説明

建造物の補強方法

【課題】 既存の建造物の柱や壁1を補強用鋼板2で囲い、これら補強用鋼板と柱や壁との間にグラウト材3を充填する建造物の補強方法において、グラウト材3が硬化する過程で発生するすき間4を埋めることを目的とする。
【解決手段】 既存の建造物の壁1と補強用鋼板2との間に、グラウト材3を充填してそれが硬化した後に、先端に球体を設けた棒を用いて、その球体を補強用鋼板2の外側に接触させたまま所定の方向に移動させる。このように球体を接触させたまま移動させると、そのときに摺接音が発生するが、上記すき間4に対応した位置と、すき間4がない位置とでは上記摺接音が異なる。このように摺接音が異なる部分に着目して、そこに充填材を注入してすき間4を埋めるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、柱や壁に間隔を保って補強用鋼板を対向させ、これら柱や壁と補強用鋼板との間にグラウト材を充填する建造物の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、既存の建造物の柱や壁に、間隔を保って補強用鋼板を対向させるとともに、これら柱や壁と補強用鋼板との間にグラウト材を充填して、既存の建造物を補強する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−328634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように柱や壁と補強用鋼板との間にグラウト材を充填する補強方法において、グラウト材が硬化する過程で熱を発生するが、このとき鋼板とグラウト材との熱膨張率が異なるため、それらの熱膨張後の収縮過程で両者の間にすき間が形成される。また、グラウト材は、その硬化後には体積をさらに縮小させるので、上記すき間はさらに大きくなる。
このようにしてできたすき間を残したままにしておくと、そのすき間の部分で、補強用鋼板と充填したグラウト材との一体化が損なわれて強度が弱くなるという問題があった。
【0005】
この発明の目的は、補強用鋼板によって隠されたすき間を検出するとともに、そのすき間に充填材を注入して強度を維持するための補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、建造物の柱や壁と補強用鋼板とを、間隔を保って対向させるとともに、この対向間隔にグラウト材を充填してなる建造物の補強方法に関する。
そして、第1の発明は、上記対向間隔間にグラウト材を充填し、このグラウト材が凝結硬化した後に、鋼板の表面の打音、摺接音あるいはレーザーの反射などによって、上記鋼板と凝結硬化したグラウト材との間のすき間の有無を検出し、検出したすき間に対応する上記鋼板位置に注入穴を形成し、この注入穴から充填材を注入する一方、この充填材が硬化後、再び上記鋼板と上記グラウト材との間のすき間の有無を検出し、すき間が検出されたとき、このすき間に対応する上記鋼板位置に注入穴を形成して充填材を注入する行為を、上記鋼板と凝結硬化したグラウト材との間のすき間が検出されなくなるまで繰り返す点に特徴を有する。
【0007】
第2の発明は、上記すき間に注入する充填材が、硬化後に収縮しないエポキシ樹脂あるいはアクリル樹脂からなる点に特徴を有する。
【0008】
なお、この発明において、充填材の注入を繰り返すのは次の理由からである。例えば、一つのすき間に充填材を注入すると、その圧力の作用で他の部分に新たなすき間ができるというように、新たなすき間が連鎖的に形成されることがあるので、そのように連鎖的に形成されたすき間を一つひとつ埋めていくためである。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の補強方法によれば、補強用鋼板と既存の柱や壁との間を充填材で埋められるので、たとえ、すき間が形成されたとしても、補強用鋼板が既存の柱や壁と一体化するので、強度が弱くなったりしない。
しかも、すき間はそれが検出されなくなるまで繰り返すので、新たなすき間が連鎖的に形成されたとしても、それらのすき間をくまなく埋め尽くすことができる。
【0010】
第2の発明によれば、すき間に注入する充填材として、硬化後に収縮しないエポキシ樹脂あるいはアクリル樹脂を用いたので、すき間に充填材を注入した後に、その部分に新たなすき間が形成されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はこの発明の実施例を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図示の実施形態は、既存の壁1に複数の補強用鋼板2を、壁1に沿って連続的に対向させるとともに、これら壁1と補強用鋼板2との間にグラウト材3を充填し、このグラウト材3を介して壁1と補強用鋼板2とを一体化して、既存の建造物を補強するものである。
【0013】
一方、上記のようにグラウト材3を充填して、それを硬化させる過程では、グラウト材3から硬化熱が発生するが、この発熱の影響で、グラウト材3と補強用鋼板2とのそれぞれは熱膨張する。しかし、グラウト材3と補強用鋼板2とでそれらの熱膨張率が異なるので、熱膨張したグラウト材3と補強用鋼板2との収縮速度も異なる。そのために、グラウト材3と補強用鋼板2との間にすき間が形成される。
【0014】
しかも、グラウト材3は、その硬化後に体積をさらに縮小させるので、上記すき間がいっそう大きくなって、図示のすき間4が形成される。
このすき間4をそのまま残しておけば、グラウト材3と補強用鋼板2とが分離する原因になり、その結果、補強効果が減殺されることになる。
【0015】
そこで、この実施形態では、先端に球体を一体形成した棒を用い、その棒の先端の球体を補強用鋼板2の外側に接触させた状態で、その球を一定方向に移動させ、そのときの摺接音によって、すき間4の有無を判定している。
【0016】
つまり、上記のように球体を移動させる過程で、その球体が上記すき間4部分を通過したときには、そのすき間4の空気の影響でそこから反響される摺接音が、すき間4がない他の部分とは異なるので、そのときの摺接音の差によってすき間4の有無を判定することができる。
【0017】
なお、上記実施形態では、棒の先端に設けた球体の摺接音の差によってすき間の有無を判定したが、例えば、金槌のような叩くための道具を用いて、補強用鋼板2の前面をくまなく叩きながら、そのときの打音の差から上記すき間4を検出するようにしてもよい。
【0018】
さらに、レーザーを用いて、そのレーザーの反射によって、上記すき間4を検出するようにしてもよい。
ただし、上記摺接音もしくは打音によってかなり正確にすき間4を検出できるので、レーザー等の装置を用いなくてもよい場合がほとんどである。
【0019】
上記のようにしてすき間4を検出したら、このすき間4に対応する位置における補強用鋼板2に穴を開け、この穴からすき間4を生めるための充填材を注入する。
上記充填材としては、例えば、硬化後に収縮しないエポキシあるいはアクリル系の樹脂を用いるとよい。なぜなら、それを注入した後に、同じ箇所にさらにすき間が形成されたりしなくなるからである。
ただし、充填材は、エポキシあるいはアクリル系の樹脂に限定されるものではなく、例えば、グラウト材を注入してもよい。
【0020】
上記のようにすき間4に充填材を注入すると、そのときの注入圧によって、充填材を注入したすき間4とは別の位置において、補強用鋼板2が膨らんだりして、別の新たなすき間が形成されることがある。
【0021】
上記のようにして連鎖的に形成されたすき間4をそのまま残しておけば、その残されたすき間4が原因になって、補強効果が減殺されることになる。
そこで、この実施形態では、摺接音、打音あるいはレーザーによるすき間4の検出行為を何度も繰り返して、補強効果を減殺させる要因を取り除くようにしている。
【0022】
いずれにしても、この実施形態によれば、上記したようにグラウト材3と補強用鋼板2との熱膨張率の相違や、グラウト材3が硬化する時の体積の収縮等により発生するすき間4を検出して、その検出したすき間4に充填材を注入するようにしたので、このすき間4が原因となる補強効果を減殺させる要因を取り除くことができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
既存の建造物の柱や壁等を補強用鋼板で囲って、その中にグラウト材を充填する補強工法に最適である。
【符号の説明】
【0024】
1 壁
2 補強用鋼板
3 グラウト材
4 すき間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の柱や壁と補強用鋼板とを、間隔を保って対向させるとともに、この対向間隔にグラウト材を充填してなる建造物の補強方法において、上記対向間隔間にグラウト材を充填し、このグラウト材が凝結硬化した後に、鋼板の表面の打音、摺接音あるいはレーザーの反射などによって、上記鋼板と凝結硬化したグラウト材との間のすき間の有無を検出し、検出したすき間に対応する上記鋼板位置に注入穴を形成し、この注入穴から充填材を注入する一方、この充填材が硬化後、再び上記鋼板と上記グラウト材との間のすき間の有無を検出し、すき間が検出されたとき、このすき間に対応する上記鋼板位置に注入穴を形成して充填材を注入する行為を、上記鋼板と凝結硬化したグラウト材との間のすき間が検出されなくなるまで繰り返す建造物の補強方法。
【請求項2】
上記すき間に注入する充填材が、硬化後に収縮しないエポキシ樹脂あるいはアクリル樹脂からなる請求項1記載の建造物の補強方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−96065(P2013−96065A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236744(P2011−236744)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(510331504)
【Fターム(参考)】