説明

建物の耐火構造

【課題】天井材に開口部を形成して照明器具などの付帯設備が設置されていても、確実且つ比較的容易に耐火性能を確保することを可能にした建物の耐火構造を提供する。
【解決手段】上階の床材2と、下階の天井材6と、床材2と天井材6の間の天井裏空間Hに配置された鉄骨構造部材3とを備えてなる天井部1の耐火性能を確保するための建物の耐火構造Aであって、天井材6に形成された付帯設備8を設置するための開口部7と、床材2及び/又は鉄骨構造部材3との上下方向T1の間に、板面を上下方向T1に向けて配設された不燃性板材10を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨構造の建物の天井部の耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、構造用の鋼材は、350〜400℃程度で常温時に対し約2/3に強度が低下し、耐火鋼においても600℃程度で常温時の約2/3に強度が低下することが知られている。このため、従来から鉄骨構造の建物においては、柱や梁の鉄骨構造部材の表面にロックウール材などの耐火被覆材を吹き付けたり、巻き付けるなどして、火災時に鉄骨構造部材に著しい強度低下が生じないように、耐火構造にすることが求められている。
【0003】
この一方で、ロックウール材などの耐火被覆材を鉄骨構造部材の表面に吹き付ける場合、吹き付け工事の作業環境が悪く、また、周辺へ耐火被覆材が飛散したり、他の作業と吹き付け作業を同時に並行して行えない、表面仕上げができない、隙間なく耐火被覆することが難しい、被覆厚や比重の管理が難しいなどの不都合があった。
【0004】
また、特に、オフィスビル等の建物において、上階の床材と下階の天井材の間の天井裏空間に配設された鉄骨構造部材(床材を支持する鉄骨梁など)に耐火被覆材を吹き付け施工する場合には、この鉄骨構造部材の下方、両側方の三方から耐火被覆を施さなければならないため、その施工に多大な労力と時間を要する。
【0005】
これに対し、高耐火性の部材を天井材や床材として用い、天井裏空間内の鉄骨構造部材に耐火被覆を施すことなく、天井施工のみで天井部を耐火構造にし、天井部の鉄骨構造部材を一括して火災時の加熱から保護する工法(天井メンブレン技術)も提案、実用化されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−156143号公報
【特許文献2】特開平10−325204号公報
【特許文献3】特開2000−282598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の天井部の耐火構造においては、天井材に開口部を形成し、この開口部に埋め込んで設置される照明器具、エアコン、スピーカー、スプリンクラー、点検口などの付帯設備が熱的弱点となり、この付帯設備によって耐火性能が確保できなくなるおそれがある。すなわち、例えば、天井材に埋設される照明器具は、その外周が鋼板によって被覆形成されているため、火災時に鋼板に熱が吸収され、この吸収した熱が鋼板表面から天井裏空間に放射されてしまう。これにより、照明器具の直上に位置する鉄骨梁等の鉄骨構造部材が加熱され、強度低下が生じるおそれがある。
【0008】
一方、特許文献3には、金属板と熱膨張性耐火シートを積層してなる熱膨張性複合シートを、天井材に埋設した照明器具を取り囲むように設置することにより、耐火性能を確保するようにした建物の耐火構造が開示されている。しかしながら、この耐火構造においては、オフィスビル等で、照明器具、エアコン、スピーカー、スプリンクラー、点検口などの大きさ、形状が異なる多数の付帯設備に対し、それぞれ個別に熱膨張性複合シートを製作して取り付けることが必要になるため、施工性、経済性の著しい悪化を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、天井材に開口部を形成して照明器具などの付帯設備が設置されていても、確実且つ比較的容易に耐火性能を確保することを可能にした建物の耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の建物の耐火構造は、上階の床材と、下階の天井材と、前記床材と前記天井材の間の天井裏空間に配置された鉄骨構造部材とを備えてなる天井部の耐火性能を確保するための建物の耐火構造であって、前記天井材に形成された付帯設備を設置するための開口部と、前記床材及び/又は前記鉄骨構造部材との上下方向の間に、板面を上下方向に向けて配設された不燃性板材を備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明においては、照明器具、エアコン、スピーカー、スプリンクラー、点検口などの付帯設備を天井材に設置するための開口部と、床材及び/又は鉄骨構造部材との間に不燃性板材が配設されているため、火災時に付帯設備が加熱され、この付帯設備(開口部)から放射された熱を不燃性板材によって遮熱することができる。これにより、付帯設備から放射された熱によって、天井裏空間内に配置された鉄骨構造部材が加熱されて強度低下が生じることを防止でき、また、床材が加熱されることを防止できる。
【0013】
また、本発明の建物の耐火構造においては、少なくとも、前記開口部の周縁端を基点とし、鉛直方向から横方向外側の30°方向に延びる傾斜仮想面で囲まれた前記開口部の上方領域に、前記不燃性板材が配設されていることが望ましい。
【0014】
この発明においては、少なくとも、開口部の周縁端を基点とし、鉛直方向から横方向外側の30°方向に延びる傾斜仮想面で囲まれた開口部の上方領域に、不燃性板材が配設されていることで、すなわち、天井裏空間全体に不燃性板材を設置せず、少なくとも前記開口部の上方領域に不燃性板材を部分的に設置しておくことにより、付帯設備から放射された熱を不燃性板材によって効率的、効果的に遮熱することができる。
【0015】
より好ましくは、少なくとも、開口部の周縁端を基点とし、鉛直方向から横方向外側の45°方向に延びる傾斜仮想面で囲まれた開口部の上方領域に、不燃性板材が配設されていることで、すなわち、天井裏空間全体に不燃性板材を設置せず、少なくとも前記開口部の上方領域に不燃性板材を部分的に設置しておくことにより、付帯設備から放射された熱を不燃性板材によって、より効率的、効果的に遮熱することができる。
【0016】
さらに好ましくは、少なくとも、開口部の周縁端を基点とし、鉛直方向から横方向外側の60°方向に延びる傾斜仮想面で囲まれた開口部の上方領域に、不燃性板材が配設されていることで、すなわち、天井裏空間全体に不燃性板材を設置せず、少なくとも前記開口部の上方領域に不燃性板材を部分的に設置しておくことにより、付帯設備から放射された熱を不燃性板材によって、さらに効率的、効果的に遮熱することができる。
【0017】
さらに、本発明の建物の耐火構造においては、前記不燃性板材が、前記天井材を吊り下げ支持するための前記吊り金具に上下方向に進退自在に支持されて設置されていることがより望ましい。
【0018】
この発明においては、不燃性板材の上下方向の位置を自在に変えることできる。これにより、付帯設備を取り付ける開口部の大きさや天井裏空間に配置された鉄骨構造部材や配管などの位置に応じ、不燃性板材の位置を容易に調節することができるとともに、確実に付帯設備から放射された熱を不燃性板材によって遮熱することができる。
【0019】
また、本発明の建物の耐火構造においては、前記不燃性板材が石膏ボードであることがさらに望ましい。
【0020】
この発明においては、不燃性板材が石膏ボードであることによって、付帯設備から放射された熱を確実に遮熱することができる。また、石膏ボードが加熱されると、この石膏ボードに含まれる水分の蒸発によって吸熱作用が生じるため、鉄骨構造部材や床材の温度を低温化させる効果を得ることができる。これにより、より確実に、付帯設備から放射された熱によって、天井裏空間内に配置された鉄骨構造部材が加熱されて強度低下が生じることを防止でき、また、床材が加熱されることを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の建物の耐火構造においては、照明器具、エアコン、スピーカー、スプリンクラー、点検口などの付帯設備を天井材に設置するための開口部と、床材及び/又は鉄骨構造部材との間に不燃性板材が設置されているため、火災時に付帯設備が加熱され、この付帯設備(開口部)から放射された熱を不燃性板材によって遮熱することができる。よって、付帯設備から放射された熱によって天井裏空間内に配置された鉄骨構造部材が加熱されて強度低下が生じることを防止できる。また、床材が加熱されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物の耐火構造を示す図である。
【図2】不燃性板材の大きさ、設置範囲を設定する方法の説明で用いた図である。
【図3】不燃性板材の大きさ、設置範囲を設定する方法の説明で用いた図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る建物の耐火構造の優位性を確認した実証実験の結果を示す図である。
【図5】実証実験で用いた4つの天井部の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1から図5を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の耐火構造について説明する。ここで、本実施形態は、例えばオフィスビルなどの複数階建ての建物における各階の天井部の耐火構造に関するものである。
【0024】
はじめに、本実施形態の建物の耐火構造Aの天井部1は、図1に示すように、上階の床材2を支持する鉄骨梁(鉄骨構造部材)3と、鉄骨梁3あるいは床材2に上端側を接続して配設された吊り金具4と、吊り金具4の下端側に接続した野縁5と、野縁5の下面にビスなどで固定して設けられた下階の天井材6と、天井材6に形成した開口部7に挿入固定して設置された付帯設備8とを備えて構成されている。
【0025】
また、本実施形態の建物の耐火構造Aは、上階の床材2と下階の天井材6と鉄骨梁3を備えてなる天井部1の耐火性能を確保するための構造であり、上記の天井部1と、天井部1の天井材6と床材2の間に配設された不燃性板材10とを備えて構成されている。
【0026】
本実施形態において、鉄骨梁3は、上フランジと下フランジと上下のフランジを連設するウェブからなるH形鋼であり、上フランジの上面に床材2を取り付けて支持するように設けられている。なお、図1で、鉄骨梁3が付帯設備8に対して平行且つ直上に取り付けられているように図示したが、鉄骨梁3の配設位置は、図1のように限定する必要はなく、例えば付帯設備8に対して鉄骨梁3が直交する方向など、どのような方向に配設されていてもよい。また、付帯設備8の直上に鉄骨梁3が配設されていなくてもよい。そして、この鉄骨梁3として耐火鋼を用いることがより好ましい。
【0027】
吊り金具(吊りボルト)4は、鋼製であり、略円柱棒状に形成されるとともに外周面に雄ネジの螺刻が形成されている。また、本実施形態では、この吊り金具4に、ナット11と、中央に挿通孔を備えた支持板12とが取り付けられている。支持板12は、挿通孔に吊り金具4を挿通し、吊り金具4の雄ネジに螺着したナット11に当接して、吊り金具4に位置決め固定されている。すなわち、支持板12は、ナット11を回動させることによって、ナット11とともに吊り金具4の軸線方向の上下位置を自在に調節できるように吊り金具4に取り付けられている。
【0028】
天井材6は、例えば石膏ボードやロックウール吸音板などの耐火材(耐熱材)が適用される。ここで、ロックウール吸音板とは、ロックウール繊維をデンプンバインダーで成形して製作したものであり、軽量で吸音性、断熱性、加工性、意匠性に優れた天井用内装材である。また、ロックウール繊維は、耐熱性に優れた高炉スラグや玄武岩、その他の天然岩石などを主原料として、1500〜1600℃の高温で溶融し、その後、遠心力等で吹き飛ばして繊維状にした人工鉱物繊維である。
【0029】
そして、この天井材6は、野縁5の下面にビスなどで固定して吊り金具4によって吊り下げ支持されている。これにより、天井材6は、下階の天井面を形成するとともに、上階の床材2との間に天井裏空間Hを形成している。
【0030】
本実施形態において、付帯設備8は、照明器具であり、例えば光源として直管型蛍光ランプ8aを備えている。また、直管型蛍光ランプ8aが、図示せぬソケットホルダーに取り外し可能に装着され、この直管型蛍光ランプ8aの上面部及び側面部を含む外周側に、直管型蛍光ランプ8aを保護するための鋼板8bが取り付けられている。そして、この照明器具8は、天井材6に形成した開口部7に鋼板8bを挿入固定して、天井材6から天井裏空間H内に埋設されている。
なお、本実施形態では、付帯設備8が照明器具であるものとしたが、本発明にかかる付帯設備8は、天井材6に開口部7を形成して設置するものであれば、エアコン、スピーカー、スプリンクラー、点検口などであってもよく、特に照明器具に限定する必要はない。
【0031】
一方、本実施形態の建物の耐火構造Aにおいて、不燃性板材10は、石膏ボードであり、鉄骨梁3と天井材6の開口部7との上下方向T1の間に、板面を上下方向T1に向けて設置されている。なお、天井材6の開口部7の上方に鉄骨梁3がない場合には、不燃性板材10が床材2と天井材3の開口部7との上下方向T1の間に設置される。また、不燃性板材10は、ロックウール材などを含んで成形した耐火材(耐熱材)であってもよく、耐火性能、遮熱性能に優れていれば特に限定を必要としない。
【0032】
また、本実施形態では、不燃性板材10が天井材6の開口部7の直上に局所的に設けられ、吊り金具4に取り付けた支持板12で支持されている。これにより、不燃性板材10は、吊り金具4に取り付けたナット11を操作して支持板12を上下方向T1に進退させることによって、支持板12とともにその上下方向T1の位置を自在に調節できるように設けられている。なお、不燃性板材10は、開口部7の直上だけでなく、天井部1の天井裏空間H内の水平面全面に設けるようにしてもよい。また、図1に示すように、天井材6の開口部7の直上に局所的に設ける場合には、他の部分の天井材6上に不燃性板材13を積層配置しておくことが天井部1全体の耐火性能を確保する上で好ましい。
【0033】
ここで、本実施形態では、天井材6の開口部7の直上に設ける不燃性板材10の大きさを次のように設定する。
【0034】
はじめに、図2(a)に示すように、微小面積要素dAから熱エネルギーが放射されるものとした場合、この微小面積要素dAを発して微小面積要素dAに達する熱エネルギーdq1−2は次の式(1)で表される。
【0035】
【数1】

ここで、Eb1、Eb2はそれぞれ、面A、面Aの放射能(W/m)である。
【0036】
また、同様に微小面積要素dAを発して微小面積要素dAに達する熱エネルギーdq2−1は式(2)で表される。
【0037】
【数2】

【0038】
したがって、上記の式(1)、式(2)により、面Aから面Aに達する正味の熱エネルギーQ1−2は次の式(3)で表される。
【0039】
【数3】

【0040】
ここで、式(3)の∫A2A1cosφcosφ(dAdA/πr)は形態係数(=F1−2)と呼ばれ、A、Aの形状が分かれば積分可能な値である。
例えば、図2(b)に示すように、直線dAからdAに平行な長方形への形態係数Fd1−2は次の式(4)で表される。
【0041】
【数4】

ここで、X=a/c、Y=c/bである。
【0042】
そして、図3(a)に示すように、照明器具8を平板にモデル化し、天井裏空間Hの高さを1000mm、鉄骨梁3の梁成を700mm、照明器具8の厚さを150mm、照明器具8の幅(開口部7の幅)を300mmとして、平板8の外周端(開口部7の周縁端7a)に位置する微小要素から床材2の下面への熱放射を考えると、式(4)からその大きさは図3(b)で示すように求められる。
【0043】
この図3(b)において、横軸は微小要素直上の床材2の下面位置からの距離Lであり、縦軸はL=0の位置におけるFd1−2に対するL=xの位置におけるFd1−2の比αである。そして、α≧0.5の範囲における位置で平板(照明器具8)からの熱放射を遮蔽すると仮定すると、図3に示すように、微小要素からの熱放射を考慮すべき範囲が、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の30°方向に延びる傾斜仮想面m1で囲まれた開口部7の上方領域(鉛直上向きから30°方向よりも内側の領域)になることが導出される。
【0044】
さらに、α≧0.25の範囲における位置で平板(照明器具8)からの熱放射を遮蔽すると仮定すると、図3に示すように、微小要素からの熱放射を考慮すべき範囲が、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の45°方向に延びる傾斜仮想面m2で囲まれた開口部7の上方領域(鉛直上向きから45°方向よりも内側領域)になることが導出される。
【0045】
さらに、α≧0.1の範囲における位置で平板(照明器具8)からの熱放射を遮蔽すると仮定すると、図3に示すように、微小要素からの熱放射を考慮すべき範囲が、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の60°方向に延びる傾斜仮想面m3で囲まれた開口部7の上方領域(鉛直上向きから60°方向よりも内側の領域)になることが導出される。
【0046】
したがって、少なくともこの開口部7の上方領域をカバーする大きさの不燃性板材10を、この上方領域をカバーすることができる位置に配設することによって、火災時に照明器具8を設置した開口部7から放射された熱が不燃性板材10で遮断される。言い換えると、少なくともこの上方領域以上の面積を有する不燃性板材10を開口部7の直上に設置することによって、火災時に照明器具8を設置した開口部7から放射された熱が不燃性板材10で遮断される。
【0047】
また、図3(a)に示したモデルでは、開口部7の上方領域をカバーする不燃性板材10の水平長さが鉄骨梁3の寸法を考慮して算定すると1000mm程度となり、不燃性板材10の水平長さは開口部7の幅の1〜5倍程度に設定することが適当であると判断された。
【0048】
そして、上記構成からなる本実施形態の建物の耐火構造Aにおいては、照明器具8の付帯設備を天井材6に取り付けるための開口部7と鉄骨梁3(床材2)の間に不燃性板材10が介設されているため、火災時に照明器具8が加熱され、この照明器具8から放射された熱が不燃性板材10によって遮熱される。このため、照明器具8からの放射熱によって天井裏空間H内に配置された鉄骨梁3が加熱されて強度低下が生じることが防止されることになる。また、床材2が加熱されることも防止される。
【0049】
さらに、このとき、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の30°方向に延びる傾斜仮想面m1で囲まれた開口部7の上方領域に不燃性板材10を介設することによって、照明器具8から放射された熱が不燃性板材10によって効率的、効果的に遮熱される。
【0050】
より好ましくは、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の45°方向に延びる傾斜仮想面m2で囲まれた開口部7の上方領域に不燃性板材10を介設することによって、照明器具8から放射された熱が不燃性板材10によってより効率的、効果的に遮熱される。
【0051】
さらに好ましくは、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の60°方向に延びる傾斜仮想面m3で囲まれた開口部7の上方領域に不燃性板材10を介設することによって、照明器具8から放射された熱が不燃性板材10によってさらに効率的、効果的に遮熱される。
【0052】
そして、本実施形態では、吊り金具4に取り付けたナット11を操作して支持板12の位置を調節することによって、不燃性板材10の上下方向T1の位置が自在に調節される。このため、開口部7の上方領域に不燃性板材10が容易に且つ確実に配置される。また、不燃性板材10の位置を調節して、照明器具8、鉄骨梁3、配管などの存在による段差に柔軟に対応し、これら段差に干渉しないように容易に且つ確実に不燃性板材10の設置が行える。
【0053】
また、本実施形態の建物の耐火構造Aでは、不燃性板材10として石膏ボードを用いている。そして、石膏ボードを用いた場合には、石膏ボードに約21%相当の水が結晶水として含まれているため、火災時に不燃性板材10が炎や熱に晒されるとともに、この水が蒸気として放出され、これに伴い熱が吸収される。このため、不燃性板材10として石膏ボードを用いた場合には、結晶水の蒸発時の吸熱作用に伴って、鉄骨梁3や床材2の加熱が抑制され、優れた耐火性能が発揮されることになる。
【0054】
ここで、図4は、照明器具8及び不燃性板材10がないケース1(図5(a))と、照明器具8があり、不燃性板材10がないケース2(図5(b))と、照明器具8があり、天井部1全体の天井裏空間H内に不燃性板材10を設置したケース3(本発明:図5(c))と、照明器具8があり、照明器具8の直上に不燃性板材10を介設し、他の部分は天井材6上に不燃性板材13を設置したケース4(本発明:図5(d))の4つのケースに対して耐火性試験を行った結果を示している。
【0055】
また、この耐火性試験では、ISO834の標準加熱温度曲線に沿うように天井材6を下階の室内側から加熱し、上階の床材2の温度を計測した。そして、鋼材の強度が約2/3に低下する350℃を判定基準とし、この判定基準温度に達するまでの時間を計測して各ケースの評価を行った。
【0056】
この結果を示す図4から、まず、照明器具8及び不燃性板材10がないケース1に対し、照明器具8があり、不燃性板材10がないケース2は、急激に床材2の温度が上昇することが確認され、火災時に、照明器具8(天井材6に形成した開口部7)に起因して床材2ひいては鉄骨梁3の温度が急激に上昇することが実証された。
【0057】
一方、照明器具8があり、照明器具8の直上に不燃性板材10を介設し、他の部分は天井材6上に不燃性板材13を設置したケース4(本発明)では、照明器具8に起因した床材2ひいては鉄骨梁3の温度上昇が全く認められず、逆に、照明器具8及び不燃性板材10がないケース1よりも床材2の温度の上昇傾向が小さく抑えられ、判定基準温度に達するまでに最も時間を要する結果となった。これにより、照明器具8の直上に不燃性板材10を介設し、他の部分は天井材6上に不燃性板材13を設置したケース4(本発明)は、優れた耐火性能を発揮することが実証された。
【0058】
また、照明器具8があり、天井部1全体の天井裏空間H内に不燃性板材10を介設したケース3(本発明)では、加熱開始からしばらくの間、ケース1、ケース4(本発明)よりも床材2の温度上昇が抑えられ、優れた耐火性能が発揮された。しかしながら、この間、天井材6と天井部1全体に配設された不燃性板材10の間の空間に熱がこもり、加熱によって天井材6、不燃性板材10が落下するとともに急激に床材2が加熱され、結果として、ケース1やケース4よりも判定基準温度に早期に達することが確認された。
【0059】
このことから、天井材6と床材2の間に不燃性板材10を介設することによって、耐火性能が大幅に向上し、優れた耐火性能が発揮されることが確認されるとともに、天井材6と不燃性板材10の間の空間に熱がこもらないよう、不燃性板材10を挟んで天井材6側の空間と床材2側の空間を連通させておくことがより効果的であることが確認された。
【0060】
したがって、本実施形態の建物の耐火構造Aにおいては、照明器具などの付帯設備8を天井材6に取り付けるための開口部7と床材2及び/又は鉄骨梁3(鉄骨構造部材)の間に不燃性板材10が設置されているため、火災時に付帯設備8が加熱され、この付帯設備8から放射された熱を不燃性板材10によって遮熱することができる。これにより、付帯設備8からの放射熱によって天井裏空間H内に配置された鉄骨梁3や鉄骨柱が加熱されて強度低下が生じることを防止できる。また、床材2が加熱されることを防止できる。
【0061】
また、このとき、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の30°方向に延びる傾斜仮想面m1で囲まれた開口部7の上方領域に、不燃性板材10が配設されていることで、すなわち、天井裏空間H全体に不燃性板材10を設置せず、少なくとも開口部7の上方領域に不燃性板材10を部分的に設置しておくことにより、付帯設備8から放射された熱を不燃性板材10によって効率的、効果的に遮熱することができる。
【0062】
より好ましくは、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の45°方向に延びる傾斜仮想面m2で囲まれた開口部7の上方領域に、不燃性板材10が配設されていることで、すなわち、天井裏空間H全体に不燃性板材10を設置せず、少なくとも開口部7の上方領域に不燃性板材10を部分的に設置しておくことにより、付帯設備8から放射された熱を不燃性板材10によってより効率的、効果的に遮熱することができる。
【0063】
さらに好ましくは、少なくとも、開口部7の周縁端7aを基点とし、鉛直方向T1から横方向T2外側の60°方向に延びる傾斜仮想面m3で囲まれた開口部7の上方領域に、不燃性板材10が配設されていることで、すなわち、天井裏空間H全体に不燃性板材10を設置せず、少なくとも開口部7の上方領域に不燃性板材10を部分的に設置しておくことにより、付帯設備8から放射された熱を不燃性板材10によってさらに効率的、効果的に遮熱することができる。
【0064】
さらに、不燃性板材10が、天井材6を吊り下げ支持するための吊り金具4に上下方向T1に進退自在に支持されて設置されていることで、不燃性板材10の上下方向T1の位置を自在に変えることできる。これにより、付帯設備8を取り付ける開口部7の大きさや天井裏空間Hに配置された鉄骨構造部材3や配管などの位置に応じ、不燃性板材10の位置を容易に調節することができるとともに、確実に付帯設備8から放射された熱を不燃性板材10によって遮熱することができる。
【0065】
また、不燃性板材10が石膏ボードであることによって、付帯設備8から放射された熱を確実に遮熱することができる。さらに、石膏ボードが加熱されると、この石膏ボードに含まれる水分の蒸発によって吸熱作用が生じるため、鉄骨梁3や床材2の温度を低温化させる効果を得ることができる。これにより、より確実に、付帯設備8から放射された熱によって、天井裏空間H内に配置された鉄骨梁3が加熱されて強度低下が生じることを防止でき、また、床材2が加熱されることを防止できる。
【0066】
以上、本発明に係る建物の耐火構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 天井部
2 床材
3 鉄骨梁(鉄骨構造部材)
4 吊り金具
5 野縁
6 天井材
7 開口部
7a 周縁端
8 照明器具(付帯設備)
8a 直管型蛍光ランプ
8b 鋼板
10 不燃性板材
11 ナット
12 支持板
13 不燃性板材
A 建物の耐火構造
H 天井裏空間
m1 傾斜仮想面
m2 傾斜仮想面
m3 傾斜仮想面
T1 上下方向(鉛直方向)
T2 横方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階の床材と、下階の天井材と、前記床材と前記天井材の間の天井裏空間に配置された鉄骨構造部材とを備えてなる天井部の耐火性能を確保するための建物の耐火構造であって、
前記天井材に形成された付帯設備を設置するための開口部と、前記床材及び/又は前記鉄骨構造部材との上下方向の間に、板面を上下方向に向けて配設された不燃性板材を備えて構成されていることを特徴とする建物の耐火構造。
【請求項2】
請求項1記載の建物の耐火構造において、
少なくとも、前記開口部の周縁端を基点とし、鉛直方向から横方向外側の30°方向に延びる傾斜仮想面で囲まれた前記開口部の上方領域に、前記不燃性板材が配設されていることを特徴とする建物の耐火構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の建物の耐火構造において、
前記不燃性板材が、前記天井材を吊り下げ支持するための前記吊り金具に上下方向に進退自在に支持されて設置されていることを特徴とする建物の耐火構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の建物の耐火構造において、
前記不燃性板材が石膏ボードであることを特徴とする建物の耐火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112997(P2013−112997A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260065(P2011−260065)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】