説明

建具

【課題】簡単な構造で確実に空掛けが防止できるとともに、防犯性および操作性を向上させることができる建具を提供すること。
【解決手段】障子5,6を閉じた状態において室内側に露出する室内露出面部8Cにクレセント錠10の錠受け12、補助錠20の受動部および第2施錠部40を設けたので、障子5,6を閉じていない状態においては、錠受け12や第2施錠部40が室内側に露出せず、障子5,6を閉じなければ施錠操作することができないため、空掛けを確実に防止することができる。クレセント錠10の施錠操作によって、補助錠20の第2施錠部40も施錠状態になるので、クレセント錠10および補助錠20の両方を一回の操作で施錠することができ、操作性が良好にでき、防犯性も向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建具に関し、詳しくは、開閉可能に設けられた障子を備え、当該障子の召合せ部(召合せ框)と他の召合せ部とが重なって閉じた状態において錠装置によって施錠可能な建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、引違い窓や片引き窓等の建具において、召合せ框に設けたクレセント錠および錠受けからなる錠装置が一般的である。このクレセント錠は、通常、室内側障子の内召合せ框に回動可能に設けられた鎌錠が、室外側障子の外召合せ框に設けられた錠受けに係合して施錠できるようになっている。このような錠装置において、錠受けが係合可能な位置にない状態でクレセント錠の施錠操作をしてしまう、いわゆる空掛けを防止する機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されたクレセント錠では、錠受けが係合可能位置にあることを感知する感知部が設けられ、この感知部により空掛けが防止できるようになっている。すなわち、錠受けが係合可能位置になく感知部が錠受けに当接しない場合には、クレセント錠の回動が規制されて施錠操作が継続できず、錠受けが係合可能位置にあって感知部が錠受けに当接した場合には、感知部が移動されて施錠操作が継続できるようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−158585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の錠装置では、感知部などの可動部品が必要になるためにクレセント錠の構造が複雑になってしまったり、空掛け時に回動が規制された状態で無理にクレセント錠を回動させようとして部品が破損してしまったり、クレセント錠を回動させるまで空掛け状態であることが判別できなかったりするなどの問題があった。
さらに、従来の錠装置では、クレセント錠が内召合せ框の見付け方向外側面(見込み面)に取り付けられ、錠受けが外召合せ框の見付け方向内側に取り付けられているため、障子のガラスパネルを通して室外から視認されやすくなっていることで、施錠位置が特定され、ガラス破り等による不法行為を抑止しにくく、防犯性の点で問題があった。このような防犯性の問題を解決するために、室外側障子の下框などに補助錠を設けることも提案されているが、補助錠を設けると、クレセント錠の施錠操作と併せて補助錠の施錠操作も行わなければならず、操作が煩雑になって操作性が劣ってしまうという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、簡単な構造で確実に空掛けが防止できるとともに、防犯性および操作性を向上させることができる建具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の建具は、スライド開閉可能に設けられた障子を備え、この障子に設けられた第1の召合せ部と、当該障子の室内側または室外側に設けられた第2の召合せ部とが、見込み方向に重なった状態において錠装置によって施錠可能な建具であって、前記第1および第2の召合せ部のうち、当該第1および第2の召合せ部が重なった状態で室外側に位置する室外側召合せ部は、室内空間に露出する室内露出面部を有して形成され、前記錠装置は、第1施錠手段と第2施錠手段とで構成され、前記第1施錠手段は、前記室内側召合せ部の見込み面に施錠操作可能に設けられた第1施錠部と、この第1施錠部と係合可能に前記室外側召合せ部に設けられた錠受けとを有し、前記第2施錠手段は、前記室外側召合せ部の室内露出面部に設けられて前記第1施錠部の施錠操作を受けて作動する受動部と、この受動部から離隔した上方および下方の少なくとも一方における前記室内露出面部に設けられた第2施錠部と、前記受動部と前記第2施錠部とを接続して第2施錠部に施錠動作を伝達する伝達部とを有し、前記第2施錠部は、前記室内側召合せ部を係止する施錠位置と係止しない解錠位置との間を移動可能な係止部材を有し、前記第1施錠手段の第1施錠部を前記錠受けに係合させる施錠操作によって、前記受動部および伝達部を介して前記第2施錠手段の係止部材が施錠位置に移動し、当該第1施錠手段および第2施錠手段で前記障子が施錠され、前記第1施錠手段の第1施錠部と錠受けとの係合を解除する第1の解錠操作と、前記第2施錠手段の係止部材を解錠位置に移動させる第2の解錠操作とによって、前記障子が解錠されることを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明の建具としては、引違い窓や片引き窓、上げ下げ窓等のサッシ窓であってもよく、引違い形式や片引き形式の引き戸であってもよい。そして、建具が片引き窓や片引き戸である場合には、障子(可動障子や戸)と、これらの室外側または室内側にて建物や枠体に固定された固定障子や袖壁、縦骨等とが、見込み方向に重なって障子が閉じ、可動障子の框材や戸の縁部等で第1の召合せ部が構成され、固定障子の框材や袖壁の縁部、縦骨等で第2の召合せ部が構成されていればよい。
【0009】
また、本発明の建具は、少なくとも一方が開閉可能に設けられた室内外一対の障子を備え、当該室内側障子の内召合せ框と室外側障子の外召合せ框とが重なって閉じた状態において錠装置によって施錠可能な建具であって、前記外召合せ框は、前記一対の障子を閉じた状態で室内空間に露出する室内露出面部を有して形成され、前記錠装置は、第1施錠手段と第2施錠手段とで構成され、前記第1施錠手段は、前記内召合せ框の見込み面に施錠操作可能に設けられた第1施錠部と、この第1施錠部と係合可能に前記外召合せ框に設けられた錠受けとを有し、前記第2施錠手段は、前記外召合せ框の室内露出面部に設けられて前記第1施錠部の施錠操作を受けて作動する受動部と、この受動部から離隔した上方および下方の少なくとも一方における前記室内露出面部に設けられた第2施錠部と、前記受動部と前記第2施錠部とを接続して第2施錠部に施錠動作を伝達する伝達部とを有し、前記第2施錠部は、前記内召合せ框を係止する施錠位置と係止しない解錠位置との間を移動可能な係止部材を有し、前記第1施錠手段の第1施錠部を前記錠受けに係合させる施錠操作によって、前記受動部および伝達部を介して前記第2施錠手段の係止部材が施錠位置に移動し、当該第1施錠手段および第2施錠手段で前記障子が施錠され、前記第1施錠手段の第1施錠部と錠受けとの係合を解除する第1の解錠操作と、前記第2施錠手段の係止部材を解錠位置に移動させる第2の解錠操作とによって、前記障子が解錠されるものであってもよい。
【0010】
以上の建具によれば、障子を閉じた状態において室内側に露出する室内露出面部に第1施錠手段の錠受けや第2施錠手段の受動部、第2施錠部を設けたので、障子を閉じていない状態においては、室内露出面部が室内側召合せ部や室内側障子(内召合せ框)に重なって室内空間に露出せず、受動部や第2施錠部が見えないため、障子の閉じていないことが利用者から判断できる。これにより、空掛けを防止することができ、空掛けを感知する感知部などの可動部品を設けなくても、空掛け状態であることが判別できるとともに、錠装置の構造を簡単にすることができる。そして、空掛け状態で無理に第1施錠部を操作してしまうこともないため、錠装置の破損を防止することができる。
また、室内側召合せ部や内召合せ框に設けた第1施錠部の施錠操作により第1施錠部を錠受けに係合させるとともに、受動部および伝達部を介して第2施錠部を施錠状態とすることで、第1施錠手段および第2施錠手段の両方を一回の操作で施錠状態とすることができ、操作性が良好にできる。
【0011】
また、第1施錠部および第2施錠部が室内露出面部の室内側に位置することで、これらの位置を室外から容易に特定することができず、施錠または解錠のいずれの状態であるかが分からないとともに、ガラス破り等を抑止することができ、防犯性を向上させることができる。
さらに、第1施錠部を解錠するとともに、第2施錠部も解錠操作しなければ、障子が解錠されないので、万一、第1施錠部近傍のガラスが破られたとしても、第1施錠部の操作によっては障子が解錠されず、ガラス破りに長時間(例えば、5分以上)を要することから、不法行為者が途中で諦める可能性が高まり、例えガラス破りにあったとしても、室内への浸入を未然に防止することができ、より一層防犯性を高めることができる。
【0012】
この際、本発明の建具では、前記第1施錠部は、前記室内側召合せ部または前記内召合せ框の見込み面に固定される第1施錠部本体と、この第1施錠部本体に支持されて見込み方向室外側に突出しかつ前記錠受けに係合可能に設けられた係合部材とを有して構成され、前記受動部は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框に固定される受動部本体と、前記室外側に突出した係合部材に押されて移動する移動部材と、この移動部材と前記伝達部とを接続して当該移動部材に連動させて当該伝達部を上方または下方にスライドさせる連動手段とを有して構成され、前記連動手段を介してスライドした前記伝達部で前記第2施錠部の係止部材が施錠位置に移動されることが好ましい。
このような構成によれば、第1施錠部の係合部材を室外側に突出させて錠受けに係合させるとともに、この係合部材で受動部の移動部材を押して移動させることで、連動手段および伝達部を介して施錠位置に移動された係止部材で施錠できるため、第1および第2の施錠手段を比較的簡単な構造とすることができ、破損しにくく耐久性に優れた錠装置が構成できる。
【0013】
さらに、本発明の建具では、前記第1施錠部の係合部材は、前記錠受けに係合した際に、当該錠受けを室内側に引き寄せ可能に構成されていることが好ましい。
ここで、係合部材としては、第1施錠部本体に回動自在に支持された鎌錠を有したもの、つまり従来のクレセント錠と同様の錠部品を用いたものが利用可能であるし、引き寄せ機能を有するものであれば任意の形態の係合部材が利用可能である。
この構成によれば、第1施錠部の係合部材が錠受けに係合した際に錠受けを引き寄せることで、室内側召合せ部(または内召合せ框)と室外側召合せ部(または外召合せ框)とが互いに引き寄せられ、前述したような防犯性と併せて建具の気密性や遮音性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の建具では、前記第2施錠部は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框に固定されるとともに前記係止部材を支持する第2施錠部本体と、この第2施錠部本体に対して前記係止部材を施錠位置または解錠位置に付勢する係止部材付勢手段と、前記第2施錠部本体に移動自在に支持されるとともに前記係止部材と前記伝達部とを接続する接続部材とを有して構成され、前記伝達部を介して伝達された前記第1施錠手段、受動部および伝達部の施錠動作により前記接続部材が移動され、この移動に伴って前記係止部材が施錠位置に移動されることが好ましい。
このような構成によれば、第2施錠部が施錠部本体を有し、この施錠部本体に係止部材および接続部材を支持させたことで、第2施錠部をユニット化することができ、室外側召合せ部や外召合せ框への取付が容易にできる。さらに、係止部材付勢手段で係止部材を施錠位置または解錠位置に付勢することで、振動等により係止部材が不用意に移動してしまうことが防止でき、係止部材の施錠位置または解錠位置を維持して、施錠および解錠を確実に実施することができる。
【0015】
さらに、本発明の建具では、前記第2施錠部の係止部材は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框の室内露出面部から室内側に突出して前記室内側召合せ部または前記内召合せ框の見込み面に当接することで前記障子を施錠する施錠位置と、前記室内露出面部と略フラットに前記施錠部本体内部に没入する解錠位置との間を移動自在に設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、室内露出面部から室内側に突出した施錠位置と室内露出面部に没入した解錠位置との間を係止部材が移動するだけで、第2施錠手段による施解錠が実施できるので、その構造を簡単化できるとともに、第1施錠部による受動部や伝達部の移動距離を小さくして、これらの構造も簡単化することができる。さらに、室内露出面部から室内側に突出した係止部材が室内側召合せ部や内召合せ框の見込み面に当接して障子が施錠されるので、室内側召合せ部や内召合せ框に従来のような錠受けを設ける必要がなく、この点でも錠装置の構造を簡単化して部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る建具である引違い窓1を示す横断面図である。図2は、引違い窓1の解錠状態を示す斜視図である。図3は、引違い窓1の施錠状態を示す斜視図である。
図1〜図3において、引違い窓1は、図示しない上枠、下枠2および左右の縦枠3を有した窓枠4と、この窓枠4の内部に開閉自在に支持された室内外一対の障子5,6とを有して構成されている。障子5,6は、それぞれアルミ形材製の上框(不図示)、下框7および左右の縦框8を四周框組みした内部に、ガラスパネル9を嵌め込んで構成されている。そして、引違い窓1は、室内側障子5の召合せ框である内召合せ框8Aと室外側障子6の召合せ框である外召合せ框8Bとが見込み方向に重なって閉じるようになっている。外召合せ框8Bは、内召合せ框8Aよりも大きな見付け寸法を有し、障子5,6を閉じた状態で内召合せ框8Aと重ならずに室内空間に露出する室内露出面部8Cを室内側側面に有して形成されている。
【0017】
引違い窓1の内外の召合せ框8A,8Bには、障子5,6を施錠するための錠装置が設けられている。この錠装置は、第1施錠手段としてのクレセント錠10と、第2施錠手段としての少なくとも1つの補助錠20とで構成されている。
クレセント錠10は、内召合せ框8Aの見込み面8Dに施錠操作可能に設けられた第1施錠部としてのクレセント本体11と、このクレセント本体11と係合可能に外召合せ框8Bの室内露出面部8Cに設けられた錠受け12(図6参照)とを有して構成されている。クレセント本体11は、内召合せ框8Aの見込み面8Dに固定される第1施錠部本体としてのベース13と、このベース13に回動自在に支持されて見込み方向室外側に突出しかつ錠受け12に係合可能に設けられた係合部材としての鎌錠14(図5参照)と、この鎌錠14を回動操作するための操作部15とを有して構成されている。このようなクレセント錠10では、障子5,6を閉じた状態、つまり室内露出面部8Cの錠受け12が室内側に露出した状態で操作部15を操作することで、鎌錠14が回動されて錠受け12係合片12Aに係合し、これにより障子5,6が施錠される。この際、鎌錠14が係合した錠受け12を室内側に引き寄せることで、内外の召合せ框8A,8B同士が引き寄せられるようになっている。
【0018】
一方、第2施錠手段としての補助錠20は、外召合せ框8Bの室内露出面部8Cに設けられてクレセント錠10の施錠操作を受けて作動する受動部30と、この受動部30から離隔した下方における室内露出面部8Cに設けられた第2施錠部40と、外召合せ框8B内部に設けられて受動部30と第2施錠部40とを接続する伝達部50(図4参照)とを備えて構成されている。
以下、図4〜図8も参照して補助錠20の詳細構成を説明する。
ここで、図4は、補助錠20の構成を示す斜視図である。図5(A),(B)は、受動部30を示す縦断面図である。図6は、受動部30を示す分解斜視図である。図7は、第2施錠部40を示す分解斜視図である。図8(A)〜(C)は、第2施錠部40の動作を示す縦断面図である。
【0019】
補助錠20は、クレセント錠10の施錠操作を受けて作動するものであって、室外側に突出した鎌錠14により受動部30が操作され、これに連動する伝達部50を介して第2施錠部40が内召合せ框5Aを係止することで、室内外の障子5,6を施錠するとともに、室内側から第2施錠部40を解錠操作することで解錠可能に構成されている。この補助錠20において、第2施錠部40は、少なくとも1つ設けられていればよく、1つの場合には、クレセント錠10から離れた外召合せ框8Bの下部に設けられていることが好ましい。また、第2施錠部40を複数設けてもよく、その場合には、クレセント錠10を挟んだ上下に分けて設けることが望ましい。ただし、クレセント錠10よりも上側に設ける第2施錠部40の高さ位置は、錠操作可能な子供の手が届く範囲であることが望ましい。
【0020】
補助錠20の受動部30は、図4〜図6に示すように、外召合せ框8Bに固定される受動部本体としてのケース体31と、このケース体31に支持されて室内外方向にスライド自在に設けられた移動部材32と、ケース体31に支持されて移動部材32に連動して上下スライド自在に設けられた連動手段としてのスライド部材33と、移動部材32を室内側に付勢する付勢手段であるコイルばね34とを有して構成されている。そして、受動部30におけるケース体31の室内側前面に錠受け12が固定されている。
【0021】
ケース体31は、室内側に向かって開口して移動部材32を挿通させる開口部311と、スライド部材34を上下に案内する案内溝312とを有し形成されており、開口部311によって移動部材32をスライド案内するようになっている。そして、移動部材32の側面には、スライド部材33を案内する傾斜面321が設けられており、移動部材32が室外側に移動することで、傾斜面321を介してスライド部材33が押し下げられ、移動部材32が室内側に移動することで、傾斜面321を介してスライド部材33が押し上げられるように構成されている。また、スライド部材33には、図4に示すように、伝達部50の伝達部材51(後述)に接続される接続片331が形成されている。
【0022】
以上の受動部30では、前記クレセント錠10の施錠操作によって鎌錠14が突出して錠受け12に係合するとともに、ケース体31の開口部311に挿入されることで、この鎌錠14に押されて移動部材32が室外側にスライドし、これによりスライド部材33が押し下げられて伝達部50の伝達部材51が施錠方向(下向き)にスライドするようになっている。一方、クレセント錠10を解錠すると、コイルばね34の付勢力によって移動部材32が室内側にスライドし、これによりスライド部材33が押し上げられて初期位置に戻るようになっている。
【0023】
第2施錠部40は、図7、図8に示すように、外召合せ框8Bに固定される第2施錠部本体としてのケース体41と、このケース体41にスライド自在に支持されて内召合せ框8Aを係止する施錠位置と係止しない解錠位置との間を移動可能な係止部材42と、ケース体41に対して係止部材42を施錠位置側に付勢する係止部材付勢手段としてのねじりコイルばね43と、ケース体41に上下スライド自在に支持されるとともに係止部材42および伝達部50に接続される接続部材としてのスライド部材44と、スライド部材44を上方(初期位置側)に付勢する復帰ばね45とを有して構成されている。
ケース体41は、室内側に向かって開口して係止部材42を挿通させる開口部411と、スライド部材44を上下に案内する案内溝412とを有して形成されており、開口部411によって係止部材42をスライド案内するようになっている。
【0024】
係止部材42は、ケース体41に案内されるとともにねじりコイルばね43に付勢されて室内側に向かって突出可能になっている。また、係止部材42には、ねじりコイルばね43の付勢力に抗してケース体41内部に没入させた際にスライド部材44に係止される2本のピン421が設けられている。これらのピン421は、ケース体41に設けられた長孔を介して側方に突出し、長孔に案内されるようになっている。一方、スライド部材44には、伝達部50の伝達部材51に接続される接続片441と、係止部材42のピン421を係止する2つの係止部442とが設けられている。このスライド部材44は、復帰ばね45によってケース体41に対して上方に付勢されており、この付勢力に抗して伝達部材51で下方に移動された際に、係止部442によるピン421の係止が外れ、係止部材42をケース体41から突出させるように構成されている。
【0025】
伝達部50は、図1、図4に示すように、外召合せ框8Bの内部に沿った長尺状の伝達部材51を有して構成されている。伝達部材51は、折り曲げ加工された板材からなり、外召合せ框8Bの内側面に形成された爪部に係止されることで、上下方向に進退自在に支持されている。この伝達部材51には、受動部30および第2施錠部40に対応した位置に角形の開口511が形成されている。これらの開口511は、受動部30におけるスライド部材33の接続片331と、第2施錠部40におけるスライド部材44の接続片441とを、それぞれ余裕を持って挿入可能な大きさに形成されている。そして、受動部30におけるスライド部材33の接続片331の下端縁は、開口511の下端縁に当接され、スライド部材33の下方への施錠動作が伝達部材51に伝達できるようになっている。一方、第2施錠部40におけるスライド部材44の接続片441の上端縁は、開口511の上端縁に当接され、復帰ばね45によるスライド部材44の上方への復帰動作が伝達部材51に伝達できるようになっている。
【0026】
以上のような補助錠20では、クレセント錠10の鎌錠14によって受動部30の移動部材32が押し込まれることで、スライド部材33を介して伝達部材51が下方に移動する。そして、伝達部材51が下方に移動することで第2施錠部40のスライド部材44が下方にスライドし、その係止部442によるピン421の係止が外れ、係止部材42がケース体41から突出して施錠位置に移動される。このように係止部材42が室内側に突出することで、係止部材42で内召合せ框8Aを係止し、室内外の障子5,6が施錠されるようになっている。この際、クレセント錠10においても、鎌錠14が錠受け12に係合することで、室内外の障子5,6が施錠され、クレセント錠10および補助錠20の両方による施錠が実施されるようになっている。
【0027】
以上の施錠状態、すなわち受動部30の移動部材32が押し込まれ、伝達部材51および第2施錠部40のスライド部材44が下方に移動した状態において、第2施錠部40の係止部材42をケース体41内に押し込んでも、ねじりコイルばね43によって押し戻されて係止部材42の突出状態が維持される、つまり係止部材42が施錠位置に維持されるようになっている。一方、クレセント錠10を解錠する(第1の解錠操作)と、第2施錠部40の復帰ばね45によりスライド部材44および伝達部材51が上方の初期位置に戻され、この状態で図8(B),(C)に示すように、係止部材42をケース体41内に押し込めば(第2の解錠操作)、ピン421がスライド部材44の係止部442に係止され、係止部材42の没入状態が維持される、つまり係止部材42が解錠位置に維持されるようになっている。従って、係止部材42による内召合せ框8Aの係止が外れ、室内外の障子5,6が解錠されるようになっている。
【0028】
なお、前述の受動部30では、ケース体31の室内側前面に別体の錠受け12が固定される構成であったが、これに限らず、図9に示すように、錠受け12と受動部30のケース体31とが一体に形成されていてもよい。この受動部30では、錠受け12の係合片12Aに対応した位置を凹ませて移動部材32が形成されており、解錠状態(図9(A)の状態)において、移動部材32の室内側側面と錠受け12(ケース体31)の室内側側面とが略同一見込み位置でフラットになるように構成されている。従って、クレセント錠10の鎌錠14が当接して移動部材32を押し込む際の押し込み量を大きくすることができるようになっている。
【0029】
また、第2施錠部40の係止部材42としては、図10に示すように、その室内側先端面に曲面422(または傾斜面)が形成されていることが望ましい。すなわち、前述した補助錠20の各部部品の製作精度や取付精度、あるいは長期使用による摩耗等によって、係止部材42の解錠位置に寸法誤差が生じると、係止部材42をケース体41内に押し込んで解錠位置に位置決めしたとしても、係止部材42の先端がケース体31(または錠受け12)の室内側側面よりも突出してしまうことがある。このような場合においても、係止部材42の先端に曲面422を形成しておくことで、障子5,6を開放した際に、内召合せ框8Aに曲面422が当接し、これによって係止部材42が室外側つまりケース体41内に押し込まれる。従って、係止部材42と内召合せ框8Aとの干渉を防止することができ、障子5,6の開閉を円滑に実施できるようになっている。
【0030】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)すなわち、障子5,6を閉じた状態において室内側に露出する室内露出面部8Cにクレセント錠10の錠受け12、補助錠20の受動部30および第2施錠部40を設けたので、障子5,6を閉じていない状態においては、室内露出面部8Cが室内側障子5(内召合せ框8A)に重なって、錠受け12、受動部30および第2施錠部40が室内側に露出せず、障子5,6を閉じなければ施錠操作することができないため、空掛けを確実に防止することができる。
【0031】
(2)そして、空掛けを感知する感知部などの可動部品を設けなくても、空掛け状態であることが判別できるので、クレセント錠10の構造を簡単にすることができるとともに、空掛け状態で無理にクレセント錠10の操作部15を操作してしまうことも防げるため、クレセント錠10の破損を防止することができる。
【0032】
(3)また、内召合せ框8Aに設けたクレセント錠本体11の施錠操作によってクレセント錠10を施錠するとともに、受動部30および伝達部50を介して第2施錠部40を施錠状態とすることで、クレセント錠10および補助錠20の両方を一回の操作で施錠状態とすることができ、操作性が良好にできる。そして、一回の施錠操作で複数箇所の施錠が実施できるので、防犯性を向上させることができる。
【0033】
(3)さらに、室内露出面部8Cにクレセント錠10の錠受け12、補助錠20の受動部30および第2施錠部40が設けられ、室内露出面部8Cにクレセント錠10のクレセント錠本体11が重なって設けられているので、室外からクレセント錠本体11や第2施錠部40など位置を容易に特定することができず、施錠または解錠のいずれの状態であるかが分からないとともに、クレセント錠10や補助錠20の第2施錠部40の位置が特定できないためガラス破り等を抑止することができ、防犯性を一層向上させることができる。
【0034】
(4)そして、クレセント錠10と、補助錠20の第2施錠部40との両方において解錠操作しなければ、障子5,6が解錠されないので、万一、クレセント錠10近傍のガラスが破られたとしても、クレセント錠10の操作だけでは解錠できず、ガラス破りに長時間を要することから、不法行為者が途中で諦める可能性が高まり、例えガラス破りにあったとしても、室内への浸入を未然に防止することができ、より一層防犯性を高めることができる。
【0035】
(5)また、クレセント錠10の鎌錠14を錠受け12に係合させるとともに、この鎌錠14で受動部30の移動部材32を押して移動させることで、伝達部材51を介して第2施錠部40の係止部材42で施錠できるため、クレセント錠10および補助錠20を比較的簡単な構造とすることができ、破損しにくく耐久性に優れた錠装置が構成できる。
【0036】
(6)また、クレセント錠10の鎌錠14が錠受け12に係合した際に、錠受け12を引き寄せることで、内召合せ框8Aと外召合せ框8Bとが互いに引き寄せられ、防犯性と併せて引違い窓1の気密性や遮音性を向上させることができる。
【0037】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態においては、引違い窓1を例示して説明したが、本発明の建具はこのような引違い窓1に限られず、片引き窓や上げ下げ窓等であってもよい。片引き窓としては、外動片引き窓および内動片引き窓のいずれであってもよく、外動片引き窓の場合には、室内側障子が固定障子となってその縦骨が内召合せ框となり、内動片引き窓の場合には、室外側障子が固定障子となってその縦骨が外召合せ框となる。
【0038】
また、前記各実施形態では、第1施錠手段としてクレセント錠10を用いた例を説明したが、第1施錠手段としては、室内側から操作可能な第1施錠部と、この第1施錠部と係合可能に室内露出面部に設けられた錠受けとを有したものであれば、前述のようなクレセント錠に限られず、任意の構造の錠部材が適用可能である。
また、前記実施形態では、第2施錠手段として第2施錠部40を有した補助錠20を用いた例を説明したが、第2施錠部としては、前述のように係止部材42が室内側に突出して内召合せ框の見込み面を係止するものに限らず、係止部材が回動するものでもよく、また係止部材が内召合せ框の室外側側面に係合するものであってもよい。
【0039】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る建具を示す横断面図である。
【図2】前記建具の解錠状態を示す斜視図である。
【図3】前記建具の施錠状態を示す斜視図である。
【図4】前記建具に設けられた第2施錠手段を示す斜視図である。
【図5】(A),(B)は、前記第2施錠手段における受動部を示す縦断面図である。
【図6】前記受動部を示す分解斜視図である。
【図7】前記第2施錠手段における第2施錠部を示す分解斜視図である。
【図8】(A)〜(C)は、前記第2施錠部の動作を示す縦断面図である。
【図9】(A),(B)は、前記受動部の変形例を示す斜視図である。
【図10】(A),(B)は、前記第2施錠部の変形例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0041】
5,6…障子、8A…内召合せ框、8B…外召合せ框、8C…室内露出面部、8D…見込み面、10…第1施錠手段であるクレセント錠、11…第1施錠部であるクレセント錠本体、12…錠受け、13…第1施錠部本体であるベース、14…係合部材である鎌錠、20…第2施錠手段である補助錠、30…受動部、31…受動部本体であるケース体、32…移動部材、33…連動手段であるスライド部材、40…第2施錠部、41…第2施錠部本体であるケース体、42…係止部材、43…係止部材付勢手段であるねじりコイルばね、44…接続部材であるスライド部材、50…伝達部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライド開閉可能に設けられた障子を備え、この障子に設けられた第1の召合せ部と、当該障子の室内側または室外側に設けられた第2の召合せ部とが、見込み方向に重なった状態において錠装置によって施錠可能な建具であって、
前記第1および第2の召合せ部のうち、当該第1および第2の召合せ部が重なった状態で室外側に位置する室外側召合せ部は、室内空間に露出する室内露出面部を有して形成され、
前記錠装置は、第1施錠手段と第2施錠手段とで構成され、
前記第1施錠手段は、前記室内側召合せ部の見込み面に施錠操作可能に設けられた第1施錠部と、この第1施錠部と係合可能に前記室外側召合せ部に設けられた錠受けとを有し、
前記第2施錠手段は、前記室外側召合せ部の室内露出面部に設けられて前記第1施錠部の施錠操作を受けて作動する受動部と、この受動部から離隔した上方および下方の少なくとも一方における前記室内露出面部に設けられた第2施錠部と、前記受動部と前記第2施錠部とを接続して第2施錠部に施錠動作を伝達する伝達部とを有し、
前記第2施錠部は、前記室内側召合せ部を係止する施錠位置と係止しない解錠位置との間を移動可能な係止部材を有し、
前記第1施錠手段の第1施錠部を前記錠受けに係合させる施錠操作によって、前記受動部および伝達部を介して前記第2施錠手段の係止部材が施錠位置に移動し、当該第1施錠手段および第2施錠手段で前記障子が施錠され、
前記第1施錠手段の第1施錠部と錠受けとの係合を解除する第1の解錠操作と、前記第2施錠手段の係止部材を解錠位置に移動させる第2の解錠操作とによって、前記障子が解錠される建具。
【請求項2】
少なくとも一方が開閉可能に設けられた室内外一対の障子を備え、当該室内側障子の内召合せ框と室外側障子の外召合せ框とが重なって閉じた状態において錠装置によって施錠可能な建具であって、
前記外召合せ框は、前記一対の障子を閉じた状態で室内空間に露出する室内露出面部を有して形成され、
前記錠装置は、第1施錠手段と第2施錠手段とで構成され、
前記第1施錠手段は、前記内召合せ框の見込み面に施錠操作可能に設けられた第1施錠部と、この第1施錠部と係合可能に前記外召合せ框に設けられた錠受けとを有し、
前記第2施錠手段は、前記外召合せ框の室内露出面部に設けられて前記第1施錠部の施錠操作を受けて作動する受動部と、この受動部から離隔した上方および下方の少なくとも一方における前記室内露出面部に設けられた第2施錠部と、前記受動部と前記第2施錠部とを接続して第2施錠部に施錠動作を伝達する伝達部とを有し、
前記第2施錠部は、前記内召合せ框を係止する施錠位置と係止しない解錠位置との間を移動可能な係止部材を有し、
前記第1施錠手段の第1施錠部を前記錠受けに係合させる施錠操作によって、前記受動部および伝達部を介して前記第2施錠手段の係止部材が施錠位置に移動し、当該第1施錠手段および第2施錠手段で前記障子が施錠され、
前記第1施錠手段の第1施錠部と錠受けとの係合を解除する第1の解錠操作と、前記第2施錠手段の係止部材を解錠位置に移動させる第2の解錠操作とによって、前記障子が解錠される建具。
【請求項3】
前記第1施錠部は、前記室内側召合せ部または前記内召合せ框の見込み面に固定される第1施錠部本体と、この第1施錠部本体に支持されて見込み方向室外側に突出しかつ前記錠受けに係合可能に設けられた係合部材とを有して構成され、
前記受動部は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框に固定される受動部本体と、前記室外側に突出した係合部材に押されて移動する移動部材と、この移動部材と前記伝達部とを接続して当該移動部材に連動させて当該伝達部を上方または下方にスライドさせる連動手段とを有して構成され、
前記連動手段を介してスライドした前記伝達部で前記第2施錠部の係止部材が施錠位置に移動される請求項1または請求項2に記載の建具。
【請求項4】
前記第1施錠部の係合部材は、前記錠受けに係合した際に、当該錠受けを室内側に引き寄せ可能に構成されている請求項3に記載の建具。
【請求項5】
前記第2施錠部は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框に固定されるとともに前記係止部材を支持する第2施錠部本体と、この第2施錠部本体に対して前記係止部材を施錠位置または解錠位置に付勢する係止部材付勢手段と、前記第2施錠部本体に移動自在に支持されるとともに前記係止部材と前記伝達部とを接続する接続部材とを有して構成され、
前記伝達部を介して伝達された前記第1施錠手段、受動部および伝達部の施錠動作により前記接続部材が移動され、この移動に伴って前記係止部材が施錠位置に移動される請求項1から請求項4のいずれかに記載の建具。
【請求項6】
前記第2施錠部の係止部材は、前記室外側召合せ部または前記外召合せ框の室内露出面部から室内側に突出して前記室内側召合せ部または前記内召合せ框の見込み面に当接することで前記障子を施錠する施錠位置と、前記室内露出面部と略フラットに前記施錠部本体内部に没入する解錠位置との間を移動自在に設けられている請求項1から請求項5のいずれかに記載の建具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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