説明

延伸抽出繊維の製造方法、延伸抽出繊維、及び不織布

【課題】 引張り強さの高い延伸抽出繊維の製造方法、引張り強さの高い延伸抽出繊維、及び強度の優れる不織布を提供すること。
【解決手段】 本発明の延伸抽出繊維の製造方法は、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む未延伸複合繊維を紡糸する紡糸工程、前記未延伸複合繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を形成する抽出工程、前記未延伸抽出繊維束を延伸して延伸抽出繊維を形成する延伸工程、とを備えている。本発明の延伸抽出繊維は前記製造方法により製造したものである。本発明の不織布は前記製造方法により製造した延伸抽出繊維を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸抽出繊維の製造方法、延伸抽出繊維、及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維径の小さい繊維を濾過材を構成する繊維として使用すると、微細な固体を濾過することができる。繊維の繊維径が小さければ小さい程、より濾過性能が向上すると考えられるため、濾過材を構成する繊維として、繊維径のより小さい繊維を使用するのが好ましい。また、この繊維は耐薬品性やエレクトレット性などの点で優れているポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。
【0003】
また、繊維径の小さい繊維を電池用セパレータを構成する繊維として使用すると、電気絶縁性に優れるとともに、電解液の保持性に優れているため、好適に使用できる。また、この場合も繊維は耐電解液性に優れているポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。
【0004】
そのため、本願出願人はポリオレフィン系樹脂の1つであるポリプロピレンからなる極細繊維を発生できる極細繊維発生可能繊維として、融点が166℃以上の高融点ポリプロピレンを島成分とする海島型繊維を提案した(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−160432号公報(特許請求の範囲、段落番号0011など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような極細繊維発生可能繊維を切断し、抽出して極細繊維を発生させると、極細繊維同士が圧着していない状態の極細繊維を発生させることができ、極細繊維を均一に分散させることができるため、濾過性能や電気絶縁性能等に優れる濾過材や電池用セパレータを製造できるものであった。
【0007】
近年、繊維径の小さい繊維を含む濾過材や電池用セパレータなどの不織布に対する更なる要求物性として、従来以上に強度の優れるものが要求されている。そのため、従来の極細繊維のような繊維径の小さい繊維の引張り強さが高ければ、繊維径の小さい繊維を含む不織布の強度もより優れるものとなると予測されるため、引張り強さが強く、繊維径の小さい繊維が待ち望まれていた。
【0008】
そのため、本発明は引張り強さの高い延伸抽出繊維の製造方法、引張り強さの高い延伸抽出繊維、及び強度の優れる不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは従来の繊維径の小さい繊維を製造する方法について検討したところ、未延伸複合繊維を延伸して延伸複合繊維とした後に樹脂成分を除去することによって繊維径の小さい繊維を製造していることに起因することを見出した。つまり、未延伸複合繊維は少なくとも2種類の樹脂から構成されており、個々の樹脂によって好適な延伸温度が異なるが、いずれの樹脂も損傷しない条件で延伸する必要があるため、十分に延伸できないことによって、十分な引張り強さをもった繊維径の小さい繊維を製造できないことを見出したのである。
【0010】
本発明は上記の知見に基いて、未延伸複合繊維の樹脂成分を除去して残留した樹脂成分からなる繊維径の小さい未延伸残留繊維を延伸することによって、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい繊維を製造できることを見出したものである。
【0011】
つまり、本発明の請求項1にかかる発明は、「所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む未延伸複合繊維を紡糸する紡糸工程、前記未延伸複合繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を形成する抽出工程、前記未延伸抽出繊維束を延伸して延伸抽出繊維を形成する延伸工程、とを備えていることを特徴とする、延伸抽出繊維の製造方法」である。このように、未延伸複合繊維の第1の樹脂成分を除去した後に、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を好適な温度で高延伸できるため、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維を製造することができる。
【0012】
本発明の請求項2にかかる発明は、「延伸抽出繊維が、繊維径が4μm以下、かつ引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系延伸抽出繊維であることを特徴とする、請求項1記載の延伸抽出繊維の製造方法」である。この製造方法によれば、耐薬品性やエレクトレット性などの点で優れ、しかも優れた引張り強さをもち、繊維径の小さいポリオレフィン系延伸抽出繊維を製造できる。このポリオレフィン系延伸抽出繊維は濾過材や電池用セパレータ用に使用できるなど、汎用性の高いものである。
【0013】
本発明の請求項3にかかる発明は、「延伸抽出繊維がポリプロピレンからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の延伸抽出繊維の製造方法」である。ポリプロピレンは比較的融点が高く耐熱性に優れているため、耐熱性に優れる延伸抽出繊維を製造することができる。この延伸抽出繊維を使用した不織布は耐熱性を必要とする用途に好適に使用できる。
【0014】
本発明の請求項4にかかる発明は、「延伸抽出繊維がポリプロピレンとポリエチレンとからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の延伸抽出繊維の製造方法」である。延伸抽出繊維がポリプロピレンとポリエチレンとからなる、つまり未延伸抽出繊維束を構成する個々の未延伸抽出繊維がポリプロピレンとポリエチレンとからなる場合であっても、可塑化し変形する温度が比較的近く、好適な温度で高延伸できるため、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維を製造することができる。
【0015】
本発明の請求項5にかかる発明は、「第1の樹脂成分が200℃以下の融点を有することを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の延伸抽出繊維の製造方法。」である。第1の樹脂成分の融点が200℃以下であることによって、未延伸複合繊維を比較的低温で紡糸することができ、紡糸の際にポリプロピレン及びポリエチレンが熱による影響を受けにくいため、延伸によって引張り強さのより優れる延伸抽出繊維を製造できる。
【0016】
本発明の請求項6にかかる発明は、「第1の樹脂成分がポリ乳酸であることを特徴とする、請求項5に記載の延伸抽出繊維の製造方法」である。ポリ乳酸は生分解性であり、環境へ与える負荷が小さいという特徴を有する。
【0017】
本発明の請求項7にかかる発明は、「延伸工程後、更に延伸抽出繊維を切断して短繊維とする切断工程を備えていることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の延伸抽出繊維の製造方法」である。本発明の延伸抽出繊維は十分に延伸されており、高度に結晶配向しているため、切断性に優れ、延伸抽出繊維同士を圧着させることなく切断することができる。したがって、延伸抽出繊維が均一に分散した不織布を製造することができる。
【0018】
本発明の請求項8にかかる発明は、「請求項1〜請求項7のいずれかに記載の製造方法により製造した延伸抽出繊維」である。したがって、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維であることができる。
【0019】
本発明の請求項9にかかる発明は、「請求項1〜請求項7のいずれかに記載の製造方法により製造した延伸抽出繊維を含む不織布」である。したがって、緻密な構造をもち、電気絶縁性や濾過性等に優れ、強度の優れる不織布であることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、引張り強さの高い延伸抽出繊維を製造することができる。
【0021】
本発明の延伸抽出繊維は引張り強さに優れ、繊維径の小さい繊維であることができる。
【0022】
本発明の不織布は緻密な構造をもち、電気絶縁性や濾過性等に優れ、強度の優れる不織布であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の延伸抽出繊維の製造方法においては、まず、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む未延伸複合繊維を紡糸する紡糸工程、を実施する。この未延伸複合繊維における「除去可能」とは、所定の溶液によって樹脂成分の95mass%以上を除去できることをいい、「除去が困難」とは、第1の樹脂成分を除去する条件下において樹脂成分の30mass%以下しか除去されないことをいう。
【0024】
このような未延伸複合繊維の具体例としては、アルカリ水溶液(例えば、水酸化ナトリウム溶液)に対して除去可能な(つまり第1の樹脂成分)ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート系共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート系共重合体、ポリグリコール酸、グリコール酸共重合体、ポリ乳酸、乳酸共重合体など)と、アルカリ水溶液に対して除去が困難な(つまり第2の樹脂成分)ポリオレフィン系樹脂又はポリアミド系樹脂との組合せを挙げることができる。
【0025】
なお、第2の樹脂成分がポリプロピレンやポリエチレンなどの融点が低い樹脂成分の場合、第1の樹脂成分が200℃以下の融点を有するものであると、未延伸複合繊維の紡糸を比較的低温で行うことができ、紡糸の際にポリプロピレン及びポリエチレンが熱による影響を受けにくく、延伸によって引張り強さの優れる延伸抽出繊維を製造しやすいため好適な組合せである。このような第1の樹脂成分としてポリ乳酸を挙げることができ、ポリ乳酸は前記性能に優れているばかりでなく、生分解性であるため、環境へ与える負荷が小さい、という特徴も有する。なお、本発明における「融点」は示差走査熱量計を用い、昇温速度10℃/分で室温から昇温して得られる融解吸熱曲線の極大値を与える温度をいう。
【0026】
本発明の未延伸複合繊維の第2の樹脂成分がポリオレフィン系樹脂からなると、ポリオレフィン系延伸抽出繊維を製造でき、このポリオレフィン系延伸抽出繊維は耐薬品性やエレクトレット性などの点で優れ、汎用性に優れているため好適である。なお、第2の樹脂成分を構成できるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなど)、ポリ4−メチルペンテン−1等のホモポリマーや、プロピレンとα−オレフィン(例えば、エチレン、ブテン−1等)との共重合体、エチレンとブテン−1との共重合体などを挙げることができる。これらの中でもポリプロピレンは比較的融点が高く耐熱性に優れており、また、紡糸性、延伸性に優れ、優れた引張り強さをもつ延伸抽出繊維を製造しやすいため好適に使用できる。
【0027】
この第2樹脂成分は所定溶液によって除去が困難な樹脂成分1種類からなる必要はなく、2種類以上から構成されていても良い。例えば、第2樹脂成分が2種類の樹脂からなると、第2樹脂成分から構成される延伸抽出繊維が融着性、巻縮発現性、分割性など、各種特性を有する延伸抽出繊維を製造できるため好適である。より具体的には、融点差のある2種類の樹脂から構成されていれば融着性と融着時の繊維形状保持性をもつ延伸抽出繊維を製造でき、熱収縮性の点で差のある2種類の樹脂から構成されていれば巻縮発現性をもつ延伸抽出繊維を製造でき、溶解度パラメーターの点で差の大きい2種類の樹脂から構成されていれば機械的に分割可能な延伸抽出繊維を製造できる。
【0028】
特に、第2樹脂成分がポリプロピレンとポリエチレンとからなる、つまり延伸抽出繊維のもとである未延伸抽出繊維がポリプロピレンとポリエチレンとからなる場合、可塑化し変形する温度が比較的近く、好適な温度で高延伸できるため、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維を製造でき、好適である。また、ポリエチレン成分が延伸抽出繊維の繊維表面の少なくとも一部を構成するように配置していると、ポリエチレン成分が融着でき、ポリエチレン成分が融着する温度ではポリプロピレン成分は融着せず、繊維形態を失うことなく融着できるため、強度の優れる不織布を製造できるとともに、延伸抽出繊維が脱落したり、毛羽立ったりしにくい不織布を製造できる。このポリエチレン成分の繊維表面を占める面積が広ければ広いほど、前記性能に優れているため、ポリエチレン成分は延伸抽出繊維の表面全体(両端を除く)を占めるように配置しているのが好ましく、具体的には横断面において芯鞘状又は海島状に配置しているのが好ましい。なお、第2樹脂成分がポリプロピレンとポリエチレンとの組合せ以外に、ポリ4−メチルペンテン−1とポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1とポリエチレン、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンなどの組合せからなる場合も、ポリプロピレンとポリエチレンとの組合せの場合と同様の効果を奏する。
【0029】
本発明の未延伸複合繊維における第1の樹脂成分と第2の樹脂成分との繊維断面における配置状態は特に限定するものではないが、例えば、海島状配置、花弁状配置、小判状配置などを挙げることができる。これらの中でもより繊維径の小さい延伸抽出繊維を製造しやすい海島状配置であるのが好ましい。また、第2の樹脂成分の横断面形状(つまり延伸抽出繊維の横断面形状)は、円形又は非円形(例えば、楕円状、長円状、T状、Y状、+状、中空状、多角形状など)であることができる。なお、未延伸複合繊維は、例えば、吸湿剤、艶消し剤、顔料、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、着色剤、染色剤、導電剤、親水化剤、脱臭剤、或いは抗菌剤などの機能性物質を含んでいても良い。
【0030】
このような未延伸複合繊維の紡糸は常法の溶融紡糸法により実施できる。好適である海島状未延伸複合繊維を紡糸する場合には、繊維径の揃った延伸抽出繊維を製造できるように、混合紡糸法ではなく、複合紡糸法により紡糸するのが好ましい。なお、ポリエチレンとポリプロピレンとからなる延伸抽出繊維を製造できる未延伸複合繊維は、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンを混合した状態で、又は複合した状態で、第2の樹脂成分の占める領域へ供給して形成できる。
【0031】
次いで、未延伸複合繊維を第1の樹脂成分を除去可能な溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を形成する抽出工程を実施する。例えば、第1の樹脂成分がポリエステル系樹脂からなり、第2の樹脂成分がポリオレフィン系樹脂又はポリアミド系樹脂からなる未延伸複合繊維の場合には、アルカリ水溶液によりポリエステル系樹脂を除去し、未延伸ポリオレフィン系抽出繊維束又はポリアミド系抽出繊維束を形成する。なお、除去方法としては、例えば、チーズ染色機を用い、穴あきボビンに未延伸複合繊維を巻き付けた状態で、アルカリ水溶液等の溶液を循環させる方法、懸垂型のかせ染色機を用いる方法、などを挙げることができる。
【0032】
そして、未延伸抽出繊維束を延伸して延伸抽出繊維を形成する延伸工程を実施して、延伸抽出繊維を製造することができる。本発明においては、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を好適な温度で高延伸できるため、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維を製造することができる。
【0033】
なお、延伸方法は、未延伸抽出繊維束を延伸できる方法であれば特に限定されないが、例えば、レーザーを照射しながら延伸する方法、絶対圧が2kg/cm以上の加圧飽和水蒸気雰囲気下で延伸する方法(特開平11−350283号に記載の延伸方法)、熱水中で延伸する方法、などにより実施できる。なお、延伸時の温度は可塑化し変形する温度±10℃で行うのが好ましく、未延伸抽出繊維束が未延伸ポリプロピレン抽出繊維束からなる場合には、120℃前後で延伸するのが好ましい。また、この際の延伸倍率は、強度の優れる延伸抽出繊維を製造しやすいように、5倍以上の高倍率であるのが好ましく、7倍以上であるのがより好ましく、10倍以上であるのが更に好ましい。なお、未延伸抽出繊維束がポリプロピレンとポリエチレンとを含む場合であっても、これら樹脂の可塑化変形温度が比較的近いため、105℃前後の温度で、延伸倍率5倍以上の高倍率で延伸し、強度の優れる延伸抽出繊維を製造できる。
【0034】
本発明の繊維径の小さい延伸抽出繊維は上述の方法により製造できるが、延伸工程後、必要に応じて、延伸抽出繊維をギロチンカッター、ロータリーカッター、押切りカッターなどを用いて、所望長さに切断して短繊維とする切断工程を実施することができる。本発明の延伸抽出繊維は十分に延伸されており、高度に結晶配向しているため、切断性に優れ、延伸抽出繊維同士を圧着させることなく、切断することができる。したがって、延伸抽出繊維が均一に分散し、地合いの優れる不織布を製造することができる。なお、繊維長は特に限定するものではないが、湿式不織布構成繊維とする場合には、0.5〜20mmであるのが好ましい。また、延伸抽出繊維を切断する場合、延伸抽出繊維同士の圧着をより効果的に防止できるように、延伸抽出繊維に油剤を付与した状態で切断するのが好ましい。
【0035】
本発明の延伸抽出繊維は上述の方法により製造したものであるため、優れた引張り強さをもち、繊維径の小さい延伸抽出繊維であることができる。より具体的には、延伸抽出繊維は繊維径が4μm以下の細い繊維であることができる。繊維径が細ければ細いほど、濾過性能、電気絶縁性能、柔軟性、隠蔽性、払拭性などの諸特性に優れる不織布を製造できるため、延伸抽出繊維の繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましい。延伸抽出繊維の繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.1μm程度が現実的である。なお、「繊維径」はPO極細高強度繊維を走査型電子顕微鏡により2000倍の倍率で撮影した電子顕微鏡写真をもとに、ノギスで計測し、1/2000倍して算出した直径をいい、繊維断面が非円形の場合には、繊維断面積と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみなす。
【0036】
また、延伸抽出繊維の引張り強さは3cN/dtex以上であることができる。引張り強さが強ければ強いほど、強度の優れる不織布を製造できるため、引張り強さは4cN/dtex以上であるのが好ましく、5cN/dtex以上であるのがより好ましく、6cN/dtex以上であるのが更に好ましく、7cN/dtex以上であるのが更に好ましい。なお、引張り強さの上限は特に限定するものではないが、20cN/dtex程度が現実的である。本発明の延伸抽出繊維は耐薬品性やエレクトレット性などの点で優れるポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましいため、繊維径が4μm以下、かつ引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系延伸抽出繊維であるのが特に好ましい。この「引張り強さ」はJIS L 1015(化学繊維ステープル試験法、定速緊張形)により測定した値をいう。
【0037】
本発明の不織布は上述のような製造方法により製造した延伸抽出繊維を含んでいる。そのため、濾過性能や電気絶縁性能等に優れているばかりでなく、強度も優れている。本発明の不織布はどのような不織布であっても良いが、湿式不織布であると地合いが優れているため好適である。特に、本発明の延伸抽出繊維は切断しても圧着しにくく、スラリー中で均一に分散できるため、地合いの優れる湿式不織布であることができる。なお、延伸抽出繊維が融点差のある2種類以上の樹脂から構成されている場合には、融着して不織布の強度を高めるとともに、脱落したり、毛羽立ったりしないようにするのが好ましい。
【0038】
本発明の不織布においては、延伸抽出繊維が存在していることによる性能、例えば、濾過性能、電気絶縁性能等に優れるように、5mass%以上含まれているのが好ましく、10mass%以上含まれているのがより好ましく、20mass%以上含まれているのが更に好ましい。
【0039】
この延伸抽出繊維を構成する樹脂は不織布の使用用途によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、濾過材や電池用セパレータとして使用する場合には、前述のようなポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。また、延伸抽出繊維以外の繊維も不織布の使用用途によって異なり、特に限定するものではない。
【0040】
本発明の不織布は常法により製造することができ、好適である湿式不織布は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上述のような延伸抽出繊維を製造する。次いで、この延伸抽出繊維(必要により他の繊維も)を常法の湿式法(例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型長網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式など)により繊維ウエブを形成する。そして、この繊維ウエブを、(1)水流などの流体流によって絡合したり、(2)延伸抽出繊維及び/又は混合した融着性を有する繊維を融着したり、(3)バインダーを塗布又は散布して接着して、湿式不織布を製造することができる。
【0041】
本発明の不織布は濾過性能や電気絶縁性能等に優れ、強度も優れているため、気体又は液体の濾過材や電池用セパレータとして使用できるばかりでなく、延伸抽出繊維が均一に分散した地合いの優れるものであることができるため、これら用途以外に、各種クリーニングシートとしても使用することができる。なお、本発明の不織布が各種用途に適合するように、エレクトレット化処理、親水化処理などを実施することができる。
【0042】
以下に、本発明の実施例を記載するが、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
海島型複合繊維を紡糸できる常法の複合紡糸装置(25島の海島型複合繊維を紡糸可能)を使用し、海成分(第1の樹脂成分)としてポリ−L−乳酸を、島成分(第2の樹脂成分)としてポリプロピレンを、ギアポンプ比75:25、温度240℃の条件下で押し出し、繊度4.6dtexの海島型未延伸複合繊維を紡糸した。
【0044】
次いで、この海島型未延伸複合繊維をチーズ染色機を用いて、糸巻き状のまま温度70℃、1M−水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、60分間水酸化ナトリウム水溶液を循環させることにより、海成分(第1の樹脂成分)であるポリ−L−乳酸を除去して、繊維径が4μmの未延伸ポリプロピレン抽出繊維束を得た。
【0045】
次いで、この未延伸ポリプロピレン抽出繊維束を、絶対圧が4.2kg/cmの加圧飽和水蒸気(温度120℃)を充填した容器内へ導入し、延伸倍率6倍で延伸して、ポリプロピレン延伸抽出繊維(繊維径:1.8μm、横断面形状:円形)を製造した。このポリプロピレン延伸抽出繊維は引張り強さが4.5cN/dtexの強度の優れるものであった。また、このポリプロピレン延伸抽出繊維に油剤を付与した後に、ギロチンカッターで3mm長に切断したところ、延伸抽出繊維同士が圧着することなく切断することができた。
【0046】
(実施例2)
島成分として、ポリプロピレンを芯(55mass%)とし、ポリエチレンを鞘(45mass%)に複合した状態で供給したこと以外は実施例1と同様にして、繊維径が4μmの未延伸ポリプロピレン−ポリエチレン抽出繊維束を得た。
【0047】
次いで、この未延伸ポリプロピレン−ポリエチレン抽出繊維束を、絶対圧が4.2kg/cm2の加圧飽和水蒸気(温度:105℃)を充填した容器内へ導入し、延伸倍率5倍で延伸して、ポリプロピレン−ポリエチレン芯鞘型延伸抽出繊維(繊維径:2μm、横断面形状:円形)を得た。このポリプロピレン−ポリエチレン芯鞘型延伸抽出繊維は引張り強さが3.5cN/dtexの強度の優れるものであった。また、このポリプロピレン−ポリエチレン芯鞘型延伸抽出繊維に油剤を付与した後に、ギロチンカッターで3mm長に切断したところ、芯鞘型延伸抽出繊維同士が圧着することなく切断することができた。
【0048】
(実施例3)
海成分としてポリエチレンテレフタレートを使用したこと、及び紡糸温度(押し出し温度)を300℃としたこと以外は実施例1と同様にして、海島型未延伸複合繊維の紡糸、ポリエチレンテレフタレートの除去、及び未延伸ポリプロピレン抽出繊維束の延伸を実施して、ポリプロピレン延伸抽出繊維(繊維径:1.8μm、横断面形状:円形)を得た。このポリプロピレン延伸抽出繊維は引張り強さが3.8cN/dtexの強度の優れるものであった。また、このポリプロピレン延伸抽出繊維に油剤を付与した後に、ギロチンカッターで3mm長に切断したところ、延伸抽出繊維同士が圧着することなく切断することができた。
【0049】
(比較例1)
海島型複合繊維を紡糸できる常法の複合紡糸装置(25島の海島型複合繊維を紡糸可能)を使用し、海成分(第1の樹脂成分)としてポリエチレンテレフタレートを、島成分(第2の樹脂成分)としてポリプロピレンを、ギアポンプ比75:25、温度300℃の条件下で押し出し、繊度4.6dtexの海島型未延伸複合繊維を紡糸した。
【0050】
次いで、この海島型未延伸複合繊維を、温度90℃の熱水浴へ供給し、延伸倍率4倍で延伸して、海島型延伸複合繊維を得た。
【0051】
次いで、この海島型延伸複合繊維をチーズ染色機を用いて、糸巻き状のまま温度98℃、1M−水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、60分間水酸化ナトリウム水溶液を循環させることにより、海成分であるポリエチレンテレフタレートを除去して、ポリプロピレン延伸繊維(繊維径:2μm、横断面形状:円形)を得た。このポリプロピレン延伸繊維は引張り強さが2.5cN/dtexの強度の劣るものであった。また、このポリプロピレン延伸繊維に油剤を付与した後に、ギロチンカッターで3mm長に切断したところ、一部延伸繊維同士が圧着していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む未延伸複合繊維を紡糸する紡糸工程、
前記未延伸複合繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して、第2の樹脂成分からなる未延伸抽出繊維束を形成する抽出工程、
前記未延伸抽出繊維束を延伸して延伸抽出繊維を形成する延伸工程、
とを備えていることを特徴とする、延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項2】
延伸抽出繊維が、繊維径が4μm以下、かつ引張り強さが3cN/dtex以上のポリオレフィン系延伸抽出繊維であることを特徴とする、請求項1記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項3】
延伸抽出繊維がポリプロピレンからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項4】
延伸抽出繊維がポリプロピレンとポリエチレンとからなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項5】
第1の樹脂成分が200℃以下の融点を有することを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項6】
第1の樹脂成分がポリ乳酸であることを特徴とする、請求項5に記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項7】
延伸工程後、更に延伸抽出繊維を切断して短繊維とする切断工程を備えていることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の延伸抽出繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の製造方法により製造した延伸抽出繊維。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の製造方法により製造した延伸抽出繊維を含む不織布。

【公開番号】特開2006−28690(P2006−28690A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211152(P2004−211152)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】