説明

建物の熱効率を評価する方法

所定の地域内の複数の建物についての空中熱画像(1)から比較的低い熱効率を有する建物を識別する方法は、サンプルとして採用された建物の熱効率を示す地上測定値(2,3)を取得実行することと、地上測定値(2,3)と空中熱画像(1)の間の相関関係を見出すこと(4)と、相関関係(5)に基づいて、サンプルとして採用された建物以外の中から比較的低い熱効率を有する建物を推定すること(6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の熱効率を評価する方法に関し、限定するものではないが、とりわけ低い熱効率の建物を識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
暖房用エネルギーの値段が上昇し、また廃棄エネルギーが環境に与える影響についての認識が高まったために、断熱が不十分な、さもなければエネルギーを非効率的に使用している建物を見出すための地域調査を行うことが望ましくなっている。
【0003】
国際的に見ると、京都議定書は、エネルギー効率を向上させるための政策を実施することを調印国に求めている。英国内においては、家庭エネルギー節約条令1995(Home Energy Conservation Act 1995)が、地方自治体にエネルギー効率の低い建物を見出して改善策を講ずる義務を課している。住居安全衛生評価システム(Housing Health and Safety Rating System,HHSRS)が、熱効率の評価をも含めて建物の評価を実施するために策定されている。推奨の熱評価システムは標準評価手順(Standard Assessment Procedure,SAP)であり、それによると建物の熱効率は、1乃至100のスケールに従って定量化される。また、国家家庭エネルギー評価(National Home Energy Rating,NHER)システムのような別の評価システムを用いてもよい。
【0004】
SAP又はNHERのいずれかを用いて建物の熱効率を評価するためには、間取り図、立面図、壁、天井、ドア及び窓の詳細構造、並びに暖房装置の細目をも含めて建物を詳細に調査する必要がある。10,000戸乃至100,000戸あるいはそれを超える数の建物について責任を有する地方自治体にとって、建物を戸別に調査することは実際的ではない。それに替えて、熱効率が低い建物を見出そうという従来技術による方法においては、代表的なサンプルとしての建物について調査を行い、その結果は、責任を負う地域内の別の建物についての熱効率を推定するために用いられる。調査から外れた建物についての追加的情報は、例えば、ダイレクトメール又は選挙人名簿から収集される。しかし、これらの追加的情報は、しばしば決定的でなく又不正確な場合もある。
【0005】
建物からの熱損失を調査する一般的な方法としては、地域の空中熱画像を入手し、そして空中熱画像に過度な熱損失の兆候が存在するか否かを目視により検査する方法が知られている。画像は、損失熱が放射されている建物を識別するために地域の地図と比較される。例えば、2005年2月22日の時点においてhttp://www.infoterra-global.com/pdfs/thermal_gg.pdfから入手可能であったポール・グレイ(Paul Gray)著の「建物の熱損失の監視−空中熱赤外線(Monitoring Building Heat Loss - Airborne Thermal Infrared)」という題の論文は、熱損失について最悪の問題を有する建物を識別するために、空中熱画像を地理的情報又はエネルギー評価値のような別のデータ・ソースに対していかに相互参照させるかについて説明している。この論文は、空中熱画像の解釈時には変則例が生ずることを認めている。例えば、画像において比較的低温に見える建物は、十分に暖房されながらも断熱が良好である建物又は暖房温度は低いが断熱も不十分である建物のいずれかである。当論文は、そのような変則例は不可避であるが、熱損失検出のために用いられる空中熱画像の総合的な価値を減じてはならないと結論付けている。しかし、暖房温度は低いが断熱も不十分である建物は、正に地方自治体が識別して改善策を講じるように求められている建物である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第203673号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、低い断熱特性を有するそのような建物をより高い信頼性を持って識別する必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、比較的低い熱効率を有する建物を見出す方法が提供され、当該方法は、1組の建物の空中熱画像を入手することと、1組の建物の一部の組についての地上測定値の取得を実行することと、一部の組の地上測定値を対応する空中熱画像に相関させることと、この相関関係に基づいて、一部の組に含まれる建物以外の比較的低い熱効率を有する建物についてのそれを推定することとを含む。
【0008】
好ましくは、相関させること及び/又は推定することは、測定された一部の組の空間的分布及び変動に依りモデルを導く地理統計学的な方法を用いるのがよい。地理統計学的な方法は、通常型クリギング(Ordinary Kriging,OR)又はインジケータ型クリギング(Indicator Kriging,IK)のようなクリギング法であってよい。
【0009】
地上測定値は、熱効率評価値及び/又は地上熱画像を含んでいてよい。地上熱画像は建物の熱効率に関する情報を提供する。この情報は、空中熱画像だけからは明らかにならない。しかし、空中熱画像から得られる情報と地上熱画像から得られる情報との間には重複する部分がある。この重複部分は、地上測定値と空中測定値との間の関係を導出する(地上測定値を空中測定値に相関させる)ために用いられる。この相関関係は、地上調査から外れた建物の熱特性を推定するために用いられる。
【0010】
建物の一部の組についての熱効率の評価値は、物理的測定値及び/又はこれらの建物の建築に係わる歴史的データを用いて導出される。熱効率は、客観的評価値によって定量化される。また、調査から外れた建物の熱効率は、同一の評価値を用いて推定される。
【0011】
当該方法は、低い熱効率を有すると想定される建物の所在地を割り出すために、建物の地理的場所を特定する地理的データ・ベースを使用することを含んでいてもよい。
【0012】
当該方法はコンピュータシステムによって実行することが好ましく、該コンピュータシステムは、入力として、空中熱画像、地上測定値、及び随意の地理的データベースを取り込む。コンピュータシステムは、一部の組についての空中熱画像を地上測定値に相関させて関係を導出し、その関係は、一部の組に含まれない建物の推定の熱効率評価値を出力するように、それらの建物の空中熱画像に引き続き適用される。その出力は、それらの建物群の又はグループ分けされたそれらの建物群に含まれる特定の建物についての推定熱効率評価値のデータベースを有している。推定熱効率評価値は、使用者が低い熱効率評価値を有すると推定される建物を見出すときの助けとなるよう地域の地図上に表示されている。本発明の実施形態は、上述のシステムと方法を実行するように構成されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム、プログラムコードを実行するためのコンピュータシステム、及びコンピュータプログラムを担持するための媒体を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ここで、添付図面を参照しつつ本発明の特定の実施形態について説明する。
【0014】
<空中熱画像>
本発明の一実施形態に係る方法は、図1に示されている。この方法によると、空中熱画像1が、熱効率推定対象の建物が含まれる地域について撮影される。空中熱画像1は、屋内の暖房と建物からの熱損失が引き起こす熱の影響を強調するとともに、太陽熱の影響が最小になるように選択された条件の下で撮影される。空中熱画像は、気温が低いという条件の下、建物内部が屋内暖房装置によって通常の温度まで暖房されていると想定される時間、ただし太陽熱の影響が最小である時間、例えば、午後8時から10時の間及び/又は早朝に撮影することが好ましい。
【0015】
空中熱画像1は、地域の上空をほぼ一定の高度で飛行する飛行機に装着されたデジタル赤外線カメラを用いて撮影することが好ましい。飛行機の一飛行によって所望の地域の撮影ができない場合には、地域を分割した(固定翼の飛行機のときには通常は帯状の)画像を撮影し、分割画像は、画像処理ソフトウェアを用いて接合される。
【0016】
合成空中熱画像1の例は図2に示されており、これは、スペルソーン(Spelthorne)自治区の画像であるが、二日間に亘って撮影し、環境温度に正規化された多数の小さい熱画像から成っている。画像の暗い部分は、地域内の低温の領域を表す。画像に無地の帯で示されているように、幾つかの領域は撮影されていない。図3は、この画像の部分拡大図である。
【0017】
空中熱画像1は、建物同士の又は建物と平均外気温の間の温度差が示されるよう標準化される。この種の標準化熱画像は、高い熱損失の領域を強調するために一般には着色画像として作成される。図4は、図3の画像を標準化した画像を示す。画像では、低温の道路が、高温の建物や車とは識別できるようになっている。点線の円で囲って示した大きい建物は、金属製骨組の倉庫であり、暖かい区画つまり高い熱損失が生じていることを示す。
【0018】
<地上熱画像>
地上熱画像2は、空中熱画像1に示された建物のサンプルから得られる。建物のサンプルは、種々の場所にあり、幅広い範囲の異なる種類の建物が含まれるように選択することが好ましい。地上熱画像2は、地面上に又は地面に近接して(例えばクレーンに)取り付けられた赤外線カメラを用いて撮影される。地上熱画像2によると、十分に暖房されながらも良好に断熱された建物と、暖房が不十分であるとともに断熱も不十分である建物とを識別することが可能であるが、両者は、空中熱画像1においては同様に見える。例えば、側面の熱画像は、窓と外壁の間の断熱の違いによる影響を示しており、それ故に、建物内の屋内暖房の程度を表す。そのような熱画像の例は図5に示されているが、これは、スペルソーン町役場東口の赤外線画像である。暖かい窓は、低温の外壁とよい対照をなして、両者の断熱特性の差異を示している。
【0019】
地上熱画像2は、異なる地上熱画像2同士を数量的に比較することができるよう処理を施して、標準パラメータの値が導出されている。
【0020】
<実地測定値>
測定値3は、地上熱画像が撮影された建物のサンプルの幾つか又は全てについて調査することによって得られる。測定値3は、立面図と屋根の表面積及び/又は建物の建材の種類のような過去のデータが包含された建物の熱効率を示す。過去の記録は、例えば、建物が英国鉄鋼財団(British Iron and Steel Foundation,BISF)規格ユニットの建物であることを示していてよい。このデータは、挿入測定法によっても入手可能である。
【0021】
実地測定値3は、建物の熱効率が標準スケールを用いて総合的かつ客観的な測定値として表されるよう、処理を施してその建物のエネルギー効率評価値を導出しておくことが好ましい。スケールは、SAP又はNHERスケールであってよい。
【0022】
<地理的情報>
当該方法は、空中熱画像に含まれた地域内の建物の既知の所在地を表す地理的情報を用いてもよい。地理的情報は、特定の地理的位置にある建物の住所及び/又は郵便番号を表す。地理的情報は、地上測定値と空中熱画像1の対応した領域の間の相関関係を見出すために用いられる。
【0023】
<地上調査データと空中熱特性の相互関係>
上述のように、建物のサンプルについては、空中熱画像1、地上熱画像2及び実地測定値3が使用可能である。当該方法は、サンプルとして採用された建物についての空中熱画像1の特性、地上熱画像2の特性及び実地測定値3の間の一般的な関係5を導出するために、サンプルとして採用された建物についてのこれら三組のデータ間の相互関係4を見出す。関係5は、サンプルとして採用された建物の所在地に依存する統計学的モデルであってよい。
【0024】
一例として、関係5は、地理統計学的なモデルである。好ましくは、地理統計学モデルは、クリギング法のように線形で不偏の推定システムを用いる。通常型クリギング(OK)又はインジケータ型クリギング(IK)のいずれかが用いられる。クリギング法は、例えば、イザークス・E・H及びスリバスタバ・R・M(Isaaks E H and Srivastava R M)共著の「入門応用地理統計学(An Introduction to Applied Geostatistics)」、オックスフォード大学出版、1989年に説明されている。関係5を構築するために、ファジー論理のような代替の方法を用いてもよい。
【0025】
<サンプルから外れた建物の熱効率の推定>
サンプルから外れた建物についての空中熱画像1の特性は、次に、関係5を用いてサンプルから外れた建物の推定熱効率評価値6に変換される。例えば、空中熱画像1は、サンプルから外れた建物の所在地を表す地理的情報とともに地理統計学モデルに入力される。モデルは、サンプルから外れた建物についての、対応した推定熱効率評価値6を出力として生成する。
【0026】
推定熱効率評価値6は、地域内の建物の所在地と推定熱効率評価値6を表すデジタル・マップの形態で出力する。マップは、使用者が地域内の熱効率が低いと推定される領域を識別するときの助けになる。
【0027】
追加として又は代替として、当該方法は、推定効率評価値6に閾値を適用し、閾値より低い推定効率評価値を有する建物のリストを出力するようにしてもよい。例えば、使用者は、国内平均値の44乃至46より低いSAP評価値を有すると推定される全ての建物を識別することを望むかも知れない。使用者が所望の閾値を入力したとき、当該方法は、その閾値より低い推定SAP評価値の建物のリストを出力する。建物は、地理的情報から得られた住所、所在地及び/又は郵便番号によって識別される。
【0028】
当該方法は、サンプルから外れた建物の熱効率についての良好な推定値を提供することができるために、地域内の建物についての完全な地上調査を実施する必要性を低下させる。これらの推定に続けて、不十分な熱効率を有すると判定された建物の熱効率を向上させるための改善策がもし採られたとした場合には、地域内の建物からの熱損失が大幅に改善され、よって、暖房用燃料の消費量が低下し、結果として二酸化炭素の排出量が低減される。
【0029】
<関係の更新>
関係5は、追加の地上熱画像2及び/又は実地測定値3を入力することによって更新される。例えば、低い熱効率を有すると推定された建物については、調査の上、地上熱画像2と実地測定値3が生成され、両者を入力することによって、関係5が新しいデータに適合するよう更新される。サンプルから外れた建物の空中画像1は、次に、それらの熱効率について改良された推定値を得るために更新された関係5を用いて再処理される。換言すると、関係5は、最も低い熱効率の建物についての推定値を改良するために繰返し更新される。
【0030】
<コンピュータシステム、プログラム及び媒体>
当該方法は、図1に示した方法を実施するためのプログラムを実行するコンピュータシステムによって実行されることが好ましい。コンピュータシステムは、エネルギー効率評価値6を推定するために空中熱画像1及び関係5にアクセス可能なコンピュータを有する。空中熱画像1、地上熱画像2及び実地測定値3は、関係5を導出するために別のコンピュータ等によって予め処理されていてよい。
【0031】
コンピュータプログラムは、取外し式又は固定式のディスク又はソリッドステートのメモリのようなプログラム担持体つまり媒体に記録されるか又は信号に組み込まれる。
【0032】
<他の実施形態>
上述した実施形態は、例示するものであって、本発明に限定するものではない。それにも拘らず、上記の記述を読むことによって明白になる他の実施形態は、本発明の範囲に含まれる。例えば、低い推定熱効率を有する建物を識別することだけが望ましい場合には、地域内の全ての建物について熱効率を推定する必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態による方法の略示図である。
【図2】地域の合成空中熱画像である。
【図3】図3の空中熱画像の部分拡大図である。
【図4】空中熱画像の温度差を示すよう処理が施された画像である。
【図5】地域内に位置する建物の地上熱画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地域内の特定の建物の熱効率を推定する、コンピュータにより実行される方法において、以下のa乃至dのステップを備えることを特徴とする方法。
a.特定の建物を含む、前記地域内の複数の建物の熱特性についての空中測定値にアクセスするステップ
b.特定の建物を除く複数の建物のうち一部の組についての地上測定値を示すデータにアクセスするステップ
c.空中測定値と前記一部の組についての地上測定値との間の関係を導出するステップ
d.特定の建物の熱効率を推定すべく、前記関係を特定の建物についての空中熱測定値に適用するステップ
【請求項2】
前記関係は、複数の建物のうち前記一部の組の空間的分布に依存する地理統計学的なモデルであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
地理統計学的なモデルは、線形で不偏の推定システムを用いることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
複数の建物のうち前記一部の組の地上測定値は、地上熱測定値を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
複数の建物のうち前記一部の組の地上測定値は、熱効率を示す測定値を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
複数の建物の熱特性についての空中測定値は、空中熱画像から導出されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
特定の建物が所定のレベルより低い推定熱効率を有するか否かを判定するステップを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
特定の建物が所定のレベルより低い熱効率を有すると推定される場合、特定の建物についての地上測定値が含まれるように前記関係を更新するステップを更に含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
一地域内の1組の建物の中から低い熱効率を有すると推定される一又は複数の建物を識別する、コンピュータにより実行される方法において、以下のa乃至dのステップを備えることを特徴とする方法。
a.1組の建物のうち一部の組の熱効率を示す地上測定値の取得を実行するステップ
b.一地域の空中熱画像を入手するステップ
c.地上測定値を空中熱画像に相関させて両者間の関係を導出するステップ
d.低い熱効率を有すると推定される一又は複数の建物を識別すべく、前記関係を空中熱画像に適用するステップ
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1つに記載の方法を実行すべくなしてあるプログラムコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のコンピュータプログラムを実行すべくなしてあるコンピュータシステム。
【請求項12】
請求項10に記載のコンピュータプログラムが組み込まれたプログラム担持体。
【請求項13】
添付図面を参照しつつ、ここに実質的に記述した方法。
【請求項14】
添付図面を参照しつつ、ここに実質的に記述したコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−532032(P2008−532032A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557565(P2007−557565)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000598
【国際公開番号】WO2006/090132
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507288958)
【Fターム(参考)】