説明

建造物における防水配管装置

【課題】建造物における防水配管装置において、必要最小限度の工期と工費で設備の更新工事を行うことができるものを提供する。
【解決手段】建造物において躯体のスラブを貫通する配管設備に装備される防水配管装置として、実質的に継ぎ構造を有していない配管10と、当該配管の外径よりもやや大径に形成した内径を有し、上記の内径を有する管状部分に上記配管が通される装置本体12を設置し、躯体の外部から装置本体の内部へ水分が侵入するのを防止する外側防水手段15と、装置本体の内部から躯体の内部へ水分が侵入するのを防止する内側防水手段16とを具備し、上記外側防水手段と内側防水手段の箇所にて配管と装置本体とを結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物、特には200年住宅ビジョン等に対応する建造物において、躯体のスラブを貫通する配管設備に装備される防水配管装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、集合住宅における排水の円滑化のために、屋上を貫通する排水立管を設置して屋上から吸気を取り入れることが行われるが、屋上スラブを貫通するため貫通部分には防水処理が必要となる。この部分の施工方法について、従来は、躯体と設備を一体化する構造が一般に取られてきた。これに対し最近になって「200年住宅ビジョン」という政策が喧伝されるようになり、そこにおいて構造躯体(スケルトン)と内装・設備(インフィル)が分離され、スケルトンについては耐久性・耐震性、インフィルについては可変性が確保されていることが、確保されるべき性能として示されている。このような超長期住宅ガイドラインの下では、経年劣化等によって設備(インフィル)を交換する場合においても、最後まで交換を予定しない躯体(スケルトン)などを損壊する工事は避けなければならない。
【0003】
これに対して、従来の工法において、上記屋上スラブを貫通する排水立管を設置する場合には、図6に示したように、通気用配管aはスラブbと一体に固着した構造とし、スラブ上に設置した装置本体cの基部に、通気用配管aの上端部を接続し、さらに装置本体cの上端に通気金物dを取り付けるという構成を取っている。この構造では、装置本体cの内部eが通気と接触するため通気用配管aの一部とみなされ、更新工事が要求されることになるが、通気用配管aの更新の際には躯体のスラブbを粉砕機などを用いて壊したり、屋上の防水層fを覆っている押えモルタルmや断熱材hなどを剥がしたりする工事が必要になる。しかし、例えば特開2006−124981号のように、この種の屋上スラブ貫通構造を見ると、排水立管のスラブと固着している例がほとんどである。
【0004】
【特許文献1】特開2006−124981号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、躯体(スケルトン)と設備(インフィル)とを分離した構造とすることによって、躯体のスラブなどを壊す必要なくして、設備の更新工事を実行することができる建造物における防水配管装置を提供することである。また、本発明の他の課題は、建造物における防水配管装置において、必要最小限度の工期と工費で設備の更新工事を行うことができるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明は、建造物において躯体のスラブを貫通する配管設備に装備される防水配管装置として、実質的に継ぎ構造を有していない配管と、当該配管の外径よりもやや大径に形成した内径を有し、上記の内径を有する管状部分に上記配管が通される装置本体を設置し、躯体の外部から装置本体の内部へ水分が侵入するのを防止する外側防水手段と、装置本体の内部から躯体の内部へ水分が侵入するのを防止する内側防水手段とを具備し、上記外側防水手段と内側防水手段の箇所にて配管と装置本体とが結合されている構成を有するものとするという手段を講じたものである。
【0007】
本発明の装置では、例えば前述のように、屋上スラブを貫通する排水立管を設置する場合を一つの典型的な例とする。建造物を構成している各部屋における排水を考える場合、その部屋の排水が速やかに流れるためには、排水の際に各階の排水が合流する排水立管に外気が速やかに導入されるかどうかということを考慮する必要がある。すなわち、外気の導入が速やかにされない場合は排水も円滑にはなされないので、適切な通気を確保することが必要でありそのために前述した排水立管が必要なものである。
【0008】
本発明の装置では、この排水立管のような配管を、実質的に継ぎ構造を有していない配管と、当該配管の外径よりもやや大径に形成した内径を有し、上記の内径を有する管状部分に上記配管が通される装置本体を設置する。このため、装置本体の管状部分に配管を配置すると、配管外面と開口内面との間には隙間を生じることになり、従って、スラブを破壊しなくても配管を取り外すことが可能になる。本発明において、実質的に継ぎ構造を有していない配管とは、屋内から屋外へ継ぎ目なく1本でつながっている管というような意味であるが、配管同士を接続していないということが必要とされるのではなく、図6の例に示したように配管以外の管状部分によってつながっているものを排除する趣旨である。例えば10メートルの配管部長さを、3メートルの配管を継ぎ足した配管を用いて施工することは全く差し支えない。
【0009】
躯体の内部と外部を通じる配管が通される装置本体は、スラブ外面に接置する。本発明における装置本体は、上記の配管を通すための部分であって、従来のように装置本体の内部が通気と接触するものではないため、通気用配管の一部とはみなされない。すなわち装置本体はスラブに設置して、屋内から伸びる配管を保護するサヤ管(鞘管或いは套管)の機能を果たすものであり、従って、本発明における装置本体は躯体の一部とみなされるから、更新を必要とする対象とはならない。
【0010】
上記配管と装置本体との間には、躯体の外部から装置本体の内部へ水分が侵入するのを防止する外側防水手段と、装置本体の内部から躯体の内部へ水分が侵入するのを防止する内側防水手段とを具備する。外側防水手段は、本発明の装置において外部主として屋外と装置本体内部との防水を行う手段であり、雨水が主な防水対象になる。これに対して内側防水手段は、装置本体の内部に結露水が発生する可能性があるので、これが室内に漏れ出ることについての対策である。
【0011】
上記の特に外側防水手段については、その重要性に鑑み、軸方向の締め付け力をストロークによって管理するために、締め付け力の適正管理用ゲージを使用することができる。そのゲージには、例えば、相互に嵌め合い可能な大径と小径の一対のリングより成り、一対のリングは嵌め合い時に抵抗を生じる径差で嵌め合わさり、嵌め合い方向の長さがほぼ等しく、かつ一方のリングと他方のリングの外面の色が相違し、一対のリングが所定のストローク嵌め合わさることによって一方のリングが他方のリングに隠され、他方のリングの色のみとなり、適正トルクに締め付けられていることを目視により確認可能とするという構成を有しているものが使用できる。
【0012】
上記の外側防水手段と内側防水手段は、何れも配管と装置本体との間に設けられるものであり、従って、配管と装置本体とを結合する手段ともなる。なお、配管外面と開口内面との間には隙間を生じることは既に述べたが、その隙間は空間のまま残されることもあるし、また、断熱シートのような資材を配置することもあり、それによって結露水が発生することを抑制ないしは減少させることが可能である。
【0013】
本発明は、建造物において躯体のスラブを貫通する配管設備に装備される防水装置という性質上、新規工事に伴って適用するケースが多いと考えられる。しかしながら、配管外面と配管を通した開口部分の内面との間に隙間を生じているか、或いは隙間を形成することができる構成を有している配管設備については、既存の設備に後から装着することも可能である。いずれにしても、本発明では従来の装置におけるような継ぎ構造を有していないため、配管の有効断面積を100パーセント確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されかつ作用するものであるから、躯体(スケルトン)と設備(インフィル)とを分離した構造とすることによって、躯体のスラブなどを壊す必要なくして設備の更新工事を実行することができる建造物における防水配管装置を提供することができるという効果を奏する。また、本発明によれば、建造物における配管接備の防水装置において、必要最小限度の工期と工費で設備の更新工事を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明に係る建造物における防水配管装置の例1を示すもので、符号10は配管、11は建造物である集合住宅の屋上のスラブ、12は装置本体である。図示の装置本体12は、建造物の屋上部分のスラブ11に、下面にて固着したつば部13を下端に有するとともに、スラブ内部に配置されているアンカー部14を有し、これらによってスラブ11に固定されており、その上端部はスラブ上面から十分に離れた位置に達する高さを有しており、スラブ打ち込み型の配管10を有する代表例である。
【0016】
装置本体12は、後述する配管の外径よりもやや大径に形成した内径を有する筒状構造体であり、配管外面と開口内面との間には隙間gを生じている。また、装置本体12は、ダクタイル鋳鉄を材料として鋳造されているもので、後述する外側防水手段と内側防水手段を構成する構造部分を要所に有している。すなわち、装置本体12の上端の内側には、図4を参照して説明する外側防水手段15を構成する装置のために、上方に向かって開いた開口部を形成する斜面12aが設けられており、装置本体12の下部の内側には、内側防水手段16としてのシールリングを配置する溝部12bが設けられている。上記防水手段16としてのシールリングは、結露水の止水機能とともに配管10を保持するサポート機能を有しており、これらの機能のために配管外面との間に石鹸水などの滑り助材を用いて挿入することが望ましい。
【0017】
前述の外側防水手段15は、図4に示すように、装置本体12の上端のフランジ12cに対向して上部に配置したリング状のフランジ17と、フランジ17の下方に向かって開いた開口部を形成する斜面17aと前記装置本体12の上方に向かって開いた斜面12aとの間に配置したリング状のパッキング18と、上記フランジ17と装置本体12のフランジ12cを締め付けるボルト19a及びナット19bから成る緊締部材とを具備しており、パッキング18は、配管外面と斜面12a、17aとの間に配置される剛体球18aを複数個有している。従って、上記例1の外側防水手段15の構成においては、ボルトナットの締め付けに伴って強力な力でパッキング18を圧迫し、かつ、斜面12aにおける剛体球18aによって、配管10と装置本体12とを強固に結合することができ、躯体の外部から装置本体20の内部へ水分が侵入するのを防止するとともに、配管10を保持するサポート機能が発揮される。
【0018】
その際、フランジの周方向に複数箇所配置されるボルトナットによる締め付け力をストロークによって管理するために、締め付け力の適正管理用ゲージ20を組み込んでいる。上記のゲージ20は相互に嵌め合い可能な小径と大径の一対の嵌め合いリング21、22を具備し、それらの嵌め合い時に抵抗を生じる径差で嵌め合わさり、嵌め合い方向の長さがほぼ等しく、かつ一方のリングと21他方のリング22の外面の色が相違しており、一対のリング21、22が所定のストローク嵌め合わさることによって一方のリング21が他方のリング22に隠され、他方のリング22の色のみとなることによって、適正トルクに締め付けられていることを目視により確認可能としたものである。
【0019】
本発明に係る建造物における防水配管装置の例1では、上記締め付け力の適正管理用ゲージ20を設けた外側防水手段15を保護するために、カバー23によって外側防水手段15の外部を覆っている。カバー23は上端で閉じ下端で開いた筒状構造を有しており、配管10にその上端から被せるために配管を通す中央部の通し孔23aを閉じた上端部に形成したもので、下方にやや開き気味の外形を持っている。このカバー23を透明な樹脂材料などを用いて形成することによって、締め付け力の適正管理用ゲージ20の状態が目視により確認可能となる。カバー23の固定には前記のボルトナットの外方端部に螺合する外部ナット19cが用いられ、また、その部分の外側防水手段15との間に外部パッキング24を介在させて、雨水の進入防止を図っている。
【0020】
図中、25は通気金物であり、配管10の上端に設置されている。また、26はスラブ上面に敷設される防水層であり、図示の防水層26の末端はスラブ11上面から立ち上がる配管10の基部から覆ってその上端近くまで達し、カバー23の内側において銅線を用いて結束するなどの公知の任意の方法によって端末処理26aがなされている。27は断熱材層、28は押えモルタル層であり、配管外面を覆う防水層26との間には緩衝材29を介在させた構成を有している。
【0021】
図2は、本発明に係る建造物における防水配管装置の例2を示すもので、上記の例1とは外側防水手段30の点において相違し、スラブ打ち込み型の配管10を有することを始めとするその他の点においては共通の構成を有している。従って、例2については外側防水手段30を説明し、それ以外の構成については符号を援用し、詳細な説明は繰り返さないが、本発明を最も単純に実施する形態であるということができる。
【0022】
例2において、装置本体12の形状、構造は例1のものと同様であるが、その上端にて上方に向かって開いた開口部を形成する斜面12aに対して単一のパッキング31を配置し、外側防水手段30を構成している。すなわち、パッキング31はカバー23の上端部23bにて、ナット19cの締め付け力を利用して締め付け、これによって躯体の外部から装置本体20の内部へ水分が侵入するのを防止する雨水進入防止機能と、配管10を保持するサポート機能が達成されるように図っている(図5参照)。
【0023】
図3は、本発明に係る建造物における防水配管装置の例3を示すもので、上記の例1及び例2とは異なり、配管外面と配管10を通したスラブ11の開口部分11aの内面との間に隙間gを生じている、既存の設備に後から装着する例として構成されている。例3における装置本体32は、建造物の屋上部分のスラブ11に、上面にて固着したつば部33を下端に有するとともに、アンカー部34を構成しているアンカーボルトをスラブ上面に打ち込むことによって設置されている。
【0024】
上記装置本体32の基部の内側には、内側防水手段36としてのシールリングを配置する溝部32bが設けられている。例3における内側防水手段36としてのシールリングも、結露水の止水機能とともに配管10を保持するサポート機能を有しており、これらの機能のために配管外面との間に石鹸水などの滑り助材を用いて挿入される。例3における外側防水手段は例2と同様であり、従って装置本体上端に斜面12aに対して単一のパッキング31を配置し、カバー23の上端部23bにて、ナット19cの締め付け力を利用して締め付け、固定しているものである。それ以外の構成については、例1と同様であるので、符号を援用し、詳細な説明は繰り返さない
【0025】
本発明の建造物における防水配管装置はこのように構成されているものであり、躯体のスラブ11を貫通する配管設備において、内装・設備(インフィル)としての配管10と構造躯体(スケルトン)としてのスラブ11とが分離されているので、超長期住宅ガイドラインの下で建設され、耐久性・耐震性を備えているスラブ11(スケルトン)に対して、可変性の確保されるべき配管10(インフィル)の更新が必要になっても、スラブ11(スケルトン)などを損壊することなく、配管10の交換工事のみで必要な作業を完了することができる。従って、工期及び工費を最小限度に止められるとともに、工事の前後において躯体構造に変化が生じないとともに、住宅の資産価値なども高められる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る建造物における防水配管装置の例1を示す縦断面説明図である。
【図2】同上の装置の例2を示す縦断面説明図である。
【図3】同上の装置の例3を示す縦断面説明図である。
【図4】同上例1の要部を拡大して示す断面図である。
【図5】同上例2及び例3の要部を拡大して示す断面図である。
【図6】従来例を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0027】
10 配管
11 スラブ
12、32 装置本体
13、33 つば部
14、34 アンカー部
15、30 外側防水手段
16、36 内側防水手段
17 フランジ
18、31 パッキング
19a ボルト
19b ナット
20 適正管理ゲージ
21、22 嵌め合いリング
23 カバー
24 外部パッキング
25 通気金物
26 防水層
27 断熱材層
28 押えモルタル層
29 緩衝材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物において躯体のスラブを貫通する配管設備に装備される防水配管装置であって、
実質的に継ぎ構造を有していない配管と、当該配管の外径よりもやや大径に形成した内径を有し、上記の内径を有する管状部分に上記配管が通される装置本体を設置し、躯体の外部から装置本体の内部へ水分が侵入するのを防止する外側防水手段と、装置本体の内部から躯体の内部へ水分が侵入するのを防止する内側防水手段とを具備し、上記外側防水手段と内側防水手段の箇所にて配管と装置本体とが結合されている建造物における防水配管装置。
【請求項2】
外側防水手段の締め付け力をストロークによって管理するために、相互に嵌め合い可能な大径と小径の一対のリングより成り、一対のリングは嵌め合い時に抵抗を生じる径差で嵌め合わさり、嵌め合い方向の長さがほぼ等しく、かつ一方のリングと他方のリングの外面の色が相違しており、一対のリングが所定のストローク嵌め合わさることによって一方のリングが他方のリングに隠され、他方のリングの色のみとなることによって、適正トルクに締め付けられていることを目視により確認可能とした締め付け力の適正管理用ゲージを組み込んだ請求項1記載の建造物における防水配管装置。
【請求項3】
締め付け力の適正管理用ゲージを設けた外側防水手段の外部を保護するカバーが透明材料によって形成されている請求項1記載の建造物における防水配管装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−156141(P2010−156141A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334714(P2008−334714)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000118590)伊藤鉄工株式会社 (13)