説明

建築物の制振構造、目地部材及び制振構造の施工方法

【課題】地震時に、壁パネルの目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造、目地部材及び制振構造の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】建築物Aを構成する複数の壁パネル1の目地部2に彫り込み部21が形成され、目地部2に沿って目地部材7Aが設けられた建築物Aの制振構造20Aにおいて、目地部材7Aは、隣接する壁パネル1それぞれに対応する一対の保持部材4を備え、保持部材4には板状の粘弾性体被着片4aが形成され、一対の粘弾性体被着片4aは、彫り込み部21内で目地部2に沿って延在すると共に、粘弾性体3を挟むように対向配置され、且つ粘弾性体3によって一体化されており、彫り込み部21内には、接着材6が充填されて保持部材4が壁パネル1に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の制振構造、目地部材及び制振構造の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の制振を目的として、建築物に対して、複数の壁パネルを目地長さ方向に相互に可動であるように隣接して取り付け、壁パネル相互の目地部に粘弾性体を配置する構造として、特開平11−62058号公報(特許文献1)、特開2000−54679号公報(特許文献2)に記載された技術がある。
【0003】
特許文献1に記載された建築物の制振構造は、壁パネルの長辺小口面の目地部に粘弾性体を狭着させた技術である。また、特許文献2に記載された建築物の制振構造は、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体を保持する保持部材が、壁パネルの目地部を跨ぐように、粘弾性体を狭持した技術である。
【0004】
特許文献1、2にあるように、これらの技術は、複数の壁パネルを相互に可動であるように隣接して取り付け、壁パネル相互の目地部に粘弾性体を配置することにより、地震時に、隣接する壁パネル間に目地長さ方向の相対変位が生じ、粘弾性体に振動エネルギーが伝達させることにより、粘弾性体の内部摩擦によって制振効果を発揮させようとするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、粘弾性体を壁パネルの長辺小口面に直接接着するため、壁パネルの長辺小口面の性状によっては、粘弾性体に十分な振動エネルギーを伝達させるだけの接着力を確保するのが難しく、また、接着作業の品質管理が難しいという問題があった。
【0006】
一方で、特許文献2の技術では、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体を保持する保持部材が、壁パネルの目地部を跨ぐように、粘弾性体を狭持しているため、隣接する壁パネルの面相互に段差がない場合には、保持部材と粘弾性体の接着力が確保できるように設計すれば、粘弾性体に十分な振動エネルギーを伝達させるだけの接着力を確保することが可能になる。
【0007】
しかしながら、引用文献2に記載の制振構造の場合、壁パネルに反りがある場合などで、隣接する壁パネルの面相互に段差寸法が発生した場合には、壁パネル面と略平行な方向で粘弾性体が保持部材に保持されているため、所定厚みで設けることにより所要の性能を発揮させるべき粘弾性体に、隣接する壁パネルの面相互の段差寸法に応じた該粘弾性体の面に垂直方向の圧縮力あるいは引張力が発生し、該粘弾性体の厚さも変動する。圧縮が作用した場合には、特に変動率が大きく、例えば、2mm厚の粘弾性体の場合で、段差寸法が2mm以上あると、粘弾性体を2mm以上圧縮することができず、保持部材が曲げられて粘弾性体から剥がれてしまう可能性がある。また、引張力が作用する場合も、一般に、同程度のせん断変形率の場合との比較で、限界歪みに至って粘弾性体の破損や接着面破断が生じやすい可能性がある。いずれにせよ、設計上の所要の性能が確保しにくいという問題があった。
さらに、隣接する壁パネルの面相互の段差が一様ではなく、凹凸が目地長さ方向に変動する場合には、段差の変動に追随しにくいという問題もあった。
【0008】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、地震時に、壁パネルの目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めた建築物の制振構造、目地部材及び制振構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に彫り込み部が形成され、目地部に沿って目地部材が設けられた建築物の制振構造において、目地部材は、隣接する壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、保持部材には板状の粘弾性体被着片が形成され、一対の粘弾性体被着片は、彫り込み部内で目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ粘弾性体によって一体化されており、彫り込み部内には、接着材が充填されて保持部材が壁パネルに固定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る目地部材は一対の保持部材を備え、一対の保持部材は、粘弾性体を挟むように対向配置された一対の粘弾性体被着片を介して粘弾性体によって一体化されている。一対の保持部材は、隣接するそれぞれの壁パネルに接着材によって固定されており、さらに、一対の保持部材同士は粘弾性体によって可動的に一体化されている。従って、隣接する壁パネル同士は相互に可動的であり、そして粘弾性体の作用によって制振機能が発揮される。特に、本発明によれば、粘弾性体被着片が彫り込み部内に配置されており、彫り込み部内に充填された接着材によって目地部材が壁パネルに固定されるので、例えば、隣接する壁パネルのパネル面相互に段差があったり、壁パネルに歪みがあったりしても、粘弾性体の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能を確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネルの目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
【0011】
さらに、一対の保持部材それぞれには、粘弾性体被着片に屈曲形状にて連結する板状の支持片が形成され、一対の支持片は、隣接する壁パネルのパネル面に沿ってそれぞれ配置されていると好適である。目地部材を取り付ける際には、粘弾性体被着片側を彫り込み部内に差し入れながら支持片を壁パネルのパネル面に直接または間接的に突き当てるようにすることで、目地部材を精度良く、且つ簡単に所定位置に位置決めでき、その結果として施工が容易になると共に、粘弾性体の機能を発揮させる上で最も適した位置に確実に配置し易くなる。
【0012】
さらに、支持片には、彫り込み部内に連通して接着材を注入するための注入孔が形成されていると好適である。支持片によって彫り込み部を塞ぐような形態になったとしても、注入孔が形成されているので、彫り込み部内に接着材を簡単に充填でき、確実な取り付けが可能になる。
【0013】
さらに、保持部材には、注入孔を避けて設けられると共に、彫り込み部の一部を塞いで接着材を彫り込み部の底側にガイドする弾性パッキンが設けられていると好適である。例えば、彫り込み部に面取り部分が形成されていたりすると、目地部に沿って一対の粘弾性体被着片を配置した際に大きな空隙が生じる場合がある。このような大きな空隙があると、本来、彫り込み部の奥(底)側に注入しようする接着材が空隙を埋めるように流れてしまい、接着材が彫り込み部の奥側の所定位置まで到達しない可能性がある。上記構成によれば、弾性パッキンによって彫り込み部の一部を塞いで接着材を彫り込み部の底側にガイドすることができるので、少量の接着材による確実な固定が可能になる。
【0014】
さらに、弾性パッキンが保持部材に接着されているように構成すると、弾性パッキンを保持部材に簡単に取り付けることができて作業的にも楽である。
【0015】
さらに、仮止め手段によって支持片をパネル面に固定すると好適である。接着テープやビスなどの仮止め手段によって支持片の仮止めが可能になるため、接着材の充填作業が容易になり、より確実な取り付けが可能になる。
【0016】
上記の仮止め手段は、支持片をパネル面に固定するビスであり、支持片には、ビスが貫通する貫通孔が予め形成されていると好適である。目地部材の支持片をパネル面にビスで固定することにより、壁パネルの面内方向への力のみならず、面外方向への力に対する強度も高くなり、目地部材が壁パネルから外れてしまうことを効果的に防止でき、制振機能を長期にわたって安定的に発揮させ易くなる。
【0017】
さらに、彫り込み部の底には、粘弾性体被着片に当接し、且つ一対の粘弾性体被着片同士の間の隙間の少なくとも一部を覆って、その隙間への接着材の進入を規制するバックアップ材が配置されていると好適である。接着材が粘弾性体被着片の縁を回り込んで粘弾性体被着片同士の隙間に入り込んでしまうと、粘弾性体に付着して粘弾性体の機能を低減させる可能性がある。上記構成では、彫り込み部の底にバックアップ材を配置するので、接着材の回り込みを効果的に防止できる。
【0018】
また、本発明は、建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に形成された彫り込み部内に取り付けられ、建築物に制振機能を発揮させるための目地部材であって、隣接する壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、一対の保持部材には、彫り込み部内で目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ粘弾性体によって一体化されると共に、彫り込み部内に充填された接着材によって壁パネルに固定される粘弾性体被着片が形成されていることを特徴とする。本発明に係る目地部材は、粘弾性体被着片が彫り込み部内に配置され、彫り込み部内に充填された接着材によって壁パネルに固定されるので、例えば、隣接する壁パネルのパネル面相互に段差があったり、壁パネルに歪みがあったりしても、粘弾性体の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能が確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル相互の目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
【0019】
さらに、保持部材には、注入孔を避けて設けられると共に、彫り込み部の一部を塞いで接着材を彫り込み部の底側にガイドする弾性パッキンが接着されていると好適である。
【0020】
また、本発明は、建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に彫り込み部が形成され、目地部に沿って目地部材を設けることによって形成される制振構造の施工方法において、目地部材は、隣接する壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、一対の保持部材には、彫り込み部内で目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ粘弾性体によって一体化される一対の粘弾性体被着片が形成されており、目地部に彫り込み部が形成されるように、隣接する壁パネルを建て込み、目地部材を、粘弾性体被着片が彫り込み部内に収まるように配置して所定位置に位置決めし、彫り込み部内に接着材を充填して目地部材を壁パネルに固定することを特徴とする。本発明によれば、目地部材の粘弾性体被着片が彫り込み部内に配置され、彫り込み部内に充填された接着材によって壁パネルに固定されるので、例えば、隣接する壁パネルのパネル面相互に段差があったり、壁パネルに歪みがあったりしても、粘弾性体の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能が確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル相互の目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、地震時に、壁パネルの目地部に配置された粘弾性体に、振動エネルギーを有効に伝達させ、制振効果を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る建築物の制振構造を概略的に示す斜視図である。
【図2】本実施形態に係る目地部の概略を拡大して示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る目地部材を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る目地部の水平面に沿った断面図であり、彫り込み部内に接着材を充填する前の状態を示す図である。
【図5】彫り込み部内に接着材を充填した状態を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る目地部材を示す斜視図である。
【図7】壁パネルの目地部に第2実施形態に係る目地部材を取り付けた状態を示す制振構造の拡大断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る制振構造を示す拡大断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る制振構造を示す拡大断面図である。
【図10】第4実施形態に係る目地部材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
【0024】
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る建築物Aは、鉄骨構造(鉄骨梁などは図示せず)であり、複数の壁パネル1を縦壁として使用している。なお、以下の説明において、壁パネル1の各面のうち、外壁面や内壁面などの壁面を構成する面をパネル面1aといい、左右の長辺小口面1bや上下の短辺小口面1cとは区別して用いる。
【0025】
壁パネル1は、壁パネル取付部1dによりロッキング構法にて建物躯体に取り付けられている。地震時には、壁パネル1が上下の壁パネル取付部1dを中心にしてロッキングすることにより、隣接する壁パネル1は目地長さ方向の相対変位を発生する。隣接する壁パネル1同士の継ぎ目となる目地部2には、目地部材7Aが設けられており、隣接する壁パネル1同士は、目地部材7Aの粘弾性体3を介して連結されている。建築物Aに入力される地震エネルギーは、壁パネル1を通じて目地部材7Aに伝達される。目地部材7Aに伝達された振動エネルギーは、粘弾性体3で熱エネルギーに変えられることで、建築物Aに制振効果が生じる。すなわち、隣接する壁パネル1同士が目地部材7Aを介して連結された構造は、地震力を減衰させたり、増幅を防いだりするための制振構造20Aである。
【0026】
壁パネル1は、厚さ100mm程度の矩形の軽量気泡コンクリートパネルである。隣接する壁パネル1同士が突き当てられる長辺小口面1bには、目地部2に沿って延在する長溝が形成されており、両方の長溝が合わさって凹字状の彫り込み部21を形成する。彫り込み部21は、目地部2に直交する方向の幅が10mmで、深さが25mmの寸法にて形成されている。軽量気泡コンクリートパネルからなる壁パネル1の場合、彫り込み部21は、予め、工場で加工して、施工現場に搬入することが可能である。もちろん、施工現場で彫り込み部21を加工してもよい。彫り込み部21の周囲が欠けるなどの欠損を防止する意味で、3mm寸法の面取りを設けている。
【0027】
目地部材7Aは、目地部2の内面側(室内側)を跨ぐように設けられている。一方で、目地部2の外面側(図2及び図4参照)には、バックアップ材10とシーリング9とが施されている。なお、バックアップ材10の代わりに、ボンドブレーカーを用いてもよい。
【0028】
図3に示されるように、目地部材7Aは、断面L字状の鋼板(以下、「保持部材」という)を一対備えている。保持部材4は、所定板厚の直線状の鋼板に対して、長手方向に沿った折り目Lが形成されるような曲げ加工を施すことで形成されている。折り目Lを挟んで一方側の長片は粘弾性体被着片4aとなり、他方側の長片は壁パネル1のパネル面1aに固定される支持片4bとなる。従って、平板状の粘弾性体被着片4aおよび平板状の支持片4bは、屈曲形状にて連結した形状になっている。
【0029】
一対の保持部材4それぞれの粘弾性体被着片4aは、粘弾性体3を挟むようして対向配置されており、さらに、粘弾性体被着片4a同士は、粘弾性体3に接着されることで一体化している。その結果、粘弾性体3を挟んで一体化された一対の保持部材4によって目地部材7Aが構成される。
【0030】
図2及び図4に示されるように、目地部材7Aは、彫り込み部21に粘弾性体被着片4a側を差し入れるようにして目地部2に沿った所定位置に配置される。彫り込み部21の深さは、粘弾性体被着片4aの幅よりも数mm程度深くなっており、粘弾性体被着片4aの略全体を彫り込み部21の中に納めることができるようになっている。なお、粘弾性体3は粘弾性体被着片4aからはみ出さないように粘弾性体被着片4aの幅に対応した寸法であり、従って、粘弾性体被着片4aを彫り込み部21内に納めることで、粘弾性体3全体を彫り込み部21の中に納めることができる。
【0031】
目地部材7Aを配置する際に、一対の保持部材4それぞれの支持片4bは、隣接する壁パネル1それぞれのパネル面1aに引っ掛かるように当接する。支持片4bのパネル面1aと重なる領域には、仮止め手段としてのビス(ねじ)5が通される貫通孔4cが複数形成されている。保持部材4は、ビス5によって壁パネル1に仮止めされる。本実施形態に係る複数の貫通孔4cは、支持片4bの長手方向に沿って等間隔となるように形成されているが、等間隔でなくてもよい。また、貫通孔4cの径は、仮止め用のビス5の径よりも大きくしておき、容易にビス5による仮止めができるようにする。
【0032】
さらに支持片4bには、彫り込み部21内に連通する注入孔4dが複数形成されている。本実施形態に係る複数の注入孔4dは、支持片4bの長手方向に沿って等間隔で形成されており、さらに貫通孔4cよりも狭い間隔で形成されている。なお、注入孔4dを形成する間隔は等間隔でなくてもよく、また、貫通孔4cと同間隔となるように並んで形成したり、貫通孔4cよりも広い間隔で形成したりするようにしてもよい。
【0033】
図5に示されるように、支持片4bの注入孔4dを介して、接着材6が、グリースガン(接着材注入手段)23のノズル23aから彫り込み部21内に効率よく充填(注入)される。本実施形態では、接着材6として2液性のエポキシ接着材を用いているが、この他、変成シリコーン系、ウレタン系の2液接着材を用いることや、1液性の接着材の使用も可能である。注入孔4dを設けたため、接着材の充填作業は、所定長さの目地部材7Aを全てビス5によって仮止めした後、一度に大量の2液の攪拌を行って、纏めた作業とすることができ、効率的な作業とすることが可能となった。
【0034】
なお、接着材6の充填(注入)は、粘弾性体被着片4aと彫り込み部21との間の空間Sを埋めて目地部材7Aが壁パネル1に固定されるように行われる。さらに、接着材6の充填は、彫り込み部21の最奥までは充填せず、接着材6が粘弾性体被着片4aの縁Edを回りこんで、粘弾性体3にまで到達しないように行われる。接着材6が粘弾性体3に付着して固化すると、粘弾性体3の機能を低減させる可能性があるからである。なお、接着材6は、必ずしも目地部材7Aの全長にわたって連続して注入されている必要はない。従って、本実施形態に係る接着材6は、注入孔4dの位置に対応して部分的に注入されている。
【0035】
支持片4bには、注入孔4dを避けるようにして複数の角バッカー(弾性パッキン)11が接着されている。例えば、角バッカー11は、厚みが5mm〜7mm程度で、幅が7mm〜8mm程度の発泡ポリエチレン製のテープ状部材であり、彫り込み部21に形成された面取り部分を塞ぐことができる程度の寸法にて形成されている。本実施形態では、面取り部分が45°程度であるため、厚み及び幅が共に7mm程度が好ましい。角バッカー11は、間隔を開けて形成された複数の注入孔4d同士の間で、各注入孔4dに近接するように配置されており、従って、注入孔4dを避けながら、注入孔4dの上側及び下側に近接して設けられた状態になっている。その結果として、角バッカー11は、彫り込み部21の一部を塞いで接着材6が面取り部分の空隙に流れ込んでしまうのを防止し、注入された接着材6を彫り込み部21の底21a側にガイドする構成になっている。
【0036】
角バッカー11などの弾性パッキンを用いて、彫り込み部21の一部を塞いで接着材6を彫り込み部21の底21a側にガイドする利点について説明する。彫り込み部21に面取り部分が形成されていると、目地部2に沿って一対の粘弾性体被着片4aを配置した際に大きな空隙が生じる場合がある。このような大きな空隙があると、本来、彫り込み部21の奥(底)21a側に注入しようする接着材6が空隙を埋めるように流れてしまい、接着材6が彫り込み部21の底21a側の所定位置まで到達しない可能性がある。しかしながら、本実施形態によれば、角バッカー11が彫り込み部21の一部を塞いで接着材6を彫り込み部21の底21a側にガイドすることができるので、少量の接着材6による確実な固定が可能になる。
【0037】
なお、角バッカー11は支持片4bに接着されているので、角バッカー11を保持部材4に簡単に取り付けることができて作業的にも楽である。なお、弾性パッキンに関しては、角バッカー11に限定されず、その他の材料や形状、寸法からなる弾性部材であってもよく、さらに、彫り込み部21の一部を塞いで接着材6を彫り込み部21の底21a側にガイドすることができるのであれば、弾性パッキンを粘弾性体被着片4aに接着等して取り付けるようにしてもよい。
【0038】
上述のように、目地部材7Aは、目地部2に形成された彫り込み部21に沿って配置されており、目地部材7Aは、ビス5によって壁パネル1に仮止めされると共に、彫り込み部21内に充填された接着材6によって、壁パネル1に固着されている。本実施形態では、彫り込み部21に充填された接着材6によって、目地部材7Aが壁パネル1に固着されているので、目地部材7Aを壁パネル1の目地部2に近い位置に固着することが可能となり、目地部材7Aを小さな寸法とすることが可能で、運送や施工現場での取り扱い性も良くすることが可能となる。
【0039】
次に、本実施形態に係る制振構造20Aを構成する各要素の具体的な寸法などについて説明する。壁パネル1は矩形であり、縦方向の長さは3300mm程度、横方向の長さ(幅)は600mm程度のパネルである。
【0040】
目地部材7Aは、長さ2020mm、幅72mmであり、目地部2に対して一対の保持部材4が対称となるように配置されて取り付けられている。保持部材4の板厚は2mm程度であり、粘弾性体被着片4aの幅は25mmであり、支持片4bの幅は35mmである。一対の保持部材4は、粘弾性体被着片4aを対向させ、間に粘弾性体3を接着して設けることにより一体化され、その結果として目地部材7Aを形成している。
【0041】
本実施形態では、保持部材4は、板厚2mmの鋼板をL形状に折り曲げて設けたが、これに限定されるものはなく、粘弾性体3に有効に振動エネルギーを伝達するだけの剛性が有る構造であればよく、0.5mm〜2mm程度が好適な範囲である。また、目地部材7Aの長さは、1m程度の短いものとしても良い。
【0042】
粘弾性体3の厚みは、粘弾性体3の力学的特性に応じて、かつ想定される隣接する壁パネル1のパネル面1a相互の段差寸法、ロッキングやスライド(スウェイ)による隣接する壁パネル1間の目地部2の長さ方向の相対変位も考慮して、適宜定めればよいが、0.5mm〜4mm程度の厚みが好適な範囲と考えられる。また、例えば、想定される隣接する壁パネル1相互の目地部2の長さ方向の相対変位が6mmの場合で、許容できるせん断歪みが300%の場合には、粘弾性体3の厚みを2mm以上に設定するのが良い。
【0043】
本実施形態に係る目地部材7Aの支持片4bは、壁パネル1のパネル面1aに直接的に当接してビス止めされている。しかしながら、例えば、支持片4bとパネル面1aとの間に設置した両面接着テープによって支持片4bがパネル面1aに間接的に当接して仮止めされる態様であってもよい。また、本実施形態に係るビス5は、軽量気泡コンクリート用のビス5で、ねじの外径が6mmのものを用いており、支持片4bに設けられた貫通孔4cの径を6.5mmとしている。従って、軽量気泡コンクリートの壁パネル1に衝撃を与えることなくビス止めでき、その結果として簡単に仮止めできる。
【0044】
ビス止めする間隔、すなわち支持片4bに形成した複数の貫通孔4cの間隔は、目地部2の長さに沿って100mmとした。また、壁パネル1の長辺小口面1b側から、ビス5を打ち込む位置までの距離を25mmとしており、壁パネル1の目地部2に近い位置にしているが、この寸法は、50mm程度であっても良い。
【0045】
次に、本実施形態に係る制振構造20Aの施工方法について説明する。複数の壁パネル1を設置する際には、既設の壁パネル1に新たな壁パネル1を突き当てるように順番に建て込んでいく。
【0046】
次に、粘弾性体被着片4aが彫り込み部21内に収まるように目地部材7Aを配置して所定位置に位置決めし、仮止めする(図4参照)。本実施形態ではビス(仮止め手段)5を用いて仮止めを行っている。なお、この仮止めは、両面接着テープなどの仮止め手段によって行うことも可能である。
【0047】
次に、彫り込み部21内に接着材6を充填し、目地部材7Aを壁パネル1に固着する(図5参照)。ここで、接着材6の充填に際しては、接着材6が粘弾性体被着片4aの縁Edを回り込んで粘弾性体3にまで到達しないように注意する。なお、接着材6の充填量は、壁パネル1に固着された目地部材7Aが地震時にも外れない程度の強度を確保するのに十分な量を要する。一方で、このような十分な強度を確保できるのでれば、目地部材7Aが設置された彫り込み部21の長手方向の全領域に接着材6を充填する必要はなく、本実施形態では、支持片4bの注入孔4dの裏側を中心にして部分的な充填を行っている。
【0048】
以上、本実施形態に係る制振構造20Aによれば、目地部材7Aは、壁パネル1のパネル面1aに沿った略同一面上に配置された一対の支持片4bと、対向する一対の粘弾性体被着片4aとからなる一対の保持部材4を備え、一対の保持部材4は、粘弾性体被着片4aの間に配置された粘弾性体3により一体化されている。すなわち、一対の保持部材4は、隣接するそれぞれの壁パネル1に接着材6によって固定されており、さらに、一対の保持部材4同士は、粘弾性体3によって可動的に一体化されている。従って、隣接する壁パネル1同士は相互に可動的であり、そして粘弾性体3の作用によって制振機能が発揮される。
【0049】
特に、本実施形態によれば、粘弾性体被着片4a及び粘弾性体3が彫り込み部21内に配置されており、彫り込み部21内に充填された接着材6によって目地部材7Aが壁パネル1に固定されるので、例えば、隣接する壁パネル1のパネル面1a相互に段差があったり、壁パネル1に歪みがあったりしても、粘弾性体3の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能を確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル1の目地部2に配置された粘弾性体3に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
【0050】
さらに、本実施形態に係る一対の保持部材4それぞれには、粘弾性体被着片4a及び支持片4bが形成され、一対の支持片4bは、隣接する壁パネル1のパネル面1aに沿ってそれぞれ配置されている。目地部材7Aを取り付ける際には、粘弾性体被着片4a側を彫り込み部21内に入れ込みながら支持片4bを壁パネル1のパネル面1aに直接または間接的に突き当てるようにすることで、目地部材7Aを精度良く、且つ簡単に所定位置に位置決めでき、その結果として施工が容易になると共に、粘弾性体3の機能を発揮させる上で最も適した位置に確実に配置し易くなる。
【0051】
さらに、支持片4bには、彫り込み部21内に連通して接着材6を注入するための注入孔4dが形成されている。支持片4bによって彫り込み部21を塞ぐような形態になったとしても、注入孔4dが形成されているので、彫り込み部21内に接着材6を簡単に充填でき、確実な取り付けが可能になる。
【0052】
さらに、支持片4bに注入孔4dを設けることによって、目地部材7Aの仮止め工程と接着材注入工程とを完全に分離し、接着材作業を、完全な後作業とすることができるため、特に、接着一体性を向上させるために、好適と考えられる2液性のエポキシ接着材を使用する場合であっても、その可使時間を考慮しても、一度に大量の2液の攪拌を行って、効率的な作業とすることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態では、彫り込み部21内に充填する接着材6以外に、ビス5(仮止め手段)を併用して、保持部材4を壁パネル1に取り付けられているため、彫り込み部21内に充填された接着材6が固化するまでは、ビス5によって、目地部材7Aを壁パネル1に仮止めでき、接着材6による本止め作業(接着材6の充填作業が)が容易になり、より確実な取り付けが可能になる。なお、上記の実施形態では、仮止め手段としてビス5を例示しているが、例えば、両面接着テープなどの仮止め手段によって支持片4bを壁パネル1面に接着し、仮止めしておく態様であってもよい。
【0054】
また、本実施形態では、接着材6で粘弾性体被着片4aを壁パネル1に固定し、さらに、さらに、支持片4bを壁パネル1のパネル面1aにビス止めしているため、目地部材7Aを壁パネル1の目地部2に近い位置に固着することが可能であり、目地部材7Aを小さな寸法とすることが可能で、運送や施工現場での取り扱い性を良くすることが可能である。この利点について、例えば、本実施形態に係る目地部材7Aと同一形状の目地部材を、接着材を用いずにアンカー部材にて壁パネルに固定する態様と比較して説明する。アンカー部材を用いる態様としては、例えば、目地部材の支持片を隙間無く貫通するように、アンカー部材を壁パネルに打ち込んで固定する態様(以下、「比較態様1」という)、支持片に貫通孔を設け、その貫通孔を貫通するアンカー部材を介して、支持片を壁パネルに固定し、さらにアンカー部材と支持片とを溶接接合する態様(以下、「比較態様2」という)などが考えられる。
【0055】
より具体的には、比較態様1は、拡張釘などの打ち込み式のアンカー部材の軸径より小さな下孔を支持片(目地部材)に空けてアンカー部材を貫通させて固定するなどの態様であり、比較態様2は、ボルトなどのアンカー部材の軸径より大きな下孔を支持片に空けてアンカー部材を貫通させ、その後に、ボルト頭を支持片に溶接接合する態様である。
【0056】
比較態様1の場合、拡張釘などの打ち込み式のアンカー部材の軸径より小さな下孔を支持片に空けてアンカー部材を貫通させるため、アンカー部材を打ち込む際の抵抗が大きく、衝撃力がかかりやすい。そして、壁パネルの目地部に近い位置に打ち込もうとした場合、過度の負荷がかかると壁パネルが破損する虞がある。ここで、壁パネルの破損を防止するために、アンカー部材を打ち込む位置を、壁パネルの目地部から遠い位置とすることで壁パネルが割れるという問題を回避することも考えられるが、そのような態様とすると支持片の幅を広げる必要が生じ、結果として、目地部材が大きな寸法になってしまい、運送や施工現場での利便性の低下が懸念される。一方で、本実施形態の場合、接着材及びビスで固定するので、局所的な衝撃力がかかり難く、ビス止め箇所を目地部側に近づけ易くなる。その結果として、目地部材の寸法を小さくでき、運送や施工現場での利便性の向上を期待できる。
【0057】
また、比較態様2の場合、ボルトなどのアンカー部材の軸径より大きな下孔を支持片に空けてアンカー部材を貫通させ、その後に、ボルト頭を支持片に溶接接合するため、固着度は上げられるものの、溶接固定の際に、目地部材にアースをとる必要があり、実際の施工現場での作業を考慮すると、効率の低下が懸念される。一方で、本実施形態では、溶接の必要は無く、作業効率の向上を期待できる。
【0058】
また、上記の比較態様1や比較態様2におけるアンカー部材に、さらに接着材を併用して支持片をパネル面に接着すること、さらには、パネル面にプライマー処理を行い、接着力の向上を図ることは可能である。但し、これらの場合には、接着材塗布作業とアンカー固定作業を同時に行う必要があり、また、接着一体性を向上させるために、好適と考えられる2液性のエポキシ接着材を使用する場合には、2液の攪拌と、その可使時間から、2液の攪拌が少量多数回になるという意味で、アンカー固定作業と同時の行うのは作業的に困難になり易いという側面もある。
【0059】
これらに対して本実施態様では、目地部材7Aをビス5によって壁パネル1に仮止めでき、そして、彫り込み部21内に接着材6を充填して固化させることで、簡単に目地部材7Aを壁パネル1に固定できるので、作業性の向上に有効である。特に、本実施態様では、彫り込み部21内の接着材6に併用する形でビス5を用いており、特に、ビス5は壁パネル1に局所的な衝撃力をかけ難いので壁パネル1を破損させる虞は少ない。従って、ビス止めの位置を目地部2に近づけ易くなって支持片4b、すなわち目地部材7Aの小型化に有効であり、施工時に、壁パネル1の目地部2に近い位置での取り付け作業が可能で、作業効率の向上を図り易くなる。
【0060】
さらに、本実施形態では、壁パネル1の面内方向に作用する力は彫り込み部21内の接着材6で固定された粘弾性体被着片4aに主に負荷がかかり、壁パネル1の面外方向に作用する力はビス止めされた支持片4bに主に負荷がかかるようになる。従って、壁パネル1の面内方向への力のみならず、面外方向への力に対する強度も高くなり、目地部材7Aが壁パネル1から外れてしまうことを効果的に防止でき、制振機能を長期にわたって安定的に発揮させ易くなる。さらに、壁パネル1に作用する力の向きによって目地部材7Aの各部にかかる負荷が分散され、その結果として目地部材7Aの寿命を延ばすことができる。
【0061】
また、本実施形態では、粘弾性体被着片4aおよび粘弾性体3が彫り込み部21内の目地部2に沿うように配置されており、従って、一対の粘弾性体被着片4aが隣接する壁パネル1の双方に対向するように配置されるので、適量の接着材6の充填で、その接着材6を、彫り込み部21に隙間無く充填させ、保持部材4を隣接する双方の壁パネル1に効果的に固着させることが可能である。特に、一対の粘弾性体被着片4aおよび粘弾性体3の寸法に合わせて、できるだけ彫り込み部21の寸法を小さく設定しておくことで、少量の接着材6で、目的を達成することができる。なお、接着材6は、必ずしも、彫り込み部21の最奥まで充填する必要はない。
【0062】
また、彫り込み部21に粘弾性体被着片4aおよび粘弾性体3を配置するので、壁パネル1のパネル面1aで、粘弾性体3を含む保持部材4を配した側に、仕上げを施す場合に、壁パネル1の面外への孕み出し寸法(「出寸法」ともいう)が小さく、好適となる。例えば、壁パネル1の面外への孕み出し寸法は、板厚2mmとビス頭の寸法だけにできる。
【0063】
また、壁パネル1の彫り込み部21にも、粘弾性体3を配置することができるので、壁パネル1の面外への孕み出し寸法を同じとすれば、壁パネル1の単位長さあたりの比較で、粘弾性体3の幅寸法(壁パネル1の板厚方向の寸法)を大きくとることが可能で、より大きな制振効果を有する構造とすることが可能となる。例えば、100mm厚の壁パネル1に対して、壁パネル1の面外への孕み出し寸法が10mmで、壁パネル1の面外で10mm幅の粘弾性体3を配置することができる場合、25mmの彫り込みを行って、彫り込み内で20mm幅の粘弾性体3を配置することができれば、合計で30mm幅の粘弾性体3を配置することができ、彫り込み部21の無い場合との比較で、3倍の粘弾性体3を配置することができ、より大きな制振効果を有する構造とすることが可能となる。
(第2実施形態)
【0064】
次に、図6及び図7を参照して、第2実施形態に係る建築物の制振構造及び目地部材について説明する。なお、第2実施形態に係る制振構造及び目地部材は、第1実施形態に係る制振構造及び目地部材と同様の要素を備えているため、相違点を中心に説明を行い、同様の要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
本実施形態に係る制振構造20Bでは、壁パネル1として、例えば、パネル厚さ100mm程度の軽量気泡コンクリートパネルを使用している。隣接する壁パネル1の目地部2には、幅10mm程度で深さ25mm程度の彫り込み部21が形成されている。
【0066】
目地部2には目地部材7Bが設置されている。本実施形態に係る目地部材7Bは、一対の保持部材25と、一対の保持部材25に挟着された粘弾性体3とを備えている。保持部材25は、板厚が2mm程度の直線状の鋼板に曲げ加工を施して断面L字状に形成されている。保持部材25は、長手方向に沿って延在する折り目Lで連結された粘弾性体被着片25aと支持片25bとを有する。
【0067】
粘弾性体被着片25aは、平板状の長片であるが、その幅は30mmとなっており、第1実施形態に係る粘弾性体被着片25aの幅(23mm)よりも広くなっている。したがって、粘弾性体被着片25aを深さ25mm程度の彫り込み部21内に差し入れるように配置した場合には、粘弾性体被着片25aの一部が面外に突き出してしまう。支持片25bは、粘弾性体被着片25a側の基端と先端との間で段差が生じるように屈曲形成されており、従って、支持片25bの先端側がパネル面1aに当接した際に、粘弾性体被着片25aの突き出し分で袋状の領域が形成される。
【0068】
目地部材7Bを目地部2に取り付けた際に、壁パネル1の面外への孕み出し寸法(出寸法)は、粘弾性体被着片25aの突き出し分で形成される袋状の領域の寸法であり、本実施の形態では9mm程度と非常に小さく、実用上問題のない納まりとすることができる。本実施形態のように、面外への孕み出し寸法を10mm程度の寸法に抑えれば、石こうボード内装仕上げを厚30mm程度で行う場合(例えば、GL工法)に、GLボンドなどの接着部分厚みの中に、壁パネル1の面外への孕み出し部分を納めることができる。
【0069】
二つの保持部材25の間に、所定厚さ2mmの粘弾性体3を配置し、さらに、粘弾性体3で両方の保持部材25を接着して一体とすることにより目地部材7Bを構成している。目地部材7Bの長手方向の長さは1000mm、幅は72mm、奥行きは25mmとしている。
【0070】
支持片25bの所定の位置に、接着材6を注入するための直径3mmの注入孔25dを複数設けている。複数の注入孔25dは、間隔100mmとなるように形成されている。支持片25bの上部及び下部には、直径6.5mmの貫通孔25cをそれぞれ設けている。貫通孔25cの直径は、仮止め部材としてのネジ径6mmのビス5を想定しており、それより大きな寸法になっている。
【0071】
目地部材7Bの長さは、1000mmに限定されるものではなく、重量などを加味し、施工現場での扱いやすさと、納まりから適宜定めればよいが、長尺過ぎると運搬時に、目地部材7Bが曲がり、粘弾性体3の接着が剥がれるなどの懸念もあるため、運搬のしやすさなども考慮し、2000mm程度以下とするのが好ましい。
【0072】
本実施形態に係る建築物Aの制振構造20Bによれば、彫り込み部21内に粘弾性体3が配置され、彫り込み部21内の接着材6によって目地部材7Bが壁パネル1に固定されているので、隣接する壁パネル1のパネル面1a相互に段差があったり、壁パネル1に歪みがあったりしても、粘弾性体3の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能を確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル1の目地部2に配置された粘弾性体3に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
(第3実施形態)
【0073】
次に、図8を参照して、第3実施形態に係る建築物の制振構造について説明する。なお、第3実施形態に係る制振構造及び目地部材は、第1実施形態に係る制振構造と同様の要素を備えているため、相違点を中心に説明を行い、同様の要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0074】
本実施形態に係る制振構造20Cでは、隣接する壁パネル1の目地部2には、彫り込み部21が形成されている。彫り込み部21の底21aには、弾性変形可能なバックアップ材26が貼着されている。目地部材7Cは一対の保持部材4を備えており、保持部材4には、粘弾性体被着片4a及び支持片4bが形成されている。目地部材7Cの粘弾性体被着片4aを彫り込み部21内に差し入れた際に、一対の粘弾性体被着片4a双方の縁Ed(先端)がバックアップ材26に当接する。その結果として、バックアップ材26は、一対の粘弾性体被着片4a同士の間の隙間(粘弾性体3が配置された隙間)Cの先端側の少なくとも一部を覆う。
【0075】
目地部材7Cを仮止めした後に、彫り込み部21内には接着材6が充填されるが、隙間Cの一部を覆うバックアップ材26によって、その隙間Cへの接着材6の進入を規制することができる。従って、接着材6が粘弾性体被着片4aの縁Edを回り込んで粘弾性体被着片4a同士の隙間Cに入り込み、粘弾性体3に付着して粘弾性体3の機能を低減させるということを効果的に防止できる。
【0076】
本実施形態に係る建築物Aの制振構造20Cによれば、彫り込み部21内に粘弾性体3を配置し、彫り込み部21内の接着材6によって目地部材7Cが壁パネル1に固定されているので、隣接する壁パネル1のパネル面1a相互に段差があったり、壁パネル1に歪みがあったりしても、粘弾性体3の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能が確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル1の目地部2に配置された粘弾性体3に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
(第4実施形態)
【0077】
次に、図9を参照して、第4実施形態に係る建築物の制振構造について説明する。なお、第4実施形態に係る制振構造及び目地部材は、第1実施形態に係る制振構造と同様の要素を備えているため、相違点を中心に説明を行い、同様の要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0078】
本実施形態に係る制振構造20Dでは、隣接する壁パネル1の目地部2には、彫り込み部21が形成されている。目地部2には、目地部材7Dが取り付けられる。目地部材7Dは、一対の保持部材4を備えている。保持部材4は、直線状の鋼板に曲げ加工を施すことで粘弾性体被着片4a及び支持片4bを形成している。一対の保持部材4は、粘弾性体被着片4aで粘弾性体3を挟み、粘弾性体3に接着されることで一体化して目地部材7Dを構成する。さらに、本実施形態に係る目地部材7Dは、一対の粘弾性体被着片4aの先端側に取り付けられ、粘弾性体3が挟着された隙間Cの少なくとも一部を塞ぐシール部材27を備えている。
【0079】
シール部材27は、第3実施形態に係るバックアップ材26(図8参照)と同様に接着材6の進入を規制する。さらに、シール部材27は、弾性変形可能な材質からなり、粘弾性体被着片4aを彫り込み部21内に差し入れる際に圧縮されて変形し、壁パネル1との間に生じる摩擦によって目地部材7Dの脱落を防止する。その結果、粘弾性体被着片4aを彫り込み部21内に差し入れるだけで簡単に仮止めでき、その後の接着材6の充填を確実に行うことができる。また、シール部材27の左右の部分が圧縮されて保持されるので、目地部材7Dが曲がっていても、矯正して、左右均等の配置として、彫り込み部21の略中央に配置し、左右の接着材注入空間の寸法をほぼ同じとすることができる。その結果として、接着材6の注入量が左右均等となり、施工現場での適正な管理が容易になる。なお、本実施形態では、ビス5による仮止めも行っているが、このビス止めを省略するようにしてもよい。
【0080】
本実施形態に係る建築物Aの制振構造20Dによれば、彫り込み部21内に粘弾性体3が配置され、彫り込み部21内の接着材6によって目地部材7Dが壁パネル1に固定されているので、隣接する壁パネル1のパネル面1a相互に段差があったり、壁パネル1に歪みがあったりしても、粘弾性体3の性能自体は影響を受けにくく、設計上の所要の性能を確保し易い。その結果として、地震時に、壁パネル1の目地部2に配置された粘弾性体3に、振動エネルギーが有効に伝達され、制振効果を高めることが可能になる。
【0081】
なお、本実施形態に係る制振構造においては、図10に示されるように、変形例に係る目地部材7Eとすることもできる。目地部材7Eは、一対の保持部材30を備えており、保持部材30は、直線状の鋼板からなる粘弾性体被着片30aを有するが、支持片に相当する部分は有していない。一対の保持部材30は、粘弾性体被着片30aで粘弾性体3を挟み、粘弾性体3に接着されることで一体化して目地部材7Eを構成する。さらに、目地部材7Eは、一対の粘弾性体被着片30aを環状に取り囲むように設けられた環状支持部材31と、一対の粘弾性体被着片4a同士の間の隙間(粘弾性体3が配置された隙間)の先端側の少なくとも一部を覆うように保持部材30に接着されたバックアップ材32とを備えている。
【0082】
バックアップ材32は、第3実施形態に係るバックアップ材26と同様に接着材6の進入を規制する。また、環状支持部材31は、弾性変形可能な材質からなり、粘弾性体被着片30aを彫り込み部21内に差し入れる際に圧縮されて変形し、壁パネル1との間に生じる摩擦によって目地部材7Dの脱落を防止して目地部材7Eを所定位置に支持する。その結果、粘弾性体被着片30aを彫り込み部21内に差し入れるだけで簡単に仮止めでき、その後の接着材6の充填を確実に行うことができる。
【0083】
本発明は、以上の実施形態のみに限定されない。例えば、壁パネルとしては、軽量気泡コンクリートパネルに限定されず、押出成型セメントパネル、金属複合サンドイッチパネルなどが該当し、複数の壁パネルを目地長さ方向に相互に可動であるように隣接して取り付けられるものであればよい。
【0084】
また、上記各実施形態で示されるように、保持部材は、鋼板プレートに曲げ加工を施して形成するのが簡便で好ましいが、他に、形鋼などを切り出すなどして形成してもよい。また、上記の各実施形態では、支持片と粘弾性体被着片とを備えた態様にて説明したが、支持片を形成せず、粘弾性体被着片のみを備えた形状であってもよい。
【0085】
また、上記の実施形態の説明では、第1実施形態でのみ制振構造の施工方法について説明したが、第2〜第4実施形態に係る制振構造についても、同様の手順によって施工する事が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1…壁パネル、1a…パネル面、2…目地部、3…粘弾性体、4,25,30…保持部材、4a,25a,30a…粘弾性体被着片、4b,25b…支持片、4c…貫通孔、4d…注入孔、5…ビス(仮止め手段)、6…接着材、7A,7B,7C,7D,7E…目地部材、11…角バッカー(弾性パッキン)、20A,20B,20C,20D…制振構造、21…彫り込み部、21a…底、26,32…バックアップ材、A…建築物、C…粘弾性体被着片同士の間の隙間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に彫り込み部が形成され、前記目地部に沿って目地部材が設けられた建築物の制振構造において、
前記目地部材は、隣接する前記壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、前記保持部材には板状の粘弾性体被着片が形成され、一対の前記粘弾性体被着片は、前記彫り込み部内で前記目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ前記粘弾性体によって一体化されており、前記彫り込み部内には、接着材が充填されて前記保持部材が前記壁パネルに固定されていることを特徴とする建築物の制振構造。
【請求項2】
一対の前記保持部材それぞれには、前記粘弾性体被着片に屈曲形状にて連結する板状の支持片が形成され、一対の前記支持片は、隣接する前記壁パネルのパネル面に沿ってそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1記載の建築物の制振構造。
【請求項3】
前記支持片には、前記彫り込み部内に連通して前記接着材を注入するための注入孔が形成されていることを特徴とする請求項2記載の建築物の制振構造。
【請求項4】
前記保持部材には、前記注入孔を避けて設けられると共に、前記彫り込み部の一部を塞いで前記接着材を前記彫り込み部の底側にガイドする弾性パッキンが設けられていることを特徴とする請求項3記載の建築物の制振構造。
【請求項5】
前記弾性パッキンは、前記保持部材に接着されていることを特徴とする請求項4記載の建築物の制振構造。
【請求項6】
仮止め手段によって前記支持片を前記パネル面に固定することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項記載の建築物の制振構造。
【請求項7】
前記仮止め手段は、前記支持片を前記パネル面に固定するビスであり、前記支持片には、前記ビスが貫通する貫通孔が予め形成されていることを特徴とする請求項6記載の建築物の制振構造。
【請求項8】
前記彫り込み部の底には、前記粘弾性体被着片に当接し、且つ一対の前記粘弾性体被着片同士の間の隙間の少なくとも一部を覆って前記隙間への前記接着材の進入を規制するバックアップ材が配置されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の建築物の制振構造。
【請求項9】
建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に形成された彫り込み部内に取り付けられ、前記建築物に制振機能を発揮させるための目地部材であって、
隣接する前記壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、一対の前記保持部材には、前記彫り込み部内で前記目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ前記粘弾性体によって一体化されると共に、前記彫り込み部内に充填された接着材によって前記壁パネルに固定される粘弾性体被着片が形成されていることを特徴とする目地部材。
【請求項10】
前記保持部材には、前記注入孔を避けて設けられると共に、前記彫り込み部の一部を塞いで前記接着材を前記彫り込み部の底側にガイドする弾性パッキンが接着されていることを特徴とする請求項9記載の目地部材。
【請求項11】
建築物を構成する複数の壁パネルの目地部に彫り込み部が形成され、前記目地部に沿って目地部材を設けることによって形成される制振構造の施工方法において、
前記目地部材は、隣接する前記壁パネルそれぞれに対応する一対の保持部材を備え、一対の前記保持部材には、前記彫り込み部内で前記目地部に沿って延在すると共に、粘弾性体を挟むように対向配置され、且つ前記粘弾性体によって一体化される一対の粘弾性体被着片が形成されており、
前記目地部に前記彫り込み部が形成されるように、隣接する前記壁パネルを建て込み、
前記目地部材を、前記粘弾性体被着片が前記彫り込み部内に収まるように配置して所定位置に位置決めし、
前記彫り込み部内に接着材を充填して前記目地部材を前記壁パネルに固定することを特徴とする制振構造の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−6905(P2011−6905A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151036(P2009−151036)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】