説明

建築用目地材

【課題】施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が低減された建築用目地材の提供。
【解決手段】(A)セメント、(B)細骨材、(C)保水剤、(D)高性能減水剤又は高性能AE減水剤、(E)撥水剤、(F)耐アルカリ性繊維、及び(G)ポリマーを含有し、成分(F)と成分(G)との質量比〔成分(F)/成分(G)〕が、0.25〜1.6である建築用目地材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に用いられる目地材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建造物の壁面や柱の外周面への大型タイルの取付けは、金物を躯体コンクリートに取り付け、大型タイルを金物に固定することによって行われており、このようなタイルの目地部には、一般に、樹脂系目地材が使用されている。
【0003】
上記樹脂系目地材としては、防水パンやタイル施工に用いられる、シリコーン系目地材、変性シリコーン系目地材、ウレタン系目地材、及びエポキシ樹脂系目地材が知られているが、シリコーン系目地材、変性シリコーン系目地材及びウレタン系目地材には、ゴム弾性があり、柔軟性が大き過ぎるため、耐久性が十分でなく、歪み易いという問題があった。また、上記エポキシ樹脂系目地材は、剛性が高いため割れが生じやすく、施工時にダレ等を壁面に付着させずに平滑に仕上げることや、施工後に目地材がタイル面にはみ出したとき拭き取ることが難しい。
これに対し、脂環式エポキシ樹脂等をバインダー成分として配合したタイル用目地材や(特許文献1)、エポキシ樹脂系目地材を用いるとともに、タイルをユニット状にすること(特許文献2)が提案されているが、タイル面に一度エポキシ樹脂系目地材がはみ出すと拭き取りが難しいことに変わりはなく、施工後の清掃に未だ多くの手間がかかっており、施工性も十分には改善されていない。
【0004】
一方、上記樹脂系目地材の他に、セメントや細骨材等を混合したセメント系目地材が知られている。セメント系目地材を、水と添加して混練してスラリー状とし、石材等の目地間隙に充填することによって、目地を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−43501号公報
【特許文献2】特開平5−302424号公報
【特許文献3】特開2001−301395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、繊維補強ポリマーセメントモルタル等の従来のセメント系目地材は、用水路、ダム等の斜面や、擬岩パネルの補強(特許文献3)等に用いられているものの、マンション、ホテル等の建築物の外壁・内壁の目地に使用するためには、耐久性の向上が望まれるものであった。
また、セメント系目地材には、吸水量の低減が要求されるため、所定量のポリマーが配合されているが、一般に、ポリマーを入れすぎると、目地が汚れやすく、建築物の外壁・内壁に使用した場合、タイル面にはみ出した目地材を施工後に拭き取るのが難しいという問題があった。
したがって、本発明の課題は、施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が低減された建築用目地材の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、セメント、細骨材、保水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤、及び撥水剤に、耐アルカリ性繊維とポリマーとを特定の質量比率で含有せしめることにより、施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が低減された建築用目地材が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)セメント、(B)細骨材、(C)保水剤、(D)高性能減水剤又は高性能AE減水剤、(E)撥水剤、(F)耐アルカリ性繊維、及び(G)ポリマーを含有し、成分(F)と成分(G)との質量比〔成分(F)/成分(G)〕が、0.25〜1.6である建築用目地材を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が低減された建築用目地材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の建築用目地材は、上記成分(A)〜(G)を含有する。まず、これら成分について詳細に説明する。
【0011】
<(A)セメント>
成分(A)のセメントとしては、特に限定されないが、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;白色セメント;アルミナセメント高炉セメント;フライアッシュセメント;シリカセメント;超速硬セメント等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、ポルトランドセメント、白色セメントが好ましく、目地部の外観の点から、白色セメントが特に好ましい。
【0012】
<(B)細骨材>
成分(B)の細骨材としては、珪砂、石灰石(石灰砂、寒水石)、川砂、山砂、海砂、砕砂等が挙げられるが、高炉急冷スラグ骨材、高炉徐冷スラグ骨材、下水汚泥スラグ、或いは都市ゴミスラグを微粉砕したものを用いてもよい。また、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、珪砂、石灰石(石灰砂、寒水石)、川砂、山砂、海砂、砕砂が好ましく、珪砂、石灰石がより好ましく、珪砂と石灰石との組み合わせが特に好ましい。
【0013】
また、上記細骨材の最大粒径としては、600μm以下が好ましく、300〜600μmがより好ましい。なお、該最大粒径は、JISZ8801の標準網フルイを用いたフルイ分け試験により測定できる。
また、成分(B)としては、最大粒径88μm以下の細骨材を15〜70質量%含むものが好ましい。
【0014】
上記細骨材の含有量としては、施工性、拭き取り性及びひび割れの抑制の点から、成分(A)100質量部に対し、100〜500質量部が好ましく、125〜450質量部がより好ましく、150〜400質量部がさらに好ましく、200〜375質量部がさらに好ましく、210〜350質量部がさらに好ましく、255〜300質量部が特に好ましい。
また、上記細骨材として、珪砂と石灰石との組み合わせを使用する場合、石灰石と珪砂との質量比〔石灰石/珪砂〕としては、0.1〜5が好ましく、1.8〜2.5が特に好ましい。
【0015】
<(C)保水剤>
成分(C)の保水剤は、セルロースの水溶性誘導体であればよく、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース;セルロース硫酸エステル等のセルロースエステルが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの中でも、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが好ましく、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが特に好ましい。
【0016】
上記保水剤の含有量としては、施工性、拭き取り性及び保水率の点から、成分(A)100質量部に対し、0.05〜0.6質量部が好ましく、0.1〜0.4質量部がより好ましく、0.19〜0.4質量部がさらに好ましく、0.26〜0.36質量部が特に好ましい。
【0017】
<(D)高性能減水剤又は高性能AE減水剤>
成分(D)の高性能減水剤又は高性能AE減水剤としては、施工性の点から、増粘剤と併用しても減水効果が低減しにくいものが好ましく、ポリカルボン酸系のものがより好ましく、ポリカルボン酸系化合物を主成分とするもの、ポリカルボン酸系水溶性高分子を主成分とするものが特に好ましい。なお、既調合品を用いる場合には、取り扱い容易性の点から、粉末状のものが好ましい。
【0018】
上記高性能減水剤又は高性能AE減水剤の含有量としては、施工性の点から、成分(A)100質量部に対し、0.01〜0.1質量部が好ましく、0.03〜0.08質量部がより好ましく、0.035〜0.05質量部が特に好ましい。
【0019】
<(E)撥水剤>
成分(E)の撥水剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸金属塩が好ましい。なお、撥水剤の状態としては、特に限定されないが、混和性の点から、微粉末状が好ましい。
上記撥水剤の含有量としては、成分(A)100質量部に対し、0.5〜2質量部が好ましく、0.7〜1.8質量部がより好ましく、0.9〜1.7質量部がさらに好ましく、1〜1.2質量部が特に好ましい。
【0020】
<(F)耐アルカリ性繊維>
成分(F)の耐アルカリ性繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等の有機繊維;ガラス繊維が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも、ナイロン繊維、ガラス繊維が好ましい。なお、耐アルカリ性繊維には、短繊維のもの、収束型のものがあるが、施工性の点から、収束型のものが好ましい。
また、上記耐アルカリ性繊維の繊維長としては、施工性の点から、1〜30mmが好ましく、3〜15mmがより好ましい。3mm以上とすることにより、目地の耐久性が向上する。
上記耐アルカリ性繊維の含有量としては、施工性の点から、成分(A)100質量部に対し、0.5〜5質量部が好ましく、0.5〜3.5質量部がより好ましく、0.5〜2.9質量部がさらに好ましく、1.5〜2.8質量部がさらに好ましく、1.7〜2.7質量部が特に好ましい。
【0021】
<(G)ポリマー>
成分(G)のポリマーとしては、ポリマーディスパージョン、再乳化形粉末樹脂が好ましく、このようなポリマーとしては、JIS A 6203に規定されたものが挙げられる。この中でも、施工性及び拭き取り性の点から、再乳化形粉末樹脂が特に好ましい。
【0022】
上記ポリマーディスパージョンとしては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレンブタジエン、又はエチレン酢酸ビニルを主成分とする樹脂が挙げられる。
一方、再乳化形粉末樹脂としては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル、又は酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルを主成分とする樹脂が挙げられる。
なお、再乳化形粉末樹脂の製法は特に限定されない。
【0023】
上記ポリマーの含有量としては、施工性及び拭き取り性等の点から、成分(A)100質量部に対し、0.5〜15質量部が好ましく、1.5〜10.5質量部がより好ましく、1.5〜8質量部がさらに好ましく、3〜8質量部が特に好ましい。
【0024】
また、上記成分(F)と成分(G)との質量比〔成分(F)/成分(G)〕は、0.25〜1.6であるが、施工性及び拭き取り性等の点から0.3〜1が好ましく、0.34〜0.53が特に好ましい。
【0025】
また、本発明の建築用目地材は、上記成分(A)〜(G)の他に、建築用目地材に通常使用されるもの、例えば、消泡剤を含んでいてもよい。
水の含有量は、例えば、成分(A)100質量部に対して、通常、30〜120質量部程度であるが、30〜100質量が好ましく、40〜95質量部がより好ましく、50〜90質量部が特に好ましい。
消泡剤の含有量は、拭き取り性の点から、成分(A)100質量部に対して、0〜0.12質量部程度に抑えるのが好ましく、0〜0.10質量部程度に抑えるのがより好ましい。
なお、本発明の建築用目地材は、常法に従い製造できる。
【0026】
そして、後記実施例に記載のとおり、本発明の建築用目地材は、施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が少ない。従って、建築物の中でも、建築物の内壁の施工に特に有用である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1〜11及び比較例1〜6
<目地材の作製>
以下に示すA1〜G3から選定される材料及び水を用いて、表1及び表2に示す配合割合の建築用目地材を得た。
【0029】
<使用した材料>
〔A1〕白色セメント:太平洋セメント(株)、商品名:白色セメント
〔A2〕普通ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)、商品名:普通セメント
〔B1〕石灰石微粉(最大粒径150μm):日立寒水石(株)、商品名:日立寒水石1号
〔B2〕混合珪砂(6号(最大粒径600μm):50%、7号(最大粒径300μm):50%):前田建材工業(株)、商品名:山形珪砂6号、7号
〔C1〕保水剤:信越化学工業(株)、商品名:メトローズ90SH−100H
【0030】
〔D1〕ポリカルボン酸系高性能AE減水剤:太平洋マテリアル(株)、商品名:コアフローNF200
〔E1〕撥水剤(ステアリン酸カルシウム):日油(株)、商品名:カルシウムステアレート
〔F1〕ナイロン繊維(繊維長:5mm):東レ(株)、商品名:タフバインダー5mm
〔F2〕耐アルカリ性ガラス繊維(繊維長:10mm):サンゴバン、商品名:AntiCrack HD 10mm
〔F3〕耐アルカリ性ガラス繊維(繊維長:24mm):サンゴバン、商品名:AntiCrack HP 24mm
【0031】
〔G1〕エチレン酢酸ビニル粉末樹脂:旭化成ケミカルズ(株)、商品名:ビナパスRE5028N
〔G2〕アクリル酸エステル/メタアクリル酸エステル共重合樹脂:ニチゴー・モビニール(株)、商品名:LDM7100P
〔G3〕エチレン酢酸ビニルエマルション:太平洋マテリアル(株)、商品名:モルトップエマルジョン
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実施例1〜11及び比較例1〜6の建築用目地材について、以下に示す試験を行った。
<試験方法>
・フロー値
20℃の試験室で、JIS R 5201に従って、フロー値(mm)を2回測定し、この平均値(mm)を求めた。この値が195〜220mmであれば「良好」と判断した。
・単位容積質量
500mLステンレス製容器を用い、20℃の試験室でJIS A 1171に従って単位容積質量(kg/L)を測定した。この値が1.80〜2.15kg/Lであれば「良好」と判断した。
・保水率
20℃の試験室で、公共建築協会規格「既製調合目地材」保水性に従い、5Aのろ紙を用い、ろ紙法で保水率(%)を測定した。この値が30%以上であれば「良好」と判断した。
・曲げ強度
20℃の試験室で、4×4×16cmの型枠を用いてJIS R 5201に従って成形し、24時間20℃80%RHの養生槽で湿空養生した後脱型した。その後、6日間20℃60%RHの試験室で気中養生し、材齢7日で供試体数3本の曲げ強度を測定し、この平均値(N/mm2)を求めた。この値が2.0〜6.0N/mm2であれば「良好」と判断した。
・圧縮強度
上記曲げ強度試験終了後の3本の供試体の圧縮強度を測定し、この平均値(N/mm2)を求めた。この値が5.0〜40N/mm2であれば「良好」と判断した。
【0035】
・施工性
20℃の試験室で、300×300×60mmのコンクリート平板にモルトップエマルジョンの5倍液を150g/m2塗布し、24時間後に45角モザイクタイルを1シート太平洋マテリアル(株)製タイルモルタルKで張付けた。48時間後、ゴムゴテで塗りつけ、以下の基準に従って施工性を評価した。
1)コテ作業性・ダレの少なさ
◎:コテへ目地材が全く付着せず、コテ伸びが極めて良く、目地部へ充填後目地部の膨らみが全くない。
○:コテへ目地材がほとんど付着せず、コテ伸びが良く、目地部へ充填後目地部の膨らみが全くない。
×:コテへ目地材が付着し、目地部への充填性が悪く、充填後目地部が膨らむ。
2)充填性
○:仕上がり面が平滑で、未充填部分もない。
△:仕上がり面が平滑でないが、未充填部分はない。
×:仕上がり面が平滑でなく、未充填部分もある。
【0036】
・拭き取り性
上記の施工性試験によって施工された壁面を清掃し、拭き取り性を評価した。
○:タイル面、目地部いずれにも拭き残りがない。
×:タイル面、目地部のいずれかに拭き取れない箇所がある。
【0037】
・吸水量
上記曲げ強度測定で用いた供試体と同様にして作製した4×4×16cmの材齢28日供試体を用い、JIS A 1401に従い、24時間後の吸水量を測定した。供試体は3本とし、この平均値(g)を求めた。
○:吸水量が20g以下である。
×:吸水量が20gを超えた。
【0038】
前記試験の結果を、以下の表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示すように、実施例1〜11の建築用目地材は、施工性、施工後の拭き取り性及び耐久性に優れ、吸水量が少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント、(B)細骨材、(C)保水剤、(D)高性能減水剤又は高性能AE減水剤、(E)撥水剤、(F)耐アルカリ性繊維、及び(G)ポリマーを含有し、成分(F)と成分(G)との質量比〔成分(F)/成分(G)〕が、0.25〜1.6である建築用目地材。
【請求項2】
成分(B)〜(F)の含有量が、成分(A)100質量部に対し、成分(B)は、100〜500質量部、成分(C)は、0.05〜0.6質量部、成分(D)は、0.01〜0.1質量部、成分(E)は、0.5〜2質量部、成分(F)は、0.5〜5質量部、成分(G)は、0.5〜15質量部である請求項1記載の目地材。
【請求項3】
成分(F)の繊維長が、1〜30mmである請求項1又は2記載の目地材。
【請求項4】
成分(B)が、最大粒径88μm以下の細骨材を15〜70質量%含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の目地材。

【公開番号】特開2012−140777(P2012−140777A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292992(P2010−292992)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)