説明

建築下地用防水構造体及び該構造体を施工した建築物

【課題】屋根下葺材として求められる防水性が十分な建築下地用防水構造体を提供する。
【解決手段】防水フィルム層10及び吸水膨潤層20を有する建築下地用防水構造体1であって、前記吸水膨潤層20は、吸水性粒子24と粘着剤22を含んで構成され、前記防水フィルム層の下面側に設けられていることを特徴とする建築下地用防水構造体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用防水構造体に関し、更に詳しくは、防水特性を有した建築物(特に家屋の屋根)の外装材の一つである建築下地用防水構造体(下葺材)、及び、それを施工した建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に家屋の屋根は、小屋根組と呼ばれ傾斜のある骨組みの上に野地板、下葺材、瓦等の屋根葺材(上葺材)などが順に施工されて構成されている。この場合、屋根の防水は、屋根葺材と下葺材との二重構造でおこなっている。通常、下葺材は釘(ステープル含む)を用いて野地板等に固定さている。
【0003】
特許文献1には、「釘孔止水性に優れた柔軟で軽量な止水性を有する屋根用下葺材として上層から下層に向けて合成樹脂フィルム層、粘着性樹脂層、吸水性高分子層による吸水膨潤層、不織布層の順で積層された止水性屋根下葺材」が記載されている。
【0004】
特許文献2には、「施工時に釘等を打ち付けても止水性に優れた建築下地用防水シートとして二層の合成樹脂フィルムの間に吸水性高分子樹脂からなる吸水膨潤層を有する不織布が挟持された多層構造のシート」が記載されている。
【0005】
特許文献3には、「防滑層と透湿防水層と接着材とを有する積層体からなる屋根下葺材」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−177106号公報
【特許文献2】特開2009−84840号公報
【特許文献3】特開2005−113678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の家屋の屋根下葺材は、吸水膨潤層を有するタイプのシートでは、シートの野地材等への固定を専ら釘で行うため多数の貫通孔を伴うことになり、また、接着剤を有するタイプのシートでは、吸水膨潤層を有するものでないので、ともに、屋根下葺材として求められる防水性が不十分であり、その改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一つの態様としては、防水フィルム層及び吸水膨潤層を有する建築下地用防水構造体1であって、前記吸水膨潤層は、吸水性粒子と粘着剤を含んで構成され、前記防水フィルム層の下面側に設けられている建築下地用防水構造体1が提供される。
【0009】
別の態様としては、上記建築下地用防水構造体を施工した建築物が提供される。
更に別の態様としては、上記建築下地用防水構造体を建築物に施工する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建築下地用防水構造体は、該下地用防水構造体の屋根施工時に釘(ステープル含む)の使用を極力低減でき、また、釘孔箇所の漏水を十分に防止できるとともに漏水の釘孔周辺への濡れ広がりを最小限に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明にかかる建築下地用防水構造体を施工した建築物(家屋の屋根)の構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明にかかる建築下地用防水構造体を家屋の屋根の野地材等へ釘(ステープル含む)で固定する場合の固定部の構成を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明にかかる建築下地用防水構造体の一例の構成を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明にかかる建築下地用防水構造体に釘(タッカー)を貫通させた場合の建築下地用防水構造体の防水フィルム層、吸水膨潤層(粘着剤、吸水性粒子)と釘の接触関係を示す模式断面図である。ここで、図(a)は、模式横断面図である。また、図4(b)、(c)はともに、図4(a)中の切断線X−Xで切断した場合の模式下面断面図であるが、これらのうち図4(b)は、吸水性粒子が水分を吸収する前の状況を示す模式断面図、図4(c)は、吸水性粒子が水分を吸収した後の状況を示す模式断面図である。
【図5】図5は、図3に示した建築下地用防水構造体にさらに吸水膨潤層の下側に粘着剤層を設けた本発明にかかる建築下地用防水構造体の横断面図である。
【図6】図6は、作製試験サンプルの形状を示す図であって、図6(a)は、上面図であり、図6(b)は、図6(a)中の切断線Y−Yで切断した場合の横断面図である。
【図7】図7は、本発明にかかる建築下地用防水構造体の防水フィルム製造方法の実施形態における製造工程を模式的に示す断面図である。
【図8】図8は、本発明にかかる建築下地用防水構造体の製造工程を模式的に示す断面図である。
【図9】図9は、本発明にかかる建築下地用防水構造体の粘着組成物の塗工パターンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で当業者の通常の知識に基づいて適宜設計の変更、改良等が加えることができると理解されるべきである。
【0013】
図1は、本発明にかかる建築下地用防水構造体1を施工した建築物、具体的には家屋の屋根200の構成の一例を示したものである。図1に示すように、家屋の屋根200は、通常、野地板50の上に専ら防水のため下葺材として野地板全面に建築下地用防水構造体1を重ね、更に、建築下地用防水構造体1のほぼ全幅に桟木54を配置し、更に、防水と防火のため上葺材として複数の瓦56等を重ねることで構成されている。
【0014】
この場合、瓦56は、図2に示すように、傾斜した屋根よりずり落ちるのを防止するため、釘(ステープル含む)58を用いて、桟木54に固定、もしくは桟木を介して野地板50、垂木52に直接固定されている。その際、建築下地用防水構造体1には、釘打ち込み等に起因して複数の貫通孔が設けられることになる。
【0015】
図3は、本発明の建築下地用防水構造体のひとつの実施形態を示したものである。図3に示すように建築下地用防水構造体1は、少なくとも上層が防水フィルム層10と下層が吸水性粒子24と粘着剤22を含む吸水膨潤層20とからなる多層積層体として構成されている。すなわち、この多層積層体において、吸水膨潤層は、防水フィルム層の下面側に防水フィルム層に接して設けることができるし、防水フィルム層の下面側に他の層を介して設けることもできる。
【0016】
この吸水膨潤層20において、吸水性粒子24は、粘着剤中に分散されており、粘着剤と粘着組成物を構成する。
【0017】
例えば、吸水膨潤層20には、粘着剤22としてアクリル系粘着剤を用いることができ、吸水性粒子24として、ポリアクリル酸ナトリウムを有する吸水性粒子を用いることができる。この場合は、吸水膨潤層20は、この粘着剤22を、有機溶剤(例えば、トルエン、酢酸エチル)を用いて溶解し溶液とした後、吸水性粒子24をこの溶液に添加することで塗工液を作製し、次にこの塗工液を防水フィルム層10上に印刷等の方法で塗工しその後乾燥することで作製される。この場合、吸水性粒子24は粘着剤中で相溶することなく、分散された状態で存在する。よって、建築下地用防水構造体1を釘58で野地材50等に固定する際、吸水膨潤層の厚さ、吸水性粒子の分散を好適なものとしてやれば、吸水膨潤層の釘孔の内周面の少なくとも一部に吸水性粒子の表面を露出させることができる。
【0018】
図4は、建築下地用防水構造体1に釘58を打ち込んだ際の釘58と吸水性粒子24との関係を模式図的に示したものである。図4(a)は、釘を建築下地用防水構造体1に打ち込んだ際の建築下地用防水構造体1の厚さ方向の断面状態を示し、図4(b)(c)は、建築下地用防水構造体1の厚さ方向の断面を切断線X−Xで切断した断面であって、粘着剤中の吸水性粒子24が水分を吸収する前後の状態をそれぞれ示す。
【0019】
図4(b)に示すように、吸水性粒子24は、粘着剤22中で、「海の中の島」状態で存在する。釘孔部に存在する吸水性粒子は、釘58の打ち込みに伴い、釘孔部より釘の外周面部に粘着剤中を移動(矢印で示す)し、釘の外周面部で、より高密度に存在することになる。その結果、釘の外周面に沿って、水が伝わってくると吸水性粒子が水を吸収し、図4(c)に示すように膨張する。その結果、吸水性粒子24は、建築下地用防水構造体1に設けられた釘孔の内周面と釘の外周面に存在する隙間を確実に埋め止水をおこない、釘打ち込み後の建築下地用防水構造体1の防水特性(漏水を生じさせない特性)を維持せしめるのに役立つ。
【0020】
換言すれば、吸水性粒子24を粘着剤22中で用いること、いわゆる「海島」状態で用いることは、一般には、吸水性粒子24の表面を粘着剤22で覆うことになり、吸水性粒子24が水を吸収することができなくなるので、吸水性粒子24の止水効果を劣化させることになる。よって、吸水性粒子24を粘着剤22中で用いることは一般的に行われることではない。しかし、本発明においては、図4に示すように釘58との相互作用によって、吸水性粒子24の止水作用は、極めて効果的なものとして、発露しうるものとなる。
【0021】
ところで、吸水膨潤層の厚さ、吸水性粒子の粘着剤中における量比は、両者の関係から求められる止水特性、吸水性粒子及び粘着剤を含む粘着組成物の塗工性、成膜性等を考慮して最終的に決められる。
【0022】
具体的には、吸水膨潤層20の粘着組成物の塗布量は、粘着組成物固形分換算で10g/m以上、より好ましくは20g/m以上であり、500g/m以下、より好ましくは300g/m以下、もっとも好ましくは100g/m以下である。
【0023】
また、吸水性粒子の粘着剤中における量比は、固形物換算の粘着剤100質量部(固形分100%)あたり、5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
吸水膨潤層20の粘着剤の塗布量が上記の範囲であれば、粘着組成物を防水フィルム層10に均一に塗布ができ、形成した吸水膨潤層20が防水フィルム層10から剥離しにくく、また吸水性粒子24の吸水作用に起因した建築下地用防水構造体の釘打ち込みに起因した貫通孔部の止水効果も期待できるからである。
【0024】
吸水性粒子24の粘着剤22中における量比は、上記の範囲であれば、粘着組成物を防水フィルム層に均一に塗布ができ、吸水粒子の吸水作用に起因した建築下地用防水構造体の釘打ち込みに起因した貫通孔部の止水効果が期待でき、粘着組成物の接着力も確保できるからである。
【0025】
以上、吸水性粒子24として、ポリアクリル酸ナトリウムを有する粒子を用いる場合を例にのべたが、以下に記載した吸水性粒子24についても同様な事が言える。
【0026】
上記吸水膨潤層20に用いるに適する吸水性粒子24としては特に限定されず、公知の吸水性粒子24を使用することができる。例えば、前述のポリアクリル酸ナトリウムを有する粒子だけでなく、アクリル酸−ビニルアルコール共重合体を有する粒子、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体を有する粒子、でんぷん−アクリル酸グラフト共重合体を有する粒子、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体及びそのケン化物を有する粒子、ポリアスパラギン酸を有する粒子等を用いることができる。これら粒子の内、ポリアクリル酸ナトリウムを有する粒子は、ポリアクリル酸ナトリウムの吸水力が自重の100倍から1000倍と大きいことからもっとも好ましい。
【0027】
用いる吸水性粒子24の平均粒子径は、通常、10μm〜500μm程度のものが好ましい。吸水性粒子が10μmより小さいと粘着剤中で均一分散が困難となり、500μmより大きいと吸水膨潤層20から脱粒しやすく均一な吸水性も確保しにくくなるからである。
【0028】
尚、吸水性粒子24として大きめのものを用いる場合は、図5に示したように防水フィルム層10の反対側で吸水膨潤層20の下側にさらに粘着剤層26を設けることで吸水性粒子の脱粒を起こすことなく接着力も大きいものとすることができる。
【0029】
上記吸水膨潤層20に用いるに適する粘着剤22としては、天然ゴム系樹脂を有する粘着剤、合成(SBR、SIS等)ゴム系樹脂を有する粘着剤、シリコーン系樹脂を有する粘着剤、アクリル系樹脂を有する粘着剤、ポリエチレン系樹脂を有する粘着剤等を用いることができる。特に、吸水性粒子24として、ポリアクリル酸ナトリウムを有する粒子(吸水性樹脂粒子)を用いる場合は、粘着剤中での均一分散の達成等の観点、及び粘着組成物の耐侯性の向上、材料自体の市場容易入手性等の観点からアクリル系樹脂を有する粘着剤を用いることが好ましい。
【0030】
粘着組成物は、主として溶媒を添加して溶剤溶液として用いることができるが、無溶剤のホットメルト材として用いることもできる。
【0031】
防水フィルム層10は、取り扱い上の観点からロールにできるシート状のものが好ましい。また、防水フィルム層10は、溶媒、粘着剤をはじかない材質であり、非透水性基材であれば、特に限定されない。熱可塑性樹脂であれば、例えば、オレフィン系の高分子樹脂やゴム系の物質が好ましい。オレフィン系の高分子樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等を挙げることができる。また、ゴム系物質としてはSIS(スチレン系熱可塑性エラストマー)等を代表的に挙げることができる。さらに、ナイロン樹脂、PET樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂を用いることができる。
【0032】
防水フィルム層10、すなわち防水フィルムの厚さは通常10μm〜350μmの範囲で用いられることが多いが、特に限定されず、用途によって適宜選択することができる。更に、非透水性及び透湿性のある多孔質フィルム(ポーラスフィルム)を用いることもできる。
【0033】
防水フィルム層10の最上面は、表面処理層30として作業者が建築下地用防水構造体上で作業するときに滑らないようにエンボス加工を施工し、また、建築下地用防水構造体1を剥離紙を用いなくてもロール巻きできるように剥離処理等の表面処理を施工すると良い。
【0034】
エンボス加工は、例えば、防水フィルム層の上面を、最初に、深度が60μm程度のパターンで全面にわたって加工(転写加工)し、さらに防水フィルム層の上面の少なくとも一部を、エンボス深度が2μm〜50μmの範囲で微小凹凸エンボス加工することにより行うことができる。
【0035】
また、剥離処理は、エンボス加工の有無にかかわらず、剥離剤(シリコーン系溶液)を防水フィルム層の最上面に塗工することにより行うことができる。
次に、具体的に本発明にかかる建築下地用防水構造体1の製造方法の一例について説明する。
【0036】
本発明の防水フィルム層10を構成する防水フィルムの製造工程を図7に示す。すなわち、防水フィルム原料(例えばオレフィン系の高分子樹脂)を、T−ダイ124を用いてシート状に押出成形し、ニップロール122及びチルロール123を用いて加圧及び冷却する。これにより、チルロールに設けたエンボス形状を防水フィルムに転写する事が出来る。図7に示すように、防水フィルム126は、工程紙121の表面に形成され、矢印Pの方向に進行しながら、巻き取りロール125により巻き取られる。
【0037】
T−ダイ124から押出される防水フィルム原料の温度は、防水フィルム原料の種類によって適宜決定することができる。T−ダイ124から押し出された防水フィルムの厚さは、得られる防水フィルムを住宅用に使用する場合には、10〜350μmが好ましい。
【0038】
防水フィルム原料を押出成形するために用いる押出成形機(図示せず)は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、スクリュー式押出成形機等を用いることができる。押出条件は使用する防水フィルム原料により適宜決定することができる。押出成形機の先端にT−ダイ124を装着して、防水フィルム原料をシート状に形成するが、T−ダイ124は、特に限定されず、作製する防水シートの形状等に合わせて適宜決定することができる。
【0039】
防水フィルム126をチルロール123とニップロール122とにより加圧するときの圧力は、10N/mm以上であることが好ましく、15〜20N/mmであることが更に好ましい。10N/mmより小さい圧力であると、チルロール123のエンボス形状が転写しない恐れがある。
【0040】
また、チルロール123の温度は、10〜60℃が好ましく、20〜40℃が更に好ましい。10℃より低いと、結露して水を巻き込むことがあり、60℃より高いと、防水フィルムを十分に硬化させ難いことがある。
【0041】
次に、離型処理と吸水膨潤層の塗工工程を図8に示す。上記製造方法にて製造した防水フィルム126のエンボス加工面であって、吸水膨潤層形成面の反対側の表面にシリコーン等の離型剤をグラビアコーター127で塗工し、乾燥炉A128にて溶媒を蒸発させる。更に、粘着剤22、吸水性粒子24及び有機溶媒を含有する塗工液129を、防水フィルム126の表面(防水フィルム層10の下面側)にナイフコーター130で塗工し、次に防水フィルムの表面に塗工された塗工液を乾燥炉B131にて熱風乾燥する。これにより、粘着剤22と吸水性粒子24を含んで構成される固形状態の吸水膨潤層20を防水フィルムの表面に形成でき建築下地用防水構造体100を作製できる。
【0042】
図9は、防水フィルム126への塗工液の塗工パターンを示したもので、図中(a)は、べた塗りパターン、(b)は、格子状パターン、(c)は、ドットパターン、(d)は、ストライプ状パターンを示す。黒く着色した範囲が粘着組成物の塗工箇所である。(b)〜(d)については、粘着組成物の塗工箇所が、釘打ち込み箇所となる。
【0043】
この場合、塗工液に含有される粘着剤22の種類としては、アクリル粘着剤を挙げることができる。有機溶媒としては、特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、IPA等を挙げることができる。
【0044】
アクリル樹脂を有する粘着剤溶液中のアクリル樹脂(固形分換算濃度)は10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることが更に好ましい。吸水性粒子の粘着剤中における量比は、固形分換算の粘着剤100質量部(固形分100%)あたり、5質量部以上であり、50質量部以下である。吸水膨潤層の粘着組成物の塗布量、吸水膨潤層中の吸水性粒子の粘着剤に対する量比は、両者の関係から、求められる防水特性を考慮して最終的に決められる。
【0045】
塗工液を、防水フィルムの表面に塗工する方法は、特に限定されず、ナイフコーティング方式、ダイコーティング方式、グラビア印刷方式等のいずれの方式も用いることができる。特に、グラビア印刷方式を用いると、防水フィルムの所望の部分に所望の塗布パターンで吸水膨潤層を形成することができ(図9参照)、また、凹版の溝の深さを調整することにより、吸水膨潤層厚、すなわち粘着組成物の塗布量を調整することが可能となる。
【0046】
次に、本発明にかかる建築下地用構造体の建築物への施工方法、施工した建築物について述べる。
【0047】
本発明にかかる建築下地用防水構造体1は、シート状であれば、ロール状で供給することができ、建築物、すなわち、家屋の屋根において次の手順で施工される。
【0048】
(1)最初に、家屋の屋根の軒先部側の野地材表面に、ロールから巻き出した建築下地用防水構造体1の吸水膨潤層面20側を合わせてほぼ水平に敷設(仮止め)する。通常、仮止め時には、建築下地用防水構造体1は、野地材50に接着されて固定されるから釘は用いない。ただし、野地板50の形状により端部がめくれやすい場合は、テープや最小数の釘(ステープル含む)で留めて風で煽られて剥がれないような処置をする。
【0049】
(2)次に、ロールから次の建築下地用防水構造体1を巻き出し、直前に取り付けた建築下地用防水構造体1と棟側に重ね部を設けつつ同様に敷設する。
【0050】
(3)さらに、上記(1)(2)の建築下地用防水構造体1の敷設を繰り返し、屋根全面に建築下地用防水構造体1を敷き詰める。
【0051】
(4)次に、屋根全面に瓦等の屋根上葺き材を、釘(ステープル含む)を用いて建築下地用防水構造体1を挟んで野地材等の屋根の骨組み材に固定する。
以上、本発明にかかる建築下地用防水構造体1を施工する家屋の実施態様について述べたが、本発明の実施態様はこれらに限られるものではない。
また、本発明にかかる建築下地用防水構造体を施工した家屋は、従来家屋に比し次のような優位な点を有する。
【0052】
(1)本発明にかかる家屋は、建築下地用防水構造体1の釘打ち箇所を、より少数とすることができる。その為、建築下地用防水構造体の貫通孔の存在に起因した漏水を極力防止しうる。
【0053】
(2)本発明にかかる建築下地用防水構造体1を用いた家屋は、釘等による穿孔に起因した雨水の浸入した場合であっても、雨水の野地板等への濡れ広がりを最小限に抑えうる。その為、例えば、屋根裏のカビ発生領域を極力抑えうる。
【0054】
(3)建築下地用防水構造体1と合板が粘着組成物層と密着するので、結露水が野地材等の表面に発生しにくい。その為、例えば、屋根裏のカビ発生領域を極力抑えうる。
以下、本発明を、実施例を用いて、具体的に説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
本発明にかかる防水フィルム層、吸水膨潤層の2層からなる建築下地用防水構造体についての防水性評価試験(試験1)及び接着力測定試験(試験2)及びさらに本発明にかかる防水フィルム層、吸水膨潤層、粘着剤層の3層からなる建築下地用防水構造体について防水性評価試験、接着力測定試験(試験3)を行った。
【0056】
A.試験1
(1)サンプル準備
試験に供する吸水性粒子として三洋化成工業(株)社製高分子吸収体STM‐500MPSA(平均粒径35μmのポリアクリル酸ナトルウムを有する。)と粘着剤として綜研化学(株)社製粘着剤SK1717(アクリル系樹脂を有し溶媒53%を有する。)を準備し、表1に示す組成比で各粘着組成物を作製する。次にこれら作製した粘着組成物を直径90mmの円盤状フィルム(オレフィン樹脂フィルムで、厚さ80μmのものを使用する。)に、粘着組成物固形分換算で塗工量12.5g/m、25g/m、37.5g/m、50g/m、75g/m、100g/m、として建築下地用防水構造体サンプルを作製した。
【0057】
【表1】

【0058】
次にこれらのサンプルを図6に示す5cm×5cmの合板上に配置後、該サンプルをステープルを用いて合板に固定した。これにより、建築下地用防水構造体サンプルには、6つの貫通孔が形成されており、その貫通孔には、ステープルの針先が挿入されている。
【0059】
(2)試験方法
JISL1092(2009年度版)の7.3に規定された雨試験(シャワー試験)A法に準拠して試験を行った。
【0060】
具体的には、プンデスマン雨試験装置に各建築下地用防水構造体サンプルを取り付けて降雨量を試験カップに1.5分間で200mlの雨水が溜まるように調整し、10分間試験を行った。
【0061】
(3)試験結果
試験結果(防水性評価結果)を表2に示した。表中、「×」は、合板が50%以上した水により濡れた場合を意味し、「△」は、10〜50%合板が濡れた場合を意味し、「○」は、10%未満で合板に突き刺したステープルの周辺のみ浸水した場合を意味する。
【0062】
【表2】

【0063】
B.試験2
(試験2−1)
【0064】
(1)サンプル準備
試験に供する吸水性粒子として三洋化成工業(株)社製高分子吸収体STM−500MPSA(平均粒径35μmのポリアクリル酸ナトルウムを有する。)と粘着剤として綜研化学(株)社製粘着剤SK1717(アクリル系樹脂を有し、溶媒を53%有する。)を準備し、表1に示す組成比で各粘着組成物を作製する。次にこれら作製した粘着組成物を幅150mm、長さ300mmの短冊状フィルム(オレフィン樹脂フィルムで厚さ80μmのものを使用する。)に、塗工量25g/m、50g/m、として建築下地用防水構造体サンプルを作製した。
【0065】
(2)試験方法
JISZ0237(2009年度版)に規定する接着力測定方法に準拠して、試験を行った。
【0066】
(3)試験結果
試験結果を、表3に示した。
【0067】
【表3】

【0068】
(試験2−2)
【0069】
(1)サンプル準備
試験に供する吸水性粒子として三洋化成工業(株)社製高分子吸収体STM−500MPSA(平均粒径35μmのポリアクリル酸ナトルウムを有する。)、三洋化成工業(株)社製高分子吸収体YH2(平均粒径70μmのポリアクリル酸ナトルウムを有する。)と粘着剤として綜研化学(株)社製粘着剤SK1717(アクリル系樹脂を有する。)を準備し、表4に示す組成比で各粘着組成物を作製する。
【0070】
【表4】

【0071】
次にこれら作製した粘着組成物を幅150mm、長さ300mmの短冊状フィルム(オレフィン樹脂フィルムで厚さ80μmのものを使用する。)に、塗工量25g/m〜100g/mとして建築下地用防水構造体サンプルを作製した。
【0072】
(2)試験方法
JISZ0237(2009年度版)に規定する接着力測定方法に準拠して、試験を行った。
【0073】
(3)試験結果
試験結果を、表5に示した。尚、表5の最下欄に試験1と同様な方法、評価基準で行った防水性評価結果を示した。
【0074】
【表5】

【0075】
C.試験3
【0076】
(1)サンプル準備
試験に供する吸水性粒子として三洋化成工業(株)社製高分子吸収体STM−500MPSA(平均粒径35μmのポリアクリル酸ナトルウムを有する。)と粘着剤として綜研化学(株)社製粘着剤SK1717(アクリル系樹脂を有し溶媒を53%有する。)を準備し、表6に示す組成比で各粘着組成物を作製する。次に、防水性評価試験用に試験1と同様にこれら作製した粘着組成物を直径90mmの円盤状フィルム(オレフィン樹脂フィルムで厚さ80μmのものを使用する。)に、塗工量をサンプル3−1については、25g/m、サンプル3−2については、50g/m、サンプル3−3については、25g/mとさらに粘着剤SK1717(アクリル系樹脂を有し溶媒を53%有する。)のみ25g/mとして建築下地用防水構造体サンプルを作製した。次にこれらのサンプルを図6に示す5cm×5cmの合板上に配置後、該サンプルをタッカーを用いて合板に固定した。これにより、建築下地用防水構造体サンプルには、6つの貫通孔が形成されており、その貫通孔には、タッカーの針先が挿入されている。
【0077】
次に接着力測定試験用として試験2と同様にこれら作製した粘着組成物を幅150mm、長さ300mmの短冊状フィルム(オレフィン樹脂フィルムで厚さ80μmのものを使用する。)に、塗工量をサンプル3−1については、25g/m、サンプル3−2については、50g/m、サンプル3−3については、25g/mとさらに粘着剤のみ25g/mとして建築下地用防水構造体サンプルを作製した。
【0078】
【表6】

【0079】
(2)試験方法
JISZ0237(2009年度版)に規定する接着力測定方法に準拠して、試験を行った。
【0080】
(3)試験結果
試験結果を、表7に示した。尚、表7の最下欄に試験1と同様な方法、評価基準で行った防水性評価結果を示した。
【0081】
【表7】

【符号の説明】
【0082】
1、100 建築下地用防水構造体(下葺材)
10 防水フィルム層
20 吸水膨潤層
22 粘着剤
24 吸水性粒子
26 粘着層
30 表面処理層(エンボス加工層、剥離処理層)
50 野地材
52 垂木
54 桟木
56 瓦(上葺材)
58 釘(ステープル含む)
80 合板
121 工程紙
122 ニップロール
123 チルロール
124 T−ダイ
125 巻き取りロール
126 防水フィルム
127 グラビアコーター
128 乾燥炉A
129 塗工液
130 ナイフコーター
131 乾燥炉B
200 家屋の屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水フィルム層及び吸水膨潤層を有する建築下地用防水構造体であって、前記吸水膨潤層は、吸水性粒子と粘着剤を含んで構成され、前記防水フィルム層の下面側に設けられていることを特徴とする建築下地用防水構造体。
【請求項2】
前記建築下地用防水構造体がシート状であることを特徴とする請求項1記載の建築下地用防水構造体。
【請求項3】
前記吸水膨潤層の吸水性粒子は、ポリアクリル酸ナトリウムを有する吸水性粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載の建築下地用防水構造体。
【請求項4】
前記吸水膨潤層の粘着剤は、アクリル系樹脂を有する粘着剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の建築下地用防水構造体。
【請求項5】
前記防水フィルム層の上面側表面に表面処理層を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の建築下地用防水構造体。
【請求項6】
上記請求項1乃至5のいずれかに記載の建築下地用防水構造体を施工した建築物。
【請求項7】
上記請求項1乃至5のいずれかに記載の建築下地用防水構造体を建築物に施工する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−229580(P2012−229580A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99532(P2011−99532)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)