説明

建造物用水性仕上げ塗料

【目的】建造物に対し、優れた透湿性と耐水性とを兼ね備え、しかも、下地のひび割れに追従可能な柔軟性を有する光沢のない塗膜を形成する。
【構成】建造物用水性仕上げ塗料は、固形成分が樹脂固形成分と無機顔料成分とからなる水性無機塗料と、ガラス転移点が0℃未満であるエチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションとを含み、水性無機塗料の固形成分100重量部に対し、エマルションの固形分が20〜100重量部に設定されている。ここで用いられる水性無機塗料の固形成分は、通常、樹脂固形成分100重量部に対して無機顔料成分を350〜700重量部含むものである。また、エチレン−ビニルエステル共重合体は、例えばエチレン−酢酸ビニルエステル共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性仕上げ塗料、特に、建造物用の水性仕上げ塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家屋、ビル、高速道路および鉄道などのモルタルやコンクリートを用いた建造物(以下、まとめて「コンクリート建造物」と云う場合がある)は、耐久性および美観の向上が求められているため、通常、仕上げ塗料により表面塗装されている。そして、このような目的のための仕上げ塗料として、非特許文献1に記載の砂壁状吹付材、すなわち、シリカリシン、セメントリシン、じゅらくおよびパーライト吹付等と通称されているものが多用されている。
【0003】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS A6909:2003、第3頁の表1
【0004】
このような砂壁状吹付材は、塗膜中の顔料や骨材等の無機成分と樹脂成分との比を意味する臨界PVC(CPVC:クリティカル・ピグメント・ボリューム・コンセントレーション)を超える配合で無機成分を含むよう配合設計されているため、無数の微細な空孔を有する塗膜を形成可能である。したがって、この塗膜は、非常に高い透湿性を有し、打設後のモルタルやコンクリート表面から比較的長期間に渡って蒸散する水分を効果的に発散させることができるという利点を有する。
【0005】
しかし、砂壁状吹付材による塗膜は、高い透湿性を有するがために、外部からの水、例えば、降雨や水はけの悪い場所に溜まった水などが容易に浸透し、コンクリート建造物をこのような水の影響から十分に保護しにくいという欠点を有する。また、砂壁状吹付材による塗膜は、コンクリート建造物に対する密着性および柔軟性に劣るため、種々の原因によりコンクリート建造物にひび割れが発生した場合、そのようなひび割れに追従して伸展することができず、亀裂や剥離が生じやすい。
【0006】
一方、砂壁状吹付材に替わるコンクリート建造物用の仕上げ塗料として、柔軟性のある塗膜を形成可能な塗料が弾性塗料と称して上市されている。このような弾性塗料は、ガラス転移点が室温以下の塗料用ビヒクルを用いてPVCを低く設定したものであるため、下地のひび割れに追従可能な適度の柔軟性を有する、亀裂が発生しにくい塗膜を形成することができる。しかし、この塗膜は、光沢を有するものであるため、周辺環境と調和しにくく、景観を損なうことがある。しかも、この塗膜は、透湿性に劣るため、モルタルやコンクリートの表面から蒸散する水分の影響により浮きやフクレが発生しやすく、場合によってはそのような現象に伴って剥離することがあり、また、下地と塗膜との間に結露を生じさせ、鉄筋を腐食させて脆弱化させるおそれがある等の不具合がある。
【0007】
本発明の目的は、建造物に対し、優れた透湿性と耐水性とを兼ね備え、しかも、下地のひび割れに追従可能な柔軟性を有する光沢のない塗膜を形成することにある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、固形成分が樹脂固形成分と無機顔料成分とからなる水性無機塗料と、ガラス転移点が0℃未満であるエチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションとを含み、水性無機塗料の固形成分100重量部に対し、エマルションの固形分が20〜100重量部に設定されている。
【0009】
ここで、水性無機塗料の固形成分は、通常、樹脂固形成分100重量部に対して無機顔料成分を350〜700重量部含む。また、エチレン−ビニルエステル共重合体は、例えばエチレン−酢酸ビニルエステル共重合体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、水性無機塗料の固形成分に対し、特定のエチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションを特定の割合で混合したものであるため、コンクリート等の建造物の表面に適用した場合、優れた透湿性と耐水性とを兼ね備え、しかも、下地のひび割れに追従可能な柔軟性を有する光沢のない塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、水性無機塗料とエマルションとを含んでいる。
【0012】
本発明において用いられる水性無機塗料は、水性媒体に樹脂固形成分と無機顔料成分とからなる固形成分を分散させたものであり、固形成分において樹脂固形成分よりも無機顔料成分の重量割合が多いものである。ここで用いられる水性媒体は、上水、工業用水、イオン交換水および蒸留水等の水などである。
【0013】
樹脂固形成分は、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ウレタン樹脂およびアルキルシリコン樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂固形成分は、二種以上のものが併用されてもよい。また、無機顔料成分は、体質顔料や着色顔料などの各種のものであって特に限定されるものでない。体質顔料としては、例えば、ベントナイト等のモンモリロナイト系粘土鉱物、シリカ、クレー、カオリン等のケイ酸アルミニウム類、タルク等の珪酸マグネシウム類、炭酸カルシウムおよび硫酸バリウム等を用いることができる。また、着色顔料としては、各種の有色顔料、例えば、チタン白や亜鉛華等の白色顔料、黄鉛、べんがらおよびカーボンブラック等を用いることができる。無機顔料成分は、体質顔料と着色顔料との混合物であってもよい。
【0014】
水性無機塗料に含まれる固形成分において、無機顔料成分の配合量は、樹脂固形成分100重量部に対して350〜700重量部に設定するのが好ましく、400〜600重量部に設定するのがより好ましい。無機顔料成分の配合量が350重量部未満のときは、塗膜が光沢を発したり、塗膜に所要の着色が付与されにくくなったりする可能性がある。逆に、無機顔料成分の配合量が700重量部を超えるときは、塗膜の強度が低下したり、塗膜がチョーキング(いわゆる粉吹き)を発したりする可能性がある。
【0015】
また、水性無機塗料において、樹脂固形成分の含有量は、水性無機塗料の全重量の5〜20重量%に設定されているのが好ましく、7〜15重量%に設定されているのがより好ましい。樹脂固形成分の含有量が5重量%より少ないときは、水性無機塗料において無機顔料成分の分散性が低下し、均一な塗膜が形成されにくくなる可能性がある。また、その塗膜は、基材、すなわち建造物への接着性が低下する可能性もある。逆に、樹脂固形成分の含有量が20重量%を超えるときは、塗膜に光沢が発生する可能性がある。
【0016】
本発明において用いられるエマルションは、エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションであり、例えば、エチレン単位と、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニルおよびバーサチック酸ビニル等のビニルエステルに由来のビニルエステル単位とを含む共重合体を含有する水性エマルションである。エチレン−ビニルエステル共重合体は、エチレン単位およびビニルエステル単位とは異なる他の重合単位を含有していても良い。
【0017】
このような他の重合単位としては、エチレンおよびビニルエステルと共重合可能なモノマー、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタアクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、メタアクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、メタアクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタアクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、メタアクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、メタアクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、メタアクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルおよびメタアクリル酸ステアリル等のアクリル酸類およびメタアクリル酸類、クロトン酸、イタコン酸(半エステルを含む)およびマレイン酸(半エステルを含む)等のカルボキシル基含有モノマーおよびその無水物、N−メチロールアクリルアミドやN−ブトキシメチルアクリルアミド等のN−メチロール誘導体モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタアクリレート、多価アルコールのモノアクリレート、多価アルコールのモノメタアクリレートおよび多価アルコールのモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレートやジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のアミノ基含有モノマー、グリシジルアクリレートやグリシジルメタアクリレート等のエポキシ基含有モノマー、アクリルアミド、メタアクリルアミドおよびマレインアミド等のアミド基含有モノマー、ビニルスルホン酸ソーダ、メタリルスルホン酸ソーダおよび2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ等のスルホン基含有モノマー、トリアリルイソシアヌレート、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、スチレン等の芳香族ビニル類、ブタジエン、ジシクロペンタジエンおよびプロピレン等のエチレン以外のオレフィン類等に由来の単位を挙げることができる。
【0018】
エチレン−ビニルエステル共重合体として好ましいものは、エチレン単位と酢酸ビニル単位とからなる共重合体(すなわち、エチレン−酢酸ビニル共重合体)や、エチレン単位と酢酸ビニル単位とに加え、酢酸ビニル以外のビニルエステル単位をさらに含む共重合体である。特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0019】
エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションは、固形分を100重量%とした場合、エチレン単位の含有量が5〜35重量%程度のものが好ましく、10〜30重量%程度のものがより好ましい。エチレン単位の含有量が5重量%未満のときは、コンクリート等の基材に生じるひび割れに追従可能な柔軟性を有する塗膜が得られない可能性がある。逆に、35重量%を超えるときは、塗膜の強度が低下する可能性がある。ここで、エマルションの固形分とは、JIS K6828の4.9に準じて乾燥することにより求めた蒸発残分をいう。
【0020】
本発明では、上述のようなエチレン−ビニルエステル共重合体のうち、ガラス転移点が0℃未満のものを用いる必要がある。ガラス転移点が0℃以上のエチレン−ビニルエステル共重合体を用いた場合、コンクリート等の基材に生じるひび割れに追従可能な柔軟性を有する塗膜が得られない。
【0021】
エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションは、例えば乳化重合法により製造することができる。乳化重合で使用される分散剤は、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤若しくは保護コロイド等であるが、特に保護コロイドが好ましい。保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類およびヒドロキシエチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性高分子が挙げられるが、ポリビニルアルコール類が特に好ましい。
【0022】
保護コロイドとしてポリビニルアルコール類を使用する場合、ポリビニルアルコール類の使用量は、水性エマルションの安定性が向上する観点および得られる塗膜の耐水性が向上する観点から、エチレン−ビニルエステル共重合体100重量部に対して0.1〜10重量部に設定するのが好ましく、0.3〜6重量部に設定するのがより好ましい。
【0023】
エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションは、市販のものを用いることもできる。市販品の具体例としては、住友化学株式会社の商品名「スミカフレックス」シリーズ(例えばS−400、S−401、S−450、S−456、S−460、S−467、S−500、S−520、S−755、S−801、S−900、S−950)、電気化学工業株式会社の商品名「デンカEVAテックス」シリーズ、株式会社クラレの商品名「パンフレックス」シリーズ、大日本インキ化学工業株式会社の商品名「EVADIC」シリーズおよび昭和高分子株式会社の商品名「ポリゾール」シリーズ等を挙げることができる。また、本発明において使用されるエチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションは、二種類以上のものの混合物であってもよい。
【0024】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、上述の水性無機塗料およびエマルションの他に、必要に応じて造膜助剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤等の配合剤等を含有していてもよい。
【0025】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、水性無機塗料、エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションおよび必要に応じて上述の配合剤を通常の攪拌装置で混合することで製造することができる。この際、エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションの使用量は、水性無機塗料の固形成分100重量部に対し、固形分として20〜100重量部に設定するのが好ましく、25〜70重量部に設定するのがより好ましい。エチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションの固形分が20重量部未満のときは、透湿性を有する塗膜を形成することができるものの、当該塗膜は柔軟性に劣り、コンクリート等の基材に生じたひび割れ等のクラックに追従して伸展しにくくなる。逆に100重量部を超える場合、得られる塗膜は、クラック追従性が向上するものの透湿性が損なわれ、コンクリート等の基材から蒸散する水分の影響により短期間で浮きやフクレおよびこれらに伴う剥がれが発生しやすくなる。また、後述するように二色以上の本発明の建造物用水性仕上げ塗料を混合しながら基材に対して塗布した時に、色が滲みやすくなり、意匠性が低下するおそれもある。
【0026】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、貯蔵安定性が良好であり、例えば、モルタルやコンクリート等の建造物、特にこれらの擁壁や基礎部等の表面塗装をするために用いられる。建造物に対する本発明の水性仕上げ塗料の適用方法は、特に限定されるものではなく、例えば、刷毛、ローラー若しくはスプレーを用いる方法を採用することができる。ここで、本発明の塗料は、必要に応じて粘度を調整することもできる。例えば、本発明の塗料を製造するときに、水の使用量を加減して粘度調整してもよいし、製造後の塗料に増粘剤を添加して粘度調整してもよいが、後者の粘度調整方法が好ましい。使用可能な増粘剤としては、例えば、サンノプコ株式会社製のSNシックナー621N、SNシックナー603、SNシックナー612、SNシックナーA−803およびSNシックナーA−814(いずれも商品名)等のポリエーテル系増粘剤、東亜合成株式会社製のアロンA−7180(商品名)等のアクリル酸エステル共重合体系増粘剤、メチルセルロース系増粘剤およびカルボキシメチルセルロース系増粘剤等を挙げることができるが、ポリエーテル系増粘剤が特に好ましい。
【0027】
上述のようにして形成される塗膜は、透湿性、耐水性および耐久性に優れているため、建造物、特にコンクリート建造物から蒸散する水分を効果的に発散させることができ、また、降雨その他の水分の影響から建造物を長期的に保護することができる。また、この塗膜は、柔軟性を有するため、コンクリート建造物などの下地にひび割れが発生しても当該ひび割れに追従して伸展することができ、亀裂が発生しにくい。さらに、この塗膜は、光沢がないため、周辺環境に調和して景観を損ないにくい意匠を建造物に対して付与することができる。
【0028】
本発明の建造物用水性仕上げ塗料は、建造物に対し、一種類のものが適用されてもよいし、二種類以上のもの、特に、色彩の異なる二種類以上のものが同時に適用されてもよい。二種類以上の塗料は、例えば、混合スプレーガンを用いた塗装方法や、刷毛やローラーを用いた重ね塗りにより建造物に対して適用することができる。例えば、建造物に対し、色彩の異なる二種類以上の本発明の塗料を混合スプレーガンで塗布すると、各種類の塗料による色彩のコントラストが鮮明な(すなわち、色の滲みが少ない)多色の擬石調の質感を有し、かつ、凹凸状の起伏を有する立体的な塗膜が形成され、建造物の意匠性を高めることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例1
エチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルション(住友化学株式会社の商品名「スミカフレックスS−950」:固形分55重量%、ガラス転移点−30℃)80重量部と、樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP白」)100重量部とをスリーワンモーターにて500rpmで攪拌混合し、水性仕上げ塗料を製造した。
【0031】
実施例2
エチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルション(住友化学株式会社の商品名「スミカフレックスS−520」:固形分55重量%、ガラス転移点−12℃)30重量部と、樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP黒」)100重量部とをスリーワンモーターにて500rpmで攪拌混合し、水性仕上げ塗料を製造した。
【0032】
比較例1
樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP白」)のみからなる水性仕上げ塗料を入手した。
【0033】
比較例2
エチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルション(住友化学株式会社の商品名「スミカフレックスS−520」:固形分55重量%、ガラス転移点−12℃)30重量部と、樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP黒」)10重量部とをスリーワンモーターにて500rpmで攪拌混合し、水系仕上げ塗料を製造した。
【0034】
比較例3
エチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルション(住友化学株式会社の商品名「スミカフレックスS−950」:固形分55重量%、ガラス転移点−30℃)150重量部と、樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP白」)100重量部とをスリーワンモーターにて500rpmで攪拌混合し、水性仕上げ塗料を製造した。
【0035】
比較例4
エチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルション(住友化学株式会社の商品名「スミカフレックスS−305」:固形分50重量%、ガラス転移点7℃)60重量部と、樹脂固形成分100重量部に対して450重量部の無機顔料成分を含む、固形成分量が65重量%の水性無機塗料(住友精化株式会社の商品名「アクアトップSEP白」)100重量部とをスリーワンモーターにて500rpmで攪拌混合し、水性仕上げ塗料を製造した。
【0036】
評価A
各実施例および各比較例の水性仕上げ塗料を用いて形成した塗膜について、ひび割れ追従性、密着性、フクレおよび光沢を評価した。各項目の試験方法および評価の基準は、規定によって定められたものではなく経験的な方法であり、具体的には下記の通りである。また、結果を表1に示す。なお、表1に示したエチレン−酢酸ビニルエステル共重合体のエマルションの固形分量(重量部)は、水性無機塗料の固形成分量を100重量部とした場合の換算値である。
【0037】
(ひび割れ追従性)
財団法人土木学会の「表面被覆材のひび割れ追従性試験方法」(JSCE−K532−1999)に準拠して評価した。すなわち、TP技研株式会社の「モルタル板 120×40×10mm溝入り」を二つに切断し、切断面を突き合わせて側面を粘着テープで固定した後、その塗布面全面に水性仕上げ塗料を800[g/m]で刷毛で塗装して室温で7日間静置し、評価する水性仕上げ塗料それぞれについての試験体を作製した。引張試験機(株式会社島津製作所の型式「AGS−5KND」)を用いてこれらの試験体の両端部を1mm/mのスピードで引張ったときに形成された塗膜が破断するまでの伸びをノギスを用いて測定した。評価の基準は次の通りである。
【0038】
〇:3回測定の平均値として0.8mm以上の伸びを示す。
×:3回測定の平均値として0.8mm未満の伸びしか示さない。
【0039】
(密着性)
長さ150mm、幅70mm、厚さ3mmのスレート板の表面に、ローラーを用いて水性仕上げ塗料を400[g/m]で均一に塗布し、室温にて7日間静置した。このスレート板の側面の全周囲をエポキシ樹脂でシールした後、このスレート板を3%硫酸ナトリウム水溶液中に裏面から1/2の深さまで浸漬させ、塗膜の密着状態を目視にて観察した。評価の基準は次の通りである。
【0040】
〇:10日以上経過後も浮きや剥がれは認められず、密着性は良好であった。
×:10日以内に浮きまたは剥がれが発生した。
【0041】
(フクレ)
一辺が70mmで厚さが5mmの正方形の珪酸カルシウム板の表面に、水性仕上げ塗料を400[g/m]で均一に塗布し、室温にて7日間静置した。珪酸カルシウム板の側面の全周囲をエポキシ樹脂でシールした後、この珪酸カルシウム板を水中に裏面から1/2の深さまで浸漬させ、強制的に水を含浸させた。その後、珪酸カルシウム板を水から引き上げて裏面全体をエポキシ樹脂でシールし、50℃の乾燥機内で塗膜のフクレ状態を目視にて観察した。評価の基準は次の通りである。
【0042】
〇:10日以上経過してもフクレは発生しなかった。
×:10日以内にフクレが発生した。
【0043】
(光沢)
長さ150mm、幅70mm、厚さ3mmのガラス板の表面に、アプリケーターローラーを用いて水性仕上げ塗料を厚さ150μmになるよう塗布し、室温にて7日間静置した。これにより形成された塗膜について、光沢計(Byk−Gardner社の商品名「Micro Tri Gloss」)を用い、入射角が60度の条件で表面の光沢の有無を測定した。評価の基準は次の通りである。
【0044】
〇:測定値が5.0以下であり、光沢を有していない。
×:測定値が5.1以上であり、光沢を有する。
【0045】
【表1】

【0046】
評価B
実施例1,2および比較例1〜3の水性仕上げ塗料から二種類を選んで混合して塗布した場合に得られる塗膜の意匠性を評価した。ここでは、一辺が300mmで厚さが5mmの正方形のスレート板の表面に、表2に示す組合せの水性仕上げ塗料をフルテック株式会社製の混合スプレーガンを用いて400[g/m]で均一に吹き付け、1時間経過後にさらに400[g/m]で均一に吹き付けて白黒の擬石調模様の塗膜を形成した。この塗膜について、色の界面の滲みと模様発現状態を観察した。評価の基準は次の通りである。結果を表2に示す。
【0047】
〇:色の界面が鮮明で色滲み(混色したグレー部分)のない、良好な擬石調模様の塗膜が形成された。また、塗装表面は岩肌調の凹凸状であった。さらに、一年間の大気雰囲気暴露試験後の変色の程度は軽度であった。
×:色の界面が不鮮明で色滲みがあり、混色によりグレー化した擬石調模様の塗膜が形成された。また、塗装表面は平坦であった。さらに、一年間の大気雰囲気暴露試験により黒変し、変色が著しかった。
【0048】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形成分が樹脂固形成分と無機顔料成分とからなる水性無機塗料と、
ガラス転移点が0℃未満であるエチレン−ビニルエステル共重合体のエマルションとを含み、
前記水性無機塗料の前記固形成分100重量部に対し、前記エマルションの固形分が20〜100重量部に設定されている、
建造物用水性仕上げ塗料。
【請求項2】
前記水性無機塗料の前記固形成分は、前記樹脂固形成分100重量部に対して前記無機顔料成分を350〜700重量部含む、請求項1に記載の建造物用水性仕上げ塗料。
【請求項3】
前記エチレン−ビニルエステル共重合体がエチレン−酢酸ビニルエステル共重合体である、請求項1または2に記載の建造物用水性仕上げ塗料。


【公開番号】特開2008−285536(P2008−285536A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130038(P2007−130038)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】