説明

建物の壁

【課題】建物の壁に充填したセルローズファイバーの経時的沈下現象の改善を容易で安価かつ効果的に実現した方法を提供する。
【解決手段】建物の壁の屋外側から屋内側に向かう方向に、壁材5a、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造1、セルローズファイバー4、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造2、任意の被覆部材5bの順に配置され、セルローズファイバー4が、2つの多孔構造1、2により挟持されているものであり、セルローズファイバー4の経時的沈下現象の改善を簡単に行え、また建物の壁の表側と裏側へつながる仕切り板が存在せず建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率がほとんど変わらず、設計通りの断熱性能を持った建物の壁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルローズファイバーを充填した建物の壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境負荷を抑えるために、建物の省エネルギー化は重要な課題であり、世界的にもその認識が顕著となっている。
【0003】
建物の外皮に高性能の断熱材を十分な厚みで隙間なく充填することで断熱性能を上げ、屋外からの侵入熱量を低減することで、建物の省エネルギー化をはかることができる。
【0004】
建物の壁は、高さが2.4メートル〜2.7メートルのものが主流である。
【0005】
充填する断熱材のうち、日本工業規格のJIS A9525(吹込み用セルローズファイバー断熱材)に規定されているセルローズファイバーは、新聞やダンボールなどの古紙を原料とするため製造時および廃棄時の省エネルギー性において優れ、、粗砕後解繊機を通した綿状のもので、繊維自体に無数の空気胞を持つと共に、絡み合った繊維間にも空気を抱えることから優れた断熱性能・吸音性能を持つ。建築用に利用されている断熱材のうちセルローズファイバーはアメリカではシェア30%を占める。

従来、断熱材として建築用に利用されているセルローズファイバーは建物の天井裏や壁に直接吹き積もらせて堆積物を形成する乾式の吹込み工法(ブローイング法)が主流である。しかし、上記吹込み工法によるセルローズファイバーの堆積物には、セットル・ダウンと称する経時的沈下現象があり、最終的に施工時より15〜20%沈下するとされている。特に建物の壁を垂直にした状態でセルローズファイバーを乾式吹込みした場合、建物の壁上枠部とセルローズファイバー上部の間に隙間が生じ、断熱性能、防音性能に大きなダメージを与える上、隙間箇所において結露が起こりカビ発生の原因となる。

この課題の改善策として、特許文献1、特許文献2、特許文献3のように、あらかじめ内部に格子状や短冊状の仕切り材を設け多孔構造を作り多孔構造の空隙部にセルローズファイバーを充填し経時的沈下現象を改善する方法では、多孔構造の奥行きが省エネルギー住宅の建物の壁の場合一般的に100mm以上となり、セルローズファイバーの沈下を防止できる多孔構造の空隙部の高さおよび幅をそれぞれ100mmとすると空隙部の奥まで隙間なく乾式吹込みすることが難しく手間がかかるため製造費用が高くなり、また建物の壁の表側と裏側が仕切り板によってつながることで熱橋となり建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率が上がり建物の壁の断熱性能が低下する点から十分な改善策とは言えない。

また特許文献2や4のようにセルローズファイバーを袋状物や箱状物に詰めたものを建物の壁にとりつける方法では、目視においては隙間なくとりつけられたようでもサーモグラフィーを使って温度分布を調査すると袋状物や箱状物同士の間から熱が逃げやすいことが知見されており、隙間なく施工できるというセルローズファイバーの長所を殺すことになるためセルローズファイバーにおいてはほとんど用いられていない。


【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−316372号公報
【特許文献2】特開2003−105887号公報
【特許文献3】特開2004−293257号公報
【特許文献4】特開2002−250088号公報
【特許文献5】特開2011−21321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、建物の壁にセルローズファイバーを乾式吹込みする場合に起こるセルローズファイバーの経時的沈下現象を改善する従来の方法は難しく手間がかかるため製造費用が高い点、また熱橋の増加により断熱性能の低下につながる点である。

【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の建物の壁は、屋外側から屋内側に向かう方向に、壁材5a、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造1、セルローズファイバー4、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造2、任意の被覆部材5bの順に配置され、前記セルローズファイバー4が、前記2つの多孔構造1、2により挟持されているものである。

従来の方法では、セルローズファイバー4の経時的沈下現象を改善しようとすると難しく手間がかかるため製造費用が高かったが、本工法により簡単に製造できるため、製造費用が安く、断熱性に優れた建物の壁を提供することが可能となる。

また従来のあらかじめ内部に格子状や短冊状の仕切り材を設け空隙部にセルローズファイバーを充填する方法では、建物の壁の表側と裏側が仕切り板によってつながることで熱橋となり建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率が上がり建物の壁の断熱性能が低下するが、本工法では建物の壁の表側と裏側へつながる仕切り板が存在せず建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率がほとんど変わらないため、設計通りの断熱性能を持った建物の壁を提供することが可能となる。

【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は以下の通りである。
(1)従来の方法では、セルローズファイバーの経時的沈下現象を改善しようとすると難しく手間がかかるため製造費用が高かったが、本工法により簡単に製造できるため、製造費用が安く、断熱性に優れた建物の壁を提供することが可能となる。

(2)また従来のあらかじめ内部に格子状や短冊状の仕切り材を設け空隙部にセルローズファイバーを充填する方法では、建物の壁の表側と裏側が仕切り板によってつながることで熱橋となり建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率が上がり建物の壁の断熱性能が低下するが、本工法では建物の壁の表側と裏側へつながる仕切り板が存在せず建物の壁の表側から裏側と裏側から表側への熱伝導率がほとんど変わらないため、設計通りの断熱性能を持った建物の壁を提供することが可能となる。

【発明を実施するための形態】
【0010】
(イ)建物の壁を建物に取り付ける前に、建物の壁の表側または裏側のいずれかを開けた状態で、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造1を、その外周の上部1a及び下部1c、両側部1bを建物の壁本体3内部の奥側の天板部3aや底板部3c、両側板部3bに係止する。
(ロ)建物の壁を水平方向に寝かせた状態で、建物の壁内部にあます所なくセルローズファイバー4を充填する。このときセルローズファイバー4は前記多孔構造1の収容セルの空隙部にも充填される。
(ハ)充填したセルローズファイバー4に新たな多孔構造2を被せ押し込むことで新たな多孔構造2の収容セルの空隙部にもセルローズファイバー4が充填される。
(ニ)新たな多孔構造2の外周の上部2a及び下部2c、両側部2bを建物の壁本体3内部の手前側の天板部3aや底板部3c、両側板部3bに固定する。
(ホ)任意の被覆部材5bで建物の壁に蓋をする。
(ヘ)セルローズファイバー4が経時的沈下現象によって沈下しようとする力は、セルローズファイバー4を挟持する前記2つの多孔構造のひっかかりによって防がれる。

(1)上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造1、2は、紙よりなるものが使いやすく、断熱性能や、製造時、廃棄時の省エネルギーの観点からも好ましい。(2)前記多孔構造1、2の収容セルの形状は四角形、六角形が好ましい。(3)前記多孔構造1、2は、セルローズファイバー4の乾式吹込みにおいてセルローズファイバー4の自重に耐える強度でなければならない。(4)前記多孔構造1、2は、建物の壁本体3内部の屋外から屋内方向への奥行きの3分の1以下の厚みであることが好ましい。(5)前記多孔構造1、2の建物の壁本体3内部の手前側の天板部3aや底板部3c、両側板部3bへの係止方法は、建築に多用されているタッカーを使用してその外周の上部1a、2a及び下部1c、2c、両側部1b、2bを建物の壁本体3内部の奥側の天板部3aや底板部3c、両側板部3bに固定するのが製造面で好ましい。(6)セルローズファイバー4の乾式吹込みは、前記多孔構造1、2の収容セルの空隙部に隙間なく充填するために、建物の壁を水平方向に寝かせた状態で行うのが最も好ましい。(7)任意の被覆部材5bは、建築に多用されている合板やOSBやMDFやセルローズファイバー用の不織布など、少なくともセルローズファイバー4の自重に耐える強度を持つものでなければならない。(8)前記セルローズファイバー4は全て断熱性のある綿状物と入れ替えることができる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る壁の分解斜視図
【図2】本発明に係る壁の断面図
【符号の説明】
【0012】
1 :上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造
1a:1の外周の上部
1b:1の外周の左右部
1c:1の外周の下部
2 :上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造
2a:2の外周の上部
2b:2の外周の左右部
2c:2の外周の下部
3 :建物の壁本体
3a:3の内部の天板部
3b:3の内部の側板部
3c:3の内部の底板部
4 :セルローズファイバー
5 :任意の被覆部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外側から屋内側に向かう方向に、壁材5a、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造1、セルローズファイバー4、上下方向及び幅方向に多段に区画された多数の中空筒状の収容セルの集合体からなる厚みが薄く収容セル壁の薄い多孔構造2、任意の被覆部材5bの順に配置され、前記セルローズファイバー4が、前記2つの多孔構造1、2により挟持された建物の壁。

【請求項2】
前記2つの多孔構造1、2は、お互いに接しないことを特徴とする請求項1に記載の建物の壁。

【請求項3】
前記多孔構造1、2は、紙からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の建物の壁。

【請求項4】
前記多孔構造1、2に含まれる収容セルは、それぞれが50mm〜200mmの高さおよび幅を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の建物の壁。


【図1】
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【図2】
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