防止剤としては、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドやオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ステアリン酸等の高級脂肪酸およびその塩などが挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状あるいはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。
【0043】
また、造核剤は、無機系造核剤、有機系造核剤のいずれでもよい。無機系造核剤としては、タルク、クレイ、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、有機系造核剤としては、芳香族カルボン酸の金属塩類、芳香族リン酸の金属塩類などの金属塩類、高密度ポリエチレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリシクロペンテン、ポリビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。これらの中でも有機系造核剤が好ましく、さらに好ましくは上記の金属塩類および高密度ポリエチレンである。造核剤の添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量%に対して0.01〜3重量%の範囲内であることが好ましく、0.05〜1.5重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
<延伸フィルムの製造方法>
本発明の延伸フィルムを作製するに際しては、まず、上記ポリプロピレン系樹脂を製膜することにより未延伸フィルムを得る。本発明の延伸フィルムは、この未延伸フィルムを直接、固定端延伸することにより、あるいは、この未延伸フィルムに対して、他の延伸処理と固定端延伸とを施すことにより得ることができる。
【0045】
(未延伸フィルムの作製)
ポリプロピレン系樹脂の未延伸フィルムを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、たとえば、溶融したポリプロピレン系樹脂を押出成形する方法;有機溶剤に溶解させたポリプロピレン系樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法などを挙げることができる。これらの方法によって、面内位相差が実質的にない未延伸フィルムを得ることができる。
【0046】
未延伸フィルムを製造する好ましい方法の一例として、押出成形による製膜法(押出成形法)について詳しく説明する。押出成形法においては、ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度とすることができる。溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られる未延伸フィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる可能性がある。また、溶融状シートの温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、溶融状シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりすることがある。
【0047】
押出機は、単軸押出機であっても二軸押出機であってもよい。たとえば単軸押出機の場合は、スクリューの長さLと直径Dとの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比である圧縮比V1/V2が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプまたはマドック型の混練部分を有するタイプなどのスクリューを用いることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点から、L/Dが28〜36であり、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることがより好ましい。
【0048】
また、ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気、または真空にすることが好ましい。さらに、ポリプロピレン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの押出機先端部分の樹脂圧力を高めることは、その先端部分での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径は、より好ましくは2mmφ以上4mmφ以下である。
【0049】
押出に使用されるTダイは、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融したポリプロピレン系樹脂との摩擦係数の小さい材料でめっき、またはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっきなどが挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる未延伸フィルムが得られる。Tダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
【0050】
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
【0051】
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状ポリプロピレン系樹脂の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、面内位相差が極めて低いレベルでより均一化された未延伸フィルムを得ることができる。
【0052】
なお、ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中の異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
【0053】
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロールまたはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間で挟圧され、両ロールによって冷却固化されて、未延伸フィルムとなる。タッチロールは、ゴムなどの弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを、上記のような金属製冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるに際しては、金属製冷却ロールおよびタッチロールの表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましい。たとえば、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、ポリプロピレン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られる未延伸フィルムの透明性が低下することがある。両ロールの表面温度は、より好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、両ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面に結露が生じて水滴が付着し、未延伸フィルムの外観を悪化させる場合がある。
【0055】
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態が未延伸フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸があると、得られる未延伸フィルムの厚み精度を低下させる場合がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は、可能な限り鏡面状態に近い方が好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.3S以下であることが好ましく、0.1S〜0.2Sであることがより好ましい。
【0056】
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のタッチロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を生じさせることなくフィルムに成形することが容易となる。
【0057】
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とすることが好ましく、100N/cm以上250N/cm以下とすることがより好ましい。線圧を上記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながら未延伸フィルムを製造することが容易となる。
【0058】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、およびポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。これらの中でも、湿度や熱などによる寸法変化の少ないポリエステルが好ましい。二軸延伸フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、好ましくは10〜30μmである。
【0059】
Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)は、200mm以下とすることが好ましく、160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを上記のように短くすることで、配向のより小さい未延伸フィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され、通常、50mm以上である。
【0060】
未延伸フィルムの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
【0061】
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧され、冷却固化されて得られる未延伸フィルムは、必要に応じて端部をスリットした後、通常、巻き取り機によってロール状に巻き取られる。この際、未延伸フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面、または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧する場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
【0062】
(固定端延伸)
本発明の延伸フィルムは、上記未延伸フィルムを直接、固定端延伸することにより、あるいは、未延伸フィルムに対して、他の延伸処理と固定端延伸とを施すことにより得ることができる。後者の好ましい例としては、未延伸フィルムに対して自由端延伸と固定端延伸とを逐次的に施すことが挙げられる。ただし、この例に限定されるものではなく、後述する特定条件の固定端延伸処理がなされる限りにおいて、未延伸フィルムに対し任意の延伸処理を施すことができる。すなわち、固定端延伸と他の延伸処理とを組み合わせる場合、これらがどのような順序であっても、高温環境下における透過率および透明性の低下が生じにくいポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることができる。ただし、ブリードを一層効果的に抑制する観点から、上記条件での固定端延伸が最終の延伸処理であることが好ましい。なお、以下では、固定端延伸に供されるフィルム(未延伸フィルムまたは自由端延伸されたフィルムなど)を原反フィルムともいう。
【0063】
本発明において固定端延伸としては、光学的に均一性が高い延伸フィルムが得られやすいことから、固定端横延伸が好ましく用いられる。代表的な固定端横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定したフィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げながら延伸する方法である。
【0064】
固定端横延伸は通常、以下の工程を有する。
(i)原反フィルムを、ポリプロピレン系樹脂の融点付近の温度で予熱する予熱工程;
(ii)予熱された原反フィルムを横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸する延伸工程;および、
(iii)横方向に延伸されたフィルムを熱固定する熱固定工程。
【0065】
テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)としては、予熱工程を行なうゾーン、延伸工程を行なうゾーン、および熱固定工程を行なうゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えたものが好ましく用いられる。このようなテンター延伸機を用いて固定端横延伸を行なうことにより、光学的に均一性が高い延伸フィルムを得ることができる。上記(i)〜(iii)の工程のうち、最も重要な工程は(ii)の工程であり、(i)および(iii)の工程は、高温環境下における透過率および透明性の低下が抑制された延伸フィルムを得るために適宜付加される。
【0066】
(i)予熱工程
本工程は、固定端延伸を行なう延伸工程(ii)の前に設置される工程であり、原反フィルムを延伸するのに十分な温度まで加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味し、ポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムの融点付近の温度が好ましい。具体的には90℃〜180℃の範囲内の温度、好ましくは110℃〜160℃の範囲内の温度で予熱を行なう。予熱温度が90℃に満たないと、原反フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(ii)で原反フィルムが固定端横延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、予熱温度が180℃を超えると、必要以上に熱が原反フィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。テンター延伸機の予熱工程を行なうゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの予熱温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0067】
予熱工程での原反フィルムの滞留時間は10〜120秒であることが好ましく、より好ましくは30〜90秒、さらに好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、原反フィルムがテンター延伸機の予熱工程を行なうゾーン内に存在する時間を意味する。予熱工程での滞留時間が10秒に満たないと、原反フィルムに熱が十分に与えられず、続く延伸工程(ii)で原反フィルムが固定端横延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、滞留時間が120秒を超えると、必要以上に熱が原反フィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。
【0068】
(ii)延伸工程
本工程において、予熱された原反フィルムは、横方向(フィルムの幅方向)に固定端延伸される。ここで、本発明においては、高温環境下に晒されたときの透過率および透明性の低下が抑制された、具体的には、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下、さらには0.3ポイント以下である延伸フィルムを得るために、本工程における延伸温度は100℃以上170℃以下、好ましくは110℃以上160℃以下とされ、かつ、延伸倍率は1.3倍以上、好ましくは1.5倍以上とされる。延伸温度とは、オーブンの延伸工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味する。また、延伸倍率とは、原反フィルムの延伸方向における長さに対する固体端延伸後の延伸フィルムの延伸方向における長さの比を意味し、テンター延伸機を用いた固定端横延伸においては、テンター延伸機入口におけるチャックにて固定された原反フィルム両端間の距離に対するテンター延伸機出口におけるチャックにて固定された延伸フィルム両端間の距離の比である。延伸温度または延伸倍率が、上記範囲を超えると、高温環境下に晒されたときのヘイズ値が顕著に増加する。
【0069】
延伸工程(ii)における延伸温度は、上記範囲内であれば特に制限されず、たとえば、上記範囲内に属する一定温度であってもよいし、あるいは、上記範囲内において延伸温度を徐々にもしくは段階的に変化させてもよい。また、テンター延伸機の延伸工程を行なうゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの延伸温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0070】
延伸工程(ii)での原反フィルムの滞留時間は、10〜1000秒が好ましく、30〜300秒であることがより好ましい。滞留時間とは、原反フィルムがテンター延伸機の延伸工程を行なうゾーン内に存在する時間を意味する。延伸工程での滞留時間が10秒に満たないと、急延伸により延伸応力が強くなり、得られる延伸フィルムの光学的な均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、滞留時間が1000秒を超えると、生産性が落ちる問題がある。
【0071】
(iii)熱固定工程
本工程は、延伸工程(ii)で延伸されたフィルムの光学的特性の安定性を効果的に確保するために実施される。この工程では、延伸工程(ii)におけるフィルムの幅をそのまま保持した状態で、所定の熱固定温度のゾーンに通過させる。熱固定工程での熱固定温度は、オーブンの熱固定工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味する。熱固定温度は、好ましくは60℃〜180℃の範囲内、より好ましくは80℃〜160℃の範囲内である。熱固定温度が60℃に満たないと、最終的に得られる延伸フィルムの熱安定性が不十分となる場合がある。また、熱固定温度が180℃を超えると、必要以上に熱が延伸フィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。なお、テンター延伸機の熱固定工程を行なうゾーンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの熱固定温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0072】
熱固定工程での延伸フィルムの滞留時間は10〜120秒であることが好ましく、より好ましくは30〜90秒、さらに好ましくは30〜60秒である。滞留時間とは、延伸フィルムがテンター延伸機の熱固定工程を行なうゾーン内に存在する時間を意味する。熱固定工程での滞留時間が10秒に満たないと、最終的に得られる延伸フィルムの熱安定性が不十分となる場合がある。また、滞留時間が120秒を超えると、生産性が落ちる問題がある。
【0073】
(iv)熱緩和工程
固定端横延伸は、さらに熱緩和工程を有してもよい。この熱緩和工程は、テンター法においては、通常、延伸工程(ii)と熱固定工程(iii)との間で行なわれ、熱緩和のゾーンは、他のゾーンから独立して温度設定が可能なように設けられるのが通例である。具体的には、熱緩和工程は、延伸工程(ii)において原反フィルムを所定の幅に延伸した後、残留歪を取り除くために、チャックの間隔を、通常、延伸終了時の間隔より0.5〜7%程度狭くして行なわれる。
【0074】
(自由端延伸)
上述のように、固定端延伸される原反フィルムは、自由端延伸などの他の延伸処理が施されたものであってもよい。自由端延伸としては、自由端一軸延伸が好ましく用いられ、より好ましくは自由端縦一軸延伸が用いられる。自由端縦一軸延伸とは、一対の延伸ローラ間には未延伸フィルムを支持したり、未延伸フィルムに接触したりする搬送ローラ、支持用平板、支持用ベルト等の部材がなく、未延伸フィルムが幅方向に自由に収縮・拡張できる状態で縦延伸することをいう。
【0075】
自由端縦一軸延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により未延伸フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間に配置されたオーブンを有する縦延伸機を用い、該オーブン中で未延伸フィルムを加熱しながら、上記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。これらの方法の中でも、光学的に均一性が高いフィルムが得られやすいことから、ロングスパン縦延伸法が好ましく、エアーフローティング方式のオーブンを用いたロングスパン縦延伸法がより好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、内部に未延伸フィルムを導入した際に、未延伸フィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造を有するオーブンである。エアーフローティング方式のオーブンには、通常、複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されており、未延伸フィルムは、当該上部ノズルおよび下部ノズルのいずれにも接触しない状態でオーブン内を通過することにより延伸される。
【0076】
自由端縦一軸延伸における延伸温度(上記エアーフローティング方式のオーブンを用いる場合は、当該オーブン中の雰囲気温度)は、未延伸フィルムの融点付近の温度が好ましい。具体的には100℃〜170℃の範囲内の温度、好ましくは115℃〜155℃の範囲内の温度で自由端縦一軸延伸を行なう。自由端縦一軸延伸温度が100℃に満たないと、未延伸フィルムに熱が十分に与えられず、未延伸フィルムが延伸されるときに応力が不均一にかかり、得られる自由端縦一軸延伸フィルムの軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、自由端縦一軸延伸温度が170℃を超えると、必要以上に熱が未延伸フィルムに与えられるために部分的に溶融し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。なお、オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの延伸温度は同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0077】
自由端縦一軸延伸の延伸倍率は、1.1〜2倍であることが好ましい。この範囲の縦延伸倍率を採用することにより、その後の固定端横延伸工程を経て、光学的な均一性に優れた本発明の延伸フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。フィルムの厚みおよびヘイズの測定は、次に示す方法で行なった。
【0079】
(1)フィルムの厚みの測定
デジタルマイクロメーターMH−15M((株)ニコン製)を用いて測定した。
【0080】
(2)フィルムのヘイズの測定
JIS K 7105に準拠した直読ヘイズコンピューターHGM−2DP(スガ試験機(株)製)を用いて測定した。
【0081】
<実施例1>
メルトフローレートが8g/10分であり、アイソタクチックの立体規則性を有するプロピレン−エチレンランダム共重合体(エチレン含有量:4.6重量%)を樹脂温度250℃で65mmφ押出機にて溶融混練し、800mm幅のTダイリップより押出すことにより、厚み100μmの未延伸フィルムを作製した。
【0082】
この未延伸フィルムを、テンター延伸機を用い、ロングスパン延伸法にて自由端縦一軸延伸した。入口ライン速度を3m/分とし、温度が110℃に調節された1mの予熱ゾーンに通し、続いて、温度が110℃に調節された延伸ゾーンに通し、延伸倍率が1.8倍となるように延伸した。
【0083】
なお、各ゾーンを通過するフィルム温度を、各ゾーンの中央および出口にて放射温度計で測定したところ、いずれのゾーンとも設定温度と等しい値を示した。
【0084】
次いで、上記自由端縦一軸延伸されたフィルムに、テンター延伸機を用いて、固定端横延伸工程を施した。具体的には、自由端縦一軸延伸されたフィルムの走行速度を1m/分とし、まず温度が140℃に調節された1mの予熱ゾーンに通し(予熱工程)、続いて、温度が130℃に調節された2mの横延伸ゾーンで延伸倍率が2.85倍となるように延伸し(延伸工程)、さらに温度が100℃に調節された1mの熱固定ゾーンを通し(熱固定工程)、得られた延伸フィルム(位相差フィルム)をロール状に巻き取った。なお、予熱ゾーンおよび熱固定ゾーンでの滞留時間は双方ともに60秒であり、横延伸ゾーンでの滞留時間は120秒であった。
【0085】
<実施例2>
実施例1で作製した未延伸フィルムを、テンター延伸機を用い、ロングスパン延伸法にて自由端縦一軸延伸した。入口ライン速度を3m/分とし、温度が125℃に調節された1mの予熱ゾーンに通し、続いて、温度が125℃に調節された延伸ゾーンに通し、延伸倍率が1.5倍となるように延伸した。
【0086】
次いで、上記自由端縦一軸延伸されたフィルムに、テンター延伸機を用いて、固定端横延伸工程を施した。具体的には、自由端縦一軸延伸されたフィルムの走行速度を1m/分とし、まず温度が135℃に調節された1mの予熱ゾーンに通し(予熱工程)、続いて、温度が125℃に調節された2mの横延伸ゾーンで延伸倍率が1.5倍となるように延伸し(延伸工程)、さらに温度が100℃に調節された1mの熱固定ゾーンを通し(熱固定工程)、得られた延伸フィルム(位相差フィルム)をロール状に巻き取った。なお、保温ゾーンおよび熱固定ゾーンの滞留時間は双方ともに60秒であり、横延伸ゾーンでの滞留時間は120秒であった。
【0087】
<実施例3>
固定端延伸の延伸倍率を2.5倍に変更した以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0088】
<実施例4>
固定端延伸の延伸倍率を3.0倍に変更した以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0089】
<実施例5>
実施例1で作製した未延伸フィルムを、自由端縦一軸延伸を行なうことなく、テンター延伸機を用いて、固定端横延伸工程を施した。具体的には、未延伸フィルムの走行速度を1m/分とし、まず温度が110℃に調節された1mの予熱ゾーンに通し(予熱工程)、続いて、温度が100℃に調節された2mの横延伸ゾーンで延伸倍率が1.5倍となるように延伸し(延伸工程)、さらに温度が100℃に調節された1mの熱固定ゾーンを通し(熱固定工程)、得られた延伸フィルム(位相差フィルム)をロール状に巻き取った。なお、保温ゾーンおよび熱固定ゾーンの滞留時間は双方ともに60秒であり、横延伸ゾーンでの滞留時間は120秒であった。
【0090】
<実施例6>
固定端延伸の予熱温度を135℃、延伸温度を125℃に変更した以外は、実施例5と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0091】
<実施例7>
固定端延伸の予熱温度を140℃、延伸温度を130℃に変更した以外は、実施例5と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0092】
<実施例8>
固定端延伸の予熱温度を110℃、延伸温度を100℃に変更した以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0093】
<実施例9>
固定端延伸の予熱温度を140℃、延伸温度を130℃に変更した以外は、実施例2と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0094】
<実施例10>
自由端縦一軸延伸の延伸倍率を1.7倍に変更した以外は、実施例9と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0095】
<実施例11>
自由端縦一軸延伸の延伸倍率を2.0倍に変更した以外は、実施例9と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0096】
<比較例1>
実施例1で作製した未延伸フィルムを本比較例のフィルムとした。
【0097】
<比較例2>
実施例2で作製した自由端縦一軸延伸フィルムを本比較例のフィルムとした。
【0098】
<比較例3>
固定端延伸の延伸倍率を1.0倍に変更した(すなわち、幅方向のチャック幅を変えずに横延伸ゾーンを通した)以外は、実施例9と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0099】
<比較例4>
自由端縦一軸延伸の延伸倍率を1.7倍に変更した以外は、比較例3と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0100】
<比較例5>
自由端縦一軸延伸の延伸倍率を2.0倍に変更した以外は、比較例3と同様にして延伸フィルムを作製した。
【0101】
実施例1〜11および比較例1〜5で採用した延伸条件を表1にまとめた。また、得られたフィルムについて測定した、100℃で150時間保持した後および保持する前のヘイズ値、ならびに、それらのヘイズ値の差を表2に示した。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
表2に示されるように、比較例1〜5のフィルムにおいては、100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が0.5ポイントを大幅に超える一方、実施例1〜11の延伸フィルムでは、ヘイズ値の変化(増加)がほとんど起こらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂からなる延伸フィルムであって、
100℃以上170℃以下の温度で、倍率1.3倍以上に固定端延伸されており、
100℃で150時間保持することによるヘイズ値の変化が%表示のヘイズ値の差で0.5ポイント以下である、延伸フィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂は、10重量%以下のエチレンユニットを含有するプロピレンとエチレンとの共重合体からなる請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の延伸フィルムからなり、液晶表示装置に用いられる光学フィルム。

【公開番号】特開2011−194715(P2011−194715A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63963(P2010−63963)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】