説明

建設機械

【課題】建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減できる建設機械を提供することにある。
【解決手段】建設機械200は、トルク指令に基づき制御されるディーゼルエンジン101と、ディーゼルエンジンと機械的に結合された電動機102と、電動機に電力を供給する蓄電装置111とを有し、ディーゼルエンジンと電動機により油圧ポンプ103を駆動して作業を行う。速度制御器118は、速度指令に基づき電動機102の速度を制御する。トルク制限器115は、トルク目標に基づき時間変化率を制限されたトルク指令を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に係り、特に、内燃機関と電動機により油圧発生機を駆動し、油圧により作業を行う建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド建設機械において、できるだけ簡単な構成で、電動・発電機によりエンジンのアシスト作動や発電作動を行わせ、エンジンを目標とする運転状態に正確に制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。そのために、特許文献1では、コントローラにおいて、設定回転数の最適トルクに対応したエンジン回転数を目標回転数として求め、エンジンの負荷トルクが大きくエンジン回転数が目標回転数よりも低いときは、偏差に応じて電動・発電機を電動機として作動させトルクアシストを行い、エンジンの負荷トルクが小さくエンジン回転数が目標回転数よりも高いときは、偏差に応じて電動・発電機を発電機として作動させ、発電させてバッテリに蓄電を行うことにより、エンジンを最適運転状態に近づくように制御している。
【0003】
また、油圧負荷が急激に増大したときでも、内燃機関の運転条件を適正に維持しながら、油圧負荷の増大に応じて油圧発生機に供給される動力を増大させるように制御するものが知られている(例えば、特許文献2参照)。そのために、特許文献2では、内燃機関により油圧発生機を駆動して作業を行うとともに、内燃機関の出力の増加率を所定値に設定する。そして、増加率の所定値から求められる内燃機関の出力上限値と、油圧発生機に要求される油圧出力から求められた要求動力とを比較する。要求動力が出力上限値を超えたときに、内燃機関の出力が出力上限値以下になるように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−28071号公報
【特許文献2】特開2009−216058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のものでは、負荷トルクが急変した場合の過渡状態に関しては考慮されておらず、内燃機関であるエンジンの出力トルクの時間変化率が大きくなる状況が避けられないため、過剰な燃料噴射が必要になり、粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)が多量に発生する場合がある。
【0006】
また、特許文献2記載のものでは、油圧発生機の要求出力に基づき電動機を制御するため、油圧発生機の要求出力が必要となるが、建設機械の場合には作業機械にかかる負荷を特定することが難しいこと、作動油の流量を詳細に検出することが難しいなど、要求出力を正確に検出あるいは推定することが難しく、さらにエンジンの状態をフィードバックすることなく電動機を制御しているため、要求出力に対する誤差によりエンジンの出力トルクの時間変化率を正確に制御することは難しい。このため、特許文献1と同様、粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)が多量に発生する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減できる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、トルク指令に基づき制御される内燃機関と、該内燃機関と機械的に結合された電動機と、該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、速度指令に基づき前記電動機の速度を制御する第1の制御手段と、トルク目標に基づき時間変化率を制限された前記トルク指令を求める第2の制御手段を備えるようにしたものである。
【0009】
また、本発明は、内燃機関と、該内燃機関と機械的に結合された電動機と、該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合には、前記内燃機関のトルクが、前記電動機のトルクより大きく、前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合には、前記電動機のトルクが、前記内燃機関のトルクより大きいものである。
【0010】
さらに、本発明は、内燃機関と、該内燃機関と機械的に結合された電動機と、該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が大きく、前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が小さいものである。
【0011】
かかる構成により、建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減できるものとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による建設機械の全体構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図5】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の他の実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【図11】本発明の他の実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図8を用いて、本発明の一実施形態による建設機械の構成及び動作について説明する。なお、ここでは、建設機械の代表として、油圧ショベルを用いて説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態による建設機械の全体構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態による建設機械の全体構成を示す側面図である。
【0015】
油圧ショベル200は、走行体201、及び旋回体202を有する。走行体201は、走行用油圧モータにより建設機械を走行させる機能を備える。走行体は、右走行体と、左走行体とから構成され、それぞれ独立した走行用油圧モータにより駆動される。旋回体202は、旋回機構113により走行体201に対して回転する。
【0016】
旋回体202の前部他方の片側(たとえば前方を向いて右側)には、掘削作業を行うブーム203、アーム204、及びバケット205を備える。ブーム203、アーム204、及びバケット205は、それぞれ油圧シリンダ107、油圧シリンダ106、及び油圧シリンダ105により駆動される。
【0017】
また、旋回体202はキャブ206を備え、キャブ206には、操作者が搭乗し、操作レバーにより、建設機械200を操作する。
【0018】
次に、図2を用いて、本実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成を示すブロック図である。
【0019】
内燃機関であるディーゼルエンジン101と第1の電動機102は機械的に結合され、油圧発生機である油圧ポンプ103を駆動する。ここで、例えば、ディーゼルエンジン101、第1の電動機102、及び油圧ポンプ103は、同じ回転数で機械的に結合されている。油圧ポンプ103から送出される作動油は、操作者による操作に基づきコントロールバルブ104で分配され、油圧シリンダ105,106,油圧シリンダ107、及び左走行用油圧モータ108、右走行用油圧モータ109に供給される。油圧シリンダ105は、図1に示したバケット205を駆動するものである。油圧シリンダ106は、図1に示したアーム204を駆動するものである。油圧シリンダ107は、図1に示したブーム203を駆動するものである。左走行用油圧モータ108及び右走行用油圧モータ109は、それぞれ、図1に示した走行体201の内、左走行体,右走行体を駆動する。
【0020】
第1の電動機102及び、旋回機構113を駆動する第2の電動機112は、それぞれ、3相同期電動機であり、また、電動発電機でもある。電力変換器110は、蓄電装置111に蓄積された直流電力を3相交流電力に変換して、第1の電動機102や第2の電動機112に供給し、第1の電動機102及び第2の電動機112を駆動する。また、第1の電動機102を発電機として動作させ、電力変換器110を介して、蓄電装置111を充電する。第2の電動機112は、旋回体202が回転している状態から制動する際には、発電機として動作し、電力変換器110を介して、蓄電装置111を充電する。
【0021】
蓄電装置111としては、容量が比較的小さなキャパシタを利用する。この場合、蓄電装置111の充電量を適切に制御する必要がある。
【0022】
減算器120は、充電量指令Q*と充電装置111の充電量Qの偏差を演算する。充電量指令Q*は、上位の制御装置から与えられるものであり、例えば、蓄電装置111の80%充電量に相当する一定値とする。
【0023】
充電量制御器114は、減算器120により求められた偏差が0となるように、すなわち、充電装置111の充電量Qが充電量指令Q*に一致するようにトルク目標を算出し、出力する。トルク制限器115は、充電量制御器114が出力するトルク目標に対して時間変化率を制限した第1のトルク指令T1*を求めて、出力する。例えば、トルク目標値がステップ的に変化する場合には、トルク目標値が徐々に変化するトルク目標値とすることで、トルク目標の時間変化率が所定値よりも大きくならないように制限する。
【0024】
エンジンコントローラ116は、ディーゼルエンジン101の出力トルクが第1のトルク指令T1*になるようにディーゼルエンジン101を制御する。具体的には、エンジンコントローラ116は、ディーゼルエンジン101に備えられた燃料噴射弁からエンジンの燃焼室内に供給される燃料量を制御したり、EGRの還流量を制御したりする。
【0025】
減算器117は、回転速度指令N*と第1の電動機の回転速度Nの偏差を演算する。回転速度指令N*は、上位の制御装置から与えられるものであり、例えば、一定値とする。
【0026】
速度制御器118は、減算器117で演算された偏差に基づき、回転速度指令N*と第1の電動機の回転速度Nが一致するように第2のトルク指令T2*を求め、電力変換器110に出力する。電力変換器110は、第1の電動機102のトルクが第2のトルク指令T2*になるように制御する。
【0027】
旋回制御器119は、操作者が操作する旋回レバーの操作量に基づき、第2の電動機112を制御するため、第3のトルク指令T3*を求め、電力変換器110に出力する。電力変換器110は、第2の電動機112のトルクが第3のトルク指令T3*になるように制御する。
【0028】
電力変換器110は、第1の電動機102を制御する第1の電力変換部と、第2の電動機112を制御する第2の電力変換部とを内蔵している。例えば、第1の電力変換部は、直流電力を3相交流電力に変換するための複数のスイッチング素子と、これらのスイッチング素子の開閉をPWM制御して、第1の電動機102に流れる電流が、前述の第2のトルク指令T2*に対応する電流指令と一致するように制御する制御部とを有している。これにより、第1の電力変換部は、第1の電動機102のトルクが第2のトルク指令T2*になるように制御する。また、第1の電動機102が発電機として動作しているときは、制御部はスイッチング素子を制御して、第1の電動機102の発電出力を直流電力に変換して、蓄電装置111に蓄電する。なお、第2の電力変換部も、第1の電力変換部と同様の構成動作であり、第2の電動機112のトルクが第3のトルク指令T3*になるように制御する。また、第2の電動機112が発電機として動作しているときは、制御部はスイッチング素子を制御して、第2の電動機112の発電出力を直流電力に変換して、蓄電装置111に蓄電する。
【0029】
次に、図3〜図8を用いて、本実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作について説明する。
図3〜図8は、本発明の一実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【0030】
最初に、図3を用いて、アーム等を駆動した場合の各部の動作について説明する。
【0031】
図3の横軸は、経過時間を示している。図3(a)の縦軸は油圧ポンプ103のポンプトルクを示し、図3(b)の縦軸は、第1の電動機102の回転数Nを示している。なお、ディーゼルエンジン101,第1の電動機102及び油圧ポンプ103は、同一の回転数で機械的に結合されているものとする。図3(c)の縦軸は第1の電動機102のトルクを示し、図3(d)の縦軸は蓄電装置111の放電電流を示している。図3(e)の縦軸は蓄電装置111の充電量Qを示し、図3(f)の縦軸はディーゼルエンジン101のトルクを示している。そして、時刻t1において、操作者の操作により油圧ポンプ103のトルクが増加した場合を示している。操作者の操作により油圧ポンプ103のトルクが増加した場合とは、例えば、操作者が図1に示したバケット205を操作する操作レバーを操作し、その操作に応じて、油圧シリンダ105を駆動するため、油圧ポンプ103のトルクが増大する場合である。その他、ブーム203,アーム204や走行体201を駆動した場合も含まれる。
【0032】
図3(a)に示すように、時刻t1において、油圧ポンプ103のトルクが増加すると、図3(b)に示すように回転数Nが減少し、回転数指令N*との偏差が増加するため第2のトルク指令T2*が増加し、図3(c)に示すように、第1の電動機102のトルクが増加する。これにより、回転数Nは増加をはじめ、図3(b)に示すように、時刻t2で回転数Nが回復する。すなわち、ポンプトルクが変動した場合においても、速度制御器118により第1の電動機102のトルクが制御され、回転数Nは一定に保たれる。
【0033】
図3(c)に示すように、時刻t1で第1の電動機102のトルクが増加すると、電力を供給するため、図3(d)に示すように、時刻t1で蓄電装置111の放電電流が増加し、図3(e)に示すように、充電量Qが減少する。これにより、減算器120で算出される充電量指令Q*との偏差が増加するため、充電量制御器114が出力するエンジントルク目標が増加する。このトルク目標は、トルク制限器115により時間変化率が制限され、第1のトルク指令T1*として、エンジンコントローラ116に出力される。図3(f)は、このようにして第1のトルク指令T1*の時間変化率が制限された場合のディーゼルエンジンのトルクを示している。時刻t1以降のトルク変化は、トルク制限器115により制限された時間変化率以下となっている。これにより、ディーゼルエンジン101は急激にトルクを変化させることがなくなり、粒子状物質が発生しやすい過剰な燃料噴射による等量比が高い状態での燃焼や窒素酸化物が発生しやすい過剰な燃焼温度での燃焼を避けることができる。
【0034】
次に、時刻t2〜時刻t3において、図3(f)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクが増加すると、図3(c)に示すように、第1の電動機102のトルクがそれに合わせて減少する。これは、回転数Nを一定にするため、ディーゼルエンジン101のトルクと第1の電動機102のトルクの合計がポンプトルクとバランスするように、第1の電動機102のトルクが制御されるためである。
【0035】
時刻t2〜時刻t3における制御について具体的に説明すると、時刻t2において、蓄電装置111の充電量Qが減少するため、減算器120が出力する偏差が増加する。そのため、充電量制御器114が出力するトルク目標値が増加する。エンジンコントローラ116は、このトルク目標値に応じて、ディーゼルエンジン101の出力トルクを制御するため、図3(f)に示すように、次第に増加する。一方、ディーゼルエンジン101の出力トルクが増加すると、ディーゼルエンジン101の回転数が増加し、ディーゼルエンジン101に結合された第1の電動機101の回転数も増加する。その結果、減算器117が出力する速度偏差が増加する。そのため、速度制御器118が出力する第2のトルク指令T*が減少する。電力変換器110は、この第2のトルク指令T*に応じて、第1の電動機101のトルクを制御するため、図3(c)に示すように、次第に減少する。
【0036】
時刻t3において、ディーゼルエンジン101のトルクがポンプトルクを超えると、図3(c)に示すように、第1の電動機102のトルクが負、すなわち第1の電動機102が発電動作となり、ディーゼルエンジン101は油圧ポンプ103を駆動すると共に、発電機動作する第1の電動機102も駆動することになる。また、第1の電動機102が発電した電力が蓄電装置111に供給されるため、図3(e)に示すように、充電量が増加に転じ、充電量Qは充電量指令Q*に向かって増加する。
【0037】
時刻t4において、図3(e)に示す充電量Qは充電量指令Q*にほぼ一致し、このとき図3(c)に示すように、第1の電動機102のトルクは0であり、ディーゼルエンジン101のトルクは、ポンプトルクとバランスし、回転数Nは回転数指令N*に制御されている。
【0038】
次に、図4を用いて、旋回体202の旋回動作を行った場合の各部の動作について説明する。なお、図4(a)〜図4(f)の縦軸は、図3(a)〜図3(f)と同様である。図4(g)は、第2の電動機112の出力を示している。図4では、時刻t1において、操作者による旋回レバーの操作により第2の電動機112が回転を開始し、時刻t2において、旋回レバーの操作により第2の電動機112が制動を開始し、時刻t4で第2の電動機112が停止した場合を示している。
【0039】
時刻t1で第2の電動機112が回転を開始すると、回転速度の増加により、図4(g)に示すように、第2の電動機112の出力が増加する。これに伴い、蓄電装置111の放電電流の増加による蓄電装置111の蓄電量Qの減少を抑制するため、充電量制御器114によるトルク目標が増加し、図4(f)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクが増加する。一方、速度制御器118は、ディーゼルエンジン101のトルクの増加による回転速度Nの増加を抑制するために、第2のトルク指令T2*を減少させる。これにより、図4(c)に示すように、第1の電動機102のトルクは負となり、第1の電動機102は発電動作をおこなうことになり、蓄電装置111の放電電流の増加は抑制され、充電量Qの減少は抑制される。すなわち、第2の電動機112の出力に合わせて、ディーゼルエンジン101のトルクが増加するため、増加したトルクにより第1の電動機102は発電を行い、回転数N及び充電量Qはそれぞれ回転数指令N*及び充電量指令Q*に一致するように制御される。なお、このときの第2の電動機112の出力の増加に伴うトルク目標の時間変化率は制限値以下であり、第1のトルク指令T1*はトルク目標に一致する。
【0040】
以上の制御により、時刻t1〜t2においては、図4(g)に示す第2の電動機112の出力の増加に合わせて、図4(f)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクが増加し、図4(c)に示すように、第1の電動機102のトルクが減少(発電量が増加)する。
【0041】
時刻t2において、第2の電動機112の減速が開始されると、出力が力行から回生に急変する。図4(g)に示すように、第2の電動機112の出力が正から負に急変する。これに伴い、蓄電装置111は第2の電動機112の回生電力及び第1の電動機102の発電電力を吸収するため、図4(d)に示すように、蓄電装置111の放電電流の減少,すなわち、図4(e)に示すように、蓄電装置111の充電を開始し、蓄電量Qが増加する。充電量Qが増加すると充電量制御器114によりトルク目標が減少する。このとき、第2の電動機112の出力変化が急峻であるため、トルク目標も急峻に変化しようとするが、トルク制限器115により第1のトルク指令T1*は変化率が制限されるため、図4(f)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクは、急峻に変化しない。
【0042】
これにより、ディーゼルエンジン101は急激にトルクを変化させないため、粒子状物質が発生しやすい過剰な燃料噴射による等量比が高い状態での燃焼や窒素酸化物が発生しやすい過剰な燃焼温度での燃焼を避けることができる。
【0043】
また、回転速度Nを一定に制御する第1の電動機102のトルクは、図4(c)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクの減少に合わせて増加し、第1の電動機102の発電量はゆっくり減少することになる。このため、充電量Qはしばらく増加を続ける。
【0044】
第1の電動機102のトルクが増加を続け、発電状態から力行状態になり、時刻t3において、消費電力が第2の電動機112の回生電力を上回ると、図4(e)に示すように、充電量Qが減少を始める。充電量Qが減少すると、充電量制御器114によりトルク目標が増加し、図4(f)に示すように、ディーゼルエンジン101のトルクが増加する。速度制御器118は、ディーゼルエンジン101のトルク増加による回転数Nの増加を抑制するため、第1の電動機102のトルクを減少させ、図4(c)に示すように、蓄電装置111の放電電流が減少する。
【0045】
この結果、時刻t5では、図4(c)に示すように、第1の電動機102のトルクは0となり、図4(d)に示すように、蓄電装置111の放電電流も0で、図4(e)に示す充電量Qは充電量指令Q*に一致し、ディーゼルエンジン101のトルクは、ポンプトルクに一致する状態となる。
【0046】
上述のように、旋回動作により、第2の電動機112が力行回生運転を行った場合においても、回転数Nは回転数指令N*に一致するよう制御され、ディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率も抑制でき、蓄電装置111の蓄電量Qも蓄電量指令Q*に一致するように制御される。
【0047】
次に、図5〜図8を用いて、ポンプトルクの時間変化率を変えた場合の、ポンプトルク、回転数N、第1の電動機102のトルク、及びディーゼルエンジン101のトルクの時間変化について説明する。
【0048】
図5〜図8では、それぞれ、ポンプトルクの時間変化率を条件1〜条件4として変えている。ここで、条件1と条件2は、ポンプトルクの時間変化率が小さい場合を示し、条件3と条件4はポンプトルクの時間変化率が大きい場合を示す。条件2及び条件4は、それぞれ条件1及び条件3に対してポンプトルクの時間変化率を2倍にした場合である。
【0049】
また、図5〜図8において、横軸は時間を示している。図5(a)の縦軸は油圧ポンプ103のポンプトルクを示し、図5(b)の縦軸は第1の電動機102の回転数Nを示している。なお、ディーゼルエンジン101,第1の電動機102及び油圧ポンプ103は、同一の回転数で機械的に結合されているものとする。図5(c)の縦軸は第1の電動機102のトルクを示し、図5(f)の縦軸はディーゼルエンジン101のトルクを示している。図5(f)における太い点線は、トルク線の傾きを比較しやすくするための目安とする参考線である。また、図6〜図8の各(a),(b),(c),(f)の縦軸は、図5(a)〜図5(f)の縦軸と同様である。
【0050】
条件1(図5)と条件2(図6)の場合は、図5(a)や図6(a)に示すように、ポンプトルクの時間変化率が小さいため、図5(f)や図6(f)に示すように、ポンプトルクの増加にディーゼルエンジン101のトルクが追従できる。そのため、図5(c)や図6(c)に示すように、第1の電動機102のトルクを大きくする必要がなく、第1の電動機102のトルクのピーク時において、第1の電動機102のトルクはディーゼルエンジン101のトルクより小さい。
【0051】
一方、条件3(図7)と条件4(図8)の場合は、図7(a)や図8(a)に示すように、ポンプトルクの時間変化率が大きいため、ポンプトルクの増加にディーゼルエンジン101のトルクが追従できない。ここで、回転数Nを保つためには、図7(c)や図8(c)に示すように、第1の電動機102のトルクを大きくする必要があり、第1の電動機102のトルクのピーク時において、第1の電動機102のトルクはディーゼルエンジン101のトルクより大きくなる。
【0052】
また、ポンプトルクの時間変化率が小さい条件1,条件2の場合に、ポンプトルクの時間変化率が条件1から条件2に変化したときのディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率を比較すると、条件2(図6)は条件1(図5)に対して大きく変化しているのに対して、ポンプトルクの時間変化率が小さい条件3,条件4の場合に、ポンプトルクの時間変化率が条件3から条件4に変化したときの条件4(図8)はトルク制限器105により制限されるため、条件3(図7)に対する変化が小さい。すなわち、ポンプトルクの時間変化率が小さい場合(条件1と条件2)は、ポンプトルクの時間変化率の増加に対するディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率の増加が大きく、ポンプトルクの時間変化率が大きい場合(条件3と条件4)は、ポンプトルクの時間変化率の増加に対するディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率の増加が小さい。
【0053】
また、いずれの場合も速度制御器116の働きにより、回転数Nは回転数指令N*に一致するよう制御される。すなわち、本実施例の建設機械によれば、ポンプトルクの時間変化率が小さい場合は、ディーゼルエンジン101のトルクはポンプトルクに応じて制御されるが、このときディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率は小さいため、ディーゼルエンジン101は粒子状物質や窒素酸化物が発生しやすい状態にならない。
【0054】
一方、ポンプトルクの時間変化率が大きい場合は、ディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率は制限されてポンプトルクに応じて制御されない。よって、この場合もディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率が制限されるため、ディーゼルエンジン101は粒子状物質や窒素酸化物が発生しやすい状態にならない。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減すると共に、電動機に電力を供給する蓄電装置の充電量を適正に制御することができる。
【0056】
また、容量が小さいキャパシタなどを蓄電装置として利用する場合にも、充電量を適切に制御することができる。
【0057】
次に、図9〜図11を用いて、本発明の他の実施形態による建設機械の構成及び動作について説明する。なお、本実施形態による建設機械である油圧ショベルの全体構成は、図1に示したものと同様である。
最初に、図9を用いて、本実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成について説明する。
図9は、本発明の他の実施形態による建設機械を駆動する駆動システムの構成を示すブロック図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
【0058】
第2の速度制御器131は、減算器130で求められた回転速度指令N*とディーゼルエンジン101の回転速度N’の偏差に基づき、ディーゼルエンジン101の回転速度N’が回転速度指令N*に一致する様なトルク目標を演算し、トルク制限器115に出力する。
【0059】
一方、ハイパスフィルタ132は、速度制御器118の出力から直流成分を含む低周波成分を除いたものを出力する。減算器133は、速度制御器118の出力から直流成分を含む低周波成分を除いたハイパスフィルタ132の出力から充電量制御器114の出力を減算し、第2のトルク指令T2*として出力する。
【0060】
なお、ディーゼルエンジン101と第1の電動機102は機械的に結合されているため、回転速度は同一であり、以下の説明では回転速度Nを代表して使用する。
【0061】
次に、本実施形態の駆動システムの動作について説明する。
【0062】
油圧ポンプ103のトルクが変化した場合、第2の速度制御器131により回転数Nの変動を抑制するが、トルク制限器105によりディーゼルエンジン101のトルクの変化率は制限されるため、ディーゼルエンジン101は粒子状物質や窒素酸化物が発生しやすい状態にならない。一方、ディーゼルエンジン101のトルクの変化率が制限されるため、第2の速度制御器131だけでは、回転速度Nの変動を十分抑制することが難しい。このため、過渡的には速度制御器118により回転速度Nの変動を抑制する。また、定常的には、ハイパスフィルタ132により低周波成分が除去されるため、充電量制御器114による充電量Qの制御が行われる。
【0063】
次に、図10〜図11を用いて、本実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作について説明する。
図10〜図11は、本発明の他の実施形態による建設機械に用いる駆動システムの動作を示すタイミングチャートである。
【0064】
最初に、図10は、アーム等を駆動して、ポンプトルクが変化した場合の各部の動作を示しており、その動作は、図3にて説明したものと同様である。
【0065】
この場合、回転数Nは回転数指令N*に一致するよう制御され、ディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率が抑制され、蓄電装置111の蓄電量Qも蓄電量指令Q*に一致するように制御される。
【0066】
次に、図11は、第2の電動機112が動作した場合の各部の動作を示しており、その動作は、図4にて説明したものと同様である。
【0067】
この場合、回転数Nは回転数指令N*に一致するよう制御され、ディーゼルエンジン101のトルクの時間変化率が抑制され、蓄電装置111の蓄電量Qも蓄電量指令Q*に一致するように制御される。
【0068】
以上説明したように、本実施形態によっても、建設機械に搭載される内燃機関から排出される粒子状物質(PM)または窒素酸化物(NOX)を低減すると共に、電動機に電力を供給する蓄電装置の充電量を適正に制御することができる。
【0069】
また、容量が小さいキャパシタなどを蓄電装置として利用する場合にも、充電量を適切に制御することができる。
【0070】
なお、上述の説明では、回転速度指令N*は一定値を与えているが、油圧ポンプ負荷が軽い場合は回転速度指令N*を下げ、油圧ポンプ負荷が重い場合は回転速度指令N*を上げるなど、回転速度指令N*を変化させても、偏差に基づき制御されているため、回転速度Nは追従することができる。
【0071】
また、トルク制限器105の時間変化率は一定としているが、ディーゼルエンジン101の動作状態に応じて粒子状物質や窒素酸化物が所定量より増加しない範囲で変化させることも可能である。また,トルク制限器105は,粒子状物質や窒素酸化物が所定量より増加しない範囲でトルク制限器105の入力と出力を一致させ,入力と出力を一致させると粒子状物質や窒素酸化物が所定量より増加する場合には,出力の時間変化率を制限する構成とすることも可能である。
【0072】
さらに、ディーゼルエンジン101、第1の電動機102、及び油圧ポンプ103は同じ回転数で機械的に結合されているが、変速機を介して結合することも可能であり、この場合には回転速度指令N*、回転速度N’、及び回転速度Nは変速比を考慮して換算する必要がある。
【符号の説明】
【0073】
101…ディーゼルエンジン(内燃機関)
102…第1の電動機
103…油圧ポンプ(油圧発生機)
104…コントロールバルブ
105,106,107…油圧シリンダ
108,109…油圧モータ
110…電力変換器
111…蓄電装置
112…第2の電動機
113…旋回機構
114…充電量制御器
115…トルク制限器(第2の制御手段)
116…エンジンコントローラ
118…速度制御器(第1の制御手段)
119…旋回制御器
131…第2の速度制御器
132…ハイパスフィルタ
200…油圧ショベル(建設機械の代表例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令に基づき制御される内燃機関と、
該内燃機関と機械的に結合された電動機と、
該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、
前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、
速度指令に基づき前記電動機の速度を制御する第1の制御手段と、
トルク目標に基づき時間変化率を制限された前記トルク指令を求める第2の制御手段を
備えることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械において、
前記内燃機関は、前記速度指令と前記速度に基づき求められた第1のトルク指令により制御されるものであり、
前記第1の制御手段は、前記速度指令と前記電動機の速度に基づき求められた第2のトルク指令を演算するものであり、
さらに、前記第2のトルク指令の直流成分を含む低周波成分を除去するハイパスフィルタを備え、
該ハイパスフィルタの出力に基づき前記電動機を制御することを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1記載の建設機械において、
前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合には、前記内燃機関のトルクが、前記電動機のトルクより大きく、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合には、前記電動機のトルクが、前記内燃機関のトルクより大きい
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1記載の建設機械において、
前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が大きく、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が小さい
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1記載の建設機械において、
前記トルク目標は、前記蓄電装置の充電量に基づき求めることを特徴とする建設機械。
【請求項6】
内燃機関と、
該内燃機関と機械的に結合された電動機と、
該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、
前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、
前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合には、前記内燃機関のトルクが、前記電動機のトルクより大きく、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合には、前記電動機のトルクが、前記内燃機関のトルクより大きい
ことを特徴とする建設機械。
【請求項7】
内燃機関と、
該内燃機関と機械的に結合された電動機と、
該電動機に電力を供給する蓄電装置とを有し、
前記内燃機関と前記電動機により油圧発生機を駆動して作業を行う建設機械であって、
前記電動機は速度指令に基づき速度制御されると共に、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が小さい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が大きく、
前記油圧発生機のトルクの時間変化率が大きい場合は、前記油圧発生機のトルクの時間変化率の変化に対して、前記内燃機関のトルク時間変化率の変化が小さい
ことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−50006(P2013−50006A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189555(P2011−189555)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】