説明

延性を有するマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材

【目的】溶湯から急冷凝固したままで延性を有する高強度のマグネシウム基金属ガラス合
金鋳造材やこのような鋳造材からなる塑性加工用素材を提供すること。
【構成】組成式Mg100-a-b-cLnabc(式中、Lnは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho
、Er及びTmより選択される一種以上の元素、Mは、Cu,Agから選ばれる1種又は
2種の元素、Xは、Pd及びZnから選択される一種以上の元素、5≦a<15、15≦
b<35、0≦c<10、及び25≦a+b+c<45である)からなる金属ガラス合金
に、Ti、Co、Fe及びZrから選択される一種以上の元素からなる平均粒径が20μ
m以上400μm未満の金属球状粒体が分散してなり、鋳造のままで室温破断伸びが5%以
上であることを特徴とするマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材に関する。さらに詳しく
は、この発明は、溶湯から急冷凝固したままで延性を有するマグネシウム基金属ガラス合
金−金属粒体複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融状態の合金を急冷凝固することにより、特定の組成において「金属ガラス合金」が
得られることが知られている。これまでに、パラジウム基合金、ランタノイド基合金、ジ
ルコニウム基合金、鉄族元素基合金、あるいはマグネシウム基合金について数多くの金属
ガラス合金が得られている。
【0003】
Zr基金属ガラス合金等においてはZrC等の100μm程度以下の粒子を分散させて
複合化することにより塑性伸びがない金属ガラス合金の欠点を解消し延性を向上する試み
が行なわれている(特許文献1、2)。特許文献1、2に記載されているように、母相の
金属ガラス合金に分散させる物質はいずれも硬度の高い酸化物や炭化物である。また、非
晶質合金粉末と銅などの延性の大きい金属粉末との混合粉末を非晶質合金の過冷却液体領
域で圧縮加工により一体化して常温での延伸率と破壊靭性を向上させることが知られてい
る(特許文献3)。
【0004】
一方、厚さが数十μm程度の非晶質合金薄帯は、引張試験において延びは示さないもの
の、密着曲げなどの特殊な応力下においては靭性を有することが知られており、この非晶
質合金薄帯をその靭性を維持したまま高強度にする方法として、大きさ1〜5μm程度のW
Cなどの炭化物粒子やFe、Wなどの微粉体を分散させる方法が知られている(特許文献
4)。
【0005】
マグネシウム基金属ガラス合金は低比重で軽量であり、従来のジルコニウム系金属ガラ
ス合金とは異なった新しいタイプの金属ガラス合金として種々の分野への応用が期待され
ている。中でも、マグネシウムに希土類金属を添加した合金系においては、特許文献5及
び6に開示されているような高強度を有するMg基金属ガラス合金が開発されており、構
造材への応用が期待されている。
【0006】
【特許文献1】WO02/27055 A1
【特許文献2】WO96/04134(JP2000/509098T)
【特許文献3】特開2003-221657号公報
【特許文献4】特開昭59-47352号公報
【特許文献5】特開平3-10041号公報
【特許文献6】特開2001-254157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マグネシウム基金属ガラス合金は、圧縮荷重下で耐力(σ0.2)が700MPa以上もの高
い強度を有し、薄帯状の試料においては密着曲げができる靭性があるものの、圧縮試験等
の機械的材料試験において塑性変形に応じた伸びを見せず、室温破断伸びがほぼ0%であ
り、脆性材料と同様な破壊を起こすことが問題であった。そのため、部材の設計の際に安
全率を大きく取らなければならず、急冷凝固のままで高強度を生かすような部材や塑性加
工用素材を実用上は作製することができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、溶湯から急冷凝固したままで延性を有する高強度のマグネシウム基
金属ガラス合金鋳造材やこのような鋳造材からなる塑性加工用素材を提供することを目的
とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従来から、結晶合金については、強度向上の一つの方法として数μmから数十μmの大き
さの酸化物や介在物を合金中に分散させて転位の運動を妨げて材料を強化した粒子分散型
合金が知られている。しかし、この方法では、通常、強度は向上するが、分散前の合金に
比べて延性は向上しないか却って低下する。金属ガラス合金には転位がないので、通常の
結晶合金とは同一視できず、ナノメートルサイズの粒子が分散している場合に強度の向上
が期待できるものの、通常、強度や延性は簡単には向上しない。
【0010】
本発明者らは、マグネシウム基金属ガラス合金に酸化物や炭化物の粒子を分散させても
延性は発現しないことを確認した。ところが、ある特定の金属、すなわち、Ti、Co、
Fe又はZrから選ばれる少なくとも1種の金属元素の所定の大きさの粒体を分散させた
場合には強度向上の作用はないもののマグネシウム基金属ガラス合金が大きな延性を有す
るようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の項目に記載した構成からなる。
(1)組成式Mg100-a-b-cLnabc(式中、Lnは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、
Er及びTmより選択される一種以上の元素、Mは、Cu,Agから選ばれる1種又は2
種の元素、Xは、Pd及びZnから選択される一種以上の元素、5≦a<15、15≦b
<35、0≦c<10、及び25≦a+b+c<45である)からなる金属ガラス合金に
、Ti、Co、Fe及びZrから選択される一種以上の元素からなる平均粒径が20μm
以上400μm未満の金属球状粒体が分散してなり、鋳造のままで室温破断伸びが5%以
上であることを特徴とするマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材。
【0012】
(2)金属ガラス合金−金属粒体複合体に対する該金属球状粒体の体積分率が5%以上5
0%未満であることを特徴とする上記(1)のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体
複合材。
【0013】
(3)圧縮荷重下で耐力(σ0.2)が800MPa以上で、かつ、室温破断伸びが20%以上
であることを特徴とする上記(1)又は(2)のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒
体複合材。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体
複合材からなることを特徴とする塑性加工用素材。
【0015】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体
複合材を該金属ガラス合金の過冷却液体温度領域において塑性加工した後、結晶化しない
冷却速度で冷却して得られた室温破断伸びが5%以上であることを特徴とするマグネシウ
ム基金属ガラス合金−金属粒体複合材からなる製品。
【0016】
本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、母相の合金組成となる金
属原料の粉末や塊及びTi、Co、Fe又はZr元素の粒体を混合して溶解し、金型鋳造
、高圧ダイカスト鋳造などの手法により鋳造することにより容易に得ることができる。母
相となる原料が溶解した時点においても、Ti、Co、Fe及びZrの粒体は、母相の主
たる元素であるMgに相分離傾向であるために、Ti、Co、Fe及びZrの粒体が溶湯
に溶解せず粒体の形状が保たれている。粒体成分が母相に溶解するとガラス形成能が低下
し、母相が脆化する。
【0017】
母相の溶解時には、金属球状粒体の表面においては、母相のマグネシウム以外のLn元
素(Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及びTmより選択される一種以上)、M元素(Cu,Agから選ば
れる1種又は2種)と金属球状粒体の元素が、金属球状粒体表面のみで反応が生じ、金属
ガラス合金と金属球状粒体が十分に濡れた状態を生じせしめることができる。このため、
母相の金属ガラス合金と金属球状粒体が強固に密着した複合材となる。金属ガラス合金の
母相に比較的大きな金属球状粒体が分散して介在すると、母相の連続性が損なわれ、通常
は強度が低下すると考えられるが、本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複
合材は、強度の低下は抑制され、マグネシウム基金属ガラス母相の高強度という特性と高
延性を兼ね備えることができる。
【0018】
母相の金属ガラス合金と金属球状粒体の複合により、マグネシウム基金属ガラス合金−
金属粒体複合材が強度と延性を兼ね備えることについては、種々の要因があると考えられ
る。破断面の観察によると、マグネシウム基金属ガラス合金の脆性的な破壊によって生じ
る破壊表面の模様が金属球状粒体付近で複雑化していることから、母相の脆性的な破壊が
ナノメートルスケールで生じても、金属球状粒体近傍でその破壊の進行を止めることがで
きること、及び金属球状粒体が潰れて変形している様子が観察されることからみて、球状
粒体が変形する際に抵抗が生じること、等により延性が生じるものと推察される。しかし
、これ以外の理由によって高強度高延性を兼ね備えている可能性もあり、高強度と高延性
を兼ね備えている理由は本発明を何ら限定するものではない。
【0019】
実用的には、本発明のマグネシム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、ガラス形成能
が高い合金組成を母相に用いていており、加熱昇温すると、金属ガラス合金が結晶化する
前にある特定の温度範囲において、過冷却液体状態を生じる。この過冷却液体状態におい
ては、粘性が低下し軟化するためにガラス状態を保持したままの成形及び加工が容易にな
る。そのため、鍛造などの手法を用いても、母相が容易に変形するために母相中の金属球
状粒体に影響を与えず、容易に目的形状の製品に塑性加工することができる。加工した後
は母相が結晶化しない冷却速度で冷却することにより金属ガラス合金の特性を失うことな
く、また、延性も失われない。そのため、本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属
粒体複合材は工業的に有益である。
【発明の効果】
【0020】
マグネシウム基金属ガラス合金は、高い強度を有するものの、塑性変形に応じた破断伸
びを見せず、高強度を生かすような部材を実用上は作製することができなかったが、特定
の金属球状粒体をマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材の母相合金の溶湯に混
合して金属ガラス合金と金属球状粒体の複合体を形成するという比較的簡単な手段でマグ
ネシウム基金属ガラス合金の特性を全く損なうことなく、顕著な室温塑性伸び、すなわち
室温破断伸びを有するマグネシウム基金属ガラス合金の実現に成功した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明においては、母相の金属ガラス合金に金属球状粒体が分散した状態においても、
母相はガラス状態を維持している必要があることから、母相となる金属ガラス合金の組成
を限定している。
【0022】
本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、急冷凝固鋳造法などの手
法により種々の形状の部材を得ることができることを特徴としていることから、高いガラ
ス形成能を有している必要がある。特許文献1及び2に示される公知の組成範囲の中でも
、特にガラス形成能が高い組成を母相の組成に限定している。本発明の合金組成として限
定している組成範囲から逸脱した場合、母相の金属ガラス合金が結晶化しやすい傾向にあ
るために脆化する問題を有しており、本発明の合金を種々の部材として用いることができ
なくなる。
【0023】
すなわち、母相の合金において、Mgは55原子%以上75原子%未満である必要があ
り、60原子%以上70原子%未満がより好ましい。また、Y、Gd、Tb、Dy、Ho
、Er及びTmから選択される1種以上の元素が5原子%以上15原子%未満である必要
があり、より好ましくは8原子%以上12原子%未満である。これらの元素の含有量が5
原子%未満又は15原子%を越えると、非晶質形成能が低下し、金型鋳造法を用いて5mm
φ以上のバルク材を作製しても、非晶質単相のバルク材が得られない。
【0024】
さらに、Cu及びAgの中から選択される一種以上の元素が15原子%以上35原子%
未満である必要があり、より好ましくは20原子%以上30原子%未満である。これらの
元素の含有量が15原子%未満又は35原子%を越えると、非晶質形成能が低下し、金型
鋳造法を用いて5mmφ以上のバルク材を作製しても、非晶質単相のバルク材が得られない

【0025】
Zn及びPdから選択される1種又は2種の元素は10原子%未満であり、より好まし
くは5原子%未満である。Zn及びPdは、ガラス形成能を向上させる元素であり、これ
らの元素を添加することにより直径又は厚み10mm以上の非晶質の体積分率が100%の
金属ガラス合金鋳造材を作製することができる。しかし、Znの添加により耐熱強度が若
干減少し、また、Pdは高価であることから、本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−
金属粒体複合材を作製する場合にガラス形成能が不足する場合に必要に応じて添加するこ
とが望ましい。
【0026】
本発明の大きな特徴である母相に分散させる金属球状粒体は以下のように限定する。金
属球状粒体は、Ti、Zr、Co及びFeから選択される一種以上の元素からなることが
必要である。これらの元素はマグネシウムと相分離傾向にある元素であるが、母相合金の
溶製中及び鋳造時に母相合金を溶解する時点で、母相の金属ガラス合金の溶湯に溶け込む
ことなく、母相の金属ガラス合金と金属球状粒体の濡れが見られるようになることが重要
である。なお、粉粒体の用語については、明確な定義はないが、一般に、数十μm以上を
「粒体」、約3μm〜数十μmを「粉体」と称する(神保著「粉体の科学」。1985年、
講談社)ので、本明細書ではこの用例に従った。
【0027】
これらの元素からなる金属球状粒体以外の純金属又は合金を用いると母相合金の溶製中
に金属球状粒体が溶解してしまうと同時に、溶解した原子が母相の金属ガラス合金の形成
能を劣化するか、又は溶解しない場合でも、金属球状粒体の表面が母相のマグネシウム基
金属ガラス合金に濡れないために金属球状粒体が複合材として延性をもたらす作用を果た
さない。例えば、Nb、V、Mo、Wのような高融点金属については、溶解しないが、金
属粒子が溶湯に濡れないので、鋳造材中の金属粒子は母相より剥離した状態になり、延性
が発現しない。
【0028】
さらに、上記の金属球状粒体の平均粒径は20μm以上400μm未満が好ましい。本発
明の金属球状粒体の平均粒径は溶湯に加える球状粒体原料の平均粒径で表している。複合
材中の金属球状粒体の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡により観察して、任意の0
.2mm×0.3mmの視野を5視野観察し、視野中に存在する全金属粒子の粒径を平均する
ことにより算出する方法により求めることができる。この方法で測定した平均粒径と球状
粒体原料の平均粒径とは実質的に相違がない。
【0029】
金属球状粒体の平均粒径が20μm未満であると、金属球状粒体の表面積が大きくなり
、母相合金への金属球状粒体の混合が困難になる傾向があり、平均粒径が400μm以上
であると、複合材の強度の低下や伸びの減少を生じる傾向がある。金属球状粒体の最も好
ましい平均粒径は50μm以上200μm未満である。このような金属球状粒体は、一般に
ガスアトマイズ法やプラズマアトマイズ法により作製されたものが市販されており、本発
明においてはこれらの市販品を使用することができる。
【0030】
なお、Ti、Zr、Co及びFeの金属球状粒体は、純金属の粒体に限定されず、純金
属球状粒体と同等に、母相の金属ガラス合金の溶湯に溶け込むことなく、母相の金属ガラ
ス合金と金属球状粒体の濡れが見られ、室温破断伸び5%以上の延性をもたらすものであ
れば、これらの金属を主成分とする合金や、異種粒体にこれらの金属を被覆したものでも
よい。
【0031】
本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、金属球状粒体の種類、平
均粒径及び混合率により種々の強度と伸びを選択することができる。純Tiからなる金属
球状粒体で粒径が100μmである場合、複合材全体に占める金属球状粒体の混合率が体
積分率で5%未満の場合は塑性伸びが見られないが、体積分率が5%以上30%未満の場
合は、圧縮試験において耐力(σ0.2)が700MPa以上で室温破断伸びが5%以上のマ
グネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材を得ることができる。さらに、金属球状粒
体の混合率が体積分率で20%以上40%未満の場合は、耐力が600MPa以上で室温破
断伸びが20%以上であるマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材を得ることが
できる。
【0032】
本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、例えば、アルゴン雰囲気
において母相となる金属ガラス合金を溶解し、その溶湯に所定の金属球状粒体を混合する
ことにより母相合金を作製することができる。溶解においては、金属球状粒体を均一に分
散させる必要があることから、溶湯の攪拌効果を兼ね備えている高周波誘導溶解による溶
解が望ましい。高周波誘導溶解の周波数により攪拌効果が少ない場合、又は他の溶解手法
を選択した場合は、機械的に外部から振動を加える手法を用いても金属球状粒体を均一に
分散することが可能である。
【0033】
この母相合金を溶融状態から、種々の金型で金型鋳造法を用いて冷却固化させることに
より、本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材を得ることができるが、
大型の鋳造材の作製には、冷却速度が高いCu製鋳型を用いた金型鋳造が好ましく、さら
には、高圧状態で鋳造が可能な高圧ダイキャスト装置を用いた金型鋳造法が好ましい。
【0034】
なお、本発明において、これらの金型鋳造法を用いる場合、従来公知の各製造法で用い
られている製造条件により容易に作製することができる。例えば、母相合金を、アルゴン
雰囲気下において孔径1mm〜3.0mmのセラミックスノズルを兼ねたセラミックスルツボ
中で溶融した後、アルゴン雰囲気下、噴出圧0.2〜5.0kg/cm2で溶湯をノズルからC
u製の金型に噴出することにより、マグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合鋳造材
を得ることができる。
【0035】
さらに、本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材は、母相にガラス形
成能に優れた組成を用いるため、前記以外の液体急冷法である双ロール法、溝急冷法等を
用いても、厚板状や金属ワイヤ状等の種々の大形状を有するマグネシウム基金属ガラス合
金−金属粒体複合材が容易に得られる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。表1に示す各種組成
を有する合金を、アルゴン雰囲気下で溶解して製造した。具体的には、母相を形成する各
元素からなる純金属をマグネシアるつぼに挿入した後、真空チャンバー付の溶解炉におい
て、真空引き後アルゴンガスを−0.02MPaの圧力まで注入した後、アルゴン雰囲気中
において約700℃に維持して10分間かけて溶解し、Fe製鋳型に傾注を行い金属ガラ
ス合金の原料合金とした。
【0037】
次に、該原料合金を大きさ5〜10mm程度に粉砕し、所定の混合比で金属球状粒体と同
時にマグネシアるつぼに挿入し、真空引きした後アルゴンガスを−0.02MPaの圧力ま
で注入し、アルゴンガス雰囲気中において約600℃に維持して10分間かけて溶解した
後にFe製鋳型に傾注を行い、マグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材の原料合
金とした。
【0038】
金属球状粒体の種類、金属球状粒体の平均粒径及び体積分率は表1に示す通りである。
金属球状粒体は株式会社高純度化学研究所製のアトマイズ法で作製した金属球状粒体を用
いた。なお、表1に示す金属球状粒体の平均粒径は、前記のとおり走査型電子顕微鏡観察
により求めた平均粒径であり、原料の金属球状粒体の平均粒径と実質的に同じであった。
作製した原料合金を、孔径2.0mmのノズルを兼ねた石英ルツボ中で溶融した後、600
℃でアルゴン雰囲気下、噴出圧1.0kg/cm2でノズルから、2mmの径を有するCu製鋳
型に溶融金属を押し出し、表1の組成を有する棒状の鋳造材を作製した。比較例1につい
ては金属球状粒体を混入していない従来のマグネシウム基金属ガラス合金である。
【0039】
次に、作製したこれらの鋳造材を円周方向に1mm幅に切断した後、X線回析法により相
の同定を行った。また、予め金属球状粒体だけで金属球状粒体の回折ピークを取得してお
いた。相の判定は、金属ガラス合金特有のブロードなピークがあり、金属球状粒体のみか
ら得られた回折ピークと鋳造材から得られた回折ピークが一致する場合、ガラスと金属球
状粒体と判断し、表1には(ガラス+粒体)と表示した。また、ブロードなピーク及び金
属球状粒体のみのピークとは異なる回折ピークが出現している場合には、結晶相と判断し
、結晶相と金属球状粒体のみのピークと同一な回折ピークが出現している場合は、結晶相
と金属球状粒体相の混相と判断した。その結果を表1に示す。
【0040】
また、実施例1〜13及び比較例1に示す2mmφの鋳造材を5mmの長さに切断し、室温
で圧縮試験を行った。圧縮試験においては、インストロン型引張試験機により1×10-5
の歪速度で試験を行って耐力と塑性伸びを求めた。結果を表1に併せて示す。
【0041】
表1より明らかなように、実施例1〜13のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体
複合材からなる鋳造材は、2mmφのバルク材において、いずれもガラス相と金属球状粒体
からなる本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材であった。比較例1は
、塑性伸びが無いのに対して、実施例1〜13のマグネシム基金属ガラス合金−金属粒体
複合材は、いずれの組成においても600MPaを越える耐力と5%以上の室温破断伸びが
得られ、従来のMg基金属ガラス合金よりやや強度が低下するものの延性がある。比較例
2に示されるように、本発明において用いる金属球状粒体でないCu金属球状粒体を用い
た場合、Cuが溶湯中に溶け出しガラス形成能を低下させるために金属ガラス合金を得る
ことができない。
【0042】
表1の実施例の中で、塑性伸びが最大である実施例12の真応力−真ひずみ曲線を図1
に、破壊後の破断断面の走査電子顕微鏡像と組成像を図2に示す。図1に示すように、耐
力以上の応力においても強度は上昇しながら伸びを示しており、脆性的な破壊挙動は一切
見られない。また、破壊後には、図2に見られるように、試験前は球形であった粒体が潰
れて変形している様子が観察できており、金属球状粒体が延性の向上に寄与していること
は明らかである。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例14、比較例3及び比較例4、比較例5
金属球状粒体を混合することにより母相のガラス形成能が低下していないことを確認す
るために実施例1と同様に、Mg65Gd10Cu25(原子%)を母相として、Ti金属球状粒体を
40体積%混合した合金原料を作製し、金型鋳造により径5mm(実施例14)及び径6mm
(比較例3)の鋳造材を作製した。また、比較例4、比較例5として、金属球状粒体を混
合していない鋳造材を同様に作製した。相の同定は実施例1と同様にX線回折法により判
断した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示す通り、Mg65Gd10Cu25のマグネシウム基金属ガラス合金は、金属球状粒体を混
合していない場合は、比較例4及び5に示すように直径5mmがガラス相を得ることができ
る最大の直径である。これに対して、金属球状粒体を混合した場合においても、金属球状
粒体が混合されているにも関わらず、実施例14及び比較例3に示すように、直径5mmま
で母相はガラス相を維持しており、金属球状粒体の混合による金属ガラス合金相のガラス
形成能の低下は認められない。
[比較例6]
【0047】
特許文献2(WO96/04134)の実施例と同様に、TiCの粒子を分散させたマグネシウム
基金属ガラス合金の鋳造材を作製した。母相合金及びTiC粒子の具体的な混合方法は、
実施例1と同様であり、マグネシウム基金属ガラス合金はMg65Gd10Cu25(数字は原子%)
を用い、粉末にはTiCを用いて粉末の混合比を40体積%とした。
【0048】
得られた合金は結晶相であり、実施例と同様に測定した結果、強度は580MPaであり
、延性は得られなかった。特許文献2の実施例によると「TiCは十分に濡れていて」と
あるが、断面観察のために、鋳造材を切断・研摩している際にTiC粒子が母相のマグネ
シウム基金属から離脱する状態であり、TiCが十分に濡れている状態であるといえなか
った。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒複合材は、母相にガラス形成能に優れ
高強度の合金を用い、母相に適した金属球状粒体を分散させたことにより、塑性伸びを示
しながらも、従来のマグネシウム金属ガラス合金と同等の強度を有している。また、本発
明のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒複合材は、金型を任意の形状にすることによ
り、種々の形状の鋳造材や該鋳造材からなる塑性加工用素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例12のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材の真応力−真ひずみ曲線を示すグラフである。
【図2】実施例12のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材の圧縮試験による破壊後の破断断面の走査電子顕微鏡像と組成像を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Mg100-a-b-cLnabc(式中、Lnは、Y、Gd、Tb、Dy、Ho、Er及
びTmより選択される一種以上の元素、Mは、Cu,Agから選ばれる1種又は2種の元
素、Xは、Pd及びZnから選択される一種以上の元素、5≦a<15、15≦b<35
、0≦c<10、及び25≦a+b+c<45である)からなる金属ガラス合金に、Ti
、Co、Fe及びZrから選択される一種以上の元素からなる平均粒径が20μm以上4
00μm未満の金属球状粒体が分散してなり、鋳造のままで室温破断伸びが5%以上であ
ることを特徴とするマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材。
【請求項2】
金属ガラス合金−金属粒体複合体に対する該金属球状粒体の体積分率が5%以上50%未
満であることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合
材。
【請求項3】
圧縮荷重下で耐力(σ0.2)が800MPa以上で、かつ、室温破断伸びが20%以上である
ことを特徴とする請求項1又は2記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材

【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材からな
ることを特徴とする塑性加工用素材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム基金属ガラス合金−金属粒体複合材を該金
属ガラス合金の過冷却液体温度領域において塑性加工した後、結晶化しない冷却速度で冷
却して得られた室温破断伸びが5%以上であることを特徴とするマグネシウム基金属ガラ
ス合金−金属粒体複合材からなる製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−92103(P2007−92103A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280839(P2005−280839)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)