説明

建物の点検システム

【課題】建物の劣化状態を容易に点検することができると共に、低コスト化を図ることができる建物の点検システムを得る。
【解決手段】本建物の点検システムでは、建物12の小屋裏空間14内には、点検口22から小屋裏空間14内へ進入した点検者又はロボットが通行するための点検路24が予め設定されている。この点検路24は、単に点検者又はロボット54が通行可能なものであればよいため、低コストで設定することができる。しかも、この点検システムでは、点検者又はロボットが点検路24を通行する際に、小屋裏空間14内を撮像するための撮像装置と、撮像装置によって撮像された画像と建物12の新築時の撮像画像とを比較して建物12の劣化状態を判断する制御装置とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の劣化状態を点検するための点検システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示された点検装置及び点検方法では、建物の床下空間や小屋裏空間にレールを取り付けて点検走行体の走行経路を形成している。点検走行体は、走行中にICタグから撮像指令を読み取って赤外線カメラにより基礎表面などの画像を撮像する。これにより、撮像された画像から建物の劣化状態等を点検することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−056505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成の点検装置及び点検方法では、建物の床下空間や小屋裏空間に予めレールを設置しなければならないため、コストが高くなってしまう。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、建物の劣化状態を容易に点検することができると共に、低コスト化を図ることができる建物の点検システムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る建物の点検システムは、非居住空間及び前記非居住空間内へ点検者又はロボットが進入するための点検口が設けられると共に、前記非居住空間内へ進入した点検者又はロボットが通行するための点検路が予め前記非居住空間内に設定された建物と、前記点検者又は前記ロボットが前記点検路を通行する際に、前記非居住空間内を撮像するための撮像装置と、前記建物の新築時に撮像された前記非居住空間内の画像を記憶する記憶部、前記記憶部によって記憶された画像と前記撮像装置によって撮像された画像とに基づいて前記非居住空間内における前記建物の劣化状態を判断する判断部、及び前記判断部の判断結果を表示する表示部を有する制御装置と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の建物の点検システムでは、建物には、非居住空間及びこの非居住空間内へ点検者又はロボットが進入するための点検口が設けられている。さらに、この建物には、非居住空間内へ進入した点検者又はロボットが通行するための点検路が予め設定されている。この点検路は、単に点検者又はロボットが通行可能なものであればよいため、低コストで設定することができる。しかも、この発明では、点検者又はロボットが点検路を通行する際に、非居住空間内を撮像するための撮像装置と、記憶部、判断部及び表示部を有する制御装置とを備えている。判断部は、記憶部に記憶された建物の新築時における非居住空間内の画像と、撮像装置によって撮像された非居住空間内の画像とに基づいて、非居住空間内における建物の劣化状態を判断する。そして、この判断結果が表示部に表示される。これにより、建物の劣化状態を容易に点検することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項1に記載の建物の点検システムにおいて、前記非居住空間は、前記建物に設けられた天井の上側に形成された小屋裏空間であり、前記点検路は、前記天井のうち前記点検者が歩行可能な部位に設けられると共に、前記点検者が前記点検路と前記天井の他の部位とを判別するための判別手段を有することを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の建物の点検システムでは、建物の小屋裏空間内へ進入した点検者は、建物の天井のうち点検者が歩行可能な部位(例えば天井大梁上)に設けられた点検路上を通行(歩行)する。この際、点検者は、点検路に設けられた判別手段によって、点検路と天井の他の部位とを判別することができる。これにより、点検者の安全を確保することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項2に記載の建物の点検システムにおいて、前記判別手段は、前記点検路が呈する色であって前記他の部位が呈する色とは異なる色であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の建物の点検システムでは、建物の天井に設けられた点検路は、天井の他の部位とは異なる色を呈している。これにより、点検者は目視で点検路を判別することができる。このように、点検路の色によって判別手段が構成されるため、判別手段を簡単な構成にすることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項2又は請求項3に記載の建物の点検システムにおいて、前記天井は、天井板と当該天井板の上側に配置された断熱材とを有し、前記判別手段は、前記断熱材に設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の建物の点検システムでは、建物の天井を構成する天井板の上側に断熱材が配置されている。このため、点検者は、天井板を直接目視することができず、天井大梁等の位置を見極めることができないが、断熱材に設けられた判別手段によって点検路(歩行可能な部位)を判別することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項3に記載の建物の点検システムにおいて、前記非居住空間は、前記建物に設けられた天井の上側に形成された小屋裏空間であり、前記点検路は、前記天井に設けられると共に、前記天井には、前記点検路を補強するための天井小梁が設けられていることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載の建物の点検システムでは、建物の小屋裏空間内へ進入した点検者は、建物の天井に設けられた点検路を通行(歩行)する。この点検路は、天井に設けられた天井小梁によって補強されているため、点検者の安全性を確保することができる。また、小屋裏空間内の点検箇所が天井大梁等(点検者が歩行可能な部位)から離れている場合でも、当該点検箇所の近くに天井小梁を設定することにより、当該点検箇所の近くに点検路を設定することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項1に記載の建物の点検システムにおいて、前記非居住空間は、前記建物に設けられた床の下側に形成された床下空間であり、前記点検路は、表面が平滑に形成され、前記床下空間の底に設置された板状部材によって構成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項6に記載の建物の点検システムでは、建物の床下空間へ進入した点検者又はロボットは、床下空間の底に設置された点検路上を通行する。この点検路は、表面が平滑に形成された板状部材によって構成されているため、特に点検者が点検路上を寝転んで移動する場合に、当該点検路上を滑って移動することができ、スムーズな移動が可能になる。
【0018】
請求項7に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項6に記載の建物の点検システムにおいて、前記板状部材は、プラスチックダンボールであることを特徴としている。
【0019】
請求項7に記載の建物の点検システムでは、床下空間の底に設置されたプラスチックダンボールによって点検路が構成されているため、点検路を安価に構成することができる。しかも、床下の白蟻による食害や湿気による腐蝕等に対する点検路の耐久性を確保することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の建物の点検システムにおいて、前記非居住空間内には、前記建物の構造強度を特定するための情報を表示する構造強度特定表示が設けられていることを特徴としている。
【0021】
なお、請求項8に記載の構造強度特定表示は、構造強度そのもの、或いは構造強度を特定するための情報を表示するものであればよく、例えば、建物の部材の種別、断面形状、板厚、接合方法等を表示するものである。また、この構造強度特定表示は、文字表示に限られるものではなく、バーコードや刻印などであってもよい。
【0022】
請求項8に記載の建物の点検システムでは、非居住空間内へ進入した点検者が構造強度特定表示を直接目視することにより、或いは点検者又はロボットが構造強度特定表示を撮像することにより、建物の構造強度を確認することができる。これにより、例えば、建物をリフォームする際の構造計算等を容易なものにすることができる。
【0023】
請求項9に記載の発明に係る建物の点検システムは、請求項1に記載の建物の点検システムにおいて、前記建物は、上下階の間で外壁に着脱自在に取り付けられた化粧胴差しを有することを特徴としている。
【0024】
請求項9に記載の建物の点検システムでは、建物の外壁に化粧胴差しが着脱自在に取り付けられているため、外壁から化粧胴差しを外すことにより、建物の上下階の間の劣化状態等を容易に点検することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、請求項1に記載の発明に係る建物の点検システムでは、建物の劣化状態を容易に点検することができると共に、低コスト化を図ることができる。
【0026】
請求項2に記載の発明に係る建物の点検システムでは、点検者の安全性を確保することができる。
【0027】
請求項3に記載の発明に係る建物の点検システムでは、判別手段を簡単な構成にすることができる。
【0028】
請求項4に記載の発明に係る建物の点検システムでは、天井板の上側に断熱材が配置されている場合でも、点検者が点検路を容易に判別することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明に係る建物の点検システムでは、点検者の安全性を確保することができると共に、小屋裏空間内の点検箇所が天井大梁等から離れている場合でも、当該点検箇所の近くに点検路を設定することができる。
【0030】
請求項6に記載の発明に係る建物の点検システムでは、点検者が点検路上を寝転んで移動する場合に、スムーズな移動が可能になる。
【0031】
請求項7に記載の発明に係る建物の点検システムでは、点検路を安価に構成することができると共に、耐久性を確保することができる。
【0032】
請求項8に記載の発明に係る建物の点検システムでは、建物をリフォームする際の構造計算等を容易なものにすることができる。
【0033】
請求項9に記載の発明に係る建物の点検システムでは、建物の上下階の間の劣化状態状態等を容易に点検することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1実施形態に係る建物の点検システムが適用されて構成された建物の縦断面図である。
【図2】図1に示される建物の小屋裏見下げ図である。
【図3】図2の3−3線に沿った切断面を示す拡大縦断面図である。
【図4】図1に示される建物の床下見下げ図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る建物の点検システムを構成する撮像装置、ロボット、及び制御装置の概略的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図1〜図5を参照して、本発明の実施形態に係る建物の点検システムについて説明する。図1に示されるように、本実施形態に係る建物の点検システムでは、建物12が小屋裏空間14及び床下空間16を備えている。小屋裏空間14は、建物12の2階(ここでは最上階)の天井18の上側に形成されており、床下空間16は、建物12の1階の床20の下側に形成されている。
【0036】
図2に示されるように、建物12の2階の天井18には、点検口22が設けられている。この点検口22は、点検者又はロボット54(図5参照)が小屋裏空間14内へ進入するための点検口であり、建物の2階の部屋に連通している。さらに、この天井18には、小屋裏空間14内へ進入した点検者又はロボット54が通行するための点検路24が予め設定されている(図2では、説明の都合上、点検路24に相当する部分にハッチングが付されている)。
【0037】
点検路24は、天井18の構成部材である天井板26(天井パネル)を支持する天井大梁28の上方、及び天井大梁28間に架け渡された天井小梁30(図2では1本のみ代表して図示)の上方に設定されている。このため、点検路24は、点検者が安全に歩行可能とされており、建物12のメンテナンスを行う際の作業足場としても使用することができる。
【0038】
また、本実施形態では、図3に示されるように、天井板26の上側には、複数の断熱材32が敷き詰められている。これらの断熱材32は、グラスウール等の繊維材34が表皮材36によって覆われたものである。これらの断熱材32のうち点検路24を構成する断熱材32(点検路24に沿って配置された断熱材32)は、表皮材36の色が、他の断熱材32すなわち点検路24以外の部位(他の部位)に配置された断熱材32の表皮材36の色とは異なる色に設定されている。このため、点検者は、表皮材36の色に基づいて目視で点検路24を判別可能とされている。
【0039】
なお、天井18のうち点検路24を設定可能な部位は、天井大梁28上や、天井板26を補強板(バッキング)等で補強した天井小梁と天井小梁の間などの場合が多く、市販されているグラスウールの巾や長さとよく適合する。また、断熱材としては、発泡系の断熱材を適用することもできるが、この場合、点検路24に沿って配置される発泡系断熱材の表面を、天井18の他の部位(点検路24以外の部位)に配置される発泡系断熱材の表面の色とは異なる色に色付けすることにより、点検者が目視で点検路24を判別可能となる。また、天井板26の上側に断熱材が配置されていない場合、天井大梁などの位置を目視で判別できればそれを後述するメンテナンスマニュアル等に明記すればよく、天井板26が補強されている場合はその補強部材を色付けする事で点検者が点検路24を判別可能となる。
【0040】
一方、図1に示される建物12の1階の床20には、点検口38(図4参照)が設けられている。この点検口38は、点検者又はロボット54が床下空間16内へ進入するための点検口であり、建物の1階の部屋に連通している。床下空間16の底は、盛土(建物12が設置された土地の表面よりも数十ミリメートル程度高く盛られた土)によって形成されており、当該盛土の上にはポリエチレンフィルム等からなる防湿シートが施工されている。この防湿シートの上には、点検路40を構成するプラスチック製のダンボール42(以下「プラスチックダンボール42」という)が設置されており、床下空間16内へ進入した点検者又はロボット54は、当該プラスチックダンボール42上を通行可能とされている(図4では、説明の都合上、点検路40(プラスチックダンボール42)に相当する部分にハッチングが付されている)。
【0041】
なお、床下空間16は、点検者が歩行できる程の高さ寸法を備えていないため、点検者はプラスチックダンボール42上を寝そべって移動する必要がある。また、プラスチックダンボール42の設置高さは、建物12の基礎44に設けられたつなぎ基礎44A等に設定されている人通口の下面の高さに合わせておけば、よりスムーズな移動が可能になる。
【0042】
さらに、本実施形態では、上述の小屋裏空間14及び床下空間16には、図2及び図4にクロスハッチングを付した位置に、それぞれ構造強度特定表示が設けられている。これらの構造強度特定表示は、点検路24、40の近傍に配置されており、建物12の構造強度に関する情報(建物12を構成する部材の種別、断面形状、接合方法、板厚等の情報)を表示している。情報の表示方法としては、建物12の部材の表面に刻印された文字表示が採用されているが、これに限るものではない。例えば、部材の表面に貼付された耐久性のあるシールに記載した文字表示や、部材の板厚等に応じた数の孔を当該部材に形成することによる表示などを採用することができる。また、場合によっては部材に板厚測定用の測定孔(ノギス等を挿入するための孔)を当該開けておく事も有効である。
【0043】
さらに、構造強度特定表示の表示内容としては、ユニット工法の建物についてはユニット自体の部材構成・耐力を表示し、耐震壁工法の建物について耐震壁自体の部材構成・耐力を表示しておけばさらに利便性が良い。
【0044】
また、構造強度特定表示の配置としては、ユニット工法の建物については、構造耐力は各ユニットにより決定されるため、複数のユニットの構造強度特定情報を同時に確認できる場所が好ましい。図2及び図4では、建物12がユニット工法により建設された場合の構造強度特定表示の好ましい配置を示している。つまり、この例では、建物12の各階が6つのユニット46によって構成されている。この場合、小屋裏空間14には、図2に示される2箇所(クロスハッチングが付された位置)に構造強度特定表示を配置する。これにより、点検路24から構造強度特定表示を確認できると共に、1箇所につき4つのユニット46の構造強度特定情報を確認することができる。一方、床下空間16は、つなぎ基礎44Aによって分割されているため、図4に示される4箇所(クロスハッチングが付された位置)に構造強度特定表示を配置する。これにより、点検路40から構造強度特定表示を確認できると共に、1箇所につき2つのユニット46の構造強度特定情報を確認することができる。
【0045】
なお、建物12の点検時には、部材の劣化状態などの目視点検は必須であり、通常は劣化の進みやすい床下空間・最上階の小屋裏空間の部材表面の状態(又はメッキ状態)を確認する。よって、目視点検される部位のうち点検路24、40より確認できる位置に構造強度特定表示を配置させることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態では、建物12の1階と2階の間で建物12の外壁48には、化粧胴差し50が着脱自在に取り付けられており、この化粧胴差し50を外壁48から取り外すことにより、建物12の1階と2階の間の劣化状態等を点検することができるようになっている。また、建物12の1階と2階の間には、化粧胴差し50を外壁48から取り外した状態で点検者が確認できる位置に、建物12の1階と2階の間の部材の構造強度を特定するための図示しない構造強度特定表示が設けられている。
【0047】
また、本実施形態では、建物12のメンテナンスマニュアル(又は履歴管理ブック)に、上述した点検路24、40及び構造強度特定表示の配置や、建物12の点検方法が記載されている。
【0048】
次に、本実施形態に係る建物の点検システムを構成する撮像装置52及び制御装置56について説明する。
【0049】
図5に示されるように、本実施形態に係る撮像装置52は、例えば赤外線カメラであり、ロボット54に搭載されたもの、又は点検者が携行可能なものが適用される。なお、ロボット54としては、例えばクローラを駆動することにより走行するタイプのものが適用されるが、これに限らず、他の種類のロボットを適用してもよい。
【0050】
一方、制御装置56は、装置本体としてのパソコン58と、このパソコンに接続されたディスプレイ60(表示部)と、ロボット54を遠隔操作するためのコントローラ62と、通信機64とを備えている。通信機64は、ロボット54に設けられた通信機66、及び撮像装置52に設けられた通信機68との間で無線により通信を行う構成になっている。なお、ロボット54を用いない場合には、点検者が撮像装置52を持ち歩いて画像を撮像する構成になる。
【0051】
パソコン58は、コントローラ62の操作に応じてロボット54の作動を制御するロボット制御部70と、ロボット54に搭載された撮像装置52の作動を制御する撮像装置制御部72と、撮像装置52によって撮像された画像に画像処理を施し、色差、グレア、スペクトル等を解析する画像処理部74と、建物12に関する各種のデータ(建物12の新築時及び各点検時のデータ、建物12の新築時及び各点検時における小屋裏空間14内の撮像画像、建物12の新築時及び各点検時における床下空間16内の撮像画像、前記各撮像画像の画像処理結果、撮像年月日及び撮像時刻、撮像時の天候など)を記憶した記憶部76と、記憶部76が記憶した画像と画像処理部74によって画像処理された画像とを比較して、建物12の劣化状態を判断(定量化)する判断部78とを備えている。また、ディスプレイ60には、撮像装置52によって撮像された画像が表示されると共に、判断部78の判断結果(劣化診断結果)やパソコン58による処理の概要などが表示されるようになっている。
【0052】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0053】
本実施形態では、建物12の小屋裏空間14内には、点検口22から小屋裏空間14内へ進入した点検者又はロボット54が通行するための点検路24が予め設定されている。また、建物12の床下空間16内には、点検口38から床下空間16内へ進入した点検者又はロボット54が通行するための点検路40が予め設定されている。これらの点検路24、40は、単に点検者又はロボット54が通行可能なものであればよいため、低コストで設定することができる。また、点検路24、40が予め設定されていることにより、点検作業やメンテナンスの作業性を大幅に向上させることができると共に、点検精度を向上させることができる。
【0054】
しかも、本実施形態では、点検者又はロボット54が点検路24、40を通行する際に、小屋裏空間14内又は床下空間16内を撮像するための撮像装置52と、パソコン58及びディスプレイ60等を備えた制御装置56とを備えている。パソコン58では、撮像装置52によって撮像された画像が画像処理部74によって画像処理されると共に、判断部78が記憶部76に記憶された建物12の新築時の撮像画像と、画像処理部74によって画像処理された画像とを比較して、建物12の劣化状態を判断する。そして、この判断部78の判断結果がディスプレイ60に表示される。これにより、建物12の劣化状態を容易に点検することができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、小屋裏空間14内へ進入した点検者は、天井18のうち点検者が歩行可能な部位(ここでは天井大梁28上及び天井小梁30上)に設けられた点検路24上を歩行する。この際、点検者は、点検路24が呈する色に基づいて、点検路24と天井18の他の部位とを判別することができる。これにより、点検者が天井板26を踏み抜くことを防止できるので、点検者の安全を確保することができる。しかも、点検路24の色によって判別手段が構成されるため、判別手段を簡単な構成にすることができる。またしかも、天井板26の上側に敷き詰められた断熱材32の表皮材36の色が、点検路24と天井18の他の部位とで変えられた構成である。このため、点検者が天井板26を直接目視することができず、天井大梁28等の位置を見極めることができなくても、断熱材32の表皮材36の色によって点検路24(歩行可能な部位)を判別することができる。
【0056】
また、本実施形態では、天井小梁30によって補強された点検路24を備えており、当該点検路24においても点検者の安全を確保することができる。また、小屋裏空間14内の点検箇所が天井大梁28等から離れている場合でも、当該点検箇所の近くに天井小梁30を設定することにより、当該点検箇所の近くに点検路を設定することができる。
【0057】
また、本実施形態では、建物12の床下空間16内へ進入した点検者又はロボット54は、床下空間16の底(盛土)に設置された点検路40上を通行する。この点検路40は、表面が平滑なプラスチックダンボール42によって構成されているため、特に点検者が点検路40上を寝転んで移動する場合に、当該点検路40上を滑って移動することができ、スムーズな移動が可能になる。
【0058】
つまり、床下空間16は点検者が寝転がって移動できる程度の高さしかなく、かつ基礎の地盤面からの突出等があるため、通常は点検者がスムーズに移動ができない。また、単に移動に手間がかかるだけでなく、盛土面を乱したり防湿シートを損傷させる懸念があるが、本実施形態では、点検路40がプラスチックダンボール42によって構成されているため、プラスチックダンボール42の適度な面剛性と表面の滑り易さから点検者はプラスチックダンボール42に沿って滑っての移動が可能となる。これにより、点検作業やメンテナンスの作業性を大幅に向上させることができると共に、点検精度を向上させることができる。しかも、プラスチックダンボール42によって点検路40が構成されているため、点検路40を安価に構成することができると共に、床下の白蟻による食害や湿気による腐蝕等に対する点検路40の耐久性を確保することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、建物12の小屋裏空間14内及び床下空間16内に、建物12の構造強度を特定するための情報を表示する構造強度特定表示が設けられている。このため、小屋裏空間14内又は床下空間16内へ進入した点検者が構造強度特定表示を直接目視することにより、或いは点検者又はロボット54が構造強度特定表示を撮像することにより、建物12の構造強度を容易に確認することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、建物12の外壁48に化粧胴差し50が着脱自在に取り付けられているため、外壁48から化粧胴差し50を外すことにより、建物12の1階と2階の間の劣化状態等を容易に点検することができる。また、建物12の1階と2階の間には、化粧胴差し50を外壁48から取り外した状態で点検者が確認できる位置に、建物12の1階と2階の間の部材の構造強度を特定するための構造強度特定表示が設けられているため、当該部材の構造強度を容易に確認することができる。これにより、建物12の点検、メンテナンス、リフォーム等に関する従来の問題点を解消することができる。
【0061】
つまり、時代と共に人の住まい方が変化しそれに従い建物の外装材・内装材・設備機器等も変化してきている。一方、建物の構造は高耐久性が促進され、建物の構造部分についてはこれらの変化への対応力が要求されるが、昨今の建物は高耐久化に加え高耐震化(品質確保の促進法 構造の安全性 等級3など)も進んでおり、構造耐久力に影響する住まい方の変化にも追従可能な場合が多い。例えば、太陽光発電を屋根に置けば建物の重量がアップし、玄関土間を増やし子供の自転車を置けるようにすれば床梁の耐力が低下し、外壁を流行の柄にすれば建物重量がアップするが、建物の構造性能には十分に余裕がある。このため、余裕度の低下はあるものの危険となるケースをほとんどなく、リフォーム後も安全に住み続ける事が可能と推測できる。
【0062】
しかし、建物の構造性能は十分と推測されてもそれを証明する為には変更後の建物耐力と建物重量から建物が受ける外力に対し構造計算により安全性確認を行う必要がある。この時、建物耐力については建設時の設計図書により使用部材の種別・断面形状・板厚等の情報を基に実際に使用している部材との照合を行い建物耐力を算出するが、部材断面や板厚・接合方法等の確認には手間取るケースがある。特に角型鋼管など、部材の断面が部材の外側に現れていない場合は板厚を測定できない。また、材種の違いによる材料強度については目視での確認はできず、使われている部材の一部を切り出して引張り試験等を行わなければ確認できない場合があり、煩雑である。
【0063】
この点、本実施形態では、構造強度特定表示を点検路24、40から確認することにより、建物12の構造強度を簡単に確認することができるため、上述の如き設計図書の確認や実物の検証作業を減らすことができると共に、構造計算の精度を向上させることができる。
【0064】
なお、構造強度特性表示の配置としては、上述した以外にも、最上階以外に設けられる天井点検口、壁面に設けられる設備点検口などより確認できる部位でも同様な効果が発揮できる。また、建物に設けられたダウンライトや天井埋め込み照明などを予め取り外しできるように設計しておくことも有効である。これにより、天井面及び上階の床面の劣化状態を容易に確認可能となる。また、ユニット構造の建物の場合の4本柱部の柱間の隙間を確認できるように設計しておくことも有効である。4本柱部の柱間の隙間の広さにもよるが小屋裏階からその下階、床下階からはその上階の確認が可能になる。但しこの場合、階間部で4本の柱を接合するプレートに確認用の孔を形成するなど、プレートの形状設計に工夫が必要である。
【0065】
また、本実施形態では、建物のメンテナンスマニュアル又は履歴管理ブックに、上述した点検路24、40及び構造強度特定表示の配置や、建物12の点検方法などの情報が記載されるため、建物12のユーザがこれらの情報を自由に活用することができる。つまり、建物のメーカー主体の仕組みでは、建物をメンテナンスする際に、メーカーを通して施工しなければならず、自由に市場部材が使用できない等の不利益が生じる恐れがある。この点、本実施形態では、点検路24、40や点検方法等がメンテナンスマニュアル等に明記される事により、メーカー以外の工務店等が建物のメンテナンスなどを行う場合でも、点検精度の安定・向上が図れると共に確認作業性も向上できる。なお、上記メンテナンスマニュアル等に記載される情報を、建築メーカーのホームページに公表したり、初めから設計図書に記載しておく等の方法も有効である。
【0066】
また、構造強度特定表示の副次的な効果としては、(1)点検・調査自体の精度が向上する、(2)点検調査工数が低減できる、(3)フレームに直接構造耐力性能が記載されることにより、中古住宅としての信頼性が向上する、(4)ユニット住宅においては、ユニット再利用時にユニット耐力の信頼性が向上する、(5)壁式構造住宅においても耐力壁再利用時にその耐力の信頼性が向上する、などの効果がある。
【0067】
以上説明したように、本実施形態では、建物構造躯体の長寿命化が促進され、建物の点検・メンテナンス、建物調査の回数増加が予想される中、予め点検・メンテナンス等がやり易いよう配慮された建物を提供することができる。また、定期的な点検・メンテナンス以外にも、年次をおって変化する。住まい方・建物外観・必需建築設備の変更に伴うリフォーム対応のため、その都度点検・メンテナンス・建物調査が必要となるが、これらの効率を大幅に向上させることができる。
【0068】
なお、上記実施形態では、構造強度特定表示が、建物12を構成する部材の種別、断面形状、接合方法、板厚等の情報を表示する構成としたが、請求項8に係る発明はこれに限らず、構造強度特定表示は、最低限部材の板厚を表示したものであればよい。
【0069】
また、上記実施形態では、床下空間16内の点検路40がプラスチックダンボール42によって構成された場合について説明したが、請求項6に係る発明はこれに限らず、他の種類の板状部材によって点検路40を構成してもよい。また、請求項1に係る発明では、点検路は板状部材に限られない。例えば、床下空間内に防湿コンクリート等を施工することにより点検路を形成する構成にしてもよい。この場合はコンクリート面の摩擦により直接その上を人が滑って移動する事はできないが、ベアリング組込み作業板あるいはコロ付き板等を用いることにより、点検者が寝転んだ状態でも楽に移動が可能となる。
【0070】
また、上記実施形態では、建物12の外壁48に化粧胴差し50が取り付けられた構成にしたが、請求項1〜8に係る発明はこれに限らず、化粧胴差し50が省略された構成にしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、建物12の小屋裏空間14内及び床下空間16内に構造強度特定表示が設けられた構成にしたが、請求項1〜7に係る発明はこれに限らず、構造強度特定表示が省略された構成にしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、小屋裏空間14内の点検路24の一部を補強した天井小梁30が設けられた構成にしたが、請求項1〜4に係る発明はこれに限らず、天井小梁30が省略された構成にしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、小屋裏空間14内の点検路24が呈する色によって、判別手段が構成された場合について説明したが、請求項1又は2に係る発明はこれに限らず、判別手段は点検者が点検路と天井の他の部位とを判別可能なものであればよい。
【0074】
さらに、上記実施形態では、点検路24が判別手段を備えた構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、判別手段が省略された構成にしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、建物12が非居住空間としての小屋裏空間14及び床下空間16を備えた構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、建物12が小屋裏空間14及び床下空間16以外の非居住空間(点検が必要な空間)を備えた構成にしてもよい。
【0076】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0077】
12 建物
14 小屋裏空間
16 床下空間
18 天井
20 床
22 点検口
24 点検路
26 天井板
30 天井小梁
32 断熱材
40 点検路
42 プラスチックダンボール
48 外壁
50 化粧胴差し
52 撮像装置
54 ロボット
56 制御装置
60 ディスプレイ(表示部)
76 記憶部
78 判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非居住空間及び前記非居住空間内へ点検者又はロボットが進入するための点検口が設けられると共に、前記非居住空間内へ進入した点検者又はロボットが通行するための点検路が予め前記非居住空間内に設定された建物と、
前記点検者又は前記ロボットが前記点検路を通行する際に、前記非居住空間内を撮像するための撮像装置と、
前記建物の新築時に撮像された前記非居住空間内の画像を記憶する記憶部、前記記憶部によって記憶された画像と前記撮像装置によって撮像された画像とに基づいて前記非居住空間内における前記建物の劣化状態を判断する判断部、及び前記判断部の判断結果を表示する表示部を有する制御装置と、
を備えた建物の点検システム。
【請求項2】
前記非居住空間は、前記建物に設けられた天井の上側に形成された小屋裏空間であり、前記点検路は、前記天井のうち前記点検者が歩行可能な部位に設けられると共に、前記点検者が前記点検路と前記天井の他の部位とを判別するための判別手段を有することを特徴とする請求項1に記載の建物の点検システム。
【請求項3】
前記判別手段は、前記点検路が呈する色であって前記他の部位が呈する色とは異なる色であることを特徴とする請求項2に記載の建物の点検システム。
【請求項4】
前記天井は、天井板と当該天井板の上側に配置された断熱材とを有し、前記判別手段は、前記断熱材に設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の建物の点検システム。
【請求項5】
前記非居住空間は、前記建物に設けられた天井の上側に形成された小屋裏空間であり、前記点検路は、前記天井に設けられると共に、前記天井には、前記点検路を補強するための天井小梁が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の建物の点検システム。
【請求項6】
前記非居住空間は、前記建物に設けられた床の下側に形成された床下空間であり、前記点検路は、表面が平滑に形成され、前記床下空間の底に設置された板状部材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建物の点検システム。
【請求項7】
前記板状部材は、プラスチック製のダンボールであることを特徴とする請求項6に記載の建物の点検システム。
【請求項8】
前記非居住空間内には、前記建物の構造強度を特定するための情報を表示する構造強度特定表示が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項7のうち何れか1項に記載の建物の点検システム。
【請求項9】
前記建物は、上下階の間において外壁に着脱可能に取り付けられた化粧胴差しを有することを特徴とする請求項1に記載の建物の点検システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36618(P2012−36618A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176676(P2010−176676)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504093467)トヨタホーム株式会社 (391)
【Fターム(参考)】