説明

建築構造用リング鋼材

【課題】本発明は、溶接強度を維持しつつ、軽量化を図るようにした建築構造用リング鋼材を提供する。
【解決手段】建築構造用リング鋼材1は、内周部1aと外周部1bとの間で断面凹状で且つリング状の溝として形成された溶接収容部20と、溶接収容部20の底面20aで等間隔に形成された溶接孔1cと、を備え、リング状の溶接収容部20が形成される結果として、リング鋼材の外観上、溶接収容部20と内周部1aとの間、溶接収容部20と外周部1bとの間にリング状のフランジ部21,22が形成されることになる。そして、溶接孔1c内でプラグ溶接された溶接部3の余盛部Bの周囲は、溶接収容部20の底面20aに達している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁に形成されて配管などを通すために設けられたウエブ貫通孔を補強するために利用される建築構造用リング鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、特開2007−120016号公報がある。この公報に記載された鉄骨梁補強金物(建築構造用リング鋼材)は、中心孔を有するリング状に形成され、中心孔の径は、鉄骨梁のウエブ貫通孔と一致させた大きさを有している。さらに、補強金物には、ボルトを貫通させるための挿通孔が形成されている。このような補強金物は、ボルトとナットにより鉄骨梁に固定されているが、挿通孔が多くなればなる程、ボルトやナットの数も増えて部品点数が多くなり、作業性が悪くなると同時に、手締めの場合には、ナットの締め付けトルクのバラツキも大きくなる。
そこで、図8に示すように、ボルトやナットを使わずに、溶接によって鉄骨梁に接合させることができる補強金物100が知られている。このような補強金物100にあっては、溶接器具が必要にはなるが、作業性の向上に寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−120016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の鉄骨梁補強金物(建築構造用リング鋼材)100は、図8に示すように、均一な肉厚のリング状本体部101に単に溶接孔102が形成されているだけなので、軽量化のために本体部101の肉厚を薄くすると、溶接孔102が、溶接強度を保つのに必要な深さを維持できず、また、溶接孔102の深さを深くすると本体部100が厚くなってしまうので、重量増加を招来するといった問題点がある。
【0005】
本発明は、溶接強度を維持しつつ、軽量化を図るようにした建築構造用リング鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内周部と外周部とでリング状に形成された建築構造用リング鋼材において、
内周部と外周部との間で断面凹状で且つリング状の溝として形成された溶接収容部と、
溶接収容部の底面に形成された溶接孔と、を備え、
溶接孔内でプラグ溶接された溶接部の余盛部の周囲が、溶接収容部の底面に達するように溶接されることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る建築構造用リング鋼材においては、溶接に寄与する溶接収容部と溶接孔とが形成され、溶接収容部は、断面凹状でリング状の溝として、内周部と外周部との間に形成され、溶接孔は、溶接収容部の底面に所定の個数が形成されている。このように内周部と外周部との間で断面凹状で且つリング状の溝として溶接収容部が形成される結果として、リング鋼材の外観上、溶接収容部と内周部との間、溶接収容部と外周部との間にリング状のフランジ部が形成されることになり、リング鋼材で例えフランジ部間の厚みが薄くても、フランジ部によって、内周部近傍と外周部近傍で十分な強度が確保されて、補強材として機能し得るので、リング鋼材の剛性が確保されることになる。更には、鉄骨梁に形成されて配管などを通すために設けられたウエブ貫通孔が高い場所にある場合、リング鋼材を高い場所まで運ばなくてはならず、リング鋼材の重さが作業負担に多大な影響を与えるので、溶接収容部を深くすることで、リング鋼材の剛性を必要以上に落とすことなく、軽量化を容易に図ることができ、これに伴って取り扱い性も向上する。しかも、高所作業にあっては、足場が限定されることもあるので、溶接状態の確認を容易にする必要がある。そこで、本発明のリング鋼材にあっては、溶接孔で余盛された溶接部の周囲は、溶接収容部の底面に達しているが、リング状の溶接収容部を採用することで、溶接収容部内に点在する溶接部分の良否が確認し易くなり、さらには、余盛高さの確認をも容易になる。しかも、溶接孔全体の孔径を大きくすることなく、溶接時に溶接孔を狙い易く、溶接欠陥の発生を確実に防止することができる。
【0008】
また、内周部から外周部に渡って延在する溶接部が設けられていると好適である。
このような構成のリング鋼材の製造は、先ず、帯状の鋼材をドラムに巻き付けて、螺旋状の鋼材とした後、径方向で外周から内周に向かって切断してC形の鋼材を製作して、この両端を突き合わせて溶接する。このような製造は、リング鋼材の大量生産を可能にしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接強度を維持しつつ、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明に係る建築構造用リング鋼材を梁に溶接する前の状態を示す斜視図、(b)は、建築構造用リング鋼材を梁に溶接した後の状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る建築構造用リング鋼材の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】(a)は、正常な溶接状態を示す斜視図、(b)は、溶接不良の状態を示す斜視図である。
【図5】(a)は、本発明に係る建築構造用リング鋼材の製造に適用される帯状鋼材を示す斜視図、(b)は、ドラムに鋼材が巻かれた状態を示す図である。
【図6】(c)は、螺旋状の鋼材を示す斜視図、(d)は、円弧状鋼材を示す平面図、(e)は、円環状鋼材を示す平面図である。
【図7】本発明に係る建築構造用リング鋼材の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】従来の建築構造用リング鋼材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る建築構造用リング鋼材の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、建築構造用リング鋼材1は、鉄骨H形鋼梁Aに形成されて配管などを通すために設けられたウエブ貫通孔2を補強するためのものであり、ウエブ貫通孔2と略同径の内周部1aと、所定の外径を有する外周部1bと、内周部1aと外周部1bとの間で等間隔に複数個(例えば、4〜12個)配置された溶接孔1cとからなる。
【0013】
梁Aにリング鋼材1を固定する手順としては、梁Aのウエブ貫通孔2とリング鋼材1の内周部1aとを位置合わせした後、溶接孔1cにプラグ溶接3を施工して、ウエブの一面側でリング鋼材1と梁Aとを接合する。さらに、梁Aのウエブの反対側でも他のリング鋼材1をプラグ溶接する。このようなリング鋼材1を利用すると、リング鋼材1の外周部1bに溶接を施工する必要がなく、溶接量が少ないので、梁Aが熱の影響(歪み、縮み)をほとんど受けることがない。
【0014】
リング鋼材1の一例は、外径が500〜1000mm、内径が340〜700mm、厚みが16〜25mmの形状である。また、溶接孔1cの直径は、23〜39mmである。
【0015】
このリング鋼材1について更に詳細に説明する。
【0016】
図2及び図3に示すように、リング鋼材1は、内周部1aと外周部1bとの間で断面凹状で且つリング状の溝として形成された溶接収容部20と、溶接収容部20の底面20aで等間隔に形成された溶接孔1cと、を備え、リング状の溶接収容部20が形成される結果として、リング鋼材の外観上、溶接収容部20と内周部1aとの間、溶接収容部20と外周部1bとの間にリング状のフランジ部21,22が形成されることになる。そして、溶接孔1c内でプラグ溶接された溶接部3の余盛部Bの周囲は、溶接収容部20の底面20aに達している。
【0017】
リング鋼材1においては、溶接に寄与する溶接収容部20と溶接孔1cとが形成されているので、接収容部20と内周部1aとの間、溶接収容部20と外周部1bとの間にリング状のフランジ部21,22によって、リング鋼材1で例えフランジ部21,22間の底部23の厚みが薄くても、フランジ部21,22によって、内周部1a近傍と外周部1b近傍で十分な強度が確保されて、補強材として機能し得るので、リング鋼材1の剛性が確保されることになる。
【0018】
更には、鉄骨梁Aのウエブ貫通孔2が高い場所にある場合、リング鋼材1を高い場所まで運ばなくてはならず、リング鋼材の重さが作業負担に多大な影響を与えるので、溶接収容部20を深くすることで、リング鋼材1の剛性を必要以上に落とすことなく、軽量化を容易に図ることができ、これに伴って取り扱い性も向上する。
【0019】
しかも、高所作業にあっては、足場が限定されることもあるので、溶接状態の確認を容易にする必要がある。そこで、リング鋼材1にあっては、余盛部Bの周囲は、溶接収容部20の底面20aに達しているが、リング状の溶接収容部20を採用することで、溶接収容部20内に点在する溶接部3の良否が確認し易くなり、さらには、余盛高さの確認をも容易になる。しかも、溶接孔1c全体の孔径を大きくすることなく、溶接時に溶接孔1cを狙い易く、溶接欠陥の発生を確実に防止することができる。
【0020】
例えば、図4(a)に示すように、溶接孔1cは、余盛部Bによって見えなくなるようなプラグ溶接が行われることが肝要であるが、図4(b)に示すように、プラグ溶接の不備によって、溶接孔1cの一部Kが余盛部Bから露出するような場合でも、溶接収容部20がリング状である故に、目視によって確認し易く、このことは、溶接状態の検査を良好にしている。
【0021】
さらに、内周部1aから外周部1bに渡って延在する溶接部Pを有するリング鋼材1にあっては、後述する製造方法が適用され、大量生産を可能にしている。
【0022】
次に、リング鋼材1の製造方法について詳述する。
【0023】
図5に示すように、C≦0.20%、Si≦0.55%、Mn≦1.60%、P≦0.035%、S≦0.035%以下の化学成分である炭素鋼で、機械的性質が降伏点≧320Mpa、490Mpa≦引張強さ≦610Mpa、降伏比≦80%、破断伸び≧17%からなる長尺状の帯状鋼材10を準備する。
【0024】
その後、細長い帯状の鋼材10は、円筒状のドラム11に1周ごとに厚み分をずらしながら巻き付けられ、螺旋状に冷間曲げ加工がなされる。図6に示すように、巻き加工が終了した螺旋状の鋼材12は、ドラム11から取り外された後に、外周と内周との間を、径方向に外周から内周に向かって一点鎖線に沿って切断され、C形の円弧状鋼材13となる。このような成形によれば、C形の円弧状鋼材13を効率よく成形することができる。
【0025】
巻き成形前の帯状の鋼材10における溶接収容部15の底面15aは、鋼材10の内周部1a側に位置するフランジ部21から外周部1b側に位置するフランジ部22に架けて上昇するような傾斜面として形成されている。これは、鋼材10がドラム11に巻き付けられる際に、鋼材10が内周側に向かって圧縮されることを考慮し、C形の円弧状鋼材13の底部13c(図6(d)参照)の厚みを均一にするためのものである。
【0026】
その後、C形の円弧状鋼材13の切断部分Sの両端面13aを突き合わせて溶接し、閉鎖断面をなす円環状の鋼材14が成形される。突き合わせ溶接の方法は、両端面13aを強固に接合できる方法であればいかなる方法でも良いが、フラッシュバット溶接が適切である。この溶接によれば、C形の円弧状鋼材13の両端面13aを突き合わせのために滑らかに仕上げておくことを要しないので、溶接工程を簡素化することができる。なお、符号「P」は、溶接部である。
【0027】
さらに、円環状に成形された鋼材14は、740℃〜900℃の熱処理を行い、建築構造用の材料として使用可能な所定の品質特性を有するリング鋼材20となる。そして、このリング鋼材20にドリル加工を行って、溶接孔1c(図2参照)を成形したものが、製品としてのリング鋼材1になる。
【0028】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、図7に示すように、リング鋼材30のフランジ部31,32が断面台形であってもよく、また、断面半円状であってもよい。これらの形状によって、溶接収容部20が外方に向かって広がるようになるので、溶接部3の目視確認がより良好になる。
【符号の説明】
【0029】
1,30…建築構造用リング鋼材、1a…内周部、1b…外周部、1c…溶接孔、20…溶接収容部、20a…底面、21,22,31,32…フランジ部、P…溶接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周部と外周部とでリング状に形成された建築構造用リング鋼材において、
前記内周部と前記外周部との間で断面凹状で且つリング状の溝として形成された溶接収容部と、
前記溶接収容部の底面に形成された溶接孔と、を備え、
前記溶接孔内でプラグ溶接された溶接部の余盛部の周囲が、前記溶接収容部の前記底面に達するように溶接されることを特徴とする建築構造用リング鋼材。
【請求項2】
前記内周部から前記外周部に渡って延在する溶接部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の建築構造用リング鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−285819(P2010−285819A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141243(P2009−141243)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】