説明

建物の空調方法

【課題】既設の空調機器を利用して、縦空間と室内との差圧あるいは空気の移動量が0になるように修正動作を行うことで、建物内の縦空間と室内とのエアバランスの崩れを修正し、隙間風等による空調エネルギーの損失と室内環境の悪化を抑制する。
【解決手段】ビルB内部を縦に貫く縦空間1と、室R1とは、隙間等によって通じている。空調機11の還気ファン12によって室R1の還気の一部を、外気導入口5bから導入した外気と混合し、加熱コイル11b、冷却コイル11cによって温度調整した後に、空調空気として室R1に供給され、還気の残りの一部は排気口5bから排気される。室R1と縦空間1内との差圧は、第1の計測装置31によって計測され、この差圧が0となるように、還気ファン12の回転数または排気ダンパ13の開度が、制御装置Cによって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の空調方法にかかり、特にビル等の建築物に適した空調に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、ビルの空調は各階の外気導入量(OA)の総和と、排気量(EA)の総和との収支が0になるようにエアバランスをとって設計、調整を行っている。しかしながら、当該エアバランスが崩れると、EA−OA(EAとOAの差分)に相当する隙間風が、階段室、エレベーターシャフト、パイプシャフトなど、建物を縦に貫く空間(以下、「縦空間」という)と部屋との仕切壁の隙間を通って室内に流入したり、室内から流出する。このため、たとえばOAが過剰の階から縦空間を介してEAが過剰の階に空気が流れ、建物全体として、調温、調湿され空調空気を無駄に多く排気したり、過剰な外気導入を行うことになり、空調用エネルギーを無駄に消費することになる。このようなエアバランスの崩れを生じる原因には、以下のものがある。
【0003】
[煙突効果]
高層ビルでは、空調温度と外気との温度差が広がると、室内と屋外の圧力差が高さ方向に変化する現象(煙突効果)が発生する。この煙突効果が起こると、「室内圧<屋外気圧」となる階(例えば冬場の地下階など)では、OAの総和と外部への開口部(地下道への連絡路など)から流入する外気OA´の和が、EAの総和よりも多くなり、余剰の空気が縦空間の壁の隙間を通して室内から縦空間に流出する。逆に「室内圧>屋外気圧」となる階(例えば冬場の高層階など)では、EAの総和と、外部に通ずる開口部から屋外へ流出する室内空気EA´の和がOAの総和よりも多くなり、不足分が縦空間の壁の隙間を通して縦空間から室内に流入する。
【0004】
[可変風量空調機のエアバランス不良]
室内温度制御やCO濃度制御など、制御対象が室圧ではない制御によって給排気ファンの回転数やダンパの開度が変化すると、制御の結果、室圧が変化するため、縦空間と室内との隙間風量が変化して、OAとEAの収支に影響を及ぼす。
【0005】
[フロア内空調機の総合エアバランス不良]
フロア内に複数の空調機による給気と定風量(CAV)の排気がある場合、空調機全台運転時にエアバランスを調整すると、空調機の一部を停止した際にOAの総和が減少するため、不足を補うように縦空間から室内に隙間風が流入する。
【0006】
そのような建物の内外の空気の流通を抑えるものとして、例えば以下のものがある。まず、いわゆる二重扉方式における、風除室を構成し、屋内から当該風除室内に入り込んだ空気を屋内へ戻し、屋外から風除室内に入り込んだ空気を屋外へ戻すことで、建物内外の空気の流通を防止して空調エネルギーのロスを低減するものがある(特許文献1)。その他、外気圧が大きい時に、屋外に通ずるダンパを閉じて、外気を室内に流入させないようにすることで、平常時よりも外気流入量を増大させて、空調エネルギーがロスすることを防止するものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4515173号公報
【特許文献2】特公平7−107460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した特許文献1に記載の技術は、別途風除ブースを設け、この風除室に設けた排気ファンの制御によって、内外の空気の流通を抑制しているため、一般の室に対して適用する場合、そのような風除ブースを各室に設ける必要がある。また特許文献2に記載の技術は、専用のエアーダクトとダンパを設置する必要がある。したがって、これら従来技術は、いずれも既設の空調機器をそのまま利用して、前記したようなエアバランスの崩れを防止することはできない。
【0009】
前記したように、エアバランスの崩れは縦空間を介した空気の移動が原因である。本発明は既設の空調機器を利用して、縦空間と室内との差圧あるいは空気の移動量が0になるように修正動作を行うことで、前記エアバランスの崩れを修正し、隙間風等による空調エネルギーの損失と室内環境の悪化を抑制することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、建物内部を縦に貫く縦空間と、隙間、開口、またはダクトによって通じている室の空調を行なう方法であって、還気ファンによって室の還気の一部を、外気導入口から導入した外気と混合し、熱交換器によって熱交換して温度調整した後に、空調空気として前記室に供給し、還気の残りの一部は排気口から排気する空調方法において、前記室へは、室内の圧力とは無関係の変風量方式によって、温度調整した後の空調空気が供給されており、前記室と前記縦空間内の差圧を計測し、当該差圧が0になるように、前記還気ファンの回転数を制御することを特徴としている。
【0011】
たとえば室圧が縦空間の気圧よりも高い場合、その差圧(室圧―縦空間圧)は正の値となる。このとき還気ファン回転数を上げれば、室内から流れる還気風量が増大するが、コイル等の熱交換器を介して温湿度調整された後に、室内に戻されるため、当該熱交換器による空気抵抗に起因して、室内に戻される風量は低減する。すなわち、還気風量よりも室内に戻す風量が少なくなる。また還気ファンの回転数を上げると、室内から流出する空気の量と排気口のダンパなどを介して熱交換器に流入する空気量が増大する。この時、熱交換器を通過する空気は全て変風量方式で室内に供給されるが、変風量方式では室内の温度などに応じて、室圧制御とは無関係に風量を決定し、たとえば給気ファンの回転数を決めているので、還気ファンの回転数を増大させることにより、変風量方式の要求風量を上回る空気が変風量ユニットに流れることになる。そうすると、変風量ユニットはたとえば室内に給気する給気ファンの回転数を下げる制御を行うことになる。したがって還気ファンの回転数を上げると給気ファンの回転数が下がり、室圧が低下する(このとき変風量方式のユニットと熱交換器を通過する空気量は変わらない)。その結果、室圧は低下するので、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。
逆に、室圧が縦空間内の気圧よりも低い場合、その差圧(室圧―縦空間圧)は負の値となる。この場合には、還気ファンの回転数を下げることにより、室圧は上昇するので、その差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。
【0012】
前記還気ファンの回転数を制御した際、還気ファンの回転数が予め定めた最小値または最大値に達した後一定時間経過した後に、前記排気口のダンパを一定量閉じるか、または一定量開く動作を行い、その後に前記差圧が0になるように、前記還気ファンの回転数を制御するようにしてもよい。
【0013】
前記還気ファンの回転数を制御した際、還気ファンの回転数が予め定めた最小値または最大値に達した後一定時間経過しても、前記差圧が0にならない場合には、さらに前記排気口のダンパの開度を調整して、前記差圧が0になるように制御するようにしてもよい。
【0014】
前記排気口のダンパの開度をさらに制御した際、前記排気口のダンパが全開または全閉に達した後一定時間経過しても、前記差圧が0にならない場合、還気の一部を、外気導入口から導入した外気と混合するにあたって、還気と外気との混合流路に設けた還気ダンパの開度によって、混合する還気風量が調整可能な際には、当該還気ダンパの開度を制御して、前記差圧が0になるように制御するようにしてもよい。
【0015】
屋外と前記室内との差圧に基づいて、前記還気ファンの回転数を調節する制御の応答性を決定するパラメータを変化させるようにしてもよい。
【0016】
前記室内の温度と、外気の温度との温度差及び前記室の高さに基づいて、前記還気ファンの回転数を調節する制御の応答性を決定するパラメータを変化させるようにしてもよい。
【0017】
前記差圧に替えて、差圧に比例した物理量(例えば電圧や電流)を出力する装置の出力値を用いるようにしてもよい。
【0018】
また前記差圧に替えて、前記室と縦空間とを隔てる壁体に形成された開口に設けられて当該開口を通過する風量、風速若しくは風量に比例した物理量(例えば電圧や電流)を出力する装置の出力値を用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既設の空調機器を制御して、縦空間と室内との差圧あるいは空気の移動量が0になるように還気ファンを調節することで、建物内のエアバランスの崩れを修正し、隙間風等による空調エネルギーの損失と室内環境の悪化を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態にかかる空調方法を実施するための空調システムの構成の概略を模式的に示した説明図である。
【図2】還気ファンと排気ダンパの操作による制御の応答性を変化させるための様子を示した説明図である。
【図3】ビルにおける煙突効果の強弱と縦空間の圧力との関係を示す説明図である。
【図4】還気ダンパの操作による制御の応答性を変化させるための様子を示した説明図である。
【図5】風量に比例した物理量を出力する装置の構成の概略を模式的に示した説明図である。
【図6】風量に比例した物理量を出力する他の装置の構成の概略を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態について説明すると、図1は実施の形態にかかる空調方法を実施するための空調システムの概略的構成を模式的に示した図であり、この例では、複数階床を有するビルBに適用した例を示している。このビルBの各階の室R1、R2は、すべて同一構成であり、各々同一の空調システムが採用されているので、以下、室R1を例にとって説明する。
【0022】
室R1は、たとえばエレベーターシャフトなどの縦空間1と壁2を介して位置している排気のある室RE(例えばトイレや湯沸室など)と隣接している。また室R1には、壁3を介して機械室4が隣接している。この機械室4に、室R1の空調を実施する空調機11が設けられている。
【0023】
この空調機11は、チャンバ11a内に、還気ファン12と給気ファン16を有している。還気ファン12は、壁3に設けられた還気口3aから取り込んだ室内の雰囲気(還気)を、チャンバ11a内に導入する。チャンバ11a内に導入された還気は、一部は排気として、排気ダンパ13を介して、ビルBの外壁5に設けられた排気口5aから排気される。
【0024】
チャンバ11aに取り込まれた還気の残りの一部は還気ダンパ14を経由して外気と混合される。すなわち、ビルの外壁5に設けられた外気導入口5bから外気ダンパ15を介してチャンバ11a内に導入された外気と、還気の一部が混合された後、加熱コイル11b、冷却コイル11c、加湿器11dによって温湿度調整される。そして温湿度調整された後、給気ファン16によって、室R1の天井部空間に複数設置されている各VAVユニット21に供給され、天井22に設けた給気口22aから室R1内に供給される。
【0025】
室R1と縦空間1との間に位置している前出排気のある室REからの排気は、天井22に設けられた排気口22bから、CAVユニット23を介して、排気ダクト24等により、外壁5に設けられた排気口5cから排気される。
【0026】
室R1と排気のある室RE、排気のある室REと縦空間1、室R1と機械室4とは、壁等で隔てられているものの、それぞれ気密に閉鎖されているわけではなく、各々隙間や大小の開口(図示せず)等によって連通している。したがって、排気のある室RE、室R1、縦空間1、機械室4も連通している。
【0027】
そして空調機11の還気ファン12は、排気のある室REと縦空間1とを隔てている壁2に設けられた第1の計測装置31の計測結果、並びに外壁5に設けられた第2の計測装置32の各計測結果に基づき、制御装置Cによってインバータ制御される。また排気ダンパ13の開度も、同様に第1の計測装置31の計測結果、第2の計測装置32の各計測結果に基づき、制御装置Cによって制御することが可能である。この例では、第1の計測装置31は、排気のある室REと縦空間1との間の差圧を計測する差圧計であり、また第2の計測装置32は、機械室4と屋外との間の差圧を計測する差圧計である。
【0028】
実施の形態にかかる空調システムは、以上の構成を有しており、次にその運転例について説明する。まず通常時は、排気ダンパ13及び還気ダンパ14の制御は、外気導入口5bからの、外気ダンパ15の制御による外気取入れ量に対して、排気量と外気取入れ量が等しくなるように制御される。また、給気ファン16の回転数は室内空調のための制御(たとえば、室R1の室温に応じて回転数を制御して給気風量を調整する)が行われ、還気ファン12の回転数は、給気ファン16の回転数に合わせて制御され、室内における給排気の量を一致させている(通常時の制御)。
【0029】
そしてまず室R1の室圧が、縦空間1内の圧力よりも高い場合、第1の計測装置31によって計測される差圧(室圧―縦空間圧)は正の値となる。このとき還気ファン12の回転数の制御出力は正(回転数を上げる方向)に制御される。還気ファン12の回転数が増大すると、室圧は低下するので、第1の計測装置31によって計測される差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。逆に、室圧が縦空間圧よりも低い場合、第1の計測装置31によって計測される差圧(室圧―縦空間圧)は負の値となる。このとき還気ファン12の回転数の制御出力は負(回転数を下げる方向)に制御される。還気ファン12の回転数が減少すると、室圧は上昇するので、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。
【0030】
ここで還気ファン12の回転数が予め設定された上限値または下限値に達し、一定時間(チャタリングを考慮して、たとえば10秒程度)経過しても、未だ差圧が0にならない場合には、排気ダンパ13を他の制御、すなわち、既述した通常時の制御から切り離して、第1の計測装置31によって計測される差圧(室圧―縦空間圧)に基づいて開度制御を行う。すなわち、差圧(室圧―縦空間圧)が正の値の場合には排気ダンパ13を開ける方向に制御する。排気ダンパ13が開くと、チャンバ11aに導入された還気のうち、排気として屋外に放出される分が多くなるので、室圧は下がり、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。
【0031】
逆に第1の計測装置31によって計測される差圧(室圧―縦空間圧)が負の値の場合には排気ダンパ13を閉める方向(開度を小さくする方向)に制御する。排気ダンパ13の開度が小さくなると、還気として室R1に戻される換気量が増加して室圧は上がるので、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。このとき還気ダンパ14はそれまでの開度を維持している。なお、差圧が0になった時点で、排気ダンパ13の制御を通常時の制御に戻し、差圧に基づく制御は、還気ファン12の回転数制御のみとする。
【0032】
またさらに、還気ファン12の回転数が、予め設定された上限値または下限値に達し、なおかつ排気ダンパ13の開度が予め設定された最大開度あるいは最小開度に達しても、差圧(室圧―縦空間圧)が0にならない場合には、還気ダンパ14を、通常時の制御から切り離して制御を行う。すなわち、差圧(室圧―縦空間圧)が正の値の場合には還気ダンパ14を閉める方向に制御する。還気ダンパ14の開度が小さくなると、室R1に戻す還気量が低減し、室圧は下がるので、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。逆に差圧(室圧―縦空間圧)が負の値の場合には、還気ダンパ14の開度を大きくする方向に制御する。
【0033】
なお、そのように還気ダンパ14による制御を付加して、差圧が0になった時点で、排気ダンパ13と還気ダンパ14の制御を通常時の制御に戻し、制御装置Cによる差圧を0にする制御は、還気ファン12の回転数制御のみに戻す。
【0034】
以上の例によれば、既設の空調機11をそのまま利用して、還気ファン12、排気ダンパ13、さらには還気ダンパ14を制御することで、室R1と縦空間1との差圧を0に近づけることができ、それによって、ビルBにおける室R1と縦空間1とのエアバランスの崩れを修正し、隙間風等による空調エネルギーの損失と室内環境の悪化を抑制することが可能である。
【0035】
ところで、室内−屋外間の差圧が大きい場合と小さい場合(すなわち差圧0を基準とした差圧の絶対値が大小の場合)とでは、還気ファン12の回転数や排気ダンパ13の開度が同じでも、空気移動量が変わってしまう。すなわち、煙突効果により室内屋外の差圧が大きくなる(高層階などで室内圧が大きくなる)と、排気の移動量(CAVユニット23からの排気や、排気口5a(1台とは限らない)空調機からの排気などのすべてを合計した量)が所望の量よりも多くなってしまう。したがって、室内−屋外間の差圧が大きくなれば、還気ファン12の回転数や排気ダンパ13開度の変化量を小さくして、所望の排気量となるようにすることが好ましい。
【0036】
すなわち、室内圧−屋外圧の圧力差が大きい場合には、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧に応じた還気ファン12の回転数や排気ダンパ13の開度の変化の度合いを小さくして、応答性を小さくする。逆に室内圧−屋外圧の値が小さい場合には、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧に応じた還気ファン12の回転数や排気ダンパ13の開度の変化の度合いを大きくして、応答性を高めることが好ましい。
【0037】
図2は、そのことを説明するものであり、図中、「操作量」とは、還気ファン12、及び排気ダンパ13に対する操作量のことであり、図中、K点は、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧が0のときの、還気ファン12、及び排気ダンパ13の通常時の操作量を示している。そして差圧が正の場合には、還気ファン12の回転数は高くする制御、排気ダンパ13の開度を大きくする制御が行なわれ、K点から図中の上側に操作量を増大する制御が行なわれる。差圧が負の場合には、還気ファン12の回転数は低くする制御、排気ダンパ13の開度を小さくする制御が行なわれ、K点から図中の下側に操作量を減少する制御が行なわれる。
【0038】
そして図2中、実線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差を考慮せず、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧に基づいた場合を示しており、一点鎖線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差が小さい場合の、応答性を高めるための操作量の変化を示しており、破線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差が大きい場合の、応答性を弱めるための操作量の変化を示している。なお図2は、比例制御を例にして、応答性の変化を示したものであるが、比例制御だけではオフセット(残留偏差)が現れることもあるため、必要に応じて積分制御を用いてもよい。
【0039】
このように、室内圧−屋外圧の圧力差の大小によって、操作量の変化の度合いを変化させて、制御の応答性を定めるパラメータを変更することで、室内外の差圧の大小に応じた適切な応答速度で制御を行なうことが可能である。図1に示した空調システムでは、第2の計測装置32を設置しているので、室内圧−屋外圧の圧力差を検出して、前記した制御の応答性を定めるパラメータを変更することが可能である。
【0040】
また、ある建物において室内−屋外温度差が同じであれば、同じような圧力分布が得られる。したがって室内−屋外温度差がわかれば、当該建物における室の高さ(階数)に対する、室内−屋外差圧の大きさを求めることができる。
【0041】
すなわち、発明者らの知見によれば、図3示したように、室内−屋外温度差が大きい場合には、煙突効果が大きくなり、その結果、室高さに対する室内圧の上昇度合いが大きくなる(図3中の実線)。逆に、室内−屋外温度差が小さい場合には、煙突効果が小さくなり、その結果、室高さに対する室内圧の上昇度合いが小さくなる(図3中の破線)。
【0042】
このことを利用して、室R1の高さにおける、室内圧−屋外圧の予測値を算定することによって、前記した図2に示したような、制御の応答性を定めるパラメータを変更し、その結果、室内外の差圧の大小に応じた適切な応答速度で制御を行なうことが可能である。室内圧−屋外圧の予測値の算定にあたっては、たとえば、次のようにして行なうことができる。すなわち、空気の密度ρは、温度(℃c)をtとすると、次式で表せる。
ρ=1.293/(1+0.00367×t)[kg/m
ここで、対象となる建物のB1Fと1Fに、縦空間と外気が常時つながった通路等があるとすると、上層階の煙突効果は1Fが基準(ΔP=0)となり、1Fからの高低差hに比例して、差圧ΔP(室内圧−屋外圧)が増大する。したがって、室内の密度をρ、室外の密度をρとすると、差圧ΔPは、
ΔP=(ρ−ρ)×g×hと算定できる。(gは重力加速度)
そしてそのようにして室内圧−屋外圧を予測することで、高価な差圧計を用いることなく、温度計による室内−屋外温度差によって、かかるパラメータの変更を行なうことができる。
【0043】
また、外気温度は時期(たとえば季節、時間帯など)により大きく変わるが、室内温度は空調装置により制御されており、外気温度と比較して時期による変化は小さいので、外気温度さえ計測すれば、室高さに対する室内−屋外差圧の大まかな大きさを求めることができる。したがって、上記の「温度差が大きい場合」、「温度差が小さい場合」を、それぞれ「外気温が低い場合」、「外気温が高い場合」とみなして、制御するようにしてもよい。
【0044】
さらにまた前記した還気ダンパ14の制御についても、前記した図2に即して説明したように、室内圧−屋外圧の圧力差の大小によって、操作量の変化の度合いを変化させて、制御の応答性を定めるパラメータを変更することで、室内外の差圧の大小に応じた適切な応答速度で制御を行なうことが可能である。
【0045】
すなわち、図4において、「操作量」とは、還気ダンパ14に対する操作量のことであり、図中、L点は、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧が0のときの、還気ダンパ14の通常時の操作量を示している。そして差圧が正の場合には、還気ダンパ14の開度を小さくし、差圧が負の場合には、還気ダンパ14の開度を大きくする制御が行なわれる。そして図4において、実線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差を考慮せず、室R1内圧力−縦空間1内圧力の差圧に基づいた場合を示しており、一点鎖線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差が小さい場合の、応答性を高めるための還気ダンパ14の操作量の変化を示しており、破線で示した操作量の変化は、室内圧−屋外圧の圧力差が大きい場合の、応答性を弱めるための還気ダンパ14の操作量の変化を示している。
【0046】
このような室内圧−屋外圧の圧力差の大小も勘案して、還気ダンパ14の操作量の変化の度合いを変化させて、制御の応答性を定めるパラメータを変更することで、室内外の差圧の大小に応じた適切な応答速度で制御を行なうことが可能である。もちろん、かかる場合も、前記した図3に即して説明したように、室内圧−屋外圧の圧力差に代えて、室内−屋外温度差に基づいて、パラメータを変更するようにしてもよい。
【0047】
また前記実施の形態では、まず還気ファン12の回転数制御を優先して、差圧が0となるようにしていたが、排気ダンパ13の開度制御を優先的に制御するようにしてもよい。そしてかかる場合、排気ダンパ13の開度を制御した際に、全開または全閉に達した後一定時間経過しても、差圧が0にならない場合には、さらに還気ファン12の回転数を制御して差圧が0になるように制御するようにしてもよい。そしてそのように還気ファン12の回転数をさらに制御した際、還気ファン12の回転数が予め定めた最小値または最大値に達した後一定時間経過しても、前記差圧が0にならない場合、還気の一部を、外気導入口から導入した外気と混合するにあたって、還気ダンパ14の開度を制御して、前記差圧が0になるように制御するようにしてもよい。
【0048】
還気ファン12の回転数が予め設定された上限値または下限値に達し、一定時間(チャタリングを考慮して、たとえば10秒程度)経過しても、未だ差圧(室圧―縦空間圧)が0にならない場合に、排気ダンパ13の開度をそれまでの開度からさらに予め定めた所定量大きくするかまたは予め定めた所定量小さくするようにしてもよい。
【0049】
すなわち、差圧(室圧―縦空間圧)が正の状態で還気ファン12の回転数が上限値に達した場合には、排気ダンパ13の開度をそれまでの開度からさらに予め定めた所定量(例えば全開を100、全閉を0とすると5程度)だけ大きくしてその開度を維持する。排気ダンパ13の開度が大きくなると、チャンバ11aに導入された還気のうち、排気として屋外に放出される分が多くなるので、室圧は下がる。そして、差圧(室圧―縦空間圧)が負圧の所定値になったところで、還気ファン12の回転数を上限値の状態から下げて、差圧(室圧―縦空間圧)が0となるように制御に戻る。このとき排気ダンパ13はそのままの開度を維持している。
【0050】
逆に差圧(室圧―縦空間圧)が負の状態で還気ファン12の回転数が下限値に達した場合には、排気ダンパ13の開度をそれまでの開度から予め定めた所定量小さくする。排気ダンパ13の開度が小さくなると、還気として室R1に戻される換気量が増加して室圧は上がる。そして、差圧(室圧―縦空間圧)が正圧の所定値になったところで、還気ファン12の回転数を下限値の状態から上げて、差圧(室圧―縦空間圧)を0にする制御に戻る。
【0051】
またさらに、排気ダンパ13の開度を所定量大きくするかまたは小さくしてから予め設定した所定時間経過しても差圧(室圧―縦空間圧)が負圧または正圧の所定値にならない場合には、排気ダンパ13の開度をさらに所定量大きくするかまたは小さくする。すなわち、差圧(室圧―縦空間圧)が正の値から還気ファン12回転数が上限値に達し排気ダンパ13開度を所定量大きくしても負圧の所定値にならない場合には、排気ダンパ13をさらに所定量大きくする。逆に差圧(室圧―縦空間圧)が負の値から還気ファン12回転数が下限値に達し、排気ダンパ13の開度を所定量小さくしても正圧の所定値にならない場合には、排気ダンパ13の開度をさらに所定量小さくする。
【0052】
また、還気ファン12の回転数が、予め設定された上限値または下限値に達し、なおかつ排気ダンパ13の開度が予め設定された最大開度あるいは最小開度に達しても、差圧(室圧―縦空間圧)が負圧または正圧の所定値にならない場合には、還気ダンパ14を、通常時の制御から切り離して制御を行うようにしてもよい。
【0053】
すなわち、差圧(室圧―縦空間圧)が正の値から、還気ファン12回転数が上限値に達し排気ダンパ13の開度が最大開度に達しても負圧の所定値にならない場合には、還気ダンパ14を閉める方向に制御する。還気ダンパ14の開度が小さくなると、室R1に戻す還気量が低減し、その結果室圧は下がるので、差圧(室圧―縦空間圧)が0になる方向に変化する。逆に差圧(室圧―縦空間圧)が負の値から還気ファン12回転数が下限値に達し排気ダンパ13の開度が最小開度に達しても正圧の所定値にならない場合には、還気ダンパ14の開度を大きくする方向に制御する。
【0054】
空気の移動量の調整は、排気ダンパ13の開度制御によって行うよりも、還気ファン12の回転数制御によって行う方が、より細かい調整が可能であるので、上記のように排気ダンパ13の開度は段階的に所定量ずつ大きくするかまたは小さくするようにして、還気ファン12の回転数を連続的に制御することにより空気の移動量を調整するようにすれば、室圧を細かく調整することが可能となる。
【0055】
図1に示した空調システムでは、第1の計測装置31、第2の計測装置32は、いずれも差圧計を用いていたが、これに限らず、差圧に比例した物理量(たとたえば電圧や電流)を出力する装置の出力値を用いたり、前記室R1と縦空間1とを隔てる壁2に形成された開口(図示せず)に、当該開口を通過する風量、風速若しくは風量に比例した物理量(たとたえば電圧や電流)を出力する装置の出力値を用いるようにしてもよい。
【0056】
図5は、風量に比例した物量を出力する計測装置51の例を示しており、この計測装置51は、チャンバ52の内部が2つの流路52a、52bに仕切られており、流路52aには、熱線風速計53が設けられ、他の流路52bには、2本の電極54、55が設けられている。電極54は剛性が高く、電極55は、風を受けて柔軟に変形する構造を有している。これら2本の電極54、55は、風の流路に沿って並んで設置されており、流路に風が流れていないときは、両者は接触している。
【0057】
そして、風が開口部56から開口部57に向かって流れるとすると、電極55は、開口部57に向かって変形するため、2本の電極の接触状態が解かれて、接点が開く(接点が切れる)。逆に開口部57から開口部56に向かって風が流れると、電極55は電極54に向かって変形しようとするため、接点は閉じたまま(接点がつながったまま)になる。このように、電極54と電極55との開閉状態で風の流れる方向を検出し、熱線風速計53で風の強さを計測することができる。なお熱線風速計53からの出力は、変換器58によって変換されて、出力線59から、たとえば制御装置Cへと出力される。
【0058】
図6は、風量に比例した物量を出力する他の計測装置61の例を示しており、計測装置61の本体62の内部には液体が充填され、この液体中に振り子63が浸漬されている。この振り子63は、液体中に設けられた支点64に中央部63aが支持され、両端部には、重錘を兼ねた水中抵抗体63b、63cが設けられている。
【0059】
振り子63の中央部63aの上側には、受風体63dが設けられて水面から突出している。そして本体62の上部に対向して設けられた風の流路65、66を流れる風を受けることができる。受風体63dの位置は、レーザ距離計67で計測するようになっており、無風時の距離と、計測した距離の差から風向と風速を計測することが可能である。なお、振り子63は液中に浸漬されているので液体の粘性によって、受風体63dの自励振動や、突発的な風による急激な動きを防止することができるようになっている。
【0060】
なお、以上は室内の温度に応じて室内へ空調空気の給気風量を制御するシステムにおいて本発明を適用した例を示したものであるが、例えば室内のCOの濃度により室内への給気風量を制御するシステムにおいても本発明は適用できる。すなわち、たとえば室内にCO濃度センサを設置し、当該CO濃度センサが示す数値に基づいて排気ダンパ13や還気ダンパ14の開度を調整して、室内への外気取入れ量を制御するシステムにおいて、上述した方法と同様に排気ダンパ13や還気ダンパ14の開度を、「室圧―縦空間圧」が0になる方向に制御すればよい。
【0061】
なお、例えば還気ダンパ14が全閉の場合、還気ファン12によって室R1、R2から還気口3aを通じて排出される空気は、すべて屋外へ排気されることになるが、この場合であっても、当該排出される空気は、本発明における還気である。もちろん還気ダンパ14が全閉の場合には、還気ファン12は、実質的には排気ファンとして機能しているが、依然として本発明でいうところの還気ファンである。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ビル等の比較的高層の建物の空調に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 縦空間
2、3 壁
3a 還気口
4 機械室
5 外壁
5a、5c 排気口
5b 外気導入口
11 空調機
11a チャンバ
11b 加熱コイル
11c 冷却コイル
11d 加湿器
12 還気ファン
13 排気ダンパ
14 還気ダンパ
15 外気ダンパ
16 給気ファン
21 VAVユニット
22 天井
22a 給気口
22b 排気口
23 CAVユニット
24 排気ダクト
31 第1の計測装置
32 第2の計測装置
B ビル
C 制御装置
R1、R2 室
RE 排気のある室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内部を縦に貫く縦空間と、隙間、開口、またはダクトによって通じている室の空調を行なう方法であって、
還気ファンによって室の還気の一部を、外気導入口から導入した外気と混合し、熱交換器によって熱交換して温度調整した後に、空調空気として前記室に供給し、還気の残りの一部は排気口から排気する空調方法において、
前記室へは、室内の圧力とは無関係の変風量方式によって、温度調整した後の空調空気が供給されており、
前記室と前記縦空間内の差圧を計測し、当該差圧が0になるように、前記還気ファンの回転数を制御することを特徴とする、建物の空調方法。
【請求項2】
前記還気ファンの回転数を制御した際、還気ファンの回転数が予め定めた最小値または最大値に達した後一定時間経過した後に、前記排気口のダンパを一定量閉じるか、または一定量開く動作を行い、その後に前記差圧が0になるように、前記還気ファンの回転数を制御することを特徴とする、請求項1記載の建物の空調方法。
【請求項3】
前記還気ファンの回転数を制御した際、還気ファンの回転数が予め定めた最小値または最大値に達した後一定時間経過しても、前記差圧が0にならない場合には、さらに前記排気口のダンパの開度を調整して、前記差圧が0になるように制御することを特徴とする、請求項1に記載の建物の空調方法。
【請求項4】
前記排気口のダンパの開度を制御した際、前記排気口のダンパが全開または全閉に達した後一定時間経過しても、前記差圧が0にならない場合、
還気の一部を、外気導入口から導入した外気と混合するにあたって、還気と外気との混合流路に設けた還気ダンパの開度によって、混合する還気風量が調整可能な際には、当該還気ダンパの開度を制御して、前記差圧が0になるように制御することを特徴とする、請求項2または3に記載の建物の空調方法。
【請求項5】
屋外と前記室内との差圧に基づいて、前記還気ファンの回転数を調節する制御の応答性を決定するパラメータを変化させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の建物の空調方法。
【請求項6】
前記室内の温度と、外気の温度との温度差及び前記室の高さに基づいて、前記還気ファンの回転数を調節する制御の応答性を決定するパラメータを変化させることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の建物の空調方法。
【請求項7】
前記差圧に替えて、差圧に比例した物理量を出力する装置の出力値を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の建物の空調方法。
【請求項8】
前記差圧に替えて、前記室と縦空間とを隔てる壁体に形成された開口に設けられて当該開口を通過する風量、風速若しくは風量に比例した物理量を出力する装置の出力値を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の建物の空調方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113452(P2013−113452A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257536(P2011−257536)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【Fターム(参考)】