説明

建設機械のバケットツース

【課題】ブシュおよびバケットツースの破壊強度をバランスよく確保することが可能なバケットツースを提供する。
【解決手段】ツース2は、側壁部2bに形成されて空洞部V1まで貫通しており固定用の取付けピンユニット11およびブシュ14a,14bが挿入される貫通孔2aの孔内寸法をA、側面視における貫通孔2aの中心を含む上下方向における空洞部V1の上下方向における内寸法をB、上面視における貫通孔2aを含む空洞部V1の幅方向における内寸法をC、上面視において貫通孔2aを含む位置における一対の側壁部2bの最大幅寸法をDとすると、A,B,C,Dは以下の関係式を満たす。
0.61≦A/B≦0.73
1.62≦D/C≦1.92

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のバケットの下面先端部分に交換可能な状態で装着されるバケットツースに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の作業車両に搭載された作業機には、様々な掘削具が取り付けられている。例えば、油圧ショベルに搭載されるバケット(作業機)には、掘削側の先端部分に、複数のバケットツース(掘削具)が先端部分から突出するように取り付けられている。そして、掘削時には、これらのバケットツースが切刃として機能することで、掘削対象へ貫入されて掘削力を高めている。
【0003】
バケットの掘削側の先端部分に取り付けられるバケットツースは、掘削作業時に掘削対象へ貫入されるため、他の部位と比べて摩耗の度合いが著しい。このため、バケットツースは、バケットに対して交換可能な状態で取り付けられており、例えば、掘削作業時間1000時間程度で必要に応じて交換される。つまり、バケットツースは交換頻度が高いため、交換作業時の作業性が高いことが要求される。
【0004】
特許文献1には、バケットのアダプタに対してバケットツースを取り付けるために、バケットツースの側面に設けられた貫通孔内でアダプタ側面の挿入孔に一部が圧入されるピンによりバケットツースの動きが止められて、バケットツースをアダプタに対して固定する構成が開示されている。この構成により固定されるバケットツースでは、作業時の負荷などに起因するピン変形のために、ツース交換の作業性が悪化することがある。
【0005】
この問題点を解決するために、バケットツースの側面に設けられた貫通孔に、ピンが装填されたブシュを挿入することで、バケットツースをアダプタに対して固定する構成が提案されている。この構成に適合するバケットツースでは、作業時の負荷は直接にはピンに加わらないため、ピンの変形を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−090701号公報(昭和51年8月9日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のバケットツースでは、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記バケットツースの構成では、ブシュがバケットツースのアダプタから抜ける方向への移動の際に、バケットツースとの当接によって負荷を受けて摩耗するため、ブシュの必要な破壊強さを確保するためには十分な断面積が必要である。
【0008】
一方、バケットツースは、アダプタ着脱時にその周囲に所定の空間が必要になる等の理由により、外寸に制限がある。このため、ブシュが大きくなると、バケットツースにおける貫通孔周辺の部分が肉薄となり、バケットツース自体の破壊強さが低下してしまうおそれがある。
本発明の課題は、ブシュおよびバケットツースの破壊強度をバランスよく確保することが可能なバケットツースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係るバケットツースは、バケットの先端部に装着される建設機械のバケットツースであって、上面と、上面と先端部において繋がる下面と、上面と下面との間を繋ぐように先端部を含む側に形成された一対の側面と、上面、下面、一対の側面の後側に形成されバケットの先端部が挿入される後端開口部と、一対の側面の一方の後側に設けられた凸状の側壁部と、後端開口部からバケットツース内に設けられる空洞部と、側壁部に形成されて空洞部まで貫通しており固定用のピンおよびブシュが挿入される貫通孔と、を備えている。そして、貫通孔の孔内寸法をA、側面視における貫通孔の中心を含む上下方向における空洞部の上下方向における内高さ寸法をB、上面視における貫通孔を含む空洞部の幅方向における内寸法をC、上面視において貫通孔を含む位置における一対の側壁部の最大幅寸法をDとすると、A,B,C,Dは以下の関係式を満たす。
0.61≦A/B≦0.73
1.62≦D/C≦1.92
【0010】
ここでは、バケットツースおよびバケットツースの貫通孔に挿入されるブシュの破壊強度をバランスよく確保するために、バケットツースに形成された貫通孔周辺の寸法の関係を規定している。
これにより、バケットツースの貫通孔周辺の寸法の関係を適正な範囲とすることで、バケットツースやブシュの破壊強度が極端に低下することを回避して、バケットツースおよびブシュの破壊強度をバランスよく確保することができる。
【0011】
第2の発明に係るバケットツースは、第1の発明に係るバケットツースであって、A/BおよびD/Cは、以下の関係式を満たす。
0.61≦A/B≦0.67
1.66≦D/C≦1.82
【0012】
ここでは、上述したA/BおよびD/Cの数値範囲について、より好ましい範囲について特定している。
これにより、バケットツースの貫通孔周辺の寸法の関係を適正な範囲とすることで、バケットツースやブシュの破壊強度が極端に低下することを回避して、バケットツースおよびブシュの破壊強度をバランスよく確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るバケットツースによれば、バケットツースの貫通孔周辺の寸法の関係を適正な範囲とすることで、バケットツースやブシュの破壊強度が極端に低下することを回避して、バケットツースおよびブシュの破壊強度をバランスよく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るバケットのツースの取付け構造を示す斜視図。
【図2】図1のツースの取付け構造付近を拡大した分解斜視図。
【図3】(a)は、図2の取付け構造に含まれる取付けピンの構成を示す側面図。(b)は、ボルトの構成を示す側面図。(c)は、ワッシャーの構成を示す側面図。(d)は、ブシュの構成を示す側面図。
【図4】(a),(b)は、図2のツースの取付け構造の構成を示す側面模式図とツース前後方向における断面図。
【図5】(a),(b)は、ツース穴比率(A/B)およびツース幅比率(D/C)とブシュおよびツース後部の断面積との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るバケットツースについて、図1〜図5(b)を用いて説明すれば以下の通りである。
[バケット1へのツース2の取付け構造]
本実施形態に係るバケット(作業機)1のツース(バケットツース)2は、図1に示すように、バケット1に対してツース2を取り付けるための構造であって、ツース2と、アダプタ3と、取付けピン組立て体4とを備えている。
【0016】
(ツース2)
ツース2は、油圧ショベル等の作業機械のアームの先端に装着されたバケット1によって掘削を行うためにバケット1の掘削部分の先端に取り付けられた爪状の部材であって、図1に示すように、先端に向かって薄くなるクサビ状の外形を有している。そして、ツース2は、図2に示すように、上面21と、下面22と、左右一対の側面23,23と、後端開口部24と、空洞部V1と、貫通孔(貫通孔)2aと、側壁部2bと、当接面2c(図4(b)等参照)と、を有している。
【0017】
上面21は、図2中において鉛直上方を向く平面である。
下面22は、図2中において上面21とは反対に鉛直下方を向く平面であって、ツース2の先端部分において、上面21と繋がっている。
側面23,23は、ツース2の左右の側面部分を構成する左右一対の略三角形の平面であって、上面21および下面22とともにツース2の外郭を構成する。
【0018】
後端開口部24は、ツース2における先端部分とは反対側に形成された開口である。
空洞部V1は、ツース2の後端に形成された後端開口部24から先端側に向かってツース2の内部に形成された空間である。空洞部V1は、バケット1に対してツース2が装着される際には、後述するアダプタ3の挿入部3bが挿入される。
貫通孔2aは、ツース2の側壁部2bから空洞部V1まで貫通して、ツース2の長手方向(ツース2の後端と先端とを結ぶ方向)に直交する方向に沿って形成された円柱状の孔である。そして、この貫通孔2aには、後述する取付けピン組立て体4が挿入される。貫通孔2aは、後述する取付けピン組立て体4のブシュ14a,14bの外径よりも若干大きな内径を有している。
【0019】
側壁部2bは、左右一対の側面23,23における後端寄りの位置に設けられた凸状部であって、貫通孔2aが形成されている。
当接面2cは、図4(a)に示すように、ツース2内に空洞部V1を形成する内壁面であって、後述するアダプタ3側の当接面3bbに対して当接する。
なお、ツース2やブシュ14a,14bの破壊強度のバランスを確保するために必要な、ツース2に形成された貫通孔2aの直径や幅等の大きさとブシュ14a,14bおよびツース2の後部の断面積との関係については、後段にて詳述する。
【0020】
(アダプタ3)
アダプタ3は、図1に示すように、バケット1における一端に複数設けられており、それぞれに上述したツース2が取り付けられる。そして、アダプタ3は、図2に示すように、貫通孔3aと、挿入部3bと、を有している。
貫通孔3aは、アダプタ3を幅方向に貫通しており、挿入部3bの側壁部3baに形成されている。そして、この貫通孔3aには、上記貫通孔2aと同様に、取付けピン組立て体4が挿入される。貫通孔3aは、取付けピン組立て体4の取付けピン(ピン)11の外径よりも大きな内径を有している。このため、上述した貫通孔2aと比較して、内径が小さい。
【0021】
挿入部3bは、ツース2内に形成された空洞部V1の凹部形状に合わせて形成されており、ツース2の空洞部V1に対して挿入される。また、挿入部3bは、ツース2の空洞部V1に挿入されると、空洞部V1を形成するツース2の内壁面側に設けられた当接面2cに対して当接面3bbにおいて当接する。
当接面3bbは、図4(a)に示すように、ツース2がアダプタ3に取り付けられた状態において、ツース2側の当接面2cに対して当接する挿入部3bの外壁面である。
【0022】
(取付けピン組立て体4)
取付けピン組立て体4は、ツース2がアダプタ3から脱落しないように取り付けるための部材であって、図2に示すように、ツース2がアダプタ3に対して取り付けられた状態において、ツース2とアダプタ3とを貫通する貫通孔2aと貫通孔3aとに挿入される。そして、取付けピン組立て体4は、図2に示すように、互いに共通の中心軸Lを持つ、取付けピン11と、ボルト12a,12bと、ワッシャー13a,13bと、ブシュ14a,14bと、を有している。
【0023】
取付けピン11は、図3(a)に示すように、段差のない円柱形状を有する金属性のストレートピンであって、両端に雌ネジ11a,11bが形成されている。また、取付けピン11の軸方向長さは、アダプタ3の貫通孔3aの長さと2つのブシュ14a,14bの長さとの和よりも大きい。
ボルト12a,12bは、図3(b)に示すように、一般的な形状を有する金属製の締結部材であって、取付けピン11の両端に形成された雌ネジ11a,11bに対して雄ネジ部分が螺合する。
【0024】
ワッシャー13a,13bは、図3(c)に示すように、中央部にボルト12a,12bが挿入される貫通孔が形成され取付けピン11の外径よりも大きい外径を有する略円盤形状を有する金属製の部材である。そして、ワッシャー13a,13bは、ボルト12a,12bによって取付けピン11の両端面に固定され、ブシュ14a,14bが取付けピン11から外れないように設けられている。
【0025】
ブシュ14a,14bは、図3(d)に示すように、中央部に取付けピン11が挿入される貫通孔が形成された略円筒形状の金属製の部材であって、ボルト12a,12bおよびワッシャー13a,13bによって取付けピン11の両端に設けられている。ブシュ14a,14bの内径は、取付けピン11が挿入されるように取付けピン11の外径よりも若干大きく、ワッシャー13a,13bの外径よりも小さい寸法となっている。そのため、ブシュ14a,14bは、取付けピン11の外周面において回動可能となっており、かつワッシャー13a,13bとアダプタ3との間において移動可能となっている。
【0026】
本実施形態では、以上のような構成により、ツース2とアダプタ3とを貫通する貫通孔2a,3a内に挿入されることで、アダプタ3に対してツース2が脱落しないように固定している。
ここで、油圧ショベル等によるバケット1を用いた掘削作業中等において、ツース2に対して負荷が付与された場合には、その負荷はツース2をアダプタ3側へと押し込む方向に作用する。このとき、ツース2へ付与された負荷は、ツース2内部に形成された空洞部V1を形成する当接面2cからアダプタ3の挿入部の外壁面(当接面3bb)において受け止められる。よって、掘削作業中等にツース2に対して付与される負荷は、ツース2とアダプタ3とを接続する取付けピン組立て体4には作用しない。これは、ブシュ14a,14bの外周面とツース2の第1貫通孔2a,2aの内壁面との間に隙間が設けられているためである。
【0027】
つまり、本実施形態では、取付けピン組立て体4は、ツース2がアダプタ3から離間する方向に力が付与された際に、ツース2がアダプタ3から脱落防止用の抜け止めとしてのみ機能する。
【0028】
<ツース2の取付け構造>
ここで、上述した各部材を用いたツース2の取付け構造について、さらに詳しく説明すれば以下の通りである。
すなわち、図4(b)に示すように、ツース2の内部に形成された空洞部V1に対してアダプタ3の挿入部3bが挿入された状態で、取付けピン組立て体4が、ツース2とアダプタ3とを幅方向に貫通する貫通孔2aと貫通孔3aとに挿入される。
取付けピン組立て体4の取り付け手順は、以下の通りである。
まず、取付けピン11をブシュ14bの中央孔に挿入した後、取付けピン11の一端にワッシャー13bを介してボルト12bを固定する。このとき、ボルト12bは、取付けピン11の一端に形成された雌ねじ11bに螺合する。
【0029】
次に、取付けピン11を、その他端側からツース2側の貫通孔2a、アダプタ3側の貫通孔3a内に挿入する。
次に、ツース2の挿入側とは反対側から出てきた取付けピン11の他端側を、ブシュ14aの中央孔に挿入する。ブシュ14a,14bは、それぞれ取付けピン11に対して回転可能な状態で設けられている。そして、取付けピン11の他端側に、ワッシャー13aを介してボルト12aを固定する。このとき、ボルト12aは、取付けピン11の他端に形成された雌ねじ11aに螺合する。
【0030】
これにより、ブシュ14a,14bは、図4(b)に示すように、ツース2側の貫通孔2a内に配置され、アダプタ3の両側の側壁部3baの外側にそれぞれ配置される。これにより、ツース2の脱落防止用の取付けピン組立て体4が貫通孔2a,3aから抜け落ちてしまうことを回避することができる。
一方、何らかの理由により、ツース2をアダプタ3から離間させる方向に力が付与された場合には、ツース2のアダプタ3に対する相対的な移動によって、ツース2の貫通孔2aの内周面が、取付けピン組立て体4のブシュ14a,14bの外周面に対して接触する。このとき、ツース2からブシュ14a,14bに対して付与される力の一部は、ブシュ14a,14bの回動によって効果的に逃がされる。よって、ツース2からブシュ14a,14bの外周面に対して力が伝達された場合でも、取付けピン11に対して大きな負荷が掛かることはない。
【0031】
本実施形態では、以上のように、ツース2とアダプタ3とを貫通する貫通孔2a,3aに挿入される取付けピン組立て体4を用いたツース2の取付け構造において、ツース2をアダプタ3に対して離間させる方向に働く力に対して、ツース2が脱落しないように固定するための取付けピン組立て体4を構成する部材として、段差のない金属製のストレートピン(取付けピン11)を用いている。そして、この取付けピン11が貫通孔2a,3aから抜け落ちないようにするためのブシュ14a,14bやボルト12a,12b、ワッシャー13a,13bとして、全て金属製の部材を用いている。さらに、ブシュ14a,14bは、取付けピン11に沿ってワッシャー13a,13bとアダプタ3との間において軸方向に移動可能であって、取付けピン11の軸を中心として回転可能となっている。
【0032】
これにより、取付けピン組立て体4に対して、掘削作業中等にツース2に付与される大きな負荷が付与されることはなく、かつ従来の取付けピン組立て体と比較して、取付けピン11が局所的に応力が集中する段差部分を含まないストレートピンの形状であるため、取付けピン11が折れてしまうことを防止することができる。
また、取付けピン組立て体4の中に、弾性部材等の経年劣化が大きい部材を含まないため、取付けピン組立て体4としての寿命を従来よりも延長して、長期間に亘る使用が可能になる。
【0033】
[ツース2の貫通孔2aの直径比率および幅比率]
本実施形態のツース2では、ツース2の貫通孔周辺の寸法関係を適正な範囲とすることで、ツース2の交換作業の作業性を維持しつつ、ツース2やブシュ14a,14bの破壊強度の均衡が極端に低下することを回避するために、以下のような関係を保つようにツース2が成形されている。
【0034】
具体的には、図4(a)および図4(b)に示すように、貫通孔2aの孔内寸法である孔内径をA、側面視(図4(a))における貫通孔2aの中心を含む上下方向(図4(a)における左右方向)における空洞部V1の内寸法をB、上面視(図4(b))における貫通孔2aを含む空洞部V1の幅方向(図4(b)における左右方向)における内寸法をC、上面視において貫通孔2aを含む位置における左右一対の側壁部2bの最大幅寸法をDとすると、A,B,C,Dは以下の関係式を満たす。
0.61≦A/B≦0.73
1.62≦D/C≦1.92
【0035】
ここで、ツース2の貫通孔2aの中心軸Lは、アダプタ3の貫通孔3aの中心軸と共通である。上述した幅方向・上下方向とは、ツース2の貫通孔2aの中心軸Lを基準とし、中心軸Lの方向を幅方向、中心軸とツース2の前後方向を含む平面に直交する方向を上下方向としている。なお、中心軸Lは、アダプタ3の貫通孔3aの中心軸に対してツース2の先端方向に離れた位置に平行に配置された場合でも、上記ツース2の取付構造の説明で述べた取付けピン組立て体4と貫通孔2a等との位置関係が満たされていれば差し支えない。
【0036】
これらの条件を満たすように成形されたツース2は、貫通孔2a付近において破格強度を十分に確保しつつ、貫通孔2aに挿入されるブシュ14a,14bの破壊強度も十分に確保することができる。また、同時に、アダプタ3装着時にツース2間の間隔を十分に確保できるため、側壁部2bの存在にかかわらず、ツース2の交換作業の作業性悪化を避けることができる。
【0037】
穴比率A/B、幅比率D/Cの最小値については、次のように決められる。ブシュを用いず、ピンのみでバケットツースをアダプタに取付ける従来の構造の場合、穴比率A/Bは0.40〜0.50である。本実施形態では、取付けピン11の外周にブシュ14a,14bが遊嵌されるので、ブシュ14a,14bに必要な最低限の厚さ分だけ、穴比率A/Bは大きくなり、具体的には、0.61以上とされる。
【0038】
また、従来のブシュの無い構造において、幅比率D/Cは1.20〜1.40である。
本実施形態では、ブシュ14a,14bがあり、ブシュ14a,14bを取付けピン11に取付けるボルト12a,12bがあり、ボルト12a,12bの頭が完全に挿通孔2a内にある必要がある。よって、幅比率D/Cは、上記範囲より大きい1.62以上の数値とされる。なお、ここでB,Cを基準としているのは、アダプタ3に関する寸法(すなわち、ツース2の空洞部V1の寸法)が従来技術と同一にされているためである。
【0039】
穴比率A/Bの最大値については、次のように決められる。
ブシュ14aの中心軸方向断面積(図4(b)のブシュ断面(塗りつぶし部分)の面積)は寸法Aに、ブシュ14a,14bの中心軸Cを含むツース前後方向断面におけるツース2の貫通孔2aの後方部位の断面積(図4(b)のツース塗りつぶし部分の面積)は寸法Bに、それぞれ関連している。そして、ブシュ14a,14b、ツース2の後方部位の破壊強度は、それぞれ、ブシュ断面積、ツース後方部位の断面積と略比例している。
【0040】
ところで、ツース2がアダプタ3から抜け出る動きをピン組立て体4によって止めるために、ブシュ14a,14bがツース2の後方部位と当接する。この際、ブシュ14a,14bの破壊強度がツース2の後方部位の破壊強度より大きい必要はない。ブシュ14a,14bとツース2の後方部位の破壊強度が等しい、すなわち、ブシュ断面積とツース後方部位断面積とが等しい時の穴比率A/Bは、0.73〜0.77程度である。このため、本実施形態では、穴比率A/Bの最大値を0.73としている。
【0041】
次に、幅比率D/Cの最大値については、次のように決められる。
本実施形態では、ツース2を取付けるバケット1本体は、従前と同一である。従って、バケット1の先端の複数のアダプタ3およびそれらアダプタ3間の寸法も従前と同一である。
一方、本実施形態に係るツース2は、そのアダプタ3間の方向に突出する側壁部2bを有する。そのため、側壁部2bの突出が大きくなると、アダプタ3に取付けられた複数のツース2間の間隔が狭まる。ツース2間の間隔は、ツース2の交換作業のために必要な最低寸法があるため、寸法Dには対応する最大寸法が導かれる。本実施形態では、その寸法Dの最大寸法から幅比率D/Cの最大値を1.92としている。
【0042】
図5は、ある車体重量の油圧ショベルに使用のツース2における、穴比率A/B、幅比率D/Cと、ブシュ、ツース後方部位の断面積との関係を示している。図5(a)では、横軸は穴比率A/Bを、縦軸は断面積を示している。また、図5(a)では、実線のグラフがブシュ断面積、破線のグラフがツース後方部位断面積を示している。図5(b)では、横軸は幅比率D/Cを、他は図5(a)と同じ事項を示している。
【0043】
ここで、バケットのアダプタ3の寸法・幾何形状は貫通孔3aを含め、従来と同一とされている。換言すると、ツース2の空洞部V1の寸法・幾何形状は、従来と同一とされている。
上述のように、ツース穴比率A/Bは、0.61以上0.73以下とされている。図5(a)のグラフでは、A/Bが0.73でブシュ14a,14bとツース2の後方部位の断面積が等しい。つまり、A/Bが0.73で、ブシュ14a,14bとそれに対応するツース2の後方部位の破壊強度が釣り合っている。しかし、ブシュ14a,14bの破壊強度は、ツース2の後方部位の破壊強度より小さいことが好ましいので、ツース穴比率A/Bが0.61以上0.67以下の範囲内になるように設定されていることが望ましい。
【0044】
上述のように、ツース幅比率D/Cは、1.62以上1.92以下とされている。しかし、ツース幅比率D/Cの最大値1.92は、ツース2の交換作業のために不可欠な最低限のツース2間の間隔のみを確保するための値なので、交換作業を容易に行うための間隔を得るために最大値は上述の1.92より小さい1.82以下であることが好ましい。
また、ツース幅比率の最小値1.62は、ツース2の貫通孔2a内にボルト12aの頭部が納まるための最低限の数値だが、安全のために、より大きい値である1.66であることが好ましい。
【0045】
以上をまとめると、ツース穴比率A/Bは0.61以上0.67以下、ツース幅比率D/Cは1.66以上1.82以下であることがより好ましい。すなわち、ツース2は以下の関係式を満たすことが、より好ましい。
0.61≦A/B≦0.67
1.66≦D/C≦1.82
【0046】
[他の実施形態]
上記実施形態では、ツース2の貫通孔2aは、断面が円の柱状の孔とされた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、貫通孔2aの断面は円でない異形、例えば、楕円状とされてもよい。
また、貫通孔2a以外の形状は、上述の実施形態と同じである。関係式の孔内寸法Aは、ツース側面視において、取付時に対応するアダプタ3の貫通孔3aの中心を含む上下方向における貫通孔2aの内寸法を意味する。関係式のB、C、Dは上述の実施形態と同義であり、関係式は同じである。
【0047】
(まとめ)
以上により、ツース2は、ツース取付時の中心軸Lを基準として、ツース高さ方向の貫通孔内寸法と空洞部内寸の比率であるツース穴比率A/B、ツース幅方向のツース外寸と内寸の比率であるツース幅比率D/Cの範囲が以下の関係式を満たすことが好ましい。
0.61≦A/B≦0.73
1.62≦D/C≦1.92
【0048】
また、以下の関係式を満足するツース2は、ツース2の側面に設けられた貫通孔2aに、取付けピン11が装填されたブシュ14a,14bを挿入することでアダプタ3に取付けられるツース2として、更に好適である。
0.61≦A/B≦0.67
1.66≦D/C≦1.82
これにより、ツース穴比率A/B、ツース幅比率D/Cが上記範囲内になるようにツース2が設計されることで、ツース2やブシュ14a,14bの破壊強度を十分に確保したバランスのとれたツース2を得ることができる。また、上記範囲内になるようにツース2が設計されることで、ツース形状を最適化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のバケットツースは、ブシュおよびバケットツースの破壊強度をバランスよく確保することができるという効果を奏することから、建設機械のバケットに交換可能な状態で装着されるバケットツースに対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 バケット(作業機)
2 ツース(バケットツース)
2a 貫通孔(貫通孔)
2b 側壁部
2c 当接面
3 アダプタ
3a 貫通孔
3b 挿入部
3ba 側壁部
3bb 当接面
4 取付けピン組立て体
11 取付けピン(ピン)
11a,11b 雌ネジ
12a,12b ボルト
13a,13b ワッシャー
14a,14b ブシュ
21 上面
22 下面
23 側面
24 後端開口部
V1 空洞部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バケットの先端部に装着される建設機械のバケットツースであって、
上面と、
前記上面と先端部において繋がる下面と、
前記上面と前記下面との間を繋ぐように前記先端部を含む側に形成された一対の側面と、
前記上面、前記下面、前記一対の側面の後側に形成され、前記バケットの先端部が挿入される後端開口部と、
前記一対の側面の後ろ寄りの位置に設けられた凸状の側壁部と、
前記後端開口部から前記バケットツース内に設けられる空洞部と、
前記側壁部に形成されて前記空洞部まで貫通しており、固定用のピンおよびブシュが挿入される貫通孔と、
を備え、
前記貫通孔の孔内寸法をA、側面視における前記貫通孔の中心を含む上下方向における前記空洞部の上下方向における内寸法をB、上面視における前記貫通孔を含む前記空洞部の幅方向における内寸法をC、上面視において前記貫通孔を含む位置における前記一対の側壁部の最大幅寸法をDとすると、前記A,B,C,Dは以下の関係式を満たす、
建設機械のバケットツース。
0.61≦A/B≦0.73
1.62≦D/C≦1.92
【請求項2】
前記A/Bおよび前記D/Cは、以下の関係式を満たす、
請求項1に記載の建設機械のバケットツース。
0.61≦A/B≦0.67
1.66≦D/C≦1.82


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19106(P2013−19106A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150850(P2011−150850)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【特許番号】特許第5122671号(P5122671)
【特許公報発行日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】