説明

弁付カテーテル

【課題】たとえカテーテル本体の材質を硬くした場合でも、弁体による連通状態と遮断状態への切換作動が安定して行われ、且つ、血管等への弁体の引っ掛かりも防止される、新規な構造の弁付カテーテルを提供すること。
【解決手段】カテーテル本体14の周壁部分に、スリット弁26を備えた注入用連通孔20と、フラップ弁30を備えた吸引用連通孔22とを、それぞれ形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野で液体の注入や吸引などに用いられるカテーテルに係り、特に先端部分に弁付の連通孔が設けられた弁付カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者に薬液や輸液等を注入したり患者から血液等を吸引して採取するのにカテーテルが採用されている。
【0003】
ところで、患者の体内に挿し入れられるカテーテルの先端が常時開口していると、血液の流出や凝固の対策が必要となる等の問題がある。そこで、特公平4−77590号公報(特許文献1)には、先端を閉塞したカテーテルの周壁部分に、スリット状の連通孔を設けた弁付カテーテルが提案されている。かかる連通孔では、カテーテルの内腔を通じて正圧又は陰圧が及ぼされた際に、内外の圧力差でスリットが開いて連通孔が開口することで弁機能が発揮されるようになっている。
【0004】
ところが、スリット状の連通孔では、陰圧を加えても開き難いという問題があった。特に、カテーテルの手技による操作性の向上等を目的としてカテーテル材質を硬くすると、大きな陰圧を加えてもスリット状の連通孔を開くことが極めて困難になることが判った。
【0005】
なお、特許第2563755号公報(特許文献2)には、カテーテルの周壁部分に舌片状のフラップ弁を形成した構造が提案されているが、血管等の中でカテーテルを移動させた際にフラップ弁の先端が血管等に引っ掛かるおそれがある。そのために、フラップ弁で血管等が傷付けられたり、カテーテルの操作性が悪くなるおそれがあった。特に、カテーテル材質を硬くすると、フラップ弁の血管等への引っ掛かりに因る問題が一層大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−77590号公報
【特許文献2】特許第2563755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題とするところは、たとえカテーテルの材質を硬くした場合でも、周壁に設けた連通孔の弁体による連通状態と遮断状態への切換作動が安定して行われ、且つ、血管等への弁体の引っ掛かりも防止される、新規な構造の弁付カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、先端が閉塞された可撓性のカテーテルの周壁部分に、弁体を備えた連通孔が設けられた弁付カテーテルであって、前記カテーテルの周壁部分に形成された直線状スリットにより、前記弁体としてのスリット弁を備えた注入用の前記連通孔が形成されていると共に、該カテーテルの周壁部分に形成された湾曲状スリットにより、前記弁体としてのフラップ弁を備えた吸引用の前記連通孔が形成されている弁付カテーテルを、特徴とする。
【0009】
本態様の弁付カテーテルでは、スリット弁を備えた注入用の連通孔とフラップ弁を備えた吸引用の連通孔とを、互いに組み合わせて採用した。これにより、カテーテルの内腔を通じて輸液等を注入する際には、正圧で開き易いスリット弁が開放されて注入用の連通孔を通じての輸液等の注入を安定して行うことができる。一方、カテーテルの内腔を通じて血液等を吸引する際には、陰圧で開き易いフラップ弁が開放されて吸引用の連通孔を通じての血液等の吸引を安定して行うことができる。
【0010】
特に、注入用の連通孔に設けられたスリット弁は、カテーテルの外周側に突起状に立ち上がることがないから、遮断状態は勿論たとえ開放状態でも血管等に引っ掛かることがない。それ故、弁体の血管等への引っ掛かりに因る血管等の損傷やカテーテル操作性の低下などが問題となることもない。
【0011】
また、吸引用の連通孔に設けられたフラップ弁は、陰圧を受けて変形する部分の面積がスリット弁よりも大きく、たとえ硬度の高い材質のカテーテルであっても陰圧の作用で吸引用の連通孔を容易に連通状態とすることができる。それ故、例えば、注入用と吸引用の各連通孔において弁体の連通状態と遮断状態への切り換え作動を安定して且つ確実に行わせつつ、カテーテルの硬度を高くして手技による操作性の向上等を図ることも可能となるのである。
【0012】
なお、本態様では、フラップ弁においてカテーテル外周側への突出変形を制限する外方変形制限手段を設けることが望ましい。即ち、フラップ弁は、カテーテルの周方向での湾曲形状によって断面係数(Z)が大きくされておりカテーテル外周側への変形抵抗力と座屈強度を有効に発揮し得るが、かかる外方変形制限手段を設けることにより、カテーテルを通じての輸液等の注入時にフラップ弁がカテーテル外周側に突出変形することをより確実に防止することが出来る。この外方変形制限手段は、例えば実施形態に記載するように、フラップ弁を形成する湾曲状スリットをカテーテルの周壁に対する傾斜面とし、フラップ弁の外周端面に対して、カテーテルの湾曲状スリット端面を、カテーテルの外周側から重ね合わせることによって構成される。或いは、カテーテルの内周面に係止されてフラップ弁の外方への変位を阻止する係止突起をフラップ弁に設けたり、フラップ弁を外方から押さえて外方への変位を阻止するリングやテープ等の押え部材をカテーテルに装着すること等によっても、外方変形制限手段が構成される。
【0013】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る弁付カテーテルであって、前記カテーテルの材質を、ショアA硬さ70〜100としたものである。
【0014】
このようなショアA硬さを採用することで、カテーテルにおける手技の操作性を良好にすることが出来るのであり、そこにおいて、前述のとおりスリット弁を備えた注入用の連通孔とフラップ弁を備えた吸引用の連通孔とを組み合わせて採用したことで、輸液等の注入や血液等の吸引も容易に且つ確実に行うことが出来るのである。
【0015】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係る弁付カテーテルであって、前記カテーテルに単一の内腔が設けられていると共に、前記スリット弁と前記フラップ弁とが、該カテーテルの中心軸を挟んだ反対側に設けられているものである。
【0016】
このようなスリット弁とフラップ弁の配置形態を採用することにより、注入用の連通孔と吸引用の連通孔を設ける位置や大きさの設計自由度が大きく確保される。即ち、スリット弁とフラップ弁は何れもカテーテルの周壁にスリットを形成することで形成されるが、これらの弁を互いに反対側に設けることで、スリットを形成することによるカテーテルの変形強度や撓み剛性等への悪影響を抑えることができる。また、スリット弁とフラップ弁を互いに反対側に設けることで、例えば注入用の連通孔と吸引用の連通孔を何れもカテーテルの先端に充分に近づけて設けることも可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に従う構造とされた弁付カテーテルでは、輸液等の注入がスリット弁を開いて行われるから、カテーテル外周への弁体の突出に起因する血管等への引っ掛かりが防止される。また、血液等の吸引がフラップ弁を開いて行われるから、容易に且つ確実に弁体が開かれて、血液等の吸引を安定して行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態としての弁付カテーテルの正面図。
【図2】図1に示した弁付カテーテルの背面図。
【図3】図1におけるIII−III断面図。
【図4】図1におけるIV−IV断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1〜4には、本発明の実施形態としての弁付カテーテル10が示されている。この弁付カテーテル10は、例えば患者の血管に挿し入れられて、薬液や栄養液等を血管内に注入したり、血管から血液を吸引して採取したりするのに用いられる。
【0020】
より具体的には、弁付カテーテル10は、単一の内腔12を有する管形状のカテーテル本体14を用いて構成されている。図1〜4では、弁付カテーテル10の要部である先端側だけが示されているが、患者の血管内で目的とする位置まで先端部分を挿し入れることができる長さのカテーテル本体14が用いられており、このカテーテル本体14の基端側には適当なポートが接続されている。カテーテル本体14の材質は特に限定されるものでないが、軟質のポリウレタンやシリコーン等の弾性材料で形成されており、血管等に挿し入れることができるように適度な可撓性を有している。
【0021】
また、カテーテル本体14の先端には、閉塞部材16が固着されて内腔12の先端開口が閉塞されている。
【0022】
さらに、カテーテル本体14の先端近くの周壁部分には、注入用連通孔20と、吸引用連通孔22が形成されている。特に本実施形態では、これら注入用連通孔20と吸引用連通孔22とが、カテーテル本体14の管径方向で互いに反対側(カテーテル本体14の中心軸を挟んだ反対側)に位置して、且つ、カテーテル本体14の管長方向で略同じ位置に形成されており、図3,4中の上下方向で対向位置している。
【0023】
注入用連通孔20は、カテーテル本体14の周壁部分に対して、管軸方向に延びる直線状スリット24により形成された弁体としてのスリット弁26を備えている。なお、本実施形態では、スリット弁26を形成する直線状スリット24が、カテーテル本体14の中心軸を通る径方向に延びてカテーテル本体14の周壁に直交する切断面をもって形成されている。
【0024】
このスリット弁26は、図3に仮想線で示されているように、カテーテル本体14の内腔12の圧力が外部圧力よりも高くされた際、直線状スリット24を挟んだ両側が外方に弾性変形する。そして、直線状スリット24の両側が外方に開くように相互に離隔することで、かかる直線状スリット24上に、注入用連通孔20が連通状態で現れるようになっている。なお、カテーテル本体14の内腔12と外部との圧力差がなくなると、スリット弁26を構成する直線状スリット24の両側が弾性により元形状に復元して相互に密着し、注入用連通孔20が遮断状態とされる。
【0025】
一方、吸引用連通孔22は、カテーテル本体14の周壁部分に対して、略U字形状に延びる湾曲状スリット28により形成された弁体としてのフラップ弁30を備えている。なお、本実施形態では、かかるフラップ弁30が、カテーテル本体14の周方向で所定幅をもって、カテーテル本体14の管軸方向で先端側から基端側に向かって(図2中の右側から左側に向かって)延び出した舌片形状とされている。
【0026】
また、本実施形態では、フラップ弁30を形成する湾曲状スリット28が、カテーテル本体14の周壁に対して傾斜して切り込んだ切断面をもって形成されている。この切断面は、カテーテル本体14の外周面から内周面に向かって、フラップ弁30の外周方向に傾斜しており、カテーテル本体14の外周面から内周面に近づくに従ってフラップ弁30の外周形状が次第に大きくなる方向に傾斜している。
【0027】
このフラップ弁30は、図4に仮想線で示されているように、カテーテル本体14の内腔12の圧力が外部圧力よりも所定圧力だけ低くされた際、舌片形状とされた湾曲状スリット28の内周側が内方に弾性変形する。そして、湾曲状スリット28の内周側が内側に開くように内周側に離隔することで、かかる湾曲状スリット28上に、吸引用連通孔22が連通状態で現われるようになっている。なお、カテーテル本体14の内腔12と外部との圧力差がなくなると、フラップ弁30を構成する湾曲状スリット28の内周側が弾性により元形状に復元して外周側に密着し、吸引用連通孔22が遮断状態とされる。
【0028】
従って、このような構造とされた弁付カテーテル10を用いて、例えば患者の静脈に薬液を供給する際には、先ず患者の切開部位を通じて先端側から静脈に挿し入れ、弁付カテーテル10の先端部分を薬液供給部位に位置させる。なお、弁付カテーテル10の静脈への挿入は、内腔12にガイドワイヤを挿し入れて行っても良いし、ガイドワイヤを用いずに行っても良い。
【0029】
そして、先端側を患者の静脈に挿し入れた弁付カテーテル10の基端側に注射器や薬液パック等を接続して、注射器による加圧や薬液パックに及ぼされる大気圧により、静脈内の圧力より大きい正圧の薬液を内腔12に導き入れる。これにより、弁付カテーテル10の先端部に形成されたスリット弁26が開いて連通状態とされた注入用連通孔20を通じて、薬液を内腔12から静脈内に流出させて供給することが出来る。
【0030】
この際、フラップ弁30にも内腔12の正圧が及ぼされるが、フラップ弁30は、それ自体の湾曲した周壁形状により外方への突出変形が防止されていることに加えて、湾曲状スリット28が傾斜切断面とされて、フラップ弁30の外周端面が、カテーテル本体14の内周面に対して重ね合わされており、この重ね合わせ面(外方変形制限手段)によってフラップ弁30の外方への変形が阻止されている。それ故、フラップ弁30が外方に突出してフラップ弁30の静脈内面への引っ掛かりによる、静脈の損傷や手技の操作性の低下などの問題が防止される。
【0031】
一方、弁付カテーテル10を患者の静脈に挿し入れた状態で、血液の採取や逆血確認を行うには、弁付カテーテル10の基端側に注射器を接続してプランジャを引く等して内腔12に陰圧を及ぼす。これにより、弁付カテーテル10の先端部に形成されたフラップ弁30が開いて連通状態とされた吸引用連通孔22を通じて血液を内腔12に流入させることが出来る。
【0032】
すなわち、内腔12の陰圧はスリット弁26にも及ぼされるが、スリット弁26の構造上、内腔12の陰圧作用によって直線状スリット24の両側が互いに切断面で押し付けられることから、スリット弁26が開き難い。しかし、フラップ弁30は、内方に向かって容易に弾性変形することから、吸引用連通孔22を通じての採血や逆血確認を容易に行うことが出来るのである。
【0033】
しかも、フラップ弁30は、内腔12の内周側に突出する方向に弾性変形することから、フラップ弁30が静脈の内面に引っ掛かるようなことも無い。
【0034】
このように、本実施形態の弁付カテーテル10では、注入用連通孔20を通じての薬液等の注入と吸引用連通孔22を通じての血液等の吸引とを、何れも容易に且つ安定して行うことが出来るのであり、それ故、それら注入及び吸引の機能を充分に確保しつつ、カテーテル本体14の硬度を高くすることも可能となる。
【0035】
具体的には、カテーテル本体14として、ショアA硬さ70〜100、好ましくは80〜90の材質を採用することが出来、それによって、カテーテルにおける手技の操作性を一層向上させることが可能となる。要するに、硬度の高い材質を採用した場合でも、カテーテル本体14におけるスリット弁26及びフラップ弁30における連通状態と遮断状態への切換作動が安定して行われるのである。
【0036】
なお、これらスリット弁26及びフラップ弁30は、外部に対する内腔12の相対圧力が+7mmHg〜−80mmHgの範囲内で何れも閉鎖状態が維持されていることが望ましいが、フラップ弁30は、例えば−200mmHgの陰圧作用時には開いていることが好ましく、より好適には−100mmHgの陰圧作用時には開いているようにされる。また、スリット弁26は、+10mmHgの正圧作用時には開いていることが好ましく、より好適には+7mmHgを超える正圧作用時には開いているようにされる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はかかる実施形態の具体的な記載によって限定されるものでない。例えば、カテーテル本体14に対してスリット弁26やフラップ弁30を複数設けることも可能である。また、スリット弁26とフラップ弁30を、互いにカテーテル本体14の管軸方向で異なる位置に形成したり、周方向で同じ側に形成することも可能であって、それらの形成位置は限定されるものでない。更にまた、スリット弁26を形成する直線状スリット24やフラップ弁30を形成する湾曲状スリット28を、管軸方向に対して傾斜する方向に延びるように形成することも可能である。
【0038】
また、カテーテル本体14の周壁には、造影剤を配合することが可能であり、例えば周方向で半周部分だけに造影剤を配合するなど、適当な部分に適当な大きさで、造影剤の配合領域を設けることができる。
【0039】
更にまた、カテーテル本体14の内部をそれぞれ管軸方向に延びる内腔を複数形成したダブルルーメン構造やマルチルーメン構造の弁付カテーテルに対しても、本発明を適用することが可能である。その場合には、全てのルーメンの周壁部分に注入用連通孔20と吸引用連通孔22の両方を設ける必要もない。例えば、注入用連通孔20と吸引用連通孔22を各別のルーメンの周壁に形成しても良いし、また、全てのルーメンの周壁に注入用連通孔20を形成すると共に、それらの一つのルーメンだけに吸引用連通孔22を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10:弁付カテーテル、12:内腔、20:注入用連通孔、22:吸引用連通孔、24:直線状スリット、26:スリット弁、28:湾曲状スリット、30:フラップ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が閉塞された可撓性のカテーテルの周壁部分に、弁体を備えた連通孔が設けられた弁付カテーテルであって、
前記カテーテルの周壁部分に形成された直線状スリットにより、前記弁体としてのスリット弁を備えた注入用の前記連通孔が形成されていると共に、
該カテーテルの周壁部分に形成された湾曲状スリットにより、前記弁体としてのフラップ弁を備えた吸引用の前記連通孔が形成されている
ことを特徴とする弁付カテーテル。
【請求項2】
前記カテーテルの材質が、ショアA硬さ70〜100である請求項1に記載の弁付カテーテル。
【請求項3】
前記カテーテルに単一の内腔が設けられていると共に、前記スリット弁と前記フラップ弁とが、該カテーテルの中心軸を挟んだ反対側に設けられている請求項1又は2に記載の弁付カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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