説明

延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法及び延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シート

【課題】延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの結晶化を抑制しなくてもよく、結晶化度が15%以上である延伸前ポリブチレンテレフタレートを延伸して容易に成形することができる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法では、結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シート(ガラス転移温度Tg(℃))を、一対の第1,第2の拘束部材間に配置した状態で、該第1,第2の拘束部材を介して、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを、引抜延伸する。上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シート及び上記第1,第2の拘束部材の各温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを延伸する延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法、並びに延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、耐水性、難燃性及び機械的特性等に優れている。また、塩化ビニル系樹脂は、比較的安価である。このため、塩化ビニル系樹脂は、雨樋などの建築部材の材料として広く使用されている。
【0003】
また、硬質塩化ビニル系樹脂を成形した成形体の線膨張係数は、7.0×10−5(1/℃)であり、比較的大きい。このため、硬質塩化ビニル系樹脂製の雨樋を設置する際には、雨樋の伸縮を吸収しうる継手で雨樋を接続したり、雨樋の端部をフリーにしたりしなければならないという問題がある。また、雨樋が長いと、継手が大きくなって外観が悪くなったり、雨樋が長期に渡り使用されると、継手部分が破損したりすることがある。さらに、雨樋自身の伸縮の繰り返しにより、雨樋にひび割れ及び反りが発生することがある。従って、硬質塩化ビニル系樹脂製の雨樋では、長期間使用する際の信頼性が低いという欠点がある。
【0004】
そこで、線膨張係数の低い雨樋の開発が検討されている。例えば、下記の特許文献1には、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの両面に、熱可塑性樹脂層が積層されている積層成形体が開示されている。ここでは、延伸されるポリブチレンテレフタレート樹脂シートの結晶化度は、好ましくは10%未満であることが記載されている。また、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを延伸した後、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの両面に、塩化ビニル樹脂シートなどの熱可塑性樹脂層を積層することにより、上記積層成形体を得ている。得られる積層成形体では、線膨張係数が低くなり、実施例1では、線膨張係数が2.2×10−5(1/℃)である積層成形体が得られている。
【0005】
また、下記の特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの結晶性ポリマーを含む組成物を押出して、押出された組成物を40℃/秒以上で高速冷却して延伸前成形体を得た後、得られた延伸前成形体を延伸する空洞含有樹脂成形体の製造方法が開示されている。ここでは、上記延伸前成形体のα晶の結晶化度は、好ましくは15%以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−126542号公報
【特許文献2】特開2010−69830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、得られる積層成形体の線膨張係数をある程度低くすることができる。しかし、線膨張係数を充分に低くするために、ポリエチレンテレフタレート樹脂シートの両面に塩化ビニル樹脂シートを積層している。
【0008】
また、特許文献1の実施例では、結晶化度が9%の延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートをロール間で引抜延伸しているにすぎない。
【0009】
特許文献2では、結晶化度が15%以下である延伸前の上記成形体を得るために、押し出された組成物を高速冷却している。ここでは、成形体の厚みが200μmを超えると高速冷却が困難となり、得られる成形体のヘイズが高くなる、すなわち、結晶化度が15%を超えてしまうことが記載されている。すなわち、高速冷却成形が可能な厚みが限定される。
【0010】
特許文献2において、ポリブチレンテレフタレート樹脂を用いて、結晶化度が15%以下である成形体を得ると、得られる成形体のガラス転移温度が約30℃であるため、成形体を得た後、該成形体を延伸するまでの保管時に、低温(例えば、常温以下)で保管しなければ、部分的に結晶化が進行するという問題がある。すなわち、延伸前の成形体の結晶化度が15%を超えることがある。
【0011】
また、特許文献2の実施例では、α晶の結晶化度が8〜10%の延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを一軸延伸しているにすぎない。特許文献2の比較例では、α晶の結晶化度が20〜22%の延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを一軸延伸しようとしたところ、延伸することができなかったことが記載されている。
【0012】
特許文献2に記載のように、結晶化度が高いポリブチレンテレフタレート樹脂シートを特許文献2に記載の延伸方法により延伸する場合には、延伸することができなかったり、延伸時に破れたり、延伸むらが生じたりしやすいという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの結晶化を抑制しなくてもよく、従来延伸が困難であった結晶化度が15%以上である延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートであっても、容易に延伸して成形することができる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法並びに延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の広い局面によれば、第1の主面と第2の主面とを有しかつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートと、一対の第1,第2の拘束部材とを用いて、上記第1の主面上に上記第1の拘束部材を配置しかつ上記第2の主面上に上記第2の拘束部材を配置した状態で、上記第1,第2の拘束部材を介して、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを引抜延伸する延伸工程を備え、上記延伸工程において、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、上記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸する、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法が提供される。
【0015】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法のある特定の局面では、上記一対の第1,第2の拘束部材として、一対の第1,第2のロールが用いられる。
【0016】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法の他の特定の局面では、引抜延伸前の上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの厚みをt(mm)としたときに、引抜延伸時に、一対の上記第1,第2の拘束部材の間隔(mm)が0.15t以上、0.5t以下にされる。
【0017】
本発明の広い局面によれば、第1の主面と第2の主面とを有しかつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートと、一対の第1,第2の拘束部材とを用いて、上記第1の主面上に上記第1の拘束部材を配置しかつ上記第2の主面上に上記第2の拘束部材を配置した状態で、上記第1,第2の拘束部材を介して、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、上記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸することにより得られた延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートが提供される。
【0018】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂シートのある特定の局面では、上記一対の第1,第2の拘束部材は、一対の第1,第2のロールである。
【0019】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート樹脂シートの他の特定の局面では、引抜延伸前の上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの厚みをt(mm)としたときに、引抜延伸時に、一対の上記第1,第2の拘束部材の間隔(mm)は0.15t以上、0.5t以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法では、結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シート(ガラス転移温度:Tg(℃))を一対の第1,第2の拘束部材の間に配置した状態で、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、上記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸するので、延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの結晶化を抑制しなくてもよく、更に従来延伸が困難であった結晶化度が15%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートであっても、容易に延伸して成形することができる。
【0021】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートは、結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シート(ガラス転移温度:Tg(℃))を一対の第1,第2の拘束部材の間に配置した状態で、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、上記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸することにより得られているので、従来延伸が困難であった結晶化度が15%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートを延伸して成形されており、延伸前のポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化度が15%以上であっても、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを良好な成形体とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0023】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法では、第1の主面と第2の主面とを有し、かつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シート(以下、延伸前シートAと略記することがある)を引抜延伸する。
【0024】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートは、第1の主面と第2の主面とを有し、かつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シート(以下、延伸前シートAと略記することがある)を引抜延伸することにより得られた延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートである。
【0025】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法及び本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートでは、上記延伸の際に、延伸前シートAと、一対の第1,第2の拘束部材とを用いる。本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法及び本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートでは、延伸前シートAの上記第1の主面上に上記第1の拘束部材を配置し、かつ延伸前シートAの上記第2の主面上に上記第2の拘束部材を配置した状態で、上記第1,第2の拘束部材を介して、上記延伸前シートAを引抜延伸する。なお、上記延伸前シートAは、引抜延伸前のシートを示す。
【0026】
上記引抜延伸の際に、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シート(延伸前シートA)を、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下として、引抜延伸する。さらに、上記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下として、引抜延伸する。さらに、延伸倍率を2倍以上、8倍以下とする。
【0027】
上記構成の採用により、延伸前ポリブチレンテレフタレート樹脂シート(延伸前シートA)の結晶化を抑制しなくてもよく、更に従来延伸が困難であった結晶化度が15%以上である延伸前シートAであっても、容易に延伸して成形することができる。但し、結晶化度が15%以上である延伸前シートAの結晶化を抑制してもよい。
【0028】
以下、上記延伸前シートA、一対の第1,第2の拘束部材及び引抜延伸の方法などの詳細を、具体的に説明する。
【0029】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂シート(延伸前シートA))
上記延伸前シートAを構成するポリブチレンテレフタレート樹脂は、例えば、酸成分であるテレフタル酸又はテレフタル酸のエステル類と、ジオール成分である1,4−ブタンジオールとを主たる原料成分として用いて得られる。ただし、必要に応じて、他の酸成分及び他のジオール成分を少量用いても差し支えない。
【0030】
上記他の酸成分としては、例えば、芳香族ジカルボン酸及び炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのエステル類を用いてもよい。上記芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン及び4,4−スルホニルジ安息香酸等が挙げられる。上記炭素数2〜12の脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0031】
上記他のジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールを除くブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、p−キシリレングリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、1,4−ジメチロールテトラブロモベンゼン、TBA−EO、オキシ酸であるp−オキシ安息香酸、及びp−(β−ヒドロキシエトキシ)安息香酸等などが挙げられる。
【0032】
上記ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度[η]は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.6以下である。上記固有粘度[η]が上記下限以上であると、シート成形時にドローダウンを起こしにくくなる傾向がある。上記固有粘度[η]が上記上限以下であると、延伸成形時にシートが破断し難くなる。上記固有粘度[η]は、JIS K7367−1により測定される。
【0033】
上記延伸前シートAの厚みは特に限定されない。延伸前シートAの厚みは、好ましくは0.02mm以上、より好ましくは0.03mm以上、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下である。延伸前シートAの厚みが上記下限以上であると、成形可能な条件の幅が広くなる。延伸前シートAの厚みが上記上限以下であると、延伸成形がより一層容易になる。
【0034】
上記延伸前シートAは結晶状態である。ポリブチレンテレフタレート樹脂は結晶化速度が非常に速い。このため、一般に結晶化度が15%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートでは、部分的に結晶化が進行したりして、成形が困難になったり、良好な成形体が得られないことがある。一方で、結晶化度15%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度が約30℃であることから、結晶化度15%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートを室温で保管した場合には、時間の経過と共に結晶化度が15%以上に上昇することがあり、結晶化度の制御が困難である。一方で、結晶化度が15%以上であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートは、従来延伸成形が困難であり、延伸成形体を得るのに適さないと考えられていた。
【0035】
本発明では、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを得るために、結晶化度χcが15%以上、50%未満である延伸前シートAを用いる。このような結晶化度χcを有する延伸前シートは、結晶化度χcが15%未満であるシートと比べて、結晶化が更に進行し難い。従って、延伸前シートAの結晶化の制御が容易である。延伸前シートAの結晶化の制御をより一層容易にする観点からは、延伸前シートAの結晶化度χcは、好ましくは15%を超え、より好ましくは16%以上、更に好ましくは20%以上、好ましくは40%未満である。本発明では、延伸前シートAの結晶化度χcが20%以上であっても、容易に成形可能であり、良好な成形体を得ることができる。
【0036】
上記結晶化度χcは、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、1989年発行)に記載の融解熱による方法(融解熱法)を用いて求められる。なお、上記飽和ポリエステル樹脂ハンドブックでは、上記結晶化度χcの測定方法として、密度測定による方法(密度法)と融解熱による方法(融解熱法)とが記載されているが、延伸前シートAの厚みが薄い場合などには、上記融解熱法の方が、上記密度法よりも、結晶化度χcに誤差が生じにくい。
【0037】
(一対の第1,第2の拘束部材)
一対の上記第1,第2の拘束部材としては、所定のクリアランスを有する一対の第1,第2の引抜金型及び所定のクリアランスを有する第1,第2のロール等が挙げられる。上記第1の拘束部材と上記第2の拘束部材とは一体的に形成されていてもよい。延伸後のシート厚みの制御が容易であり、装置の特定部位の磨耗が生じにくいという点で、一対の第1,第2の拘束部材は、一対の第1,第2のロールであることが好ましい。
【0038】
(引抜延伸の方法)
上記引抜延伸の際には、延伸前シートAの第1の主面上に上記第1の拘束部材を配置し、かつ延伸前シートAの第2の主面上に上記第2の拘束部材を配置した状態にする。すなわち、上記第1の拘束部材と上記第2の拘束部材との間に、延伸前シートAを配置する。延伸前シートAの第1の主面に上記第1の拘束部材を積層することが好ましく、延伸前シートAの第2の主面に上記第2の拘束部材を積層することが好ましい。上記第1の拘束部材と上記第2の拘束部材との間に、延伸前シートAを挟み込むことが好ましい。上記引抜延伸の際には、延伸前シートAと第1の拘束部材とは面接触していてもよく、線状に接触していてもよく、また延伸前シートAと第2の拘束部材とは面接触していてもよく、線状に接触していてもよい。
【0039】
上記のような配置で、一対の上記第1,第2の拘束部材を介して、上記延伸前シートAを引抜延伸する。引抜延伸の際には、所定のクリアランスを有する一対の第1,第2の引抜金型を通して引抜延伸をしてもよいし、所定のクリアランスを有する一対の第1,第2のロール間を通して引抜延伸をしてもよい。中でも、延伸後のシート厚みの制御が容易であり、装置の特定部位の磨耗が生じにくいという点で、一対の第1,第2のロールを通して引抜延伸する方法が好ましい。
【0040】
上記延伸前シートAを引抜く際に、一対の第1,第2のロールは必ずしも回転している必要はない。延伸前シートAの厚みが厚い場合には特に、せん断発熱によるロールの蓄熱に起因するシートの温度上昇が生じやすいため、上記延伸前シートAを引抜く際に、引抜方向に、一対の第1,第2のロールを回転させることが好ましい。
【0041】
延伸前シートAのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、本発明では、引抜延伸する際の延伸前シートAの温度(シート温度)を、(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下にする。引抜延伸する際の延伸前シートAの温度は、好ましくは(Tg−30)℃以上、好ましくは(Tg+70)℃以下である。
【0042】
引抜延伸する際の延伸前シートAの温度が上記下限以上であると、引抜の際の摩擦力が小さくなるため、シートが破断し難くなり、更に得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの外観が良好になる。引抜延伸する際の延伸前シートAの温度が上記上限以下であると、結晶化の影響による延伸阻害が生じ難くなり、高倍率での延伸が可能になり、更に得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの弾性率をより一層高くし、かつ線膨張率をより一層低くすることができる。
【0043】
延伸前シートAのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、引抜延伸する際の雰囲気温度は、好ましくは(Tg−40)℃以上、より好ましくは(Tg−30)℃以上、好ましくは(Tg+100)℃以下、より好ましくは(Tg+70)℃以下である。
【0044】
上記延伸前シートAの温度制御の方法については特に限定されず、延伸前シートAを熱風式恒温加熱槽の中に通す方法、延伸前シートAを温調されたロールに接触させる方法、電熱線、遠赤外線又は近赤外線などの加熱媒体を延伸前シートAに照射する方法、並びに加熱した液体媒体中に延伸前シートAを通す方法などが挙げられる。これら以外の方法を用いてもよい。簡便で安価に利用可能な熱風式恒温加熱槽を用いる方法が好ましい。
【0045】
延伸前シートAのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、本発明では、引抜延伸する際の上記第1,第2の拘束部材の温度は、(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下にする。引抜延伸する際の延伸前シートAの温度は、好ましくは(Tg−30)℃以上、好ましくは(Tg+70)℃以下である。
【0046】
引抜延伸する際の上記第1,第2の拘束部材の温度が上記下限以上であると、引抜の際の摩擦力が小さくなるため、シートが破断し難くなり、更に得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの外観が良好になる。引抜延伸する際の上記第1,第2の拘束部材の温度が上記上限以下であると、結晶化の影響による延伸阻害が生じ難くなり、高倍率での延伸が可能になり、更に得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの弾性率をより一層高くし、かつ線膨張率をより一層低くすることができる。
【0047】
引抜延伸する際の延伸倍率は、2倍以上、8倍以下である。引抜延伸する際の延伸倍率は、好ましくは3倍以上、好ましくは6倍以下である。延伸倍率が上記下限以上であると、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの引張強度及び引張弾性率がより一層高くなる。延伸倍率が上記上限以下であると、シートが破断し難くなる。
【0048】
ポリブチレンテレフタレート樹脂シート(延伸前シートA)の厚みをt(mm)としたときに、引抜延伸時に、一対の上記第1,第2の拘束部材の間隔を0.15t以上、0.5t以下にすることが好ましい。このような間隔とすることにより、シートが破断し難くなり、更に得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの外観が良好になる。
【0049】
引抜延伸されたポリブチレンテレフタレート樹脂シートは、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートとして利用することができる。
【0050】
また、引抜延伸されたポリブチレンテレフタレート樹脂シートは、さらに延伸(第2の延伸)された後、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートとして利用されてもよい。第2の延伸を行う場合には、引抜延伸されたポリブチレンテレフタレート樹脂シートを一軸延伸してもよい。一軸延伸を行うことにより、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの引張強度及び引張弾性率がより一層高くなる。
【0051】
上記一軸延伸する方法として、ロール延伸法が好適に用いられる。該ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間にシートを挟み、所定の温度でシートを引っ張る方法である。ロール延伸法により、一軸方向に強く分子配向させることができる。
【0052】
上記一軸延伸する際のシート温度及び雰囲気温度はそれぞれ、引抜延伸する際の一対の第1,第2の拘束部材の温度よりも高いことが好ましい。一軸延伸する際のシート温度及び雰囲気温度が引抜延伸する際の一対の第1,第2の拘束部材の温度よりも高いと、引抜延伸されたポリブチレンテレフタレート樹脂シートが溶融して切断され難くなる。従って、一軸延伸する際の温度は、ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの融解温度以下であることが好ましい。上記融解温度は、JIS K7121により測定される樹脂の転移点温度を示す。
【0053】
なお、ポリブチレンテレフタレートの融解温度は約225℃である。従って、引抜延伸されたポリブチレンテレフタレート樹脂シートを一軸延伸する際には、一軸延伸されるシート温度を225℃以下として一軸延伸することが好ましく、雰囲気温度を225℃以下として一軸延伸することが好ましい。
【0054】
上記一軸延伸する際の延伸倍率は特に限定されない。上記一軸延伸する際の延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.1倍以上、好ましくは3倍以下、より好ましくは2倍以下である。引抜延伸と一軸延伸とにおける合計の延伸倍率は、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3倍以上、好ましくは10倍以下、より好ましくは8倍以下である。上記一軸延伸する際の延伸倍率、及び引抜延伸と一軸延伸とにおける合計の延伸倍率が上記下限以上であると、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの引張強度及び引張弾性率がより一層高くなる。上記一軸延伸する際の延伸倍率、及び引抜延伸と一軸延伸とにおける合計の延伸倍率が上記上限以下であると、一軸延伸時にシートが破断し難くなる。延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの弾性率をより一層高め、かつ線膨張係数をより一層低くする観点からは、延伸倍率は高いほどよい。
【0055】
本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法により得られる延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シート及び本発明に係る延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートに関しては、引張弾性率は好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3PGa以上であり、引張強度は好ましくは100MPa以上、より好ましくは130MPa以上である。引張弾性率及び引張強度は高いほどよい。
【0056】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0057】
以下の実施例において、ガラス転移温度Tg(℃)、融解温度、結晶化度及び延伸倍率は、下記のようにして求められた値である。
【0058】
(ガラス転移点温度Tg)
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC−220C)を用いて、サンプルを−100℃まで冷却した後、昇温速度10℃/分にて300℃まで加熱し、JIS K7121に準拠して測定した。ここで、中間点ガラス転移温度Tmgをガラス転移温度とした。
【0059】
(融解温度)
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC−220C)を用いて、サンプルを−100℃まで冷却した後、昇温速度10℃/分にて300℃まで加熱し、JIS K7121に準拠して測定した。ここで、融解ピーク温度Tpmを融解温度とした。
【0060】
(結晶化度)
<密度法>
ガス置換法により密度ρを測定し、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、1989年発行)に記載の密度測定による結晶化度測定方法を用いて下記式(1)により結晶化度χcを求めた。
【0061】
結晶化度χc=ρc(ρ−ρa)/(ρ・(ρc−ρa)) ・・・式(1)
ρ:試料の密度(g/cm
ρc:結晶相の密度(1.404g/cm
ρa:非晶相の密度(1.280g/cm
【0062】
<融解熱法>
飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、1989年発行)に記載の融解熱を用いた測定方法により求めた。上記融解温度測定により融解熱ΔHfを測定し、下記式(2)により結晶化度χcを求めた。
【0063】
結晶化度χc=ΔHf/145(J/g) ・・・式(2)
ΔHf:融解熱
【0064】
(延伸倍率)
延伸倍率は、延伸後のシート断面積に対する延伸前のシート断面積により求めた。したがって、延伸による密度変化は無視した。
【0065】
(実施例1)
ポリブチレンテレフタレートを溶融押出しした後、急冷して得られた厚さ0.42mmの延伸前ポリブチレンテレフタレートシートを用意した。
【0066】
上記延伸前のポリブチレンテレフタレートシートのガラス転移温度Tgは48℃、融解温度は221℃、密度法による結晶化度は27.7%(密度1.31214g/cm)、融解熱法による結晶化度は29.3%(融解熱42.6J/g)であった。
【0067】
室温23℃の部屋で、50℃に加熱制御された一対の回転していないロール(ロール間距離0.15mm)間にシート温度23℃で、上記ポリブチレンテレフタレートシートを通し、2m/分の速度で引き抜いて、延伸倍率5.0倍、厚さ0.10mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0068】
(実施例2)
シート温度を23℃から50℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率5.0倍、厚さ0.10mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0069】
(実施例3)
ロールの温度を加熱により制御せずに、ロール温度を50℃から23℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率5.5倍、厚さ0.08mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。なお、実施例3では、延伸の初期では、シートは破断しなかったが、延伸後しばらくするとシートが破断した。
【0070】
(実施例4)
ロールの加熱制御温度を50℃から72℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率4.8倍、厚さ0.11mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0071】
(実施例5)
シート温度を23℃から72℃に変更したこと、ロールの加熱制御温度を50℃から72℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率4.2倍、厚さ0.13mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0072】
(実施例6)
ロールの加熱制御温度を50℃から126℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率3.1倍、厚さ0.17mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0073】
(実施例7)
ロールの加熱制御温度を50℃から138℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして延伸を行い、延伸倍率2.7倍、厚さ0.22mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。
【0074】
(実施例8)
ポリブチレンテレフタレートを溶融押出しした後、急冷して得られた厚さ0.04mmのポリブチレンテレフタレートシートを用意した。
【0075】
上記延伸前のポリブチレンテレフタレートシートのガラス転移温度Tgは34℃、融解温度は222℃、融解熱法による結晶化度は29.6%(融解熱43.0J/g)であった。
【0076】
室温28℃の部屋で、50℃に加熱制御された一対の回転していないロール(ロール間距離0.02mm)間にシート温度28℃で、上記延伸前ポリブチレンテレフタレートシートを通し、2m/分の速度で引き抜いて、延伸倍率4.0倍、厚さ0.015mmの延伸ポリブチレンテレフタレートシートを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と第2の主面とを有しかつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートと、一対の第1,第2の拘束部材とを用いて、前記第1の主面上に前記第1の拘束部材を配置しかつ前記第2の主面上に前記第2の拘束部材を配置した状態で、前記第1,第2の拘束部材を介して、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを引抜延伸する延伸工程を備え、
前記延伸工程において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、前記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸する、延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記一対の第1,第2の拘束部材として、一対の第1,第2のロールを用いる、請求項1に記載の延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
引抜延伸前の前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの厚みをt(mm)としたときに、引抜延伸時に、一対の前記第1,第2の拘束部材の間隔(mm)を0.15t以上、0.5t以下にする、請求項1又は2に記載の延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
第1の主面と第2の主面とを有しかつ結晶化度が15%以上、50%未満であるポリブチレンテレフタレート樹脂シートと、一対の第1,第2の拘束部材とを用いて、前記第1の主面上に前記第1の拘束部材を配置しかつ前記第2の主面上に前記第2の拘束部材を配置した状態で、前記第1,第2の拘束部材を介して、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートを、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、前記第1,第2の拘束部材の温度を(Tg−40)℃以上、(Tg+100)℃以下とし、かつ延伸倍率を2倍以上、8倍以下として引抜延伸することにより得られた延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シート。
【請求項5】
前記一対の第1,第2の拘束部材が、一対の第1,第2のロールである、請求項4に記載の延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シート。
【請求項6】
引抜延伸前の前記ポリブチレンテレフタレート樹脂シートの厚みをt(mm)としたときに、引抜延伸時に、一対の前記第1,第2の拘束部材の間隔(mm)が0.15t以上、0.5t以下である、請求項4又は5に記載の延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂シート。

【公開番号】特開2012−125983(P2012−125983A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278457(P2010−278457)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】