説明

延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法

【課題】 本発明は、引抜延伸によって厚みの略均一な延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを安定的に製造することができる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、長尺状の非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に予熱した後、ガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つガラス転移温度未満に維持された一対のロール間に上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを供給して引抜延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であって、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を上記一対のロールの入口部においてガラス転移温度よりも30℃低い温度以上で且つ上記予熱温度以下に冷却することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引抜延伸による延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、引抜成形により、平滑な表面を持つ、透明で、強度と弾性率の高い結晶性高分子シートを製造する方法が検討されており、例えば、特許文献1には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール樹脂、ナイロン等の結晶性高分子原反シートを、そのシートに10MPaの荷重をかけて1℃/分の昇温速度で昇温した時の変形開始温度以上で示差走査熱量測定融解曲線の立ち上がり温度を超えない温度に加熱した一対のローラーを通じて、少なくとも延伸比2.5倍以上に引き抜くことを特徴とする結晶性高分子シートの製造方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記結晶性高分子シートの製造方法でポリエステル系樹脂を延伸するには、ポリエステル系樹脂は低温では硬すぎて延伸に必要な柔軟性が不足し、高温では配向の緩和が支配的になるので、強度及び弾性率の優れた延伸シートを得るために、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱した後、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度未満、ガラス転移温度−20℃以上の温度の一対のロール間を通して引き抜いて引抜延伸することが行われている。
【0004】
上記方法で引抜延伸する場合、延伸シートにおいて、幅方向の両端縁から幅方向の中央部に向かって100mm程度の部分が厚くなる。従って、厚みの均一な延伸シートを得るためには、延伸シートの幅方向の両端部を切除する必要があり、製造効率の低下及びコストの向上の原因となっていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭60−15120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、引抜延伸によって厚みの略均一な延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを安定的に製造することができる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、長尺状の非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをこの熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つ上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に予熱した後、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つ上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度未満に維持された一対のロール間に上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを供給して引抜延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であって、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を上記一対のロールの入口部において上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも30℃低い温度以上で且つ上記予熱温度以下に冷却することを特徴とする。
【0008】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレートなどが挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0009】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎると、シート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの極限粘度は、JIS K7367−1に準拠して測定されたものをいう。
【0010】
原反となる熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.5〜4mmが好ましい。熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが0.5mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、4mmを超えると延伸が困難となることがあるからである。
【0011】
本発明では、長尺状の非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが原反として用いられる。熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態であればよく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることが好ましく、5%未満がより好ましい。非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの結晶化度は、密度法により測定されたものをいう。
【0012】
本発明においては、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSをこの熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つ上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に予熱した上で一対のロールR1、R2間を通して引抜いて引抜延伸する。
【0013】
本発明では、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSを一対のロールR1、R2間に通す前に、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を、一対のロールR1、R2の入口部において、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面から冷却する。このように、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を冷却することによって、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端部の剪断応力が高くなり、得られる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートはその幅方向の全長に亘って略均一な厚みを有する。なお、一対のロールR1、R2の入口部とは、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSと一対のロールR1、R2の何れか一方のロールとが初めて接触する点から熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの進行方向と180°反対の方向に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに沿って10〜200mmだけ離れた箇所をいう。又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部とは、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端縁とこの両端縁のそれぞれから幅方向に内側に100mmだけ入った部分との間にある部分をいう。
【0014】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部を冷却する方法としては、特に限定されず、図1に示したように、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部に冷風W、Wを吹き付ける方法、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部を一対の冷却ロールで挟持する方法などが挙げられる。
【0015】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部の冷却温度は、低いと、延伸に必要な熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの柔軟性が低下し、高いと、得られる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みのばらつきが増加するので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度−30℃)〜(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの予熱温度)に限定される。
【0016】
引抜延伸時において、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSにおける幅方向の両端部以外の部分の温度は、低温であると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが白化し、或いは、硬すぎて裂けて引き抜くことができず、高温になると、配向緩和により延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの強度が低下するので、引抜延伸する前に予め(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度−20℃)〜(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度+10℃)に予熱するのであり、(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−10℃)〜(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+5℃)が好ましい。なお、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度は、JIS K7121−1987に準拠して測定されたものをいう。
【0017】
ロールR1、R2の温度を熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの予熱温度より低くすることで延伸すると同時に冷却し、引抜きの際の摩擦熱などにより樹脂温度が上昇して分子配向が緩和することを防止することができ、得られる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの弾性率が上昇する。
【0018】
上記引抜延伸する際の一対のロールR1、R2の温度は、低温すぎると、延伸に必要な柔軟性を得ることができず、延伸時に熱可塑性ポリエステル系樹脂シート中にボイドが発生して強度が低下し、高温すぎると、分子配向が緩和して高弾性のシートを得ることができないので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20)℃以上で且つ(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度)未満の温度範囲に限定され、(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−10)℃以上で且つ(熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度)未満の温度範囲が好ましい。
【0019】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSを引き抜く際に、一対のロールR1、R2をこれらの対向面が共に引抜方向となるように回転させることで引抜の際の抵抗を低減して延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの波うちの発生を抑えることができる。
【0020】
上記一対のロールR1、R2の回転速度が熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度以下では引き抜きによる抵抗が大きいため熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの進入角の変動が発生する現象が発生しやすく、逆に一対のロールR1、R2の回転速度が熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度の1.5倍以上大きいとネックイン量が急激に増大する。
【0021】
従って、一対のロールR1、R2の回転速度は、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの送り速度より大きく且つ熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの送り速度の1.5倍より小さい速度が好ましい。
【0022】
なお、本発明において、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの送り速度とは、ロールを回転することなく引抜延伸した際の、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSがロール間に入る直前の速度をいう。又、引抜かれた熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSが一対のロールR1、R2から排出される際の排出速度を「引抜速度」という。
【0023】
上記引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られず、高くなると、延伸時に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの破断が生じやすくなるので、2〜9倍が好ましく、4〜8倍がより好ましい。なお、引抜延伸の延伸倍率は、延伸後のシートの長さを延伸前のシートの長さで除したものをいう。
【0024】
そして、延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが一対のロールR1、R2から排出されるが、図2に示したように、一対のロールR1、R2の出口部において、延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シート(延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート)の幅方向の両端部を、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面から冷却してもよい。このように、一対のロールR1、R2の出口部において、延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを冷却することによって、ネックイン量が小さくなり、幅方向の全長に亘って厚みが略均一な延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを得ることができる。なお、一対のロールR1、R2の出口部とは、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸が開始する点から熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの進行方向に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに沿って5〜100mm離れた箇所をいう。
【0025】
一対のロールR1、R2の出口部において、延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける幅方向の両端部の冷却方法は、一対のロールR1、R2の入口部における熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの冷却方法と同様であるので、その説明を省略する。
【0026】
一対のロールR1、R2の出口部において、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートSの幅方向の両端部の冷却温度は、高いと、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートがネックインするので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度)以下が好ましく、低すぎると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが破断するので、(熱可塑性ポリエステル系樹脂シート−40℃)〜(熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度)が好ましい。
【0027】
本発明において引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、引張強度、引張弾性率、耐熱性などの物性を向上させるために、一対のロールR1、R2の温度よりも高い温度で熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸してもよい。
【0028】
引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和されて弾性率が低下してしまうという欠点を有している。
【0029】
そこで、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、一対のロールの温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを得ることができる。
【0030】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。なお、ロール延伸法とは、一対のロールを対峙させてなるロール対を二組用意し、この二組のロール対を所定間隔を存して配設し、二組のロール対間に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを配設すると共に、各ロール対間に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを挟持させ、一方のロール対の回転速度と、他方のロール対の回転速度とを相違させ、且つ、二組のロール対間において一対のロールの対向面における回転方向を互いに反対方向とすることによって、加熱状態の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに引張力を加えて延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引っ張る方法であり一軸方向のみに強く分子配向させることができる。なお、ロール対間の速度比が延伸倍率となる。
【0031】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸する際の温度は、引抜延伸する際の一対のロールR1、R2の温度より高い温度であればよいが、高すぎると、引抜延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを構成している熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差操作熱量曲線において、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度以上で且つ融解ピークの立ち上がり温度以下が好ましい。
【0032】
なお、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0033】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られず、高くなると、延伸時に延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの破断が生じやすくなるので、1.1〜3倍が好ましく、1.2〜2倍がより好ましい。そして、引抜延伸の延伸倍率と一軸延伸の延伸倍率の合計は、同様の理由で、2.5〜10倍が好ましい。
【0034】
更に、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、その耐熱性を向上させるために熱固定されるのが好ましい。
【0035】
一軸延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定温度は、一軸延伸温度より低いと、熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られる示差操作熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度より高くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引張弾性率、引張強度等が低下するので、一軸延伸温度以上で且つ熱可塑性ポリエステル系樹脂を昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られた示差操作熱量曲線における融解ピークの立ち上がり温度以下が好ましい。
【0036】
又、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷がかかっていると延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが延伸され、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートがフリーの状態では延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに収縮が生じるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに負荷はかかっていないが熱により収縮しないように固定した状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないことが好ましい。例えば、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両端をピンチロール等で負荷がかからないように保持した状態で、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの熱固定を行なうのが好ましい。なお、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの加熱は、熱風、ヒーター等で行うのが好ましい。
【0037】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、10秒〜5分が好ましい。
【0038】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法で製造された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、引張強度、引張弾性率、耐熱性が優れており、これらの性能を要求される建材等に好適に使用される。
【0039】
又、上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、積層されて使用されてもよいし、他の未延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シート、延伸ポリオレフィン系樹脂シ−ト、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、アクリレート系樹脂等の熱可塑性樹脂シートと積層されてもよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法の構成は上述の通りであり、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートはその幅方向の全長に亘って略均一な厚みを有しており、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を切除する必要がなく、製造効率の向上及びコスト削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(極限粘度:0.88)を押出機に供給して溶融混練しTダイから押出すことによって厚さ2mmで且つ幅600mmの非晶状態のポリエチレンテレフタレートシートを得た。なお、ポリエチレンテレフタレートシートの結晶化度は1.3%であった。
【0043】
なお、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は72℃、ポリエチレンテレフタレートを昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量分析によって測定して得られた示差走査熱量曲線において、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は118℃で、融解ピークの立ち上がり温度は230℃であった。
【0044】
得られたポリエチレンテレフタレートシートを75℃に予熱した上で延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、63℃に加熱された一対のロールR1、R2間にポリエチレンテレフタレートシートを供給して引き抜いて延伸倍率5倍に引抜延伸して延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。この際、一対のロールR1、R2の入口部において、ポリエチレンテレフタレートシートにおける幅方向の両端部の両面に冷風を吹き付けて、ポリエチレンテレフタレートシートの幅方向の両端部を55℃に冷却した。
【0045】
なお、一対のロールR1、R2の対向面間の間隔Lは0.2mm、ポリエチレンテレフタレートシート原反の送り速度は0.2m/分、延伸ポリエチレンテレフタレートシートの引抜速度は1m/分であった。
【0046】
(実施例2)
一対のロールR1、R2の出口部において、更に、延伸されたポリエチレンテレフタレートシートにおける幅方向の両端部の両面に冷風を吹き付けて、ポリエチレンテレフタレートシートの幅方向の両端部を40℃に冷却したこと以外は実施例1と同様にして延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。なお、ポリエチレンテレフタレートシート原反の送り速度は0.2m/分、延伸ポリエチレンテレフタレートシートの引抜速度は1m/分であった。
【0047】
(比較例1)
一対のロールR1、R2の入口部において、ポリエチレンテレフタレートシートの幅方向の両端部を冷却しなかったこと以外は実施例1と同様にして延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0048】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートにおける幅方向の厚みを測定し、その結果を図3に示した。なお、グラフの横軸は、延伸ポリエチレンテレフタレートシートの幅方向における一端縁からの距離(mm)を示している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造要領を示した模式図である。
【図2】延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造要領を示した模式図である。
【図3】延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートにおける幅方向の厚み分布を示したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 ロール
2 ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをこの熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つ上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも10℃高い温度以下に予熱した後、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも20℃低い温度以上で且つ上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度未満に維持された一対のロール間に上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを供給して引抜延伸する延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法であって、上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を上記一対のロールの入口部において上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度よりも30℃低い温度以上で且つ上記予熱温度以下に冷却することを特徴とする延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの幅方向の両端部を一対のロールの出口部において上記熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのガラス転移温度以下に冷却することを特徴とする請求項1に記載の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−297969(P2009−297969A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153432(P2008−153432)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】