説明

建設機械用キャブ

【課題】 構造や取扱いが簡単でキャブの美観や強度を損なわない騒音低減手段を備えた建設機械用キャブを提供する。
【解決手段】 左右の上側前後方向ピラー25a,25b等の複数本の構造部材で骨組みが形成されて同骨組に上面パネル31、側面パネル及び後面パネルを固着して構成され、油圧ポンプ等の騒音源を有する車体に設置される建設機械用キャブにおいて、上面パネル31との間に空間Sが形成されるように天井内装パネル40をキャブ3の内側に設けて、この空間Sに、一端に開口41aを有し他端に反射面を有するサイドブランチ41を設置するとともに、その開口41aをキャブ3の室内と連通させるための連通孔40aを天井内装パネル40に設け、キャブ3の室内の音波をサイドブランチ41内に導入し反射面で反射させて、騒音源からキャブ3の室内へ伝播する音波と干渉させることより、キャブ3の室内の騒音を低減させ得るように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の構造部材により骨組みが形成されて同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成され、油圧ショベル、クレーン、ホイールローダ等の建設機械の車体に設置される建設機械用キャブに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械は、建設作業に必要な各種機器や設備等を設置するための基台となり作業現場を走行することが可能な車体と、掘削作業、積載作業、クレーン作業等の種々の建設作業を行うためのフロント作業機と、車体やフロント作業機の操縦等の建設機械の種々の操縦を行うための運転室とを設けて構成されている。こうした建設機械において、運転室の空間を区画するための隔壁をキャブと称する。本発明は、こうした建設機械用キャブを改良しようとするものである。
【0003】
ところで、油圧ショベル等の建設機械は、急な傾斜地で作業や走行をさせたり、重量物を持ち上げながら旋回させたりすると、横転する危険性があり、万一横転すると、キャブは、衝撃を受けて変形する恐れがある。こうしてキャブが衝撃により変形すると、キャブ内で操縦をしているオペレータに危険をもたらし、更には、キャブの変形によりドアーが開閉不能となって、オペレータが車外に脱出できなくなる危険性もある。こうしたことから、建設機械用キャブは、建設機械の転倒時に内部のオペレータの安全を図るようにするため、剛性を極力高めるように形成している。
【0004】
建設機械用キャブは、その剛性を高めるため、複数本の構造部材により骨組みが形成されて、同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成されている。例えば、後述する図2及び図3にも図示されているように、建設機械用キャブの骨組を形成するための構造部材としては、底部の骨組をなす略四角形状のベース枠体と、左右の前側の柱体をなす前側上下方向ピラーと、左右の後側の柱体をなす後側上下方向ピラーとを設けている。さらに、こうした構造部材に加えて、前記の前側上下方向ピラー及び後側上下方向ピラーの左側のもの同士及び右側のもの同士をそれぞれ連結するための桁部材をなす上側前後方向ピラーと、左右の上側前後方向ピラーの前部同士を連結するための梁部材をなす前部の上側左右方向ピラーと、左右の上側前後方向ピラーの後部同士を連結するための梁部材をなす後部の上側左右方向ピラーとを設けている。
【0005】
建設機械用キャブは、以上のような構造部材で骨組みを形成することにより、剛性を極力高めて建設機械の横転時の変形を抑制するようにしている。また、この骨組みを形成するピラーの外側に、運転室を仕切るための上面板、側面板及び後面板を溶接で接合することにより、広い運転室空間を確保するようにしている。そして、こうして形成された構造物にドアーやフロントガラスや床板等を取り付けて構成される。この種の建設機械用キャブは、例えば、特許文献1に記載されている。
【0006】
一方、建設機械の車体には、種々の油圧アクチュエータを駆動するための圧油を発生する油圧ポンプ、この油圧ポンプを駆動するためのエンジン、作動油冷却用のオイルクーラやエンジン冷却水冷却用のラジエータ等を空冷するためのファンといった機器が設置されており、これらの主要機器は、騒音を発生する。建設機械用キャブは、こうした騒音源を有する建設機械の車体に設置されるため、建設機械の運転時には、主要機器からの騒音がキャブ内空間へ伝播する。そして、このキャブ内空間へ伝播された主要機器からの騒音がキャブ内空間の形状と大きさとにより決定される固有周波数と共鳴すると、キャブ室内の騒音が著しく増大されることとなる。
【0007】
以上のことから、建設機械用キャブにおいては、構造部材による骨組みにより剛性を高めて、オペレータの安全が図れるようにすることに加えて、キャブ室内の激しい騒音からオペレータを防護することが必要である。構造部材で骨組みを形成した建設機械用キャブにおいて、こうした点に着目してキャブ室内の騒音を低減するようにした技術としては、特許文献2に記載の騒音低減装置を挙げることができる。この騒音低減装置は、建設機械用キャブの骨組を形成するための中空状構造部材の内部空間を利用して、キャブ室内の騒音を低減するための共鳴箱を構成したものである。
【0008】
この特許文献2に記載の共鳴箱の構造について概説すると、中空状構造部材である後部フレームや横フレーム等のフレームの中空部内を仕切るように、間隔を置いて一対の仕切板をフレーム内に固着して、共鳴箱用空間を形成するとともに、それらのフレームに、キャブ室内と連通する連通孔を設け、これらの手段により、共鳴箱を構成するようにしている。その場合、移動させることにより共鳴箱の容積を増減できる調整板を共鳴箱用空間内に移動可能に気密に嵌合するとともに、フレームに雌ねじ孔を形成してこの雌ネジ孔に調整板移動用のネジ棒を螺合させ、このネジ棒をドライバー等で回転させることにより調整板を移動して共鳴箱用空間を所望の容積に調整できるようにしている。そして、こうした調整板を付設した共鳴箱をフレームの中空部に多数形成することにより、建設機械用キャブの騒音低減装置を構成するようにしている。
【0009】
この特許文献2に記載の従来の技術では、このような手段により建設機械用キャブの騒音低減装置を構成しているので、これを使用する際には、調整板移動用のネジ棒をドライバー等で回転操作して調整板を移動することにより、共鳴箱の共鳴振動数がキャブ室内の空気の固有振動数に等しくなるように共鳴箱の容積を調整する。そうすると、騒音源からの音波によるキャブ室内の空気の振動をこの共鳴箱により減衰することができ、これによりキャブ室内の騒音を低減することができる。
【特許文献1】特開2006ー2540号公報(第6−11頁、図2−10)
【特許文献2】実願平4−37993号(実開平5−89554号)のマイクロフィルム(第6−9頁、図1−2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、この特許文献2に記載の従来の技術は、製作する上でも実用上も問題がある。すなわち、第1に、狭小なフレームの中空部を仕切るように多数の仕切板をフレーム内に固着して幾つもの共鳴箱用空間を形成するという面倒な作業を要し、かつ、これらの共鳴箱用空間毎に連通孔をフレームに形成することが必要である。加えて、これらの狭小な共鳴箱用空間内に調整板を気密に嵌合させるという煩雑な作業も要し、かつ、共鳴箱用空間毎に、フレームに雌ねじ孔を形成して調整板移動用のネジ棒を螺合させることも必要である。このように、従来の技術に係る建設機械用キャブでは、騒音低減装置の製作に手間を要し、種々の部品を必要とする複雑な構造を採用している。
【0011】
第2に、従来の技術に係る建設機械用キャブでは、騒音低減装置を使用する際に、幾つもの共鳴箱について、調整板移動用のネジ棒をドライバー等で回転操作して容積を調整しなければならず、取扱いが簡単ではない。第3に、フレームのキャブ室内側の個所に多数の連通孔を形成することを要するとともに、フレームのキャブ室外側の個所に多数の雌ねじ孔を形成して調整板移動用のネジ棒を螺合、突設させる必要があるため、キャブ内外の美観を著しく損なう。また、このように中空状構造部材としてのフレームに多数の連通孔や雌ねじ孔を形成することは、強度上も好ましくない。
【0012】
本発明は、こうした従来の技術の問題を解決するために創作されたものであって、その技術的課題は、構造や取扱いが簡単でキャブの美観や強度を損なわない騒音低減手段を備えた建設機械用キャブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、こうした技術課題を達成するため、
複数本の構造部材により骨組みが形成されて同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成され、油圧ポンプ等の騒音源を有する建設機械の車体に設置される建設機械用キャブにおいて、
上面板との間に空間が形成されるように天井内装板をキャブの内側に設けて、上面板と天井内装板の間の空間に、一端に開口を有し他端に反射面を有するサイドブランチを設置するとともに、サイドブランチの開口をキャブの室内と連通させるための連通孔を天井内装板に設け、キャブの室内の音波をサイドブランチ内に導入し反射面で反射させて、騒音源からキャブの室内へ伝播する音波と干渉させることより、キャブの室内の騒音を低減させ得るように構成した。
【0014】
本発明の建設機械用キャブにおいては、上面板と天井内装板の間の空間に、一端が遮蔽された単純な構造の管体であるサイドブランチを設置するとともに、このサイドブランチの開口をキャブの室内と連通させるための連通孔を天井内装板に設けて、キャブの室内の騒音を低減させるようにしているので、従来の技術のように、建設機械用キャブの骨組を形成するための構造部材であるフレーム内の狭小な中空部に多数の共鳴箱用空間を仕切板により形成して、これらの共鳴箱用空間毎に、連通孔、調整板、雌ねじ孔及び調整板移動用のネジ棒をフレームに設ける必要はなく、きわめて構造の簡単な手段でキャブの室内の騒音を低減させることができる。
【0015】
このサイドブランチによる騒音低減手段では、低減させるべき特定周波数成分の騒音源の音波を予め定めて、これを設置するに際して、その周波数に応じてサイドブランチの通路の長さを適切に調整しておけばよいので、従来の技術のように、騒音低減手段を使用する際に、幾つもの共鳴箱について調整板移動用のネジ棒により容積を調整するという煩雑な作業をする必要はなく、取扱いが簡単である。また、従来の技術のように、フレームに多数の連通孔や雌ねじ孔を形成したり、調整板移動用のネジ棒をフレームから突設させたりする必要はなく、サイドブランチは、上面板と天井内装板の間に設置されていて、大部分が天井内装板で遮蔽されているので、騒音低減手段によりキャブの美観が損なわれることもない。さらに、従来の技術のようにフレームに多数の連通孔や雌ねじ孔を形成する必要はないので、キャブの強度も損なわない。
【0016】
以上のように、本発明によれば、構造や取扱いが簡単でキャブの美観や強度を損なわない騒音低減手段を備えた建設機械用キャブが得られる。
【発明の効果】
【0017】
以下の説明から明らかなように、本発明は、前記の〔課題を解決するための手段〕の項に示したように構成されているので、本発明によれば、構造や取扱いが簡単でキャブの美観や強度を損なわない騒音低減手段を備えた建設機械用キャブが得られる。
【0018】
ところで、油圧ショベル等の建設機械は、急な傾斜地での作業時や走行時等に転倒する危険性があるが、転倒する際には、通常横転するため、キャブは、横転時の衝撃により左右方向に変形することとなる。本発明の建設機械用キャブを具体化する場合に、特に、特許請求の範囲の請求項2に記載のように具体化すれば、キャブの上面板には、サイドブランチがキャブの左右方向に向けて配置されて溶接されるので、建設機械が万一横転したときには、キャブが左右方向に変形するのをサイドブランチにより抑制することができて、キャブ内のオペレータの安全を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明が実際上どのように具体化されるのかを図1乃至図5を用いて説明することにより、本発明を実施するための望ましい形態を明らかにする。
【0020】
図1は、本発明の建設機械用キャブが設置される建設機械の一例(油圧ショベル)を示す側面図、図2は、図1の建設機械に設置される建設機械用キャブの詳細な構造を示す分解斜視図、図3は、分解された図2の建設機械用キャブを組み立てた状態を示す斜視図、図4は、本発明を具体化して構成した建設機械用キャブの後部を左右方向の断面線で垂直方向に向けて切断した横断面図、図5は、本発明を具体化して構成した建設機械用キャブの中央部を前後方向の断面線で垂直方向に向けて切断した縦断面図である。なお、ここでは、建設機械が自走式の油圧ショベルである場合を例にして、以下の説明をする。
【0021】
本発明の建設機械用キャブは、その剛性を高めるため、すでに述べた従来の建設機械用キャブと同様、複数本の構造部材により骨組みが形成されて、同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成されている。そして、油圧ポンプ、エンジン、ファンといった騒音源となる機器を有する建設機械の車体に設置され、キャブ室内の騒音を低減する手段を具備しており、この点でも、すでに述べた従来の建設機械用キャブと変わらない。
【0022】
まず、図1に基づき、本発明の建設機械用キャブが設置される建設機械の一例である自走式の油圧ショベルについて概説する。
【0023】
1は上部旋回体2を設置するための基台となり作業現場を走行することが可能な下部走行体、2はこの下部走行体1上に旋回可能に搭載された後述の旋回フレーム5とこの旋回フレーム5の上部に設置された諸装置とからなる上部旋回体、3は油圧ショベルの操縦を行うための、旋回フレーム5上に設置されたキャブ、4は油圧ポンプやこれを駆動するエンジン、作動油冷却用のオイルクーラやエンジン冷却水冷却用のラジエータ等を空冷するためのファン等を設置した建屋、5は上部旋回体の基盤となる旋回フレーム、6は土砂の掘削作業や積載作業等の作業を行うための油圧ショベルのフロント作業機である。
【0024】
自走式の油圧ショベルは、大別すると、フロント作業機6と、このフロント作業機6が設置される走行可能な車体とで構成される。車体は、クローラベルトにより走行する下部走行体1と、旋回フレーム5及びこの旋回フレーム5上に設置されたキャブ3や建屋4等の諸装置からなる上部旋回体2とで構成される。この車体には、油圧ポンプ、エンジン、オイルクーラやラジエータ等を空冷するためのファンといった主要機器が旋回フレーム5上に設置されていて騒音を発生し、この騒音が後述する経路によりキャブ3内の空間へ伝播する。このキャブ3は、その剛性を高めるため、すでに述べたように、複数本の構造部材により骨組みが形成されて、同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成されているが、その具体的な構造については、後に詳述する。
【0025】
7は後端部が上部旋回体2の前部に垂直方向に回動(傾動)可能に軸着されて設置されたブーム、8は後端部がこのブーム7の前端部に垂直方向に回動(揺動)可能に軸着されたアーム、9はこのアーム8の前端部に垂直方向に回動可能にかつ着脱可能に軸着されたバケット、7aは伸縮させてブームを回動させるように駆動するブームシリンダ、8aは伸縮させてアームを回動させるように駆動するアームシリンダ、9aは伸縮させてバケットを回動させるように駆動するバケットシリンダである。
【0026】
次に、図2及び図3に基づき、こうした建設機械に設置される建設機械用キャブについて詳細な構造を説明する。
【0027】
これらの図において、20aは左側のベース部材をなす左の底部前後方向フレーム、20bは右側のベース部材をなす右の底部前後方向フレーム、21aは前側のベース部材をなす前の底部左右方向フレーム、21bは後側のベース部材をなす後の底部左右方向フレーム、22aは前左隅に配置され左の底部前後方向フレーム20aと前の底部左右方向フレーム21aと後述する左の前側上下方向ピラー23aとを接続する接続部材、22bは前右隅に配置され右の底部前後方向フレーム20bと前の底部左右方向フレーム21aと後述する右の前側上下方向ピラー23bとを接続する接続部材、22cは後左隅に配置され左の底部前後方向フレーム20aと後の底部左右方向フレーム21bと後述する左の後側上下方向ピラー24aとを接続する接続部材、22dは後右隅に配置され右の底部前後方向フレーム20bと後の底部左右方向フレーム21bと後述する右の後側上下方向ピラー24bとを接続する接続部材である。
【0028】
各接続部材22a,22b,22c,22dにより、隣接する前記の各フレームと上下方向ピラーとを接続する場合には、フレームや上下方向ピラーを対応する各接続部材22a,22b,22c,22dに溶接して接続する。こうして左右の底部前後方向フレーム20a,20b及び前後の底部左右方向フレーム21a,21bの隣接部同士を各接続部材22a,22b,22c,22dで接続することにより、底部の骨組をなす土台部材としての略四角形状のベース枠体が形成される。このベース枠体を構成する以上の部材は、鉄鋼材料等で製造されている。
【0029】
23aは左の前側の柱体をなす左の前側上下方向ピラー、23bは右の前側の柱体をなす右の前側上下方向ピラー、24aは左の後側の柱体をなす左の後側上下方向ピラー、24bは右の後側の柱体をなす右の後側上下方向ピラー、25aは左の前側上下方向ピラー23aと左の後側上下方向ピラー24aの上端部同士を連結するための桁部材をなす左の上側前後方向ピラー、25bは右の前側上下方向ピラー23bと右の後側上下方向ピラー24bの上端部同士を連結するための桁部材をなす右の上側前後方向ピラーである。
【0030】
左右の前側上下方向ピラー23a,23bは、後方に向けて少しずつ弧状に湾曲しながら上方に延びるとともに後方(上方)の延長部分23a’,23b’が前後方向を向いて略水平状をなすように、曲げ加工されている。そして、これらの左右の前側上下方向ピラー23a,23bの後端部は、それぞれ、左右の上側前後方向ピラー25a,25bの前端部に溶接により接続される。後側上下方向ピラー24a,24bは、普通の柱と同様、直線状をないており、それぞれ、左右の上側前後方向ピラー25a,25bの後端部に溶接により接続される。左右の上側前後方向ピラー25a,25bは、それぞれ、左右の前側上下方向ピラー23a,23bにおける前記後方の延長部分23a’,23b’と相俟って、キャブ3の天井側における水平方向の構造部材である桁部材をなしている。
【0031】
26は左右の上側前後方向ピラー25a,25bの前部同士を連結するための梁部材をなす前部の上側左右方向ピラー、27は左右の上側前後方向ピラー25a,25bの後部同士を連結するための梁部材をなす後部の上側左右方向ピラー、28は下端部が左の底部前後方向フレーム20aの中間位置に溶接により固着され上端部が左の上側前後方向ピラー25aの前端側に溶接により固着された中間ピラーであり、ドアーを取り付けるための柱体をなす。
【0032】
前部の上側左右方向ピラー26及び後部の上側左右方向ピラー27は、それぞれ、左右の上側前後方向ピラー25a,25bに対し溶接により固着して略四角形状の上部枠体を形成し、天井側の骨組みを補強する働きをしている。以上述べた前側上下方向ピラー23a,23b、後側上下方向ピラー24a,24b、上側前後方向ピラー25a,25b、上側左右方向ピラー26,27及び中間ピラー28は、何れも、中空状の棒状部材をなしており、鉄鋼材料等で製造されている。そして、これらの中空状の棒状部材と既述の略四角形状のベース枠体とが協働してキャブ3の骨組みを立体的に形成して、キャブ3の剛性を高めている。
【0033】
31は前端部側に上側前後方向ピラー25a,25bの上部の曲面に沿った円弧状のR31aが形成されキャブ3の上面の壁をなす上面パネル、32は図5に示すように断面略円弧状をなして上面パネル31の後端に連接されるコーナパネル、33は上部に窓ガラスが取り付けられてキャブ3の後面の壁をなす後面パネル、34は上半部の窓枠に窓ガラスが装着されて左の後側上下方向ピラー24aと中間ピラー28との間における左側面の壁をなす左側面パネル、35は上半部に窓ガラスが取り付けられてキャブ3の右側面下部の壁をなす右側面パネルである。
【0034】
上面パネル31は、左右の上側前後方向ピラー25a,25bと前後の上側左右方向ピラー26,27とからなる前述の略四角形状の上部枠体に溶接等のより接合される。コーナパネル32は、後側上下方向ピラー24a,24b及び後部の上側左右方向ピラー27の溶接個所等を覆ってキャブ3の美観を向上させる役割をする。後面パネル33は、後の底部左右方向フレーム21bと後側上下方向ピラー24a,24bとに溶接等により接合される。左側面パネル34は、左の底部前後方向フレーム20aと左の後側上下方向ピラー24aと中間ピラー28とに溶接等により接合される。右側面パネル35は、右の底部前後方向フレーム20bと右の前側上下方向ピラー23bと右の後側上下方向ピラー24bとに溶接等により接合される。
【0035】
以上のように、建設機械用のキャブ3は、骨組みを形成する種々のピラーやベース枠体の外側に上面板、側面板及び後面板等をなす種々のパネルを固着して、極力剛性を高めながら広い運転室空間を確保できるようにしている。図示はしていないが、左右の前側上下方向ピラー23a,23bの間には、前側にフロントガラスが取り付けられるとともに、中間ピラー28には、ドアーがヒンジで枢着されて、左の前側上下方向ピラー23aとの間をドアーで遮蔽するようにしている。また、当然のことながら、ベース枠体には、図示しないキャブ3のフロアプレート(床部材)が取り付けられる。このフロアプレートは、図示しない防振マウント(防振ゴム等)を介して旋回フレーム5に取り付けられる。
【0036】
すでに述べたように、建設機械用のキャブ3は、油圧ポンプ、エンジン、ファンといった機器を有する建設機械の車体に設置されるため、建設機械の運転時には、こうした主要機器からの騒音が内部の空間へ伝播する。こうした騒音がキャブ3内へ伝播する経路についてみると、第1の経路としては、主要機器の振動が、同機器を旋回フレーム5に取り付けるための図示しない防振マウントを通じて旋回フレーム5へと伝播し、この伝播した振動がフロアプレート取付用の防振マウントを通じて同プレートへと伝播した後、ベース枠体からキャブ3内へ伝播してくる経路を挙げることができる。第2の経路としては、主要機器の振動が空気中を伝播した後、前述のキャブ3を形成する種々のパネルや窓ガラスを透過、加振してキャブ3内へと伝播してくる経路を挙げることができる。
【0037】
こうした経路によりキャブ内へ伝播される主要機器からの騒音が、キャブ内の閉空間の形状と容積とにより決定される固有周波数と共鳴すると、キャブ3の室内の騒音が著しく増大されることとなる。こうしたことから、建設機械用のキャブ3においては、外力によるによ壁体の変形からオペレータを防護するだけではなく、室内の激しい騒音からオペレータを防護することが必要である。以上述べた建設機械用のキャブ3は、こうした要求に応えつつ、既述の従来の技術の問題を解決できる騒音低減手段を備えている。
【0038】
そこで、この建設機械用のキャブ3が備えている騒音低減手段及び関連する構造について、図4及び図5に基づき説明する。
【0039】
これらの図において、40は上面板としての上面パネル31との間に空間Sを設けて上面パネル31や上側左右方向ピラー26,27の下側を覆うように取り付けた天井内装板としての天井内装パネル、41は上面パネル31と天井内装パネル40との間の空間Sに設置されたサイドブランチである。
【0040】
サイドブランチ41は、一端に開口41aを有し他端が閉鎖されて音波の反射面をなす鋼材等による有底の中空状の金属製の管体であり、開口端側を下方に湾曲させて、開口41aが下を向くように形成されている。このサイドブランチ41を上面パネル31と天井内装パネル40との間の空間Sに設置する場合、サイドブランチ41をキャブ3の左右方向に向けて配置した上で、上面パネル31の内面に溶接して設置することが望ましい。サイドブランチ41をこのように設置する場合、図に示す例では、サイドブランチ41を、後部の上側左右方向ピラー27の近傍にこれに沿わせるように設置している。
【0041】
天井内装パネル40は、左右の上側前後方向ピラー25a,25bの側面や前部及び後部の上側左右方向ピラー26,27の下面に適宜の手段で取り付けることができる。この天井内装パネル40には、サイドブランチ41の開口41aをキャブ3の室内と連通させるための連通孔40aを、その開口41aの直下に設けて、開口41aと対面させるようにしている。この開口41aは、金網等のメッシュで覆うことにより、キャブ3の内装の美観を向上させることができる。
【0042】
サイドブランチ41は、キャブ3の室内の音波を、天井内装パネル40の連通孔40aを通じて開口41aから中空状の内部空間に導入し反射面で反射させて、この反射させた音波を、油圧ポンプ、エンジン、ファンといった主要機器からキャブ3の室内へ伝播する音波と干渉させることより、キャブ3の室内の騒音を低減させ得るように構成している。サイドブランチ41は、こうした構造を採用しているため、低減させるべき所定機器の騒音における特定周波数成分の音波を予め定めて、その周波数に応じてサイドブランチ41の通路の長さを適切に調整しておけば、サイドブランチ41を往復して天井内装パネル40の連通孔40aからキャブ3の室内に戻る音波を、所定機器からキャブ3の室内へ伝播する音波に対して、波の山と谷とがぶつかり合うような関係で干渉させることができるため、キャブ3の室内へ伝播する音波のうちの特定周波数成分の脈動を重点的に低減させることができる。
【0043】
このサイドブランチ41について更に言及すると、音波は、一般に、基本周波数とその基本周波数の整数倍の周波数を持つ高調波とからなるが、当該サイドブランチ41により低減される中心的な周波数の騒音の音波である騒音低減中心周波数fcは、音速をV、サイドブランチ41の管路の長さをL、管の半径をr、次数(当該高調波の周波数の基本周波数に対する倍数)をnとすると、次の(1)式で求めることができる。
【0044】
f=V(2n−1)/4(L+0.6r)…………………(1)
騒音低減中心周波数fcは、各種周波数成分の騒音の音波のうち、サイドブランチ41で反射して戻る音波と干渉して最も大きく低減される音波の周波数のことである。サイドブランチ41で反射して戻る騒音の音波は、こうした騒音低減中心周波数fcの音波と干渉するだけではなく、その周辺の周波数の音波とも干渉するため、こうしたサイドブランチ41を用いることにより、騒音低減中心周波数fcの周辺領域の周波数の騒音の音波もある程度低減させることができる。したがって、騒音低減中心周波数fcが、キャブ内の閉空間の形状と容積とにより決定される固有周波数と合致するように、サイドブランチ41の管路の長さLを調整すれば、主要機器からキャブ3の室内へ伝播する騒音低減中心周波数fcの騒音を大きく低減させ、更には、同周波数fcの周辺領域の周波数の騒音もある程度低減させることができる。
【0045】
以上の説明から分かるように、この建設機械用のキャブ3においては、特に、上面板としての上面パネル31との間に空間Sが形成されるように、天井内装板としての天井内装パネル40をキャブ3の内側に設けて、上面パネル31と天井内装パネル40の間の空間Sに、一端に開口41aを有し他端に反射面を有するサイドブランチ41を設置するとともに、サイドブランチ41の開口41aをキャブ3の室内と連通させるための連通孔40aを天井内装板40に設けている。そして、キャブ3の室内の音波を、天井内装パネル40の連通孔40aを通じて開口41aからサイドブランチ41内に導入し反射面で反射させて、油圧ポンプ、エンジン等の騒音源からキャブ3の室内へ伝播する音波と干渉させることより、キャブ3の室内の騒音を低減させ得るように構成している。
【0046】
この建設機械用のキャブ3は、このようにしてキャブ3の室内の騒音を低減させ得るように構成しているので、従来の技術のように、建設機械用キャブの骨組を形成するための構造部材であるフレーム(キャブ3のピラーに相当する。)内の狭小な中空部に多数の共鳴箱用空間を仕切板により形成して、これらの共鳴箱用空間毎に、連通孔、調整板、雌ねじ孔及び調整板移動用のネジ棒をフレームに設ける必要はなく、きわめて構造の簡単な手段でキャブ3の室内の騒音を低減させることができる。
【0047】
このサイドブランチ41による騒音低減手段では、低減させるべき特定周波数成分の騒音源の音波を予め定めて、これを設置するに際して、その周波数に応じてサイドブランチ41の通路の長さを適切に調整しておけばよいので、従来の技術のように、騒音低減手段を使用する際に、幾つもの共鳴箱について調整板移動用のネジ棒により容積を調整するというような煩雑な作業をする必要はなく、取扱いが簡単である。また、従来の技術のように、フレームに多数の連通孔や雌ねじ孔を形成したり、調整板移動用のネジ棒をフレームから突設させたりする必要はなく、サイドブランチ41は、上面パネル31と天井内装パネル40の間の空間Sに設置されていて、大部分が天井内装パネル40で遮蔽されているので、騒音低減手段によりキャブ3の美観が損なわれることもない。さらに、従来の技術のようにフレームに多数の連通孔や雌ねじ孔を形成する必要はないので、キャブ3の強度も損なわない。
【0048】
すでに述べたように、油圧ショベル等の建設機械は、急な傾斜地での作業時や走行時等に転倒する危険性があるが、転倒する際には、通常横転するため、キャブ3は、横転時の衝撃により左右方向に変形することとなる。この建設機械用のキャブ3では、サイドブランチ41を上面パネル31と天井内装パネル40との間の空間Sに設置する場合、サイドブランチ41をキャブ3の左右方向に向けて配置してキャブ3の天井内装パネル40に溶接しているので、建設機械が万一横転したときには、キャブ3が左右方向に変形するのをサイドブランチ41により抑制することができて、キャブ3内のオペレータの安全を図ることができる。
【0049】
騒音源からキャブ3の室内へ伝播する騒音のうち、特に、オペレータを防護する上で低減させる必要のある騒音は、主要機器としての油圧ポンプ、エンジン及びファンの騒音である。このうち、油圧ポンプの騒音が最も大きく、次いで、エンジンの騒音が大きいが、何れの騒音も非常に大きいので、建設機械のキャブ3においては、まず第1に、これらの騒音を低減させることが必要である。これに対し、ファンの騒音は、ピークがあまり立たないため、それほど問題にはならず、このファンの騒音については、これを低減させるためのサイドブランチ41を省略することもできる。
【0050】
本発明を具体化する場合において、キャブ3に、どのようなサイドブランチ41をどれだけ設置するかの態様は、種々考えられるが、実用性と経済性を考えたとき、主要機器の騒音を低減させるためのサイドブランチ41として、油圧ポンプについては3本、エンジンについては2本設けることが望ましく、ファンについては1本設けるか、場合によって省略することもできる。その理由について述べると、油圧ポンプの騒音については、騒音低減中心周波数fcにおける基本周波数の3次の音波までを低減させれば足り、それ以上周波数の大きい高音の音波は、キャブ3の壁面で遮断されるからである。同様にして、エンジンの騒音については、基本周波数の2次の音波までを低減させれば足り、それ以上周波数の大きい音波は、キャブ3の壁面で遮断されるからである。なお、ファンの騒音については、条件次第で、油圧ポンプやエンジンに関するサイドブランチ41によりある程度低減できることもある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の建設機械用キャブが設置される建設機械の一例を示す側面図である。
【図2】図1の建設機械に設置される建設機械用キャブの詳細な構造を示す分解斜視図である。
【図3】分解された図2の建設機械用キャブを組み立てた状態を示す斜視図である。
【図4】本発明を具体化して構成した建設機械用キャブの後部を左右方向の断面線で垂直方向に向けて切断した横断面図である。
【図5】本発明を具体化して構成した建設機械用キャブの中央部を前後方向の断面線で垂直方向に向けて切断した縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 キャブ
4 建屋
5 旋回フレーム
6 フロント作業機
7 ブーム
7a ブームシリンダ
8 アームシリンダ
8aアームシリンダ
9 バケット
9a バケットシリンダ
20a,20b 底部前後方向フレーム
21a,21b 底部左右方向フレーム
22a〜22d 接続部材
23a,23b 前側上下方向ピラー、
24a,24b 後側上下方向ピラー
25a,25b 上側前後方向ピラー
26,27 上側左右方向ピラー
28 中間ピラー
31 上面パネル
32 コーナパネル
33 後面パネル
34 左側面パネル
35 右側面パネル
40 天井内装パネル
40a (天井内装パネル40の)連通孔
41 サイドブランチ
41a (サイドブランチ40の)開口
S (上面パネル31と天井内装パネル40との間の)空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の構造部材により骨組みが形成されて同骨組に上面板、側面板及び後面板を固着して構成され、油圧ポンプ等の騒音源を有する建設機械の車体に設置される建設機械用キャブにおいて、上面板との間に空間が形成されるように天井内装板をキャブの内側に設けて、上面板と天井内装板の間の空間に、一端に開口を有し他端に反射面を有するサイドブランチを設置するとともに、サイドブランチの開口をキャブの室内と連通させるための連通孔を天井内装板に設け、キャブの室内の音波をサイドブランチ内に導入し反射面で反射させて、騒音源からキャブの室内へ伝播する音波と干渉させることより、キャブの室内の騒音を低減させ得るように構成したことを特徴とする建設機械用キャブ。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械用キャブにおいて、上面板と天井内装板の間の空間にサイドブランチを設置する場合に、サイドブランチをキャブの左右方向に向けて配置した上で上面板に溶接して設置するようにしたことを特徴とする建設機械用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−6986(P2008−6986A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180038(P2006−180038)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】