説明

建材及びその製造方法

【課題】低い光量であっても優れた光触媒活性や超親水性を有し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない建材を提供する。
【解決手段】建材は、ナシコン型結晶である光触媒結晶を少なくとも表面に含有する。また、建材の製造方法は、ナシコン型結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆を形成する被覆工程を有する。ここで、ナシコン型結晶は、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、高い光触媒活性を有することが知られている。このような光触媒活性を有する化合物(以下、単に「光触媒化合物」と記すことがある)は、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子や正孔を生成するため、光触媒化合物の近傍において、酸化還元反応が強く促進される。また、光触媒化合物の表面は、水に濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
光触媒化合物としては、主に酸化チタンが研究されており、酸化チタンはバンドギャップが3〜3.2eVであるため、主に波長400nm以下の紫外線によって光触媒活性が得られる。
【0004】
このような光触媒特性や超親水性を有する酸化チタンを、建材に用いることが検討されている。例えば、特許文献1及び2では、酸化チタンの薄膜をガラスや施釉タイルの表面に形成することが開示されている。また、特許文献3では、酸化チタン微粒子と酸化チタンの前駆体との混合液をガラスの表面に塗布することが開示されている。また、特許文献4では、酸化チタンの薄膜をガラスの表面に形成した後、オーバーコート層を形成することが開示されている。また、特許文献5では、アパタイト前駆体組成物を用いてアパタイトの薄膜をガラスの表面に形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2756474号公報
【特許文献2】特許2943768号公報
【特許文献3】特許3791067号公報
【特許文献4】特許3904355号公報
【特許文献5】特許4586170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5の技術では、酸化チタンの薄膜が光触媒特性や超親水性を奏するには、例えばBLB(ブラックライトブルー蛍光灯)の光や太陽光のように強力な紫外光を照射する必要があったため、特に日影や室内のように低い光量の光しか当たらない環境下では、光触媒特性や超親水性を発現させることが困難であった。この点、特許文献1や2では、酸化チタンに対して蛍光灯を用いて親水性を発現させる試みもなされているが、親水性の発現に1日もの長い時間を要し、且つ得られる親水性も決して高くないため、実用的ではない。
【0007】
また、特許文献1〜5の技術では、光触媒化合物が基材から剥離し易いため、経年劣化によって光触媒特性や超親水性が徐々に失われる問題点がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射であっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない建材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、建材の少なくとも表面にナシコン型結晶である光触媒結晶を用いることにより、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射によっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ、光触媒結晶の耐熱性が高められることで光触媒結晶と基材との密着性を高め易くできることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) ナシコン型結晶である光触媒結晶を少なくとも表面に含有する建材。
【0011】
(2) 前記建材が内装材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が建築物の内装を構成する(1)記載の建材。
【0012】
(3) 気密性が20cm/m以下の前記建築物に用いられる(2)記載の建材。
【0013】
(4) 前記建材が外装材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が建築物の外装を構成する(1)記載の建材。
【0014】
(5) 前記建材が建築物の内部と外部とを隔てる部材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が、建築物の内部表面及び/又は外部表面を構成する(1)記載の建材。
【0015】
(6) 金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される基材の少なくとも表面に、前記光触媒結晶を含有する(1)から(5)のいずれか記載の建材。
【0016】
(7) 前記基材がガラスから構成され、前記基材の表面に前記光触媒結晶を含む被覆を有する(6)記載の建材。
【0017】
(8) 前記ガラスがアルカリ金属成分を含有し、前記基材の表面に前記被覆が直接形成されている(7)記載の建材。
【0018】
(9) 前記被覆の表面にオーバーコート層を更に有する(6)から(8)のいずれか記載の建材。
【0019】
(10) 前記ナシコン型結晶が、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表される結晶である(1)から(9)のいずれか記載の建材。
【0020】
(11) Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有する(1)から(10)のいずれか記載の建材。
【0021】
(12) Pd、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子吸引性物質が、前記光触媒結晶の含有量に対する質量比で10.0%以下含まれている(1)から(11)のいずれか記載の建材。
【0022】
(13) 前記ナシコン型結晶の平均粒径が10nm以上30μm以下である(1)から(12)のいずれか記載の建材。
【0023】
(14) 紫外領域から可視領域までの少なくともいずれかの波長の光によって触媒活性が発現される(1)から(13)のいずれか記載の建材。
【0024】
(15) 紫外領域から可視領域までの少なくともいずれかの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である(1)から(14)のいずれか記載の建材。
【0025】
(16) 建材の製造方法であって、
ナシコン型結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆を形成する被覆工程を有する建材の製造方法。
【0026】
(17) 前記基材が金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される(16)記載の建材の製造方法。
【0027】
(18) 前記基材がアルカリ金属成分を含有するガラスである(17)記載の建材の製造方法。
【0028】
(19) 前記被覆工程は、スパッタ法を用いて、前記コーティング材を前記基材に被着させる工程である(16)から(18)のいずれか記載の建材の製造方法。
【0029】
(20) 前記被覆工程は、前記ナシコン型結晶が分散した水性ゾルを用いて、前記コーティング材を前記基材に塗布又は噴霧する工程である(16)から(18)のいずれか記載の建材の製造方法。
【0030】
(21) 前記コーティング材の被覆された基材を焼成する焼成工程をさらに有する(16)から(20)のいずれか記載の建材の製造方法。
【0031】
(22) 前記焼成工程が700℃以上1200℃以下の焼成温度で行われる(21)記載の建材の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、建材の少なくとも表面にナシコン型結晶である光触媒結晶を用いることにより、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射によっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ、光触媒結晶の耐熱性が高められることで光触媒結晶と基材との密着性を高め易くできる。そのため、低い光量の光の照射や、短時間の光の照射であっても優れた光触媒活性や超親水性を呈し、且つ基材との密着性が高く経年劣化の少ない建材及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例2のサンプルBについてのXRDパターンである。
【図2】実施例2のサンプルBにおける、紫外線の照射時間と水接触角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の建材及びその製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0035】
本発明の建材は、ナシコン型構造を有する結晶(以下、「ナシコン型結晶」と記すことがある)である光触媒結晶を少なくとも表面に含有する。ナシコン型結晶を光触媒結晶として用いた光触媒は、より少ない光量でも光触媒活性を示し、且つ、熱による相転移が起こり難い。そのため、特に光量の少ない環境下や、耐熱性が要求される用途に好適であり、且つ光触媒活性の高い建材と、その製造方法を提供できる。
【0036】
<光触媒結晶>
まず、本発明の建材が含有する光触媒結晶について説明する。
【0037】
(ナシコン型結晶)
本発明の建材は、ナシコン型結晶である光触媒結晶を少なくとも表面に含有する。ナシコン型の結晶構造は、後述する一般式A(XOで表すことが可能な構造であり、BO八面体とXO四面体とが頂点を共有するように連結することで、三次元の網目構造を形成する構造である。その構造の中には、Aイオンが存在しうる二つのサイトがあり、これらのサイトは連続する三次元のトンネルを形成している。この結晶構造の最大の特徴は、Aイオンが結晶内を容易に動くことである。このような構造を取ることにより、光触媒結晶の光触媒活性が高められ、且つ光触媒結晶の耐熱性が高められるため、このような光触媒結晶を表面に含有することで、優れた光触媒活性を安定的に有する建材を得ることができる。ここで、光触媒結晶が光触媒活性を高められる理由としては、Aイオンが結晶内を動き易いことにより、光の照射により生じた電子とホールとの再結合の確率が低減されるためであると推察される。また、本発明の光触媒結晶が耐熱性を高められる理由としては、ナシコン型結晶は相転移がなく熱的に安定であり、焼成等の加熱条件によって光触媒特性が失われ難いためであると推察される。
【0038】
ここで、ナシコン型の結晶構造は、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表されることが好ましい。この一般式で表される化合物は、安定的にナシコン型構造をとるため、光触媒特性を高め易くすることができる。
【0039】
このうち、第一元素Aは、Li、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらのイオンが結晶内のトンネルを形成するサイトに存在することで、これらのイオンが結晶内を容易に動くことができる。そのため、光の照射により生じた電子とホールとの再結合の確率が低減されることで、ナシコン型結晶の光触媒特性が向上する。特に、第一元素AとしてCu及びAgの少なくともいずれかを含む場合、上述の光触媒特性に加えて、光照射がなくても高い抗菌性を発現できるので、これらの少なくともいずれかを含ませることがより好ましい。なお、第一元素Aは、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF、NaO、NaCO、NaNO、NaF、NaS、NaSiF、KCO、KNO、KF、KHF、KSiF、CuO、CuCl、AgCl、MgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF、BaCO、Ba(NO等を用いることができる。
【0040】
また、第二元素Bは、Zn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。これらは、安定なナシコン型の結晶構造を取るのに必要不可欠な成分であり、且つ、結晶の伝導帯の構成に関与して2.5〜4eVの範囲を有するバンドギャップを形成する成分である。そのため、これらのうち少なくともいずれかの元素を含有することで、紫外光のみならず可視光にも応答する光触媒を得ることが可能である。また、光触媒効率を上げる観点で、Ti、Zr及びVから選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、Tiを含むことが最も好ましい。特に、Tiを含むことにより、バンドギャップは2.8〜3.4eVの範囲になるため、紫外光と可視光の両方に応答する光触媒を容易に得られる。ここで、第二元素Bの全体に対するTi、Zr及びVから選ばれる1種以上の化学量論比は、好ましくは0.1、より好ましくは0.3、最も好ましくは0.5を下限とすることが好ましい。特に、第二元素Bの全体に対するTi、Zr及びVから選ばれる1種以上の化学量論比を高めることにより、光触媒特性をより高め易くすることができる。なお、第二元素Bは、原料として例えばZnO、ZnFAl、Al(OH)、AlF、FeO、Fe、TiO、SnO、SnO、SnO、ZrO、ZrF、GeO、Hf、V、Nb、Ta等を用いることができる。
【0041】
また、第三元素Xは、Si、P、S、Mo及びWから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらの元素は、安定なナシコン型結晶構造を取るのに必要不可欠な成分であり、且つ、ナシコン型結晶のバンドギャップの大きさを調整できる効果があるので、これらの元素のうち少なくともいずれかを含有することが好ましい。その中でも特に、ナシコン型結晶の形成が容易である点から、P、S、Mo及びWから選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。なお、第三元素Xは、SiO、KSiF、NaSiF、Al(PO、Ca(PO、Ba(PO、Na(PO)、BPO、HPO、NaS,Fe,CaS、WO、MoO等を用いることができる。
【0042】
上記一般式における係数mは、B又はXの種類によって適宜設定されるが、0以上4以下の範囲内である。mがこの範囲にあることで、ナシコン型結晶構造が保たれ、熱的及び化学的な安定性が高くなり、環境の変化による光触媒特性の劣化が少なくなり、且つ他の材料との複合化の際に加熱による光触媒特性の低下が起こり難くなる。ここで、mが4を超えると、ナシコン型構造が維持できなくなるため、光触媒特性が低下する。
【0043】
ナシコン型結晶としては、例えばRTi(PO、M0.5Ti(PO、RZr(PO、M0.5Zr(PO、RGe(PO、M0.5Ge(PO、RAlZn(PO、RTiZn(PO、R(PO、Al0.3Zr(PO、RFe(PO、RSn(SiO、RNbAl(PO、La1/3Zr(PO、Fe(MoO及びFe(SO(式中、RはLi、Na、K及びCuからなる群から選択される1種以上とし、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とする)が挙げられる。
【0044】
(化合物結晶)
本発明の建材は、光触媒結晶すなわちナシコン型結晶に加えて、他の化合物結晶を表面に含有してもよい。これにより、ナシコン型結晶が有する光触媒特性や機械的特性等の特性が調整されるため、光触媒を所望の用途に用い易くすることができる。
【0045】
ここで、化合物結晶は、所望とする特性に応じて適宜選択されるものであるが、Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有してもよい。これらの化合物結晶がナシコン型結晶の近傍に存在することで、建材の光触媒特性をより高めることができる。このような化合物結晶としては、TiO、WO、ZnO及びこれらの固溶体から選ばれる1種以上の結晶が挙げられる。これらの結晶を添加することで、光触媒特性を有する結晶の量が増加されるため、建材の光触媒特性をより増強できる。
【0046】
建材の表面における化合物結晶の含有量は、より光触媒特性を高められる観点では増加させることが好ましいが、特に光触媒結晶を基材に被覆した場合や、建材そのものが焼成体からなる場合には、これらの光触媒特性を有する化合物結晶の含有量を低減することが好ましく、化合物結晶を含有しないことがより好ましい。これにより、より高温での焼成を行って建材を作製することが可能になるため、特に基材に被覆した場合における基材との密着性を高め、建材の経年劣化を低減することができる。なお、化合物結晶は、生成されたナシコン型結晶に人為的に加えられるものであってもよく、ナシコン型結晶の生成過程における副産物を用いたものであってもよい。
【0047】
本発明における固溶体とは、2種類以上の金属固体又は非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶という場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体等がある。
【0048】
建材の表面に含まれるナシコン型結晶及び/又は化合物結晶の平均粒径は、球近似したときの平均径が、10nm以上30μm以下であることが好ましい。その中でも特に、有効な光触媒特性を引き出すためには、結晶のサイズを10nm〜10μmの範囲とすることが好ましく、10nm〜1μmの範囲とすることがより好ましく、10nm〜300nmの範囲とすることが最も好ましい。結晶の平均径は、例えばX線回折装置(XRD)の回折ピークの半値幅より、シェラー(Scherrer)の式:
D=0.9λ/(βcosθ)
を用いて見積もることができる。ここで、Dは結晶の大きさであり、λはX線の波長であり、θはブラッグ角(回折角2θの半分)である。特に、XRDの回折ピークが弱かったり、回折ピークが他のピークと重なったりする場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結晶粒子の面積から、これを円と仮定してその直径を求めることでも見積もることができる。顕微鏡を用いて結晶の粒径の平均値を算出する際には、無作為に100個以上の結晶の直径を測定することが好ましい。
【0049】
(電子吸引性物質)
また、本発明の建材の表面又はその近傍には、Pd、Re及びPtから選ばれる1種以上の電子吸引性物質が含まれていてもよい。これにより、金属元素成分がナシコン型結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、ナシコン型結晶を介した酸化還元の活性が増強されるため、ナシコン型結晶の光触媒特性をより向上することが可能になる。
【0050】
ここで、金属元素成分がナシコン型結晶の近傍に存在する場合、金属元素成分の粒子径や形状は、ナシコン型結晶の組成等に応じて適宜設定される。特に、ナシコン型結晶の光触媒機能を最大に発揮する観点では、金属元素成分の平均粒子径は、できるだけ小さい方がよい。従って、建材の表面に含まれる金属元素成分の平均粒子径の上限は、好ましくは5.0μmであり、より好ましくは1.0μmであり、最も好ましくは0.1μmである。
【0051】
<建材>
次に、本発明の建材の具体的態様について説明する。
本発明の建材としては、基材の表面にナシコン型結晶を含有する被覆が形成されている態様が挙げられる。これにより、基材の表面及びその近傍のみにナシコン型結晶が含まれるため、より少ないナシコン型結晶の使用量で、より高い光触媒特性及び超親水性を有する建材を得ることができる。
【0052】
本態様の建材に形成される被覆の膜厚は、窓ガラスや鏡のように光を透過する用途に用いられる建材では、被覆の膜厚は0.5μm以下にするのが好ましく、0.3μm以下にするのがより好ましく、0.2μm以下にするのが最も好ましい。これにより、建材を透過する光の干渉による被覆の発色を防止することができる。また、この被覆は、薄ければ薄いほど基材の透明度を確保するできるため好ましい。一方で、光を透過しない用途に建材を用いる場合、被覆の膜厚は特に限定されない。
【0053】
このとき、建材の表面に形成された被覆の表面平均粗さ(Ra)は、0.5〜25nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、被覆の表面平均粗さ(Ra)を高めて被覆の表面積がr倍になった場合、被覆を平滑な表面にしたときの被覆と水との接触角をθ、被覆の表面平均粗さ(Ra)を高めたときの被覆と水との接触角をθ’とすると、Wenzelの式から、cosθ’=rcosθ(90°>θ>θ’)が成り立つ。すなわち、被覆の表面平均粗さ(Ra)を高めることで、被覆の親水性表面の親水性をより一層高めることができる。一方で、この表面平均粗さ(Ra)が0.5nmより小さい場合や、25nmより大きい場合は、建材の親水性が長い間保持され難くなるため、好ましくない。
【0054】
ここで、表面平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601(1994)記載の方法により定義され、電子顕微鏡(例えば、株式会社日立製作所製H−600)を用いて観察、測定した断面曲線から計算できる。
【0055】
ここで、被覆は、細孔容積が1〜50%の多孔質である多孔質体であることがより好ましい。これにより、表面での水分の保持能力が大きくなるため、建材表面の親水性を更に向上することができる。
【0056】
なお、光が照射されていない時の親水性をより高めるため、ナシコン型結晶を含有する被覆にオーバーコート層が形成されていてもよい。ここで、オーバーコート層は、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム及び酸化セリウムより選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含有し、好ましくは酸化珪素を80wt%以上含む薄膜である。
【0057】
ここで、被覆にオーバーコート層を形成する場合であっても、被覆の表面平均粗さ(Ra)は0.5〜25nmにすることが好ましい。これにより、被覆に形成された凹凸がオーバーコート層にそのまま転写されるため、建材の最表面の表面平均粗さ(Ra)が0.5〜25nmになり易い。
【0058】
また、オーバーコート層の平均厚みは、0.1〜50nmが好ましい。この平均厚みが0.1nmより小さいと、建材の表面の親水性を向上する効果が顕著でなく、50nmより大きいと、被覆の表面に形成された凹凸が埋まることで、被覆の表面積が小さくなる傾向がある。また、光照射による親水性の向上効果が認められ難くなるので好ましくない。
【0059】
<物性>
本発明の建材は、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光によって触媒活性が発現される。より具体的には、建材に紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光を照射したときに、メチレンブルー等の有機物を分解する特性を有する。これにより、建材の表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、建材を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。ここで、本発明の建材に含まれる光触媒結晶は、メチレンブルーの分解活性指数が3.0nmol/L/min以上であることが好ましく、4.0nmol/L/min以上であることがより好ましく、5.0nmol/L/min以上であることが最も好ましい。なお、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。
【0060】
また、本発明の建材は、優れた耐熱性を有するようにしてもよい。これにより、建材が高温下におかれた場合にも光触媒特性が失われ難いため、特に耐熱性が要求される用途で、高い光触媒特性をもたらすことができる。このような用途として、例えば暖房器具や調理器具、ボイラ等の近傍に用いられる、耐火レンガやタイル、耐熱ガラス、耐熱結晶化ガラス等が挙げられる。
【0061】
また、本発明の建材は、表面が親水性を呈することが好ましい。これにより、建材の表面に弱い光が当たるだけでもセルフクリーニング作用が発現されることで、建材の表面を水等の洗浄剤で容易に洗浄できる。そのため、日影や昼間の室内のように弱い太陽光しか当たらない場所や、夜間の室内のように蛍光灯の光しかあたらない場所でも、建材表面の汚れによる光触媒特性の低下を抑制することができ、且つ、建材の美観をより長く保つことができる。ここで、紫外領域から可視領域までのいずれかの波長の光、又はそれらが複合した波長の光を照射した際における、本発明の建材の表面と水滴との接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、20°以下が最も好ましい。
【0062】
本発明の建材は、少なくともその表面に光触媒活性を持つナシコン型結晶相を含有しているため、優れた光触媒活性と超親水性を有するとともに、耐熱性にも優れている。すなわち、光触媒機能や超親水性に加えて、耐熱性が要求される様々な建材に加工できる。このような建材の具体例としては、壁、屋根、床、天井等の外装材や、鏡、壁紙、遮光材、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、食器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇等の内装材等が挙げられる。また、窓ガラスのように建築物の内部と外部とを隔てる部材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が、建築物の内部表面及び/又は外部表面を構成する部材も含まれる。このとき、ナシコン型結晶を有する表面のうち少なくとも一部が外装材や内装材等として、外気や建築物の内部雰囲気に接触していることが好ましい。
【0063】
特に、本発明の建材を内装材に用いる場合、気密性が20cm/m以下の建築物に用いられることが好ましい。本発明の建材のうち光触媒結晶を含有する表面が、内装材として建築物の内部雰囲気に接することで、蛍光灯のように紫外線がきわめて少ない光源でも光触媒活性が得られるため、特に気密性の高い建築物であっても、その内部雰囲気の浄化に用いることができる。ここで、本発明の建材を用いる建築物の気密性は、20cm/m以下であることが好ましく、15cm/m以下であることがより好ましく、10cm/m以下であることが最も好ましい。
【0064】
一方で、本発明の建材を外装材に用いることで、日陰等の紫外線の弱い環境下や、粉塵等により表面が遮蔽された環境下でも光触媒特性や親水性が得られるため、外装材の表面に付着した汚れ等を雨水等で容易に洗浄することができる。なお、本発明の建材は、表面への汚れの付着や藻の発生をも防止できるため、ソーラー電池の受光面やソーラー温水器等に用いることも好ましい。
【0065】
<建材の製造方法>
次に、本発明の建材を好適に作製できる製造方法について説明する。
この製造方法は、例えば、ナシコン型結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有するものである。
以下、本発明の建材の製造方法の具体的態様について説明する。
【0066】
[第1の態様]
本実施態様に係る建材の製造方法は、ナシコン型結晶を必要に応じて粉砕して粉粒体を形成した後で、これを無機若しくは有機のバインダー及び/又は溶媒等と混合してゾルを形成し、このゾルを基材に塗布する方法である。これにより、光触媒結晶の基材上への塗布が容易になるため、様々の基材に光触媒特性を持たせることができる。なお、本発明の建材の製造方法で用いられるコーティング材は、このような溶媒やバインダーを用いたものに限定されない。特に後述するスパッタ法を用いてコーティング材を基材に被着させる場合は、ナシコン型結晶をそのままコーティング材として用いてもよい。
【0067】
(コーティング材の作製工程)
ナシコン型結晶は、必要に応じてボールミル等で粒径及び/又は粒度分布を調整することが好ましい。これにより、ナシコン型結晶の粒度が揃えられるため、建材の光触媒特性や親水性のばらつきを低減することができる。ここで、ナシコン型結晶の平均粒子径は、例えばレーザー回折散乱法によって測定した時のD50(累積50%径)の値を使用できる。具体的には日機装株式会社の粒度分布測定装置MICROTRAC(MT3300EXII)よって測定した値を用いることができる。なお、例えば有機金属塩溶液からなる原料を火炎中に噴霧して微粒子状のナシコン型結晶やその前駆体を形成する場合、粒径及び/又は粒度分布の調整は行わなくてもよい。
【0068】
ナシコン型結晶の粉粒体に無機バインダーを混合する場合、無機バインダーは、特に限定されるものではないが、紫外線や可視光線を透過する性質のものが好ましく、例えば、珪酸塩系バインダー、リン酸塩系バインダー、無機コロイド系バインダーや、アルミナ、シリカ及びジルコニア等の微粒子等を挙げることができる。
【0069】
また、ナシコン型結晶の粉粒体に有機バインダーを混合する場合、有機バインダーは、例えば、プレス成形やラバープレス、押出成形又は射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダーを用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、及び、ビニル系共重合物等が挙げられる。
【0070】
また、ナシコン型結晶の粉粒体に溶媒を混合する場合、溶媒は、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールといったアルコール;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンといったエーテル;塩化メチレン、塩化エチレン、クロロホルム、四塩化炭素といったハロゲン化炭素;ヘキサンといった脂肪族炭化水素;シクロヘキサンといった環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンといった芳香族炭化水素;並びに、酢酸、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン及びポリビニルアルコール(PVA)等の公知の溶媒や、これらの組み合わせが使用できる。その中でも特に、環境負荷を軽減できる点で、アルコール又は水を用いることが好ましい。
【0071】
コーティング材に溶媒やバインダーを用いる場合、コーティング材に含まれるナシコン型結晶の含有量は、コーティングする基材の材質や、バインダー及び/又は溶媒の種類に応じて適宜設定できる。そのため、コーティング材におけるナシコン型結晶の含有量は、特に限定されるものではないが、その一例を挙げれば、十分に光触媒特性を発揮させる観点から、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%、最も好ましくは5質量%を下限とし、基材への塗布を行い易くする観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは70質量%、最も好ましくは65質量%を上限とする。
【0072】
ここで、コーティング材には、化合物結晶や非金属元素成分、電子吸引性物質等を混合してもよい。
【0073】
化合物結晶の含有量は、所望とする特性に応じて適宜設定できる。ここで、化合物結晶の量が過小であると、建材の光触媒特性や機械的特性等が調整され難くなる。一方で、化合物結晶の量が過剰であると、後述する焼成工程を高温で行った場合や、建材を高温下に置いた場合に、光触媒特性が損なわれ易い。また、後述する焼成工程を高温で行わなかった場合に、形成される被覆の基材への密着性や耐久性が損なわれ易い。そのため、混合する化合物結晶の量の下限は、ナシコン型結晶の全質量に対する質量比で0.5%であることが好ましく、より好ましくは3.0%、最も好ましくは10.0%である。他方、混合する化合物結晶の量の上限は、ナシコン型結晶の全質量に対する質量比で95.0%であることが好ましく、より好ましくは80.0%、さらに好ましくは60.0%、最も好ましくは30.0%である。
【0074】
非金属元素成分としては、例えばF成分、Cl成分、Br成分、S成分、N成分及びC成分からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これら非金属元素成分をコーティング材に含ませることで、非金属元素成分がナシコン型結晶に固溶し、又はその近傍に存在することで、光触媒結晶の光触媒特性を向上できる。しかし、これら非金属元素成分の含有量が合計で20.0%を超えると、形成される被覆の機械的特性が著しく悪くなり、建材の光触媒特性も低下し易くなる。従って、被覆の良好な機械的特性及び光触媒特性を確保するために、ナシコン型結晶の全質量に対する非金属元素成分の含有量の合計は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。
【0075】
これらの非金属元素成分は、フッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形で混合できる。このとき、非金属元素成分を、電子吸引性物質のフッ化物、塩化物、臭化物、硫化物、窒化物、炭化物等の形で混合してもよい。これにより、非金属元素成分及び電子吸引性物質の双方によって光触媒特性が向上するため、より光触媒特性の高い建材を得ることができる。
【0076】
一方、電子吸引性物質の含有量も、所望とする特性に応じて適宜設定できる。しかし、電子吸引性物質の含有量が合計で10.0%を超えると、被覆の機械的特性が著しく悪くなり、建材の光触媒特性もかえって低下し易くなる。従って、良好な機械的特性及び光触媒特性を確保するために、ナシコン型結晶の全質量に対する電子吸引性物質の含有量の合計は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。
【0077】
また、コーティング材の均質化を図るために、溶媒やバインダーに、適量の分散剤を併用してもよい。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン及びシクロヘキサン等の炭化水素類、セロソルブ、カルビトール、テトラヒドロフラン(THF)及びジオキソラン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類、並びに、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル及び酢酸アミル等のエステル類等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
(被覆工程)
次いで、このコーティング材を用いて、基材の表面に被覆を形成する。これにより、基材の表面にナシコン型結晶を含んだ被覆が形成されるため、基材に光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0079】
被覆を形成する基材は、所望とする機械的特性や耐熱性のほか、溶媒やバインダーを用いる場合にはコーティング材とのぬれ性等に応じても適宜選択される。すなわち、金属(例えばアルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル)、セラミックス、グラファイト、ガラス、木、石、布、セメント、プラスチック(例えばアクリル材、PET)、コンクリート等を用いることができる。その中でも特に、金属、セラミックス、グラファイト、ガラス(特にパイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス)、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成されることが好ましい。これにより、耐熱性を有する基材に被覆が形成されるため、後述する焼成工程を行うことで、被覆の基材に対する付着性をより高めることができる。なお、基材には、被覆工程の前にアンダーコートを形成してもよいが、基材に含まれる成分による光触媒特性への悪影響が小さいため、アンダーコートを形成しないことが好ましい。
【0080】
ここで、基材として、アルカリ金属成分を含有する材料を用いることも好ましい。これにより、基材に含まれるアルカリ金属成分が被覆に溶出しても被覆の光触媒特性や超親水性が失われ難く、むしろ光触媒特性や超親水性が高められ易くなる。そのため、より幅広い材料に、高い光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。アルカリ金属成分を含有する材料としては、例えば施釉タイルやソーダガラスが挙げられる。
【0081】
また、基材として、ガラスを用いることが好ましい。これにより、基材がナシコン型結晶に近い屈折率を有するため、特に光を透過させる用途に基材を用いる場合に、被覆が形成された基材全体としての光透過性を高めることができる。ここで、ガラスとしては、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダライムガラス、及び石英ガラスが挙げられる。
【0082】
その中でも特に、基材としてアルカリ金属成分を含有するガラスを用いることが好ましい。このようなガラスは、例えばソーダガラスのように安価であることが多い反面で、アルカリ金属成分の被覆への溶出が多い材料でもある。すなわち、ソーダガラス等のような安価なガラスに対して、アンダーコートを形成せずに光触媒特性や超親水性の高い被覆を形成できるため、ガラスの光透過特性を犠牲にすることなく、ガラスに高い光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0083】
基材の表面にコーティング材を形成する手段としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ゾルゲル法、液相析出法、スパッタ法や真空蒸着法等の真空成膜法、焼き付け法、スプレーコート法等が挙げられる。特に、ゾルゲル法を用いた方法としては、ディップコート、噴霧、ブレードコート、ロールコート、グラビアコートが挙げられる。
【0084】
特に、コーティング材が溶媒やバインダーを含まない場合、例えばスパッタ法を用いることが好ましい。これにより、ナシコン型結晶を含んだコーティング材が基材に被着されるため、基材とコーティング材との付着性をより高めることができる。
【0085】
また、コーティング材が溶媒やバインダーを含む場合、例えばナシコン型結晶が分散した水性ゾルを用いて、コーティング材を基材に塗布又は噴霧することが好ましい。これにより、ナシコン型結晶を含んだコーティング材が基材の所定の部位に略均一に付着するため、所望の光触媒特性や超親水性を有する被覆を形成し易くすることができる。
【0086】
なお、被覆を多孔質で形成する場合、ゾルゲル法を用いることが好ましい。すなわち、ナシコン型結晶を含有するコーティング材に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも一種の有機高分子化合物を添加し、これらを溶解させて得られた液を基材上に塗布・乾燥し、さらにさらに後述する焼成工程を行って有機高分子化合物を分解することで得られる。
【0087】
(焼成工程)
焼成工程では、コーティング材の被覆された基材を加熱する。これにより、基材とコーティング材の被覆との結合が促進されるため、形成される被覆の基材に対する付着性を高めることができる。ここで、焼成工程の具体的な工程は特に限定されないが、コーティング材の被覆された基材を設定温度へと徐々に昇温させる工程、この基材を設定温度に一定時間保持する工程、及び、この基材を室温へと徐々に冷却する工程を含んでよい。
【0088】
焼成工程における加熱の条件は、コーティング材の組成等に応じ、適宜設定されてよい。具体的には、焼成工程を行う際の雰囲気温度(焼成温度)の上限は、基材の耐熱性や、ナシコン型結晶が溶解等により消滅しない範囲を考慮して選択される。従って、焼成温度の上限は、好ましくは1200℃であり、より好ましくは1100℃であり、最も好ましくは1000℃である。一方で、焼成工程を行う際の雰囲気温度の下限は、溶媒やバインダーが蒸発又は分解する温度や、基材と被覆との結合が促進される度合い考慮して選択される。従って、焼成温度の下限は、好ましくは300℃であり、より好ましくは400℃であり、最も好ましくは500℃である。
【0089】
ここで、焼成温度は、700℃以上で行うことがより好ましい。本発明の建材では、酸化チタン系等の光触媒を用いた場合に比べて、光触媒結晶の高温での相転移による変質や、基材中の成分の溶出による悪影響が起こり難くなる。そのため、より短時間で焼成工程を行うことができ、且つ、基材と被覆との結合をより強固にすることができる。
【0090】
焼成工程における焼成時間は、焼成温度や焼成温度までの昇温速度に応じて設定される。焼成温度までの昇温速度を遅くすれば、焼成温度まで加熱するだけでよい場合もあるが、目安としては焼成温度が高い場合は焼成時間を短く設定し、焼成温度が低い場合は焼成時間を長く設定することが好ましい。具体的には、基材と被覆との結合を強固にでき得る観点で、好ましくは5分、より好ましくは10分、最も好ましくは30分を下限とする。一方、焼成時間が24時間を越えると、ナシコン型結晶が大きくなり過ぎることで、かえって光触媒特性や超親水性が損なわれるおそれがある。従って、焼成時間の上限は、好ましくは24時間、より好ましくは18時間、最も好ましくは12時間とする。なお、ここでいう焼成時間は、焼成工程のうち焼成温度が一定(例えば、上記設定温度)以上に保持されている時間の長さを指す。
【0091】
焼成工程は、例えばガス炉、マイクロ波炉、電気炉等の中で、空気交換しつつ大気中で行うことが好ましい。ただし、この条件に限らず、上記の工程を、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、酸化ガス雰囲気にて行ってもよい。
【0092】
ここで、特にコーティング材が溶媒やバインダーを含む場合、焼成工程を行う前に、基材を200℃以上の温度に加熱することでコーティング材を仮焼してもよい。これにより、コーティング材に含まれていた水分や有機物等が分解され、ガス化して排出されるため、コーティング材の粒子同士の密着性を高められることで、コーティング材の基材に対する付着性をより高めることができる。このとき、仮焼温度の下限は、水分や有機物の分解を充分に進められる観点から、好ましくは200℃、より好ましくは250℃、最も好ましくは300℃とする。一方、仮焼温度の上限は、焼成温度より低い温度であればよく、例えば1200℃、より好ましくは1100℃、最も好ましくは1000℃であってもよい。仮焼時間は、コーティング材に含まれる溶媒やバインダーの種類によっても異なるが、例えば2〜12時間程度の時間をかけて行うことが好ましい。
【0093】
[第2の態様]
本実施態様に係る建材の製造方法は、ナシコン型結晶の前駆体の混合液を作製し、この混合液を反応させてコーティング材を形成し、焼成工程を行う方法である。ナシコン型結晶の前駆体を含むコーティング材を基材に被覆して焼成工程を行うことにより、コーティング材から形成される被覆にナシコン型結晶が形成されるため、被覆に光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0094】
本発明の方法では、まず、第一元素A、第二元素B及び第三元素Xを含んだ混合液を作成する。混合液は、さらに溶媒を含んでもよい。混合液とは溶液に限定されず懸濁液も含む。ここで、第一元素A、第二元素B及び第三元素Xは、ナシコン型結晶の化学量論比に応じて調合し、均一に混合することが好ましい。
【0095】
混合液には、pH調整剤やTi含有化合物の分解抑制剤を適宜添加することができる。また、反応開始剤や反応促進剤を添加することもできる。これらの試薬は、混合液を作成する工程で添加してもよく、その後の工程で添加してもよい。
【0096】
この様にして作製した混合液を必要に応じて反応させて、コーティング材を作成する。混合液の反応は、室温で攪拌することによって行ってもよく、適宜加熱してもよい。混合液を作成する工程と、混合液を反応させる工程とは、同時に行うこともできる。
【0097】
混合液の反応とは、混合液中の第一元素A、第二元素B若しくは第三元素Xを含んだ化合物、それらの化合物に由来する成分、溶媒、又はそれらの組み合わせが関与する反応をいう。例えば、遷移金属イオン及びポリリン酸イオンが凝集して微粒子となってゾルを形成する反応や、遷移金属イオンにリン配位子が配位した錯体を形成する反応、等が挙げられる。アルコキシドの分解反応には、加アルコール分解及び加水分解が含まれる。
【0098】
ここで、ナシコン型結晶の前駆体は、反応後の混合液を乾燥及び/又は加熱したときにナシコン型結晶を形成する物質を指し、混合液の反応によりナシコン型結晶を形成してもよい。ナシコン型結晶前駆体は必ずしもナシコン型結晶構造を有する必要はないが、局所的にはナシコン型結晶構造の骨格を有していることが好ましい。これにより、ナシコン型結晶構造の骨格が結晶核となってナシコン型結晶が成長するため、より確実且つ迅速にナシコン型結晶構造を形成できる。
【0099】
また、コーティング材は、塗布を行い易くするため、流動性を有することが好ましい。流動性を有するために、ナシコン型結晶の前駆体を微粒子として含んだゾル状の組成物にすることが好ましい。流動性を有するコーティング材を塗布し、基板上で化学的にナシコン型結晶を生成させることにより、所望の性能を有する均一で大面積の膜を容易に作製することができる。
【0100】
ここで、コーティング材は、上述の混合液に加えて、アルコール、エーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシメチレン、又はそれらの組み合わせをさらに含有してもよい。これらの添加物は、常温常圧で液体であってもよく、固体であってもよい。これらの添加物を用いることにより、コーティング材の特性、例えば揮発性や粘性を制御することができる。より具体的には、溶媒の乾燥による膜の白濁や凹凸の形成を低減したり、前駆体濃度を低減して粘性を小さくしたりすることができる。その結果、一回のコーティングで成膜される膜厚を制御しつつ、膜の均一性や透明性を高めることができる。
【0101】
基材にコーティング材を塗布した後、基材に形成されたコーティング材を乾燥することが好ましい。これにより、溶媒や反応の副生成物が除去されるとともに、分解や重合といった反応がさらに進行することでナシコン型結晶をより形成し易くできる。例えば、コーティング材がゾルである場合、乾燥を行ってゲルを形成した後、上述の焼成工程を行ってナシコン型結晶を含有する被膜を生成できる。
【0102】
コーティング材の乾燥速度は、被膜に亀裂が生じないよう適宜選択される。また、乾燥温度は、溶媒が除去される温度であれば特に制限はなく、80℃以上、好ましくは100℃以上、400℃以下、好ましくは250℃以下である。
【0103】
乾燥工程を行った後、上述の焼成工程を行うことで、所望の光触媒特性及び超親水性を有する建材を作製できる。
【0104】
なお、第一元素A、第二元素B及び第三元素Xを含んだ混合液には、ナシコン型結晶が含まれていることが好ましい。これにより、混合液に含まれているナシコン型結晶が結晶核になって混合液からナシコン型結晶が成長するため、より確実且つ迅速にナシコン型結晶構造を形成できる。
【0105】
[第3の態様]
本実施態様に係る建材の製造方法は、未硬化の若しくは部分的に硬化したシリコーン(オルガノポリシロキサン)又はシリコーンの前駆体からなる塗膜形成要素にナシコン型結晶を分散させてなるコーティング材を表面に塗布し硬化させることにより、被覆を形成する方法である。これにより、焼成工程を行わなくとも被覆が形成されるため、基材がプラスチックスのような非耐熱性の材料で形成されている場合や、基材が塗料で塗装されている場合であっても、高い光触媒特性や超親水性をもたらすことができる。
【0106】
また、ナシコン型結晶に光を照射して光励起を行うことで、シリコーン分子のケイ素原子に結合した有機基が光触媒作用により水酸基に置換されることで、被覆の表面の超親水性をより高めることができる。また、本実施態様の被覆は、シロキサン結合を有することで、ナシコン型結晶による被覆自体への反応を起こり難くすることができ、且つ、表面が一旦超親水化された後に暗所に保持しても長い期間超親水性を維持できる。
【0107】
更に、金属板のような塑性加工できる基材に塗膜を形成した場合、塗膜を硬化させてから光励起を行う前に、金属板を塑性加工することも好ましい。本実施態様の被覆は、光励起する前にはシリコーン分子のケイ素原子に有機基が結合しており、被覆は充分な可撓性を有するので、被覆を損傷させずに容易に金属板を塑性加工することができる。従って、金属製品の複数の面に同時に光触媒特性や超親水性をもたらすことが可能である。
【0108】
ここで、形成される被覆に良好な硬度と平滑性をもたらすには、3次元架橋型シロキサンをコーティング材の全質量に対して10質量%以上含有させるのが好ましい。更に、形成される被覆に良好な硬度と平滑性を確保しながら、被覆に充分な可撓性を提供するためには、2次元架橋型シロキサンをコーティング材の全質量に対して60質量%以下含有させるのが好ましい。また、シリコーン分子のケイ素原子に結合した有機基が光励起により水酸基に置換される速度を速めるには、シリコーン分子のケイ素原子に結合する有機基がn−プロピル基若しくはフェニル基からなるシリコーンを用いることが好ましい。また、シロキサン結合を有するシリコーンに替えて、シラザン結合を有するオルガノポリシラザン化合物を用いてもよい。
【0109】
[その他]
なお、本発明の建材は、ナシコン型結晶を、成形及び固化が可能な混練物、例えばセラミックスやコンクリートに配合して形成してもよい。これにより、表面が磨耗等により削り取られても、光触媒特性や超親水性を有する建材を得ることができる。
【実施例】
【0110】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制約を受けるものではない。
【0111】
(実施例1)
本実施例では、基材であるガラス板の表面にナシコン型構造を有するNaTi(PO結晶を含有する被覆を形成し、この被覆の表面にオーバーコート層として酸化珪素(SiO)膜を形成した。
【0112】
[ナシコン型結晶を含有する被覆の形成]
厚さ3mm、大きさ10cm四方のSiOを主成分としたソーダライムガラス上に、以下の要領でNaTi(PO結晶を含有する被覆を形成した。
原料として、オクチル酸ナトリウム溶液、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート溶液及びジエチルホスホノ酢酸エチルからなる有機金属塩溶液を用いた。この有機金属塩溶液を、ナノ粒子合成装置(ホソカワミクロン株式会社製 FCM−MINI)のスプレーノズルに供給して火炎中に噴霧することで、NaTi(POの微粒子を作製した。このとき形成された微粒子の平均粒子径は30nmであった。この微粒子について結晶性を高めるために700℃で10分間熱処理した。その後、熱処理した微粒子を水性の分散液に分散し、ガラス基板に膜厚約100nmの膜を形成した。
【0113】
[オーバーコート層の形成]
上記の被覆を形成したガラス板上に、以下の要領でオーバーコート層のSiO膜を形成した。
酸素ガス5sccm及びアルゴン60sccmの混合ガスを用い、ガス圧力3mTorr、ターゲット投入パワー2kWの条件で、インライン式のRFマグネトロンスパッタ装置(ターゲットSiO)により、被覆を形成したガラス板上に、膜厚10nmのオーバーコート層のSiO膜の成膜を行った。AFM(原子間力顕微鏡)で測定した表面平均粗さ(Ra)は、7.7nmであった。
これにより、ガラス板と、被覆と、オーバーコート層オーバーコート層とからなる建材のサンプルAを得た。
【0114】
[光触媒活性の評価]
また、本実施例の建材の光触媒特性は、次のように評価した。すなわち、70mm四方に切出したサンプルAの膜面側に、濃度0.01mmol/Lのメチレンブルー水溶液を2.5mg滴下及び塗布してから、照度1mW/cmの紫外線(株式会社東芝社製 型番:FL10BLB)を2〜10時間にわたって照射した。そして、紫外線照射前のサンプルAの色と紫外線照射後のサンプルAの色とを目視で比較し、下記の5段階の判定基準でメチレンブルーの分解力を評価した。また、比較として、紫外線を照射しない場合のサンプルAの色の変化を、紫外線を照射する場合と同様に評価した。
【0115】
(判定基準)
5:僅かに薄い,ほぼ変化がない
4:やや薄い
3:薄い
2:かなり薄い
1:透明に近い,ほぼ透明
【0116】
[平均結晶子サイズの算出]
NaTi(PO結晶の結晶子サイズは以下の方法で算出した。
すなわち、X線回析測定により得られる各配向面に対するピークの積分巾から、Scherrerの式より結晶子サイズを算出した。
Scherrerの式: ε=λ/(β・cosθ)
ε=結晶子の大きさ(Å)
λ=測定X線波長(Å)
β=ピークの積分幅(ラジアン)
θ=回析線のブラッグ角(ラジアン)
【0117】
[親水性評価]
また、得られた建材のサンプルAの親水性について、θ/2法によりサンプルAの表面と水滴との接触角を測定することにより評価した。すなわち、上述の紫外線を照射した後のサンプルAの表面に水を滴下し、サンプルAの表面から水滴の頂点までの高さhと、水滴のサンプルAに接している面の半径rと、を協和界面科学社製の接触角計(CA−X)を用いて測定し、θ=2tan−1(h/r)の関係式より、水との接触角θを求めた。
【0118】
その結果、本実施例の建材のサンプルAの表面には、結晶子サイズが15ÅのNaTi(PO結晶が析出していた。
【0119】
また、本実施例の建材のサンプルAの親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が15°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、高い親水性を有することが明らかになった。
【0120】
(実施例2)
本実施例では、Mg0.5Ti(PO結晶の前駆体を含有するコーティング材を作製した後、このコーティング材を基材であるガラス板の表面に塗布し、焼成を行うことで被覆を形成した。
【0121】
原料としてオクチル酸マグネシウム溶液、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート溶液とジエチルホスホノ酢酸エチルからなる有機金属塩溶液を用いた。この有機金属塩溶液を、ナノ粒子合成装置(ホソカワミクロン株式会社製 FCM−MINI)のスプレーノズルに供給して火炎中に噴霧することで、Mg0.5Ti(POに対応する組成の微粒子を作製した。このとき形成された微粒子の平均粒子径は40nmであった。その後、この微粒子を水性の分散液に分散し、質量%で10%の微粒子を含むコーティング材を得た。
【0122】
このコーティング材を用い、縦7.5cm、横5.5cm、厚さ1.1mmの石英ガラスからなる基材の5cm×5cmの領域にディップコートを行った。ディップコートの条件は、室温の空気雰囲気下で、引き上げ速度を20cm/minとした。ディップコートした基材を150°Cで30分乾燥し、同様な操作で4サイクル行ってから、大気雰囲気下750°Cで30分間にわたり焼成工程を行った。その後、基材の表面を0.1%HFで5秒エッチング処理して、建材のサンプルBを作製した。ここで、得られる被膜の厚さは、サンプル約150nmであった。
【0123】
その結果、本実施例の建材のサンプルBの表面には、結晶子サイズが20ÅのMg0.5Ti(PO結晶が析出していた。このことは、図1に示した本実施例のサンプルBについてのXRDパターンにおいて、入射角2θ=24.5°付近をはじめ、「○」で表される入射角にピークが生じていることからも明らかである。
【0124】
また、本実施例の建材のサンプルBの光触媒特性をメチレンブルーの脱色により評価したところ、紫外線照射前に「5:変化しない」と評価されていたものが、紫外線照射後には「3:薄い」になり、光の照射によってメチレンブルーの脱色現象が起こったことから、光触媒特性を有することが確認された。紫外線を照射しなかった場合は、メチレンブルーの吸着によるサンプルBの青色への着色が明確に観察されたが、紫外線照射した場合は、サンプルBの着色が見られなかった。これらのことから、上述の紫外線照射した場合のメチレンブルー溶液の脱色は、メチレンブルーのサンプルBへの吸着によるものではなく、確実に光触媒効果によるものと裏付けられた。
【0125】
また、本実施例の建材のサンプルBの親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が5°であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。これにより、本発明の実施例のガラスセラミックス成形体は、高い親水性を有することが明らかになった。なお、本実施例のサンプルBについて紫外線の照射時間と水接触角との関係を図2に示した。図2からも、紫外線の照射開始から1時間後には水接触角が10°に達し、早く親水化することが明らかになった。
【0126】
(実施例3)
本実施例では、シリコーンとナシコン型結晶を含有するコーティング材を金属板の表面に塗布し、硬化させることで被覆を形成した。
【0127】
基材として10cm四角のアルミニウム板を使用した。基板の表面を平滑化するため、予めシリコーン層で被覆した。このため、日本合成ゴム(東京)の塗料用組成物“グラスカ”のA液(シリカゾル)とB液(トリメトキシメチルシラン)を、シリカ質量とトリメトキシメチルシランの質量の比が3になるように混合し、この混合液をアルミニウム板に塗布し、150℃の温度で硬化させ、膜厚3μmのシリコーンのベースコートで被覆された複数のアルミニウム基板を得た。
【0128】
次に、ナシコン型結晶を含有する高分子塗料によりアルミニウム基板を被覆した。塗料の塗膜形成要素が光触媒の光酸化作用によって劣化するのを防止するため、塗膜形成要素としてシリコーンを選んだ。より詳しくは、平均粒子径40nmのナシコン型結晶と
“グラスカ”のA液(シリカゾル)を混合し、エタノールで希釈後、更に“グラスカ”のB液(トリメトキシメチルシラン)を添加し、ナシコン型結晶を含有するコーティング材を作製した。このコーティング材の組成は、シリカ3質量部、トリメトキシメチルシラン1質量部、ナシコン型結晶5質量部であった。このコーティング材をアルミニウム基板の表面に塗布し、150℃の温度で硬化させ、ナシコン型結晶を含有する被覆を形成して建材のサンプルCを作製した。
【0129】
次に、得られた建材のサンプルCにBLB蛍光灯を用いて1.0mW/cmの照度で紫外線を照射した。紫外線を照射する前後の試料について、表面の水との接触角を評価した。
【0130】
その結果、本実施例の建材のサンプルCの親水性は、紫外線の照射開始から2時間後における水との接触角が20°未満であったため、紫外線の照射開始から2時間後には水との接触角が30°以下となることが確認された。一方で、紫外線を照射する前のサンプルCの親水性は、水との接触角が70°であった。また、ナシコン型結晶を含有する被覆を形成せずに紫外線を照射した場合は、水との接触角が85°であった。
【0131】
これにより、シリコーンは本来かなり疎水性であるにも拘わらず、ナシコン型結晶を含有し、且つ、紫外線照射により光触媒を励起した場合には、高度に親水化されることが明らかになった。
【0132】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナシコン型結晶である光触媒結晶を少なくとも表面に含有する建材。
【請求項2】
前記建材が内装材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が建築物の内装を構成する請求項1記載の建材。
【請求項3】
気密性が20cm/m以下の前記建築物に用いられる請求項2記載の建材。
【請求項4】
前記建材が外装材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が建築物の外装を構成する請求項1記載の建材。
【請求項5】
前記建材が建築物の内部と外部とを隔てる部材であり、前記光触媒結晶を有する表面のうち少なくとも一部が、建築物の内部表面及び/又は外部表面を構成する請求項1記載の建材。
【請求項6】
金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される基材の少なくとも表面に、前記光触媒結晶を含有する請求項1から5のいずれか記載の建材。
【請求項7】
前記基材がガラスから構成され、前記基材の表面に前記光触媒結晶を含む被覆を有する請求項6記載の建材。
【請求項8】
前記ガラスがアルカリ金属成分を含有し、前記基材の表面に前記被覆が直接形成されている請求項7記載の建材。
【請求項9】
前記被覆の表面にオーバーコート層を更に有する請求項7又は8記載の建材。
【請求項10】
前記ナシコン型結晶が、一般式A(XO(式中、第一元素AはLi、Na、K、Cu、Ag、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上とし、第二元素BはZn、Al、Fe、Ti、Sn、Zr、Ge、Hf、V、Nb及びTaからなる群から選択される1種以上とし、第三元素XはSi、P、S、Mo及びWからなる群から選択される1種以上とし、係数mは0以上4以下とする)で表される結晶である請求項1から9のいずれか記載の建材。
【請求項11】
Zn、Ti、Zr、W及びPから選ばれる1種以上の成分を含む化合物結晶を更に含有する請求項1から10のいずれか記載の建材。
【請求項12】
Pd、Re及びPtからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子吸引性物質が、前記光触媒結晶の含有量に対する質量比で10.0%以下含まれている請求項1から11のいずれか記載の建材。
【請求項13】
前記ナシコン型結晶の平均粒径が10nm以上30μm以下である請求項1から12のいずれか記載の建材。
【請求項14】
紫外領域から可視領域までの少なくともいずれかの波長の光によって触媒活性が発現される請求項1から13のいずれか記載の建材。
【請求項15】
紫外領域から可視領域までの少なくともいずれかの波長の光を照射した表面と水滴との接触角が30°以下である請求項1から14のいずれか記載の建材。
【請求項16】
建材の製造方法であって、
ナシコン型結晶を含有するコーティング材を基材の表面に被覆する被覆工程を有する建材の製造方法。
【請求項17】
前記基材が金属、セラミックス、グラファイト、ガラス、石、セメント、コンクリート若しくはそれらの組み合わせ、又はそれらの積層体から構成される請求項16記載の建材の製造方法。
【請求項18】
前記基材がアルカリ金属成分を含有するガラスである請求項17記載の建材の製造方法。
【請求項19】
前記被覆工程は、スパッタ法を用いて、前記コーティング材を前記基材に被着させる工程である請求項16から18のいずれか記載の建材の製造方法。
【請求項20】
前記被覆工程は、前記ナシコン型結晶が分散したゾルを用いて、前記コーティング材を前記基材に塗布又は噴霧する工程である請求項16から18のいずれか記載の建材の製造方法。
【請求項21】
前記コーティング材の被覆された基材を焼成する焼成工程をさらに有する請求項16から20のいずれか記載の建材の製造方法。
【請求項22】
前記焼成工程が700℃以上1200℃以下の焼成温度で行われる請求項21記載の建材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193523(P2012−193523A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57119(P2011−57119)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】