説明

建設機械

【課題】アッパーフレーム前端部にブラケットをボルト止めし、このブラケットとガード部材とを軸体とストッパから成る係止機構によって止め付ける構造を前提として、ブラケットの上下位置調整機能を確保しながら、機械転倒時のブラケットの上向き移動を防止する。
【解決手段】ガード部材の下端部をアッパーフレーム3の前端部に対し、係止機構により、防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する状態で止め付ける。これを前提として、ブラケット14の取付穴18を、機械の転倒時にキャブに作用する荷重の方向に対して直交またはほぼ直交する傾斜した横長穴として形成するとともに、係止機構の軸体が貫通する軸体貫通穴22を左右に長い横長穴として形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械の転倒時にキャブを防護してキャブ内のオペレータ空間を確保するためのガード構造を改良した油圧ショベル等の建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
油圧ショベルは、図9に示すようにクローラ式の下部走行体1上に上部旋回体2が地面に対して鉛直な縦軸Oまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体2のアッパーフレーム3の左右一側にオペレータが搭乗する操縦室としてのキャブ4が設けられるとともに、反対側にブーム5を備えた作業アタッチメント6が起伏自在に取付けられて成っている。
【0004】
以下、図示のようにキャブ4内のオペレータから見てアッパーフレーム左側にキャブ4、右側に作業アタッチメント6が配置される一般的な油圧ショベルの場合で説明する。
【0005】
図9中、7はアッパーフレーム3の後端部に設けられたカウンタウェイトである。
【0006】
アッパーフレーム3は、図10に示すように左前部にキャブ取付部8を有し、キャブ4がこのキャブ取付部8に、キャブ底部の四隅に配置された緩衝用の防振マウント9…を介して搭載される。
【0007】
防振マウント9は、特許文献1,2に示されているように、防振ゴム等の弾性体によってキャブ4を上下方向の一定ストロークで上下及び水平方向に移動可能に弾性支持し、この防振マウント9…によってキャブ4の振動が緩和される。
【0008】
この油圧ショベルにおいて、機械の転倒時(キャブ側である左側への横転倒時。以下にいう「転倒時」について同じ)に、キャブ内にDLV(Deflection-Limiting Volume)と称されるオペレータ空間が確保されるようにキャブ4の変形を抑制し得ることがキャブ規格(ROPS)として定められている。
【0009】
このROPS規格をクリアするための構成として、キャブ4を補強するガード部材をキャブ4の要所(たとえば上半分)に取付けた構造(特許文献3参照)、またはガード部材を、キャブを囲う状態でアッパーフレーム3に取付けた構造(特許文献4参照)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−189089号
【特許文献2】特許第3671790号
【特許文献3】特開2005−35316号
【特許文献4】特開2000−229548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ガード部材をキャブ4のみに取付けた特許文献3の構成では、キャブ4そのものの補強効果はあるものの、転倒時にキャブ4がアッパーフレーム3から引き剥がされる方向の外力に対して無力となり、キャブ4がアッパーフレーム3から離脱するおそれがある。
【0012】
一方、ガード部材をアッパーフレーム3に取付けた特許文献4の構成では、上記キャブ4の離脱防止の点で有効となるが、図10に示すように防振マウント9を備えた機械においては同マウント9の緩衝機能がガード部材によって殺されてしまうという弊害が生じる。
【0013】
ところで、出願人は、上記課題を解決する技術として、ガード部材を、キャブ4の少なくとも前面部を覆う状態でキャブ4に取付け、このガード部材の、キャブ前面部を覆う前側部分の下端部をアッパーフレーム3の前端部に対して、防振マウント9によるキャブ4の上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付ける技術を特願2009−176176号として出願した。
【0014】
この技術によると、防振マウント9の緩衝機能を生かしながら、キャブ4をアッパーフレーム3から引き剥がす方向の外力に対してガード部材を有効に作用させることができる。
【0015】
そして、この技術を具現化する構造として、アッパーフレーム3の前端部にブラケットを前方に突出して設けるとともに、ガード部材の前側部分の下端部とこのブラケットとに跨って軸体を設け、この軸体に、これの移動量を防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するストッパを設ける構造を提案した。
【0016】
この構造において、ストッパとブラケット上面部との間に、防振マウントの緩衝ストローク相当のクリアランスを確保する必要があるため、ブラケットをアッパーフレーム前端部にボルト止めする場合、ブラケットをアッパーフレーム前端部に対して上下位置調整自在に取付ける必要がある。
【0017】
この場合、常識的にはボルトが通される取付穴を上下に長い長穴とし、この長穴の範囲でブラケットを上下位置調整することになる。
【0018】
しかし、こうすると、長穴の方向が、ショベル転倒時にキャブに作用する荷重の方向(やや右倒れに傾いた上向き)とほぼ一致するため、ボルト締結力以上の荷重がかかるとブラケットがキャブとともに上向き移動する。
【0019】
こうなると、キャブの移動量が設定値以上に大きくなってキャブ内のDLVが減少するおそれがある。
【0020】
そこで本発明は、機械転倒時のキャブガード策として、ブラケットをアッパーフレーム前端部にボルト止めし、このブラケットとガード部材とを軸体とストッパから成る係止機構によって止め付ける構造を前提として、ブラケットの上下位置調整機能を確保しながら、機械転倒時のブラケットの上向き移動を防止することができる建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、下部走行体上に上部旋回体を地面に対して鉛直な縦軸まわりに旋回自在に搭載し、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側にオペレータが搭乗するキャブを、緩衝用の防振マウントを介して、同マウントの緩衝ストロークの範囲で上下及び水平方向に移動可能に設け、かつ、次の(A)〜(F)の構成を備えたものである。
【0022】
(A) 機械の転倒時にキャブを防護するためのガード部材を、キャブの少なくとも前面部を覆う状態でキャブに取付けていること。
【0023】
(B) 上記アッパーフレームの前端部にブラケットを前方に突出して設けていること。
【0024】
(C) 上記ガード部材の、上記キャブ前面部を覆う前側部分の下端部を上記ブラケットに上記防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付けていること。
【0025】
(D) 上記係止機構は、上記ブラケットとガード部材とに跨って、かつ、ガード部材と一体に上下方向に移動可能に設けられた軸体と、アッパーフレーム側に係止して上記軸体の移動量を上記防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するように上記軸体の外周に設けられたストッパとによって構成していること。
【0026】
(E) 上記ブラケットに、同ブラケットをアッパーフレーム前端面にボルト止めするための取付穴と、上記係止機構の軸体が貫通する軸体貫通穴とを設けていること。
【0027】
(F) 上記取付穴を、キャブが接地する方向の機械の横転倒時にキャブに作用する荷重の方向に対して直交またはほぼ直交する傾斜した横長穴として形成するとともに、上記軸体貫通穴を左右に長い横長穴として形成していること。
【0028】
この構成によれば、ボルトが通されるブラケットの取付穴を、機械の転倒時にキャブに作用する荷重の方向に対して直交またはほぼ直交する傾斜した横長穴として形成しているため、もし機械が転倒してもブラケットがキャブに引っ張られて上向き移動するおそれがない。
【0029】
従って、キャブの移動量を防振マウントの緩衝ストローク(クリアランス)以下に抑え、DLVを確保することができる。
【0030】
しかも、取付穴は傾斜した横長穴であるため、傾斜分によってブラケットの上下位置を調整することができる。
【0031】
ここで、上記のように取付穴の傾斜分でブラケットの上下位置を調整する構成とすると、この上下位置調整によってブラケットと軸体の左右方向の相対位置がずれてしまう。
【0032】
この点、本発明では軸体貫通穴を左右に長い長穴としているため、この軸体貫通穴によって軸体とブラケットの左右方向の相対位置を調整し適正に保つことができる。
【0033】
本発明においては、上記構成において、上記軸体を、ガード部材側に固定した雌ねじ体と、アッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込んだねじ軸と、このねじ軸に外嵌させたスリーブとによって構成し、上記ねじ軸の締め込み力により上記スリーブを上記雌ねじ体に圧接させてねじ軸の弛み止めのための軸力を発生させるように構成するのが望ましい(請求項2)。
【0034】
この構成によれば、ガード部材側に雌ねじ体を固定し、ねじ軸をアッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込む構成であるため、上記ブラケットの上下及び左右方向の位置調整機能と合わせて係止機構の組み付けがきわめて簡単となる。
【0035】
また、ねじ軸の締め込み力により、ねじ軸に外嵌させたスリーブを雌ねじ体に圧接させて弛み止めのための軸力を発生させる構成としたから、振動等によるねじ軸の弛みを防止し、クリアランスを一定に保つことができる。
【0036】
また本発明においては、請求項1または2の構成において、上記ガード部材に、上記前側部分の上端から後方に延びてキャブの天井を覆う後側部分を設け、これら前側及び後側両部分をキャブに取付けるのが望ましい(請求項3)。
【0037】
このように、ガード部材を、キャブ前面部と天井とに跨ってキャブに取付けることにより、キャブとガード部材の双方が互いに補強し合い、キャブをアッパーフレームから引き剥がす方向の外力に対してキャブとガード部材が協働して高い抗力を発揮する。
【0038】
すなわち、ブラケットと係止機構によるキャブ離脱防止効果を一層確実なものとすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、ブラケットの上下位置調整機能を確保しながら、機械転倒時のブラケットの上向き移動を防止し、DLVを確保して安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態にかかるアッパーフレームとキャブの分解斜視図である。
【図2】同組立状態の斜視図である。
【図3】同側面図である。
【図4】同正面図である。
【図5】図4のX部の拡大図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】ブラケットの一部を切欠きかつ分解した斜視図である。
【図9】本発明の適用対象例である油圧ショベルの概略斜視図である。
【図10】同ショベルのアッパーフレームとキャブの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態を図1〜図8によって説明する。
【0042】
実施形態では、背景技術の説明に合わせて油圧ショベルを適用対象としている。実施形態において、図9,10に示す部分と同一部分には同一符号を付して示し、その重複説明を省略する。
【0043】
アッパーフレーム3の左前部にキャブ取付部8が設けられ、キャブ4がこのキャブ取付部8に四隅で防振マウント9…で弾性支持された状態で取付けられる。
【0044】
キャブ4には、機械の転倒時にキャブ4を防護するためのガード部材10が取付けられている。
【0045】
このガード部材10は、キャブ前面部の左右両側を覆う前側部分11と、この前側部分11の上端から後方に延びてキャブ天井を覆う後側部分12とが連続する形状(側面視鉤形)に形成され、前側及び後側両部分11,12がキャブ4(具体的には前ピラーを含むキャブ骨組)にボルト止めされている。
【0046】
前側及び後側両部分11,12は、それぞれ左右両側フレーム11a,11a,12a,12a間に複数本の梁材が設けられた枠状に形成されている。
【0047】
ここで、前側部分11の下端部、すなわち、左右両側フレーム11a,11aの下端部間に梁材13が懸架固定される一方、アッパーフレーム3の前端部左右両側にブラケット14,14が前向きに突設され、このブラケット14,14と梁材13とが、防振マウント9…によるキャブ4の上下移動を許容する係止機構A,Aによって止め付けられている。
【0048】
両側ブラケット14,14は同一構成を備え、代表としてその一方の詳細を図5〜図8によって説明する。なお、図の複雑化を避けるためブラケット14の構成要素に関する符号は図8のみに示す。
【0049】
ブラケット14は、図8に示すように左右に間隔を置いて平行に配置された垂直な左右両側板15,15と、この両側板15,15の後端間に架け渡された背板16と、両側板15,15及び背板16の上面を覆う水平な上板17とによって構成されている。
【0050】
背板16には取付穴18が設けられ、取付ボルト19(図ではボルト二本、取付穴二個の場合を示す。以下、この場合で説明する)がこの取付穴18,18、及びアッパーフレーム前端部に設けられたボルト通し穴(図8のみに符号を付している)20,20に通されてナット(図6のみ示す)21,21で締結される。
【0051】
これにより、ブラケット14がアッパーフレーム前端部に取付けられる。
【0052】
また、上板17には、後述する係止機構Aの軸体が貫通する軸体貫通穴22が左右方向に長い長穴として設けられている。
【0053】
ここで、ブラケット14は、後述するように係止機構Aとの取り合いの関係から上下位置調整自在に取付ける必要がある。
【0054】
この場合、常套手段としては、取付穴18,18を上下に長い縦長穴とし、この縦長穴の範囲でブラケット14を上下位置調整することになる。
【0055】
しかし、これでは次の問題が生じる。
【0056】
ショベル転倒時に、キャブ4の上端側が接地することによって荷重W(図7参照)が作用する。
【0057】
この荷重Wの方向は、キャブ4から見てやや右倒れ(図7では正面視のため左倒れ)に傾いた上向きとなる。図7中、Lはこの荷重Wの作用方向を示す線(以下、荷重作用線という)である。
【0058】
この場合、取付穴18,18が単なる鉛直な縦長穴であると、この取付穴18,18の長手方向と荷重Wの方向(荷重作用線L)とがほぼ一致するため、取付ボルト20及びナット21による締結力以上の荷重がかかるとブラケット14がキャブ4とともに上向きに移動してしまう。
【0059】
こうなると、キャブ4の移動量が係止機構Aによって設定される値以上に大きくなってキャブ内のDLVが減少するおそれがある。
【0060】
この点の対策として、取付穴18,18は、図示のように荷重作用線Lに対して直交またはほぼ直交する、少し左上がり(図7の方向性では右上がり)に傾斜した横長穴として形成されている。
【0061】
こうすれば、もしショベルが転倒しても、ブラケット14がキャブ4に引っ張られて荷重作用線Lの方向に移動するおそれがない。
【0062】
しかも、取付穴18,18は傾斜した横長穴であるため、図7中に示す傾斜による上下方向成分αによってブラケット14の上下位置を調整することができる。
【0063】
なお、取付穴18,18について荷重作用線Lと「ほぼ直交」とは、「直交」を最良として上記ショベル転倒時のブラケット14の上向き移動を防止し得る角度範囲をさす。
【0064】
また、取付穴18,18の長さと、図7中に示す水平線に対する傾斜角度θは、上記ショベル転倒時のブラケット14の上向き移動を防止し得る範囲で上下方向成分αの必要寸法に応じて適宜設定することができる。
【0065】
ここで、上記のように取付穴18,18の傾斜分でブラケットの上下位置を調整する構成とすると、この上下位置調整によってブラケット18の左右方向位置がずれてしまい、後述する係止機構Aの軸体との相対位置が狂ってしまう。
【0066】
そこで、ブラケット18の軸体貫通穴22が左右に長い長穴として形成され、この軸体貫通穴22によって軸体とブラケット14の左右方向の相対位置を適正に保つように構成されている。
【0067】
左右両側の係止機構A,Aは同一構成を備え、代表としてその一方の詳細を図5,6によって説明する。
【0068】
この係止機構Aは軸体23を備え、この軸体23がブラケット14の軸体貫通穴22を貫通する状態でブラケット14と梁材13とに跨って設けられている。
【0069】
軸体23は、梁材13に鉛直に固定された雌ねじ体24と、ブラケット14側から軸体貫通穴22を貫通してこの雌ねじ体24にねじ込まれたねじ軸としてのボルト25と、このボルト25に外嵌されたリング状のストッパ26と、このストッパ26をボルト頭部に上方から押さえ固定する円筒状のスリーブ27とから成り、ストッパ26とブラケット14の上面部(図8の上板17の下面)との間に、軸体23の上下移動量を防振マウント9…の緩衝ストロークに相当する大きさに制限するクリアランスcが形成される状態で、ボルト25が雌ねじ体24にねじ込まれて係止機構Aが構成されている。
【0070】
こうして、ガード部材10の前側部分11が、係止機構A及びブラケット14,14を介してアッパーフレーム3の前端部に、クリアランスc(防振マウント9…の緩衝ストローク)の範囲で上下移動可能な状態で連結されている。
【0071】
この構成によると、防振マウント9…による緩衝機能を生かしながら、キャブ4をアッパーフレーム3から引き剥がす方向の外力を係止機構Aによって受け止め、キャブ4のアッパーフレーム3からの離脱を防止することができる。
【0072】
ここで、係止機構Aを、大強度を確保し易いガード部材10とアッパーフレーム3との間に設けているため、キャブ4の離脱防止効果がより確実となる。
【0073】
しかも、ガード部材10を、キャブ前面部と天井とに跨ってキャブ4に取付けているため、キャブ4とガード部材10の双方が互いに補強し合い、キャブ4をアッパーフレーム3から引き剥がす方向の外力に対してキャブとガード部材が協働して高い抗力を発揮する。
【0074】
また、アッパーフレーム3の前端部にブラケット14,14を前向きに突設し、ガード部材前側部分11の下端部をこのブラケット14,14に係止機構Aによって止め付けたから、アッパーフレーム3を前方に延長させるなどの大がかりな改造が不要となり、既存の機械にも簡単にアドオンすることができる。
【0075】
加えて、アッパーフレーム側(ブラケット14)とガード部材側(梁材13)とに跨って、かつ、ガード部材10と一体に上下方向に移動可能に設けた軸体23と、アッパーフレーム側に係止して軸体23の移動量を防振マウント9の緩衝ストロークに相当する大きさに制限するストッパ26とによって係止機構Aを構成したから、係止機構Aの構造が簡単で組み込みが容易となる。
【0076】
とくにこの実施形態では、ガード部材側に雌ねじ体24を固定し、ストッパ26付きのボルト25をブラケット14側からこの雌ねじ体24にねじ込む構成であるため、前記のようにブラケット14が上下及び左右方向に位置調整自在であることと合わせて係止機構Aの組み付けがきわめて簡単となる。
【0077】
また、ボルト25を締め込むと、スリーブ27が雌ねじ体24に圧接して軸力(ボルト25を下向きに押す力)が発生するため、これによってボルト25の弛みが防止され、クリアランスc(軸体23の移動量)が一定に保たれる。
【0078】
なお、クリアランスcは、スリーブ27の長さ寸法を変えることによって任意にかつ簡単に選択、調節することができる。
【0079】
他の実施形態
(1) ブラケット14を一本または三本以上の取付ボルト19でアッパーフレーム下端部に取付けてもよく、この取付ボルト19の本数に応じて取付穴18を設ければよい。
【0080】
また、ブラケット14及び係止機構Aを左右両側と中間の計三個所またはそれ以上に設けてもよい。
【0081】
(2) 上記実施形態では、アッパーフレーム3の前端面が地面に対して垂直(鉛直)に形成されていることを前提として、ブラケット14の背板16をアッパーフレーム前端面に対応する垂直板とし、この背板16を前後方向に水平に貫通する状態で取付穴18を設けたが、アッパーフレーム前端面が前方に向かって先下がりの傾斜面、または反対方向の傾斜面に形成される場合は、ブラケット背板16をこれに対応する傾斜板として形成し、取付穴18をこの背板16と直角で前後方向に傾いた貫通穴として形成すればよい。
【0082】
この場合、取付穴18での上下位置調整によってブラケット14の前後方向の位置もずれるため、軸体貫通穴22を、この前後のずれを考慮した幅広の長穴として対応することとなる。
【0083】
(3) ガード部材10を上記実施形態の前側部分11のみで構成してもよい。
【0084】
(4) 係止機構Aに関して、上記実施形態では軸体23を、ねじ軸(ボルト)18と、雌ねじ体24と、ストッパ26と、スリーブ27とで構成したが、下端部にストッパとしての頭部を備えた軸を、ブラケット14の軸体貫通穴22を貫通する状態で、かつ、上記実施形態と同様にブラケット上面部との間にクリアランスが形成される状態でブラケット14と梁材13とに跨って配置し、この軸の上端側を梁材13に固定してストッパ付きの軸体を構成してもよい。
【0085】
(5) 本発明は油圧ショベルに限らず、油圧ショベルを母体として構成される解体機や破砕機を含めて、キャブがアッパーフレームに防振マウントを介して搭載される建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 下部走行体
2 上部旋回体
3 アッパーフレーム
4 キャブ
8 アッパーフレームのキャブ取付部
9 防振マウント
10 ガード部材
11 ガード部材の前側部分
11a,11a 前側部分の左右両側フレーム
12 後側部分
12a,12a 後側部分の左右両側フレーム
13 前側部分の梁材
14 ブラケット
18 ブラケットの取付穴
19 ブラケット取付用のボルト
21 同ナット
22 軸体貫通穴
A 係止機構
23 軸体
24 雌ねじ体
25 ボルト(ねじ軸)
26 ストッパ
27 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に上部旋回体を地面に対して鉛直な縦軸まわりに旋回自在に搭載し、この上部旋回体を構成するアッパーフレームの左右片側にオペレータが搭乗するキャブを、緩衝用の防振マウントを介して、同マウントの緩衝ストロークの範囲で上下及び水平方向に移動可能に設け、かつ、次の(A)〜(F)の構成を備えたことを特徴とする建設機械。
(A) 機械の転倒時にキャブを防護するためのガード部材を、キャブの少なくとも前面部を覆う状態でキャブに取付けていること。
(B) 上記アッパーフレームの前端部にブラケットを前方に突出して設けていること。
(C) 上記ガード部材の、上記キャブ前面部を覆う前側部分の下端部を上記ブラケットに上記防振マウントによるキャブの上下及び水平方向の移動を許容する係止機構によって止め付けていること。
(D) 上記係止機構は、上記ブラケットとガード部材とに跨って、かつ、ガード部材と一体に上下方向に移動可能に設けられた軸体と、アッパーフレーム側に係止して上記軸体の移動量を上記防振マウントの緩衝ストロークに相当する大きさに制限するように上記軸体の外周に設けられたストッパとによって構成していること。
(E) 上記ブラケットに、同ブラケットをアッパーフレーム前端面にボルト止めするための取付穴と、上記係止機構の軸体が貫通する軸体貫通穴とを設けていること。
(F) 上記取付穴を、キャブが接地する方向の機械の転倒時にキャブに作用する荷重の方向に対して直交またはほぼ直交する傾斜した横長穴として形成するとともに、上記軸体貫通穴を左右に長い横長穴として形成していること。
【請求項2】
上記軸体を、ガード部材側に固定した雌ねじ体と、アッパーフレーム側からこの雌ねじ体にねじ込んだねじ軸と、このねじ軸に外嵌させたスリーブとによって構成し、上記ねじ軸の締め込み力により上記スリーブを上記雌ねじ体に圧接させてねじ軸の弛み止めのための軸力を発生させるように構成したことを特徴とする請求項1記載の建設機械。
【請求項3】
上記ガード部材に、上記前側部分の上端から後方に延びてキャブの天井を覆う後側部分を設け、これら前側及び後側両部分をキャブに取付けたことを特徴とする請求項1または2記載の建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−154054(P2012−154054A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12522(P2011−12522)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】