説明

建築板、及び建築板の製造方法

【課題】下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜を有するとともに、高耐候性能である建築板、及びその塗装方法を提供する。
【解決手段】無機質板の表面に、下地塗膜、インクジェット塗膜、クリアー塗膜が順次形成されており、該インクジェット塗膜は紫外線硬化型インクの硬化物であり、該クリアー塗膜は光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有する建築板。及び、無機質板の表面に下地塗装を行う工程と、下地塗装が施された無機質板の表面に、紫外線硬化型インクを塗布し、紫外線を照射して該紫外線硬化型インクを硬化するインクジェット塗装を行う工程と、インクジェット塗装が施された無機質板の表面に、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有するクリアー塗料を塗布するクリアー塗装を行う工程とからなる建築板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁材に好適な建築板、及び建築板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメント等の水硬性無機粉体と、木質パルプ繊維などの木質補強材とを主成分とする無機質板がある。このような無機質板は、曲げ強度などの物性に優れるので、塗装を施し、住宅の内壁材、外壁材等の建築板として使用されている。例えば、特許文献1には、下塗り層を介して、インク吸着成分を含有する中塗り層、及び、インクジェット塗装層が、この順に配置された建築板が開示されている。
【0003】
しかし、引用文献1に記載の建築板では、インクジェット塗装層のインクは、中塗り層に吸着されることにより密着するので、中塗り層の乾燥状態により、インクジェット塗装層の色相が変わるという問題がある。
【0004】
また、近年、品質向上への要望が高く、塗装に関しては、20年経過しても退色が少ない高耐候性能が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−162245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜を有するとともに、高耐候性能である建築板、及び建築板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、建築板を提供する。本発明の建築板は、無機質板の表面に、下地塗膜、インクジェット塗膜、クリアー塗膜が順次形成されている。無機質板は、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・ケイ酸カルシウム板、スラグ石膏板などの窯業系サイディングボードや、金属系サイディングボード、ALCボードなどである。下地塗膜は、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などからなる。インクジェット塗膜は、紫外線硬化型インクの硬化物からなる。クリアー塗膜は、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、無機などからなるが、耐候性能を考慮すると、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、無機の少なくともいずれかからなることが好ましい。クリアー塗膜は、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有する。
本発明においては、下地塗膜の上に紫外線硬化型インクの硬化物であるインクジェット塗膜が形成されることにより、下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜層を有することができる。また、クリアー塗膜が光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有することにより、高耐候性能を有し、20年経過しても退色が少ない。
なお、紫外線硬化型インクは、染料系インク又は顔料系インクとしても良いし、染料系インクと顔料系インクとから構成しても良い。
光安定剤としてはヒンダードアミン系等があり、紫外線吸収剤としては有機系、無機系がある。有機系としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリルレート系、トリアジン系等があり、無機系としては、酸化チタン、酸化クロム、酸化亜鉛、黒酸化鉄、酸化ジルコニウム、アルミナ、タルク、カオリン等がある。
【0008】
また、本発明は、建築板の製造方法も提供する。本発明の建築板の製造方法は、無機質板の表面に下地塗装を行う工程と、下地塗装が施された無機質板の表面に、インクジェット塗装を行う工程と、インクジェット塗装が施された無機質板の表面に、クリアー塗装を行う工程とからなる。インクジェット塗装は 紫外線硬化型インクを塗布し、紫外線を照射して該紫外線硬化型インクを硬化することにより行い、クリアー塗装は、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有するクリアー塗料を塗布することにより行う。それにより、下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜層を有するとともに、高耐候性能である建築板を製造することができる。
なお、下地塗装では、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などからなる塗料を用いることができる。紫外線硬化型インクは、染料系インク又は顔料系インクを用いても良いし、染料系インクと顔料系インクとから構成しても良い。クリアー塗装では、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、無機などからなる塗料を用いることができるが、耐候性能を考慮すると、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、無機の少なくともいずれかからなる塗料を用いることが好ましい。光安定剤としてはヒンダードアミン系等を用いることができ、紫外線吸収剤としては有機系、無機系を用いることができる。有機系、無機系の紫外線吸収剤としては、前述した物質を用いることができる。
【0009】
本発明においては、下地塗膜は塗料を30〜150g/m塗布して形成することが好ましい。30g/mより少ないと、防水性能、無機質板との密着性に優れないなどの恐れがあり、150g/mより多いと、乾燥中に塗膜にクラックが生じたり、作業性が著しく低下する恐れがある。
また、、クリアー塗膜はクリアー塗料を50〜150g/m塗布して形成することが好ましい。50g/mより少ないと、防水性能が優れないとともに、高耐候性能が得られないなどの恐れがあり、150g/mより多いと、乾燥中に塗膜にクラックが生じたり、作業性が著しく低下する恐れがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜を有するとともに、高耐候性能である建築板、及びその塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0012】
セメントと、珪砂と、パルプとからなり、厚さ14mmで、平滑な表面を有する無機質板の表面に、アクリル樹脂を主成分とする水性塗料を50g/m塗布し、約120℃のドライヤーで約3分乾燥した。次いで、その表面に、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、顔料を含有する水系塗料を90g/m塗布し、約120℃のドライヤーで約5分乾燥した。更に、その表面に、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色の紫外線硬化型インクを用いて大理石模様を描写した。なお、紫外線硬化型インクを塗布する装置では、インク吐出口の背後に紫外線照射部を備えており、インク吐出後、直ぐに紫外線を照射しインクを硬化させた。また、4色の紫外線硬化型インクは、いずれも染料系インクを用いた。更に、その表面に、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を110g/m塗布し、約100℃のドライヤーで約15分乾燥し、得られた建築板を実施例1とした。
【0013】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、顔料を含有する水系塗料を90g/m塗布し、約120℃のドライヤーで約5分乾燥した後、常温にて1日放置した後に、4色の紫外線硬化型インクを塗布した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例2とした。
【0014】
4色の紫外線硬化型インクを顔料系インクに変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例3とした。
【0015】
4色の紫外線硬化型インクの内、ブラックのみを顔料系インクに変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例4とした。
【0016】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を固形分対比で1.5質量%含有するクリアー塗料に変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例5とした。
【0017】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、酸化亜鉛を固形分対比で1.0質量%含有するクリアー塗料に変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例6とした。
【0018】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を固形分対比で0.8質量%含有するクリアー塗料に変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例7とした。
【0019】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を、フッ素樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を固形分対比で0.8質量%含有するクリアー塗料に変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を実施例8とした。
【0020】
4色の紫外線硬化型インクを、紫外線硬化型ではない従来のインクに変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を比較例1とした。
【0021】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を塗布しないこと以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を比較例2とした。
【0022】
アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で0.5質量%含有するクリアー塗料を、アクリルシリコン樹脂を主成分とし、ヒンダードアミン系光安定剤を固形分対比で20.0質量%含有するクリアー塗料に変更した以外は実施例1と同様に塗装し、得られた建築板を比較例3とした。
【0023】
得られた実施例1〜8、及び比較例1〜3について、塗装状況を観察するとともに、耐候性能、塗膜密着性能、耐凍結融解性能を測定した。耐候性能は、試験体に対し、メタルハライドランプを光源に用いて紫外線照射16時間(温度65℃、湿度70%)、紫外線照射なし2時間(温度65℃、湿度70%)、シャワー散水10秒、結露6時間(温度30℃、湿度98%)、シャワー散水10秒を1サイクルとし、30回繰り返し、試験前後の塗膜外観及び色差を比較して評価した。塗膜密着性能は、試験体を24時間浸水して吸水せしめた後、50℃、相対湿度RH70%、2時間調湿後、粘着テープにて剥離試験を行ない、塗膜の付着性をみて評価した。耐凍結融解性能は、ASTM B法 300サイクルを行い、試験体に異状がないかどうかで評価した。
【0024】
実施例1〜8の建築板では、インクジェット塗膜により大理石模様が鮮やかに描写されるとともに、耐候性能試験、塗膜密着性能試験、耐凍結融解性能試験のいずれでも退色や塗膜剥離等の異常は見られなかった。なお、実施例1、2において、大理石模様の色相に差は見られなかった。
一方、比較例1の建築板では、インクジェット塗膜による大理石模様は不鮮明であり、耐候性能試験、塗膜密着性能試験、耐凍結融解性能試験のいずれにおいても塗膜が剥離する、退色が激しいなど性能に劣った。
比較例2の建築板では、インクジェット塗膜により大理石模様は鮮やかに描写されていたが、耐候性能試験、塗膜密着性能試験、耐凍結融解性能試験のいずれにおいても塗膜が剥離する、退色が激しいなど性能に劣った。
比較例3の建築板では、インクジェット塗膜により大理石模様は鮮やかに描写され、耐候性能試験においても退色は見られなかったが、塗膜密着性能試験、耐凍結融解性能試験においては塗膜の一部が剥離するなど性能に劣った。
【0025】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載の発明の範囲において種々の変形態を取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、下地塗膜の乾燥状態に影響されないインクジェット塗膜を有するとともに、高耐候性能である建築板、及びその塗装方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質板の表面に、下地塗膜、インクジェット塗膜、クリアー塗膜が順次形成されており、
インクジェット塗膜は 紫外線硬化型インクの硬化物であり、
クリアー塗膜は光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を0.1〜10.0質量%含有する
ことを特徴とする建築板。
【請求項2】
紫外線硬化型インクは、染料系インクである
ことを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項3】
紫外線硬化型インクは、顔料系インクである
ことを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項4】
紫外線硬化型インクは、染料系インクと顔料系インクとからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項5】
光安定剤はヒンダードアミン系であり、
紫外線吸収剤は有機系、無機系の少なくともいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項6】
クリアー塗膜は、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、無機の少なくともいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載の建築板。
【請求項7】
無機質板の表面に下地塗装を行う工程と、
下地塗装が施された無機質板の表面に、インクジェット塗装を行う工程と、
インクジェット塗装が施された無機質板の表面に、クリアー塗装を行う工程とからなり、
インクジェット塗装は 紫外線硬化型インクを塗布し、紫外線を照射して該紫外線硬化型インクを硬化することにより行い、
クリアー塗装は、光安定剤及び/又は紫外線吸収剤を固形分対比で0.1〜10.0質量%含有するクリアー塗料を塗布することにより行う
ことを特徴とする建築板の製造方法。
【請求項8】
紫外線硬化型インクとして染料系インクを用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の建築板の製造方法。
【請求項9】
紫外線硬化型インクとして顔料系インクを用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の建築板の製造方法。
【請求項10】
紫外線硬化型インクとして、染料系インクと顔料系インクを用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の建築板の製造方法。
【請求項11】
光安定剤をヒンダードアミン系とし、
紫外線吸収剤を有機系、無機系の少なくともいずれかとする
ことを特徴とする請求項7に記載の建築板の製造方法。
【請求項12】
クリアー塗料として、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、無機の少なくともいずれかを用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の建築板の製造方法。

【公開番号】特開2013−640(P2013−640A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132933(P2011−132933)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】