建物の補強構造
【課題】本発明では、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができコストを低減できるとともに、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約がない、建物の補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、梁を備えた建物の補強構造であって、両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【解決手段】本発明は、梁を備えた建物の補強構造であって、両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐震性が向上する住宅の外壁補強構造として、筋交い耐力壁や構造用合板による耐力壁の増設の他に、特許文献1に示すようなものが知られている。特許文献1に記載された住宅の外壁の補強構造は、図17に示すように、基礎コンクリート106と天井側の梁110若しくは柱109との間に金属製筋交い部材115が配置され、基礎コンクリート106に金属製補強部材117が固定されて、金属製筋交い部材115の上端部は、天井側の梁110若しくは柱109にラダスクリュー112で固定されるとともに、その下端部は、基礎コンクリート106の金属製補強部材117に、張力調整用部材120〜122を介して固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−133296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の補強工事では、補強効率の観点から補強工事箇所が少ない方がよく、更に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いる方がよい。しかしながら、壁強さ倍率の高い耐力壁の反力を確保するためには、通常、鉄筋コンクリート布基礎補強工事をして、壁強さ倍率に応じた接合強度を持つ柱脚金物を設置する必要があるので、無筋コンクリート布基礎の場合、基礎の補強工事費用の増加により耐震補強工事が普及しない問題があった。一方、基礎補強工事をしない場合には、無筋コンクリート布基礎に見合った壁強さ倍率の低い耐力壁を用いることとなる。その場合、耐力確保のためには必要壁長さを確保する必要があり、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約を受ける問題があった。特に、住環境や建物用途上が制限されている狭小住宅において、その影響はより深刻に現れる。
【0005】
本発明では、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上できるとともに、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約がない、建物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した建物の補強構造は、梁を備えた建物の補強構造であって、両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した建物の補強構造は、梁を備えた建物の補強構造であって、既設軸組に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した建物の補強構造は、請求項1または2に記載の建物の補強構造であって、コンクリート布基礎が無筋コンクリート布基礎であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができるので、コストを低減して耐震性を向上できるとともに、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約がない、建物の補強構造を提供することができる。
【0010】
また、コンクリート布基礎にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎に過大な反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の建物の補強構造の断面図である。
【図2】同建物の補強構造の断面図である。
【図3】他の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図4】別の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図5】さらに別の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図6】新設柱が既設梁にせん断力のみを伝達する具体的な手段の断面図である。
【図7】新設柱が既設梁にせん断力のみを伝達する別の具体的な手段の断面図である。
【図8】本発明の建物の補強構造を適応した住宅の平面図である。
【図9】本発明の建物の補強構造を住宅に適応した時の、精密診断法による結果と固有周期との関係を表す図である。
【図10】曲げ伝達梁付き面材耐力壁にかかるせん断力を計測する方法を示す図である。
【図11】曲げ伝達梁付き面材耐力壁にかかるせん断力を計測した試験結果である。
【図12】試験体の荷重計位置と、荷重―変形角曲線とを示す図である。
【図13】曲げ伝達梁の曲げ応力度の検定モデルを示す図である。
【図14】固有周期―変位の関係をしめす図である。
【図15】柱軸力の計測方法とその結果を示す図である。
【図16】洋室1の荷重分布を示す図である。
【図17】従来例の建物の補強構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、開示する実施形態は、すべての点で例示的であって制限的なものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲内およびこれと均等の範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
ここで、コンクリート布基礎6に略水平な方向を「水平方向」といい、コンクリート布基礎6に略垂直な方向を「垂直方向」と言うことにする。また、曲げ伝達梁1の両端を「両端部分」と言うことにする。さらに、曲げ伝達梁1の両端部分に着設される新設柱を端部新設柱2bと言う。新設柱2aの両端部分を、「一方」および「他方」と言い、端部新設柱2bの両端部分を、「一方」および「他方」と言うことにする。
【0014】
<第1実施形態>
図1、および図2を参照して、第1実施形態の建物の補強構造を説明する。本実施形態の建物の補強構造は、曲げ伝達梁1、新設柱2a、端部新設柱2b、耐力壁3、およびスペーサ5を備える。
【0015】
曲げ伝達梁1は、両端部分にスペーサ5を介して、アンカーボルト19によってコンクリート布基礎6上に着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分において、端部新設柱2bの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方が既設梁4に着設している。言い換えると、端部新設柱2bは、垂直方向に起立した状態で、曲げ伝達梁1と既設梁4とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分以外の部分において、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方が既設梁4にせん断力のみ伝達する手段により接合されている。さらに、耐力壁3の少なくとも垂直方向の一辺が、新設柱2aの垂直方向に沿って接合されている。なお、曲げ伝達梁1の素材は問わないが、特に木製で構成されていることが好適である。
【0016】
図6を参照して、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な手段を説明する。新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設されており、他方が水平方向から第1受け材16と第2受け材17とで狭持されている。言い換えると、新設柱2aは、既設梁4にラグスクリュ9で着設された第1受け材16と第2受け材17とにより、水平方向に狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを曲げ伝達梁1に伝達し、軸方向にフリーになるように構成されている。新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方が既設梁4と接しないように、新設柱2aの長さは決定されている。具体的には、新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方と既設梁4とが、30mm程度の間隔を有していればよく、30mmの間隔が好適である。
【0017】
また、図7を参照して、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する別の具体的な手段を説明する。新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側にほぞを形成し、既設梁4にほぞ穴を形成して、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側と既設梁4とをほぞ組みで接合する。新設柱2aにほぞが形成されている範囲は、既設梁4のほぞ穴に新設柱2aに形成されたほぞを挿入した時に、既設梁4と、新設柱2aのほぞ非形成領域とが30mm程度接しない範囲であればよく、30mmの間隔が好適である。言い換えると、新設柱2aは、水平方向から既設梁4により狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを曲げ伝達梁1に伝達できるように構成されている。なお、新設柱2aと既設梁4との接合方法は、ほぞ組みに限定されず、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達することができる接合方法であれば他の接合方法を用いることもできる。
【0018】
図2を参照して、建物の補強構造にせん断力が加わったときに、コンクリート布基礎6に作用する反力について説明する。建物の補強構造にせん断力が加わったとき、コンクリート布基礎6に作用する力V1は、以下の式(式(1))で表される。
V1=P1・H1/W1 ・・・式(1)
ここで、V1はコンクリート布基礎6に上向きに作用する力、P1は建物の補強構造にかかるせん断力、を表す。また、P1が作用する端部新設柱2bと反対側の端部新設柱2bと曲げ伝達梁1との着設点を原点O1と言うことにして、H1は端部新設柱2bの長さ、W1はV1が作用する点と原点O1との距離(曲げ伝達梁1の長さ)に作用する力をそれぞれ表す。
【0019】
式(1)によれば、耐力壁3長さより長い曲げ伝達梁1を使用し、距離W1を十分大きくすれば、コンクリート布基礎6に作用する力V1を低減させることができるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用するのを避けることができる。具体的には、曲げ伝達梁1の長さWは、耐力壁3の曲げ伝達梁1に接合した辺の長さの3倍以上が好適である。
【0020】
上述した、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する手段によれば、新設柱2aは、既設梁4にせん断力のみを伝達するので、既設梁4を突き上げない。言い換えれば、端部新設柱2bは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達するが、新設柱2aは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達しない。
【0021】
つまり、上述した手段により、建物の補強構造の垂直方向に作用する力は、端部新設柱2bが着接する曲げ伝達梁1の両端部分で伝達するので、距離W1を十分大きくすることにより、コンクリート布基礎6に作用する力V1を低減させることができる。さらに、コンクリート布基礎6を建物の自重が、端部新設柱2bと曲げ伝達梁1との着設点に作用しコンクリート布基礎6を押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しないようにできる。従って、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上することができる。
【0022】
また、コンクリート布基礎6にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎6を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁3を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【0023】
また、図3を参照して、本実施形態の建物の補強構造は、耐力壁3の、一辺が端部新設柱2bに接合され、該一辺の対辺が新設柱2aに接合されている構成としてもよい。
【0024】
<第2実施形態>
図4を参照して、第2実施形態の建物の補強構造を説明する。本実施形態の建物の補強構造は、曲げ伝達梁1、新設柱2a、端部新設柱2b、および耐力壁3を備える。
【0025】
水平方向に配設された曲げ伝達梁1は、既設軸組15に着設されている。既設柱18は、一端が既設軸組15に着設され、他端がコンクリート布基礎6に着設されており、垂直方向に起立した状態で既設軸組15とコンクリート布基礎6とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分において、端部新設柱2bの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方がコンクリート布基礎6に着設している。言い換えると、端部新設柱2bは、垂直方向に起立した状態で、曲げ伝達梁1とコンクリート布基礎6とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分以外の部分において、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方がコンクリート布基礎6にせん断力のみ伝達する手段により接合されている。さらに、耐力壁3の少なくとも垂直方向の一辺が、新設柱2aの垂直方向に沿って接合されている。
【0026】
第2実施形態の、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な手段は、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設されており、他方が水平方向から第1受け材16と第1受け材17とで狭持されている。言い換えると、新設柱2aは、コンクリート布基礎6にアンカーボルト19で着設された第1受け材16と第2受け材17、あるいは土台にラグスクリュ9で着設された第1受け材16と第2受け材17により、水平方向に狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを伝達できるように構成されている。新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方がコンクリート布基礎6あるいは土台と接しないように、新設柱2aの長さは決定されている。具体的には、新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方とコンクリート布基礎6とが、30mm程度の間隔を有していればよく、30mmの間隔が好適である(図示せず)。
【0027】
また、第2実施形態の、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する別の具体的な手段は、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側にほぞを形成し、コンクリート布基礎6上に着設された土台にほぞ穴を形成して、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着設しない側と土台とを、ほぞ非形成領域と土台とが30mm程度(好適には30mm)の間隔を有して、ほぞ組みによって接合するように構成されている点を除いて、第1実施形態の新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な別の手段と同様である(図示せず)。
【0028】
図4を参照して、建物の補強構造にせん断力が加わったときに、コンクリート布基礎6に作用する反力について説明する。建物の補強構造にせん断力が加わったとき、コンクリート布基礎6に作用する力V2は、以下の式(式(2))で表される。
V2=P2・H2/W2 ・・・式(2)
ここで、V2はコンクリート布基礎6に作用する力、P2は建物の補強構造にかかるせん断力、を表す。また、P2が作用する端部新設柱2bと反対側の端部新設柱2bとコンクリート布基礎6との着設点を原点O2と言うことにして、H2は端部新設柱2bの長さ、W2はV2が作用する点と原点O2との距離(曲げ伝達梁1の長さ)に作用する力をそれぞれ表す。
【0029】
式(2)によれば、耐力壁3長さより長い曲げ伝達梁1を使用し、距離W2を十分大きくすれば、コンクリート布基礎6に作用する力V2を低減させることができるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用するのを避けることができる。具体的には、曲げ伝達梁1の長さWは、耐力壁3の曲げ伝達梁1に接合した辺の長さの3倍以上が好適である。
【0030】
上述した、新設柱2aがコンクリート布基礎6にせん断力のみ伝達する手段によれば、新設柱2aは、コンクリート布基礎6にせん断力のみを伝達するので、コンクリート布基礎6を突き下げない。言い換えれば、端部新設柱2bは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達するが、新設柱2aは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達しない。
【0031】
つまり、上述した手段により、建物の補強構造の垂直方向に作用する力は、端部新設柱2bが着設する曲げ伝達梁1の両端部分で伝達するので、距離W2を十分大きくでき、コンクリート布基礎6に作用する力V2を低減させることができる。さらに、コンクリート布基礎6を建物の自重が、端部新設柱2bとコンクリート布基礎6との着設点に作用しコンクリート布基礎6を押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用しないようにできる。従って、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上することができる。
【0032】
また、コンクリート布基礎6にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎6を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁3を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【0033】
また、図5を参照して、本実施形態の建物の補強構造は、耐力壁3の、一辺が端部新設柱2bに接合され、該一辺の対辺が新設柱2aに接合されている構成としてもよい。
【実施例】
【0034】
第1実施形態の建物の補強構造を適用して、平屋建てに2階を増築した築46年の木造住宅(図8参照)の2階直下をコンクリート布基礎6を新設せずに、耐震補強工事を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
建物の耐震補強工事の実施前と実施後の建物を、精密診断法(財団法人日本建築防災協会:木造住宅の耐震診断と補強方法、2004年発行)により診断した。その結果を表1に示す。補強工事後の建物に実施した診断結果は、上部構造評点が1.00以上となり、本発明の補強工事の実施により耐震性が大きく改善された。
【0037】
また、図8に示したように、加速度計14a〜14dを設置し、X軸方向およびY軸方向の加速度を計測し、建物の固有周期T(s)を算出した。図9に示すように耐震補強工事の進行に伴い、固有周期Tが短くなり、固有周期Tの観点からも耐震性が大きく改善された。
【0038】
また、各施行段階のX,Y方向の剛性Kを以下の式(式(3))で算出し、補強による剛性Kの増加量ΔK0を調べた。
T=2π・√M/√K ・・・式(3)
ここで、Tは固有周期、Kは剛性を示す。Mは、固有周期Tと固定荷重や積載荷重から積算した当該箇所の1階の階高の1/2より上の建物重量M=135kNを示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2における各番号は、以下の補強工事の工程を示す((ii):計測初期状態、(iii):圧縮筋交い、(iv):全ネジブレース(1階)、(v):基礎梁つき面材耐力壁、(vi):構造用合板、(vii):構造用合板、(viii):構造用合板および全ネジブレース(2階))。
【0041】
表2に示すように補強工事の進行に伴い、特に本発明の建物の補強構造を組み入れたとき(v)に建物剛性K(kN/m)が著しく向上し、建物剛性Kの観点からも耐震性が大きく改善された。
【0042】
また、本発明の建物の補強構造、特に耐力要素について、さらに詳細に研究された。
【0043】
<耐力要素>
図1のように柱頭柱脚接合部を、金物工法に用いる金物で接合した柱−横架材の両面に12mmの構造用合板を75mmピッチで釘打ちした高耐力要素であり、水平力による浮き上がりを低減できるように、せい330mm、アンカーボルト19間2400mm程度の曲げ伝達梁1(以下、基礎梁1という)を設け、さらに端部新設柱2bは既存柱18とラグスクリュ9で固定して、又、端部新設柱2bは基礎梁1に直接突きつけて建物の鉛直荷重による押さえ込みにより、基礎梁1を固定するアンカーボルト19に作用する引張力を軽減できるのが特徴である。その際、この引張力をアンカーボルト19が負担できるよう、厚み200mm程度の土間コンクリート6を打設する必要はあるが、新たに鉄筋コンクリート造の布基礎6を新設するよりは簡易な工法である。なお、曲げ伝達梁1がたわんでも土間コンクリート6天端に接しないよう、厚さ20mmの基礎パッキン5をアンカー部に設けている。また新設柱2aはこの耐力要素に水平力が作用し1/10rad.まで変形しても既設梁4を突き上げないよう30mm程度の隙間をあけている。B方向の加力では、既設梁4に取り付けられた受け材17からホールダウン金物10(以降、HD金物10)を介して端部新設柱2b側からせん断力が作用するように、A方向の加力では受け材17から直接端部新設柱2bにせん断力が作用するよう、受け材17を既設軸組15に取り付けた。
【0044】
<試験方法>
図12に示すとおり、試験体上部の片側を荷重計の有する繋ぎ材で水平移動を拘束し、下部をローラー支持された架台に固定し、架台を10tf用電動アクチュエータで水平移動させ、柱脚固定式による各所定変形角3回正負交番繰返しの漸増載荷とする。なお、基礎梁1付き面材耐力壁の試験のうちMW75−2、3では、基礎梁1両端のアンカーボルト19に作用するせん断力を計測するため、センターホール式の荷重計を2ヵ所設置した。
【0045】
<試験結果及び考察>
図11に各試験における荷重−変形角関係の包絡線一覧を、表3に完全弾塑性評価より得られた各特性値の平均値の一覧を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
<基礎梁付き面材耐力壁>
破壊性状について述べる。初期段階では、面材や釘のずれがみられた。変形が進むにつれてこれらが進展し、最終的には面材が軸材から外れることで耐力低下した。浮き上がり力の算定について述べる。図12(a)に示すように試験体の(I)水平荷重、(II)基礎梁1に作用するせん断力、(III)水平荷重をせん断力に偶力置換した計算結果を図12(b)に示す。図中の(II)と(III)は、概ね一致しており、水平荷重の偶力置換による基礎梁1の支持点でのせん断力の算定が妥当であることがわかった。また、最大耐力以降でも、全試験体で基礎梁1に損傷は見られなかった。基礎梁1の曲げに対する検定について述べる。図13に示すモデルを基に、本試験体の短期及び最大耐力時における基礎梁1の許容曲げ応力度を検定する。基礎梁1の断面係数は、図13に示す通り金物側の座堀り(16mm)と高力ボルト孔(14mm)の断面欠損を考慮して安全側に算定し、使用する木材の強度を短期は基準強度の2/3、最大耐力は基準耐力とした。計算において基礎梁1の曲げ応力を検討した結果、表4に示す通り短期せん断耐力及び最大荷重時ともに安全であることがわかり、実験と計算の両面で基礎梁1が安全であることを確認した。
【0048】
【表4】
【0049】
<まとめ>
安価に施工できる2種類の耐力要素を開発し、それらの水平加力試験を行うことにより構造性能を実験的に確認できた。
【0050】
また、本発明の建物の補強構造を適用した耐震改修事例について、さらに詳細に効果の検証が行われた。
【0051】
<耐震診断ならびに補強計画>
対象の住宅を図8に示す。この住宅は在来軸組構法で、平屋建てに2階を増築した築46年の住宅である。この住宅を精密診断法により診断した結果を表1に示す。その結果、建築基準法で定める大地震時に倒壊する可能性が高いと診断された。その主な原因として、2階直下に耐力要素が無いことと、洋室1に開口が多いことが考えられる。そこで、補強計画は診断結果と家主の要望に基づき、2階直下を布基礎を新設せずに基礎梁1付き面材耐力壁で補強すること、既存の開口を残すため全ネジブレース耐力壁を設けることを主とした。
【0052】
<耐震補強>
主な補強工事を図8の凡例に、補強後の診断結果を表1に示す。その結果、上部構造評点は1.00を上回り、大地震時に一応倒壊しないことを確認した。
【0053】
<建物の固有周期T>
各施工段階で人力加振による自由振動で建物の固有周期Tを計測し、建物の固有周期Tの変化と補強効果の関係を確認する。X、Y方向とも2階の2箇所を同時に人力で衝撃的に加力し、これを複数回行って2階の4ヵ所に設置した加速度計で加速度を計測し、FFTにより一次モード成分以外を除去して一次の固有周期Tを算出した。その際、加速度を変位に置換し、回帰直線の平均値で比較する。結果は図14のようになり、施工が進むにつれてY方向では固有周期Tに明確な変化がなかったのに対し、X方向では固有周期Tが短くなっている。さらに、計測初期の段階ではch3とch4の変位の差が大きいことから建物がねじれているのが確認できるが、施工が進むにつれて変位の差が減少していることからねじれがなくなり、固有周期Tからも補強効果を確認できた。
【0054】
<考察1:基礎梁付き面材耐力壁の必要反力>
基礎梁1付き面材耐力壁の浮上りに対する抵抗機構は、前報で述べた通りである。そこで、実験で計測されたアンカーボルト19に作用する引張力の最大値を必要反力として、コンクリートに埋めたアンカーボルト19に作用する引張力を、図16中のA、Bの箇所での鉛直荷重によりどの程度低減できるか検討する。ここで鉛直荷重は、実際にA、Bの箇所で図15に示すようにジャッキを梁の下端にあてて持ち上げて計測して算出した柱軸力(計測値)と、図16の荷重分布図を用いて、固定荷重や積載荷重と負担面積から算出した柱軸力(計算値)とし、両者の比較も行う。結果を表5に示す。柱軸力の比較は、柱Aでは梁のみが持ち上がったため、計測値よりも計算値の方が2階からの柱の軸力分だけ上回った。一方、柱Bは計測値と計算値が概ね一致した。しかし、柱Aは既存柱18とラグスクリュ9(LS12×240)3本で接合することで、2階からの柱の軸力分も押さえ込みに寄与できるように施工している。一方、柱Bでは、鉛直荷重による押さえ込みが生じ始める荷重は11kN程度であり、必要反力の1/2は少なくとも期待できる。したがって、コンクリートに埋め込まれたアンカーボルト19は最大で10kN程度の引張力に対して抵抗すればよいことが確認できた。
【0055】
【表5】
【0056】
<考察2:固有周期Tと上部構造評点の関係>
各施工段階でのX、Y方向の固有周期Tと精密診断の上部構造評点の関係を調べる。なお、(i)は施工のために荷物を1階から2階へ移動したことで荷重状況が(ii)以降と大きく異なるため、比較対象から除く。結果を図9に示す。1階を補強した時はX、Y方向とも、施工が進むにつれて評点の上昇に伴い固有周期Tが短くなる相関関係が見られ、この関係はX方向で特に基礎梁耐力壁を施工した(v)で顕著に見られた。一方、2階を補強した時は、(vii)−(viii)間のみでこの関係が見られた。
【0057】
<考察3:固有周期Tに基づく建物剛性Kの算出と比較>
固有周期Tと、固定荷重や積載荷重から算出した当該箇所の1階の階高の1/2より上の建物重量M=135kNを用い、各施工段階のX、Y方向の剛性Kを式(3)で算出し、補強による剛性Kの増加量ΔK0を調べる。そして、ΔK0と実際に追加した各耐力要素の剛性ΔK1、ΔK2を比較する。なおΔK1は追加した耐力要素の実験結果の包絡線データを完全弾塑性評価で求めた基準剛性、ΔK2は各耐力要素の実験結果から求めた自由振動時の変位量(0.1mm〜0.8mm)での割線剛性である。表2より剛性Kは施工が進むにつれて上昇した。剛性の増加量を比較すると、ΔK1よりΔK2の方がΔK0に近くなった。これはΔK2を自由振動時の変位量で評価したためと考えられる。また(v)、(viii)の施工時にΔK0が大幅に増加した原因は特定できなかったが、Y方向と2階を補強したことが要因の一つと推測される。
【0058】
<まとめ>
既存の住宅を対象として精密診断法により耐震診断を行い、開発した耐力要素を用いた補強前後の耐震性能を比較した。また、各施工段階で固有周期が短くなり、固有周期と上部構造評点の関係からも補強効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、建物の補強構造に関して有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 曲げ伝達梁(基礎梁)
2a 新設柱(柱B)
2b 端部新設柱(柱A)
3 耐力壁
4 既設梁(既存梁)
5 スペーサ(基礎パッキン)
6 コンクリート布基礎(土間コンクリート、布基礎)
7 土台
8 受け材
9 ラグスクリュ
10 ホールダウン金物
11 構造用合板
12 架台
13 荷重計
14a〜d 加速度計
15 既設軸組
16 第1受け材(受け材1)
17 第2受け材(受け材2)
18 既設柱(既存柱)
19 アンカーボルト
105 外壁
106 基礎コンクリート
109 柱
110 梁
112 ラダスクリュー(固定具)
115 金属製筋交い部材
117 金属製補強部材
120,122 ボルト(張力調整用部材)
121 ナット部材(張力調整用部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐震性が向上する住宅の外壁補強構造として、筋交い耐力壁や構造用合板による耐力壁の増設の他に、特許文献1に示すようなものが知られている。特許文献1に記載された住宅の外壁の補強構造は、図17に示すように、基礎コンクリート106と天井側の梁110若しくは柱109との間に金属製筋交い部材115が配置され、基礎コンクリート106に金属製補強部材117が固定されて、金属製筋交い部材115の上端部は、天井側の梁110若しくは柱109にラダスクリュー112で固定されるとともに、その下端部は、基礎コンクリート106の金属製補強部材117に、張力調整用部材120〜122を介して固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−133296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建物の補強工事では、補強効率の観点から補強工事箇所が少ない方がよく、更に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いる方がよい。しかしながら、壁強さ倍率の高い耐力壁の反力を確保するためには、通常、鉄筋コンクリート布基礎補強工事をして、壁強さ倍率に応じた接合強度を持つ柱脚金物を設置する必要があるので、無筋コンクリート布基礎の場合、基礎の補強工事費用の増加により耐震補強工事が普及しない問題があった。一方、基礎補強工事をしない場合には、無筋コンクリート布基礎に見合った壁強さ倍率の低い耐力壁を用いることとなる。その場合、耐力確保のためには必要壁長さを確保する必要があり、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約を受ける問題があった。特に、住環境や建物用途上が制限されている狭小住宅において、その影響はより深刻に現れる。
【0005】
本発明では、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上できるとともに、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約がない、建物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載した建物の補強構造は、梁を備えた建物の補強構造であって、両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した建物の補強構造は、梁を備えた建物の補強構造であって、既設軸組に着設された曲げ伝達梁と、前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎に着設された端部新設柱と、前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した建物の補強構造は、請求項1または2に記載の建物の補強構造であって、コンクリート布基礎が無筋コンクリート布基礎であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができるので、コストを低減して耐震性を向上できるとともに、開口を塞ぐなど住環境や建物用途上の制約がない、建物の補強構造を提供することができる。
【0010】
また、コンクリート布基礎にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎に過大な反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の建物の補強構造の断面図である。
【図2】同建物の補強構造の断面図である。
【図3】他の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図4】別の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図5】さらに別の実施形態の建物の補強構造の断面図である。
【図6】新設柱が既設梁にせん断力のみを伝達する具体的な手段の断面図である。
【図7】新設柱が既設梁にせん断力のみを伝達する別の具体的な手段の断面図である。
【図8】本発明の建物の補強構造を適応した住宅の平面図である。
【図9】本発明の建物の補強構造を住宅に適応した時の、精密診断法による結果と固有周期との関係を表す図である。
【図10】曲げ伝達梁付き面材耐力壁にかかるせん断力を計測する方法を示す図である。
【図11】曲げ伝達梁付き面材耐力壁にかかるせん断力を計測した試験結果である。
【図12】試験体の荷重計位置と、荷重―変形角曲線とを示す図である。
【図13】曲げ伝達梁の曲げ応力度の検定モデルを示す図である。
【図14】固有周期―変位の関係をしめす図である。
【図15】柱軸力の計測方法とその結果を示す図である。
【図16】洋室1の荷重分布を示す図である。
【図17】従来例の建物の補強構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、開示する実施形態は、すべての点で例示的であって制限的なものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲内およびこれと均等の範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
ここで、コンクリート布基礎6に略水平な方向を「水平方向」といい、コンクリート布基礎6に略垂直な方向を「垂直方向」と言うことにする。また、曲げ伝達梁1の両端を「両端部分」と言うことにする。さらに、曲げ伝達梁1の両端部分に着設される新設柱を端部新設柱2bと言う。新設柱2aの両端部分を、「一方」および「他方」と言い、端部新設柱2bの両端部分を、「一方」および「他方」と言うことにする。
【0014】
<第1実施形態>
図1、および図2を参照して、第1実施形態の建物の補強構造を説明する。本実施形態の建物の補強構造は、曲げ伝達梁1、新設柱2a、端部新設柱2b、耐力壁3、およびスペーサ5を備える。
【0015】
曲げ伝達梁1は、両端部分にスペーサ5を介して、アンカーボルト19によってコンクリート布基礎6上に着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分において、端部新設柱2bの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方が既設梁4に着設している。言い換えると、端部新設柱2bは、垂直方向に起立した状態で、曲げ伝達梁1と既設梁4とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分以外の部分において、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方が既設梁4にせん断力のみ伝達する手段により接合されている。さらに、耐力壁3の少なくとも垂直方向の一辺が、新設柱2aの垂直方向に沿って接合されている。なお、曲げ伝達梁1の素材は問わないが、特に木製で構成されていることが好適である。
【0016】
図6を参照して、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な手段を説明する。新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設されており、他方が水平方向から第1受け材16と第2受け材17とで狭持されている。言い換えると、新設柱2aは、既設梁4にラグスクリュ9で着設された第1受け材16と第2受け材17とにより、水平方向に狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを曲げ伝達梁1に伝達し、軸方向にフリーになるように構成されている。新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方が既設梁4と接しないように、新設柱2aの長さは決定されている。具体的には、新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方と既設梁4とが、30mm程度の間隔を有していればよく、30mmの間隔が好適である。
【0017】
また、図7を参照して、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する別の具体的な手段を説明する。新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側にほぞを形成し、既設梁4にほぞ穴を形成して、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側と既設梁4とをほぞ組みで接合する。新設柱2aにほぞが形成されている範囲は、既設梁4のほぞ穴に新設柱2aに形成されたほぞを挿入した時に、既設梁4と、新設柱2aのほぞ非形成領域とが30mm程度接しない範囲であればよく、30mmの間隔が好適である。言い換えると、新設柱2aは、水平方向から既設梁4により狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを曲げ伝達梁1に伝達できるように構成されている。なお、新設柱2aと既設梁4との接合方法は、ほぞ組みに限定されず、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達することができる接合方法であれば他の接合方法を用いることもできる。
【0018】
図2を参照して、建物の補強構造にせん断力が加わったときに、コンクリート布基礎6に作用する反力について説明する。建物の補強構造にせん断力が加わったとき、コンクリート布基礎6に作用する力V1は、以下の式(式(1))で表される。
V1=P1・H1/W1 ・・・式(1)
ここで、V1はコンクリート布基礎6に上向きに作用する力、P1は建物の補強構造にかかるせん断力、を表す。また、P1が作用する端部新設柱2bと反対側の端部新設柱2bと曲げ伝達梁1との着設点を原点O1と言うことにして、H1は端部新設柱2bの長さ、W1はV1が作用する点と原点O1との距離(曲げ伝達梁1の長さ)に作用する力をそれぞれ表す。
【0019】
式(1)によれば、耐力壁3長さより長い曲げ伝達梁1を使用し、距離W1を十分大きくすれば、コンクリート布基礎6に作用する力V1を低減させることができるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用するのを避けることができる。具体的には、曲げ伝達梁1の長さWは、耐力壁3の曲げ伝達梁1に接合した辺の長さの3倍以上が好適である。
【0020】
上述した、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する手段によれば、新設柱2aは、既設梁4にせん断力のみを伝達するので、既設梁4を突き上げない。言い換えれば、端部新設柱2bは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達するが、新設柱2aは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達しない。
【0021】
つまり、上述した手段により、建物の補強構造の垂直方向に作用する力は、端部新設柱2bが着接する曲げ伝達梁1の両端部分で伝達するので、距離W1を十分大きくすることにより、コンクリート布基礎6に作用する力V1を低減させることができる。さらに、コンクリート布基礎6を建物の自重が、端部新設柱2bと曲げ伝達梁1との着設点に作用しコンクリート布基礎6を押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しないようにできる。従って、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上することができる。
【0022】
また、コンクリート布基礎6にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎6を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁3を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【0023】
また、図3を参照して、本実施形態の建物の補強構造は、耐力壁3の、一辺が端部新設柱2bに接合され、該一辺の対辺が新設柱2aに接合されている構成としてもよい。
【0024】
<第2実施形態>
図4を参照して、第2実施形態の建物の補強構造を説明する。本実施形態の建物の補強構造は、曲げ伝達梁1、新設柱2a、端部新設柱2b、および耐力壁3を備える。
【0025】
水平方向に配設された曲げ伝達梁1は、既設軸組15に着設されている。既設柱18は、一端が既設軸組15に着設され、他端がコンクリート布基礎6に着設されており、垂直方向に起立した状態で既設軸組15とコンクリート布基礎6とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分において、端部新設柱2bの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方がコンクリート布基礎6に着設している。言い換えると、端部新設柱2bは、垂直方向に起立した状態で、曲げ伝達梁1とコンクリート布基礎6とに着設されている。曲げ伝達梁1の両端部分以外の部分において、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設され、他方がコンクリート布基礎6にせん断力のみ伝達する手段により接合されている。さらに、耐力壁3の少なくとも垂直方向の一辺が、新設柱2aの垂直方向に沿って接合されている。
【0026】
第2実施形態の、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な手段は、新設柱2aの、一方が曲げ伝達梁1に着設されており、他方が水平方向から第1受け材16と第1受け材17とで狭持されている。言い換えると、新設柱2aは、コンクリート布基礎6にアンカーボルト19で着設された第1受け材16と第2受け材17、あるいは土台にラグスクリュ9で着設された第1受け材16と第2受け材17により、水平方向に狭持されており、水平方向の力(せん断力)のみを伝達できるように構成されている。新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方がコンクリート布基礎6あるいは土台と接しないように、新設柱2aの長さは決定されている。具体的には、新設柱2aを設置したときに、新設柱2aの他方とコンクリート布基礎6とが、30mm程度の間隔を有していればよく、30mmの間隔が好適である(図示せず)。
【0027】
また、第2実施形態の、新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する別の具体的な手段は、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着接しない側にほぞを形成し、コンクリート布基礎6上に着設された土台にほぞ穴を形成して、新設柱2aの曲げ伝達梁1に着設しない側と土台とを、ほぞ非形成領域と土台とが30mm程度(好適には30mm)の間隔を有して、ほぞ組みによって接合するように構成されている点を除いて、第1実施形態の新設柱2aが既設梁4にせん断力のみ伝達する具体的な別の手段と同様である(図示せず)。
【0028】
図4を参照して、建物の補強構造にせん断力が加わったときに、コンクリート布基礎6に作用する反力について説明する。建物の補強構造にせん断力が加わったとき、コンクリート布基礎6に作用する力V2は、以下の式(式(2))で表される。
V2=P2・H2/W2 ・・・式(2)
ここで、V2はコンクリート布基礎6に作用する力、P2は建物の補強構造にかかるせん断力、を表す。また、P2が作用する端部新設柱2bと反対側の端部新設柱2bとコンクリート布基礎6との着設点を原点O2と言うことにして、H2は端部新設柱2bの長さ、W2はV2が作用する点と原点O2との距離(曲げ伝達梁1の長さ)に作用する力をそれぞれ表す。
【0029】
式(2)によれば、耐力壁3長さより長い曲げ伝達梁1を使用し、距離W2を十分大きくすれば、コンクリート布基礎6に作用する力V2を低減させることができるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用するのを避けることができる。具体的には、曲げ伝達梁1の長さWは、耐力壁3の曲げ伝達梁1に接合した辺の長さの3倍以上が好適である。
【0030】
上述した、新設柱2aがコンクリート布基礎6にせん断力のみ伝達する手段によれば、新設柱2aは、コンクリート布基礎6にせん断力のみを伝達するので、コンクリート布基礎6を突き下げない。言い換えれば、端部新設柱2bは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達するが、新設柱2aは、建物の補強構造の垂直方向に作用する力を伝達しない。
【0031】
つまり、上述した手段により、建物の補強構造の垂直方向に作用する力は、端部新設柱2bが着設する曲げ伝達梁1の両端部分で伝達するので、距離W2を十分大きくでき、コンクリート布基礎6に作用する力V2を低減させることができる。さらに、コンクリート布基礎6を建物の自重が、端部新設柱2bとコンクリート布基礎6との着設点に作用しコンクリート布基礎6を押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な反力が作用しないようにできる。従って、基礎補強工事をしなくても、建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁を用いることができ、コストを低減して耐震性を向上することができる。
【0032】
また、コンクリート布基礎6にかかる反力の低減を図ると同時に、コンクリート布基礎6を同時に建物の自重で押さえ込んでいるので、コンクリート布基礎6に過大な上向きの反力が作用しない。つまり、無筋コンクリート基礎を補強しなくても建物の補強構造に壁強さ倍率の高い耐力壁3を用いることができるので、コストも低減することができ、また、基礎の種類を問わず汎用的に用いることができる。
【0033】
また、図5を参照して、本実施形態の建物の補強構造は、耐力壁3の、一辺が端部新設柱2bに接合され、該一辺の対辺が新設柱2aに接合されている構成としてもよい。
【実施例】
【0034】
第1実施形態の建物の補強構造を適用して、平屋建てに2階を増築した築46年の木造住宅(図8参照)の2階直下をコンクリート布基礎6を新設せずに、耐震補強工事を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
建物の耐震補強工事の実施前と実施後の建物を、精密診断法(財団法人日本建築防災協会:木造住宅の耐震診断と補強方法、2004年発行)により診断した。その結果を表1に示す。補強工事後の建物に実施した診断結果は、上部構造評点が1.00以上となり、本発明の補強工事の実施により耐震性が大きく改善された。
【0037】
また、図8に示したように、加速度計14a〜14dを設置し、X軸方向およびY軸方向の加速度を計測し、建物の固有周期T(s)を算出した。図9に示すように耐震補強工事の進行に伴い、固有周期Tが短くなり、固有周期Tの観点からも耐震性が大きく改善された。
【0038】
また、各施行段階のX,Y方向の剛性Kを以下の式(式(3))で算出し、補強による剛性Kの増加量ΔK0を調べた。
T=2π・√M/√K ・・・式(3)
ここで、Tは固有周期、Kは剛性を示す。Mは、固有周期Tと固定荷重や積載荷重から積算した当該箇所の1階の階高の1/2より上の建物重量M=135kNを示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2における各番号は、以下の補強工事の工程を示す((ii):計測初期状態、(iii):圧縮筋交い、(iv):全ネジブレース(1階)、(v):基礎梁つき面材耐力壁、(vi):構造用合板、(vii):構造用合板、(viii):構造用合板および全ネジブレース(2階))。
【0041】
表2に示すように補強工事の進行に伴い、特に本発明の建物の補強構造を組み入れたとき(v)に建物剛性K(kN/m)が著しく向上し、建物剛性Kの観点からも耐震性が大きく改善された。
【0042】
また、本発明の建物の補強構造、特に耐力要素について、さらに詳細に研究された。
【0043】
<耐力要素>
図1のように柱頭柱脚接合部を、金物工法に用いる金物で接合した柱−横架材の両面に12mmの構造用合板を75mmピッチで釘打ちした高耐力要素であり、水平力による浮き上がりを低減できるように、せい330mm、アンカーボルト19間2400mm程度の曲げ伝達梁1(以下、基礎梁1という)を設け、さらに端部新設柱2bは既存柱18とラグスクリュ9で固定して、又、端部新設柱2bは基礎梁1に直接突きつけて建物の鉛直荷重による押さえ込みにより、基礎梁1を固定するアンカーボルト19に作用する引張力を軽減できるのが特徴である。その際、この引張力をアンカーボルト19が負担できるよう、厚み200mm程度の土間コンクリート6を打設する必要はあるが、新たに鉄筋コンクリート造の布基礎6を新設するよりは簡易な工法である。なお、曲げ伝達梁1がたわんでも土間コンクリート6天端に接しないよう、厚さ20mmの基礎パッキン5をアンカー部に設けている。また新設柱2aはこの耐力要素に水平力が作用し1/10rad.まで変形しても既設梁4を突き上げないよう30mm程度の隙間をあけている。B方向の加力では、既設梁4に取り付けられた受け材17からホールダウン金物10(以降、HD金物10)を介して端部新設柱2b側からせん断力が作用するように、A方向の加力では受け材17から直接端部新設柱2bにせん断力が作用するよう、受け材17を既設軸組15に取り付けた。
【0044】
<試験方法>
図12に示すとおり、試験体上部の片側を荷重計の有する繋ぎ材で水平移動を拘束し、下部をローラー支持された架台に固定し、架台を10tf用電動アクチュエータで水平移動させ、柱脚固定式による各所定変形角3回正負交番繰返しの漸増載荷とする。なお、基礎梁1付き面材耐力壁の試験のうちMW75−2、3では、基礎梁1両端のアンカーボルト19に作用するせん断力を計測するため、センターホール式の荷重計を2ヵ所設置した。
【0045】
<試験結果及び考察>
図11に各試験における荷重−変形角関係の包絡線一覧を、表3に完全弾塑性評価より得られた各特性値の平均値の一覧を示す。
【0046】
【表3】
【0047】
<基礎梁付き面材耐力壁>
破壊性状について述べる。初期段階では、面材や釘のずれがみられた。変形が進むにつれてこれらが進展し、最終的には面材が軸材から外れることで耐力低下した。浮き上がり力の算定について述べる。図12(a)に示すように試験体の(I)水平荷重、(II)基礎梁1に作用するせん断力、(III)水平荷重をせん断力に偶力置換した計算結果を図12(b)に示す。図中の(II)と(III)は、概ね一致しており、水平荷重の偶力置換による基礎梁1の支持点でのせん断力の算定が妥当であることがわかった。また、最大耐力以降でも、全試験体で基礎梁1に損傷は見られなかった。基礎梁1の曲げに対する検定について述べる。図13に示すモデルを基に、本試験体の短期及び最大耐力時における基礎梁1の許容曲げ応力度を検定する。基礎梁1の断面係数は、図13に示す通り金物側の座堀り(16mm)と高力ボルト孔(14mm)の断面欠損を考慮して安全側に算定し、使用する木材の強度を短期は基準強度の2/3、最大耐力は基準耐力とした。計算において基礎梁1の曲げ応力を検討した結果、表4に示す通り短期せん断耐力及び最大荷重時ともに安全であることがわかり、実験と計算の両面で基礎梁1が安全であることを確認した。
【0048】
【表4】
【0049】
<まとめ>
安価に施工できる2種類の耐力要素を開発し、それらの水平加力試験を行うことにより構造性能を実験的に確認できた。
【0050】
また、本発明の建物の補強構造を適用した耐震改修事例について、さらに詳細に効果の検証が行われた。
【0051】
<耐震診断ならびに補強計画>
対象の住宅を図8に示す。この住宅は在来軸組構法で、平屋建てに2階を増築した築46年の住宅である。この住宅を精密診断法により診断した結果を表1に示す。その結果、建築基準法で定める大地震時に倒壊する可能性が高いと診断された。その主な原因として、2階直下に耐力要素が無いことと、洋室1に開口が多いことが考えられる。そこで、補強計画は診断結果と家主の要望に基づき、2階直下を布基礎を新設せずに基礎梁1付き面材耐力壁で補強すること、既存の開口を残すため全ネジブレース耐力壁を設けることを主とした。
【0052】
<耐震補強>
主な補強工事を図8の凡例に、補強後の診断結果を表1に示す。その結果、上部構造評点は1.00を上回り、大地震時に一応倒壊しないことを確認した。
【0053】
<建物の固有周期T>
各施工段階で人力加振による自由振動で建物の固有周期Tを計測し、建物の固有周期Tの変化と補強効果の関係を確認する。X、Y方向とも2階の2箇所を同時に人力で衝撃的に加力し、これを複数回行って2階の4ヵ所に設置した加速度計で加速度を計測し、FFTにより一次モード成分以外を除去して一次の固有周期Tを算出した。その際、加速度を変位に置換し、回帰直線の平均値で比較する。結果は図14のようになり、施工が進むにつれてY方向では固有周期Tに明確な変化がなかったのに対し、X方向では固有周期Tが短くなっている。さらに、計測初期の段階ではch3とch4の変位の差が大きいことから建物がねじれているのが確認できるが、施工が進むにつれて変位の差が減少していることからねじれがなくなり、固有周期Tからも補強効果を確認できた。
【0054】
<考察1:基礎梁付き面材耐力壁の必要反力>
基礎梁1付き面材耐力壁の浮上りに対する抵抗機構は、前報で述べた通りである。そこで、実験で計測されたアンカーボルト19に作用する引張力の最大値を必要反力として、コンクリートに埋めたアンカーボルト19に作用する引張力を、図16中のA、Bの箇所での鉛直荷重によりどの程度低減できるか検討する。ここで鉛直荷重は、実際にA、Bの箇所で図15に示すようにジャッキを梁の下端にあてて持ち上げて計測して算出した柱軸力(計測値)と、図16の荷重分布図を用いて、固定荷重や積載荷重と負担面積から算出した柱軸力(計算値)とし、両者の比較も行う。結果を表5に示す。柱軸力の比較は、柱Aでは梁のみが持ち上がったため、計測値よりも計算値の方が2階からの柱の軸力分だけ上回った。一方、柱Bは計測値と計算値が概ね一致した。しかし、柱Aは既存柱18とラグスクリュ9(LS12×240)3本で接合することで、2階からの柱の軸力分も押さえ込みに寄与できるように施工している。一方、柱Bでは、鉛直荷重による押さえ込みが生じ始める荷重は11kN程度であり、必要反力の1/2は少なくとも期待できる。したがって、コンクリートに埋め込まれたアンカーボルト19は最大で10kN程度の引張力に対して抵抗すればよいことが確認できた。
【0055】
【表5】
【0056】
<考察2:固有周期Tと上部構造評点の関係>
各施工段階でのX、Y方向の固有周期Tと精密診断の上部構造評点の関係を調べる。なお、(i)は施工のために荷物を1階から2階へ移動したことで荷重状況が(ii)以降と大きく異なるため、比較対象から除く。結果を図9に示す。1階を補強した時はX、Y方向とも、施工が進むにつれて評点の上昇に伴い固有周期Tが短くなる相関関係が見られ、この関係はX方向で特に基礎梁耐力壁を施工した(v)で顕著に見られた。一方、2階を補強した時は、(vii)−(viii)間のみでこの関係が見られた。
【0057】
<考察3:固有周期Tに基づく建物剛性Kの算出と比較>
固有周期Tと、固定荷重や積載荷重から算出した当該箇所の1階の階高の1/2より上の建物重量M=135kNを用い、各施工段階のX、Y方向の剛性Kを式(3)で算出し、補強による剛性Kの増加量ΔK0を調べる。そして、ΔK0と実際に追加した各耐力要素の剛性ΔK1、ΔK2を比較する。なおΔK1は追加した耐力要素の実験結果の包絡線データを完全弾塑性評価で求めた基準剛性、ΔK2は各耐力要素の実験結果から求めた自由振動時の変位量(0.1mm〜0.8mm)での割線剛性である。表2より剛性Kは施工が進むにつれて上昇した。剛性の増加量を比較すると、ΔK1よりΔK2の方がΔK0に近くなった。これはΔK2を自由振動時の変位量で評価したためと考えられる。また(v)、(viii)の施工時にΔK0が大幅に増加した原因は特定できなかったが、Y方向と2階を補強したことが要因の一つと推測される。
【0058】
<まとめ>
既存の住宅を対象として精密診断法により耐震診断を行い、開発した耐力要素を用いた補強前後の耐震性能を比較した。また、各施工段階で固有周期が短くなり、固有周期と上部構造評点の関係からも補強効果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、建物の補強構造に関して有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 曲げ伝達梁(基礎梁)
2a 新設柱(柱B)
2b 端部新設柱(柱A)
3 耐力壁
4 既設梁(既存梁)
5 スペーサ(基礎パッキン)
6 コンクリート布基礎(土間コンクリート、布基礎)
7 土台
8 受け材
9 ラグスクリュ
10 ホールダウン金物
11 構造用合板
12 架台
13 荷重計
14a〜d 加速度計
15 既設軸組
16 第1受け材(受け材1)
17 第2受け材(受け材2)
18 既設柱(既存柱)
19 アンカーボルト
105 外壁
106 基礎コンクリート
109 柱
110 梁
112 ラダスクリュー(固定具)
115 金属製筋交い部材
117 金属製補強部材
120,122 ボルト(張力調整用部材)
121 ナット部材(張力調整用部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁を備えた建物の補強構造であって、
両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、
前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、
前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、
少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、
を備えたことを特徴とする建物の補強構造。
【請求項2】
梁を備えた建物の補強構造であって、
既設軸組に着設された曲げ伝達梁と、
前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎に着設された端部新設柱と、
前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、
少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、
を備えたことを特徴とする建物の補強構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物の補強構造であって、
コンクリート布基礎が無筋コンクリート布基礎であることを特徴とする建物の補強構造。
【請求項1】
梁を備えた建物の補強構造であって、
両端部分にスペーサを介して、コンクリート布基礎に着設された曲げ伝達梁と、
前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が既設梁に着設された端部新設柱と、
前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方が前記既設梁にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、
少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、
を備えたことを特徴とする建物の補強構造。
【請求項2】
梁を備えた建物の補強構造であって、
既設軸組に着設された曲げ伝達梁と、
前記曲げ伝達梁の両端部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎に着設された端部新設柱と、
前記曲げ伝達梁の両端部分以外の部分において、一方が前記曲げ伝達梁に着設され、他方がコンクリート布基礎にせん断力のみを伝達する手段により接合された新設柱と、
少なくとも垂直方向の一辺が前記新設柱に設置された耐力壁と、
を備えたことを特徴とする建物の補強構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物の補強構造であって、
コンクリート布基礎が無筋コンクリート布基礎であることを特徴とする建物の補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−52358(P2012−52358A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196324(P2010−196324)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 : 社団法人日本建築学会 刊行物名 : 2010年度大会(北陸)学術講演梗概集 巻数 : C−1 構造III 発行年月日: 2010年7月20日
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(500543834)木建技研株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 : 社団法人日本建築学会 刊行物名 : 2010年度大会(北陸)学術講演梗概集 巻数 : C−1 構造III 発行年月日: 2010年7月20日
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(500543834)木建技研株式会社 (10)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]