説明

建設機械

【課題】 汎用品として市販されている防振部材を用いることにより、フロア支持機構の構成を簡略化して安価に製造できるようにする。
【解決手段】 フロア支持機構17を、チルトフロア9の前側位置に設けた上側ブラケット19、下側ブラケット20、連結ピン21からなるヒンジ部材18と、このヒンジ部材18の下側に位置して旋回フレーム5の前側位置と下側ブラケット20との間に設けられ旋回フレーム5とチルトフロア9との間の振動を抑える防振部材22とにより構成している。従って、ヒンジ部材18は、上側ブラケット19、下側ブラケット20および連結ピン21からなる部品点数の少ない単純な構成とすることができる。また、防振部材22は、ねじ部材によってヒンジ部材18に接続、分離するものであるから、防振部材18として一般的に市販されている安価な汎用品を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設建設に関し、特に、旋回フレームに対してフロア部材が傾転可能となった建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルには、ミニショベルと呼ばれる小型の油圧ショベルがある。この小型の油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前,後方向の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
また、上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレームの後側に搭載されたエンジンと、該エンジンの前側に位置して前記旋回フレーム上に設けられたフロア部材と、該フロア部材に設けられたオペレータが着座する運転席と、該運転席を覆うキャブ、キャノピ等の建屋とにより大略構成されている。
【0004】
ここで、小型の油圧ショベルは、上部旋回体が小さく設置スペースが限られているから、例えばコントロールバルブ、旋回モータ等の機器類はフロア部材の下側のスペースを利用して配設している。このため、小型の油圧ショベルでは、旋回フレームとフロア部材との間に、フロア部材の前側位置を支点として該フロア部材を傾転可能に支持するフロア支持機構を設けることにより、フロア部材の下側に配置した機器類の点検作業、修理作業等を行えるようにしている。
【0005】
また、フロア支持機構は、旋回フレームに取付けられ左,右方向に貫通する筒部を有するフレーム側のブラケットと、該ブラケットの筒部を挟むようにフロア部材に設けられたフロア側のブラケットと、フレーム側のブラケットの筒部内を貫通し両端側がフロア側の各ブラケットに支持された連結ピンと、該連結ピンと前記フレーム側のブラケットの筒部との間に挿嵌され旋回フレームからフロア部材に伝わる振動を緩和する筒状の防振ゴムとにより構成されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−119362号公報
【特許文献2】特開2008−303566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各特許文献による油圧ショベルでは、フレーム側のブラケットの筒部内に防振ゴムを挿嵌するという特異な構成としているから、このブラケットと防振ゴムとを専用で製造し、しかも、筒部の内周面や防振ゴムの外周面を切削加工により寸法精度を高めなくてはならない。このため、ブラケットや防振ゴムの製造に手間を要するから製造コストが嵩むという問題がある。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、汎用品として市販されている防振部材を用いることにより、フロア支持機構の構成を簡略化して安価に製造できるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による建設機械は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前,後方向の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、前記上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレーム上に前側を支点として傾転可能に設けられ運転席を有するチルトフロアと、該チルトフロアを傾転可能に支持するために前記旋回フレームの前側位置と前記チルトフロアの前側位置との間に設けられたフロア支持機構とを備えてなる。
【0010】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記フロア支持機構は、前記チルトフロアの前側位置に設けられた上側ブラケットと該上側ブラケットに対し左,右方向に延びる連結ピンを介して連結された下側ブラケットとから形成されたヒンジ部材と、該ヒンジ部材の下側に位置して前記旋回フレームの前側位置と前記下側ブラケットとの間に設けられ前記旋回フレームとチルトフロアとの間の振動を抑える防振部材とにより構成したことにある。
【0011】
請求項2の発明は、前記フロア支持機構は、左,右方向に間隔をもって2個設ける構成としたことにある。
【0012】
請求項3の発明は、前記防振部材は、上側が開口した有底筒体からなるケーシングと、該ケーシングの開口を閉塞するように該ケーシング内に設けられた弾性変形可能な弾性体と、基端側が該弾性体に固着され先端側が前記ケーシングから上方に延び該弾性体の変位に応じて上,下方向に変位する取付軸とにより構成し、前記防振部材のケーシングは前記旋回フレームに取付け、前記防振部材の取付軸の先端側は前記下側ブラケットに取付ける構成としたことにある。
【0013】
請求項4の発明は、前記チルトフロアの前側位置には、前記下側ブラケットに対し前記取付軸の先端側を取付け、取外しするための工具を挿通する工具挿通孔を設ける構成としたことにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、フロア支持機構は、チルトフロアの前側位置に設けられた上側ブラケット、下側ブラケットおよび連結ピンからなるヒンジ部材と、該ヒンジ部材の下側に位置して旋回フレームの前側位置と下側ブラケットとの間に設けられ旋回フレームとチルトフロアとの間の振動を抑える防振部材ととにより構成している。
【0015】
従って、ヒンジ部材は、上,下のブラケットと連結ピンとからなる簡単な構成とすることができる。また、防振部材は、ヒンジ部材と切り離して別個に設けることができるから、防振部材として安価な汎用品を用いることができる。
【0016】
この結果、ヒンジ部材の構成を簡略化でき、かつ、防振部材を安価な汎用品とすることができるから、フロア支持機構の構成を簡略化して安価に製造することができる。また、ヒンジ部材の下側に防振部材を設ける構成としているから、フロア支持機構を小さなスペースに配置することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、フロア支持機構を左,右方向に間隔をもって2個設けているから、チルトフロアを安定的に支持することができ、作業性や信頼性を向上することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、防振部材を、旋回フレームに取付けられるケーシングと、該ケーシング内に設けられた弾性体と、基端側が該弾性体に固着され先端側が前記ケーシングから上方に延びた変位可能な取付軸とにより構成している。
【0019】
従って、防振部材の取付軸の先端側をヒンジ部材の下側ブラケットに分離可能に接続することができる。これにより、取付軸と下側ブラケットとの間の簡単な着脱作業によってヒンジ部材と防振部材とを接続したり、切り離したりすることができ、生産性、メンテナンス作業性等を向上することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、チルトフロアの前側位置には、工具を挿通する工具挿通孔を形成している。これにより、下側ブラケットに対し取付軸の先端側を取付け、取外しするときには、例えばソケットレンチ等の工具を工具挿通孔を介して取付軸の先端側まで差入れることができ、生産性、メンテナンス作業性等をより一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態によるキャブ仕様の油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】図1に示すキャブを前側位置を支点としてチルトアップした状態で示す要部拡大の正面図である。
【図3】旋回フレームとフロア支持機構とチルトフロアを拡大して示す外観斜視図である。
【図4】防振部材が取付けられた旋回フレームを図3と同様位置からみた外観斜視図である。
【図5】チルトフロアを右後側の下方からみた外観斜視図である。
【図6】左側のフロア支持機構を旋回フレームの左前部とチルトフロアの左前部と一緒に示す要部拡大の外観斜視図である。
【図7】左側のフロア支持機構と旋回フレームの左前部とチルトフロアの左前部とを図6中の矢示VII−VII方向からみた縦断面図である。
【図8】左側のフロア支持機構と旋回フレームの左前部とチルトフロアの左前部とを分解した状態で示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械として小型の油圧ショベルを例に挙げ、図1ないし図8に従って詳細に説明する。
【0023】
図1において、1は建設機械としてのキャブ仕様の油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とにより構成されている。また、上部旋回体3の前側には、土砂の掘削作業等を行なうスイング式の作業装置4が揺動および俯仰動可能に設けられている。
【0024】
一方、上部旋回体3は、後述の旋回フレーム5、チルトフロア9、運転席13、キャブボックス16、フロア支持機構17等により大略構成されている。また、上部旋回体3は、チルトフロア9を運転席13、キャブボックス16と一緒に前側位置を支点としてチルトアップ(図2の状態)、チルトダウン(図1、図3の状態)することができる。
【0025】
5は上部旋回体3の支持構造体を構成する旋回フレームである。この旋回フレーム5は、図4に示す如く、左,右方向の中間部を前,後方向に延びた平板状の底板5Aと、該底板5Aの上面側に左,右方向に離間して略V字状に立設された左縦板5B,右縦板5Cと、該各縦板5B,5Cの前端部に設けられ、作業装置4を支持する支持ブラケット5Dと、前記底板5Aの前端部から左側に延びつつ屈曲して後側に延びた左サイドフレーム5Eと、前記底板5Aの前端部から右側に延びつつ屈曲して後側に延びた右サイドフレーム5Fとにより大略構成されている。
【0026】
ここで、旋回フレームの前側位置には、左寄りに位置して左サイドフレーム5Eの上方を左,右方向に延びる前梁5Gと、該前梁5Gの右側に位置して支持ブラケット5Dの上部から左,右の縦板5B,5Cの上部に延びた略三角形状の上板5Hとが設けられている。そして、旋回フレームの前側位置となる前梁5Gと上板5Hには、左,右方向に間隔をもって後述する防振部材22を取付けるための防振部材取付孔5Jとボルト挿通孔5K(図8参照)とがそれぞれ形成されている。
【0027】
また、旋回フレーム5上には、後側に位置してエンジン6(図1中に点線で図示)が搭載され、後述するチルトフロア9の足置き場12の下側となる左前側に位置してコントロールバルブが搭載され、チルトフロア9の右側に位置して作動油タンク、燃料タンク(いずれも図示せず)が搭載されている。
【0028】
7はエンジン6の後側に位置して旋回フレーム5の後端部に取付けられたカウンタウエイトである。このカウンタウエイト7は、作業装置4との重量バランスをとるもので、後向きに突出した凸湾曲形状をなしている。また、カウンタウエイト7は、所望の高さ寸法をもって形成されており、後述するチルトフロア9のフロア取付部11を取付けるための支持構造体を構成している。
【0029】
8はキャブボックス16の周囲に位置して旋回フレーム5上に設けられた外装カバーである。この外装カバー8は、旋回フレーム5上に搭載されたエンジン6、熱交換器、作動油タンク、燃料タンク等の機器を覆うものである。
【0030】
9は旋回フレーム5上の左側寄りに設けられたチルトフロアである。このチルトフロア9は、その前側位置が後述のフロア支持機構17を介して旋回フレーム5の前側位置となる前梁5G、上板5Hに支持され、後側位置が支持構造体をなすカウンタウエイト7に支持されている。また、チルトフロア9は、図3、図5に示すように、後側に位置してステップ状に形成された運転席台座10と、該運転席台座10の後部から後向きに延びたフロア取付部11と、前記運転席台座10の前側に位置してオペレータが足を置く足置き場12とにより大略構成されている。
【0031】
また、運転席台座10上には、後述の運転席15が搭載される。また、フロア取付部11は、チルトフロア9をチルトダウンした状態で、カウンタウエイト7の上部に防振部材(図示せず)を介してボルト止めされる。
【0032】
ここで、チルトフロア9の前側位置となる足置き場12の前側は、レバー・ペダル取付部12Aとなっている。このレバー・ペダル取付部12Aには、左,右方向のほぼ中央に位置して後述の走行用の操作レバー・ペダル15を取付けるための中央取付口12A1と、該中央取付口12A1を挟んで位置する左取付口12A2,右取付口12A3とが設けられている。また、各取付口12A2,12A3には、作業装置4を揺動操作するペダル、予備ペダル等が取付けられている。一方、レバー・ペダル取付部12Aの下面側には、左,右方向に間隔をもって後述するヒンジ部材18の上側ブラケット19が取付けられている。
【0033】
さらに、チルトフロア9の前側に位置するレバー・ペダル取付部12Aには、工具挿通孔12Bが形成されている。この工具挿通孔12Bは、旋回フレーム5上にチルトフロア9を組付けたときに、左,右の防振部材取付孔5Jの上方でほぼ同軸となる位置に配置されている。そして、工具挿通孔12Bは、後述する防振部材22の取付軸26に形成された雄ねじ部26Aに螺合するナット31を締付けたり、緩めたりするときに使用する工具、例えばソケットレンチS(図7中に二点鎖線で図示)を挿通させるものである。これにより、ナット31を締付けたり、緩めたりする作業、即ち、旋回フレーム5に対するチルトフロア9の取付け、取外し作業等を容易に行うことができる。
【0034】
13はチルトフロア9を構成する運転席台座10上に設けられた運転席(図1、図2参照)で、該運転席13は、オペレータが着座するものである。また、運転席13の左,右両側には、作業装置4等を操作するための作業用の操作レバー14(左側のみ図示)が配設されている。さらに、運転席13の前方となる足置き場12のレバー・ペダル取付部12Aには、下部走行体2を走行させるときに手動操作または足踏み操作によって操作する走行用の操作レバー・ペダル15が設けられている。
【0035】
16は運転席13の周囲を覆うようにチルトフロア9に設けられた建屋としてのキャブボックスである。このキャブボックス16は、運転席13の上方と周囲を覆うことにより、オペレータの居住空間を形成するものである。また、キャブボックス16は、前面部16A、後面部16B、左側面部16C、右側面部(図示せず)、天面部16Dからなり、左側面部16Cには出入り用のドア16Eが開閉可能に取付けられている。そして、キャブボックス16は、その下部がチルトフロア9の周囲にボルト止めされている。
【0036】
ここで、チルトフロア9、運転席13、作業用の操作レバー14、走行用の操作レバー・ペダル15、キャブボックス16等は、旋回フレーム5上に搭載された一つのユニットとして構成され、図2等に示す如く、後述のフロア支持機構17を支点として上,下方向に傾転可能となっている。
【0037】
次に、旋回フレーム5に対してチルトフロア9を傾転可能に支持するフロア支持機構17について述べる。
【0038】
図5ないし図8において、17は旋回フレーム5の前側位置とチルトフロア9の前側位置との間に設けられた左,右のフロア支持機構を示している。この左,右のフロア支持機構17は、左,右方向に間隔をもって2個、例えばチルトフロア9の左,右方向の両端部に配置されている。また、フロア支持機構17は、後述のヒンジ部材18と防振部材22とにより構成されている。
【0039】
18はチルトフロア9側に設けられた左,右のヒンジ部材である。このヒンジ部材18は、図5、図6等に示すように、足置き場12のレバー・ペダル取付部12Aに設けられた上側ブラケット19と、該上側ブラケット19の下側に対向して設けられた下側ブラケット20と、前記上側ブラケット19と下側ブラケット20とを回動可能に連結する連結ピン21とにより構成されている。
【0040】
ここで、上側ブラケット19は、前,後方向に延びる縦板からなり、その上側部分がレバー・ペダル取付部12Aの下側位置に溶接手段等を用いて一体的に固着されている。また、上側ブラケット19は、下側ブラケット20の左,右方向の幅寸法よりも僅かに大きな間隔寸法をもって左,右方向に離間した2枚を一対とし互いに平行に延びている。これにより、各上側ブラケット19は、後述する防振部材22の上方に位置するレバー・ペダル取付部12Aの左,右の取付口12A2,12A3の前側位置で、下側ブラケット20を左,右方向から挟んでいる。さらに、一対の上側ブラケット19には、図8に示すように、前側寄りに位置して左,右方向に貫通するピン挿嵌孔19Aが同軸に設けられ、該ピン挿嵌孔19Aは、後述する連結ピン21の端部を支持するものである。
【0041】
一方、下側ブラケット20は、レバー・ペダル取付部12Aに対面する矩形状の横板部20Aと、該横板部20Aの左,右両側に立設された略三角形状の縦板部20Bとにより構成されている。また、横板部20Aのほぼ中央には、防振部材接続孔20Cが上,下方向に貫通して設けられ、該防振部材接続孔20Cには、後述の防振部材22を構成する取付軸26の雄ねじ部26Aが挿通される。また、各縦板部20Bには、高くなった前側に位置して連結ピン21が回転可能に挿通されるピン挿通孔20Dが同軸に形成されている。この場合、ピン挿通孔20Dは、図7に示す如く、防振部材接続孔20Cに挿通された取付軸26の雄ねじ部26Aに後述のナット31を螺着するときに、ソケットレンチSが干渉しないように、防振部材接続孔20Cから前側にずらして配置されている。
【0042】
さらに、連結ピン21は、左,右の上側ブラケット19間に下側ブラケット20の各縦板部20Bを配置し、この状態でピン挿嵌孔19A、ピン挿通孔20Dに挿嵌することにより、各ブラケット19,20を回動可能に支持している。このように、ヒンジ部材18は、板体からなる2枚の上側ブラケット19間に下側ブラケット20を配置して連結ピン21によって連結するだけの単純な構成とすることができる。
【0043】
22はヒンジ部材18と共にフロア支持機構17を構成する防振部材で、該防振部材22は、ヒンジ部材18の下側に位置して旋回フレーム5の前側位置と下側ブラケット20との間に設けられ、主に、旋回フレーム5の前側位置となる前梁5G、上板5Hにそれぞれ設けられている。そして、防振部材22は、旋回フレーム5の振動がチルトフロア9に伝わるのを防止するものである。
【0044】
ここで、本実施の形態による防振部材22は、後述する取付軸26の先端側を下側ブラケット20に対し後述のナット31を用いて取付け、取外しする構成となっているから、ナット31を緩めたり、締付けたりするだけで、ヒンジ部材18に接続したり、分離したりすることができる。これにより、防振部材22は特別な取付構造を要しないから、この防振部材22として一般的に市販されている安価な汎用品を用いることができる。この場合、防振部材22は、市販されている多種多様の防振部材の中から、ばね定数、取付構造等の条件に合ったものが用いられ、本実施の形態では、例えば液体封入式の防振部材が用いられている。また、防振部材22は、図7、図8に示すように、後述のケーシング23、弾性体25、取付軸26、粘性液体28、可動筒体29等により構成されている。
【0045】
23は防振部材22の外形をなすケーシングで、該ケーシング23は、上側に開口する有底筒体として形成され、その開口側には固定用のフランジ部23Aが設けられている。また、ケーシング23は、旋回フレーム5の前梁5G、上板5Hに設けられた防振部材取付孔5Jに下側から挿嵌され、ボルト挿通孔5Kに挿通したボルト24をフランジ部23Aに螺着することにより前梁5G、上板5Hに取付けられている。
【0046】
25はケーシング23の開口を閉塞するように該ケーシング23内に設けられた弾性変形可能な弾性体で、該弾性体25は、ケーシング23内に後述の粘性液体28を封入するものである。ここで、弾性体25は、例えばゴム等の弾性材料により形成され、その中心部には、後述する取付軸26の基端側が一体的に固着されている。
【0047】
26はケーシング23の開口側に設けられた取付軸で、該取付軸26は、弾性体25の変位に応じて上,下方向に変位するものである。この取付軸26は、上,下方向に延びた基端側が弾性体25の中心部に一体的に固着されている。一方、取付軸26の先端側は、弾性体25から上側に延びて雄ねじ部26Aとなっている。
【0048】
27はケーシング23内に画成された流体室で、該流体室27は、ケーシング23と弾性体25と取付軸26とによって囲まれた密閉空間として構成されている。そして、流体室27内には、例えばシリコン油等の大きな粘性を有する粘性液体28が封入されている。
【0049】
29は流体室27内に位置して取付軸26の下端部に取付けられた可動筒体で、該可動筒体29は、取付軸26の変位に対し減衰力を発生するものである。また、可動筒体29は、流体室27の内径寸法よりも僅かに小さな有蓋円筒状に形成されている。そして、可動筒体29は、流体室27内に封入した粘性液体28に常時浸されており、弾性体25が弾性変形するときに取付軸26と共に粘性液体28中を上,下方向(軸方向)に移動するものである。
【0050】
30はケーシング23と可動筒体29との間に形成された環状通路である。この環状通路30は、ケーシング23内に固着された弾性体25の内周面と可動筒体29の外周面との間に全周に亘って形成された環状の隙間として軸方向に延びている。これにより、環状通路30は、可動筒体29が粘性液体28中を上,下方向に移動し、この粘性液体28が流通することにより、このときに抵抗力を発生するものである。
【0051】
また、31は防振部材22に対してヒンジ部材18を取付けるためのナットである。このナット31は、取付軸26の雄ねじ部26Aを下側ブラケット20の防振部材接続孔20Cに挿通した状態で、該防振部材接続孔20Cから突出した雄ねじ部26Aに螺合することにより、取付軸26と下側ブラケット20とを一体的に接続するものである。
【0052】
なお、32はチルトフロア9をチルトアップ方向に付勢するガスばねを示している。ここで、チルトフロア9をチルトアップ方向に付勢する手段としては、前述したガスばね32の他に、例えばねじ機構、油圧シリンダ、コイルばね等の付勢手段を用いる構成としてもよい。
【0053】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、旋回フレーム5上にチルトフロア9を取付ける場合の作業について説明する。
【0054】
まず、旋回フレーム5側では、防振部材22のケーシング23を旋回フレーム5の前梁5G、上板5Hに設けた防振部材取付孔5Jに下側から挿嵌し、そのフランジ部23Aをボルト24を用いて前梁5G、上板5Hに固定する。これにより、2個の防振部材22を旋回フレーム5の前側位置に左,右方向に間隔をもって配設することができる。
【0055】
一方、チルトフロア9側では、前側のレバー・ペダル取付部12Aに設けた左,右の上側ブラケット19間に下側ブラケット20の各縦板部20Bを配置し、この状態で両者のピン挿嵌孔19A、ピン挿通孔20Dに連結ピン21を挿嵌することにより、各ブラケット19,20を回動可能に連結することができる。このように、ヒンジ部材18は、板体からなる2枚の上側ブラケット19間に下側ブラケット20を配置して連結ピン21によって連結するだけで簡単に組立てることができる。
【0056】
そして、旋回フレーム5側に防振部材22を取付け、チルトフロア9側にヒンジ部材18を組立てたら、防振部材22の真上にヒンジ部材18が位置するように旋回フレーム5上にチルトフロア9を配置し、該旋回フレーム5にチルトフロア9を接近させる。このときには、防振部材22を構成する取付軸26の雄ねじ部26Aを下側ブラケット20の防振部材接続孔20Cに挿通し、該防振部材接続孔20Cから突出した雄ねじ部26Aにナット31を螺合する。また、雄ねじ部26Aにナット31を螺合したら、レバー・ペダル取付部12Aに設けた工具挿通孔12BにソケットレンチSを挿通させ、該ソケットレンチSをナット31に係合させる。これにより、作業者はソケットレンチSによってナット31を締付けることができ、防振部材22に対してヒンジ部材18を取付けることができる。
【0057】
次に、油圧ショベル1の動作について説明すると、まず、オペレータは運転席13に着座し、走行用の操作レバー・ペダル15を操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、作業用の操作レバー14を操作することにより、作業装置4を俯仰動させて土砂の掘削作業等を行なうことができる。
【0058】
ここで、油圧ショベル1の走行時、作業時には振動が発生し、この振動は旋回フレーム5からチルトフロア9に伝わろうとする。このときに、旋回フレーム5に設けた防振部材22は、弾性体25を弾性変形させつつケーシング23に対して取付軸26を変位させることにより、旋回フレーム5からチルトフロア9に伝わる振動を抑えることができる。また、取付軸26が変位するときには、該取付軸26に固定された可動筒体29が粘性液体28中を上,下方向に移動する。これにより、粘性液体28の大きな粘性を利用して振動を減衰することができる。
【0059】
次に、油圧ショベル1のメンテナンス作業を行なう場合について説明する。このメンテナンス作業の対象となるエンジン6、コントロールバルブ等はチルトフロア9の下側に配設されている。このため、チルトフロア9は、図2に示すようにキャブボックス16等と一緒に後側を上側にチルトアップする必要がある。
【0060】
そこで、チルトフロア9を運転席13、キャブボックス16等と一緒にチルトアップするときの作業について説明する。まず、チルトフロア9のフロア取付部11を旋回フレーム5のカウンタウエイト7に取付けているボルト等を取外す。これにより、チルトフロア9は、前側位置に左,右に離間して設けた2個のヒンジ部材18(連結ピン21)を支点とし、チルトフロア9等をガスばね32の付勢力によってチルトアップすることができ、エンジン6、コントロールバルブ等のメンテナンス作業を行うことができる。
【0061】
かくして、本実施の形態によれば、フロア支持機構17を、チルトフロア9の前側位置に設けた上側ブラケット19、下側ブラケット20、連結ピン21からなるヒンジ部材18と、該ヒンジ部材18の下側に位置して旋回フレーム5の前側位置と下側ブラケット20との間に設けられ旋回フレーム5とチルトフロア9との間の振動を抑える防振部材22とにより構成している。
【0062】
従って、ヒンジ部材18は、上側ブラケット19、下側ブラケット20および連結ピン21からなる部品点数の少ない単純な構成とすることができる。また、防振部材22は、特別な取付構造ではなく、例えばナット31の着脱だけでヒンジ部材18に接続、分離できるから、防振部材22として一般的に市販されている安価な汎用品を用いることができる。
【0063】
この結果、ヒンジ部材18の構成を簡略化でき、かつ、防振部材22を安価な汎用品とすることができるから、フロア支持機構17の構成を簡略化して安価に製造することができる。また、ヒンジ部材18の下側に防振部材22を設ける構成としているから、フロア支持機構17を小さなスペースに配置することができる。
【0064】
また、フロア支持機構17を左,右方向に間隔をもって2個設けているから、チルトフロア9を安定的に支持することができ、チルトアップした状態でも安定的に支持することができる。これにより、掘削作業、メンテナンス作業時の作業性や油圧ショベル1に対する信頼性を向上することができる。
【0065】
一方、ヒンジ部材18の下側ブラケット20の横板部20Aに上,下方向に貫通して防振部材接続孔20Cを設け、防振部材22の取付軸26は、上方に延びた先端側を雄ねじ部26Aとして形成し、その雄ねじ部26Aにはナット31を螺合する構成としている。従って、防振部材22の取付軸26に形成した雄ねじ部26Aを下側ブラケット20の防振部材接続孔20Cに貫通し、その突出部にナット31を螺着することにより前記防振部材22に対し前記下側ブラケット20を分離可能に接続することができる。これにより、ナット31の着脱という簡単な作業でヒンジ部材18と防振部材22とを接続したり、切り離したりすることができ、生産性、メンテナンス作業性等を向上することができる。
【0066】
さらに、チルトフロア9の足置き場12のレバー・ペダル取付部12Aには、ナット31を回すためのソケットレンチSが挿通される工具挿通孔12Bを形成している。これにより、ナット31を締付けたり、緩めたりするときには、工具挿通孔12Bを介してソケットレンチSをナット31に容易に係合させることができ、生産性、メンテナンス作業性等をより一層向上することができる。
【0067】
なお、実施の形態では、防振部材22を、ケーシング23、弾性体25、取付軸26、粘性液体28、可動筒体29等からなる液体封入式の防振部材として構成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、他の防振部材を適用する構成としてもよい。例えばゴム等の弾性体だけで振動を緩和する防振部材や、付勢手段として別個にコイルばね等を備えた防振部材等を適用してもよい。
【0068】
また、実施の形態では、建設機械として運転席13の周囲と上側を覆うキャブボックス16を備えたキャブ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば複数本のピラーとルーフによって運転席の上側を覆うキャノピを備えたキャノピ式の油圧ショベルに適用してもよい。
【0069】
さらに、実施の形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベルを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、例えばホイール式の油圧ショベル、油圧クレーン等の他の建設機械にも適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 作業装置
5 旋回フレーム
5G 前梁(前側位置)
5H 上板(前側位置)
9 チルトフロア
10 運転席台座
11 フロア取付部
12 足置き場
12A レバー・ペダル取付部(前側位置)
12B 工具挿通孔
13 運転席
17 フロア支持機構
18 ヒンジ部材
19 上側ブラケット
20 下側ブラケット
20C 防振部材接続孔
21 連結ピン
22 防振部材
23 ケーシング
25 弾性体
26 取付軸
26A 雄ねじ部
31 ナット
S ソケットレンチ(工具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前,後方向の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とからなり、
前記上部旋回体は、支持構造体をなす旋回フレームと、該旋回フレーム上に前側を支点として傾転可能に設けられ運転席を有するチルトフロアと、該チルトフロアを傾転可能に支持するために前記旋回フレームの前側位置と前記チルトフロアの前側位置との間に設けられたフロア支持機構とを備えてなる建設機械において、
前記フロア支持機構は、前記チルトフロアの前側位置に設けられた上側ブラケットと該上側ブラケットに対し左,右方向に延びる連結ピンを介して連結された下側ブラケットとから形成されたヒンジ部材と、該ヒンジ部材の下側に位置して前記旋回フレームの前側位置と前記下側ブラケットとの間に設けられ前記旋回フレームとチルトフロアとの間の振動を抑える防振部材とにより構成したことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記フロア支持機構は、左,右方向に間隔をもって2個設ける構成としてなる請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記防振部材は、上側が開口した有底筒体からなるケーシングと、該ケーシングの開口を閉塞するように該ケーシング内に設けられた弾性変形可能な弾性体と、基端側が該弾性体に固着され先端側が前記ケーシングから上方に延び該弾性体の変位に応じて上,下方向に変位する取付軸とにより構成し、
前記防振部材のケーシングは前記旋回フレームに取付け、前記防振部材の取付軸の先端側は前記下側ブラケットに取付ける構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記チルトフロアの前側位置には、前記下側ブラケットに対し前記取付軸の先端側を取付け、取外しするための工具を挿通する工具挿通孔を設ける構成としてなる請求項3に記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117194(P2011−117194A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275735(P2009−275735)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】