説明

建築外装材の補修構造および補修方法

【課題】 本発明の課題は、従来における建築外装板の補修技術が有する問題点を解消し、補修後の外観品質が良好であるとともに良好な特性や性能を長期間にわたって持続的に維持することができるようにすることである。
【解決手段】 建築外装材の表面における補修構造であって、セメント系硬化材からなる建築外装材10と、建築外装材10の表面に存在する穴部12、14を埋める弾性パテ20と、弾性パテ20の充填個所を含む建築外装材10の表面全体を覆う透明防水塗膜層30と、透明防水塗膜層30の表面のうち、弾性パテ20の充填個所を覆い隠す領域に部分的に配置され、建築外装材10の表面色と同色の着色塗膜層40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築外装材の補修構造および補修方法に関し、詳しくは、住宅等の建築物の外壁仕上げに利用されるセメント系硬化材からなる建築外装材において、その材質や製造加工条件によって不可避的に発生する小さな穴状の欠陥による防水性の低下などの問題を解消するための補修構造と、このような補修構造を得るための補修方法とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築物における外壁仕上げに、セメント硬化板などの建築外装板を貼り付ける技術が広く利用されている。セメント硬化板は、セメントに加えて、ガラス繊維、合成繊維などの繊維材料や樹脂材料を配合しておくことで、外壁に要求される機械的強度や耐候性などを良好に発揮できる。このような建築外装板は、工場生産で能率的に製造でき、品質性能の安定したものが得られる。現場施工でモルタル塗り仕上げなどを行うのに比べて、作業性が格段に向上するとともに、外壁の性能も優れ、経済的に施工できる。
成形製造されるセメント系外装板などの建築外装板では、表面に巣穴あるいはピンホールと呼ばれる小さな穴が存在することがある。このような穴は、成形材料に含まれる空気溜まりが十分に除去されなかったり、水分が蒸発した跡が残ったままになったり、成形後の膨張収縮で隙間ができたりして形成されるものと推測される。巣穴は、比較的に大きくて不定形であるのに対し、ピンホールは小さな泡状の球形をなしていることが多い。
【0003】
建築外装板の表面に穴が存在すると、表面の外観品質が低下する。風雨などに曝され、塵埃や汚れが表面の穴に侵入して溜まると、穴の部分が余計に目立って、外観性が損なわれる。微細な穴に詰まった汚れは、表面を洗浄したぐらいではなかなか除去できない。穴に溜まった酸性雨や化学物質などが持続的に化学的作用を及ぼしてセメント系の材質が変色や劣化を起こし易くなる。さらに、穴に溜まった水分が凍結および融解を繰り返して膨張収縮を行うと、建築外装板にミクロ状の亀裂や割れ、破壊を生じることがある。
建築外装板の表面に存在する穴や亀裂をパテ材で埋めて補修する技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、セメント成形物の表面に有する凹部をセメント系パテで埋め、セメント成形物の表面全体にセメント系シーラーを塗布して巣穴に充填させ、さらに、セメント系シーラー層を、セメント成形物の表面が見えるか否かの程度まで研磨する技術が示されている。
【特許文献1】特開平6−305856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における建築外装材の補修技術では、パテ材で埋めた穴部分の外観性が良くないとともに、補修部分の特性や性能も不十分であった。
具体的には、パテ材を埋めた穴部分は、どうしても、周囲の建築外装板の材料に比べると、機械的強度が劣っていたり、耐候性が悪くなったりする。そのため、補修後に長期間屋外環境に晒されていると、パテ材が削り取られたり抜け落ちたりしてしまうことがある。また、パテ材は、通常、白色や灰白色を呈するが、建築外装板の表面色とは、どうしても色の違いがあり、周囲から目立ってしまい易い。特に、経時的な退色あるいは変色によって、周囲との色の違いが著しくなることがある。
【0006】
建築外装板に仕上げ塗装で着色や模様付けを施す場合は、パテ材も隠れてしまうが、建築外装板の素材の自然な色合いを活かすために仕上げ塗装を行わない場合が多く、この場合には、パテ材を充填した個所だけが非常に目立って目障りになる。
練状物であるパテ材は、比較的に大きな開口があいている巣穴などには充填し易いが、微細なピンホールには入り込むことが困難である。パテ材で埋め難いピンホールであっても、汚れや水分の浸入は起こるので、前記した問題の解決ができない。
セメント系外装板は、材質自体にある程度の吸湿性や吸水性を有している。セメント系外装板に浸入した水分が、穴とパテ材との結合性を低下させて、パテ材の脱落を促進することがある。表面には露出していないピンホールなどの穴に、材質内に浸入した水分が溜まり、前記した凍結融解を繰り返すと、内部から破壊や強度低下が進行することがある。
【0007】
前記特許文献1の技術では、セメント系パテの表面をセメント系シーラー層が覆っているが、セメント系シーラーはセメント系パテと同様に防水性や耐候性はそれほど良くない。内側のセメント系パテを保護することができない。セメント硬化材の表面色がセメント系シーラーの色で隠れてしまう。セメント硬化材の表面近くまでセメント系シーラー層を研磨仕上げするので、余計に、セメント系パテの保護は果たせない。
本発明の課題は、従来における建築外装板の補修技術が有する問題点を解消し、補修後の外観品質が良好であるとともに良好な特性や性能を長期間にわたって持続的に維持することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる建築外装材の補修構造は、建築外装材の表面における補修構造であって、セメント系硬化材からなる前記建築外装材と、前記建築外装材の表面に存在する穴部を埋める弾性パテと、前記弾性パテの充填個所を含む前記建築外装材の表面全体を覆う透明防水塗膜層と、前記透明防水塗膜層の表面のうち、前記弾性パテの充填個所を覆い隠す領域に部分的に配置され、前記建築外装材の表面色と同色の着色塗膜層とを備える。
〔建築外装材〕
通常の建築施工に利用されているセメント系硬化材からなる建築外装材に適用できる。
セメント系硬化材は、セメントのみからなるもののほか、セメントに繊維材料や樹脂材料を配合して各種の特性を向上させたものが含まれる。セメント系硬化材の製造は、セメントを含む原料成分を混合した成形材料を、型充填成形や押出成形などの成形方法で、所定の形状に成形し養生硬化させる。養生硬化は、自然養生のほか、加熱養生、蒸気養生なども行われる。
【0009】
セメント系硬化材ととして、パルプ混入セメント珪酸カルシウム板からなるものが好ましい。
建築外装材の形状は、一般的には、矩形板状をなしている。矩形以外の多角形や曲線形およびその組み合わせからなる板状もある。平坦な板状のほか、曲面板や屈曲板、棒状、柱状などの場合もある。建築外装材の表面に、凹凸模様を有することもできる。建築外装材の端面や裏面に、建築外装材を取付施工するための形状構造を設けておくことができる。
<穴部>
建築外装材の製造過程で不可避的に発生し、建築外装材の表面に開口する比較的に小さな穴である。
【0010】
具体的には、巣穴あるいはピンホールが含まれる。巣穴は比較的に大きく不定形であるのに対して、ピンホールは微小で球状などをなすことが多い。
補修の対象に適した穴部は、その開口径が1〜3mm、深さが1〜3mm程度のものである。この範囲を外れる穴部には、別の補修技術を適用したほうが良い場合がある。
〔弾性パテ〕
建築外装材の表面に存在する穴部を埋める。
弾性パテは、通常、練状態あるいはクリーム状態で供給され、穴部に充填することで、経時的に乾燥硬化し、穴部の内壁と強固に接合一体化する。施工後に建築外装材すなわち穴部が、寒暖差などで熱変形したり、地震などの外力で変形したりしても、弾性パテは穴部の変形に良好に追随して弾性変形することができる。
【0011】
基本的には、通常の建築施工技術において、穴埋めや目地詰めなどに利用されているパテ材料のうち、弾性に優れた材料が使用できる。弾性パテは、弾性のある合成樹脂材料を主体とするものや、通常のパテ材料に弾性樹脂などを配合することで得られる。弾性パテとして、1成分型湿気硬化ポリウレタンパテが好ましい。弾性パテには、建築外装材の表面色に合わせて着色された着色弾性パテもあるが、着色剤が含まれることで、弾性その他の基本的な性能が低下したり、コストが高くついたりすることがある。着色剤を含まず、弾性などの他の特性や性能を向上させたもののほうが望ましい。
弾性パテは、建築外装材の表面に存在する穴部の全てに充填しておくこともできるが、微小な穴部については、弾性パテを充填しなくても、透明防水塗膜層で埋めたり覆ったりしておけば、問題はない。
【0012】
〔透明防水塗膜層〕
弾性パテの充填個所を含む建築外装材の表面全体を覆う。
透明防水塗料を塗工し乾燥硬化させることによって形成される。透明防水塗膜層としては、透明性が良く、防水性があって、建築外装材の表面に対する接合性、および、着色塗膜層に対する接合性の何れもが良好なものが使用される。具体的には、建築外装材用として知られたクリア塗料の中から目的に合うものを選んで使用することができる。クリア塗料には、表面仕上げ用の上塗り塗料のほか、下塗り用塗料あるいはプライマー塗料もある。下塗り用塗料やプライマー塗料は、建築外装材と着色塗料層との何れに対しても接合性が良い。このような下塗り用塗料やプライマー塗料の中から、透明性に優れたものを選択すればよい。
【0013】
透明防水塗膜層として、2液溶剤型アクリルシリコンクリアー塗膜からなるものが好ましい。
透明防水塗膜層の厚みは、穴部を埋めた弾性パテの保護機能、弾性パテが充填されないほど小さな穴部の隠蔽機能、建築外装材の表面における防水機能などが良好に発揮できる程度に設定される。通常、厚み50〜200μmの範囲に設定できる。
〔着色塗膜層〕
透明防水塗膜層の表面のうち、弾性パテの充填個所を覆い隠す領域に部分的に配置され、建築外装材の表面色と同色をなす。
【0014】
基本的には、通常の建築外装材において、表面仕上げに使用されている上塗り用着色塗料を塗工し乾燥硬化させて、着色塗膜層を形成する。
着色塗料としては、無機および有機の何れの塗料であってもよい。水性あるいは非水性の何れの塗料も使用できる。
着色塗料の着色は、建築外装材の表面色に合わせて、着色剤の配合を調整する。建築外装材の表面色とできるだけ一致することが望ましい。但し、着色塗膜層は比較的に小さな面積で部分的に配置されるので、建築外装材全体に対して着色塗膜層が目立たない程度に、表面色を近似させておけば十分である。
【0015】
着色塗膜層が、2液溶剤型フッ素樹脂塗膜からなるものが好ましい。
着色塗膜層は、平面方向で中心から外周端まで均一な厚みの層状であるよりも、中心から外周端に向かって薄くなるように厚みの違いがあったり、外周端縁には角がなく滑らかであったりしたほうが、外観的に目立ち難く、施工後に剥がれ難くなる。
着色塗膜層の厚みは、十分な発色、弾性パテの隠蔽ができるとともに、透明防水塗膜層の表面に盛り上がって目立ち過ぎない程度に設定される。具体的には、着色塗膜層の中心部の最大厚みで規定する厚みを、50〜100μmの範囲に設定できる。
着色塗料層の平面形状および広さは、弾性パテの充填個所などの覆い隠す部分の形状と広さに合わせて、最小限に設定しておけばよい。平面形状は、円形や楕円形、長円形などの曲線形、矩形などの多角形、さらには不定形に設定できる。面積を、1〜9cmに設定できる。
【0016】
〔補修方法〕
前記した建築外装材に、前記弾性パテ、透明防水塗膜層、着色塗膜層を施工する。
以下の工程を組み合わせることができる。
工程(a):
建築外装材の表面に存在する穴部を弾性パテで埋める。
練状物の形態で供給される弾性パテを、注入ノズルやヘラを用いて、穴部に充填する。大きな穴部には注入ノズルなどで個別に十分な量を充填することができる。小さな穴部や明確に視認し難い微小な穴部の場合、建築外装材の表面に供給された弾性パテを、ヘラなどで表面に刷り込むようにすれば、効率的に充填することができる。なお、ヘラで刷り込んでも弾性パテが充填されないほど微小なピンホールなどは、弾性パテが充填されないままで残っても大きな問題にはならない。
【0017】
弾性パテは、経時的に乾燥硬化する。十分に乾燥硬化させてから、次の工程を行うことが望ましい。
硬化した弾性パテの表面を研磨して、表面の不陸を無くすことができる。但し、透明防水塗膜層で覆い隠せる程度の不陸は残っていても構わない。
工程(b):
弾性パテの充填個所を含む建築外装材の表面全体に、透明防水塗料を塗工する。
建築外装材の表面全体に一様に透明防水塗料を塗工できれば、通常の塗装手段や塗装条件が採用できる。
【0018】
透明防水塗料は、建築外装材の表面に存在する穴部のうち、弾性パテで埋められた穴部では弾性パテの表面を覆う。微小な穴部であって弾性パテで埋められていないところでも、弾性パテに比べてはるかに粘性が小さく流動性の高い透明防水塗料であれば、穴部の奥まで浸入して埋めてしまうことができる。さらに、透明防水塗料も浸入できない微細な穴部の場合、穴部の上方を透明プライマー剤の膜が覆った状態で乾燥硬化することになる。穴部の上方が透明防水塗膜層で覆われた状態になれば、防水機能は良好に発揮され、穴部に汚れなどが入り込む心配もない。
工程(c):
透明防水塗膜層の表面のうち、弾性パテの充填個所を覆い隠す領域に部分的に、建築外装材の表面色と同色の着色塗料を塗工して、着色塗料層を形成する。
【0019】
弾性パテの充填個所に加えて、弾性パテが充填されなかった穴部についても、外観的に目立つようであれば、着色塗料を塗工する。
部分的な塗装は、大掛りなスプレーガン装置などを使用するよりも、刷毛などを用いて手作業で行ったほうが効率的であることが多い。建築外装材の表面を目視しながら、周辺と色が違う個所を見つけて、その部分が目立たなくなる範囲で、着色塗料を塗工すればよい。
着色塗膜層の厚みを、中央と周辺で違えたり、外周端縁を滑らかにしたりするには、刷毛塗りなどで、着色塗料の付着量を調節したり、重ね塗りをしたりすることが有効である。
【0020】
その他の工程:
着色塗膜層のところだけ、あるいは、建築外装材の全面に、着色塗膜層を覆って透明保護塗料を塗工することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる建築外装板の補修構造は、建築外装材に不可避的に存在することになる小さな穴部を、弾性パテで埋めて表面を平坦にし、その上に透明防水塗膜層を設けて弾性パテを保護するとともに防水性を与え、さらに、その上で弾性パテの充填個所を部分的に覆い隠すように着色塗膜層を設ける。
その結果、建築外装材の表面は、全体が一様な凹凸のない平面状であって、部分的に色の違う個所もなくなり、外観品質が良好なものとなる。全面が透明防水塗膜層で覆われているので、弾性パテの充填個所を含めて、全面に良好な防水機能、耐候性などの優れた性能を発揮できるようになる。着色塗膜層を全面に塗工する手間をかけず、迅速に、弾性パテによる表面色のムラや斑部分を無くすことができる。透明防水塗膜層が、着色塗膜層を強固に接合する接合剤としても機能するので、部分的に塗工された着色塗膜層であっても、経時的に剥がれ落ちることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1〜3に示す実施形態は、住宅等の建築物における外壁仕上げに用いられる建築外装板の補修技術を示している。
〔建築外装板〕
建築外装板10は、樹脂や繊維を配合したセメント系材料を成形硬化させて得られたセメント系外装板からなる。図示を省略したが、矩形板状をなしており、住宅の外壁に並べて、ねじ釘などで締め付け固定することで、外壁の仕上げ構造を構成することになる。
建築外装板10は、セメント系材料を混合調製し、所定の形状に成形し、養生硬化させるという製造工程を経て製造されたものである。基本的には、均質で緻密な構造体であり、表面は平坦であるが、詳細にみると、部分的に小さな穴12、14が表面に露出しているところがある。具体的には、成形品に良く見られる巣穴12やピンホール14である。巣穴12は、不定形をなし、表面に露出している開口よりも内部において拡がっていたり曲がっていたり分岐していたりすることもある。ピンホール14は、巣穴に比べると小さく、肉眼では視認困難なものもある。
【0023】
図1では、表面に露出する穴12、14だけを表示しているが、実際には、表面には露出しない内部にも、巣穴12やピンホール14が存在することがある。但し、内部の巣穴12やピンホール14は、図示を省略している。
建築外装板10の表面に露出した巣穴12やピンホール14は、建築外装板10あるいは外壁の外観性を損なう。施工後に塵埃などの汚れが溜まって、余計に外観性が悪くなる。建築外装板10の材質に対して腐蝕性の物質が蓄積すると、建築外装板10の物性や性能が低下することがある。穴12、14に溜まった水分が凍ったり溶けたりするときの収縮膨張力で、建築外装板10に割れや亀裂が生じることが起こる。
【0024】
図1では、説明を判り易くするために、穴12、14が狭い間隔で密集して存在しているように表示しているが、十分な品質管理のもとに製造されたセメント系外装板を使用すれば、建築外装板10の表面は、多くの部分は平坦であり、穴12、14は部分的に点在している程度である。但し、小さな穴12、14が点在しているだけでも、外観品質が低下したり、防水性や耐候性の低下を招いたりする原因になる。
セメント系外装板は、材質自体にも、吸湿性あるいは吸水性を有している。建築外装板10に吸収された水分が、外壁の内部構造にまで浸入して、外壁の耐久性を低下させることがある。前記した穴12、14が存在すれば、余計に水分が浸入したり通過したりし易くなる。
【0025】
このような問題を解消するために、建築外装板10の表面を補修することが有効になる。
〔補修構造〕
図2に示すように、建築外装板10の表面に露出した全ての巣穴12には、補修用の弾性パテ20が充填されている。建築外装板10の表面全体が、ほぼ平坦な同一面になるように、弾性パテ20が巣穴12を埋めている。但し、微小な穴であるピンホール14には、比較的に粘性がある練状物からなる弾性パテ20は充填されていない。巣穴12に充填された弾性パテ20は、弾性的な変形性を有しているため、建築物に施工した建築外装板10が、寒暖差や日射によって収縮膨張を繰り返しても、弾力的に追随して変形することができ、巣穴12の内面から弾性パテ20が剥がれるようなことがない。弾性パテ20は白色等をなし、建築外装板10を構成するセメント系外装板とは、かなり異なる表面色を呈している。
【0026】
補修パテ20が充填された建築外装板10の表面全体を一様な厚みで、透明防水塗料を塗工乾燥させた透明防水塗膜層30が覆っている。透明防水塗膜層30は、建築外装板10の表面に防水機能を付与するとともに、透明防水塗膜層30の上に形成される着色塗膜層40を接合する接合剤としても機能する。透明防水塗膜層30は、ピンホール14の一部にも浸入して埋めている。
透明防水塗膜層30の表面には、部分的に着色塗膜層40が設けられている。図3にも示すように、着色塗膜層40は、建築外装板10の平面形状において、弾性パテ20を充填した巣穴12を覆い隠す位置および大きさで形成されている。図3では、表示を簡略化するために、平面円形状で示しているが、実際には、巣穴12の形状配置に合わせて、円形以外の図形状や不定形状をなしている場合もある。着色塗膜層40は、弾性パテ20が充填されておらず、外観的に目立たない微小なピンホール14の位置までは覆い隠さなくてもよい。勿論、弾性パテ20が充填されていたり、明確に視認できたりするピンホール14の位置は、着色塗膜層40で覆い隠すことが望ましい。
【0027】
着色塗膜層40の色は、建築外装板10であるセメント系外装板の表面色と同色になるように調色されている。
その結果、図3において、着色塗膜層40で覆われた巣穴12および弾性パテ20は、その外側の建築外装板10と同じ色を呈し、外観的に区別することが困難になっている。図3の右端部分には、着色塗膜層40を施工する前の、透明防水塗膜層30だけで覆われた巣穴12および弾性パテ20を示している。この場合は、透明防水塗膜層30を通して、弾性パテ20あるいは巣穴12は、周囲の建築外装板10と明瞭に区別できる。ピンホール14も、ある程度の大きさ以上であれば、外観的に目立つことがある。
【0028】
〔補修施工〕
<弾性パテの充填>
建築外装板10の表面を清掃したり洗浄したりして、塵埃や材料の微粉、油分などが付着していない状態にしてから、巣穴12に弾性パテ20を充填する。
弾性パテ20は、可塑状態あるいはクリーム状態で調製あるいは供給される。弾性パテ20を巣穴12に充填するには、通常のパテ埋め作業と同様に、ヘラや押出チューブなどのパテ作業用工具を用いることができる。巣穴12に弾性パテ20を刷り込んだり押し込んだり表面を均したりする。弾性パテ20を埋めた巣穴12の表面を、濡らしたヘラなどで撫で付けることで、表面を滑らかで緻密な状態にすることができる。個々の巣穴12に対して、弾性パテ20を奥まで隙間なく埋めるように押し込む。
【0029】
なお、ピンホール14については、比較的に大きくて弾性パテ20が充填できる個所には、巣穴12と同様に弾性パテ20を刷り込んだりして埋める。弾性パテ20を広い範囲に刷り込み拭い取るようにすることで、目視が難しい微小なピンホール14にも弾性パテ20を充填することができる。
穴12、14に充填された弾性パテ20は、経時的に乾燥硬化して、穴12、14と一体的に接合される。穴12、14の表面に露出する弾性パテ20は、触れても凹んだり剥がれたりすることはない。
<透明防水塗料の塗工>
弾性パテ20が十分に硬化してから、透明防水塗膜層30を通常の塗工手段を用いて塗工する。
【0030】
具体的には、透明防水塗料を、スプレー塗装ガンなどを用いて、建築外装板10の表面全体に一様な厚みで塗装する。透明防水塗料は、巣穴12を埋めた弾性パテ20の表面を覆う。弾性パテ20が充填されていないピンホール14の中にも、比較的に粘性の低い透明防水塗料は浸入することができる。透明防水塗料でも浸入できないほど微小なピンホール14であれば、表面を覆って十分な厚みで透明防水塗料の層が形成されていれば問題はない。
塗装された透明防水塗料を乾燥硬化させれば、透明防水塗膜層30が形成される。
<着色塗膜層の塗工>
透明防水塗膜層30が十分に乾燥硬化したあと、着色塗膜層40となる着色塗料を塗工する。
【0031】
着色塗料の色は、予め、建築外装板10の表面色に合わせて調色しておく。したがって、建築外装板10の材質や製造条件の違いで表面色が変われば、着色塗料の調色をやり直す必要がある。施工現場で、実際に施工する建築外装板10の表面色に合わせて、着色塗料の調色を微調整することもできる。安定した品質で工場生産される建築外装板10であれば、表面色も安定しているので、着色塗料の色を頻繁に変える必要はない。輸送保管あるいは建築物に施工後に経時的に変色や退色した建築外装板10であれば、それに合わせて着色塗料に追加の調色を行うこともできる。
着色塗料は、手作業による刷毛塗りなどで、弾性パテ20が充填された巣穴12や外観的に目立つピンホール14など、覆い隠す必要がある個所だけに塗工する。弾性パテ20が充填されていない微小なピンホール14や、外観的に目立たない小さなピンホール14などは、着色塗料を塗工しなくても構わない。
【0032】
図3の平面状態において、着色塗膜層40は全て円形状に描かれているが、実際には、手描きによるので、円形以外の図形状や不定形状にも形成される。図2に示すように、着色塗膜層40は、全体が同じ厚みではなく、周辺に向かって薄くなるように着色塗料を塗工して形成することで、着色塗膜層40とその周囲の表面との間に段差が目立ち難い。
【実施例】
【0033】
具体的な建築外装材の補修を行い、その性能を評価した。
〔使用材料〕
建築外装材:ニューファイバーセラミック外装材(商品名:クボタ松下電工社製、パルプ混入セメント珪酸カルシウム板)。
弾性パテ:オートンアドハー7100(商品名:オート化学工業社製、1成分型湿気硬化ポリウレタンパテ)を使用。
透明防水塗膜層:NカラーNJシーラー♯5軟質タイプ(商品名:大日本塗料社製、2液溶剤型アクリルシリコンクリアー塗料)を使用。
【0034】
着色塗膜層:Vフロン♯200N(商品名:大日本塗料社製、2液溶剤型フッ素樹脂塗料)を使用。
〔補修作業〕
建築外装材の表面を清掃および洗浄したあと、表面に残る巣穴に弾性パテを充填した。弾性パテが十分に硬化したことを確認してから、透明防水塗膜層となる塗料を建築外装材の全面に塗工した。得られた透明防水塗膜層は厚み50〜150μmであった。透明防水塗膜層が十分に乾燥したあと、着色塗膜層となる塗料を、建築外装材のうち透明防水塗膜層を透して弾性パテの存在が判る個所のみに、手作業で筆塗り塗工した。得られた着色塗膜層は厚み50〜100μmであった。
【0035】
〔性能評価〕
補修が完了した建築外装材の表面性状は、巣穴および弾性パテの存在は全く目立たず、部分的に塗工された着色塗膜層の部分も、周囲と全く変わりのない状態であった。外観品質の良好な建築外装材となった。
建築外装材の表面透水性を測定した。測定条件は常法にしたがい、枠置き法で透水面積を0.0324mに設定した。その結果、補修前の透水量4873.3g/mが、補修後には透水量27.5g/mまで、透水性が低減された。これは、建築外装材の全面に塗工された透明防水塗膜層の機能によるものと推定できる。
【0036】
また、建築外装材の表面を擦ったりしても、屋外環境に長期間晒しても、表面に部分的に配置された着色塗膜層が剥がれたり、巣穴や弾性パテが見えたりすることはなかった。これは、透明防水塗膜層が、着色塗膜層を建築外装材や弾性パテの表面に強力に接合させるプライマーとしての機能を良好に発揮していることを裏付ける。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば、住宅の外壁仕上げに用いる建築外装板に適用できる。建築外装板の外観品質を向上させるとともに、防水性や耐候性などの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態を表す建築外装板の補修前の断面図
【図2】補修後の断面図
【図3】同上の平面図
【符号の説明】
【0039】
10 建築外装板
12 穴部
20 補修パテ
30 透明防水塗膜層
40 着色塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築外装材の表面における補修構造であって、
セメント系硬化材からなる前記建築外装材と、
前記建築外装材の表面に存在する穴部を埋める弾性パテと、
前記弾性パテの充填個所を含む前記建築外装材の表面全体を覆う透明防水塗膜層と、
前記透明防水塗膜層の表面のうち、前記弾性パテの充填個所を覆い隠す領域に部分的に配置され、前記建築外装材の表面色と同色の着色塗膜層と
を備える建築外装材の補修構造。
【請求項2】
前記セメント系硬化材が、パルプ混入セメント珪酸カルシウム板であり、
前記弾性パテが、1成分型湿気硬化ポリウレタンパテであり、
前記透明防水塗膜層が、2液溶剤型アクリルシリコンクリアー塗膜であり、厚み50〜200μmであり、
前記着色塗膜層が、2液溶剤型フッ素樹脂塗膜であり、厚み50〜100μmである
請求項1に記載の建築外装材の補修構造。
【請求項3】
セメント系硬化材からなる建築外装材の表面を補修する方法であって、
前記建築外装材の表面に存在する穴部を弾性パテで埋める工程(a)と、
前記弾性パテの充填個所を含む前記建築外装材の表面全体に、透明防水塗料を塗工する工程(b)と、
前記透明防水塗膜層の表面のうち、前記弾性パテの充填個所を覆い隠す領域に部分的に、前記建築外装材の表面色と同色の着色塗料を塗工する工程(c)と
を含む建築外装材の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213542(P2006−213542A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25829(P2005−25829)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】