説明

建築物の外壁構造、シリカ溶液及びシリカ微粒子膜の形成方法

【課題】親水性を有する建築物の外壁において、建築仕上材層の劣化を防止するための塗装工程を容易にする。
【解決手段】建築物の外壁の表面に建築仕上材としての合成樹脂塗料が塗装されている。該合成樹脂塗料が乾燥して塗膜を形成した後、シリカ溶液を施工する。施工されたシリカ溶液は、乾燥によって個々のシリカ微粒子同士が固着し、均一なシリカ微粒子膜を形成する。このようにして形成された建築物の外壁に大気中に、浮遊している煤塵等の汚染物質が付着すると外壁が汚染される。建築物の外壁はシリカ微粒子膜によって親水性が付与されているため、雨滴が汚染物質と外壁との界面に浸透し、汚染物質を浮き上がらせ、重力により建築物の外壁表面から流れ落とすことで、該外壁の汚染を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風雨に直接さらされる建築物の外壁に形成される親水性の表面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、親水性を付与した建築物の外壁としては、高層ビル等の外壁用建材基体の表面に、光触媒性酸化物粒子及びシリカ又はシリコーンを含有する表面層を備え、前記光触媒性酸化物の光励起に応じて、前記表面層の表面は親水性を呈し、前記外壁用建材表面が、降雨にさらされた時に、空気中に含まれる煤塵や排気ガスなどの燃焼生成物や、上方にあるシーラントから溶出する汚れや、建物の排気口から排出される汚染物質等の疎水性汚れが雨滴により洗い流されるのを可能にする又は水で洗浄するのを容易とする外壁用建材(例えば、特許文献1参照。)が挙げられる。また、外壁用建材基体の表面に、光触媒性酸化物粒子を含有する表面層を備え、前記光触媒の光励起に応じて、前記層の表面は親水性を呈し、前記外壁用建材表面が、降雨にさらされた時に、付着堆積物及び/又は汚染物が雨滴により洗い流させるのを可能にするセルフクリーニング性外壁用建材(例えば、特許文献2参照。)等が挙げられる。
【0003】
しかし、これらの親水性外壁材はいずれも光触媒性酸化物粒子を利用しており、親水性の発現には光照射が必要であり、建物の影になって光が当たらない部分では汚染を抑制できないという問題点があった。また、光触媒作用により有機物を分解してしまうため、一般に建築物の外壁用に用いられている建築仕上材の上には塗装できないという問題点があった。
【0004】
これに対して、光触媒層と建築仕上材層との間に光触媒作用を持たないバリア層を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
しかし、この方法では、塗装工程が増すばかりでなく、バリア層を均一に施工することが困難であり、建築仕上材層の劣化を防止するのが困難であるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−49828号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開平9−228602号公報(第2〜3頁)
【特許文献3】再公表公報第WO97/00134号(第2〜7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、親水性を有する建築物の外壁において、建築仕上材層の劣化を防止するための塗装工程が複雑な点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、光触媒性酸化物粒子を含有しない建築物の外壁において、該外壁の表面に平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子膜が厚さ2〜150μmに形成されていることを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記シリカ微粒子膜が結晶化した膜構造であることを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、建築仕上材層が設けられている建築物の外壁表面にシリカ微粒子膜が形成されている場合に、前記建築仕上材層の表面が親水性であることを最も主要な特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、建築物の表面にシリカ微粒子膜を形成するために用いられ、光触媒性酸化物粒子を含有せず、かつ、平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子を含有したものであることを最も主要な特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記シリカ溶液がコロイダルシリカを含有していることを最も主要な特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の発明において、前記シリカ溶液が指示薬を含有していることを最も主要な特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、建築物の外壁構造を形成するため、請求項4〜請求項6のいずれか一項に記載のシリカ溶液をアルコールで希釈して建築物の外壁に塗装することを最も主要な特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、外壁用建材基体の表面に光触媒性酸化物粒子を含有せず、かつ、該表面に平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子が厚さ2〜150μmで形成されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、シリカ微粒子間の結合力を最適にすることができるとともに、建築物の外壁表面に充分な親水性を付与することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、経年の風雨によるシリカ微粒子膜表面の流出を抑制することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加えて、建築仕上材層表面においてシリカ微粒子との密着性に優れる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、シリカ微粒子間の結合力を最適にすることができるとともに、建築物の外壁表面に充分な親水性を付与することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加え、平均粒子径を4〜100nmに設定することが容易になる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、請求項4又は請求項5に記載の発明の効果に加え、シリカ溶液とアルコール類とを混合したことを目視によって確認することができ、未混合のままの施工を防止することができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、請求項4〜請求項6に記載の発明の効果に加え、シリカ微粒子を建築仕上材表面に薄く均一に塗布することができる。
【0022】
請求項8に記載の発明によれば、シリカ微粒子間の結合力を最適にすることができるとともに、建築物の外壁表面に充分な親水性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1に基づいて説明する。
本発明の建築物の外壁構造は、該外壁の表面に平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子が厚さ2〜150μmで形成されており、かつ、光触媒性酸化物粒子を含有していないことが必要である。
【0024】
前記シリカ微粒子としては例えば、コロイダルシリカ、オルガノシリカゾル等のシリカ微粒子の分散液を用いることができる。建築物外壁への形成前においてシリカ微粒子は、シリカ溶液、すなわちシリカ微粒子の分散液、として用いることが好ましい。シリカ微粒子をシリカ溶液として用いることにより、建築物の外壁表面にシリカ微粒子を薄膜で均一に形成させることができる。
【0025】
前記シリカ溶液はコロイダルシリカであることが好ましい。シリカ溶液がコロイダルシリカであることにより、平均粒子径を4〜100nmに設定することが容易になる。
【0026】
前記コロイダルシリカとしてはシリカ、ケイ酸リチウム等のケイ酸塩等の水分散液が挙げられる。また、オルガノシリカゾルとしてはシリカのメタノール分散液、イソプロピルアルコール分散液、エチレングリコール分散液、n−プロピルセロソルブ分散液、ジメチルアセトアミド分散液、メチルエチルケトン分散液、メチルイソブチルケトン分散液、キシレン・n−ブタノール混合溶媒分散液、プロピレングリコールモノメチルアセテート分散液等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0027】
前記シリカ微粒子の平均粒子径は好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは6〜50nmであり、最も好ましくは10〜20nmである。この範囲にあるとき、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。前記シリカ微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合には、シリカ微粒子間の結合力が強すぎて、シリカ微粒子膜に収縮クラックが発生するおそれがある。逆に100nmを超える場合には、シリカ微粒子間の結合力が弱く、シリカ微粒子膜を充分に形成することができない。
【0028】
前記シリカ微粒子の粒子形状としては球状、パールネックレス状、針状、棒状等が挙げられる。これらのうち、球状であることが好ましい。シリカ微粒子が球状であることにより、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、シリカ微粒子膜の強度を向上させることができる。
【0029】
前記シリカ微粒子によって、建築物の外壁表面に形成されるシリカ微粒子膜の厚さは2〜150μmであることが必要であり、5〜100μmであることがより好ましく、10〜50μmであることが最も好ましい。この範囲にあるとき、建築物の外壁表面に充分な親水性を付与することができる。前記シリカ微粒子の建築物の外壁表面に形成される厚さが2μm未満である場合には、シリカ微粒子膜が薄すぎて、外部からの衝撃に弱いため、表面クラックを生じやすい。逆に150μmを超える場合にはシリカ微粒子膜の光透過性が低下するため、建築仕上材の色彩や光沢等を抑制し、意匠性を低下させるおそれがある。また、シリカ微粒子膜の厚さが5μm以上である場合には、経年の風雨によるシリカ微粒子膜表面の流出があってもなお、シリカ微粒子膜が残存しているため耐久性に優れる。
【0030】
前記シリカ微粒子膜は結晶化した膜構造であることが好ましい。シリカ微粒子膜が結晶化した膜構造であることにより、非結晶の状態に比べて経年の風雨によるシリカ微粒子膜表面の流出を抑制することができる。
【0031】
なお、シリカ微粒子膜厚さの設定は、予定する厚みとするときの平米当たりのシリカ微粒子による重量、シリカ溶液の固形分濃度から平米当たりの実質的な必要量を算出したのち、スプレー塗装による飛散ロスを見込んで計算される。その飛散ロスは、エアレススプレーでは20%、エアスプレーでは50%を見込んだ数値としている。なお、「建築施工の実務 塗装・吹付け工事 監理と施工」1991年10月10日、彰国社発行の表−4.3「エアスプレーとエアレススプレーの比較」、ではエアレススプレーでは塗料ロスが15〜25%、エアスプレーでは塗料ロスが30〜60%と記している。
【0032】
前記光触媒性酸化物粒子とは光照射によって、価電子帯中の電子の励起が生ずる酸化物の粒子をいい、具体的には酸化チタン、酸化亜鉛等の典型金属酸化物をいう。本発明においては、外壁構造中に光触媒性酸化物粒子を含有しないことが必要である。光触媒性酸化物粒子を含有しないことにより、下地となる建築仕上材等の有機物を分解することがない。
【0033】
以上のように構成された建築物の外壁構造の形成は以下のように行われる。まず始めに、建築物の外壁の表面に建築仕上材としての合成樹脂塗料が塗装されている。該合成樹脂塗料が乾燥して塗膜を形成した後、シリカ溶液をエアレススプレーにて平均塗付量50g/mで塗装する。この平均塗付量はスプレー塗装による飛散ロス分を除いたものとしている。
【0034】
前記シリカ溶液は平均粒子径15nmのコロイダルシリカ水分散液(シリカ含有率25重量%)100重量部をイソプロピルアルコール50重量部と水50重量部とで希釈したものである。
【0035】
前記シリカ溶液はメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類で希釈してから塗装することが好ましい。アルコール類で希釈してから塗装することにより、シリカ溶液の表面張力を低下させることができるため、シリカ微粒子を建築仕上材表面に薄く均一に塗布することができる。
【0036】
前記シリカ溶液がアルカリ性である場合には、アルコール類にはアルカリ性領域(pH8超)で有色である指示薬を添加することが好ましい。該指示薬を添加することにより、両者を混合することによって溶液を変色させることができるため、シリカ溶液とアルコール類とを混合したことを目視によって確認することができ、未混合のままの施工を防止することができる。また、有色であることによって、施工・未施工を目視によって容易に判別することができるため、塗り忘れを防止することができる。
【0037】
前記指示薬は酸性領域(pH6未満)及び中性領域(pH6〜8)で無色又は淡色であることが好ましい。前記指示薬が酸性領域及び中性領域で無色であることにより、施工後に大気中の炭酸ガス又は酸性雨等によって中性化し、徐々に色が薄れてゆくため、施工完了後における建築仕上材の意匠性に影響を及ぼさない。
【0038】
前記指示薬のアルコール類に対する含有量は好ましくは0.001〜5.0重量%であり、より好ましくは0.01〜3.0重量%であり、最も好ましくは0.03〜1.0重量%である。この範囲にあるとき、アルカリ性領域において適度な呈色を示すことができるため、建築仕上材の意匠性に影響を及ぼさない。前記指示薬のアルコール類に対する含有量が0.001重量%未満の場合には呈色が十分でないため、混合忘れや塗り忘れを生ずるおそれがある。逆に5.0重量%を超える場合には、呈色が強すぎて炭酸ガス等による中性化が相当程度進行しないと無色又は淡色にならず、建築仕上材表面を長期にわたって呈色するため、該建築仕上材の意匠性を害するおそれがある。
【0039】
前記指示薬のうち、酸性領域及び中性領域で無色又は淡色であるものとしては、例えば、フェノールフタレイン、チモールフタレイン等のラクトン系指示薬、ブロモチモールブルー、フェノールレッド等のサルトン系指示薬、アリザリンイエロー等のジアゾ系指示薬、テアルビジン等が挙げられる。これらのうち、ラクトン系指示薬を用いることが好ましく、フェノールフタレイン又はチモールフタレインを用いることがより好ましい。ラクトン系指示薬を用いることにより、酸性領域及び中性領域で無色であるため、建築仕上材の意匠性により影響を及ぼさない。
【0040】
前記ラクトン系指示を含有するシリカ溶液は、施工直後のアルカリ性領域であった状態から、炭酸ガス等によって中性化することで中性領域さらには酸性領域になると、共役しているベンゼン環と炭素の間の二重結合が単結合となり、さらにキノン型であった1つのフェノールが閉じてラクトン環になる。ラクトン環ではベンゼン環のように共役せず、波長の短い紫外線しか吸収しないため無色である。このようにして、施工後数時間〜10日ほど経過すると建築仕上材本来の意匠が発現される。
【0041】
前記シリカ溶液には界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤を添加することにより、建築仕上材の表面が非親水性であっても均一なシリカ微粒子膜を形成することができる。
【0042】
前記界面活性剤としてはラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、スチレンマレイン酸樹脂半エステル、ポリカルボン酸アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうちポリカルボン酸アンモニウム塩を用いることが好ましい。ポリカルボン酸アンモニウム塩を用いることにより、建築仕上材の表面が非親水性であっても良好に密着させることができる。
【0043】
前記建築仕上材とシリカ微粒子膜の間には、シランカップリング剤膜を形成することが好ましい。シランカップリング剤膜を形成させることにより、建築仕上材とシリカ微粒子膜とを強固に密着させることができる。
【0044】
前記シランカップリング剤膜とは、分子の一端に加水分解でシラノール基を付与するエトキシ基又はメトキシ基を有し、他端にアミノ基、グリシジル基等の有機官能基を有するものを薄膜化したものをいう。前記シランカップリング剤膜はシラノール基がシリカ微粒子膜と結合し、有機官能基が建築仕上材と結合する接着剤の役割を果たす。
【0045】
前記建築仕上材とは、建築物に色彩、形状等の意匠を付与するために施工される建築材料であり、例えば、JIS K 5516に規定されている合成樹脂調合ペイント、JIS K 5572に規定されているフタル酸樹脂エナメル、JIS K 5653に規定されているアクリル樹脂ワニス、JIS K 5654に規定されているアクリル樹脂エナメル、JIS K 5660に規定されているつや有合成樹脂エマルションペイント、JIS K 5663に規定されている合成樹脂エマルションペイント、JIS K 5667に規定されている多彩模様塗料、JIS K 5668に規定されている合成樹脂エマルション模様塗料、JIS K 5581に規定されている塩化ビニル樹脂ワニス、JIS K 5582に規定されている塩化ビニル樹脂エナメル、JIS K 5670に規定されているアクリル樹脂系非水分散形塗料、JIS K 5656に規定されている建築用ポリウレタン樹脂塗料、JIS K 5657に規定されている鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料、JIS K 5658に規定されている建築用ふっ素樹脂塗料、JIS K 5659に規定されている鋼構造物用ふっ素樹脂塗料、JIS A 6909に規定されている薄付仕上塗材、複層仕上塗材、可とう形改修用仕上塗材等が挙げられる。
【0046】
前記建築仕上材の表面は親水性であることが好ましい。建築仕上材の表面が親水性であることにより、シリカ微粒子との密着性に優れる。
【0047】
前記建築仕上材の表面の水に対する接触角は好ましくは50°以下、より好ましくは40°以下、最も好ましくは30°以下である。この範囲にあるとき、同じく親水性であるシリカ微粒子との密着性に優れる。建築仕上材の表面の水に対する接触角が50°を超える場合にはシリカ微粒子との密着が充分でないおそれがある。
【0048】
前記シリカ溶液中のシリカ微粒子100重量部に対する有機物の添加量は好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下、最も好ましくは5重量部以下である。この範囲にあるとき、シリカ微粒子膜の耐久性に優れる。シリカ微粒子100重量部に対する有機物の添加量が20重量部を超える場合には、元来、親水性であるシリカ微粒子と、元来、疎水性である有機物とが反発しあって、シリカ微粒子同士の固着を阻害するおそれがある。また、10重量部を超える場合には、一般に建築仕上材の表面は有機物である場合が多いため、シリカ溶液中の有機物が建築仕上材表面に集まり、シリカ微粒子膜の「浮き」を生ずるおそれがある。
【0049】
前記シリカ溶液中のシリカ含有率が、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%、最も好ましくは12〜20重量%であるのが良い。この範囲にあるとき、シリカ微粒子膜の形成に最適である。シリカ溶液中のシリカ含有率が5重量%未満の場合には、充分なシリカ微粒子膜の厚みを確保するために多数回の塗装が必要となり、施工の容易性に劣る。逆に40重量%を超える場合には、一度に塗付する量が多すぎて、均一なシリカ微粒子膜を得ることが困難になる。
【0050】
前記シリカ溶液の施工はエアレススプレーに限らず、エアスプレー、ローラー、刷毛等、通常の塗料の施工に使用される器具を任意に用いることができる。これらのうち、エアレススプレー、エアスプレー等のスプレーによって塗装することが好ましい。スプレーによって塗装することにより、均一なシリカ微粒子膜を形成することができる。
【0051】
前記シリカ溶液は所定の膜厚を1度の塗装で確保せず、2回以上に分割して塗装することが好ましい。2回以上に分割して塗装することにより、均一なシリカ微粒子膜を得ることができるため、虹彩やムラの発生を抑制することができる。
【0052】
以上のようにして施工されたシリカ溶液は、乾燥によって個々のシリカ微粒子同士が固着し、均一なシリカ微粒子膜を形成する。該シリカ微粒子膜の水に対する接触角は光照射の有無にかかわらず0〜20°である。
【0053】
このようにして形成された建築物の外壁に大気中に浮遊している煤塵等の汚染物質が付着すると外壁が汚染される。建築物の外壁はシリカ微粒子膜によって親水性が付与されているため、雨滴が汚染物質と外壁との界面に浸透し、汚染物質を浮き上がらせ、重力により建築物の外壁表面から流れ落とすことで、該外壁の汚染を抑制することができる。
【0054】
また、シリカ微粒子膜自体は下地となる建築仕上材が含有している有機物を分解することがないため、長期にわたって建築仕上材の耐久性を阻害することがない。
【0055】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記シリカ微粒子の平均粒子径が4〜100nmであることにより、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。
【0056】
・前記シリカ微粒子の粒子形状が球状であることにより、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、シリカ微粒子膜の強度を向上させることができる。
【0057】
・前記シリカ微粒子の建築物の外壁表面に形成されるシリカ微粒子膜の厚さが2〜150μmであることにより、建築物の外壁表面に充分な親水性を付与することができる。
【0058】
・前記シリカ溶液をメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類で希釈してから塗装することにより、シリカ溶液の表面張力を低下させることができるため、建築仕上材表面に薄く均一に塗布することができる
【0059】
・前記シリカ溶液に界面活性剤を添加することにより、建築仕上材の表面が非親水性であっても均一なシリカ微粒子膜を形成することができる。
【0060】
・前記界面活性剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩を用いることにより、建築仕上材の表面が非親水性であっても良好に密着させることができる。
【0061】
・前記建築仕上材表面の水に対する接触角が50°以下であることにより、同じく親水性であるシリカ微粒子との密着性に優れる。
【0062】
・前記シリカ溶液中のシリカ微粒子100重量部に対する有機物の添加量が20重量部以下であることにより、シリカ微粒子膜の耐久性に優れる。
【0063】
・前記シリカ溶液中のシリカ含有率が5〜40重量%であることにより、シリカ微粒子膜が最適に形成される。
【0064】
・前記シリカ溶液の施工をエアレススプレー、エアスプレー等のスプレーによって塗装することにより、均一なシリカ微粒子膜を形成することができる。
【0065】
・前記シリカ溶液の施工において、所定の膜厚を1度の塗装で確保せず、2回以上に分割して塗装することにより、均一なシリカ微粒子膜を得ることができるため、虹彩やムラの発生を抑制することができる
【0066】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記実施形態においては、建築現場においてシリカ微粒子膜を形成させたが、予め工場等において外壁材にシリカ微粒子を塗装することにより形成させても良い。
【0067】
・前記実施形態においては、建築仕上材の上にシリカ微粒子膜を形成したが、コンクリート等の無機物の表面に直接形成させても良い。
【0068】
・前記実施形態においては、シリカ溶液を外気温下で乾燥させてシリカ微粒子膜を形成させたが、加熱乾燥によって形成させても良い。
このように構成した場合、乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0069】
・前記実施形態においてはアルコール類を使用しているが、該アルコール類は水で希釈して使用しても良い。
このように構成した場合、アルコール類の引火の危険性を低下させることができる。
【0070】
・前記実施形態においては、アルコール類に指示薬を含有させているが、シリカ溶液を最適なpH領域に調整するか、シリカ溶液のpHに最適な指示薬を選択することにより、シリカ溶液に含有させても良い。
【0071】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
(1) 親水性の建築仕上材表面にシリカ微粒子膜を形成させることを特徴とする建築物外壁の形成方法。
このように構成した場合、シリカ微粒子との密着性に優れる。
【0072】
(2) 水に対する接触角が50°以下である建築仕上材の表面にシリカ微粒子膜を形成させることを特徴とする建築物外壁の形成方法。
このように構成した場合、シリカ微粒子との密着性に優れる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例についての比較試験により、従来の技術に比べた本発明の顕著な効果を説明する。
【0074】
試験は70×150×2.3mmのスレート板に白色のアクリル樹脂塗料を塗布して標準試験体とし、実施例及び比較例の汚染防止処理をした後に、該試験体を水平角30度で屋外に6ヶ月間暴露して、塗膜の劣化状態を目視観察するとともに、暴露前後のLab表色系におけるL値を比較することによって行った。なお、暴露前の標準試験体のL値は99.7であった。また試験前における試験体のJIS K5600−4−7に規定されている鏡面光沢度(60°)を測定した。
【0075】
(実施例1)
実施例1の試験体は標準試験体に平均粒子径40nmのコロイダルシリカを平均厚さ50μmで塗装した。このときの光沢度は81であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は98.6であり、塗膜の状態は良好であった。
【0076】
(実施例2)
実施例2の試験体は標準試験体に平均粒子径10nmのコロイダルシリカを平均厚さ5μmで塗装した。このときの光沢度は85であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は96.4であり、塗膜の状態は良好であった。
【0077】
(実施例3)
実施例2の試験体は標準試験体に平均粒子径80nmのコロイダルシリカを平均厚さ6μmで塗装した。このときの光沢度は78であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は95.6であり、塗膜の状態は良好であった。
【0078】
(比較例1)
比較例1の試験体は標準試験体そのものを暴露した。このときの光沢度は87であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は54.0であり、塗膜の状態は良好であった。
【0079】
(比較例2)
比較例2の試験体は標準試験体に光触媒酸化チタンを平均厚さ48μmで塗装した。このときの光沢度は80であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は94.0であり、塗膜の状態は劣化して白亜化していた。
【0080】
(比較例3)
比較例3の試験体は標準試験体に非晶質酸化チタンを平均厚さ5μmで塗装した後、光触媒酸化チタンを平均厚さ8μmで塗装した。このときの光沢度は77であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は97.6であり、塗膜の状態は良好であった。
【0081】
(比較例4)
比較例4の試験体は標準試験体に平均粒子径4nmのコロイダルシリカを平均厚さ50μmで塗装した。このときの光沢度は80であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は66.2であり、塗膜の状態は良好であったが、表面にクラックが発生しており、汚染がまだらになっていた。
【0082】
(比較例5)
比較例5の試験体は標準試験体に平均粒子径108nmのコロイダルシリカを平均厚さ50μmで塗装した。このときの光沢度は77であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は56.4であり、塗膜の状態は良好であったが、汚染がまだらになっていた。
【0083】
(比較例6)
比較例6の試験体は標準試験体に平均粒子径10nmのコロイダルシリカを平均厚さ0.5μmで塗装した。このときの光沢度は86であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は76.8であり、塗膜の状態は良好であったが、表面にクラックが発生しており、汚染がまだらになっていた。
【0084】
(比較例7)
比較例7の試験体は標準試験体に平均粒子径25nmのコロイダルシリカを平均厚さ203μmで塗装した。このときの光沢度は64であった。
試験の結果、6ヶ月間暴露後のL値は70.1であり、塗膜の状態は良好であった。
【0085】
なお、本明細書に記載されている技術的思想は以下に示す発明者により創作された。
段落番号[0001]〜[0084]に記載されている技術的思想は加藤圭一により創作された。また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書の著作者は加藤圭一である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒性酸化物粒子を含有しない建築物の外壁において、該外壁の表面に平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子膜が厚さ2〜150μmに形成されていることを特徴とする建築物の外壁構造。
【請求項2】
前記シリカ微粒子膜が結晶化した膜構造であることを特徴とする請求項1に記載の建築物の外壁構造。
【請求項3】
建築仕上材層が設けられている建築物の外壁表面にシリカ微粒子膜が形成されている場合において、前記建築仕上材層の表面が親水性であることを特徴とする、請求項1又は請求項に記載の建築物の外壁構造。
【請求項4】
建築物の表面にシリカ微粒子膜を形成するために用いられ、光触媒性酸化物粒子を含有せず、かつ、平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子を含有したものであることを特徴とするシリカ溶液。
【請求項5】
前記シリカ溶液がコロイダルシリカを含有していることを特徴とする請求項4に記載のシリカ溶液。
【請求項6】
前記シリカ溶液が指示薬を含有していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のシリカ溶液。
【請求項7】
建築物の外壁構造を形成するため、請求項4〜請求項6に記載のシリカ溶液をアルコールで希釈して建築物の外壁に塗装することを特徴とするシリカ微粒子膜の形成方法。
【請求項8】
外壁用建材基体の表面に光触媒性酸化物粒子を含有せず、かつ、該表面に平均粒子径4〜100nmのシリカ微粒子が厚さ2〜150μmで形成されていることを特徴とする外壁用建材。

【公開番号】特開2007−197912(P2007−197912A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14547(P2006−14547)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】