説明

建築物基礎補強用パイプ及び支柱の形成方法

【課題】 小さな荷重で地中に容易に埋め込むことができる建築物基礎補強用パイプを提供する。
【解決手段】 軸芯方向に沿って地中に挿入される建築物基礎補強用のパイプ11であって、地中への進行方向先端側に突起部P1,P2を備えており、突起部P1,P2は、軸芯方向に対して連続して傾斜する第一面S11,S12と、軸芯方向と略同一方向の第二面S21,S22とを有し、第一面S11,S12と第二面S21,S22との間に形成される先端角が鋭角となるように形成されており、回転可能に支持された状態で軸芯方向に荷重を加えて地中へ挿入したときに、第一面S11,S12に作用する反力を利用して自転可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中にパイプを埋め込む技術に関する。その応用例としては、傾いた建築物の基礎を支えるために、パイプを地中に埋め込み支柱を形成する技術である。
【背景技術】
【0002】
図1(a)に示すように、建築物101が、粘土などからなる軟弱層102と、岩盤など安定した地層である支持層103の上に建造されている場合、軟弱層102では、建築物101の重量を常に均等に支えることができないため、建築物101がある程度傾斜する事態が生ずるおそれがある。
【0003】
傾斜してしまった建築物を元に戻す手法として、支持層103に届く支柱10を形成し、この支柱10により建築物の傾斜を修正することが従来から行われている(例えば、特許文献1)。図1(b)は、3つの支柱(10a、10b、10c)により建築物101の基礎を補強している様子を示している。
【0004】
この支柱10は、通常、パイプ(建築物基礎補強用のパイプ)を地中に挿入して形成される。パイプを地中に挿入する従来技術としては次のものが挙げられる。
【0005】
(1)強制挿入型
強制挿入型は、強い力で強制的に地中に柱や管(パイプ)を埋め込む技術である。そのパイプの先端に特別の工夫はなく、パイプの軸芯方向に対してその先端面は直角方向に平坦である。この強制挿入型では、先端面に生じる抵抗、及び、パイプ側面に生じる摩擦力が大きいため、その抵抗を上回る大きな力でパイプを挿入する必要が生ずる。そのために、地上には大きな装置が必要となる。また、地中に大きな岩石などの障害物が存在した場合、それらに対して強制的に押し込むために、パイプ自体が変形してしまうおそれもある。
【0006】
(2)羽根旋回型
羽根旋回型は、パイプの先端に数枚の羽根を設ける。そしてパイプの管軸を中心に旋回させながらパイプを地中に挿入させる。パイプは旋回しながら地中を進行するために、パイプ側面に生ずる摩擦力は小さくなる。しかし、パイプを旋回させるための装置が地上に必要となる。
【0007】
傾斜してしまった建築物の補強工事では、通常、建築物の下にもぐりこんで作業をする必要が生ずる。そのため、一般にその作業空間は狭く、常に上記羽根旋回用の装置を配置するための空間を確保することはできない。
【0008】
また、羽根旋回型では、攪拌された土壌部は、時間の経過とともにその周囲は自重により固まってくる。しかし、パイプ挿入当初は緩くなっているために、支柱形成当初は、支柱を強固に固定することが難しい場合がある。更に、羽根を付けたパイプの製造やメンテナンスのコストも生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−13615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、小さな荷重で地中に容易に埋め込むことができる建築物基礎補強用パイプの提供を目的とする。また、本発明は、上記の建築物基礎補強用パイプを用いた支柱の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題に対し、地中に挿入する建築物基礎を補強するためのパイプの先端を加工することで、軸芯方向の荷重を利用して、パイプの軸芯を中心として自転しながら地中を進むことができるパイプを提供する。また、そのようなパイプの地中への挿入方法を提供する。
【0012】
具体的には、軸芯方向に沿って地中に挿入される建築物基礎補強用のパイプであって、地中への進行方向先端側に突起部を備えており、前記突起部は、軸芯方向に対して連続して傾斜する第一面と、前記軸芯方向と略同一方向の第二面とを有し、前記第一面と前記第二面との間に形成される先端角が鋭角となるように形成されており、回転可能に支持された状態で軸芯方向に荷重を加えて地中へ挿入したときに、前記第一面に作用する反力を利用して自転可能に構成されている。
なお、前記先端角(α)は、前記パイプが前記自転を継続できるよう所定の範囲内に設定されている。先端角(α)の角度としては、20°〜70°の範囲内であることが望ましい。複数の前記突起部が設けられた場合、それら第一面は、いずれも自転パイプを同一方向に自転させる方向に傾斜しており、また必要に応じて少しの曲線を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の建築物基礎補強用パイプによれば、パイプを回転させるための装置を使うことなく、鉛直方向の荷重により自転を促して地中に埋め込むことができるので、小さい荷重で地中に容易に挿入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の課題を説明するための概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る建築物基礎補強用パイプを用いた支柱の形成方法を説明するための側面図である。
【図3】自転パイプの先端付近の拡大図である。
【図4】図3に示す自転パイプの先端部を平面状に展開した図である。
【図5】自転パイプの先端に作用する荷重の分散を示す図である。
【図6】変形例に係る自転パイプの先端に作用する荷重の分散を示す図である。
【図7】他の変形例に係る自転パイプの先端付近の拡大図である。
【図8】更に他の変形例に係る自転パイプの先端付近の拡大図である。
【図9】更に他の変形例に係る自転パイプの先端部を平面状に展開した図である。
【図10】自転パイプを地中に挿入して支柱を形成する方法を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る建築物基礎補強用パイプを用いた支柱の形成方法を説明するための側面図である。本実施形態の建築物基礎補強用パイプである自転パイプ11は、延長パイプ12と連結されており、図中、上が地表に近く、下が地中である。図中の矢印Zは自転パイプ11の進行方向を示している。最下端には自転パイプ11が配置され、その上に延長パイプ12が設けられている。更に、延長パイプ12の上には延長パイプ12、12が連続して配置される。このように自転パイプ11と延長パイプ12が連結されて一本の支柱10が形成され、建築物基礎を支える機能を発揮することができる。本実施形態では、自転パイプ11および延長パイプ12は、中空円筒状に形成されている。
【0016】
本発明は、後述するように、自転パイプ11の先端に設けられた斜面を利用することで、自転パイプ11が、軸芯に沿って鉛直方向(Z方向)に地中を進む割合に応じて、軸芯を中心に自転する点に特徴がある。
【0017】
(自転パイプ)
自転パイプ11には中心が空洞である円管を用いる。図3は、自転パイプ11の先端付近の拡大図である。この実施例では、直径Dが139.8mm、肉厚δが4.5mmのものを用いる。長さに限定はなく、通常、30cm〜5m(1本当たり)程度の範囲で実施が可能である。肉厚δは素材の強度及び直径との割合を考慮して適宜決定すればよい。
【0018】
自転パイプ11の素材及び寸法については、挿入する地層の硬さなどを考慮して適宜設定すればよい。例として、一般構造用炭素鋼管(JIS G 3444 STK)であれば肉厚δとしては3〜10mm範囲、直径の3〜10%が望ましく、自転パイプ11の直径に対して3.2〜4.2%程度の厚みであることがより好ましい。肉厚δは均一である必要はないが、均等な強度を得る視点から均一なものが望ましい。
【0019】
(延長パイプ)
延長パイプは自転パイプを挿入する深さに応じて適宜追加すればよく、図2では、延長パイプ12、12、12〜12を示している。延長パイプ12としては同一径・同一長さのパイプを利用すればよい。
【0020】
自転パイプ11と延長パイプ12は同一の外径が望ましいが厳密に同一である必要はない。自転パイプを地表から地中に挿入する荷重を伝えられる限りにおいて、任意に設定すれば足りる。また、内径についても同一であることが望ましいものの、厳格な同一性は不要である。
なお、本発明の実施形態としては、パイプの代わりに円柱状の部材を利用することも可能である。
【0021】
(自転パイプの詳細)
以下、自転パイプ11の先端形状について説明する。図3では図2と反対に、自転パイプ11の挿入方向(Z方向)を上向きとして描いている。自転パイプ11の上端には、二つの突起部P(P1、P2)が設けられている。突起部Pの形状は先端部T0(T01、T02)を最先端とした凸状であり、自転パイプ11の軸芯Cに対して連続して斜めとなる第一面(斜面S1、詳細にはS11とS12)と、先端部T0から軸芯Cに略平行に切り立つ第二面(垂直面S2、詳細にはS21とS22)により形成される。本実施形態において、斜面S1(S11,S12)は、軸芯Cを中心とする螺旋曲面の一部をなすように形成されている。また、本実施形態において、二つの突起部P1とP2は連続しており、軸芯Cに対して直角方向に配置される面は存在しない。具体的に、第1突起部P1の斜面S11の後端と第2突起部P2の垂直面S22の後端は同じ位置となる(底部T12)。同様に、第2突起部P2の斜面S12の後端と第1突起部P1の垂直面S21の後端も重複する(底部T11)。
【0022】
この実施例において、先端部T01と先端部T02は、同じ程度の高さ(挿入方向長さH1,H2)であり、また、軸芯Cを中心として平面視略対称の位置に配置される。図3において、自転パイプ11の自転方向を図中矢印Aで表記する。
【0023】
(先端部)
図4は、図3に示す自転パイプ11の先端部を平面状に展開した図である。図中の上側には、二つの先端部T0(T01とT02)が位置する。図4に示す幅W0は、自転パイプ11の直径Dに対応し、(W0
= D ×π)の関係となる。図中右側に示す(T01、T11)は、実際には第1突起部P1の先端部T01と底部T11に対応する位置となる。展開図であるために便宜上、カッコつきで表記する。
【0024】
通常の円筒パイプの展開図では、その先端は点線Qに示すような直線となる。本実施形態では、通常の円筒パイプの先端から、図4に示すように、T01−T12−T02の3点を結ぶ三角形状の領域と、T02−T11−(T01)を結ぶ三角形状の領域とをそれぞれ切り欠くことにより、突起部P(P1とP2)が形成されている。
【0025】
(先端角α)
先端部T0は上記斜面S1と垂直面S2により形成される。斜面S1と垂直面S2とは、共に、同じ先端部T0から自転パイプの後端に向けて伸びる形状である。この垂直面S2と斜面S1により形成される角度が先端角αとなる。先端部T01に対応する先端角をα1、先端部T02に対応する先端角をα2と表記する。この先端角αは本発明において後述する第二面との関係で所定の範囲内に設定される必要があり、第二面が垂直面S2である場合、この先端角αは鋭角に設定される。
【0026】
(斜面S1:第一面)
斜面S1は、軸芯Cに対して連続して傾斜する斜面として形成される。図4に示す第1の突起部P1であれば、先端部T01と、先端部T02から鉛直後方の底部T12とを肉厚と略同じ幅で帯状に結ぶ面が、斜面S11に該当する。第2の突起部P2であれば、同様に先端部T02と底部T11とを結ぶ帯状面が、斜面S12に該当する。本実施形態では斜面S11、S12は、展開図で示した場合に共に直線状であり、また、同じ傾斜角α(α1、α2)となっている。
【0027】
図3に示すように、斜面Sは、自転パイプ11の縦断面との交線が水平(すなわち、外周面と内周面との高さが斜面Sの傾斜方向に沿って略同じ)となるように形成されている。しかしながら、斜面Sは、いわゆる面取り処理を行うことで、自転パイプ11の外周面から内周面に向けて傾斜するように形成したり、これとは逆に、内周面から外周面に向けて傾斜するように形成などして、自転パイプ11の径方向の傾斜を調整することも可能である。また、この径方向の傾斜は、斜面Sの全体にわたって一定である必要はなく、例えば、斜面Sの先端部側を外側後方に傾斜させ、後端部側を水平もしくは内側後方に傾斜させることもできる。この斜面Sの形状は、肉厚が大きくなるほど、自転パイプが地中に挿入される際の抵抗に影響するため、状況に応じて適宜設定することが望ましい。
【0028】
(垂直面S2:第二面)
垂直面S2は、自転パイプ11の側面視において、自転パイプ11の軸芯Cと略同一方向に設定する。突起部P1に対応する垂直面S21の高さをH1、突起部P2に対応する垂直面S22の高さをH2と示す。この高さHは、図3で明記されるように一つの突起部P1における斜面S11の終端部である底部T12と隣り合う突起部P2における先端部T02との軸芯方向の距離として定義することができる。
【0029】
(斜面S1の作用の説明)
本発明は、上記斜面S1により自転パイプ11が地中を進行する際に自転する点に特徴がある。自転パイプ11が自転する理由を説明する。図5(a)は、自転パイプ11の先端に作用する荷重の分散を示す図である(側面からの視点)。図中、突起部Pは下向きに配置され、垂直面S2が左側に、斜面S1が右側に配置されている。下向きに示される矢印Fは、自転パイプ11が地中に挿入される際に与えられる挿入方向(Z方向)の荷重の向きである。その反対に、上向きに示される矢印F’は、その荷重Fの反力として自転パイプ11に加わる力である。
【0030】
斜面S1に対して反力F’が作用した場合、その力はまず斜面S1に垂直な方向に置き換えられる。その荷重をF0と示す。この荷重F0は、軸芯Cの方向の分力FHと軸芯Cに垂直方向(水平方向)の分力FWに分解して考えることができる。これらの力の分散は、それぞれFH = F0 sin α、FW = F0 cos αと表すことができる。
【0031】
つまり、自転パイプ11に荷重Fが加わると、その反力F’は、自転パイプ11を軸芯方向に沿って押し戻そうとする分力FHだけではなく、水平方向の分力FWを生じさせることとなる。この分力FWにより、自転パイプ11は図5(a)における左向きの力が生ずる。
【0032】
図5(b)は、自転パイプ11の軸芯先端側からの視点の図面である。自転パイプ11の先端には、軸芯Cを中心として対象な位置に突起部P1とP2が設けられている。図中の上側に突起部P1とその斜面S11が配置され、下側に突起部P2とその斜面S12が配置されている。そして、左側には先端部T01が配置され、右側には先端部T02が配置されている。先端部T01とT02は軸芯Cを基点としてγ1とγ2の間隔で配置されている。その角度(γ1とγ2)は共に180°である。
【0033】
軸芯方向に向けて荷重Fが加えられた場合、上述の通り、突起部P1の斜面S11に水平方向の分力FWが作用すると同時に、突起部P2の斜面S12にも同じ大きさの分力FWが作用することなる。この分力FWは、斜面S1の全面において円周方向に発生する。図5(b)では便宜上、模式的に斜面S11とS12の双方に3つずつの分力FWを表記している。二つの突起部P1とP2に作用するこれら分力FWの向きは、側面方向からの視点(例えば図5(b)におけるX軸)では互いに逆方向となる。しかし、図5(b)に示すように、軸芯方向(Z軸)から見れば、自転パイプ11を一方向方向に回転させる向きとなる。図では時計周りとなる。このような力の釣り合いから自転パイプ11は、軸芯Cを中心として自転することとなる。
【0034】
もし、通常の円筒パイプ(つまり、先端面が荷重Fの作用方向に対して垂直)であれば、荷重Fを真正面に受け止めるためにパイプが自転する力は作用しない。しかし、本発明では、パイプの先端に斜面S1が設けられている。特に、複数の突起部が設けられる場合、これらの斜面は、いずれも自転パイプを同一方向に自転させる方向に傾斜している。これにより、軸芯方向の荷重から横向きの分力を発生させ、かつ、その横向きの分力を利用して、自転パイプ11を継続して自転させることが可能となる。
【0035】
(先端角αの範囲)
突起部Pが側面視直線状の斜面S1と垂直面S2により構成され、かつ複数の突起部Pが連続して(隙間なく)設けられている場合、先端角αの値は自転パイプ11の自転の割合を定める上で重要な要素となる。
【0036】
まず、先端角が大きい値の場合、垂直面S2に比べて斜面S1の長さが大きくなる。そのため、自転パイプ11の進行に対して自転する割合が小さくなってしまう。自転する割合が小さいと、自転により摩擦力を低減させる本発明の効果を十分に得ることができなくない。一方、先端角αが小さい場合、自転パイプ11の進行に応じて十分な自転を得ることができる。しかし、先端角αが小さいと、尖った形となり、先端部T0の強度を確保できなくなる。
【0037】
そこで、地中を進む自転パイプ11側面の摩擦力を小さくするための十分な自転量と先端部の強度を確保する視点から、本発明における先端角αは20°〜70°の範囲であることが好ましい。垂直面S2の高さHと斜面S1との長さの割合は、1:1.05〜3.0の範囲であることが好ましい。
なお、硬い地層に自転パイプを挿入する場合には先端部の強度が要求される。その場合、先端角は30°〜60°の範囲が望ましいといえる。更に、パイプの自転量を多くするのであれば、先端角は45〜60°程度が望ましい。
【0038】
(第二面の範囲)
上述の通り、第二面である垂直面S2は軸芯Cと同一方向に配置されるのが望ましい。第二面の傾きについて補足する。図6は、自転パイプ11を展開した状態で、第二面を軸芯Cに対して角度βをなすように突起部Pを形成し、垂直面S2の代わりに第二斜面S2’を備える構成を示している。この場合、第二斜面S2’は、第一面S1とは反対向きに広がる斜面となる。このような突起部Pが地中を進んだ場合、第一面S1には、左向きの分力FW1が作用する。一方、第二斜面S2’には右側の分力FW2が作用することとなる。このように一つの突起部Pに対して方向が反対の分力FW1とFW2とが作用するということは、お互いが打ち消しあい、自転する力を弱めてしまうこととなる。よって、第一面S1の横方向の分力を弱めない視点から第二面は、軸芯方向と平行に配置されることが望ましい。
【0039】
一方、突起部Pの強度の点からは、図6に示すように、軸芯Cに対して傾き(角度β)を設けることが望ましい。その逆に突起部Pをより鋭角として地中に挿入される作用を高める点では、−β角とすることも可能である。
【0040】
以上の視点から、本発明において第二面と軸芯との角度としては、プラス/マイナス2°程度の範囲であれば軸芯と略同一方向として考えることができる。
【0041】
(セメント物の充填)
本発明では、地中に挿入した自転パイプの内側にセメント物を充填させてもよい。この充填により、自転パイプの経年劣化(例えば、腐食・錆による劣化)した場合であっても、内側に充填したセメント物により、基礎支柱としての役割を維持することが可能となる。
なお、ここでのセメント物としてはコンクリートのほか、モルタルなどの高強度でかつ経年劣化の少ない材料が該当する。
【0042】
(その他の実施例)
(突起部3つ以上)
本発明のその他の実施例としては、突起部Pを3つ以上設ける形態である。図7は、突起部Pを3つ(P1〜P3)、均等に配置する態様を開示している。この例では、先端部T01、T02、T03は軸方向視で120°の角度間隔で配置されている。図8は、突起部Pを4つ(P1〜P4)、均等に配置する態様を開示している。この例では、先端部T01、T02、T03、T04が軸方向視で90°の角度間隔で配置されている。
【0043】
突起部Pを3つ有する形態では、先端角αの範囲としては20°〜70°の範囲が望ましい。一方、突起部Pを4つ有する形態では、先端角αの角度としては20°〜70°の範囲が望ましい。これらの突起部Pの数とその先端角の値は、地層の状況(硬さや砂利の混合具合など)や自転パイプの直径などを考慮して適宜設定することが望ましい。
【0044】
なお、各先端部T0の配置は任意であり、特に、均等に配置する必要はない。しかし、連続した自転を維持し、かつ、一定の自転速度を保つ観点からは、均等に配置することが望ましい。
【0045】
(突起部1つ)
本発明の実施形態としては、先端部T0を一つだけ有する形態でもよい。但し、その際には、斜面S1に作用する横方向の分力FWに偏りが生じ、自転パイプの進行方向に対して斜めに進行しやすい弊害が生ずる。そこで、先端部T1を一つだけ設ける場合には、肉厚や傾斜先端面を均一とするのではなく、適宜設定することにより、軸芯方向に沿って進行するような工夫が望ましい。
【0046】
(不連続な突起部)
更なる変形例を図9に示す。この例は、4つの突起部P1〜P4を有する形態である。突起部P1の先端部T01と突起部P3の先端部T03は高さ(H1)である。突起部P2とP4の先端部T02と先端部T04は、高さH1よりも低い高さ(H2)である。これらの高さの異なる突起部が交互に配置されている。更に、突起部P1とP2の間は斜面S11と垂直面S22とが連続していない。その間には水平な平坦部W12が存在する。同様に突起部P3とP4の間にも水平な平坦部W32が存在する。
【0047】
本発明は、右か左のいずれか一方に傾斜する第一面が形成されている点に特徴がある。自転パイプを同一方向に自転させるための十分な回転力を得られることができる限りにおいて、突起部の間には適宜間隔を設ける実施形態であっても実施は可能である。
【0048】
(支柱の形成方法)
以下、自転パイプを利用した支柱の形成方法について説明する。以下の方法は、図1に示すように既存の建築物101が沈下により傾いた場合に、この建築物の傾きを正す際の利用例である。
【0049】
利用するパイプと装置は、次の通りである。地面に打ち込む最初のパイプには、本発明における上述の自転パイプを利用する。二つ目以降のパイプには、先端と後端が平坦な面を有する通常のパイプ(延長パイプ)を利用する。いずれのパイプもその外径、及び、内径は同じものを利用する。
なお、各パイプに加わる荷重に応じてパイプの強度を適宜変更する必要がある場合には、同一外径でありながら、異なる内径のパイプを適宜組み合わせることも可能である。
【0050】
図10は、自転パイプを地中に挿入する際の構成を示す側面図である。挿入用荷重を発生させるためにジャッキ30を利用する。ジャッキ30は鉛直方向に荷重を生じさせる(図中Z軸方向)。また、自転パイプ11の自転を円滑に促すためにジャッキ30との間には自転治具としてのベアリング部20を配置する。ベアリング部20は、例えば、スラスト軸受およびラジアル軸受を備えることにより、自転パイプ11に軸方向の荷重を作用させた状態で、この自転パイプ11を回転可能に支持することができる。これにより、自転パイプ11とジャッキ30は連結された状態でありながら、自転パイプ11の自転が妨げられることはない。なお、自転治具は、自転パイプ11の自転を妨げることなくジャッキ30との連結させることのできる機構であればよい。特に、ベアリングを用いることは必須ではない。
【0051】
(工程1) まず、図10に示すようにジャッキ30の下にベアリング部20と自転パイプ11を同軸上に取り付ける。この状態で自転パイプ11を下に支柱を形成する個所に設置する。
【0052】
(工程2) ジャッキ30を作動し、自転パイプ11に鉛直下方向の荷重を与える。この荷重により自転パイプは、軸芯を中心として自転しながら、地中を進む。
【0053】
(工程3) 自転パイプ11を地中に挿入し、所定の深さ、つまりその後端が地表面近くにまで到達したら、ジャッキ30を持ち上げ、ベアリング部20を自転パイプ11から取り外す。
【0054】
(工程4) 自転パイプ11の後端には一本目の延長パイプ12の先端を取り付ける。この延長パイプ12の後端にはベアリング部20を取り付け、ベアリング部20の後端をジャッキ30と連結させる。延長パイプ12に荷重を作用させると、自転パイプ11の自転と共に、ベアリング部20により延長パイプ12も自転する。
なお、自転パイプ11と延長パイプ12との連結は、単に面を合わせるだけでもよい。但し、ネジ機構やその接面に凹凸を設けて、それらを噛み合わせることで、自転パイプ11に同期して延長パイプ12が一体的に回転する構成であってもよい。
【0055】
(工程5) ジャッキ30の荷重により1本目の延長パイプの後端部が地表付近に近づくまでこの延長パイプを地中に挿入させる。
【0056】
(工程6) 1本目の延長パイプを所定の深さまで(つまり、延長パイプの後端部が地表付近となるように)挿入したら前記ジャッキ及び前記自転治具をはずす。
【0057】
(工程7) 一本目の延長パイプ12を後端部が地面近くまで到達するように挿入したら、ジャッキ30を持ち上げ、ベアリング部20を取り外す。次の延長パイプ12の先端を1本目の延長パイプの後端に取り付ける。2本目の延長パイプ12の後端にはベアリング部20を取り付け、ベアリング部20の後端をジャッキ30と連結させる。ジャッキ30を作動させ、2本目の延長パイプ12の後端を地表面近くにまで打ち込む。自転パイプ11の先端が支持層103に到達するまで、以上の工程を繰り返す。こうして、図2に示すように、自転パイプ11に、各延長パイプ12〜12が連結された支柱10を形成することができる。
【0058】
(工程8) 支持層103に自転パイプ11の先端が到達したら、ジャッキ30とベアリング部20を取り外す。最後の延長パイプ12の後端と建築物の基礎底部との間に充填材を挿入し、支持層から直接建築物を支える。以上で一つの支柱の形成が完成する。
【0059】
(充填工程) 前記工程を実施する際、前述のコンクリート物を自転パイプの内側に充填する工程を適宜設けても良い。望ましい順序としては、例えば、工程3のベアリング部20を自転パイプ11から取り外した後や、工程6の延長パイプが所定の深さにまで挿入させた後である。
【0060】
通常、一つの建築物の沈下を防ぐためには、一つの支柱では足りず、複数の支柱を設ける。上述の工程1〜8までの工程を必要な支柱数だけ繰り返し、補強工事を終了する。
【0061】
本発明の自転パイプでは、先端の形状により、鉛直方向の荷重を利用して、パイプ自身が軸芯を中心に自転するための力を生み出し、地中を進む間、自転を継続することができる。自転パイプ及びその後続するパイプ(延長パイプ)は自転しながら地中を進むため、パイプ側面に生ずる摩擦力を少なくすることができる。その結果として、パイプを挿入するための荷重を小さくすることができる。同様に、パイプに必要とされる強度も小さくすることができ、パイプの軽量化、低価格化、更には、パイプ挿入作業の安全性を高めることができる。
【0062】
従来技術においてパイプを自転させながら打ち込むためには、パイプを自転させるための装置(回転装置)が必要とされる。しかし、本発明では鉛直方向の荷重だけで自転パイプは自転することができる。つまり、上述の回転装置が不要となる。
【0063】
一般に、建築物の基礎補強の作業現場は作業空間が狭い。よって、回転装置が不要となる本発明は、基礎補強工事の容易化を図ることとなる。また、打ち込み荷重が小さくてもよいことは、従来よりも小さなジャッキを用いて補強工事を可能とする。
【0064】
作業効率、また、パイプへの不要な負担を避けるためにも、パイプの自転はできるだけ小さいことが望ましい。この点で、上記回転装置を用いる場合、どの程度の回転速度とするのか設定する必要があった。しかし、本発明では、鉛直方向の荷重を利用して、地中に進んだ距離に応じて自転を行う。つまり、特段の回転速度の設定を行うことなく、打ち込み速度に応じて自転速度が定まることとなる。本件発明は、自転速度の調整を不要とする効果がある。
【符号の説明】
【0065】
P: 突起部
S1: 斜面
S2: 垂直面
T0: 先端部
FH: 軸芯方向の分力
FW: 横方向の分力
10 支柱
11 自転パイプ(建築物基礎補強用パイプ)
12 延長パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯方向に沿って地中に挿入される建築物基礎補強用のパイプであって、
地中への進行方向先端側に突起部を備えており、
前記突起部は、軸芯方向に対して連続して傾斜する第一面と、前記軸芯方向と略同一方向の第二面とを有し、前記第一面と前記第二面との間に形成される先端角が鋭角となるように形成されており、
回転可能に支持された状態で軸芯方向に荷重を加えて地中へ挿入したときに、前記第一面に作用する反力を利用して自転可能に構成されている建築物基礎補強用パイプ。
【請求項2】
前記突起部は、軸芯周りに2〜4個が均等に配置されている請求項1に記載の建築物基礎補強用パイプ。
【請求項3】
前記各突起部の前記先端角は、いずれも略同一の値である請求項2に記載の建築物基礎補強用パイプ。
【請求項4】
前記先端角は、20°〜70°の範囲内である請求項1に記載の建築物基礎補強用パイプ。
【請求項5】
前記パイプの肉厚は、前記パイプの直径に対して3.2〜4.2%程度の厚みである請求項1に記載の建築物基礎補強用パイプ。
【請求項6】
地中への挿入後にセメント物が充填された請求項1に記載の建築物基礎補強用パイプ。
【請求項7】
建築物の基礎を補強するための、以下の工程(1)〜(8)を備える支柱の形成方法。
(1) 先端部に突起部を有するパイプと、パイプを固定した状態で自転を可能とする自転治具と、前記パイプを地中に挿入させる荷重を生じさせるジャッキを用いて、前記パイプ、前記自転治具、前記ジャッキを下から上の順番に鉛直方向に配置させる工程、
ここで、前記パイプの先端部には、自転パイプの軸芯方向に対して連続して傾斜する第一面と、前記軸芯方向と略同一方向の第二面と、前記第一面及び第二面により先端角(α)が形成され、前記パイプが地中に挿入される過程において、前記パイプを前記第一面に加わる荷重を利用して前記軸芯を中心に一定方向に前記パイプが回転するように形成されている。
(2) ジャッキの荷重により前記パイプの後端部が地表付近に近づくまで前記パイプを地中に挿入させる工程。
(3) 前記パイプを所定の深さまで挿入したら前記ジャッキ及び自転治具をはずす工程。
(4) 地中に挿入された後端部に、前記パイプと略同一径からなる別のパイプ(延長パイプ)を組み付け、前記延長パイプの後端部に前記自転治具と前記ジャッキを取り付ける工程。
(5) ジャッキの荷重により前記延長パイプの後端部が地表付近に近づくまで前記延長パイプを地中に挿入させる工程。
(6) 前記延長パイプを所定の深さまで挿入したら前記ジャッキ及び前記自転治具をはずす工程。
(7) 前記パイプの先端部が強固な地層に到達するまで、前記(4)〜(6)の工程を繰り返す工程。
(8) 前記自転治具及びジャッキを取除き、最終の延長パイプの後端部と建築物の底辺の間に調整部材をはめ込み、前記建築物と前記パイプとを連結する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−67436(P2012−67436A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210342(P2010−210342)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(597006997)アキュテック株式会社 (4)
【出願人】(592180694)株式会社大北耕商事 (8)
【Fターム(参考)】