建物
【課題】トラックで運搬し易い形状のプレキャスト梁部材を使用しながらも、工期短縮を図ることが可能な建物を提供すること。
【解決手段】基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとするか、あるいは、基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとし、残りを、梁部のみからなる梁単体型のプレキャスト梁部材BSとする。
【解決手段】基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとするか、あるいは、基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとし、残りを、梁部のみからなる梁単体型のプレキャスト梁部材BSとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト梁部材を具備する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材が開示されており、特許文献2には、一のパネルゾーンから四つの梁部が張り出す十字型のプレキャスト梁部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−54396号公報
【特許文献2】特開2000−319985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
梁単独型のプレキャスト梁部材は、トラックでの運搬に適しており、効率良く運搬できるものの、梁単独型のプレキャスト梁部材のみを使用する場合には、パネルゾーンとなる空間にコンクリートを打設する必要があるので、工期短縮を図ることが難しい。
【0005】
十字型のプレキャスト梁部材を使用すれば、パネルゾーンとなる空間にコンクリートを打設する必要がなくなるものの、梁単独型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が大きくなることから、トラックに積載可能な寸法を超えてしまうことがある。
【0006】
このような観点から、本発明は、トラックでの運搬に適した形状のプレキャスト梁部材を使用しながらも、工期短縮を図ることが可能な建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する第一の発明は、基準階(柱梁の配置パターンを同じくする複数の階の代表となる階)および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物である。
【0008】
第一の発明によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材を使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、前記したパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材は、一つのパネルゾーンから張り出す梁部の配置形態が平面視I字状(直線状)となる「I型」、平面視L字状となる「L型」および平面視T字状となる「T型」のいずれかとなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、第一の発明に係る建物によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材の総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0009】
また、前記課題を解決する第二の発明は、基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材とし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物である。
【0010】
第二の発明によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材を使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、前記したパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材は、一つのパネルゾーンから張り出す梁部の配置形態が平面視I字状(直線状)となる「I型」、平面視L字状となる「L型」および平面視T字状となる「T型」のいずれかとなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなり、梁単独型のプレキャスト梁部材は、一つの梁部のみからなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、本発明に係る建物によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材の総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0011】
本発明においては、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材として、前記パネルゾーンの上に短柱状の柱部が一体成形されたものを使用するとよい。このようなプレキャスト梁部材を使用すると、n階においてスラブコンクリートを打設する前にn階用のプレキャスト梁部材の柱部にn+1階用のプレキャスト柱部材を載置する、という構築方法を採用することができるようなるので、n階スラブの完成後にプレキャスト柱部材を配置する場合に比べて、揚重機械の稼働率が向上し、ひいては、工期短縮を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トラックでの運搬に適した形状のプレキャスト梁部材を使用しながらも、工期短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施形態に係る建物の基準階におけるプレキャスト梁部材の割り付け図である。
【図2】(a)はI型プレキャスト梁部材を示す平面図、(b)はL型プレキャスト梁部材を示す平面図、(c)はT型プレキャスト梁部材を示す平面図である。
【図3】(a)はプレキャスト梁部材の側面図、(b)はプレキャスト柱部材の側面図である。
【図4】(a)は本発明の実施形態に係る柱梁架構の構築方法における工程表、(b)は一般的に実施されているRC積層工法における工程表である。
【図5】本発明の実施形態に係る柱梁架構の構築方法を説明するための側面図であって、n階の床部材配置工程まで完了した状況を示す側面図である。
【図6】n+1階の柱部材配置工程を説明するための側面図である。
【図7】n+1階の梁部材配置工程を説明するための側面図であって、n+1階用のプレキャスト梁部材を載置した状態を示す側面図である
【図8】n+1階の梁部材配置工程を説明するための側面図であって、n+1階用のプレキャスト梁部材を仮固定した状態を示す側面図である。
【図9】n階のスラブコンクリート打設工程を説明するための側面図である。
【図10】(a)〜(f)はプレキャスト梁部材の変形例を示す平面図である。
【図11】第二の実施形態に係る建物の基準階におけるプレキャスト梁部材の他の割り付け図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態に係る建物Aは、鉄筋コンクリート製のプレキャスト梁部材およびプレキャスト柱部材を利用して構築された多層階建ての建物である。
【0015】
図1に示すように、建物Aの基準階(柱梁の配置パターンを同じくする複数の階の代表となる階)には、I型プレキャスト梁部材BI、L型プレキャスト梁部材BLおよびT型プレキャスト梁部材BTが配置されていて、これらプレキャスト梁部材BI、BL、BTによって、矩形枠状の外周フレームA1と、矩形枠状の内周フレームA2とが形成されている。図示は省略するが、基準階と同一構成の階における複数のプレキャスト梁部材BI,BL,BTの割り付け図も、図1と同様である。
【0016】
I型プレキャスト梁部材BIおよびL型プレキャスト梁部材BLは、直方体状のパネルゾーン1から二つの梁部2,2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材であり、T型プレキャスト梁部材BTは、直方体状のパネルゾーン1から三つの梁部2,2,2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材である。すなわち、建物Aでは、基準階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとしている。
【0017】
図2を参照してプレキャスト梁部材BI,BL,BTの構成を説明するが、図2においては、コンクリート部分の外形のみを図示し、鉄筋の図示を省略している。
【0018】
図2の(a)に示すI型プレキャスト梁部材BIは、一つのパネルゾーン1と、平面視I字状(直線状)となるように配置された二つの梁部2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3(図3の(a)参照)とを備えている。すなわち、I型プレキャスト梁部材BIでは、パネルゾーン1の一側面から一方の梁部2が張り出し、一側面の対面(一側面と平行な他側面)から他方の梁部2が張り出している。梁部2の長さ(パネルゾーン1の側面から梁部2の先端面までの距離)d1,d2は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D)である。
【0019】
図2の(b)に示すL型プレキャスト梁部材BLは、外周フレームA1(図1参照)の角部に配置されるものであり、一つのパネルゾーン1と、平面視L字状となるように配置された長短二つの梁部2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部(図示略)とを備えている。すなわち、L型プレキャスト梁部材BLでは、パネルゾーン1の一側面から一方の梁部2が張り出し、一側面の隣接面(一側面に直交する他側面)から他方の梁部2が張り出している。梁部2の長さd1,d2は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D)である。
【0020】
図2の(c)に示すT型プレキャスト梁部材BTは、一つのパネルゾーン1と、平面視T字状となるように配置された三つの梁部2,2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部(図示略)とを備えている。すなわち、T型プレキャスト梁部材BTでは、パネルゾーン1の三つの側面から梁部2が張り出している。梁部2の長さd1,d2,d3は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D、d3≧1D)である。
【0021】
図1に示すように、T型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が外周フレームA1を構成するもの(外周用のT型プレキャスト梁部材BT)と、パネルゾーン1が内周フレームA2を構成するもの(内周用のT型プレキャスト梁部材BT)とがある。
【0022】
なお、外周用のT型プレキャスト梁部材BTのうち、外周フレームA1の一部分となるのは、パネルゾーン1のほか、パネルゾーン1を挟んで直線状に並ぶ二つの梁部2,2である。外周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、外周フレームA1を構成するI型プレキャスト梁部材BIの梁部2またはL型プレキャスト梁部材BLの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2は、内周フレームA2に向かって張り出していて、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されている。
【0023】
また、内周用のT型プレキャスト梁部材BTのうち、内周フレームA2の一部分となるのは、パネルゾーン1のほか、パネルゾーン1を挟んでL字状に並ぶ二つの梁部2,2である。内周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2のうち、L字状に並ぶ二つの梁部2,2は、内周フレームA2を構成するI型プレキャスト梁部材BIの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2は、外周フレームA1に向かって張り出していて、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されている。
【0024】
なお、以下の説明において、プレキャスト梁部材BI,BL,BTを区別しない場合には、符号「B」に付した添え字を省略する。
【0025】
図3の(a)を参照して、プレキャスト梁部材Bの構成を詳細に説明する。ちなみに、図3の(a)に示すプレキャスト梁部材Bは、I型プレキャスト梁部材である。
【0026】
プレキャスト梁部材Bは、ハーフプレキャスト部材であり、図3の(a)に示す状態で工場から出荷される。なお、図示は省略するが、プレキャスト梁部材Bをフルプレキャスト部材としても差し支えない。
【0027】
パネルゾーン1および柱部3には、これらを上下に貫通する鉄筋挿通孔1a,1a,…が形成されているとともに、鉄筋挿通孔1a,1a,…を取り囲むように帯筋(図示略)が配筋されている。鉄筋挿通孔1aには、図3の(b)に示すプレキャスト柱部材Pの柱主筋4aが挿通される。鉄筋挿通孔1aは、シース管等により形成される。
【0028】
梁部2には、梁主筋2a,2aのほか、あばら筋などが配筋されている。下側の梁主筋2aの両端部は、コンクリート部の端面から突出しており、両端部を除く残りの部分は、コンクリート部に埋設されている。上側の梁主筋2aは、パネルゾーン1を貫通する部分を除いて外部に露出している。
【0029】
柱部3は、柱脚となる部位であり、パネルゾーン1の上に位置している。柱部3は、短柱状を呈していて、パネルゾーン1と一体成形されている。柱部3の下端はスラブ天端と一致しており、柱部3の上端はスラブ天端よりも高いところに位置している。柱部3の上端部には、荷重受けボルト3aが植設されている。荷重受けボルト3aは、プレキャスト柱部材Pを仮受けするものであり、その上に載置されたプレキャスト柱部材Pのレベル調整を行えるよう、柱部3に埋設されたインサートナット(図示略)に螺着されている。荷重受けボルト3aの位置や個数は限定されるものではないが、本実施形態では、柱部3の上面の四隅に設けている。
【0030】
図3の(b)を参照して、プレキャスト柱部材Pの構成を説明する。プレキャスト柱部材Pは、直方体状のコンクリート部4を有している。コンクリート部4には、柱主筋4a,4a,…のほか、帯筋(図示略)などが配筋されている。コンクリート部4の下端部には、鉄筋継手用のスリーブ4bが埋設されており、コンクリート部4の上端部には、荷重受けボルト4cが植設されている。柱主筋4bの上部は、コンクリート部4の上面から突出しており、柱主筋4aの下端部は、スリーブ4b内に所定長さ(定着長)分差し込んでいる。荷重受けボルト4cは、プレキャスト梁部材Bを仮受けするものであり、その上に載置されたプレキャスト梁部材Bのレベル調整を行えるよう、コンクリート部4に埋設されたインサートナット(図示略)に螺着されている。荷重受けボルト4cの位置や個数は限定されるものではないが、本実施形態では、コンクリート部4の上面の四隅に設けている。
【0031】
次に、図4乃至図9を参照して、プレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pを使用した柱梁架構の構築方法を説明する。
【0032】
なお、以下では、n階を基準階とし、n階用のプレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pに添え字「n」を、n+1階用のプレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pに添え字「n+1」を付す。n+1階は、n階(基準階)と同一構成である。
【0033】
本実施形態に係る柱梁架構の構築方法は、図4の(a)に示すように、柱部材配置工程と、梁部材配置工程と、床部材配置工程と、スラブ配筋工程と、スラブコンクリート打設工程とを含むものである。多層階建ての建物Aにおいては、n階(基準階)だけでなく、n階と同一構成の階(n+1階以上の階)においても上記の各工程を実行する。n階の柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程は、n+1階の柱部材配置工程に先だって行われる。また、n階のスラブ配筋工程は、n+1階の柱部材配置工程および梁部材配置工程と並行して行われ、n階のスラブコンクリート打設工程は、n+1階の梁部材配置工程と並行して行われる。なお、必要に応じて、n階の床スラブを構築する前に上階のプレキャスト柱部材Pn+1やプレキャスト梁部材Bn+1を設置してもよい。
【0034】
図5は、n階において柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程を実行した後の状態を示すものである。
n階用のプレキャスト梁部材Bnのパネルゾーン1は、梁固定治具7によってn階用のプレキャスト柱部材Pnの上端部に仮固定されており、プレキャスト梁部材Bnの梁部2は、サポート部材6によってプレキャスト柱部材Pnに仮支持されている。プレキャスト柱部材Pnの柱主筋4aは、プレキャスト梁部材Bnの鉄筋挿通孔1a(図3の(a)参照)に挿通されていて、柱部3から突出している。プレキャスト梁部材Bnは、隣り合う他のプレキャスト梁部材Bnと間隔をあけた状態で配置されており、当該間隔を取り囲むように型枠9(底板のみを図示し、側板の図示は省略している)が配置されている。また、梁主筋2aは、鉄筋継手2bを介して他のプレキャスト梁部材Bnの梁主筋2aと連結されている。鉄筋継手2bの種類に制限はなく、機械式継手のほか、重ね継手、添え筋重ね継手、エンクローズド溶接継手などを適用することができる。
なお、図5中の符号Snは、床部材配置工程によって設置されたn階用のプレキャスト床部材である。プレキャスト床部材Snは、スラブ型枠を兼ねる鉄筋コンクリート製のハーフプレキャスト部材であり、その上に場所打ちされるスラブコンクリートと一体となることによって床スラブとなる。
【0035】
n+1階の柱部材配置工程は、図6に示すように、n階用のプレキャスト梁部材Bnの柱部3にn+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1を載置し、プレキャスト柱部材Pn+1の下端部を柱部3に仮固定する工程である。
なお、プレキャスト柱部材Pn+1は、荷重受けボルト3a(図3の(a)参照)の上に載置する。また、必要に応じて荷重受けボルト3aの突出長さを調整することで、プレキャスト柱部材Pn+1のレベル調整および鉛直度の調整を行う。
【0036】
図4の(a)に示すように、n+1階の柱部材配置工程は、n階のスラブコンクリート打設工程に先んじて行う。すなわち、n+1階の柱部材配置工程は、n階においてスラブコンクリートを打設する前に開始する。本実施形態においては、n階のクレーン作業(n階の柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程)が完了した後、速やかにn+1階の柱部材配置工程を開始し、n+1階の柱部材配置工程とn階のスラブ配筋工程とを並行して行う。
なお、鉄筋搬入のためのクレーン作業は頻繁に行う必要がなく、鉄筋搬入後はクレーン作業を殆ど必要としないので、柱部材配置工程とスラブ配筋工程を並行して行っても、両工程が遅滞することはない。
【0037】
図6に示すように、本実施形態の柱部材配置工程では、仮設の柱固定治具5を利用して、プレキャスト柱部材Pn+1をプレキャスト梁部材Bnに仮固定する。
【0038】
柱固定治具5は、柱部3とプレキャスト柱部材Pn+1との境界部分(柱部3の上面とプレキャスト柱部材Pn+1の下面との間に確保された隙間)を取り囲むように配置し、柱部3およびプレキャスト柱部材Pn+1の下端部に固定する。柱固定治具5の下縁は、スラブ天端と一致させるか、あるいはスラブ天端の上側に位置させる。柱固定治具5は、充填材注入用の型枠となるだけでなく、充填材の硬化前においてはプレキャスト柱部材Pn+1の転倒を防止する支持部材となるので、剛性・耐力の高い部材(例えば、溝形鋼やH形鋼といった鋼材など)にて形成する。図示は省略するが、柱部3およびプレキャスト柱部材Pn+1の下端部には、インサートナットが埋設されている。このインサートナットには、柱固定治具5に挿通したボルトが螺着される。
なお、本実施形態では、型枠兼用の柱固定治具5を例示したが、型枠兼用であることは必須ではない。柱固定治具5が型枠兼用でない場合には、専用の型枠を別途設置すればよい。
【0039】
n+1階の柱部材配置工程が完了したら、n+1階の梁部材配置工程に移行する。
なお、梁部材配置工程に移行する前に、プレキャスト梁部材Bnの柱部3とプレキャスト柱部材Pn+1との境界部分に充填材(例えば、グラウトや高流動モルタルなど)を注入してもよいが、本実施形態では、柱固定治具5でプレキャスト柱部材Pn+1を仮固定しているので、充填材を注入する前あるいは注入した充填材が硬化する前であっても、n+1階の梁部材配置工程を行うことができる。柱固定治具5は、充填材が硬化した後に取り外す。
【0040】
n+1階の梁部材配置工程は、図7に示すように、n+1階用のプレキャスト梁部材Bn+1のパネルゾーン1をn+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1に載置し、図8に示すように、パネルゾーン1をプレキャスト柱部材Pn+1の上端部に仮固定する工程である。
なお、プレキャスト梁部材Bn+1は、荷重受けボルト4a(図3の(b)参照)の上に載置する。
【0041】
図4の(a)に示すように、n+1階の梁部材配置工程は、本実施形態では、n階のスラブコンクリート打設工程よりも前に開始し、梁部材配置工程の開始当初から途中までは、n階のスラブ配筋工程と並行して行う。n階のスラブ配置工程が完了した後は、n+1階の梁部材配置工程を行いながら、n階のスラブコンクリート打設工程を行う。
なお、スラブコンクリートは、圧送管を通して打設場所まで圧送されるため、クレーン作業を殆ど必要とせず、したがって、梁部材配置工程とスラブコンクリート打設工程を並行して行っても、両工程が遅滞することはない。
【0042】
図8に示すように、本実施形態の梁部材配置工程では、仮設のサポート部材6を利用してプレキャスト梁部材Bn+1のレベル調整を行い、仮設の梁固定治具7を利用して、プレキャスト梁部材Bn+1をプレキャスト柱部材Pn+1に仮固定する。
【0043】
サポート部材6は、n+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1の側面から斜め上方に向かって立ち上がり、梁部2の下面に接合されている。サポート部材6は、長さ調節可能な構成(例えば、ねじ機構やジャッキなど)を具備している。サポート部材6で梁部2を仮支持した状態で、サポート部材6の長さを調節すると、プレキャスト梁部材Bn+1のレベル調整を行うことができる。
なお、本実施形態では、サポート部材6を一つだけ配置し、一つの梁部2のみを仮支持する場合を例示しているが、サポート部材6の数を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、複数のサポート部材6を配置し、複数の梁部2を仮支持してもよい。また、サポート部材6に代えて、n階用のプレキャスト梁部材Bnに立設した支保工でn+1階用のプレキャスト梁部材Bn+1を仮支持してもよい。
【0044】
梁固定治具7は、プレキャスト柱部材Pn+1とパネルゾーン1との境界部分(プレキャスト柱部材Pn+1の上面とパネルゾーン1の下面との間に確保された隙間)を跨ぐように配置し、プレキャスト柱部材Pn+1の上端部およびパネルゾーン1に固定する。梁固定治具7は、仮設ではあるものの、プレキャスト梁部材Bn+1の転落等を防止する支持部材となるので、剛性・耐力の高い部材(例えば、溝形鋼、H形鋼、山形鋼といった鋼材など)にて形成する。図示は省略するが、プレキャスト柱部材Pn+1の上端部およびパネルゾーン1には、インサートナットが埋設されている。このインサートナットには、梁固定治具7に挿通したボルトが螺着される。なお、プレキャスト柱部材Pn+1とパネルゾーン1との境界部分には、充填材用の型枠8を配置する。
【0045】
n+1階の梁部材配置工程を行っている間にn階のスラブ配筋工程(n階用のプレキャスト床部材Snの上にスラブ筋2cを敷設する工程)が完了したら、図9に示すように、n階のスラブコンクリート打設工程を行う。スラブコンクリート打設工程では、n階用のプレキャスト床部材Snの上にスラブコンクリートCを打設するだけでなく、n階用のプレキャスト梁部材Bnの上および隣り合うプレキャスト梁部材Bn,Bnの間(梁接合部J)にもコンクリートを打設する。
【0046】
n+1階の梁部材配置工程が完了したら、図4の(a)に示すように、n+1階の床部材配置工程を行い、n+2階の柱部材配置工程および梁部材配置工程と並行してn+1階のスラブ配筋工程およびスラブコンクリート打設工程を行う。n+2階以降についても同様である。
【0047】
なお、床部材配置工程に移行する前に、プレキャスト柱部材Pn+1とプレキャスト梁部材Bn+1との境界部分に充填材を注入してもよいが、本実施形態では、梁固定治具7でプレキャスト梁部材Bn+1を仮固定しているので、充填材を注入する前あるいは注入した充填材が硬化する前であっても、n+1階の床部材配置工程を行うことができる。サポート部材6,梁固定治具7および型枠8は、充填材が硬化した後に取り外す。
【0048】
本実施形態に係る柱梁架構の構築方法によれば、n階のスラブ完成を待たずして、n+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1およびプレキャスト梁部材Bn+1を配置することができるので、n階スラブの完成後に柱部材配置工程および梁部材配置工程を行う場合(図4の(b)参照)に比べて、揚重機械の稼働率が向上し、ひいては、工期短縮を図ることが可能となる。すなわち、本実施形態に係る柱梁架構の構築方法によれば、n階のスラブ配筋工程やスラブコンクリート打設工程と並行してn+1階の柱部材配置工程および梁部材配置工程を行うことが可能となるので、図4に示すように、各階においてスラブ配筋工程およびスラブコンクリート打設工程に2日を要する場合であれば、1フロアにつき2日の工期短縮を図ることができる。
【0049】
また、柱固定治具5を充填材用の型枠として利用することができるので、作業の効率化を図ることが可能となる。しかも本実施形態では、スラブ天端よりも上側に柱固定治具5を配置しているので、柱固定治具5がスラブコンクリート内に埋没することはなく、したがって、柱固定治具5の取り外しが容易になるとともに、柱固定治具5を再利用することが可能となる。
【0050】
また、梁部材配置工程においてサポート部材6を使用しているので、プレキャスト梁部材Bを安定的に仮支持することができ、かつ、レベル調整を容易に行うことが可能となる。
【0051】
しかも、建物Aでは、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材Bを使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、プレキャスト梁部材Bは、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が「I型」、「L型」および「T型」のいずれかであるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、建物Aによれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材Bの総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難い形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0052】
なお、前記実施形態では、プレキャスト床部材Snがスラブ型枠を兼ねる鉄筋コンクリート製のハーフプレキャスト部材である場合を例示したが、フルプレキャスト部材としても差し支えないし、プレキャスト部材を使用せず、場所打ちコンクリートのみで床スラブを形成してもよい。
【0053】
また、前記した実施形態においては、パネルゾーン1を一つだけ具備したI型プレキャスト梁部材BIおよびT型プレキャスト梁部材BTを例示したが、「一つのパネルゾーンから二つまたは三つの梁部が張り出すプレキャスト梁部材」には、図10の(a)に示す「II型」のプレキャスト梁部材BII、同図の(b)に示す「TT型」のプレキャスト梁部材BTT、同図の(c)に示す「IT型」のプレキャスト梁部材BIT、同図の(d)に示す「IL型」のプレキャスト梁部材BIL、同図の(e)に示す「TL型」のプレキャスト梁部材BTL、同図の(f)に示す「LL型」のプレキャスト梁部材BLLなども含まれる。
【0054】
より詳細に説明すると、図10の(a)に示すII型プレキャスト梁部材BIIは、二つのパネルゾーン1,1と、平面視I字状(直線状)を呈するように配置された三つの梁部2,2,2と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。II型プレキャスト梁部材BIIにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2,2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)となっている。
【0055】
また、図10の(b)に示すTT型プレキャスト梁部材BTTは、二つのパネルゾーン1,1と、五つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。TT型プレキャスト梁部材BTTにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から三つの梁部2,2,2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視T字状(T型)となっている。
【0056】
図10の(c)に示すIT型プレキャスト梁部材BITは、二つのパネルゾーン1,1と、四つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。IT型プレキャスト梁部材BITにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)又は平面視T字状(T型)となっている。
【0057】
図10の(d)に示すIL型プレキャスト梁部材BILは、二つのパネルゾーン1,1と、三つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。IL型プレキャスト梁部材BILにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)又は平面視L字状(L型)となっている。
【0058】
図10の(e)に示すTL型プレキャスト梁部材BTLは、二つのパネルゾーン1,1と、四つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。TL型プレキャスト梁部材BTLにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視L字状(L型)又は平面視T字状(T型)となっている。なお、四つの梁部2,2,…のうち、二つのパネルゾーン1,1を結ぶ梁部2に対して直交する方向に配置される二つの梁部2,2は、同じ方向(図10の(e)では右方向)に向かって張り出している。
【0059】
図10の(f)に示すLL型プレキャスト梁部材BLLは、二つのパネルゾーン1,1と、三つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。LL型プレキャスト梁部材BLLにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視L字状(L型)となっている。なお、三つの梁部2,2,…のうち、二つのパネルゾーン1,1を結ぶ梁部2に対して直交する方向に配置される二つの梁部2,2は、同じ方向(図10の(f)では右方向)に向かって張り出している。
【0060】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態に係る建物A’は、図11に示すように、基準階(基準階と同一構成の階についても同様)に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材BSとしたものである。
【0061】
建物A’の基準階においては、I型プレキャスト梁部材BI、L型プレキャスト梁部材BL、およびT型プレキャスト梁部材BTによって矩形枠状の外周フレームA1’が形成されており、T型プレキャスト梁部材BTのみによって矩形枠状の内周フレームA2’が形成されている。なお、図1の建物Aにおいては、内周フレームA2の四隅だけが外周フレームA1に連結されているが、図11の建物A’においては、内周フレームA2’の四隅以外においても、外周フレームA1’に連結されている。
【0062】
プレキャスト梁部材BI,BL,BT,BSは、基準階の平面形状に応じて適宜配置すればよいが、L型プレキャスト梁部材BLは、建物A(図1参照)の場合と同様、外周フレームA1’の角部に配置されている。
【0063】
T型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が外周フレームA1’を構成するもの(外周用のT型プレキャスト梁部材BT)と、パネルゾーン1が内周フレームA2’を構成するもの(内周用のT型プレキャスト梁部材BT)とがある。
【0064】
外周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、外周フレームA1’を構成する他のプレキャスト梁部材BI,BL,BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、内周フレームA2’に向かって張り出していて、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’または梁単独型プレキャスト梁部材BSに接続されている。
【0065】
内周用のT型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が内周フレームA2’の角部に位置する「内周角部用」のものと、パネルゾーン1が内周フレームA2’の直線部に位置する「内周直線部用」のものとがある。
【0066】
内周角部用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、L字状に並ぶ二つの梁部2,2は、いずれも、内周直線部用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、外周フレームA2’に向かって張り出していて、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に接続されている。
【0067】
内周直線部用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、いずれも、内周フレームA2’を構成する他のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、外周フレームA2’に向かって張り出していて、梁単独型プレキャスト梁部材BSに接続されている。
【0068】
梁単独型プレキャスト梁部材BSは、外周フレームA1’と内周フレームA2’との間に介設されるものであり、パネルゾーンを具備しておらず、直線状を呈する梁部のみからなる。梁単独型プレキャスト梁部材BSの一端は、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に梁接合部Jを介して接続されており、梁単独型プレキャスト梁部材BSの他端は、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に梁接合部Jを介して接続されている。
【0069】
建物A’においても、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTを使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTは、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなり、梁単独型プレキャスト梁部材BSは、一つの梁部のみからなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、建物A’によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材BI,BL,BT,BSの総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【符号の説明】
【0070】
BI I型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
BL L型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
BT T型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
1 パネルゾーン
2 梁部
3 柱部
BS 梁単独型プレキャスト梁部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト梁部材を具備する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材が開示されており、特許文献2には、一のパネルゾーンから四つの梁部が張り出す十字型のプレキャスト梁部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−54396号公報
【特許文献2】特開2000−319985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
梁単独型のプレキャスト梁部材は、トラックでの運搬に適しており、効率良く運搬できるものの、梁単独型のプレキャスト梁部材のみを使用する場合には、パネルゾーンとなる空間にコンクリートを打設する必要があるので、工期短縮を図ることが難しい。
【0005】
十字型のプレキャスト梁部材を使用すれば、パネルゾーンとなる空間にコンクリートを打設する必要がなくなるものの、梁単独型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が大きくなることから、トラックに積載可能な寸法を超えてしまうことがある。
【0006】
このような観点から、本発明は、トラックでの運搬に適した形状のプレキャスト梁部材を使用しながらも、工期短縮を図ることが可能な建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する第一の発明は、基準階(柱梁の配置パターンを同じくする複数の階の代表となる階)および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物である。
【0008】
第一の発明によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材を使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、前記したパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材は、一つのパネルゾーンから張り出す梁部の配置形態が平面視I字状(直線状)となる「I型」、平面視L字状となる「L型」および平面視T字状となる「T型」のいずれかとなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、第一の発明に係る建物によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材の総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0009】
また、前記課題を解決する第二の発明は、基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材とし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物である。
【0010】
第二の発明によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材を使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、前記したパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材は、一つのパネルゾーンから張り出す梁部の配置形態が平面視I字状(直線状)となる「I型」、平面視L字状となる「L型」および平面視T字状となる「T型」のいずれかとなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなり、梁単独型のプレキャスト梁部材は、一つの梁部のみからなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、本発明に係る建物によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材の総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0011】
本発明においては、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材として、前記パネルゾーンの上に短柱状の柱部が一体成形されたものを使用するとよい。このようなプレキャスト梁部材を使用すると、n階においてスラブコンクリートを打設する前にn階用のプレキャスト梁部材の柱部にn+1階用のプレキャスト柱部材を載置する、という構築方法を採用することができるようなるので、n階スラブの完成後にプレキャスト柱部材を配置する場合に比べて、揚重機械の稼働率が向上し、ひいては、工期短縮を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トラックでの運搬に適した形状のプレキャスト梁部材を使用しながらも、工期短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施形態に係る建物の基準階におけるプレキャスト梁部材の割り付け図である。
【図2】(a)はI型プレキャスト梁部材を示す平面図、(b)はL型プレキャスト梁部材を示す平面図、(c)はT型プレキャスト梁部材を示す平面図である。
【図3】(a)はプレキャスト梁部材の側面図、(b)はプレキャスト柱部材の側面図である。
【図4】(a)は本発明の実施形態に係る柱梁架構の構築方法における工程表、(b)は一般的に実施されているRC積層工法における工程表である。
【図5】本発明の実施形態に係る柱梁架構の構築方法を説明するための側面図であって、n階の床部材配置工程まで完了した状況を示す側面図である。
【図6】n+1階の柱部材配置工程を説明するための側面図である。
【図7】n+1階の梁部材配置工程を説明するための側面図であって、n+1階用のプレキャスト梁部材を載置した状態を示す側面図である
【図8】n+1階の梁部材配置工程を説明するための側面図であって、n+1階用のプレキャスト梁部材を仮固定した状態を示す側面図である。
【図9】n階のスラブコンクリート打設工程を説明するための側面図である。
【図10】(a)〜(f)はプレキャスト梁部材の変形例を示す平面図である。
【図11】第二の実施形態に係る建物の基準階におけるプレキャスト梁部材の他の割り付け図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態に係る建物Aは、鉄筋コンクリート製のプレキャスト梁部材およびプレキャスト柱部材を利用して構築された多層階建ての建物である。
【0015】
図1に示すように、建物Aの基準階(柱梁の配置パターンを同じくする複数の階の代表となる階)には、I型プレキャスト梁部材BI、L型プレキャスト梁部材BLおよびT型プレキャスト梁部材BTが配置されていて、これらプレキャスト梁部材BI、BL、BTによって、矩形枠状の外周フレームA1と、矩形枠状の内周フレームA2とが形成されている。図示は省略するが、基準階と同一構成の階における複数のプレキャスト梁部材BI,BL,BTの割り付け図も、図1と同様である。
【0016】
I型プレキャスト梁部材BIおよびL型プレキャスト梁部材BLは、直方体状のパネルゾーン1から二つの梁部2,2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材であり、T型プレキャスト梁部材BTは、直方体状のパネルゾーン1から三つの梁部2,2,2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材である。すなわち、建物Aでは、基準階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとしている。
【0017】
図2を参照してプレキャスト梁部材BI,BL,BTの構成を説明するが、図2においては、コンクリート部分の外形のみを図示し、鉄筋の図示を省略している。
【0018】
図2の(a)に示すI型プレキャスト梁部材BIは、一つのパネルゾーン1と、平面視I字状(直線状)となるように配置された二つの梁部2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3(図3の(a)参照)とを備えている。すなわち、I型プレキャスト梁部材BIでは、パネルゾーン1の一側面から一方の梁部2が張り出し、一側面の対面(一側面と平行な他側面)から他方の梁部2が張り出している。梁部2の長さ(パネルゾーン1の側面から梁部2の先端面までの距離)d1,d2は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D)である。
【0019】
図2の(b)に示すL型プレキャスト梁部材BLは、外周フレームA1(図1参照)の角部に配置されるものであり、一つのパネルゾーン1と、平面視L字状となるように配置された長短二つの梁部2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部(図示略)とを備えている。すなわち、L型プレキャスト梁部材BLでは、パネルゾーン1の一側面から一方の梁部2が張り出し、一側面の隣接面(一側面に直交する他側面)から他方の梁部2が張り出している。梁部2の長さd1,d2は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D)である。
【0020】
図2の(c)に示すT型プレキャスト梁部材BTは、一つのパネルゾーン1と、平面視T字状となるように配置された三つの梁部2,2,2と、パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部(図示略)とを備えている。すなわち、T型プレキャスト梁部材BTでは、パネルゾーン1の三つの側面から梁部2が張り出している。梁部2の長さd1,d2,d3は、いずれも、パネルゾーン1の幅寸法(柱寸法)Dの1倍以上(d1≧1D、d2≧1D、d3≧1D)である。
【0021】
図1に示すように、T型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が外周フレームA1を構成するもの(外周用のT型プレキャスト梁部材BT)と、パネルゾーン1が内周フレームA2を構成するもの(内周用のT型プレキャスト梁部材BT)とがある。
【0022】
なお、外周用のT型プレキャスト梁部材BTのうち、外周フレームA1の一部分となるのは、パネルゾーン1のほか、パネルゾーン1を挟んで直線状に並ぶ二つの梁部2,2である。外周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、外周フレームA1を構成するI型プレキャスト梁部材BIの梁部2またはL型プレキャスト梁部材BLの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2は、内周フレームA2に向かって張り出していて、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されている。
【0023】
また、内周用のT型プレキャスト梁部材BTのうち、内周フレームA2の一部分となるのは、パネルゾーン1のほか、パネルゾーン1を挟んでL字状に並ぶ二つの梁部2,2である。内周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2のうち、L字状に並ぶ二つの梁部2,2は、内周フレームA2を構成するI型プレキャスト梁部材BIの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2は、外周フレームA1に向かって張り出していて、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されている。
【0024】
なお、以下の説明において、プレキャスト梁部材BI,BL,BTを区別しない場合には、符号「B」に付した添え字を省略する。
【0025】
図3の(a)を参照して、プレキャスト梁部材Bの構成を詳細に説明する。ちなみに、図3の(a)に示すプレキャスト梁部材Bは、I型プレキャスト梁部材である。
【0026】
プレキャスト梁部材Bは、ハーフプレキャスト部材であり、図3の(a)に示す状態で工場から出荷される。なお、図示は省略するが、プレキャスト梁部材Bをフルプレキャスト部材としても差し支えない。
【0027】
パネルゾーン1および柱部3には、これらを上下に貫通する鉄筋挿通孔1a,1a,…が形成されているとともに、鉄筋挿通孔1a,1a,…を取り囲むように帯筋(図示略)が配筋されている。鉄筋挿通孔1aには、図3の(b)に示すプレキャスト柱部材Pの柱主筋4aが挿通される。鉄筋挿通孔1aは、シース管等により形成される。
【0028】
梁部2には、梁主筋2a,2aのほか、あばら筋などが配筋されている。下側の梁主筋2aの両端部は、コンクリート部の端面から突出しており、両端部を除く残りの部分は、コンクリート部に埋設されている。上側の梁主筋2aは、パネルゾーン1を貫通する部分を除いて外部に露出している。
【0029】
柱部3は、柱脚となる部位であり、パネルゾーン1の上に位置している。柱部3は、短柱状を呈していて、パネルゾーン1と一体成形されている。柱部3の下端はスラブ天端と一致しており、柱部3の上端はスラブ天端よりも高いところに位置している。柱部3の上端部には、荷重受けボルト3aが植設されている。荷重受けボルト3aは、プレキャスト柱部材Pを仮受けするものであり、その上に載置されたプレキャスト柱部材Pのレベル調整を行えるよう、柱部3に埋設されたインサートナット(図示略)に螺着されている。荷重受けボルト3aの位置や個数は限定されるものではないが、本実施形態では、柱部3の上面の四隅に設けている。
【0030】
図3の(b)を参照して、プレキャスト柱部材Pの構成を説明する。プレキャスト柱部材Pは、直方体状のコンクリート部4を有している。コンクリート部4には、柱主筋4a,4a,…のほか、帯筋(図示略)などが配筋されている。コンクリート部4の下端部には、鉄筋継手用のスリーブ4bが埋設されており、コンクリート部4の上端部には、荷重受けボルト4cが植設されている。柱主筋4bの上部は、コンクリート部4の上面から突出しており、柱主筋4aの下端部は、スリーブ4b内に所定長さ(定着長)分差し込んでいる。荷重受けボルト4cは、プレキャスト梁部材Bを仮受けするものであり、その上に載置されたプレキャスト梁部材Bのレベル調整を行えるよう、コンクリート部4に埋設されたインサートナット(図示略)に螺着されている。荷重受けボルト4cの位置や個数は限定されるものではないが、本実施形態では、コンクリート部4の上面の四隅に設けている。
【0031】
次に、図4乃至図9を参照して、プレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pを使用した柱梁架構の構築方法を説明する。
【0032】
なお、以下では、n階を基準階とし、n階用のプレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pに添え字「n」を、n+1階用のプレキャスト梁部材Bおよびプレキャスト柱部材Pに添え字「n+1」を付す。n+1階は、n階(基準階)と同一構成である。
【0033】
本実施形態に係る柱梁架構の構築方法は、図4の(a)に示すように、柱部材配置工程と、梁部材配置工程と、床部材配置工程と、スラブ配筋工程と、スラブコンクリート打設工程とを含むものである。多層階建ての建物Aにおいては、n階(基準階)だけでなく、n階と同一構成の階(n+1階以上の階)においても上記の各工程を実行する。n階の柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程は、n+1階の柱部材配置工程に先だって行われる。また、n階のスラブ配筋工程は、n+1階の柱部材配置工程および梁部材配置工程と並行して行われ、n階のスラブコンクリート打設工程は、n+1階の梁部材配置工程と並行して行われる。なお、必要に応じて、n階の床スラブを構築する前に上階のプレキャスト柱部材Pn+1やプレキャスト梁部材Bn+1を設置してもよい。
【0034】
図5は、n階において柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程を実行した後の状態を示すものである。
n階用のプレキャスト梁部材Bnのパネルゾーン1は、梁固定治具7によってn階用のプレキャスト柱部材Pnの上端部に仮固定されており、プレキャスト梁部材Bnの梁部2は、サポート部材6によってプレキャスト柱部材Pnに仮支持されている。プレキャスト柱部材Pnの柱主筋4aは、プレキャスト梁部材Bnの鉄筋挿通孔1a(図3の(a)参照)に挿通されていて、柱部3から突出している。プレキャスト梁部材Bnは、隣り合う他のプレキャスト梁部材Bnと間隔をあけた状態で配置されており、当該間隔を取り囲むように型枠9(底板のみを図示し、側板の図示は省略している)が配置されている。また、梁主筋2aは、鉄筋継手2bを介して他のプレキャスト梁部材Bnの梁主筋2aと連結されている。鉄筋継手2bの種類に制限はなく、機械式継手のほか、重ね継手、添え筋重ね継手、エンクローズド溶接継手などを適用することができる。
なお、図5中の符号Snは、床部材配置工程によって設置されたn階用のプレキャスト床部材である。プレキャスト床部材Snは、スラブ型枠を兼ねる鉄筋コンクリート製のハーフプレキャスト部材であり、その上に場所打ちされるスラブコンクリートと一体となることによって床スラブとなる。
【0035】
n+1階の柱部材配置工程は、図6に示すように、n階用のプレキャスト梁部材Bnの柱部3にn+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1を載置し、プレキャスト柱部材Pn+1の下端部を柱部3に仮固定する工程である。
なお、プレキャスト柱部材Pn+1は、荷重受けボルト3a(図3の(a)参照)の上に載置する。また、必要に応じて荷重受けボルト3aの突出長さを調整することで、プレキャスト柱部材Pn+1のレベル調整および鉛直度の調整を行う。
【0036】
図4の(a)に示すように、n+1階の柱部材配置工程は、n階のスラブコンクリート打設工程に先んじて行う。すなわち、n+1階の柱部材配置工程は、n階においてスラブコンクリートを打設する前に開始する。本実施形態においては、n階のクレーン作業(n階の柱部材配置工程、梁部材配置工程および床部材配置工程)が完了した後、速やかにn+1階の柱部材配置工程を開始し、n+1階の柱部材配置工程とn階のスラブ配筋工程とを並行して行う。
なお、鉄筋搬入のためのクレーン作業は頻繁に行う必要がなく、鉄筋搬入後はクレーン作業を殆ど必要としないので、柱部材配置工程とスラブ配筋工程を並行して行っても、両工程が遅滞することはない。
【0037】
図6に示すように、本実施形態の柱部材配置工程では、仮設の柱固定治具5を利用して、プレキャスト柱部材Pn+1をプレキャスト梁部材Bnに仮固定する。
【0038】
柱固定治具5は、柱部3とプレキャスト柱部材Pn+1との境界部分(柱部3の上面とプレキャスト柱部材Pn+1の下面との間に確保された隙間)を取り囲むように配置し、柱部3およびプレキャスト柱部材Pn+1の下端部に固定する。柱固定治具5の下縁は、スラブ天端と一致させるか、あるいはスラブ天端の上側に位置させる。柱固定治具5は、充填材注入用の型枠となるだけでなく、充填材の硬化前においてはプレキャスト柱部材Pn+1の転倒を防止する支持部材となるので、剛性・耐力の高い部材(例えば、溝形鋼やH形鋼といった鋼材など)にて形成する。図示は省略するが、柱部3およびプレキャスト柱部材Pn+1の下端部には、インサートナットが埋設されている。このインサートナットには、柱固定治具5に挿通したボルトが螺着される。
なお、本実施形態では、型枠兼用の柱固定治具5を例示したが、型枠兼用であることは必須ではない。柱固定治具5が型枠兼用でない場合には、専用の型枠を別途設置すればよい。
【0039】
n+1階の柱部材配置工程が完了したら、n+1階の梁部材配置工程に移行する。
なお、梁部材配置工程に移行する前に、プレキャスト梁部材Bnの柱部3とプレキャスト柱部材Pn+1との境界部分に充填材(例えば、グラウトや高流動モルタルなど)を注入してもよいが、本実施形態では、柱固定治具5でプレキャスト柱部材Pn+1を仮固定しているので、充填材を注入する前あるいは注入した充填材が硬化する前であっても、n+1階の梁部材配置工程を行うことができる。柱固定治具5は、充填材が硬化した後に取り外す。
【0040】
n+1階の梁部材配置工程は、図7に示すように、n+1階用のプレキャスト梁部材Bn+1のパネルゾーン1をn+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1に載置し、図8に示すように、パネルゾーン1をプレキャスト柱部材Pn+1の上端部に仮固定する工程である。
なお、プレキャスト梁部材Bn+1は、荷重受けボルト4a(図3の(b)参照)の上に載置する。
【0041】
図4の(a)に示すように、n+1階の梁部材配置工程は、本実施形態では、n階のスラブコンクリート打設工程よりも前に開始し、梁部材配置工程の開始当初から途中までは、n階のスラブ配筋工程と並行して行う。n階のスラブ配置工程が完了した後は、n+1階の梁部材配置工程を行いながら、n階のスラブコンクリート打設工程を行う。
なお、スラブコンクリートは、圧送管を通して打設場所まで圧送されるため、クレーン作業を殆ど必要とせず、したがって、梁部材配置工程とスラブコンクリート打設工程を並行して行っても、両工程が遅滞することはない。
【0042】
図8に示すように、本実施形態の梁部材配置工程では、仮設のサポート部材6を利用してプレキャスト梁部材Bn+1のレベル調整を行い、仮設の梁固定治具7を利用して、プレキャスト梁部材Bn+1をプレキャスト柱部材Pn+1に仮固定する。
【0043】
サポート部材6は、n+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1の側面から斜め上方に向かって立ち上がり、梁部2の下面に接合されている。サポート部材6は、長さ調節可能な構成(例えば、ねじ機構やジャッキなど)を具備している。サポート部材6で梁部2を仮支持した状態で、サポート部材6の長さを調節すると、プレキャスト梁部材Bn+1のレベル調整を行うことができる。
なお、本実施形態では、サポート部材6を一つだけ配置し、一つの梁部2のみを仮支持する場合を例示しているが、サポート部材6の数を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、複数のサポート部材6を配置し、複数の梁部2を仮支持してもよい。また、サポート部材6に代えて、n階用のプレキャスト梁部材Bnに立設した支保工でn+1階用のプレキャスト梁部材Bn+1を仮支持してもよい。
【0044】
梁固定治具7は、プレキャスト柱部材Pn+1とパネルゾーン1との境界部分(プレキャスト柱部材Pn+1の上面とパネルゾーン1の下面との間に確保された隙間)を跨ぐように配置し、プレキャスト柱部材Pn+1の上端部およびパネルゾーン1に固定する。梁固定治具7は、仮設ではあるものの、プレキャスト梁部材Bn+1の転落等を防止する支持部材となるので、剛性・耐力の高い部材(例えば、溝形鋼、H形鋼、山形鋼といった鋼材など)にて形成する。図示は省略するが、プレキャスト柱部材Pn+1の上端部およびパネルゾーン1には、インサートナットが埋設されている。このインサートナットには、梁固定治具7に挿通したボルトが螺着される。なお、プレキャスト柱部材Pn+1とパネルゾーン1との境界部分には、充填材用の型枠8を配置する。
【0045】
n+1階の梁部材配置工程を行っている間にn階のスラブ配筋工程(n階用のプレキャスト床部材Snの上にスラブ筋2cを敷設する工程)が完了したら、図9に示すように、n階のスラブコンクリート打設工程を行う。スラブコンクリート打設工程では、n階用のプレキャスト床部材Snの上にスラブコンクリートCを打設するだけでなく、n階用のプレキャスト梁部材Bnの上および隣り合うプレキャスト梁部材Bn,Bnの間(梁接合部J)にもコンクリートを打設する。
【0046】
n+1階の梁部材配置工程が完了したら、図4の(a)に示すように、n+1階の床部材配置工程を行い、n+2階の柱部材配置工程および梁部材配置工程と並行してn+1階のスラブ配筋工程およびスラブコンクリート打設工程を行う。n+2階以降についても同様である。
【0047】
なお、床部材配置工程に移行する前に、プレキャスト柱部材Pn+1とプレキャスト梁部材Bn+1との境界部分に充填材を注入してもよいが、本実施形態では、梁固定治具7でプレキャスト梁部材Bn+1を仮固定しているので、充填材を注入する前あるいは注入した充填材が硬化する前であっても、n+1階の床部材配置工程を行うことができる。サポート部材6,梁固定治具7および型枠8は、充填材が硬化した後に取り外す。
【0048】
本実施形態に係る柱梁架構の構築方法によれば、n階のスラブ完成を待たずして、n+1階用のプレキャスト柱部材Pn+1およびプレキャスト梁部材Bn+1を配置することができるので、n階スラブの完成後に柱部材配置工程および梁部材配置工程を行う場合(図4の(b)参照)に比べて、揚重機械の稼働率が向上し、ひいては、工期短縮を図ることが可能となる。すなわち、本実施形態に係る柱梁架構の構築方法によれば、n階のスラブ配筋工程やスラブコンクリート打設工程と並行してn+1階の柱部材配置工程および梁部材配置工程を行うことが可能となるので、図4に示すように、各階においてスラブ配筋工程およびスラブコンクリート打設工程に2日を要する場合であれば、1フロアにつき2日の工期短縮を図ることができる。
【0049】
また、柱固定治具5を充填材用の型枠として利用することができるので、作業の効率化を図ることが可能となる。しかも本実施形態では、スラブ天端よりも上側に柱固定治具5を配置しているので、柱固定治具5がスラブコンクリート内に埋没することはなく、したがって、柱固定治具5の取り外しが容易になるとともに、柱固定治具5を再利用することが可能となる。
【0050】
また、梁部材配置工程においてサポート部材6を使用しているので、プレキャスト梁部材Bを安定的に仮支持することができ、かつ、レベル調整を容易に行うことが可能となる。
【0051】
しかも、建物Aでは、基準階および前記基準階と同一構成の階においてパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材Bを使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、プレキャスト梁部材Bは、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が「I型」、「L型」および「T型」のいずれかであるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、建物Aによれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材Bの総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難い形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【0052】
なお、前記実施形態では、プレキャスト床部材Snがスラブ型枠を兼ねる鉄筋コンクリート製のハーフプレキャスト部材である場合を例示したが、フルプレキャスト部材としても差し支えないし、プレキャスト部材を使用せず、場所打ちコンクリートのみで床スラブを形成してもよい。
【0053】
また、前記した実施形態においては、パネルゾーン1を一つだけ具備したI型プレキャスト梁部材BIおよびT型プレキャスト梁部材BTを例示したが、「一つのパネルゾーンから二つまたは三つの梁部が張り出すプレキャスト梁部材」には、図10の(a)に示す「II型」のプレキャスト梁部材BII、同図の(b)に示す「TT型」のプレキャスト梁部材BTT、同図の(c)に示す「IT型」のプレキャスト梁部材BIT、同図の(d)に示す「IL型」のプレキャスト梁部材BIL、同図の(e)に示す「TL型」のプレキャスト梁部材BTL、同図の(f)に示す「LL型」のプレキャスト梁部材BLLなども含まれる。
【0054】
より詳細に説明すると、図10の(a)に示すII型プレキャスト梁部材BIIは、二つのパネルゾーン1,1と、平面視I字状(直線状)を呈するように配置された三つの梁部2,2,2と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。II型プレキャスト梁部材BIIにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2,2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)となっている。
【0055】
また、図10の(b)に示すTT型プレキャスト梁部材BTTは、二つのパネルゾーン1,1と、五つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。TT型プレキャスト梁部材BTTにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から三つの梁部2,2,2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視T字状(T型)となっている。
【0056】
図10の(c)に示すIT型プレキャスト梁部材BITは、二つのパネルゾーン1,1と、四つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。IT型プレキャスト梁部材BITにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)又は平面視T字状(T型)となっている。
【0057】
図10の(d)に示すIL型プレキャスト梁部材BILは、二つのパネルゾーン1,1と、三つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。IL型プレキャスト梁部材BILにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視I字状(I型)又は平面視L字状(L型)となっている。
【0058】
図10の(e)に示すTL型プレキャスト梁部材BTLは、二つのパネルゾーン1,1と、四つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。TL型プレキャスト梁部材BTLにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つ又は三つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視L字状(L型)又は平面視T字状(T型)となっている。なお、四つの梁部2,2,…のうち、二つのパネルゾーン1,1を結ぶ梁部2に対して直交する方向に配置される二つの梁部2,2は、同じ方向(図10の(e)では右方向)に向かって張り出している。
【0059】
図10の(f)に示すLL型プレキャスト梁部材BLLは、二つのパネルゾーン1,1と、三つの梁部2,2,…と、各パネルゾーン1の上に設けられた短柱状の柱部3とを備えている。LL型プレキャスト梁部材BLLにおいても、一つのパネルゾーン1に着目すると、一つのパネルゾーン1から二つの梁部2が張り出していて、一つのパネルゾーン1から張り出す梁部2の配置形態が平面視L字状(L型)となっている。なお、三つの梁部2,2,…のうち、二つのパネルゾーン1,1を結ぶ梁部2に対して直交する方向に配置される二つの梁部2,2は、同じ方向(図10の(f)では右方向)に向かって張り出している。
【0060】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態に係る建物A’は、図11に示すように、基準階(基準階と同一構成の階についても同様)に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTとし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材BSとしたものである。
【0061】
建物A’の基準階においては、I型プレキャスト梁部材BI、L型プレキャスト梁部材BL、およびT型プレキャスト梁部材BTによって矩形枠状の外周フレームA1’が形成されており、T型プレキャスト梁部材BTのみによって矩形枠状の内周フレームA2’が形成されている。なお、図1の建物Aにおいては、内周フレームA2の四隅だけが外周フレームA1に連結されているが、図11の建物A’においては、内周フレームA2’の四隅以外においても、外周フレームA1’に連結されている。
【0062】
プレキャスト梁部材BI,BL,BT,BSは、基準階の平面形状に応じて適宜配置すればよいが、L型プレキャスト梁部材BLは、建物A(図1参照)の場合と同様、外周フレームA1’の角部に配置されている。
【0063】
T型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が外周フレームA1’を構成するもの(外周用のT型プレキャスト梁部材BT)と、パネルゾーン1が内周フレームA2’を構成するもの(内周用のT型プレキャスト梁部材BT)とがある。
【0064】
外周用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、外周フレームA1’を構成する他のプレキャスト梁部材BI,BL,BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、内周フレームA2’に向かって張り出していて、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’または梁単独型プレキャスト梁部材BSに接続されている。
【0065】
内周用のT型プレキャスト梁部材BTには、パネルゾーン1が内周フレームA2’の角部に位置する「内周角部用」のものと、パネルゾーン1が内周フレームA2’の直線部に位置する「内周直線部用」のものとがある。
【0066】
内周角部用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、L字状に並ぶ二つの梁部2,2は、いずれも、内周直線部用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、外周フレームA2’に向かって張り出していて、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に接続されている。
【0067】
内周直線部用のT型プレキャスト梁部材BTに係る三つの梁部2,2,2’のうち、直線状に並ぶ二つの梁部2,2は、いずれも、内周フレームA2’を構成する他のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2に接続されており、残り一つの梁部2’は、外周フレームA2’に向かって張り出していて、梁単独型プレキャスト梁部材BSに接続されている。
【0068】
梁単独型プレキャスト梁部材BSは、外周フレームA1’と内周フレームA2’との間に介設されるものであり、パネルゾーンを具備しておらず、直線状を呈する梁部のみからなる。梁単独型プレキャスト梁部材BSの一端は、外周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に梁接合部Jを介して接続されており、梁単独型プレキャスト梁部材BSの他端は、内周用のT型プレキャスト梁部材BTの梁部2’に梁接合部Jを介して接続されている。
【0069】
建物A’においても、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTを使用しているので、プレキャスト化率が高まり、ひいては、工期短縮を図ることができる。また、パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材BI,BL,BTは、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなり、梁単独型プレキャスト梁部材BSは、一つの梁部のみからなるので、十字型のプレキャスト梁部材に比べて幅寸法が小さくなる。つまり、建物A’によれば、基準階および前記基準階と同一構成の階に使用される複数のプレキャスト梁部材BI,BL,BT,BSの総てが、トラックでの運搬に適した形状(トラックに積載可能な幅寸法を超え難くい形状)となるので、運搬作業が容易になる。
【符号の説明】
【0070】
BI I型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
BL L型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
BT T型プレキャスト梁部材(パネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材)
1 パネルゾーン
2 梁部
3 柱部
BS 梁単独型プレキャスト梁部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物。
【請求項2】
基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材とし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物。
【請求項3】
前記パネルゾーンの上に短柱状の柱部が一体成形されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物。
【請求項1】
基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材の総てを、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物。
【請求項2】
基準階および前記基準階と同一構成の階に配置される複数のプレキャスト梁部材のうちの一部を、一つのパネルゾーンから二つ又は三つの梁部が張り出すパネルゾーン一体型のプレキャスト梁部材とし、残りを、一つの梁部のみからなる梁単独型のプレキャスト梁部材としたことを特徴とする建物。
【請求項3】
前記パネルゾーンの上に短柱状の柱部が一体成形されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の建物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−219473(P2012−219473A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84633(P2011−84633)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
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