説明

建設機械

【課題】簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化を検知・判定することが可能な絶縁抵抗劣化検知装置を備えた建設機械を提供する。
【解決手段】電動モータと、前記電動モータと電力を授受するインバータと、蓄電デバイスと、前記蓄電デバイスの電圧を昇圧してインバータの母線へ供給するチョッパと、これらを駆動・制御する電気回路及びコントローラとを備えた建設機械において、蓄電デバイスの電圧を検知する電圧検知手段と、インバータの母線の正極、負極のそれぞれに各一端側をそれぞれ接続した2つの抵抗器と、一方端が前記2つの抵抗器の他端側に接続され、他方端がシャーシアースに接続される電流検知手段とを有する絶縁抵抗劣化検知装置と、電圧検知手段で検知する蓄電デバイスの電圧値の変化量と、絶縁抵抗劣化検知装置の電流検知手段で検知する信号の変化量とを用いて絶縁抵抗劣化の判定を行うコントローラとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に係り、さらに詳しくは、蓄電デバイス、電動モータ等からなる電動システムと車体との間の絶縁抵抗劣化検出機能を有する建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油圧ショベルのような建設機械においては、動力源として、ガソリン、軽油等の燃料を用い、エンジンによって油圧ポンプを駆動して油圧を発生することにより油圧モータ、油圧シリンダといった油圧アクチュエータを駆動する。油圧アクチュエータは、小型軽量で大出力が可能であり、建設機械のアクチュエータとして広く用いられている。
【0003】
一方で、近年、電動モータ及び蓄電デバイス(バッテリや電気二重層キャパシタ等)を用いることにより、油圧アクチュエータのみを用いた従来の建設機械よりエネルギ効率を高め、省エネルギ化を図った建設機械が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
電動モータ(電動アクチュエータ)は油圧アクチュエータに比べてエネルギ効率が良い、制動時の運動エネルギを電気エネルギとして回生できる(油圧アクチュエータの場合は熱にして放出)といった、エネルギ的に優れた特徴がある。
【0005】
例えば、特許文献1に示される従来技術では、旋回体の駆動アクチュエータとして電動モータを搭載した油圧ショベルの実施の形態が示されている。油圧ショベルの旋回体を走行体に対して旋回駆動するアクチュエータ(従来は油圧モータを使用)は、使用頻度が高く、作業において起動停止、加速減速を頻繁に繰り返す。このとき、減速時(制動時)における旋回体の運動エネルギは、油圧アクチュエータの場合は油圧回路上で熱として捨てられるが、電動モータの場合は電気エネルギとしての回生が見込めることから、省エネルギ化が図れる。
【0006】
ところで、このようなハイブリッド式油圧ショベルに搭載するような電動アクチュエータ及び蓄電デバイスは、高電圧・大電流で使用されるため、メインの電気回路と車体との間の絶縁抵抗が劣化した場合に、その絶縁抵抗劣化部を通じて車体に電流が流れ、オペレータにとって感電等の危険に繋がる虞がある。
【0007】
このような問題に対処するために、種々の絶縁抵抗劣化検知装置が提案されている。例えば、予め決められた測定点に所定周波数の交流信号を印加し、測定点における交流信号の振幅レベルによって絶縁抵抗劣化を検知する装置がある。昇圧回路(チョッパ等)が蓄電デバイスとインバータの間に組み込まれたシステムにおいても、誤作動なく動作可能な絶縁抵抗劣化検知装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−16704号公報
【特許文献2】特開2009−109278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献2の従来技術は、昇圧回路作動時においても誤作動なく絶縁抵抗の劣化を検知することができる。しかしながら、精度良く絶縁抵抗の劣化を検知するためには、検知回路の耐ノイズ性を高めることと、高電圧の交流信号が出力可能な発信機と、耐ノイズ性の高い受信機とが必要となる。このため、構成が複雑化し、製造コストが増加するという問題があった。
【0010】
このため、簡易な回路構成で製造コストを増加させずに、昇圧回路作動時における絶縁抵抗劣化を検知できる絶縁抵抗劣化検知システムが要望されていた。
【0011】
本発明は上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、電動モータ、インバータ、蓄電デバイス、チョッパ、及びこれらを駆動・制御する電気回路及びコントローラを含む電動システムを備えた建設機械において、簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化を検知・判定することが可能な絶縁抵抗劣化検知装置を備えた建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータと、蓄電デバイスと、前記蓄電デバイスの電圧を変圧して前記インバータの母線へ供給するチョッパと、これらを駆動・制御する電気回路及びコントローラとを備えた建設機械において、前記蓄電デバイスの電圧を検知する電圧検知手段と、前記インバータの母線の正極、負極のそれぞれに各一端側をそれぞれ接続した2つの抵抗器と、一方端が前記2つの抵抗器の他端側に接続され、他方端がシャーシアースに接続される電流検知手段とを有する絶縁抵抗劣化検知装置と、前記電圧検知手段で検知する前記蓄電デバイスの電圧値の変化量と、前記絶縁抵抗劣化検知装置の前記電流検知手段で検知する信号の変化量とを用いて絶縁抵抗劣化の判定を行う前記コントローラとを備えたものとする。
【0013】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記インバータの母線の電圧を検知する母線電圧検知手段と、前記電流検知手段で検知する信号が、前記蓄電デバイスの電圧値の変化量に応じて変化しているときには、絶縁抵抗劣化部位をチョッパの蓄電デバイス側かつ正側であると判定し、前記母線電圧検知手段と前記電圧検知手段とで検知した各電圧値を用いて補正値を算出し、前記電流検知手段で検知する信号と前記補正値とを比較して、その差に応じて絶縁抵抗劣化の判定を行う前記コントローラとを備えたことを特徴とする。
【0014】
更に、第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記コントローラは、前記蓄電デバイスの電圧値を意図的に変化させる電圧変化制御手段を更に備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電動モータ、インバータ、蓄電デバイス、チョッパ、及びこれらを駆動・制御する電気回路及びコントローラを含む電動システムを備えた建設機械において、蓄電デバイスの検出電圧とインバータ側母線の検出電圧とを用いた簡易な回路構成によって、絶縁抵抗劣化を検知・判定することが可能となる。この結果、絶縁抵抗劣化が検知された場合、そのことが報知されるので、オペレータにとって安全な建設機械を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の建設機械の一実施の形態を示す側面図である。
【図2】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する主要電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図3】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する主要電動システムのパワー回路図である。
【図4】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、母線のN(−)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図である。
【図5】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、母線のP(+)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図である。
【図6】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の一例を説明する電気回路図である。
【図7】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の他の例を説明する電気回路図である。
【図8】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の更に他の例を説明する電気回路図である。
【図9】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、チョッパの一次側のP(+)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図である。
【図10】本発明の建設機械の一実施の形態を構成するチョッパのスイッチング素子の動作を説明する特性図である。
【図11】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、絶縁抵抗とセンサ出力との関係を示す特性図である。
【図12A】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、稼働中の母線電圧と蓄電デバイス電圧の時系列関係を示す特性図である。
【図12B】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、稼働中の絶縁抵抗劣化部位毎のセンサ出力の時系列関係を示す特性図である。
【図13】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置における絶縁抵抗劣化の判定シーケンスを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、建設機械として油圧ショベルを例にとって本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明は、電動モータ、インバータ、蓄電デバイス、チョッパ、及びこれらを駆動・制御する電気回路及びコントローラを含む車両や建設機械全般(作業機械を含む)に適用が可能であり、本発明の適用は油圧ショベルに限定されるものではない。図1は本発明の建設機械の一実施の形態を示す側面図、図2は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する主要電動・油圧機器のシステム構成図、図3は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する主要電動システムのパワー回路図である。
【0018】
図1において、ハイブリッド式油圧ショベルは走行体10と、走行体10上に旋回可能に設けた旋回体20及びショベル機構30を備えている。
【0019】
走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ13、14及びその減速機構等で構成されている。
【0020】
旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた、原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動されるアシスト発電モータ23と、旋回電動モータ25及び旋回油圧モータ27と、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25に接続される電気二重層のキャパシタ24と、旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の回転を減速する減速機構26等から構成されている。旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の駆動力は、減速機構26を介して旋回体20(旋回フレーム21)に伝達されるので、旋回体20(旋回フレーム21)は走行体10に対して旋回駆動する。
【0021】
また、旋回体20にはショベル機構(フロント装置)30が搭載されている。ショベル機構30は、旋回体フレーム21に俯仰動可能に設けたブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0022】
さらに、旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、旋回油圧モータ27、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧システム40が搭載されている。油圧システム40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41(図2)及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブ42(図2)を含み、油圧ポンプ41はエンジン22によって駆動される。
【0023】
次に、油圧ショベルの主要電動・油圧機器のシステム構成について概略説明する。図2に示すように、エンジン22の駆動力は油圧ポンプ41に伝達されている。コントロールバルブ42は、図示しない旋回用の操作レバー装置からの旋回操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、旋回油圧モータ27に供給される圧油の流量と方向を制御する。また、コントロールバルブ42は、旋回以外の操作レバー装置からの操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及び走行用油圧モータ13,14に供給される圧油の流量と方向を制御する。
【0024】
主要電動システムは、上述したアシスト発電モータ23、旋回電動モータ25、これらを駆動制御する電気部品からなるパワーコントロールユニット55、メインコントローラ80、及び電気二重層のキャパシタ24とリレー57A,57B等を備える蓄電ユニット59とを備えている。
【0025】
パワーコントロールユニット55は、チョッパ51、インバータ52,53、及び平滑コンデンサ54等を有している。また、パワーコントロールユニット55は、絶縁抵抗劣化検知装置90とコントローラ103とを配設している。
【0026】
キャパシタ24からの直流電力はチョッパ51によって所定の母線電圧に変圧されて、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。リレー57A,57Bは、メインコンタクタであり、停止時や異常時に、キャパシタ24の電荷を遮断するために設けられている。リレー56及び抵抗58からなる回路は突入電流防止回路であり、チョッパ51内のコンデンサが充電されていない状態でリレー57A,57Bを開く前にこちらの回路の経路で電流を制限してチョッパ51内のコンデンサを充電する。平滑コンデンサ54は、母線電圧を安定化させるために設けられている。
【0027】
チョッパ51によって昇圧された母線の電圧VBUSを計測する母線電圧検知手段である電圧センサ60と、蓄電デバイスであるキャパシタ24の電圧VCAPを計測する電圧検知手段である電圧センサ61とがチョッパ51の二次側と一次側にそれぞれ設けられている。電圧センサ60,61によって計測された各電圧値VBUS,VCAPは、コントローラ103に入力されている。
【0028】
旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の回転軸は連結されており、減速機構26を介して旋回体20を駆動する。アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ24は充放電されることになる。コントローラ103は、パワーコントロールユニット55に内蔵される2系統のインバータ52,53、チョッパ51、及び絶縁劣化検知装置90を統括して制御する。
【0029】
メインコントローラ80は、操作指令信号、圧力信号及び回転速度信号等の図2に示されない信号を用いて、コントロールバルブ42、パワーコントロールユニット55に対する制御指令を生成し、油圧単独旋回モード、油圧電動複合旋回モードの切り替え、及び各モードの旋回制御、電動システムの異常監視、エネルギマネジメント等の制御を行う。電磁比例バルブ75は、メインコントローラ80からの電気信号を油圧パイロット信号に変換するものであって、この油圧パイロット信号によって、コントロールバルブ42が制御される。
【0030】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態を構成する主要電動システムのパワー回路を図3を用いて説明する。図3において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52は、例えばIGBTのようなスイッチング素子6個からなるブリッジ回路を用いて、コントローラ103からの指令を受けて、電流のON/OFFを繰り返し、パルス幅を変動させることで三相交流を作り出し、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25を駆動する。モータの種類によっては図3に示すインバータ回路とは異なるスイッチング素子の構成が用いられることがあり、図3は一例にすぎない。
【0031】
チョッパ51は、例えば、2個のスイッチング素子とリアクトルとからなり、コントローラ103からの指令を受けて2個のスイッチング素子を交互に開閉させることにより、キャパシタ24の電圧VCAPをアシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52が動作可能な母線電圧VBUSに昇圧すると共に、母線電圧VBUSを所定の一定値付近に制御する動作を行う。チョッパ51には、図3で示す回路とは異なる回路構成や素子構成があり、図3の回路は例示である。また、キャパシタ24の電圧VCAPを昇圧するだけでなく降圧する場合もあり得る。
【0032】
絶縁抵抗劣化検知装置90は、抵抗101Aを介して母線の正極P(+)側に、また、抵抗101Bを介して母線の負極N(−)側に接続されている。
【0033】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置とパワー回路について図4及び図5を用いて説明する。図4は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、母線のN(−)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図、図5は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、母線のP(+)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図である。図4及び図5において、図1乃至図3に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0034】
図4及び図5において、作図の都合上、簡略化のため、母線側のインバータを1個で示している。また、120は母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側を、121は蓄電デバイス24のP(+)側及びチョッパ51の一次側を、122は母線のN(−)側,蓄電デバイス24のN(−)側をそれぞれ示している。更に、チョッパ51において、131Aは上アームのP側のスイッチング素子を、131Bは下アームのN側のスイッチング素子をそれぞれ示している。
【0035】
絶縁抵抗劣化検知装置90は、母線の正極P(+)側120に一端側を接続した抵抗101Aの他端側と、母線の負極N(−)側122に一端側を接続した抵抗101Bの他端側とそれぞれ接続している。ここで、101Aの抵抗値をR1U、101Bの抵抗値をR1Lと示していて、これらの抵抗値を等しくしている。また、絶縁抵抗劣化検知装置90は、一方端を上述した抵抗101A,101Bの各他端側と接続し、他方端をシャーシアースに接続する電流検知手段である電流センサ140を内蔵している。この電流センサ140は、例えば規定値の抵抗器に代替して当該抵抗器の両端電圧を計測するものであってもよく、実質的に各母線120,122とシャーシアースとの間の電流が計測できればよい。後述するが、この計測電流は母線のP(+)側120が短絡するか、母線のN(−)側122が短絡するかによって、流れる向きが逆になるので、本実施例では絶対値処理部141を設け、信号を絶対値化してコントローラ103に出力信号VIRを通知しているが、正負を区別して処理しても良い。
【0036】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作について図6乃至図12Bを用いて説明する。図6は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の一例を説明する電気回路図、図7は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の他の例を説明する電気回路図、図8は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置の動作の更に他の例を説明する電気回路図、図9は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、チョッパの一次側のP(+)側が抵抗Rによって短絡した場合を示すパワー回路図、図10は本発明の建設機械の一実施の形態を構成するチョッパのスイッチング素子の動作を説明する特性図、図11は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、絶縁抵抗とセンサ出力との関係を示す特性図、図12Aは本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、稼働中の母線電圧と蓄電デバイス電圧の時系列関係を示す特性図、図12Bは本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置において、稼働中の絶縁抵抗劣化部位毎のセンサ出力の時系列関係を示す特性図である。図6乃至図12Bにおいて、図1乃至図5に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図6は、パワー回路のシャーシに対する絶縁が十分に大きいとき、すなわちパワー回路がシャーシに対して短絡していないときの動作を示している。絶縁抵抗劣化検知装置90において、抵抗101A及び抵抗101Bの抵抗値を等しく(R1U=R1L)とると、電流センサ140で計測されるこれらの抵抗101A,101Bを介してシャーシに流れ込む電流はゼロとなる。
【0038】
しかし、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120が抵抗Rによって短絡すると、図7に示すような回路が構成される。この結果、母線(チョッパ51の二次側)の電圧VBUSを駆動電圧として、絶縁抵抗劣化検知装置90の電流センサ140に電流が流れることになる。
【0039】
一方、母線のN(−)側122が抵抗Rによって短絡すると、図8に示すような回路が構成される。この結果、母線(チョッパ51の二次側)の電圧VBUSを駆動電圧として、絶縁抵抗劣化検知装置90の電流センサ140に図7の場合とは逆の向きに電流が流れることになる。
【0040】
いずれの場合も、この電流は、予め設定した抵抗値R1U,R1Lと短絡または絶縁抵抗の劣化によって生じた抵抗Rとの関係によって決まるので、この電流を測定することにより、絶縁抵抗Rを監視することができる。繰り返しであるが、Rが無限大のときは図6に示すように、電流センサ140を通過する電流はゼロである。しかしながら、このようなパワー回路においては、蓄電デバイス24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121の短絡または絶縁抵抗劣化の検知が難しいという問題があった。これらの問題と解決策について以下に説明する。
【0041】
図9は、パワー回路において、チョッパ51の一次側のP(+)側が抵抗Rによって短絡した場合を示している。ここで、チョッパ51を構成する上アームのP側のスイッチング素子131Aと、下アームのN側のスイッチング素子131Bとは、蓄電デバイスであるキャパシタ24の電圧VCAPと母線電圧VBUSとの電圧比(昇圧比)に対応するスイッチング時間で交互にスイッチングしている。例えば、図9において、キャパシタ24の電圧VCAPが100Vであって、母線電圧VBUSが200Vの場合、昇圧比(増幅率)は2となり、同様に、キャパシタ24の電圧VCAPが80Vであって、母線電圧VBUSが320Vの場合、昇圧比(増幅率)は4となる。
【0042】
図10は、チョッパ51を構成するスイッチング素子131A,131BのON/OFFの動作特性を示している。図10の上側は昇圧比(増幅率)が2のときの動作を示し、上アームのP側のスイッチング素子131Aのスイッチング時間(ONしている時間)は、全体の0.5である。図10の下側は昇圧比(増幅率)が4のときの動作を示し、上アームのP側のスイッチング素子131Aのスイッチング時間(ONしている時間)は、全体の0.25である。
【0043】
換言すると、このようなスイッチング時間でスイッチング素子131A,131BがON/OFFの動作を行うことで、キャパシタ24の電圧VCAPから所望の母線電圧VBUSが得られる。
【0044】
図9に戻り、例えば、昇圧比(増幅率)が2で、蓄電デバイスであるキャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121の短絡または絶縁抵抗が劣化した場合、電流センサ140に流れる電流の方向は、ONしているスイッチング素子131A,131Bに依存することになる。例えば、スイッチング素子131AがONしている場合には、図7で示した場合と同様に、電流は絶縁抵抗劣化検知装置90側に流入する。一方、スイッチング素子131BがONしている場合には、図8で示した場合と同様に、電流は絶縁抵抗劣化検知装置90側からに流出する。このため、昇圧比(増幅率)が2でスイッチング素子131A,131BのそれぞれのON時間が等しい場合には、等しい電流がそれぞれ逆方向に同じ時間流れるため、電流センサ140に流れる電流積算値はゼロになってしまう。
【0045】
しかし、昇圧比(増幅率)が2からずれていれば、電流センサ140に流れる電流積算値が計測できる。このときの絶縁抵抗劣化検知装置90における電流センサ140の電流信号を絶対値化した絶対値処理部141の出力V’IRは、以下の演算式(1)で算出できる。
【0046】
V’IR=|(2・VCAP−VBUS)/VBUS|・VIR.etc・・・・(1)
上記演算式(1)において、VCAPは、電圧センサ61により計測されるキャパシタ24の電圧を、VBUSは、電圧センサ60により計測される母線の電圧を、VIR.etcは、別の箇所(母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122)が抵抗Rによって短絡したときの絶対値処理部141の出力をそれぞれ表す。
【0047】
図11は、横軸に絶縁抵抗値、縦軸に絶対値処理部141の出力信号VIR(センサ出力信号)として、これらの関係の特性を示している。絶縁抵抗値が下がって0に近づけば出力信号VIRは大きくなる。図11において、特性曲線aは、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122が、母線電圧VBUS500Vにおいて横軸の絶縁抵抗で短絡したときの出力信号VIRの特性を、特性曲線bは、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が、キャパシタ24の電圧VCAP150Vにおいて横軸の絶縁抵抗で短絡したときの出力信号VIRの特性を、特性曲線cは、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が、キャパシタ24の電圧VCAP200Vにおいて横軸の絶縁抵抗で短絡したときの出力信号VIRの特性をそれぞれ示している。
【0048】
母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122が短絡又は絶縁抵抗劣化したときの出力信号VIRの特性は、図11に示すように、他の特性曲線b,cより大きい出力値を示している。キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が短絡又は絶縁抵抗劣化したときの出力信号V’IRは、上記演算式(1)に従い特性曲線aより小さい出力値を示す。上記演算式(1)及び図11から明らかなように、例えば、母線電圧VBUSが500Vの場合には、昇圧比が2であるキャパシタ24の電圧VCAPが250Vで出力信号は0となる。
【0049】
図11において、確保されるべき絶縁抵抗値をRとすると、出力信号としてVIR0(母線絶縁抵抗劣化検知電圧)が計測された場合には、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122のいずれかにおいて、絶縁抵抗が劣化していると判定することができる。しかし、出力信号としてVIR1(チョッパ絶縁抵抗劣化検知電圧)が計測された場合には、コントローラ103や電流センサ140は絶縁抵抗劣化部位を知らないので、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122のいずれかにおいて、絶縁抵抗が劣化して3MΩの絶縁抵抗があるのか、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が短絡又は絶縁抵抗劣化し基準値である絶縁抵抗値Rに達しているのか、判断することができない。
【0050】
しかし、例えば、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が短絡又は絶縁抵抗劣化しているときは、蓄電デバイスであるキャパシタ24の電圧VCAPが変化すれば、出力信号も変化するはずである。図11においては、例えば、VCAP=150VからVCAP=200Vに変化することによって、出力信号はΔVIRだけ変化することになる。換言すると、出力信号がキャパシタ24の電圧VCAPの変化に応じて変化する場合には、絶縁抵抗劣化部位はキャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121と判断され、出力信号がキャパシタ24の電圧VCAPの変化と無関係に変化する場合には、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122のいずれかと判断することができる。
【0051】
図12Aは、横軸に時間、縦軸に母線電圧VBUS,キャパシタ24の電圧VCAPとし、図12Bは横軸に時間、縦軸にセンサ出力信号VIRとして、稼働中のこれらの関係の特性を示している。
図12Aにおいて、特性曲線aは、電圧センサ60によって計測される母線電圧VBUSの特性を、特性曲線bは、電圧センサ61によって計測されるキャパシタ24の電圧VCAPをそれぞれ示している。キャパシタ24の電圧VCAPは、稼働中に図示のように変動する。一方、母線電圧VBUSは常に一定となるように制御されている。図12Aにおいて、VCAPLは、予め設定されたキャパシタ電圧低値であり、キャパシタ24の電圧VCAPが、この値を下回ったときに、演算を開始する始動トリガに使用されている。また、VCAPHは、予め設定されたキャパシタ電圧高値であり、キャパシタ24の電圧VCAPが、この値を上回ったときに、演算を終了する終了トリガに使用されている。
【0052】
図12Bにおいて、特性曲線cは、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122が、基準値である絶縁抵抗値Rより小さい値で短絡している異常な場合のセンサ出力信号VIRの特性を、特性曲線dは、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122が、基準値である絶縁抵抗値Rで短絡している場合のセンサ出力信号VIRの特性を、特性曲線eは、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122が、正常の状態で絶縁抵抗が劣化していない場合のセンサ出力信号VIRの特性を、特性曲線fは、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121が、基準値である絶縁抵抗値Rで短絡している場合のセンサ出力信号VIRの特性をそれぞれ示している。
【0053】
ここで、特性曲線fは、演算式(1)に従い、キャパシタ24の電圧VCAPの変動に応じて変動している。図12Bにおいて、VIR.Lは、キャパシタ24の電圧VCAPが、予め設定されたキャパシタ24の電圧の低値VCAPLを下回ったとき(時刻t)の特性曲線fの電圧値を、同様にVIR.Hは、キャパシタ24の電圧VCAPが、予め設定されたキャパシタ24の電圧の高値VCAPHを上回ったとき(時刻tend)の特性曲線fの電圧値を、それぞれ示している。コントローラ103はこのようなタイミングで各種信号を取得している。
【0054】
このようなタイミングで採取したVIR.LとVIR.Hが等しい場合は、絶縁抵抗劣化部位として判定されるのは、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122であり、これらの値と、図11で説明したVIR0の値と比較して絶縁抵抗劣化の判定を行う。
【0055】
一方、VIR.LとVIR.Hとの差が大きい場合には、演算式(1)に従って補正を行い、V’IRと比較することによってキャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121の絶縁抵抗劣化が判定できる。このようにして、絶縁抵抗劣化部位を判定することにより、チョッパの一次側、二次側いずれの箇所で絶縁抵抗が劣化しても、正しく絶縁抵抗劣化の判定が行える。
【0056】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態において、絶縁抵抗劣化の判定を行うための処理シーケンスについて図13を用いて説明する。図13は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する絶縁抵抗劣化検知装置における絶縁抵抗劣化の判定シーケンスを示すフローチャート図である。
【0057】
まず、図13のステップ(S101)では、建設機械が初期充電又は通常待機状態か否かが判断される。具体的には、メインコントローラ80において、操作指令等の入力信号を基に、現在の運転状況がアイドリング状態等の通常の待機状態にあるか否か、又は、例えば、電圧センサ61が計測するキャパシタ24の電圧VCAPを基に、起動時におけるキャパシタ24の初期充電制御状態か否かを判断する。建設機械が初期充電又は通常待機状態であると判断すれば、ステップ(S102)に進み、建設機械が初期充電又は通常待機状態でないと判断すれば、ステップ(S101)へ戻る。
【0058】
ステップ(S102)では、キャパシタ24の電圧VCAPが、予め設定された電圧値より低いか否かが判断される。具体的には、電圧センサ61で計測されたキャパシタ24の電圧VCAPと、予め設定されているキャパシタ24の電圧低値VCAPLとを比較する。本実施の形態においては、VCAPLを例えば150Vに設定する。キャパシタ24の電圧VCAPがキャパシタ電圧低値VCAPLより低い場合には、YESと判断されてステップ(S103)に進み、キャパシタ24の電圧VCAPがキャパシタ電圧低値VCAPLより高いか等しい場合には、NOと判断されてステップ(S102)に戻る。
【0059】
ステップ(S103)では、絶縁抵抗劣化検知装置90のセンサ出力VIR等を測定する。具体的には、電圧センサ60によって母線電圧VBUSを、電圧センサ61によってキャパシタ24の電圧VCAPを、絶縁抵抗劣化検知装置90によってセンサ出力信号VIRをそれぞれ測定する。また、これらの計測値を用いて、演算式(1)から補正値出力V’IRを算出する。これらの測定値、算出値は、例えば、母線電圧測定値VBUS―L,キャパシタ電圧測定値VCAP―L,センサ出力測定値VIR−L,補正値出力V’IR―L,としてコントローラ103の記憶部に記憶される。
【0060】
ステップ(S104)では、絶縁抵抗劣化検知装置90のセンサ出力測定値VIR―Lが母線絶縁抵抗劣化検知電圧VIR0より低いか否かが判断される。具体的には、図11で説明した母線絶縁抵抗劣化検知電圧VIR0とステップ(S103)で計測したセンサ出力測定値VIR−Lとを比較する。センサ出力測定値VIR―Lが母線絶縁抵抗劣化検知電圧VIR0より低い場合には、YESと判断されてステップ(S106)に進み、センサ出力測定値VIR―Lが母線絶縁抵抗劣化検知電圧VIR0より高いか等しい場合には、NOと判断されてステップ(S105)へ進む。
【0061】
ステップ(S105)では、図11で示すように、母線のP(+)側及びチョッパ51の二次側の120または、母線のN(−)側122のいずれかにおいて、確保されるべき絶縁抵抗値R以下に絶縁抵抗が劣化していることが判定される。この信号は、例えば、コントローラ103からメインコントローラ80へ送信され、コンソール等のディスプレイに表示させることでオペレータに報知することが望ましい。
【0062】
ステップ(S106)では、算出した補正値出力V’IRが、チョッパ絶縁抵抗劣化検知電圧VIR1より高いか否かが判断される。具体的には、図11で説明したチョッパ絶縁抵抗劣化検知電圧VIR1とステップ(S103)で算出した補正値出力V’IR―Lとを比較する。補正値出力V’IR―Lがチョッパ絶縁抵抗劣化検知電圧VIR1より高い場合には、YESと判断されてステップ(S107)に進み、補正値出力V’IR―Lがチョッパ絶縁抵抗劣化検知電圧VIR1より低いか等しい場合には、NOと判断されてステップ(S101)へ戻る。この場合、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121の絶縁抵抗劣化の程度は、基準値である絶縁抵抗値Rには達していないと判断できる。
【0063】
ステップ(S107)では、コントローラ103の測定フラグをONさせる。具体的には、コントローラ103において、図12A,12Bで示したt=tをセットし、タイマTのカウントを開始する。タイマTの設定値tSETは本実施の形態においては、例えば10分とする。
【0064】
ステップ(S108)では、建設機械が通常待機状態かつタイマTの経過時間が設定値tSET以下か否かが判断される。具体的には、メインコントローラ80において、操作指令等の入力信号を基に、現在の運転状況がアイドリング状態等の通常の待機状態にあるか否か、及び、タイマTの経過時間が設定値tSET以下か否かを判断する。建設機械が通常待機状態かつタイマTの経過時間が設定値tSET以下の場合は、YESと判断されてステップ(S109)に進み、建設機械が通常待機状態でない場合、または、建設機械が通常待機状態かつタイマTの経過時間が設定値tSETと等しいまたはそれ以上の場合は、NOと判断されてステップ(S101)に戻る。この場合、演算を行う条件が不成立またはタイムアウトということなので、最初の状態に戻る。
【0065】
ステップ(S109)では、キャパシタ24の電圧VCAPが、予め設定された電圧値より高いか否かが判断される。具体的には、電圧センサ61で計測されたキャパシタ24の電圧VCAPと、予め設定されているキャパシタ24の電圧高値VCAPHとを比較する。本実施の形態においては、キャパシタ電圧高値VCAPHを例えば200Vに設定する。キャパシタ24の電圧VCAPがキャパシタ電圧高値VCAPHより高い場合には、YESと判断されてステップ(S110)に進み、キャパシタ24の電圧VCAPがキャパシタ電圧高値VCAPHより低いか等しい場合には、NOと判断されてステップ(S108)に戻る。
【0066】
ステップ(S110)では、絶縁抵抗劣化検知装置90のセンサ出力VIR等を測定する。具体的には、電圧センサ60によって母線電圧VBUSを、電圧センサ61によってキャパシタ24の電圧VCAPを、絶縁抵抗劣化検知装置90によってセンサ出力信号VIRをそれぞれ測定する。また、これらの計測値を用いて、演算式(1)に示した演算式から補正値出力V’IRを算出する。これらの測定値、算出値は、例えば、母線電圧測定値VBUS―H,キャパシタ電圧測定値VCAP―H,センサ出力測定値VIR−H,補正値出力V’IR―H,としてコントローラ103の記憶部に記憶される。
【0067】
ステップ(S111)では、所定の論理演算を実行することで、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121において、確保されるべき絶縁抵抗値R以下に絶縁抵抗が劣化していることが判断される。具体的には、以下の3ステップの論理演算がなされる。
(1)母線電圧VBUSが一定であること:コントローラ103において、ステップ(S103)とステップ(S110)で記憶された母線電圧計測値(VBUS―L,VBUS―H)を基に以下の演算式(2)を実行する。
|VBUS―H−VBUS―L|< 10V・・・・(2)
論理演算を行う期間において母線電圧VBUSが、大きく変動していないことを確認する。
(2)母線電圧VBUSが正しい値であること:コントローラ103において、ステップ(S103)とステップ(S110)で記憶された母線電圧計測値(VBUS―L,VBUS―H)を基に以下の演算式(3)を実行する。
母線電圧の定格値が500Vの場合
500−5<(VBUS―H+VBUS―L)/2< 500+5・・・・(3)
論理演算を行う期間において母線電圧VBUSが、定格値の許容範囲から逸脱していないことを確認する。
(3)補正値出力V’IRどおりにセンサ出力が動作していること:コントローラ103において、ステップ(S103)とステップ(S110)で記憶された補正値出力の算出値(V’IR―L,V’IR―H)を基に以下の演算式(4)を実行する。
|V’IR―L−V’IR―H|< ΔVIR・・・・(4)
図11で示す特性曲線bと特性曲線cから定まるΔVIRより補正値出力の差が小さければ、チョッパ絶縁抵抗が劣化していると判断できる。
以上の3ステップの論理演算が全て成立する場合には、YESと判断されてステップ(S112)に進み、3ステップの論理演算のいずれかが不成立の場合には、NOと判断されてステップ(S101)に戻る。
【0068】
ステップ(S112)では、図11で示すように、キャパシタ24のP(+)側及びチョッパ51の一次側121において、確保されるべき絶縁抵抗値R以下に絶縁抵抗が劣化していることが判断される。この信号は、例えば、コントローラ103からメインコントローラ80へ送信され、コンソール等のディスプレイに表示させることでオペレータに報知することが望ましい。
【0069】
上述した本発明の一実施の形態によれば、電動モータ25,23、インバータ52,53、蓄電デバイス24、チョッパ51、及びこれらを駆動・制御する電気回路55及びコントローラ103を含む電動システムを備えた建設機械において、蓄電デバイス24の検出電圧VCAPとインバータ側母線の検出電圧VBUSとを用いた簡易な回路構成によって、絶縁抵抗劣化を検知・判定することが可能となる。この結果、絶縁抵抗劣化が検知された場合、そのことが報知されるので、オペレータにとって安全な建設機械を提供することが可能となる。
【0070】
なお、図13で示した絶縁抵抗劣化の判定シーケンスは、キャパシタ24の電圧VCAPが、電圧低値VCAPLと電圧高値VCAPHとをそれぞれ超えた場合をトリガとして演算するとともに、タイマTによって時間制限をしていることから、建設機械の稼働状況によっては、絶縁抵抗劣化の判定フローが流れにくくなる場合がある。
【0071】
このため、例えば、図2に示すアシスト発電モータ23を以下のように制御してもよい。
図13の絶縁抵抗劣化の判定シーケンスにおいて、ステップ(S101)の後に、アシスト発電モータ23を力行制御してキャパシタ24の電圧VCAPを電圧低値VCAPL以下まで下げて、ステップ(S102)の条件を成立させる。その後、ステップ(S107)の後に、アシスト発電モータ23を回生制御してキャパシタ24の電圧VCAPを電圧高値VCAPH以上まで上げて、ステップ(S109)の条件を成立させる。このような制御フローをメインコントローラ80によって実行させることにより、図13で示した絶縁抵抗劣化の判定フローが的確に実行されることになる。
【0072】
なお、本実施の形態においては、絶縁抵抗劣化検知装置90とコントローラ103とを別々に配設した場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、絶縁抵抗劣化検知装置90をコントローラ103内に組み込んで構成してもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 走行体
11 クローラ
12 クローラフレーム
13 右走行用油圧モータ
14 左走行用油圧モータ
20 旋回体
21 旋回フレーム
22 エンジン
23 アシスト発電モータ
24 キャパシタ
25 旋回電動モータ
26 減速機
27 旋回油圧モータ
30 ショベル機構
31 ブーム
33 アーム
35 バケット
40 油圧システム
41 油圧ポンプ
42 コントロールバルブ
51 チョッパ
52 旋回電動モータ用インバータ
53 アシスト発電モータ用インバータ
54 平滑コンデンサ
55 パワーコントロールユニット
60 電圧センサ(母線電圧検知手段)
61 電圧センサ(電圧検知手段)
80 メインコントローラ
90 絶縁抵抗劣化検知装置
101A 抵抗器
101B 抵抗器
103 コントローラ
140 電流センサ(電流検知手段)
141 絶対値処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータと、蓄電デバイスと、前記蓄電デバイスの電圧を変圧して前記インバータの母線へ供給するチョッパと、これらを駆動・制御する電気回路及びコントローラとを備えた建設機械において、
前記蓄電デバイスの電圧を検知する電圧検知手段と、
前記インバータの母線の正極、負極のそれぞれに各一端側をそれぞれ接続した2つの抵抗器と、一方端が前記2つの抵抗器の他端側に接続され、他方端がシャーシアースに接続される電流検知手段とを有する絶縁抵抗劣化検知装置と、
前記電圧検知手段で検知する前記蓄電デバイスの電圧値の変化量と、前記絶縁抵抗劣化検知装置の前記電流検知手段で検知する信号の変化量とを用いて絶縁抵抗劣化の判定を行う前記コントローラとを備えた
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械において、
前記インバータの母線の電圧を検知する母線電圧検知手段と、
前記電流検知手段で検知する信号が、前記蓄電デバイスの電圧値の変化量に応じて変化しているときには、絶縁抵抗劣化部位をチョッパの蓄電デバイス側かつ正側であると判定し、前記母線電圧検知手段と前記電圧検知手段とで検知した各電圧値を用いて補正値を算出し、前記電流検知手段で検知する信号と前記補正値とを比較して、その差に応じて絶縁抵抗劣化の判定を行う前記コントローラとを備えた
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記蓄電デバイスの電圧値を意図的に変化させる電圧変化制御手段を更に備えた、
ことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−60776(P2013−60776A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201172(P2011−201172)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】