説明

建物の壁部の含水検査方法

【課題】建物の壁部の含水層を、検証用パネル等を用いることなく、また壁部を破壊することなく、早期に発見できる検査方法を提供する。
【解決手段】建物の壁部の表面温度分布を映像表示画面に表示し、低映像信号レベルに対応する第1の色相と高映像信号レベルに対応する第2の色相を設定し、画像で表示された壁部の領域で、第1の色相に最も近い色相を有する第1の領域と、第2の色相に最も近い色相を有する第2の領域を検知して、第1の領域と第2の領域の間の領域を境界領域とし、信号レベル(温度)対色相の関係を調整して、信号レベル(温度)対色相の変化量を増加させるとともに、画面に表示される色相を変化させて、境界領域における特定の色相の領域の面積の非連続な変化の有無から含水層を判断し、特定の色相の領域を画する境界線の非連続な変移から含水層の数を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カメラ等を用いて、建物の外壁等や屋根における浸水や含水の有無を判断する検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁等や屋根の内側には、冷暖房による室内外の温度差で結露が生じることがある。また建築後年月を経た建物の外壁等や屋根には、瓦や外壁パネル等の損傷などに起因して、雨水等が浸水することがある。こうした結露や浸水で外壁等や屋根の部材が含水すると、該部材の表面部分が剥離して、あるいは該部材が腐食して、雨漏り、あるいは建物の強度が劣化するなどの弊害が生じる。そこで外壁等や屋根の含水を早期に発見し、結露や浸水に対する対策を施すことが望まれる。こうした目的のために、赤外線カメラ等で得た被測定壁部の表面温度分布に基づいて、壁部内部に生じた(目視不可能な)剥離箇所の有無を判定するための、壁部の剥離判定装置(特許文献1)や、赤外線リモートセンシングシステム(特許文献2)による非破壊検査方法・装置が提案された。なお本明細書では、建物の外壁等や屋根を壁部と表示することがあり、またこの壁部には、建物の内部の空間(部屋など)を画する壁、天井、床等が含まれるものとする。
【特許文献1】特開平6−229958号公報
【特許文献2】特開平4−157355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで外壁は外壁パネルおよび断熱材等の複数の部材を積層した層で構成され、また屋根は瓦、ルーフィングおよび野地板等の複数の部材を積層して構成される。このように壁部は複数の層からなるが、特許文献1における壁部の剥離判定装置は、検証用に被測定壁部と同一積層構造のパネルを必要として、剥離判定が煩雑で又コストアップを招く。さらに建築後年月を経た建物では、建築当時の部材の入手が困難なため、あるいは建築資料が散逸して、検証用パネルを製作できないこともある。特許文献2における赤外線リモートセンシングシステムでも、被測定部と略同様に構成された剥離部のない健全供試体と複数の基準空隙供試体を用意しなければならないから、特許文献1の技術と同様な問題が生じる。また特許文献1および2に係る技術は、壁部に剥離を生じなければ異常を発見できないから、壁部の劣化を早期に発見する技術とはいい難く、又どの層が含水しているか判断できず、結局、修繕に先立ち含水箇所の壁部を破壊しなければ修繕対象となる層を特定できないことになる。
【0004】
すなわち特許文献1および2に係る技術では、検証用パネル等を用いることに伴う煩雑さなどや、剥離前に壁部の劣化を発見し難いことや、破壊検査をしなければ修繕対象となる層を特定できないといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明にかかる建物の壁部の含水検査方法は、次の工程を有している。壁部の表面温度に対応した信号レベルを有する映像信号から、前記信号のレベルに対応して色相が変化する色信号を生成し、この色信号を画像として映像表示画面に表示して、前記壁部の表面温度分布を色の分布として表示する壁部の含水検査方法において、前記映像信号の低信号レベル側に対応する第1の色相、および高信号レベル側に対応する第2の色相を設定して、壁部の表面温度分布を、前記第1の色相と第2の色相の間の色相の相違で表示して検知する。例えば温度が最も低い部分(映像信号レベルが最も低い部分)を青色に対応させるとともに、温度が最も高い部分(映像信号レベルが最も高い部分)を赤色に対応させて(表面温度に応じて色相(色)が青色から赤色へと変化するようにして)、壁部の表面温度分布を色の分布として表示する(第1の工程)。
【0006】
次に、前記画像の前記壁部の領域において、前記第1の色相(青色)にもっとも近い色相(スペクトルにおいて青色に近い色)を有する第1の領域と、前記第2の色相(赤色)にもっとも近い色相(スペクトルにおいて赤色に近い色)を有する第2の領域を、目視にて検知する。壁部に含水領域が存するときには、含水領域の表面温度と非含水領域の表面温度との相違が、色相の相違となるからである。また前記第1の領域と前記第2の領域との間の領域を境界領域とする(第2の工程)。
【0007】
次に、前記第1の色相に対応する信号レベルと、前記第2の色相に対する信号レベルとの何れか一方または双方を調整して(例えば、前記第1の色相に対応する信号レベルを上げるとともに、前記第2の色相に対する信号レベルを下げて)、信号レベル対色相の変化量を大きくする。前記境界領域における僅かな温度の相違を、色相の変化として検知しやすくするためである(第3の工程)。
【0008】
次に、信号レベルと色相との対応関係を調整し、前記画面に表示される色相を変化させて、前記境界領域における特定の色相(例えば緑色)の領域の面積が非連続に変化する(特定の色相の領域の面積が、増加から一旦減少して再び増加するか、減少から一旦増加して再び減少する)、信号レベルと色相との対応関係の有無を調べる。かかる対応関係をN個検知できたときには、壁部の表面(赤外線カメラ等で撮影された面)を第1層として、第N+1番目の層が含水していると判断する(第4の工程)。例えば第2層が含水している場合には、第2層の含水領域と第1層の間の熱伝達が第1層と第2層の境界面の影響を受けて、壁部の表面温度に対応する映像信号のある1つのレベルにおいて、信号レベルの変化に非連続が生じるから、信号レベルと色相の対応関係においても、非連続な変化を生じる対応関係が1つ生じて、前記境界領域における前記特定の色相を有する領域の面積の増減に非連続な変化が生じる。これに対し、前記面積の増減に非連続な変化を検知できないときには、壁部の表面の層のみが含水していると判断する。かかる場合には、壁部の表面温度が壁部内に存する境界面の影響を受けないから、前記映像信号に前記非連続な部分が生ずることがなく、前記特定の色相を有する領域の面積の増減に前記非連続な変化が生じないからである。かくして複数の層で構成される壁部のいずれの層が含水しているかを判断することができる(請求項1)。
【0009】
また、(第4の工程において)信号レベルと色相との対応関係を調整し、前記画面に表示される色相を変化させて、前記特定の色相の領域を画する境界線が非連続に変移する信号レベルと色相との対応関係の有無から、含水層の数を判断できる。たとえば第2層が含水しているときには、前述したとおり映像信号のある1つの信号レベルに非連続な部分が生じるだけだが、第1層および第2層が含水しているときには、第1層の含水領域において第2層の含水領域の影響を受けない領域が存して、第1層の含水領域に対応した表面領域には表面温度が殆ど平坦になる領域が存する。すると前記映像信号のレベルに殆ど平坦な部分が生じる。ここで前記境界領域を表示する色相を変化させると、前記特定の色相の領域を画する境界線が、前記表面温度が平坦な領域において、非連続に変移する。すなわち境界線の非連続な変移の数Nに1を加えた数が含水層の数になる(請求項2)。
【0010】
壁部の周囲温度が上昇しているときには、含水領域は、非含水領域に比べて比熱が大きいため、温度上昇が遅れる。また周囲温度の変化が少ないときには、含水領域は、気化熱で冷却されて、非含水領域に比べ表面温度が低くなる。複数の層が含水しているときには、境界領域において表面温度が平坦な領域も含水領域であるため、境界領域は、非含水領域より表面温度が低くなる。したがって含水層が単数であろうと複数であろうと、高い温度に対応した色相である前記第2の領域の色相が非含水領域を表示すると判断できる(請求項3)。これに対し、壁部の周囲温度が低下しているときには、比熱の大きい含水領域は非含水領域に比べ温度低下が遅れる。複数の層が含水しているときには、表面温度が平坦な領域も含水領域であるため、境界領域は、非含水領域に比べ温度低下が遅れる。したがって含水層が単数であろうと複数であろうと、低い温度に対応した色相である前記第1の領域の色相が非含水領域を表示すると判断できる(請求項4)。かくして含水している層の数を知るとともに、非含水領域の領域を判断できるから、それ以外の領域が含水領域であると判断することができる(請求項3,4)。
【発明の効果】
【0011】
上述したとおり、本発明にかかる壁部の含水検査方法によれば、検証用パネルを用いることなく、壁部が含水しているか否かを容易に検査できて、検査コストを低減できる。また壁部に剥離が生じる前に壁部の含水を検知できるから、結露や浸水による壁部の劣化を早期に発見できる。さらに壁部を破壊することなく含水層や含水領域を判断できるから、交換すべき層の部材を準備したうえで、修繕作業にとりかかることが可能となるなど、修繕工期短縮とコスト低減を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る建物の壁部の含水検査方法を説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明に係る建物の壁部の含水検査方法を実施するための含水検査装置等の概略構成例を示す図である。図1中、10は検査対象である外壁であり、1は赤外線カメラであり、2は含水検査装置である。また同図中、3は、赤外線カメラ1が出力する(外壁10の表面の温度分布を示す)映像信号から色信号を得る色信号生成部であり、4は、色信号(例えば、赤色、緑色、青色の3原色信号)の画像を表示する映像表示画面であり、5は、信号レベル(温度)と色信号との対応関係を制御する(調整する)制御部である。色信号生成部3、映像表示画面4および制御部5を有する含水検査装置2は、例えばパーソナルコンピュータとソフトウェアにて実現することができる。
(外壁および屋根の構造例)
図2は外壁の断面構造例を示す図であり、図3は屋根の断面構造例を示す図である。図2に示す外壁10は、第1層11(外壁パネル)、第2層12(断熱材)および第3層13(室内パネル)からなる3層構造を有している。図3に示す屋根20は、瓦21、ルーフィング22および野地板23からなる多層構造を有し、野地板23は垂木24によって支えられている。以下、外壁10のモデルによって、含水状態と外壁10の表面温度分布の関係について説明する。図4および5は、外壁10の水平断面構造を示すとともに、外壁10が含水したときにおける外壁10の表面温度の分布例を示す図であり、図中、最上部の層を第1層11としたものである。なお図3の屋根についても、屋根20の含水と瓦21の表面温度分布との関係を、図4および図5と同様に示すことができる。
(外壁表面の温度分布)
以下、壁部の周囲温度が上昇しているとき、若しくは周囲温度の変化が少ないときにおける壁部の表面温度分布の例と、含水層・含水領域の関係について説明する。かかるときには、壁部の含水領域は、非含水領域に比べて比熱が大きいため温度上昇が遅れて、また気化熱で冷却されて、非含水領域よりも温度が低くなる。なお本発明において、壁部の周囲温度の変化が少ないときとは、壁部の含水領域の温度が非含水領域よりも低い温度となる状態をいう。
(第1層が含水した場合の例)
図4(a)は、第1層11が含水した場合における外壁10の表面温度の分布例を示す図である(円形の含水領域10aの直径部分を含む断面構造図である)。外壁10の表面の温度は、含水領域10aに対応する領域において21度であり(本明細書では、温度は全て摂氏とする)、含水領域10aから離れるにつれて上昇して、21.9ないし22度となり、該断面における外壁10の表面温度分布を示す曲線31は、含水領域10a(21度の領域)から非含水領域にかけて、滑らかに変化し上昇して、21.9ないし22度となる(曲線31は、該断面の表面温度分布を示す映像信号レベルに対応する)。
(第2層が含水した場合の例)
図4(b)は、第2層12が含水した場合における外壁10の表面温度の分布例を示す図である(円形の含水領域10bの直径部分を含む断面構造を示す)。外壁10の表面の温度は、含水領域10bに対応する領域(表面温度21度の領域)から離れるにつれて上昇して、21.9ないし22度となり、該断面における外壁10の表面の温度分布は曲線32で示される。ここで本発明の発明者は、外壁10の表面温度分布を示す曲線32に、非連続点32aが現れることを見出した。これは、第2層12と第1層11との間の境界面12aによって、第2層の含水領域と第1層の間の熱伝達が影響を受けて、壁部の表面温度に非連続な点が生じるためと考えられる。なお第2層12と第1層11との間に空隙が存する場合にも、非連続点32aが現れる。
(第3層が含水した場合の例)
図5(a)は、第3層13が含水した場合における外壁10の表面温度の分布例を示す図である(円形の含水領域10cの直径部分を含む断面構造図)。外壁10の表面の温度は、含水領域10cに対応する領域(表面温度21度の領域)から離れるにつれて上昇して、21.9ないし22度となり、該断面における外壁10の表面の温度分布は、曲線33で示される。このとき曲線33には、非連続点33aおよび33bが現れる。これは第3層13と第2層12の境界面13a、および第2層12と第1層11の境界面12aの2つの境界面によって、各層の間の熱伝導に影響が生じるためと考えられる。
(第1,2および3層が含水した場合の例)
図5(b)は、第1層11、第2層12および第3層13が含水した場合における外壁10の表面温度の分布例を示す図である(第1層11の円形の含水領域10a’、第2層12の円形の含水領域10b’および第3層13の円形の含水領域10c’の各直径部分を含む断面構造図)。外壁10の表面の温度は、曲線34に示すとおり、含水領域10c’に対応する領域(21度)から離れるにつれて上昇し、含水領域10b’を画する円周近辺に対応する一定領域で21.3度となり(表面温度が殆ど平坦な第1の温度領域34x)、また含水領域10c’を画する円周近辺に対応する一定領域で21.6度となる(表面温度が殆ど平坦な第2の温度領域34y)。
【0014】
ここで、第1の温度領域34xが現れる理由は、第2層12の含水領域10b’を画する円周近辺の領域では、含水領域10c’から離れているために、含水領域10c’の影響を受け難くなると考えられ、第2の温度領域34yが現れる理由も、同様に考えることができる。すなわち温度が平坦な領域の数Nに1を加えた数が、含水している層の数となる。また曲線34には、図5(a)の場合と同様に、非連続点34aおよび34bが現れる。
(第2層が含水している場合の検査について)
次に、本発明にかかる含水検査方法を、第2層が含水している場合(図4(b)の場合)を例に説明する。図6は、外壁10の表面温度分布曲線32をより詳細に示すとともに、温度対色相(信号レベル対色相)の5種類の対応関係をスケールS1ないし5で示したものである。図6では、外壁10の表面温度は、第2層12の含水領域10b(21度)から離れた非含水領域において21.9ないし22度となっている。かかる外壁10の表面温度分布を映像表示画面4に表示すると、図7に示す画像40となる。画像40において、表面温度が21.1度ないし21.5度の部分の直径をグラフに示すと図8のとおりとなり(表面温度が21.1度の部分の直径をd1、21.2度の部分の直径をd2、21.3度の部分の直径をd3、21.4度の部分の直径をd4、21.5度の部分の直径をd5とする(図6))、直径の変化の仕方は、21.3度において非連続となる(非連続点32aが存する)。
【0015】
ここで先ず、図6のスケールS1に示すように、低信号レベル側(例えば、21度に対応する信号レベルより若干低い信号レベル)を青色B(第1の色相)に対応させるとともに、高信号レベル側(例えば、22度に対応する信号レベルより若干高い信号レベル)を赤色R(第2の色相)に対応させる。こうすることで、外壁10の表面温度分布を画像40として表示する際に、温度の上昇を青色Bから赤色Rへの連続的なスペクトル変化(色相の変化)として表示する。
【0016】
次に、画像40において、第1の色相に近い色相(青色Bのスペクトルに近い色相)を有する第1の領域41と、第2の色相に近い色相(赤色Rのスペクトルに近い色相)を有する第2の領域42を、目視にて検知する。外壁10の周囲温度が上昇しているときには、若しくは周囲温度の変化が少ないときには、外壁10の表面温度は、含水領域10bに対応する領域において、非含水領域に対応する領域に比べて低くなるから、第2の領域42が非含水領域に対応し、第1の領域41が含水領域10bに対応すると判断できる。ここで、第1の領域41と第2の領域42の間の領域を境界領域43とすると、境界領域43の表面温度は、21度から、21.9ないし22度の間の温度となって、信号レベル対色相の関係がスケールS1で示されるときには、第1の領域41から第2の領域42へ向けて、色相が、例えばシアンCyがった青色Bから、赤色Rがかった黄色Yへと変化する。
【0017】
次に、青色B(第1の色相)に対応する信号レベルを上げるか、赤色R(第2の色相)に対する信号レベルを下げるか、または青色Bに対応する信号レベルを上げるとともに、赤色Rに対する信号レベルを下げるなどして(図6)、さらに信号レベル対色相の関係を調整して、境界領域43における色相を変化させる。すると、信号レベル対色相の関係は、例えば、スケールS2のようになって、画面40に表示される色相が変化するとともに、境界領域43における僅かな温度の相違が色相の変化として検知しやすくなる。
【0018】
図9は、上述した信号レベル対色相の調整によって、特定の色相を有する領域の面積が変化する様子の例を示したものである。例えばスケールS2(図6)では、青色Bが21度に対応するから、画面40上の第1の領域41(この場合は含水領域)が青色Bとなる。また黄色Yが、図6中、非連続点32aより僅かに下(21.3度より僅かに低い温度)に対応する。従って、境界領域43では、図9(a)における円bの内部が青色Bとなり、円bから円cyにかけて、青色BからシアンCyへと変化し、円cyと円gとの間では、シアンCyから緑色Gへと変化し、そして円gと円yとの間では、緑色Gから黄色Yへと変化することになる(隣接する円同士の直径の差は、図9(a)において外側に位置する円ほど増加する)。
【0019】
次に信号レベル対色相の関係をスケールS2からスケールS3へと連続的に変化させる。すると青色Bに対応する温度は21度から21.1度へと、シアンCyに対応する温度は21.1度から21.2度へと、緑色Gに対応する温度は21.2度から21.3度より極僅かに低い温度(非連続点32aの極僅か下に対応する温度)へと、黄色Yに対応する温度は非連続点32aに対応する温度(21.3度)を越えて21.4度へと、それぞれ連続的に変化する。かくして円cyの直径はd1からd2へと、円gの直径はd2からd3へと、円yの直径はd3からd4へと変化する(スケールS3における画像40の境界領域43を図9(b)に示す)。ここで、図8に示すとおり、(d2−d1)より(d3−d2)が大きく、また(d4−d3)より(d5−d4)が大きいが、(d4−d3)は(d3−d2)より小さいため、非連続点32aを越えないで変化する円b、円cyおよび円gの直径の変化の仕方に非連続な変化が生じることはないが、非連続点32aを越えて変化する黄色Yに対応する円yの直径については、変化の仕方に非連続な変化が生じることになる。この非連続な変化とは、例えば図8及び図9(b)に示すとおり、円cyと円bの直径の差(d2−d1)と、円gと円cyの直径の差(d3−d2)とを対比すると、後者の差が大きいが、円gと円cyの直径の差(d3−d2)と、円yと円gの直径の差(d4−d3)とを対比すると、後者の差が小さくなることをいう。
【0020】
次に信号レベル対色相の関係をスケールS3からスケールS4へと連続的に変化させる。すると青色Bに対応する温度は21.1度から21.2度へと、シアンCyに対応する温度は21.2度から21.3度より極僅かに低い温度(非連続点32aの極僅か下に対応する温度)へと、緑色Gに対応する温度は非連続点32aに対応する温度(21.3度)を越えて21.4度へと、黄色Yに対応する温度は21.4から21.5度へと、それぞれ連続的に変化する。かくして円cyの直径はd2からd3へと、円gの直径はd3からd4へと、円yの直径はd4からd5へと変化する(スケールS4における画像40の境界領域43を図9(c)に示す)。このとき、非連続点32aを越えて変化する緑色Gに対応する円gの直径については、変化の仕方に非連続な変化が生じることになる。
【0021】
次に信号レベル対色相の関係をスケールS4からスケールS5へと連続的に変化させる。このときには、青色Bに対応する温度は21.2度から21.3度より極僅かに低い温度(非連続点32aの極僅か下に対応する温度)へと、シアンCyに対応する温度は非連続点32aに対応する温度(21.3度)を越えて21.4度へと、緑色Gに対応する温度は21.4度から21.5度へと、黄色Yに対応する温度は21.5から21.6度へと、それぞれ連続的に変化する(スケールS5における画像40の境界領域43を図9(d)に示す)。このとき、非連続点32aを越えて変化するシアンCyの円cyの直径については、その変化の仕方に非連続な変化が生じることになる。
【0022】
以上のとおり、黄色Y、緑色G及びシアンCy等に対応する温度が非連続点32aに対応する温度を越えて変化すると、円y、円g及び円cy等の直径の変化の仕方に非連続な変化が生じる。ここで例えば、緑色Gとして認識される色は、あるスペクトル領域内の色であるから、円g(緑色G)は、ある幅を有する円周(領域)として認識されて、直径の変化の仕方の非連続は、緑色Gの領域の面積の非連続な変化の仕方として認識される。また、かかる非連続な変化は、次のように説明することもできる。
【0023】
図6中の曲線32では、非連続点32aの直近下側の傾斜が、非連続点32aの直近上側の傾斜よりも小さくなっている。すると例えば、信号レベル対色相の関係において、緑色Gが非連続点32aの下側近くに設定されているときの(直径がd3よりも僅かに小さいときの)円gと、緑色Gが非連続点32aの上側近くに設定されているときの円gとを対比すると、緑色Gが非連続点32aの上側近くに設定されているときのほうが、円gの円周の幅が小さくなる(緑色Gで画像40に表示される領域の面積が少なくなる)。すなわち、非連続点32aを挟んで、緑色Gの領域の面積は、増加から一旦減少して再び増加するか、減少から一旦増加して再び減少することになる。
【0024】
したがって、信号レベル対色相の関係をスケールS2からスケールS3,4、5と変化させると、非連続点32aの存在に起因して、特定の色相(例えば緑色G)を有する領域の面積を増加から一旦減少へと変化させる信号レベルと色相との関係を検知できる。同様に、信号レベル対色相の関係をスケールS5からスケールS4,3、2と変化させると、特定の色相(例えば緑色G)を有する領域の面積を減少から一旦増加へと変化させる信号レベルと色相との関係を検知できる。
【0025】
かくして、境界領域43において、特定の色相を有する領域の面積を増加から一旦減少へと、又は減少から一旦増加へと変化させる、信号レベル対色相の関係を1個検知できれば、外壁10の第2層12が含水しているときの表面温度分布(図4(b))と判断できる。上記変化を検知できないときには、外壁10の第1層11が含水しているときの表面温度分布(図4(a))と判断でき、上記変化を2回検知できたときには、外壁10の第3層13が含水しているときの表面温度分布(図5(a))と判断できる。
(第1層、第2層および第3層が含水している場合の検査について)
次に、本発明にかかる含水検査方法を、第1層、第2層および第3層が含水している場合(図5(b)の場合)を例に説明する。図10は、外壁10の表面温度分布曲線34(図5(b))をより詳細に示すとともに、温度対色相の5種類の対応関係をスケールS1、S2、S3、S4’およびS5’で示したものである。ここで、外壁10の表面温度は、第1層11の含水領域10a’に対応する領域において21.6度であり、第2層12の含水領域10b’に対応する領域において21.3度であり、第3層13の含水領域10c’に対応する領域において21度であり、そして含水領域10a’から離れるにつれて上昇し、21.9ないし22度となる。かかる外壁10の表面温度分布の画像を映像表示画面4に表示すると、図7に示す画像40のようになる。
【0026】
ここで、前述した含水検査と同様に、温度と色相の対応関係を変化させる。例えば、スケールS2から、スケールS3へ、更にスケールS4’へと連続的に変化させた場合には、緑色Gに対応する温度は、第1の温度領域34x及び該領域と接して存在する非連続点34aを越えるから、画像40に表示される円gの直径は、図10に示すとおり、21.3度の前後で、d10からd11へと非連続的に大きくなる(緑色Gの領域を画する境界線が非連続に変移する)。また曲線34では、第1の温度領域34xの直近下側の傾斜が、非連続点34aの直近上側の傾斜よりも小さくなっているから、緑色Gを有する領域の面積の変化の仕方が増加から一旦減少へと変化する。温度と色相の対応関係をスケールS4’から、スケールS3へ、更にスケールS2へと連続的に変化させる場合には、画像40に表示される円gの直径が、21.3度の前後で、d11からd10へと非連続的に小さくなり、緑色Gを有する領域の面積の変化の仕方が減少から一旦増加へと変化する。
【0027】
また例えば、温度と色相の対応関係をスケールS3から、スケールS4’へ、更にスケールS5’へと連続的に変化させた場合には、黄色Yに対応する温度は、第2の温度領域34y及び該領域と接して存在する非連続点34bを越えるから、画像40で表示される円yの直径は、21.6度の前後で、d12からd13へと非連続的に大きくなる(黄色Yの領域を画する境界線が非連続に変移する)。また曲線34では、第2の温度領域34yの直近下側の傾斜が、非連続点34bの直近上側の傾斜よりも小さくなっているから、黄色Yを有する領域の面積の変化の仕方が増加から一旦減少へと変化する。ここで、温度と色相の対応関係をスケールS5’から、スケールS4’へ、更にスケールS3へと連続的に変化させる場合には、円yの直径が、21.6度の前後で、d13からd12と非連続的に小さくなり、黄色Yを有する領域の面積の変化の仕方が減少から一旦増加へと変化する。
【0028】
かくして、第1層、第2層および第3層が含水している場合の外壁10の表面温度分布(図5(b))と判断することができる。また特定の色相の領域を画する境界線の非連続な変移を検知できないときには、外壁10を構成する単一の層が含水していると判断することができ、特定の色相の領域を画する境界線を非連続に変移させる信号レベル対色相の関係を、1個検知できたときには、外壁10を構成する2つの層が含水していると判断することができる。
【0029】
以上、壁部の周囲温度が上昇しているとき、若しくは壁部の周囲温度の変化が少ないときにおける壁部の温度分布の例(図4および図5中、各曲線が下に凸)と、含水領域の関係について説明したが、壁部の周囲温度が低下している場合においては、壁部の含水領域は、含水していない領域に比べて比熱が大きいため、温度低下が遅れて、非含水領域よりも、相対的に高い温度となる。したがって、温度分布を示す曲線31,32,33および34は、含水領域に対応する部分で高い温度となり(図4および図5に示すとすれば、上に凸な曲線となり)含水領域から離れるにつれて、低い温度となる。この場合にも、同様にして、外壁を構成するいずれの層が含水しているのかを判断することができ、また含水している層の数を判断できる。
【0030】
なお境界領域は、厳密にいえば、含水領域ではない場合もあるが、境界領域は、含水領域と非含水領域との間に存して、含水領域に比して狭い面積を有するにすぎないから、非含水領域を判断して、それ以外の領域、つまり境界領域を含む領域を含水領域と判断することについて、実用上の問題が生じることはない。
また赤外線カメラで撮影した壁部の映像を録画して、撮影現場と異なる場所において再生した映像を含水検査装置に入力して、建物の壁部の含水を検査することもできる。このように、本発明は、上述した実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る建物の壁部の含水検査方法を実施するための、検査装置等の概略構成例を示す図である。
【図2】建物の外壁の断面構造例を示す図である。
【図3】屋根の断面構造例を示す図である。
【図4】3層構造の壁部の含水の例と表面温度分布の例を示す図であり、(a)は第1層が含水した例、(b)は第2層が含水した例を示す図である。
【図5】3層構造の壁部の含水の例と表面温度分布の例を示す図であり、(a)は第3層が含水した例、(b)は第1,2および3層が含水した例を示す図である。
【図6】図4(b)における断面の温度分布曲線をより詳細に示すとともに、温度と色相の対応関係を示す図である。
【図7】図4(b)に示す含水状態の壁面の表面温度分布の画像例を示す図である。
【図8】図7に画像として表示された境界領域の直径と外壁表面温度との関係を示すグラフである。
【図9】図7の画像の境界領域における特定の色相を有する領域の面積が、信号レベル対色相の調整によって、変化する様子の例を示す図である。
【図10】図5(b)における断面の温度分布曲線をより詳細に示すとともに、温度と色相の対応関係を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 外壁(壁部)
11 第1層(外壁パネル)
12 第2層(断熱材)
13 第3層(室内パネル)
31、32、33、34 曲線(温度分布曲線)
32a、33a、33b、34a、34b (温度分布曲線の)非連続点
34x 第1の温度領域
34y 第2の温度領域
40 画像
41 第1の領域
42 第2の領域
43 境界領域
S1、S2、S3、S4、S5 スケール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の壁部の表面温度に対応した信号レベルを有する映像信号から、前記信号レベルに対応して色相が変化する色信号を生成し、この色信号の画像を映像表示画面で表示して、前記建物の壁部の表面温度分布を色の分布として表示する建物の壁部の含水検査方法において、
前記映像信号の低信号レベル側に対応する第1の色相、および高信号レベル側に対応する第2の色相をそれぞれ設定し、
次に、前記画像に表示された前記建物の壁部の領域において、前記第1の色相に最も近い色相を有する第1の領域と、前記第2の色相に最も近い色相を有する第2の領域を検知し、前記第1の領域と前記第2の領域との間の領域を境界領域とし、
次に、前記第1の色相に対応する信号レベルと、前記第2の色相に対する信号レベルとの何れか一方または双方を調整して、前記信号レベル対前記色相の変化量を増加させ、
次に、前記信号レベルと色相との対応関係を調整し、前記画面に表示される色相を変化させて、前記境界領域において特定の色相の領域の面積を、非連続に変化させる前記信号レベルと色相との対応関係の有無を検知し、かかる対応関係をN個検知できたときには、前記建物の壁部の表面を第1層目として、第N+1番目の層が含水していると判断し、前記対応関係を検知できないときには、前記建物の壁部の表面の層が含水していると判断することを特徴とする建物の壁部の含水検査方法。
【請求項2】
建物の壁部の表面温度に対応した信号レベルを有する映像信号から、前記信号レベルに対応して色相が変化する色信号を生成し、この色信号の画像を映像表示画面で表示して、前記建物の壁部の表面温度分布を色の分布として表示する建物の壁部の含水検査方法において、
前記映像信号の低信号レベル側に対応する第1の色相、および高信号レベル側に対応する第2の色相をそれぞれ設定し、
次に、前記画像に表示された前記建物の壁部の領域において、前記第1の色相に最も近い色相を有する第1の領域と、前記第2の色相に最も近い色相を有する第2の領域を検知し、前記第1の領域と前記第2の領域との間の領域を境界領域とし、
次に、前記第1の色相に対応する信号レベルと、前記第2の色相に対する信号レベルとの何れか一方または双方を調整して、前記信号レベル対前記色相の変化量を増加させ、
次に、前記信号レベルと色相との対応関係を調整し、前記画面に表示される色相を変化させて、前記境界領域において特定の色相の領域を画する境界線を、非連続に変移させる前記信号レベルと色相との対応関係の有無を検知し、かかる対応関係をN個検知できたときには、前記建物の壁部を構成する複数の層のうち、含水している層の数をN+1と判断し、前記対応関係を検知できないときには、含水している層は1つであると判断することを特徴とする建物の壁部の含水検査方法。
【請求項3】
前記建物の壁部の周囲温度が上昇しているときには、若しくは周囲温度の変化が少ないときには、前記第2の領域の色相が非含水領域を表示すると判断することを特徴とする請求項1または2に記載の建物の壁部の含水検査方法。
【請求項4】
前記建物の壁部の周囲温度が低下しているときには、前記第1の領域の色相が非含水領域を表示すると判断することを特徴とする請求項1または2に記載の建物の壁部の含水検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−327888(P2007−327888A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160171(P2006−160171)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(503341996)エバー株式会社 (36)
【出願人】(506197635)株式会社SHSプランニング (1)
【出願人】(506197565)
【Fターム(参考)】