説明

建物のシミュレーションシステム

【課題】快適な住空間を実現するための窓の配置などのシミュレーション結果をより判りやすく、有効に活用するための新規な技術を提案する。
【解決手段】入力される各種条件に基づき、通風、及び/又は、温度差換気のシミュレーションを実施する建物のシミュレーションシステムであって、特定の条件によるシミュレーション結果と、別の条件によるシミュレーション結果と、を対比可能に表示する、建物のシミュレーションシステムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の開口部からの風の流入や換気などのシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の開口部からの風の流入や換気などをコンピュータでシミュレーションする技術は知られており、これについて開示する文献も存在する(特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、過去の気象データに基づく風関連データを使用して、間取り図に風の流れる経路(気流)を表示する技術が開示されている。また、当日の気象観測衛星の情報を取得して、その日一日の最適な換気方法をインターネットで情報提供するといったことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4597028号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシミュレーションにおいては、そのシミュレーション結果をハウスメーカーや工務店などのビルダーに対して、必ずしも判りやすく説明できるものではなく、シミュレーションの活用、つまりは、シミュレーション結果をどのように生かすべきかについては改善の余地があったといえる。
【0006】
例えば、風の流れる経路がシミュレーションできたとしても、その結果をどのように生かし、評価すればよいのか、というのがビルダーが理解できないことが考えられる。或いは、ビルダーが誤った解釈をしてしまい、最適な設計がなされないことも懸念される。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは、快適な住空間を実現するための窓の配置などのシミュレーション結果をより判りやすく、有効に活用するための新規な技術を提案するものである。また、この新規な技術に基づいて設計された快適な建物を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1に記載のごとく、
入力される各種条件に基づき、通風、及び/又は、温度差換気のシミュレーションを実施する建物のシミュレーションシステムであって、
特定の条件によるシミュレーション結果と、
別の条件によるシミュレーション結果と、
を対比可能に表示する、
建物のシミュレーションシステムとするものである。
【0010】
また、請求項2に記載のごとく、
対比可能に表示される情報は、
特定の条件によるシミュレーション結果を、前情報(「Before」/「現プラン」)として表示し、
別の条件によるシミュレーション結果を、変更情報(「After」/「提案プラン」)として表示し、得る、
ことを可能とする、こととするものである。
【0011】
また、請求項3に記載のごとく、
対比可能に表示される情報は、
快適性指標を含む、こととするものである。
【0012】
また、請求項4に記載のごとく、
快適性指標は、PMVを含む、こととするものである。
【0013】
また、請求項5に記載のごとく、
対比可能に表示される情報は、
快適性を顔の表情で表現する表示を含む、こととするものである。
【0014】
また、請求項6に記載のごとく、
対比可能に表示される情報は、
縦欄/横欄に期間、及び、
横欄/縦欄に時間帯、
を項目として表示し得るマトリクスにて表示され、
前記各項目内に、前記快適性指標が表示される、こととするものである。
【0015】
また、請求項7に記載のごとく、
風があるときにおける通風のシミュレーション、
風がないときにおける温度差換気のシミュレーション、
を実施し、
並列/個別に表示する、こととするものである。
【0016】
また、請求項8に記載のごとく、
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを実施するためのプログラム、とするものである。
【0017】
また、請求項9に記載のごとく、
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを用いた開口部装置の設計方法、とするものである。
【0018】
また、請求項10に記載のごとく、
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを用いて設計がなされた建物、とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、快適な住空間を実現するための窓の配置などのシミュレーション結果をより判りやすく、有効に活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施するシステム構成例について示す図。
【図2】記憶装置に記憶される各種データの詳細について示す図。
【図3】PMVの概念について示す図。
【図4】演算装置による処理とシステム構成の概念を示す図。
【図5】建築地の特徴シートについて示す図。
【図6】室外風があるときの気流(通風)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図7】室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図8】就寝時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図9】提案プランの出力結果例を示す図。
【図10】対比表示シートの出力結果例を示す図。
【図11】対比表示シートの出力結果例の一部拡大図。
【図12】第一のシミュレーション例の演算フローについて示す図。
【図13】室外風があるときの気流(通風)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図14】昼の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図15】就眠時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションの出力結果例を示す図。
【図16】第二のシミュレーション例の演算フローについて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<システム構成例>
図1に本発明を実施するためのシステム構成の一例について示す。
このシステムは、周知のコンピュータネットワークシステムにおいてソフトウェアを稼動させ、人間が所定の条件設定を行うことで、所望のシミュレーションを可能とするものである。
【0022】
図1に示すごとく、コンピュータ11、ディスプレイ12、マウス13、キーボード14、プリンタ15などにてクライアントシステム10が構成される。
このクライアントシステム10は、ネットワーク20を介して基幹サーバー30に接続される。
また、ネットワーク20には、気象情報が蓄積される気象情報サーバー50が接続される。
【0023】
また、コンピュータ11には、記憶装置100と、演算装置120が設けられている。
記憶装置100は、以下のデータが記憶されて構成される。
・間取り図などの設計情報を含む設計データ101
・開口部装置の情報を含む開口部装置データ102
・快適性指標の情報を含む快適性指標データ103
・期間の情報を含む期間データ104
・時間帯の情報を含む時間帯データ105
・シミュレーション結果を対比可能に表示するための対比表示データ106
・各種アイコンを含むアイコンデータ107
・建物が建設される場所や地形などの地理情報を含む地理データ108
・建築地の特徴を表示するための建築地表示データ109
・各シミュレーションの出力の様式を含む出力様式データ110
・特定の気象状況の情報を含む特定気象データ111
・比較対象となる条件設定を含む比較対象データ112
・シーンを特定するための情報を含むシーン特定データ113
【0024】
演算装置120は、以下の手段を含んで構成される。
・設計データ取得手段121
・開口部装置データ取得手段122
・快適性指標データ取得手段123
・期間データ取得手段124
・時間帯データ取得手段125
・対比表示データ取得手段126
・アイコンデータ取得手段127
・地理データ取得手段128
・建築地表示データ取得手段129
・出力様式データ取得手段130
・特定気象データ取得手段131
・比較対象データ取得手段132
・シーン特定データ取得手段133
・気象データ取得手段134
・設計処理手段135
・快適性判定手段136
・シミュレーション実行手段140
・シミュレーション結果出力手段141
・シミュレーション条件認識手段142
【0025】
また、図1に示すごとく、気象情報サーバー50には、過去、現在、未来(気象予測)などの気象データ151が記憶される。気象データ151のソース(情報源)については特に限定されるものではないが、例えば、株式会社気象データシステムにて提供される「拡張アメダス気象データ」を利用することが考えられる。なお、この気象データ151は、後述するシーンを特定するための要素の一つである。
【0026】
図2に、記憶装置100に記憶される各種データの詳細について示す。
間取り図などの設計情報を含む設計データ101には、建物コード番号、建物名、配置図、各階間取り図、立面図、などが含まれる。
【0027】
また、図2に示すごとく、開口部装置の情報を含む開口部装置データ102には、開口部装置コード番号、製品名、種別、寸法、有効開口面積、などが含まれる。なお、種別には、引違い窓、片引き窓、上下スライド窓、片上げ下げ窓、縦滑り出し窓、外開き窓、ドレープ窓、横滑り出し窓、並行突出し窓、など各種の形態の窓が含まれる。また、窓のほか、シャッター、扉、などの各種開口部装置についても、開口部装置データ102に記憶される。
【0028】
また、図2に示すごとく、快適性指標の情報を含む快適性指標データ103には、快適性指標用語、快適性指標数値、快適性指標定義、などが含まれる。ここで、快適性指標用語は快適性を観念で表現するための用語であり、耐え難い、寒い、少し寒い、丁度よい、少し暑い、暑い、耐え難い、などである。また、快適性指標数値は快適性を数値で表現するための数値であり、例えば、快適性指標用語と対応して、耐え難い(−3)、寒い(−2)、少し寒い(−1)、丁度よい(0)、少し暑い(+1)、暑い(+2)、耐え難い(+3)、というものである。快適性指標定義は、快適性指標用語と快適性指標数値を対応付けるためのものである。
【0029】
また、図3に示すごとく、快適性指標データ103については、ISO7730で規格されているPMV(Predected Mean Vote)に準ずることとしてもよい。このPMVは、「人間がその時暖かいと感じるか、寒いと感じるかを−3〜+3の7段階で表す」ものであり、図3は、このPMVの概念について示すものである。
【0030】
また、図2に示すごとく、期間の情報を含む期間データ104には、6月、7月、8月、9月、といった月の区切りで期間を定義づけるデータが含まれる。このほかに、春、初夏、夏、晩夏、初秋、秋などの季節の区切りで期間を定義づけるデータや、6月第1週、6月第2週、或いは、7月上旬、7月中旬、など、より細かい区切りで期間を定義づけるデータが含まれてもよい。なお、この期間データ104は、後述するシーンを特定するための要素の一つである。
【0031】
また、図2に示すごとく、時間帯の情報を含む時間帯データ105には、朝、昼、夜、就寝時、といった一日の大きな時間の区切りで時間帯を定義づけるデータが含まれる。このほかに、7時〜11時、11時〜19時、19時〜23時、23時〜7時、などの具体的な時間の区切りで時間帯を定義づけるデータが含まれてもよい。なお、この時間帯データ105は、後述するシーンを特定するための要素の一つである。
【0032】
また、図2に示すごとく、シミュレーション結果を対比可能に表示するための対比表示データ106には、アイコンや、数値や、図や、説明などを規定の位置に配置するための様式であって、少なくとも二つのシミュレーション結果を同時に表示するための様式のデータなどが含まれる。具体的には、例えば、図10に示されるデータシートの形態にて表示され得るものであり、顔アイコン207a、数値206a、図形206b、説明206c、が対比表示データ106の様式に基づいて所定の位置に配置されるようになっている。
【0033】
また、図2に示すごとく、各種アイコンを含むアイコンデータ107は、例えば、図10に示す快適性を顔の表情で表現する表示である顔アイコン207aや「エアコン」のアイコン207e、図13に示す開口部装置の開放状態を示す開放アイコン(室外風有)207xなどを含む。また、本実施例では、図10の凡例に示されるように、快適、許容範囲、範囲外、の3つの状態を表情と色の異なる顔アイコン207a〜207cで示すこととしている。また、このほか、図7に示す流れ方向アイコン207g(2階へ)・207h(1階より)・207j(ロフト階へ)・207k(2階より)などの各種アイコンがアイコンデータ107に含まれる。
【0034】
また、図2に示すごとく、建物が建設される場所や地形などの地理情報を含む地理データ108は、市町村名、経度、緯度、標高、周囲環境、航空写真(地図)、建築地の風の特徴、風配図などが含まれる。なお、建築地の風の特徴、風配図は、気象情報サーバー50(図1)から取得されるものであってもよい。
【0035】
また、図2に示すごとく、建築地の特徴を表示するための建築地表示データ109には、建築地の地図や、配置図や、建築地の風の特徴や、風配図、などを規定の位置に配置するための様式のデータなどが含まれる。具体的には、例えば、図5に示される図表の形態にて表示され得るものであり、航空写真(地図)209a、配置図209b、風配図209dが建築地表示データ109の様式に基づいて所定の位置に配置されるようになっている。
【0036】
また、図2に示すごとく、各シミュレーションの出力の様式を含む出力様式データ110には、シミュレーション結果として出力される様式のデータが含まれる。具体的には、例えば、図5に示される特徴シート、図6乃至図8に示されるシミュレーション結果、図9に示される提案プラン、図10に示される対応表示シート、図13乃至図15に示されるシミュレーション結果、をそれぞれ表示するための様式を規定するデータが含まれる。
【0037】
また、図2に示すごとく、特定の気象状況の情報を含む特定気象データ111には、実際の気象データとは異なる気象状況を特定するためのデータなどが含まれる。具体的には、例えば、ある期間、時間帯において実際に観測された気象データでは、「気温28度、湿度70%、風速1m〜2mの南風(平均値)」であるところを、「気温28度、湿度70%、風速0m(平均値)」といった任意の設定(この例では、風速を任意に設定)を可能とするためのデータである。なお、この特定気象データ111は、後述するシーンを特定するための要素の一つである。
【0038】
また、図2に示すごとく、比較対象となる条件設定を含む比較対象データ112には、建物のいわゆる「規定のプラン」(基本設計)や比較対照となるプラン(設計)を実現するための各種条件などが含まれている。この「規定のプラン」は、後述する各種のシミュレーションにて検討する「提案プラン」の比較対象となるものである。また、シミュレーションは、検討を繰り返し行うことが想定されるものであるため、各シミュレーションの結果を参照する必要が生じることになる。このため、各シミュレーションにて指定される各種条件の組み合わせは、属性情報(ID番号など)とともに比較対象データ112に記憶されることとしている。
【0039】
これにより、後のシミュレーションにおける条件設定においては、属性情報を指定することで、過去に行ったシミュレーションの条件設定の組み合わせが一括して取得できることとなる。また、比較対象データ112には、属性情報に加え、快適性指標の演算結果やシミュレーションの演算結果の情報が記憶されることで、快適性指標やシミュレーションの再計算の時間を短縮、或いは、省くことが可能となる。
【0040】
また、図2に示すごとく、シーンを特定するための情報を含むシーン特定データ113には、期間、時間帯、気象状況(気象条件)などの各要素の組み合わせにて定義されるシーンの情報が含まれている。
ここでいうシーンについては、例えば、以下の表にて説明されるようなものであり、例えば、シーン6Aにおいては、図6に示されるような室外風があるときの気流(通風)のシミュレーションが行われることが想定される。また、表1のようなテーブルデータとすることで、後述する各種条件設定の際には、番号などの識別情報にてシーンを特定するといったことが可能となる。
【0041】
【表1】

【0042】
以上に説明した各種データを、図1に示す演算装置120により演算処理することにより、後述する各種のシミュレーション結果などが出力されるものである。具体的な処理フローについては、後述する各種のシミュレーションを実施する際のフローを用いて説明する。
【0043】
また、図4は、図1に示す演算装置120による処理とシステム構成の概念を示す図である。なお、これらの処理やシステム構成は、実際にはプログラムによって実現されるものであるが、シミュレーションにおけるインプット・アウトプットを明確にするために、ブロック図にて概念を説明するものである。
【0044】
図4においては、図1に示す各種データ取得手段121〜134により、それぞれ、各種データ101〜113が取得されることを示している。
また、シミュレーション実行手段140により、シミュレーションが実行されて、シミュレーション結果出力手段142により、演算結果が出力されることを示している。出力されるものは、具体的には、後述する図5乃至図10などに示されるものである。
【0045】
また、シミュレーション条件認識手段143により、シミュレーションを行うための条件が適宜認識されることになる。なお、条件の設定は、上述したキーボード14(図1)などを用いて行われる。
【0046】
また、設計処理手段135により、ディスプレイ12(図1)に表示される間取り図や立面図などに各種開口部装置をマニュアル操作で配置したり、その配置を変更したりすることや、間取りを設計・変更したりすることや、間取り図や立面図を作成することや、作成された間取り図や立面図に説明を記載するなど、いわゆる設計作業を実施することが可能となっている。なお、この設計作業の際には、上述したマウス13、キーボード14(図1)などを用いて行われる。
【0047】
また、以上に説明した各種データや各種手段は、図1に示すクライアントシステム10において記憶、処理されることとするほか、基幹サーバー30において記憶、処理される、いわゆるASP型で実施されることとしてもよい。
【0048】
次に、上記の各種データや各種手段を用いて行うシミュレーションについて、事例を用いて説明する。
【0049】
<第一のシミュレーション例:ビルダー向け建物開口部設計シミュレーション>
まず、第一のシミュレーション例として、「ビルダー向け建物開口部設計シミュレーション」について説明する。このシミュレーションでは、ビルダーに対する情報の提供を目的とするものである。
【0050】
例えば、指定された開口部装置の配置に基づいて、室内の気流(経路、風量)をシミュレーションするとともに、さらに、各シミュレーション結果を対比表示することで、その対比結果を評価し、ビルダーの設計支援を行うものである。また、評価においては、快適性指標を用いることで、シミュレーション結果をビルダーにとってより判りやすく、有効に活用してもらうこと実現するものである。
【0051】
また、この第一のシミュレーションは、住宅設備メーカーがクライアントシステム10(図1)を用いてやビルダーに提供することのほか、ビルダー側の情報端末(パソコンや携帯電話など)においてクライアントシステム10(図1)を用いた場合と同様の操作が、ビルダー自身によって行われることが考えられる。
【0052】
また、以下に説明される第一のシミュレーション例では、以下の各図に示されるものが出力される。
・図5に示される建築地の特徴シート
・図6に示される室外風があるときの気流(通風)のシミュレーション
・図7に示される昼の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーション
・図8に示される就寝時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーション
・図9に示される提案プラン
・図10に示される対比表示シート
【0053】
シミュレーションの実施の一例を図12に示すフロー図を用いて説明する。なお、以下で使用する用語の符号は、図1及び図4を適宜参照されたい。
まず、クライアントシステム10においては、ディスプレイ12に条件設定画面が表示され、キーボード14などを用いて各種条件の設定(ステップS01)が行われる。
【0054】
ここで設定される各種条件は、各種データ101〜113に基づいて選択されるものであってもよく、また、適宜入力されて各種データに追加的に登録されるものであってもよい。例えば、ある建物について間取りや開口部装置の配置の設計をシミュレーションする場合において、既に設計データ101に登録されている間取りや開口部装置の配置から選択をすることや、新たな設計を追加的に入力するものであってもよい。
【0055】
また、例えば、特定の期間、時間帯を設定しつつ、設定された期間、時間帯に対応する気象データを参照する設定とすることや、特定の期間、時間帯を設定しつつも、特定の気象状況(室外環境)を任意に設定する(例えば、風の有無)こととしてもよい。また、上述のシーンから条件を設定してもよく、例えば、表1に示すシーン6Aのみシミュレーションを実行する、或いは、全てのシーンについてシミュレーション実行する、といった設定も行うことが可能である。
【0056】
また、シミュレーションの出力形態なども設定される。ビルダーに対する情報の提供を目的とする本シミュレーションにおいては、図5乃至図10に示される各種出力の様式が設定される。
【0057】
また、ステップS01の条件設定においては、今回の条件設定による優位性を評価にするために、比較対象となる設計が設定される。つまり、例えば、いわゆる「規定のプラン」(基本設計)を比較対象とする場合には、「規定のプラン」に対応する各種条件が設定され、或いは、過去にシミュレーションで検討したプランに対応する各種条件が設定される(上述した属性情報の指定)。
【0058】
次に、ステップS01において設定された各種条件が、シミュレーション条件認識手段143によって認識される(ステップS02)。これにより、シミュレーションに必要な条件(建物、間取り図、立面図、開口部装置の配置、開口部装置の開閉状態、シーンなど)がクライアントシステム10にて認識され、特定の建物について、特定の期間、時間帯における建物室内の気流や快適性のシミュレーションなどが実行され得る状態となる。
【0059】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図5に示す建築地の特徴シートを作成するための処理を行う(ステップS03)。
【0060】
具体的には、ステップS01において設定された建築地に対応する航空写真(地図)209a、配置図209b、風配図209dを、地理データ取得手段128(地理データ108)や気象データ取得手段134(151)によって取得するとともに、取得された情報を建築地表示データ取得手段130にて取得される建築地表示データ109上の指定の箇所に表示可能な状態とする。
【0061】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図6に示される室外風があるときの気流(通風)のシミュレーションを行う(ステップS04)。
【0062】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151が適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に室外風(風の流れ)があることが条件として設定される。なお、シミュレーションにおける演算処理の方法については、特に限定されるものではない(以降に説明するシミュレーションにおいても同様である。)。
【0063】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図7に示される昼の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションを行う(ステップS05)。
【0064】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151が適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に昼間の時間帯(例えば、11時〜19時)に室外風がないことが条件として設定される。
【0065】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図8に示される就寝時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションを行う(ステップS06)。
【0066】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151が適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に就寝時の時間帯(例えば、23時〜7時)に室外風がないことが条件として設定される。
【0067】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図9に示される提案プランを作成するための処理を行う(ステップS07)。
【0068】
具体的には、選定された開口部装置を、北立面図、南立面図、西立面図、東立面図に表示可能とするための処理を行う。この表示は、設定された立面図、開口部装置の配置などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102が適宜参照される。
【0069】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップS01において設定された各種条件に基づいて、図10に示される対比表示シートを作成するための処理を行う(ステップS08)。
【0070】
具体的には、快適性判定手段134により、ステップS01において設定された各種条件に対応する快適性指標を演算により求めるとともに、演算結果を対比表示シートにおける「提案プラン表示エリアH2」に表示可能とするための処理を行う。
【0071】
本実施例では、図3に示されるPMVに準じた快適性指標を求めることとしており、PMVの数値(−3〜+3)が演算により求められる。このPMVの数値の演算は、ステップS01において設定された各種条件や、ステップS04・S05・S06においてそれぞれシミュレーションされた気流の情報を参照してなされるものであり、周知の技術によって演算されることができる。具体的な演算処理の方法については、特に限定されるものではない。
【0072】
また、本実施例では、PMVの数値は、図10に示すごとく、室外風がある場合、室外風がない場合、それぞれの場合における各期間(6月、7月・・・)、各時間帯(朝、昼、夜、就寝時)の要素の組み合わせによって定義される各シーンについて求められ、数値に対応する顔アイコン207a・207b・207cが対比表示シートに表示されることとしている。また、外気温が所定の温度以上になるときは、「エアコン」のアイコン207eを表示されることとしている。
【0073】
また、シミュレーション実行手段140は、図10に示される対比表示シートにおける「現プラン表示エリアH1」に、規定の設計に対応する条件設定をした場合の快適性指標、或いは、一回前(あるいは特定の回数前(過去のシミュレーション))に行った快適性指標の評価結果を対比表示可能な状態とする。
【0074】
具体的には、比較対象データ取得手段132により、比較対象データ112を取得し、取得した条件設定に対応する快適性指標の評価結果を「現プラン表示エリアH1」に表示可能とするための処理を行う。
【0075】
また、シミュレーション実行手段140は、次回以降のシミュレーションにおいて比較対象として利用するために、今回のシミュレーションの条件設定を比較対象データ112に記憶する(ステップS09)。
【0076】
これにより、次回以降のシミュレーションにおいて、今回のシミュレーションの条件設定を取得することができる。なお、上述したように、各シミュレーションの条件設定の組み合わせは、属性情報(ID番号など)とともに比較対象データ112に記憶され、後のシミュレーションなどにおいては、属性情報の指定により各条件設定の組み合わせが一括して取得される。また、比較対象データ112には、快適性指標の演算結果やシミュレーションの演算結果の情報を属性情報とともに記憶させることで、例えば、ステップS08における演算時間の短縮を図ることができる。
【0077】
また、以上のようにシミュレーション実行手段140によるシミュレーションが行われ、シミュレーション結果は、シミュレーション結果出力手段141によりディスプレイ12上に表示させることや、プリンタ15から印刷出力させることができる(ステップS10)。
【0078】
以上の一連の処理(ステップS01〜S10)により、図5乃至図10に示される各種の出力を得ることができる。この一連の処理を任意に繰り返す、つまりは、各種条件設定によるシミュレーションを行い、その出力を比較検討することで、最適な条件設定の選定などをすることが可能となる。
【0079】
また、図5乃至図10に示される各出力について説明すると、図5に示される「建築地の特徴シート」においては、航空写真(地図)209a、配置図209b、風配図209dが表示され、ビルダーは、建築地の特徴を視覚的に理解でき、また、数値に基づいた検討・評価をできることになる。なお、説明文209eについては、操作者の任意入力により表示可能とすることや、予め記憶装置に記憶された文章を気象データと照らし合わせて自動表示させることなどが考えられる。
【0080】
また、図6乃至図8に示されるシミュレーション結果では、室内を流れる気流K1・K2・・・が間取り図上に表示され、これにより、ビルダーにおいては、室内を流れる気流の特徴を視覚的に理解可能となる。また、図6に示す考察文261や提案文262などの説明については、操作者の任意入力により表示可能とすることが考えられる。また、実際に配置する開口部装置のアイコン263を任意に表示可能とすることも考えられる。
【0081】
ここで、図6は室外風があるとき、図7は昼の室外風がないとき、図8は就寝時の室外風がないとき、における気流をそれぞれシミュレーションしたものであり、室外風がある場合、室外風がない場合、それぞれの場合における各期間(6月、7月・・・)、各時間帯(朝、昼、夜、就寝時)の要素の組み合わせによって定義される各シーンについて、ビルダーは、気流の検討・評価をできることになる。
【0082】
また、以上の実施例では、「室外風があるとき(図6)」と、「室外風がないとき(図7・図8)」のそれぞれにおいてシミュレーションをすることとしている。
まず、「室外風があるとき(図6)」においては、「室外風を室内に通過させる換気を行う」といった「室外風を有効利用した通風、採風」の観点からシミュレーションを実施することができる。そして、この通風などの観点をビルダーにとって理解されやすくするために、快適性を向上させる原理に沿った提案文262(「採風モデルに変更すると通風効果が高まります。」)が表示される。
【0083】
なお、この説明文262は、ステップS04の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。また、図6に示される出力様式に、通風のキーワードV6がステップS04の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図6の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなどすることにより、ビルダーに通風の概念により快適性が向上されることを確実に把握させることができる。
【0084】
一方、「室外風がないとき(図7・図8)」においては、「開口位置の高低差を生かして換気する」といった「温度差換気」の観点からシミュレーションを実施することができる。また、図7に示すシミュレーションにおいては、昼間の時間帯であるため、基本的に各階の開口部装置の効果的な開放による快適性向上のためのシミュレーションがなされる。一方、図8に示すシミュレーションにおいては、夜間の時間帯であるため、防犯や静音性の確保も踏まえ、二階やロフト階の部屋(寝室)の開口部装置の効果的な開放による快適性向上のためのシミュレーションがなされる。
【0085】
そして、この温度差換気の観点をビルダーにとって理解されやすくするために、図7では、快適性を向上させる原理の説明文264A(「1階の空気が吹抜(階段室)を通って2階へ上がります。」)、説明文献264B(「2回の空気が吹抜(階段室)を通ってロフト階へ上がります。」)が表示されることとしている。また、図8では、快適性を向上させる原理に沿った提案文264C(「腰窓・地窓を設置することで、就寝時も温度差換気が可能となります。」)が表示される。また、温度差換気の観点をより明確にするために、流れ方向アイコン207g(2階へ)・207h(1階より)・207j(ロフト階へ)・207k(2階より)が、間取り図上に表示される。
【0086】
なお、これら説明文264A・264B、提案文246C、流れ方向アイコンは、それぞれ、ステップS05・S06の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図7・図8の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。また、図7・図8に示される出力様式に、温度差換気のキーワードV7・V8がステップS05・S06の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図7・図8の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなどすることにより、ビルダーに温度差換気の概念により快適性が向上されることを確実に把握させることができる。
【0087】
また、図9に示される「提案プラン」では、ビルダーは、北立面図、南立面図、西立面図、東立面図において、開口部装置の配置を視覚的に理解でき、また、その配置を検討・評価をできることになる。また、この「提案プラン」には、開口部装置の配置や設置についての提案文291や実際に配置する開口部装置のアイコン263などを配置することが考えられ、これらの提案文291やアイコン263は、ステップS07の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図9の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。
【0088】
また、図10に示される「対比表示シート」では、「現プラン表示エリアH1」と「提案プラン表示エリアH2」において、各期間と時間帯の組み合わせにおける快適性指標が、それぞれ顔アイコン207a・207b・207cによって表示される。これにより、ビルダーにおいては、各プラン(上述のステップS01で設定される条件設定)についての快適性を視覚的に理解でき、また、その配置を検討・評価をできることになる。特に、人の表情を表現する顔アイコンを用いることで、快適範囲、許容範囲、許容範囲外といったことを瞬時にイメージすることが可能となる。
【0089】
また、図10に示される「対比表示シート」では、「現プラン表示エリアH1」と「提案プラン表示エリアH2」において、縦欄に期間(月、時期、季節など)、横欄に時間帯(朝、昼、夜、就寝時など)を項目として表示し得るマトリクス(表形式)にて表示され、各項目内に、快適性指標が表示されることとしている。なお、図11に「対比表示シート」の一部拡大図を示す。
【0090】
このようにマトリクスにて表示されることにより、期間と時間帯の各シーンごとにおける快適性指標を判りやすく表示することが可能となる。なお、縦欄と横欄の表示の関係は逆であってもよい。
【0091】
また、図10に示される「対比表示シート」では、「現プラン表示エリアH1」と「提案プラン表示エリアH2」が上下に対比表示されるため、「どちらのプランが快適であるか?」といったことを比較検討することができる。
【0092】
例えば、図10の例で風があるときの朝の時間帯については、現プラン表示エリアH1においては、7月下旬、8月上旬以外は全て「範囲外」を示す顔アイコン207cが表示されるが、提案プラン表示エリアH2においては、「快適範囲」或いは「許容範囲」のいずれかとなり、提案プランにおいて、より快適な環境が得られということを容易に確認することができる。また、快適性指標においては、ISO規格のPMVに準ずることしているため、評価においては客観性が担保されるため、ビルダーは信頼性の高い情報として活用することができる。
【0093】
また、図10に示される「対比表示シート」では、風があるときにおける通風のシミュレーション、風がないときにおける温度差換気のシミュレーションが並列に表示されるため、通風と温度差換気の両方の状況(シーン)を一度に視認することが可能となる。このように並列に表示することによれば、通風と温度差換気の比較を行うことができ、状況(シーン)の違いを意識した上で、シミュレーションの評価を行うことができる。なお、もちろん、通風と温度差換気のシミュレーション結果を個別のシートに表示することとしてもよい。
【0094】
また、図10に示される「対比表示シート」では、顔アイコンに加え、各シーンにおける平均温度の表示が併記され、この平均温度を参照することも可能としている。また、外気温度が高すぎるため、いくら外気を取り入れても快適にならない場合には、顔アイコンに代えて「エアコン」のアイコン207eを表示する。これにより、ビルダーは、「あるシーンにおいてはエアコンによる空調が必要」ということを検討・評価することができる。
【0095】
また、図10においては、「現プラン表示エリアH1」において、特定の条件によるシミュレーション結果として、前情報(「Before」/「現プラン」)として表示し、「提案プラン表示エリアH2」において、別の条件によるシミュレーション結果として、変更情報(「After」/「提案プラン」)として表示することとしている。
【0096】
これにより、Before/Afterを意識した見せ方、つまりは、検討の前後を意識した見せ方が可能となり、ビルダーは、判りやすい評価を行うことが可能となる。
【0097】
さらに、このBefore/Afterを意識した見せ方、については、図10の対比表示シートのほかに、図6〜図8に示す各シミュレーション結果の表示において適用してもよい。即ち、例えば、図6において、「現プラン」の場合の気流K1・K2・・・を「Before」として赤色表示、「提案プラン」の場合の気流K1・K2・・・を「After」として青色表示、にて併記し、両プランにおける気流K1・K2・・・の違いを色分けによって対比可能に表示することとなどが考えられる。
【0098】
<第二のシミュレーション例:住まい手向け換気シミュレーション>
次に、第二のシミュレーション例として、「住まい手向け換気シミュレーション」について説明する。このシミュレーションは、実際に居住した際に実現される換気の状況を住まい手に対し提供することを目的とするものである。
【0099】
例えば、ビルダーの提案したプラン(設計)において開口部装置を開放した際に、どのような換気がなされ、快適性が実現されるか(期待されるか)、といったことを住まい手に提供するものである。これにより、住まい手においては、居住する前に換気の状況をイメージできるとともに、居住後には換気方法の指針として活用することができる。
【0100】
また、この第二のシミュレーションは、住宅設備メーカーやビルダーがクライアントシステム10(図1)を用いて住まい手に提供することのほか、住まい手側の情報端末(パソコンや携帯電話など)においてクライアントシステム10(図1)を用いた場合と同様の操作が、住まい手自身によって行われることが考えられる。
【0101】
また、以下に説明するステップM01〜M05の作業、及び、ステップM06における快適性指標の演算については、上述した第一のシミュレーション例におけるステップS01・S2・S4〜S6・S08において行われる処理と同様である。このため、例えば、第一のシミュレーションと第二のシミュレーションを同時に行う場合においては、第二のシミュレーションにおいて、第一のシミュレーションの演算結果を取得することにより、快適性指標やシミュレーションの再計算の時間を短縮、或いは、省くことが可能としてもよい。また、逆に、第一のシミュレーションにおいて、第二のシミュレーションの演算結果を取得することとしてもよい。
【0102】
また、以下に説明する第二のシミュレーション例では、以下の各図に示されるものが出力される。
・図13に示される室外風があるときの気流(通風)のシミュレーション
・図14に示される昼の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーション
・図15に示される就眠時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーション
【0103】
シミュレーションの実施の一例を図16に示すフロー図を用いて説明する。なお、以下で使用する用語の符号は、図1及び図4を適宜参照されたい。
まず、クライアントシステム10においては、ディスプレイ12に条件設定画面が表示され、キーボード14などを用いて各種条件の設定(ステップM01)が行われる。
【0104】
ここで設定される各種条件は、各種データ101〜112に基づいて選択されるものであってもよく、また、適宜入力されて各種データに追加的に登録されるものであってもよい。例えば、ある建物について間取りや開口部装置の配置の設計をシミュレーションする場合において、既に設計データ101に登録されている間取り、開口部装置の配置から選択をすることや、新たな設計を追加的に入力するものであってもよい。
【0105】
また、例えば、特定の期間、時間帯を設定し、設定された期間、時間帯に対応する気象データを参照する設定とすることや、特定の期間、時間帯を設定しつつも、特定の気象状況(室外環境)を任意に設定する(例えば、風の有無)こととしてもよい。また、上述のシーンから条件を設定してもよく、例えば、表1に示すシーン6Aのみシミュレーションを実行する、或いは、全てのシーンについてシミュレーション実行する、といった設定も行うことが可能である。
【0106】
また、シミュレーションの出力形態なども設定される。住まい手に対する情報の提供を目的とする本シミュレーションにおいては、図13乃至図15に示される各種出力の様式が設定される。
【0107】
また、ステップM01の条件設定においては、上述した第一のシミュレーションである「ビルダー向け建物開口部設計シミュレーション」において設定された各種設定を設定することとしてもよい。つまり、例えば、上述した属性情報(ID番号など)を指定するものである。
【0108】
次に、ステップM01において設定された各種条件が、シミュレーション条件認識手段143によって認識される(ステップM02)。これにより、シミュレーションに必要な条件(建物、間取り図、立面図、開口部装置の配置、開口部装置の開閉状態、期間など)がクライアントシステム10にて認識され、特定の建物について、特定の期間、時間帯における建物室内の気流や快適性のシミュレーションなどが実行され得る状態となる。
【0109】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップM01において設定された各種条件に基づいて、図13に示される室外風があるときの気流(通風)のシミュレーションを行う(ステップM03)。
【0110】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、開口部装置の開閉状態を判りやすく表現するために、開放される開口部装置の部位の近傍に、開放アイコン(室外風有)207xを表示可能とするための処理を行う。
【0111】
また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151、アイコンデータ107などが適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に室外風(風の流れ)があることが条件として設定される。
【0112】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップM01において設定された各種条件に基づいて、図14に示される昼の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションを行う(ステップM04)。
【0113】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、開口部装置の開閉状態を判りやすく表現するために、開放される開口部装置の部位の近傍に、開放アイコン(室外風無(昼))207yを表示可能とするための処理を行う。
【0114】
また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151、アイコンデータ107などが適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に昼間の時間帯(例えば、11時〜19時)に室外風がないことが条件として設定される。
【0115】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップM01において設定された各種条件に基づいて、図15に示される就寝時の室外風がないときの気流(温度差換気)のシミュレーションを行う(ステップM05)。
【0116】
具体的には、設定された間取り図に対し、矢印状の気流K1・K2・・・を周知のシミュレーション技術によって演算するとともに、間取り図上に表示可能とするための処理を行う。また、開口部装置の開閉状態を判りやすく表現するために、開放される開口部装置の部位の近傍に、開放アイコン(室外風無(就寝時))207zを表示可能とするための処理を行う。
【0117】
また、各気流K1・K2は、設定された間取り図や立面図、開口部装置の配置及び開閉状態、室外の気象状況などに基づいて演算されるものであり、設計データ101、開口部装置データ102、期間データ104、地理データ108、気象データ151、アイコンデータ107などが適宜参照される。また、このシミュレーションにおいては、特に就寝時の時間帯(例えば、23時〜7時)に室外風がないことが条件として設定される。
【0118】
次に、シミュレーション実行手段140は、ステップM01において設定された各種条件に基づいて、図13乃至図15にある開閉目安表Nを表示可能とするための処理を行う(ステップM06)。
【0119】
具体的には、快適性判定手段134により、ステップM01において設定された各種条件に対応する快適性指標を演算により求めるとともに、演算結果に基づいたアイコンを開閉目安表Nに表示可能とするための処理を行う。この開閉目安表Nは、縦欄に期間、及び、横欄に時間帯、を項目として表示し得るマトリクスを含み、前記各項目内に、前記開口部装置の開閉設定が表示される、こととしている。なお、縦欄と横欄の項目は、逆であってもよい。
【0120】
本実施例では、図3に示されるPMVに準じた快適性指標を求めることとしており、PMVの数値(−3〜+3)が演算により求められる。このPMVの数値の演算は、ステップM01において設定された各種条件や、ステップM03・M04・M05においてそれぞれシミュレーションされた気流の情報を参照してなされるものであり、具体的な演算処理の方法については、特に限定されるものではない。
【0121】
また、本実施例では、PMVの数値は、室外風がある場合、室外風がない場合、それぞれの場合における各期間(6月、7月・・・)、各時間帯(朝、昼、夜、就寝時)の要素の組み合わせによって定義される各シーンについて求められる。
【0122】
そして、快適性判定手段134は、PMVの数値を−1〜+1の範囲内に実現されるシーンについては、開口部装置を開くことによって、気流の流れに快適性の向上が期待できるものとし、図13の例では、開閉目安表Nにおいて開放アイコン(室外風有)207xを表示するものと判定する。
【0123】
一方で、外気温が所定の温度以上になるときは、開閉目安表Nにおいて「エアコン」のアイコン207eを表示するものと判定する。このようにして、開閉目安表Nの各シーンにおいて、開放アイコン(室外風有)207xや、「エアコン」のアイコン207eが表示され得る状態とする。
【0124】
また、以上のようにシミュレーション実行手段140によるシミュレーションが行われ、シミュレーション結果は、シミュレーション結果出力手段141によりディスプレイ12上に表示させることや、プリンタ15から印刷出力させることができる(ステップM07)。
【0125】
以上の一連の処理(ステップM01〜M07)により、図13乃至図15に示される各種の出力を得ることができる。この一連の処理を任意に繰り返す、つまりは、各種条件設定によるシミュレーションを行い、その出力を比較検討することで、最適な条件設定の選定などをすることが可能となる。
【0126】
また、図13乃至図15に示されるシミュレーション結果では、室内を流れる気流K1・K2・・・が間取り図上に表示され、これにより、住まい手においては、室内を流れる気流の特徴を視覚的に理解可能となる。また、図13に示す説明文265・266については、ステップM03の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図13の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。
【0127】
また、図13は室外風があるとき、図14は昼の室外風がないとき、図15は就寝時の室外風がないとき、において、特定の開口部装置を開放した際における気流をそれぞれシミュレーションしたものであり、室外風がある場合、室外風がない場合、それぞれの場合における各期間(6月、7月・・・)、各時間帯(朝、昼、夜、就寝時)の要素の組み合わせによって定義される各シーンについて、住まい手は、気流の流れや開口部装置の開け方をイメージすることができる。具体的には、各シーンにおける開閉設定は、開閉目安表Nを参照することで、容易に把握することができる。
【0128】
例えば、図13に示すごとく、室外風があって、期間=6月、時間帯=朝、の組み合わせからなるシーンでは、開放アイコン(室外風有)207xが表示されており、このシーンにおいては、開口部装置を開けると快適性の向上の効果が見込めることが把握できる。また、同様に、期間=8月上旬、時間帯=朝、の組み合わせからなるシーンでは、「エアコン」のアイコン207eが表示されており、このシーンにおいては、開口部装置を開けても効果が見込めず、エアコンなどを用いた空調が必要になることが把握できる。
【0129】
また、以上の実施例では、「室外風があるとき(図13)」と、「室外風がないとき(図14・図15)」のそれぞれにおいてシミュレーションをすることとしている。
まず、「室外風があるとき(図13)」においては、「室外風を室内に通過させる換気を行う」といった「室外風を有効利用した通風、採風」の観点からシミュレーションを実施することができる。
【0130】
そして、この通風などの観点を住まい手にとって理解されやすくするために、快適性を向上させる原理の説明文267(「通風とは・・・、風の入口と出口を開けることで、家の中を風が通り抜けます。」)が表示される。なお、この説明文267は、ステップM03の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図13の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。
【0131】
一方、「室外風がないとき(図14・図15)」においては、「開口位置の高低差を生かして換気する」といった「温度差換気」の観点からシミュレーションを実施することができる。また、図14に示すシミュレーションにおいては、昼間の時間帯であるため、基本的に各階の開口部装置の効果的な開放による快適性向上のためのシミュレーションがなされる。
【0132】
また、図15に示すシミュレーションにおいては、夜間の時間帯であるため、防犯や静音性の確保も踏まえ、二階やロフト階の部屋(寝室)の開口部装置の効果的な開放による快適性向上のためのシミュレーションがなされる。
【0133】
そして、この温度差換気の観点を住まい手にとって理解されやすくするために、図14では、快適性を向上させる原理の説明文268(「温度差換気とは・・・、暖かい空気が上に上がる性質を利用した換気方法です。風が吹いていないときも換気できます。」)といった内容が表示され、図15では、快適性を向上させる原理の説明文269(「温度差換気とは・・・、暖かい空気が上に上がる性質を利用した換気方法です。室内ドアを閉めたままで換気できます。」)が表示される。
【0134】
また、図14に示すごとく、温度差換気の観点をより明確にするために、流れ方向アイコン207g(2階へ)・207h(1階より)・207j(ロフト階へ)・207k(2階より)が、間取り図上に表示される。なお、これら説明文268・269や流れ方向アイコンは、それぞれ、ステップM04・M05の演算処理において自動的に表示設定される、或いは、図14・図15の様式のデータに予め記憶される、或いは、操作者によって適宜入力されるなど、いずれの形態であってもよい。
【0135】
また、図13乃至図15に示すシミュレーション結果は、居住後における換気方法の指針として、住まい手に提供することができる。そして、住まい手においては、居住後において、各図のシミュレーション結果を参照し、各シーンに応じて開口部装置の開閉を設定することで、快適性の向上を図ることができる。また、シミュレーション結果は紙媒体で住まい手に居住前に提供されるほか、居住後に提供されることや、住まい手の所有するパソコンや携帯電話などにおいてオンラインで閲覧可能とすることなども考えられる。
【0136】
また、ここで特記すべきは、「シーン」という概念で、開口部装置の開閉設定や、快適性の目安を把握できることである。即ち、従来、「特定の日時についての特定の開口部装置の開閉設定」といった情報が提供される技術があったが、「シーンに応じた開口部装置の開閉設定」という情報を提供する概念は存在しないものであった。
【0137】
例えば、従来技術におけるシミュレーションの利用を想定した場合、住まい手は、シミュレーションの対象となる具体的な日時をシステムに認識させる必要があり、その日時の設定に対応する各開口部装置の開放の設定が得られるものであった。この場合、日時をいちいち指定する煩雑さや、細かな開放設定の指示が住まい手にとって面倒な印象を与えることが懸念される。
【0138】
これに対し、本実施例のシミュレーションの利用を想定すると、住まい手は、開閉目安表Nから対応するシーンのアイコンを参照することで、開口部装置の開放により快適性を向上できるか否かを把握することができる。つまり、開放アイコン(207x(図13)など)が表示されている場合には、開口部装置の開放による快適性の確保が期待でき、一方で、エアコンのアイコン207eが表示されている際には、開口部装置の開放による快適性の確保が難しいといったことを把握できることになる。
【0139】
これにより、まずは、開放するか否かを住まい手が主体的に判断しやすい状況とすることができる。例えば、「開放アイコンが表示されているから、開放して外気を取り入れよう!」という意思が生まれることが期待できる。
【0140】
また、説明文267(図13)などが表示されることによって、開放による効果が期待できることを住まい手に理解させることができるため、住まい手は積極的に開口部装置を開けることが期待できる。つまり、住まい手が「積極的な開閉作業」をすることを期待することができる。
【0141】
さらに、住まい手による「積極的な開閉作業」の意思が生まれることによれば、間取り図に表示された開放アイコン(207x(図13)など)に基づいて開放をすることが期待され、住まい手の任意によるものではなく、シミュレーションによって最適に設計された窓の配置を有効に活用できることとなり、住まい手に対するシミュレーションの有効活用がなされることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係るシミュレーションは、建物の通風や温度差換気に基づく快適性を評価するツールとして幅広く使用することができる。また、シミュレーションを活用することによって、シミュレーションされた快適性の評価を実現可能な建物を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0143】
10 クライアントシステム
30 基幹サーバー
50 気象情報サーバー
100 記憶装置
120 演算装置
H1 現プラン表示エリア
H2 提案プラン表示エリア
N 開閉目安表



【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される各種条件に基づき、通風、及び/又は、温度差換気のシミュレーションを実施する建物のシミュレーションシステムであって、
特定の条件によるシミュレーション結果と、
別の条件によるシミュレーション結果と、
を対比可能に表示する、
建物のシミュレーションシステム。
【請求項2】
対比可能に表示される情報は、
特定の条件によるシミュレーション結果を、前情報(「Before」/「現プラン」)として表示し、
別の条件によるシミュレーション結果を、変更情報(「After」/「提案プラン」)として表示し、得る、
ことを可能とする、
ことを特徴とする請求項1に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項3】
対比可能に表示される情報は、
快適性指標を含む、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項4】
快適性指標は、PMVを含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項5】
対比可能に表示される情報は、
快適性を顔の表情で表現する表示を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項6】
対比可能に表示される情報は、
縦欄/横欄に期間、及び、
横欄/縦欄に時間帯、
を項目として表示し得るマトリクスにて表示され、
前記各項目内に、前記快適性指標が表示される、
ことを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項7】
風があるときにおける通風のシミュレーション、
風がないときにおける温度差換気のシミュレーション、
を実施し、
並列/個別に表示する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを実施するためのプログラム。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを用いた開口部装置の設計方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の建物のシミュレーションシステムを用いて設計がなされた建物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−3697(P2013−3697A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131931(P2011−131931)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】