説明

弁装置、流体供給装置及び流体噴射装置

【課題】ダイヤフラムの撓む向きの変更に起因する弁体に働く荷重の変動が原因で、個体差による作動圧のばらつきを抑制できる弁装置、流体供給装置及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】バルブユニット21において、インク供給室56と圧力室43を区画する隔壁51には弁孔52が形成されている。インク供給室56に圧縮バネ59により圧力室43側へ付勢された弁体57の軸部57bは弁孔52に挿通され、ダイヤフラム42aの内面に固着された受圧部材65に当接している。また、受圧部材65は圧力室43内に配設された負圧保持バネ66により外側へ付勢されている。圧力室43が作動圧にある状態で、弁体57の板状部57aに冠着されたシール部材60の凸部60aが弁座61に当接した閉弁状態において、ダイヤフラム42aが、フィルム部材42のフレーム40の側面における溶着位置より圧力室43側へ凹む状態になるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムを備えるとともにダイヤフラムの両側の圧力差(差圧)に基づき開閉する弁装置、流体供給装置及び流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の弁装置として、例えば特許文献1には、背圧調整器が開示されており、その背圧調整器はダイヤフラムとダイヤフラム・ピストンとレバーと、弁座と、ノズルを備えていた。そして、プリントヘッドにおける背圧が所定値よりも下がると、ダイヤフラム・ピストンにカが加えられ、レバーが回転する。そして、このレバーの回転によりレバーに備えられている弁座がノズルから離れ、インクがプリントヘッドへ流入するようになっていた。従って、プリントヘッドには、供給チューブにおける圧力変動にかかわらず、背圧調整器によってインクが均一な圧力で供給されるようになり、印刷品質を向上させることができる。
【0003】
しかし、上記の背圧調整器は、ダイヤフラムと弁座との間に複数の部品が介在されているため、構成が複雑になって小型化が難しいうえ、動力伝達のロスが生じやすいという問題があった。
【0004】
この問題を解消できる構成として、例えば特許文献2に記載された弁装置が知られている。すなわち、特許文献2に記載された弁装置は、インクジエット式プリンタにおけるキャリッジ側に設けられたインク供給用のバルブユニットであり、インクジエット式プリンタの本体側に配置されたインクカートリッジからのインクを圧力調整して記録ヘッドに供給するもので、また自己封止機能を有していた。このバルブユニットはインク供給室と圧力室を備え、前記インクカートリッジから供給されたインクは、インク供給室から圧力室を経て記録ヘッドに供給されるようになっている。インク供給室と圧力室との間には圧力室側(閉弁方向)へバネで付勢された可動バルブが設けられており、この可動バルブの開閉によってインク供給室と圧力室とが連通/非連通となるように構成されている。記録ヘッドのインク吐出に伴う圧力室内部のインク量が減少することによって圧力室の一部を構成するフィルム部材(ダイヤフラム)に設けられた受圧板が変位し、その変位を可動バルブに対して直接伝達することによって可動バルブを動作させるように構成されていた。
【特許文献1】特開平9−11488号公報
【特許文献2】特開2004−142405号公報(例えば図25〜図27等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されたインク供給用のバルブユニットでは、作動圧(圧力室のインク圧)の絶対値を小さくするという要求に対してバネを弱くすると、圧力室の一部を構成するフィルム(ダイヤフラム)の反力の影響が現れるようになり、フィルム姿勢によって作動圧が大きくバラツクという課題があった。
【0006】
すなわち、可動バルブのロッド部材がフィルム部材における受圧板に対応する部分に当たる角度がばらつくと、フィルム部材からロッド部材に伝えられる力がばらつき、バルブユニットが開閉するときの圧力室の流体圧のばらつきをもたらし、作動圧がばらつくという問題を招く。
【0007】
ところで、バルブユニットの閉弁状態において、ダイヤフラムは、ユニットケースの側面(ダイヤフラムを構成するフィルム部材がユニットケースに熱溶着されている面)に対してほぼ面一になっていた。しかし、例えば、バルブユニットを構成する部品の寸法ばらつきや組付け位置のばらつきなどが原因で、閉弁状態で作動圧になっているときのダイヤフラムの位置が、その溶着部分の位置より外側(大気側)に変位してしまう場合があった。この場合、ダイヤフラム(フィルム部材)が、大気側に膨らむ凸の状態から、圧力室側へ凹む状態に変化するとき、ダイヤフラムが撓みのない元の形状に復元しようとする反力(フィルム反力)の向きが、ダイヤフラムが外側に膨らんだときに働く開弁方向の向きから、ダイヤフラムが圧力室側へ凹んだ状態のときに働く閉弁方向の向きへ変化する。このため、フィルム反力が働く向きが切り換わる前後で、弁体にかかる荷重が変動して、これが個体差による作動圧のばらつきを生じさせる。この個体差による作動圧のばらつきは、記録ヘッド内のインク圧のばらつきとなって現れ、圧電振動子等の吐出駆動素子が駆動されたときにノズルから噴射されるインク滴の質量のばらつきを生じさせるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ダイヤフラムの撓む向きの変更に起因する弁体に働く荷重の変動が原因で、個体差による作動圧のばらつきを抑制できる弁装置、流体供給装置及び液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、流体供給源から流体噴射手段に流体を供給する流路の途中に設けられる圧力調整用の弁装置であって、前記流路と上流側で連通する流体供給室と、前記流路と下流側で連通する圧力室と、前記圧力室の壁面の一部を構成するとともに該圧力室の内外の圧力差によって撓むダイヤフラムと、前記ダイヤフラムに設けられた受圧部材と、前記圧力室の流体が減った際の該圧力室の流体圧に基づき前記受圧部材に働く開弁方向の力が強まることに基づき開弁し、該開弁により前記流体供給室から流体が前記圧力室に流入した際の該圧力室の流体圧に基づき前記受圧部材に働く開弁方向の力が弱まることに基づき閉弁する弁手段とを備え、前記弁手段の開閉により前記流体供給室の流体圧を減圧して前記圧力室を所定の作動圧に保持するように構成され、前記弁手段が、前記圧力室が前記作動圧にある状態で開弁状態から閉弁状態になっても、前記ダイヤフラムが前記圧力室側へ凹んだ状態に保持されるように構成されていることを要旨とする。
【0010】
これによれば、弁装置の圧力室が作動圧にある状態で、弁手段が開弁状態から閉弁状態になっても、ダイヤフラムが圧力室側へ凹む撓み状態にある。このため、その後、流体噴射手段で流体が噴射されて圧力室の流体が減って受圧部材が開弁方向に変位して、弁手段が閉弁状態から開弁状態になる過程で、ダイヤフラムの撓む向きは圧力室側へ凹んだ状態のまま保持される。つまり、受圧部材に働くダイヤフラム反力の向きが途中で切り換わることなく、ダイヤフラム反力は常に同じ向きに働く。このことは、閉弁状態にあるときにダイヤフラムがばらつきを見込んで圧力室側へ凹んだ状態にあるので、たとえ弁装置の個体差でばらつきがあっても成り立つ。このため、弁手段を開閉させる作動力(圧力室の流体圧に基づき受圧部材に働く力、ダイヤフラム反力等の力の総和)の個体差によるばらつきが生じにくい。この結果、弁装置の個体差による作動圧のばらつきを抑制できる。
【0011】
本発明の弁装置では、前記弁手段は、該流体供給室に一部収容された弁体と、該弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段とを備え、前記弁体は前記流体供給室と前記圧力室とを連通する弁孔に挿通された軸部を有し、該軸部は前記受圧部材に直接又は間接的に当接していることが好ましい。
【0012】
これによれば、弁体が閉弁方向に付勢され、また、圧力室の流体圧に基づき受圧部材に働く力は、受圧部材に直接又は間接的に当接している軸部を介して弁体に伝達される。圧力室の流体が消費等により減って受圧部材に働く開弁方向の力が増すと、受圧部材から開弁方向の力を受けた弁体は付勢手段の付勢力に抗して開弁方向へ移動して、弁装置が開弁する。弁装置が開弁することで、流体供給室から圧力室へ流体が流入する。
【0013】
本発明の弁装置では、前記受圧部材は、前記ダイヤフラムの前記圧力室側の内面に固定され、前記圧力室が作動圧にあるときに前記弁体の軸部は前記受圧部材に当接していることが好ましい。これによれば、弁体の軸部は受圧部材に直接当接している。このため、軸部がダイヤフラムを介して受圧部材に間接的に当接している構成に比べ、ダイヤフラムが損傷しにくい。
【0014】
本発明の弁装置では、前記圧力室に設けられて前記受圧部材を前記弁手段の閉弁方向又は開弁方向に付勢する流体圧設定バネを備えていることが好ましい。
これによれば、流体圧設定バネの付勢力が閉弁方向である場合は、受圧部材は開弁方向へ変位するとき、流体圧設定バネの付勢力に抗して移動する必要があるので、流体圧設定バネの付勢力に相当する分、圧力室の流体圧(作動圧)を低い側に設定できる。一方、流体圧設定バネの付勢力が開弁方向である場合は、流体圧設定バネの付勢力が受圧部材の開弁方向の変位を助長するので、流体圧設定バネの付勢力に相当する分、圧力室の流体圧(作動圧)を高い側に設定できる。よって、流体圧設定バネがあることで、圧力室の流体圧(作動圧)を調整できる。
【0015】
本発明の弁装置では、前記流体圧設定バネはコイルバネであり、前記受圧部材は前記流体圧設定バネの一端部を支持する第1筒状部を有し、前記流体供給室と前記圧力室とを区画する隔壁における前記圧力室側の面には、前記流体圧設定バネの一端部を支持する第2筒状部が前記弁孔を囲むように形成されており、前記第2筒状部には径方向に貫通する切欠が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の弁装置。
【0016】
これによれば、ダイヤフラムが圧力室側へ変位して弁装置が開弁されるときに、流体圧設定バネの圧縮に伴って互いに接近した第1筒状部と第2筒状部との隙間が狭くなっても、流体供給室から弁孔を通じて流入した流体を、第2筒状部の切欠を介して圧力室の外周側へ送ることが可能になる。
【0017】
本発明は、流体供給装置であって、流体供給源と、流体を噴射する流体噴射手段と、前記流体供給源の流体を前記流体噴射手段へ供給するための流路上に設けられた上記発明の弁装置とを備えたことを要旨とする。この流体供給装置によれば、上記発明の弁装置の作用効果を得ることができる。
【0018】
本発明は、流体噴射装置であって、上記発明の流体供給装置を備えたことを要旨とする。この流体噴射装置によれば、上記発明の流体供給装置と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
図1は、外装ケースを取り外した状態のインクジェット式記録装置の平面図を示す。
流体噴射装置としてのインクジェット式記録装置(以下、単に記録装置11という)は、上側(図1では紙面手前側)が開口する略直方体形状の箱体からなる本体ケース12を有する。本体ケース12内には、プラテン13が主走査方向(図1における左右方向)に沿って延びるように配置され、ターゲットとしての記録媒体(図示しない)は、プラテン13に支持された状態で、紙送り手段(図示しない)により副走査方向(図1における上下方向)に搬送される。
【0020】
また、本体ケース12内には、棒状のガイド軸14が、プラテン13と平行に延びるように架設されている。ガイド軸14にはキャリッジ15が軸方向に沿って往復移動可能な状態に支持されている。キャリッジ15は、本体ケース12の後部(図1における上側部分)に軸支された一対のプーリ16a,16bに巻き掛けられたタイミングベルト17とその背面側(図1では上側)部分にて固定されている。図1において、本体ケース12の背面右端寄り位置に配設されたキャリッジモータ18が正逆転駆動されることにより正逆回転するタイミングベルト17を介してキャリッジ15は主走査方向に沿って往復移動する。
【0021】
キャリッジ15の下部には、流体としてのインクを噴射する流体噴射手段としての記録ヘッド20が設けられている。また、キャリッジ15上には、複数の圧力調整用のバルブユニット21が搭載されている。各バルブユニット21により、それぞれブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンの各インクが圧力調整(減圧)されて記録ヘッド20へ供給される。印刷時は、画像データに基づいて、キャリッジ15を主走査方向(図1における左右方向)に移動させながら記録ヘッド20のノズルからインクを吐出させる印字動作と、図示しない紙送り手段によって記録媒体(記録用紙)を副走査方向に移動させる紙送り動作とを交互に行うことにより、記録媒体に印刷が施される。
【0022】
本体ケース12の一端部(図1における右端部)に設けられたカートリッジホルダ24には、インク色に対応した4個の流体供給源(流体貯留手段)としてのインクカートリッジ23が着脱可能に装填されている。各カートリッジホルダ24は、それぞれインク供給チューブ35を通じて各バルブユニット21に接続されている。
【0023】
図1に示すように、インクカートリッジ23の装填位置の上側には、加圧ポンプ25が本体ケース12に支持された状態で設けられている。加圧ポンプ25は、大気を吸引して加圧空気として排出することが可能であり、その排出された加圧空気は、加圧チューブ37を通じて圧力検出器36を経て大気開放弁38に供給される。
【0024】
圧力検出器36では、加圧ポンプ25から供給された空気の圧力が検出される。そして、圧力検出器36の検出圧に基づいて、加圧ポンプ25の駆動が制御される。大気開放弁38は、4本の空気供給チューブ39を通じてカートリッジホルダ24に接続されており、インクカートリッジ23内に加圧空気が導入される。なお、大気開放弁38は、内部の室を大気に開放する開弁状態と、該室の大気との連通を遮断する閉弁状態に切り換えられる弁であり、加圧ポンプ25が駆動されるときには閉弁される。
【0025】
図2は、記録装置におけるインク供給システムの基本構成を示したものである。ここで、図2に示したインク供給システムは、空気加圧供給タイプを示している。なお、図2では、1色分のインク供給システムのみを示している。
【0026】
加圧ポンプ25は、電動モータ25aとポンプ25bとを備える。ポンプ25bの吐出口とインクカートリッジ23とを接続する加圧チューブ37上には、前述の圧力検出器36と大気開放弁38とが直列に設けられている。
【0027】
インクカートリッジ23は、気密状態に形成された外郭ケース23aを有しており、この外郭ケース23a内に、インクが封入されるとともに可撓性材料よりなるインクパック23bが収容されている。インクカートリッジ23が装填された状態では、加圧チューブ37が外郭ケース23aとインクパック23bとの間の空気室34と連通されるように構成され、加圧ポンプ25から送られた加圧空気は、この空気室34に導入される。
【0028】
また、図2に示すように、インクカートリッジ23が装填された状態では、インクパック23bのインク導出部23cがインク供給チューブ35と接続されるように構成されている。インクカートリッジ23内の空気室34に導入された加圧空気によってインクパック23bは外側から加圧され、インクパック23bからは加圧インクがインク供給チューブ35を通じてバルブユニット21に供給される。そして、バルブユニット21に供給された加圧インクは、大気圧より若干低い所定の作動圧(負圧)に減圧され、作動圧に減圧されたインクが記録ヘッド20に供給される。記録ヘッド20はノズル毎にインク室と吐出駆動素子(いずれも図示せず)とを内部に備え、吐出駆動素子が駆動された際の吐出力(吐出圧)がインク室内のインクに及ぶことにより、ノズルからインクが吐出される。なお、吐出駆動素子としては、振動による吐出圧でインク滴を吐出させる圧電振動素子又は静電駆動素子、あるいはインクに熱を与えて局所的に膜沸騰させて発生した気泡の成長・収縮を利用してインク滴を噴射させる電気熱変換素子などを採用できる。また、インク供給システムは、水頭差によりインクカートリッジ23からインクを供給する水頭差タイプのものも採用できる。なお、インク供給システムが流体供給装置を構成する。
【0029】
図3は、バルブユニット21及び記録ヘッド20を示す斜視図である。
図3に示すように、4つのバルブユニット21は、記録ヘッド20を下部に支持するヘッド支持体46(キャリッジ15の一部を構成する)の上部にそれぞれ搭載されている。バルブユニット21は、偏平形状を有する合成樹脂製のフレーム40を有し、その一端部に設けられた接続管部41にチューブ35が接続される。フレーム40の一側面には可撓性のフィルム部材42が熱溶着されており、バルブユニット21の内部には、フィルム部材42で壁面の一部を構成するように圧力室43及びインク導出路44が区画形成されている。
【0030】
フィルム部材42には、負圧状態を効率的に感知できるように軟質であると共に、インクに化学的な影響を及ぼさず、かつ水分透過度や、酸素や窒素等のガス透過度の低い材質が使用される。例えば高密度ポリエチレンフィルムあるいはポリプロピレン(PP)フィルムに、塩化ビニリデン(サラン)をコーティングしたナイロンフィルムを接着ラミネートした構成が挙げられる。また、その他の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などを使用してもよい。またフィルム部材42の固着方法は、熱溶着以外に、振動溶着や接着剤を用いた固着方法も採用できる。
【0031】
圧力室43は、バルブユニット21内で減圧されたインクの貯留室であり、減圧された作動圧のインクは圧力室43からインク導出路44を通じて、バルブユニット21の図3における右端下側に下方へ突出する略円筒状の接続部45に導出される。ヘッド支持体46の上部には円環状の被接続部47が複数(本例では4つ)設けられ、バルブユニット21は、インク色の対応する接続部45と被接続部47とが接続された状態で、ヘッド支持体46に取り付けられている。バルブユニット21で減圧されたインクは、接続部45と被接続部47との接続を介してヘッド支持体46内のインク流路(図示せず)に送られ、このインク流路から記録ヘッド20内のインク流路を通ってノズル毎のインク室に供給される。なお、インク供給チューブ35とヘッド支持体46内のインク流路とにより、流体供給源と流体噴射手段とを接続する流路が構成される。
【0032】
フィルム部材42のうち圧力室43の壁面の一部を構成する部分によりダイヤフラム42aが構成される。バルブユニット21は、弁装置として、ダイヤフラム42aを有する差圧式の圧力調整弁21A(減圧弁)を内蔵する。なお、本実施形態では、バルブユニット21は、圧力調整弁21Aのみ内蔵するが、他の弁も内蔵する構成も採用できる。
【0033】
<バルブユニット>
次に、バルブユニット21の詳細な構成を、図5に従って説明する。図5は、バルブユニット21の図3におけるA−A線断面を示している。図5(a)は閉弁状態、図5(b)は開弁状態を示す。なお、バルブユニット21の図5における左側の側面を左側面とし、図5における右側の側面を右側面と呼ぶことにする。フレーム40(基材)は、図5に示すように、左側面に形成された小容積の円筒状の凹部40aと、右側面に、凹部40aより大径かつ周縁部が外側に向かって拡開する円錐台状で所定深さを有する凹部40bとを有する。両凹部40a,40bは、両者を略区画する隔壁51の中央部に形成された弁孔52を通じて互いに連通している。また、フレーム40の左側面上には凹部40aと連通する溝40cが形成され、右側面上には凹部40bと連通する溝40dが形成されている。
【0034】
フレーム40の左側面には、凹部40aに嵌め込まれた蓋体53の外側面(底面)を含むほぼ面全体に、フィルム部材54が熱溶着されている。フィルム部材54と溝40cとに区画されてインク導入路55が形成され、インク導入路55はその上流側(図5における下側)で接続管部41(図3参照)と連通するとともに、その下流側(図5における上側)で、蓋体53と凹部40aとにより区画形成された流体供給室としてのインク供給室56と連通している。一方、圧力室43は、前述のとおり、フィルム部材42と凹部40bで区画され、インク供給室56と弁孔52を通じて連通している。
【0035】
図5に示すように、インク供給室56(弁室)には、弁体57が収容されている。弁体57は、円板形状の板状部57aと、この板状部57aの片面中央から圧力室43側へ垂直に突出する軸部57bと、板状部57aの底面(図5における左面)中央に形成された凸部57cとを有している。軸部57bは弁孔52の径より若干小さな外径を有し、弁孔52に挿通されている。弁体57と蓋体53との間には、付勢手段としての圧縮バネ59(コイルバネ)が介装されており、この圧縮バネ59の付勢力により、弁体57は圧力室43側に付勢されている。圧縮バネ59は、一端部が蓋体53の凸部に外挿された状態で保持され、他端部が弁体57の凸部57cに外挿された状態で保持されている。
【0036】
また、板状部57aには、中央に孔を有するドーム形状のゴム又はエラストマよりなるシール部材60が冠着されている。隔壁51のインク供給室56側の面には、弁孔52を囲むように円環状の弁座61が形成されている。また、シール部材60の外周面上には、弁座61と相対する位置に円環状の凸部60aが形成されている。
【0037】
ダイヤフラム42aの内面中央部には、有底円筒状の受圧部材65が熱溶着により固着されている。受圧部材65は、弁体57とほぼ同軸線上に位置する。圧力室43内には、流体圧設定バネとしての負圧保持バネ66が、受圧部材65と隔壁51との間に介装され、受圧部材65は負圧保持バネ66により大気側(外側)へ押圧付勢されている。負圧保持バネ66として、本実施形態ではコイルバネを用いている。
【0038】
受圧部材65は、弁体57の軸部57bがダイヤフラム42aに直接当たることを避けるためにダイヤフラム42aの内面中央部に固着されている。受圧部材65は、その軸線がダイヤフラム42aの軸線とも一致する状態に配置されている。
【0039】
受圧部材65は、隔壁51側に向かって垂直に突出する筒状部65aを有している。筒状部65aは、負圧保持バネ66の外径(バネ径)より若干大きな内径に形成されており、負圧保持バネ66の一端部は筒状部65aに挿通された状態で保持されている。また、隔壁51の圧力室43側の面には、弁孔52をほぼ囲む筒状部40eが垂直に突出している。筒状部40eには径方向に貫通する切欠40fが形成されている。負圧保持バネ66は、その一端部が筒状部40eに外挿された状態で隔壁51に当接し、その他端部が筒状部65aの内底面に当接している。
【0040】
記録装置11の電源投入状態では、加圧ポンプ25の駆動による加圧力によりインクカートリッジ23からインク供給チューブ35を通じて加圧インクがインク供給室56内に供給され、インク供給室56内のインクは、所定インク圧(インク供給圧Pis)に加圧された状態にある。インク供給室56と、弁体57を隔てて位置する圧力室43のインク圧Pinkは、大気圧より低い所定の負圧(作動圧)に保持されている。そして、図5(a)に示す閉弁状態において、ダイヤフラム42aは、フィルム部材42がフレーム40の側面に熱溶着された部分の外面の位置である図5(a)における位置Cよりも、弁体移動方向(図5における左右方向)において少し圧力室43側へ凹んだ状態にある。
【0041】
ここで、圧力調整弁21Aが開閉するときの力関係について説明する。弁体57に働く力には、フィルム反力Ffilmと、インク圧と大気圧との差圧に基づき受圧部材65に働く力Fi-aと、圧縮バネ59の付勢力Fsp1と、負圧保持バネ66の付勢力Fsp2と、インク供給室56と圧力室43との差圧に基づき弁体57に働く力Fs-iとがある。
【0042】
ここで、フィルム反力Ffilmとは、撓み変形したダイヤフラム42aが元の形状に復元しようとする力である。ダイヤフラム42aの変形量(撓み量)が大きいほど、フィルム反力Ffilmは大きくなる。フィルム反力Ffilmは受圧部材65を介して軸部57b(弁体57)に伝達される。
【0043】
インク圧と大気圧との差圧に基づき受圧部材65に働く力Fi-aとは、圧力室43のインク圧Pinkと、ダイヤフラム42aの外側の大気圧Paとの圧力差に基づき受圧部材65に働く力である。記録ヘッド20でインクが消費されて圧力室43のインクが減少すると、インク圧Pinkと大気圧との差圧が大きくなり、力Fi-aは大きくなる。この受圧部材65に働く力Fi-aは、軸部57bを介して弁体57に閉弁方向の力として働く。
【0044】
次に、圧縮バネ59の付勢力Fsp1とは、圧縮バネ59が弁体57を閉弁方向に付勢する力である。弁体57が圧縮バネ59から受ける付勢力Fsp1は、圧縮バネ59の圧縮量に応じて決まる。弁体57が閉弁位置にあるときの圧縮量での付勢力Fsp1をFoとおくと、この閉弁位置を基準として開弁方向への変位量(圧縮量)を定め、圧縮バネ59のバネ定数をK1、閉弁位置からの変位量(圧縮量)をΔyとおくと、付勢力Fsp1は、Fsp1=Fo+K1・Δy で表される。
【0045】
また、負圧保持バネ66の付勢力Fsp2とは、負圧保持バネ66が受圧部材65を大気側へ押圧する力である。この付勢力Fsp2は、受圧部材65に働く力Fi-aと反対向きの力を受圧部材65に与えるので、受圧部材65を弁体57が開弁位置に達するまで変位させるためには、負圧保持バネ66の付勢力Fsp2に相当する分だけ、圧力室43をより低いインク圧まで減圧させる必要がある。つまり、負圧保持バネ66は、開弁に要する圧力室43のインク圧Pinkを低く設定する機能を有する。もちろん、負圧保持バネ66を廃止して、その付勢力分だけ、圧縮バネ59の付勢力を増しても同様の効果は得られる。しかし、軸部57bが弁孔52のガタ等により受圧部材65の軸線からずれた位置を押しても、軸部57bを取り巻く状態に配置された負圧保持バネ66が、軸部57bと受圧部材65との当接箇所の周囲で受圧部材65を押すので、受圧部材65の姿勢が傾きにくくなっている。また、作動圧を設定するためのバネを圧縮バネ59と負圧保持バネ66とに分けて、それぞれを別々の室43,56に収容することで、バネをインク供給室56のみに収容する構成に比べ、バルブユニット21の薄型化が図られている。
【0046】
なお、圧力室43のインク圧Pink(作動圧)を負圧に設定するのは、記録ヘッド20のノズルからインクがその自重や毛管現象で漏出しないようにするためである。また、吐出駆動素子の駆動によってノズルから噴射されるインク滴の質量(体積)がほぼ一定に保たれるように、インク圧Pinkは略一定の作動圧に保たれる必要があるためである。圧力室43が所定の作動圧(負圧)に設定されるように、圧縮バネ59及び負圧保持バネ66の各バネ定数などが選択されている。
【0047】
最後に、インク供給室56と圧力室43との差圧に基づき弁体57に働く力Fs-iとは、インク供給圧Pisを受けて弁体57に働く閉弁方向の力Fcloseと、インク圧Pinkを受けて弁体57に働く開弁方向の力Fopenとの差で表される力である。閉弁方向の力Fcloseは、インク供給圧Pisを受ける弁体57の受圧面積S1とインク供給圧Pisとの積で表される。また、開弁方向の力Fopenは、インク圧Pinkを受ける弁体57の受圧面積S2とインク圧Pinkとの積で表される。本実施形態の場合、弁体57がインク供給圧Pisを受ける受圧面積S1は、シール部材60の凸部60aの外周で囲まれ領域の面積に等しく、インク圧Pinkを受ける受圧面積S2は、シール部材60の凸部60aの内周で囲まれた領域の面積に等しい。この両室43,56のインク圧の差圧に基づき弁体57に働く力Fs-iは、インク供給圧Pisが正圧であるのに対し、インク圧Pinkが負圧であるので、常に弁体57の閉弁方向に働く。
【0048】
ここで、フィルム反力Ffilmの働く向きは、ダイヤフラム42aの撓む向きにより決まる。すなわち、ダイヤフラム42aが大気側へ凸となる向きに撓んだ場合には、フィルム反力Ffilmは開弁方向に働き、一方、ダイヤフラム42aが圧力室43側へ凹む向きに撓んだ場合は、フィルム反力Ffilmは閉弁方向に働く。
【0049】
本実施形態では、圧力調整弁21Aは、ダイヤフラム42aが常に圧力室43側へ凹んだ状態で使用されるように設定されている。この設定のために、シール部材60が弁座61に当接した閉弁状態、かつ軸部57bが受圧部材65に当接した状態では、ダイヤフラム42aは圧力室43側へ凹む状態に保持されるように、弁体57の軸部57bの軸長、及び受圧部材65の厚みが設定されている。圧力調整弁21Aが開弁状態から閉弁状態になっても、つまり使用範囲で受圧部材65が最も大気側に位置するときでも、ダイヤフラム42aが圧力室43側へ凹んだ状態となるように構成されている。このため、バルブユニット21の個体差によるばらつきがあっても、どのバルブユニット21(圧力調整弁21A)でも使用範囲において、フィルム反力Ffilmは、常に閉弁方向に働く。
【0050】
このため、弁体57に働く力は、閉弁方向の力が、圧縮バネ59の付勢力Fsp1、負圧保持バネ66の付勢力Fsp2、インク圧の差圧に基づく力Fs-i、フィルム反力Ffilmであり、開弁方向の力が、受圧部材65に差圧に基づき働く力Fi-aである。そして、開弁方向の力の総和が、閉弁方向の力の総和に勝るときに、弁体57は開弁方向に移動する。ここで、Fsp1は、変位量(圧縮量)Δy1を変数とする関数として表されるので、Fsp1(Δy1)(=Fo+k1・Δy1)とおける。また、Fsp2は、負圧保持バネ66の自然長からの圧縮量(変位量)をΔy2、バネ定数をK2とすると、変位量Δy2を変数とする関数として表されるので、Fsp2(Δy2)(=k2・Δy2)とおける。また、Fs-iは、インク供給圧Pisを一定(定数)とみなすと、インク圧Pinkを変数とする関数Fs-i(Pink)として表される。さらに、Fi-aは、大気圧Paを一定(定数)とみなすと、インク圧Pinkを変数とする関数Fi-a(Pink)として表される。また、Ffilmは、位置Cからの撓み量ΔBを変数とする関数Ffilm(ΔB)として表される。よって、以下の条件式を満たすときに、弁体57は開弁方向へ変位する。
Fsp1(Δy1)+Fsp2(Δy2)+Fs-i(Pink)+Ffilm(ΔB)<Fi-a(Pink) …(1)
上記(1)式の条件が成立して、弁体57が開弁方向に移動すると、バネ59,66が弁体57の移動量分だけそれぞれ圧縮されるため、Δy1,Δy2が増え、またダイヤフラム42aがさらに凹むため、ΔBが増える。このため、Fsp1(Δy1)とFsp2(Δy2)とFfilm(ΔB)が共に増加する。よって、開弁方向の力の総和と閉弁方向の力の総和とが均衡した位置で、弁体57は停止する。また、ダイヤフラム42aの開弁方向への変位により圧力室43の容積が減少するので、一旦は低下したインク圧Pinkが作動圧に復帰する。これは微小時間のうちに進むため、実際にはインク圧Pinkは作動圧に維持される。以下、圧力室43のインクが減少するに連れて、開弁方向の力の総和と閉弁方向の力の総和との均衡を保つように、弁体57は開弁方向へ移動する。そして、それまで弁座61に押し付けられていた凸部60aが圧縮状態から復元しつつ、やがて凸部60aが弁座61から離れると、圧力調整弁21Aが開弁する。
【0051】
この開弁のタイミングは、圧縮バネ59、負圧保持バネ66、受圧部材65の面積などにより決まる。本実施形態では、バネ59,66のバネ力を弱くした関係から、それに合わせて、ダイヤフラム面積に対してダイヤフラム42aに受圧部材65が固着されている部分の面積である受圧面積を例えば1/3以下としている。
【0052】
開弁した後は、次の条件が成立したときに弁体57は、閉弁方向へ移動する。
Fsp1(Δy1)+Fsp2(Δy2)+Fs-i(Pink)+Ffilm(ΔB)>Fi-a(Pink) …(2)
すなわち、閉弁方向の力の総和が、開弁方向の力の総和に勝るときに、弁体57は閉弁方向へ移動する。圧力調整弁21Aが開弁すると、インク供給圧Pisとインク圧Pinkとの差圧に基づきインク供給室56から圧力室43へ弁孔52を通じてインクが流入する。インクが圧力室43へ流入すると、圧力室43のインク圧Pinkが上昇する。インク圧Pinkが上昇すると、受圧部材65に差圧に基づき働く力Fi-a(Pink)が小さくなる。よって、上記(2)式の条件が成立することになって、弁体57は閉弁方向へ移動する。
【0053】
この弁体57の移動に伴いダイヤフラム42aも閉弁方向へ移動し、圧力室43の容積が増加するため、一旦は上昇したインク圧Pinkが復帰する。これは微小時間のうちに進むため、実際にはインク圧Pinkは作動圧に維持される。以下、圧力室43へインクが流入するに連れて、閉弁方向の力の総和と開弁方向の力の総和との均衡を保つように、弁体57は閉弁方向へ移動する。そして、弁体57の閉弁方向への移動に伴って凸部60aと弁座61との隙間が徐々に狭くなり、インク流入速度が徐々に低下する。
【0054】
そして、圧力調整弁21Aが閉弁したときには、軸部57bが受圧部材65に当接した状態にある。弁体57の開閉位置を、変位量Δy1で表すと、Δy1=0のときである。また、開弁するとき(又は閉弁するとき)における、変位量Δy2=Δy2o、インク圧Pink=Pinko、ダイヤフラム変位量ΔB=ΔBoとすると、開弁状態から閉弁状態になったときのダイヤフラム42aの位置は、次式を満たすΔBoの値で示される。
Fsp1(0)+Fsp2(Δy2o)+Fs-i(Pinko)+Ffilm(ΔBo)=Fi-a(Pinko)
ところで、バルブユニット21(圧力調整弁21A)の作動圧を小さくする要請や、小型化の要請から、本実施形態では、圧縮バネ59や負圧保持バネ66をバネ力の弱い小さな部品にしている。圧力調整弁21Aの作動圧を小さくする理由は、従前の高い作動圧であると、記録ヘッド20内の吐出駆動素子が駆動されてノズルから噴射されるインク滴の質量を変動させる原因となる場合があるからである。しかし、作動圧を低くするために、圧縮バネ59や負圧保持バネ66をバネ力の弱い小さな部品とすると、フィルム反力Ffilmが無視できなくなり、これが作動圧に影響する。
【0055】
ここで、ダイヤフラム42aが圧力室43側へ凹む状態を圧力調整弁21Aの使用範囲としているのは、次の理由による。圧力調整弁21Aが使用範囲において、ダイヤフラム42aが大気側に凸となる状態と、圧力室43側に凹む状態とが共存する構成を考える。この場合、フィルム反力Ffilmは、ダイヤフラム42aが大気側に凸となった状態で開弁方向に働き、ダイヤフラム42aが圧力室43側へ凹んだ状態で閉弁方向に働く。すなわち、ダイヤフラム42aの撓み状態が凸から凹へ切り換わることで、フィルム反力Ffilmが、インク圧Pinkを加圧する向き(開弁方向)の力から、インク圧Pinkを減圧する向き(閉弁方向)の力に切り換わる。このため、フィルム反力Ffilmが無視できなくなった構成では、このダイヤフラム形状の凸から凹への切り換わり時(図5(a)における位置Cに相当)に、弁体57に働く荷重のばらつきが発生する。
【0056】
本実施形態では、圧力調整弁21Aが閉弁状態にあるときに、フィルム部材42に溶着した受圧部材65がフレーム端面よりも圧力室43側へ凹んだ状態となる構成としている。そうすることで、ダイヤフラム42aが、弁体57が開閉するときの開閉位置Xo(図4参照)に達する直前に必ず圧力室43側へ凹んだ状態となるようにすることが可能となる。
【0057】
フィルム部材42がフレーム外側に凸の状態からフレーム内側に凹の状態に変化する時に、軸部57bに働くフィルム反力Ffilmの変化は一番大きくなる。このフィルム部材42の凸から凹への形状変化が、弁体57が開くタイミングに近い位置にある場合は、フィルム部材42のわずかな形状の違いによって弁体57が開く時の圧力室43内の負圧がバラツク要因となるため、このタイミングをずらすために、上記形状変更を実施している。特に作動圧を低く設定する仕様の圧力調整弁21Aでバネ荷重を小さくした場合は、フィルム反力Ffilmの影響が顕著に作動圧に現れるため、上記構成の採用が有効である。
【0058】
ところで、弁体57の軸部57bが受圧部材65の面に直角に当接するように設定されているが、実際には軸部57bが受圧部材65の面に当接する角度は製品間でばらつく。これは、部品の寸法公差、組付け公差、弁孔52と軸部57bとの隙間によるガタなどにより、受圧部材65の姿勢の傾き、軸部57bの姿勢の傾き、受圧部材65に対する軸部57bの当接箇所の受圧部材65の中心(重心)からのずれ等をもたらすからである。この軸部57bが受圧部材65の面に当接する角度のばらつきにより、フィルム反力Ffilmを軸部57bが受ける力、及び、受圧部材65の力Fi-a(Pink)を軸部57bが受ける力がばらつく。そして、フィルム反力Ffilmの変化が一番大きくなるときが、開弁のタイミングと同じになる構成では、軸部57bが受圧部材65の面に当接する角度やフィルム姿勢などのばらつきが、フィルム反力Ffilmを軸部57bに伝わるときにばらつかせ、これがバルブユニット21の個体差による作動圧のばらつきを助長する。
【0059】
これに対し、本実施形態の圧力調整弁21Aは、使用範囲でダイヤフラム42aが圧力室43側に凹んだ状態で使用される。このため、フィルム反力Ffilmが無視できない構成であっても、その使用範囲においてフィルム反力Ffilmの向きが変化しないので、個体差によって作動圧がばらつきにくい。
【0060】
図4は、印刷中におけるダイヤフラム位置の変化の様子を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸がダイヤフラム位置X、縦軸が時間Tである。ここで、グラフにおけるダイヤフラム位置Xは、ダイヤフラム42aの外面(図5における右側面)における中心位置が弁体移動方向(図5における左右方向)に変化する様子を示している。なお、位置Cは、フィルム部材42がフレーム40に接合されている部分における外面と面一となるダイヤフラム位置であり、ダイヤフラム42aが撓みのないフラットな状態にあるときの位置である。
【0061】
このグラフの例では、印刷開始前は圧力調整弁21Aが閉弁状態にある。この状態から、印刷が開始されると(時刻To)、記録ヘッド20のノズルからインク滴が吐出されることにより、圧力室43のインクが減少する。インクの減少に伴いインク圧Pinkが低下すると、前記(1)式の条件が成立し、開弁方向の力の総和と閉弁方向の力の総和との均衡を保つように、ダイヤフラム位置X(つまり弁体57)は開弁方向(図4のグラフにおける左方向)へ移動する。
【0062】
そして、弁体57の位置に応じて決まるダイヤフラム位置Xが、位置Xoに達したときに、圧力調整弁21Aが閉弁状態から開弁状態に切り換わる。開度が小さく圧力室43へのインク流入量がインク消費量より少ないうちは、前記(1)式の条件が成立し、ダイヤフラム位置Xは開弁方向へ変位し、その開度が徐々に大きくなる。そして、圧力室43へのインク流入量がインク消費量に勝ると、圧力室43の容積が減少から上昇に切り換わり、前記(2)式の条件が成立し、ダイヤフラム位置Xが変位する方向が位置Xmで閉弁方向(図4における右方)へ反転する(例えば図5(b)の開弁状態)。そして、ダイヤフラム位置Xが閉弁方向へ移動して位置Xoに達すると、圧力調整弁21Aは閉弁する。その後、ダイヤフラム位置Xは、凸部60aの圧縮等により例えば図4に示す位置Xcまで変位する。このダイヤフラム位置Xが位置Xcにある状態が、図5(a)に示す閉弁状態に相当する。
【0063】
以後、同様に、インク消費に連れてダイヤフラム位置Xは、位置Xcと位置Xmとの間の移動を繰り返し、圧力室43のインク圧Pinkは、ダイヤフラム位置Xが位置Xoのときのインク圧Pink(作動圧)に保持される。
【0064】
そして、圧力調整弁21Aが開弁状態から閉弁状態になって、ダイヤフラム位置Xが最も外側(大気側)に位置するとき、図5(a)に示すように、ダイヤフラム42aが位置Cに対して圧力室43側へΔBoだけ変位した位置Xcにある。よって、ダイヤフラム位置Xが最も外側(大気側)へ変位したとき、ダイヤフラム42aは、圧力室43側へ凹んだ状態になっている。このため、圧力調整弁21Aの使用範囲(Xm≦X≦Xc)において、フィルム反力Ffilmの向きが途中で変化することがないので、圧力室43のインク圧Pinkがフィルム反力Ffilmの向きの変化に起因して変動することがない。この結果、記録ヘッド20内のインク室のインク圧が安定し、吐出駆動素子が駆動されてノズルから噴射されるインク滴の質量が安定する。
【0065】
以上、詳述したように本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ダイヤフラム42aが開弁状態から閉弁状態になったときでも、ダイヤフラム42aが圧力室43側へ凹んだ状態に保持されるようにバルブユニット21(圧力調整弁21A)を構成した。よって、バルブユニット21の部品寸法、部品組付け位置のばらつき等により、製品間でダイヤフラム42aの位置がばらついても、バルブユニット21の使用範囲において、最も外側に位置するときのダイヤフラム42aが、圧力室43側へ凹む状態に保持される。この結果、バルブユニット21の個体差によらずその使用範囲において、フィルム反力Ffilmの向きの変更に起因するインク圧Pink(作動圧)の変動を防止できる。このため、記録ヘッド20のノズルから噴射されるインク滴の質量を安定させることができる。
【0066】
(2)圧力調整弁21Aが、図5(b)に示すように開弁したとき、負圧保持バネ66の両端部を保持する筒状部65aと筒状部40eとが接近して両者の隙間が狭くなる。しかし、筒状部40eに切欠40fがあることから、弁孔52を通じて流入したインクが圧力室43へ流れるための流路が確保される。この結果、負圧保持バネ66を保持する筒状部65a,40eの隙間が開弁時に狭くなっても、開弁時に圧力損失をさほど発生させることなく、圧力室43へインクを円滑に供給できる。
【0067】
(3)ダイヤフラム42aの内面に受圧部材65を固着したので、弁体57の軸部57bはダイヤフラム42aに直接接触することがなくなる。このため、ダイヤフラム42aの損傷等に起因する圧力調整弁21Aの寿命低下を抑制できる。
【0068】
(4)軸部57bを取り巻くように配設された負圧保持バネ66が、受圧部材65を軸部57bの当接箇所の周囲で押圧するので、受圧部材65が傾きにくい。よって、軸部57bが受圧部材65に当接する角度のばらつきを小さく抑えることができる。また、インク圧Pinkを決める付勢バネを、圧縮バネ59及び負圧保持バネ66の二つに分けたので、一つのバネにより弁体57を付勢する構成に比べ、弁体57(軸部57b)を付勢する圧縮バネ59を弱くし、圧縮バネ59の付勢力に基づく軸部57bの当接圧を小さくすることができる。
【0069】
尚、実施形態は、上記に限定されるものではなく、以下のように変更してもよい。
(変形例1)ダイヤフラムの圧力室と反対側の面(外面)が面するのは大気圧に限定されない。負圧であってもよい。さらには正圧であってもよい。例えばダイヤフラムの外側に負圧室又は正圧室を設ける構成とすればよい。例えばまた、例えば特許文献2における図13の構成、すなわちダイヤフラムの外側に配置された室が蛇行溝を介して外部(大気)と連通する構成も採用できる。
【0070】
(変形例2)バルブユニットが複数のインク色に共通の一つの筐体を有し、一つの筐体に複数の圧力調整弁が内蔵された構成を採用してもよい。さらに、バルブユニット21は、圧力調整弁21A以外の他の弁(例えば差圧弁)を内蔵する構成でもよい。
【0071】
(変形例3)弁装置としての圧力調整弁21Aをインクカートリッジ23に設けてもよい。空気加圧タイプのインクカートリッジ構成の場合、ダイヤフラム42aの外側面が大気に開放された状態に設けることが好ましい。例えば外郭ケース23a内にインクパック23bが収容される密閉収容室と大気開放室とを設け、インクパック23bのインク供給部を大気開放室に配置するとともに、インク供給部と連通状態に接続された圧力調整弁も大気開放室に配置する。また、圧力調整弁21Aをインクカートリッジのインク導出部に内蔵した構成も採用できる。もちろん、弁装置としての圧力調整弁21Aは、インクパック式以外のインクカートリッジに設けることもできる。例えばインクが貯留されたインク室を有するインクカートリッジや、インクが充填された多孔質体を収容するインクカートリッジの外郭ケース内に圧力調整弁21Aを組み付ける構成も採用できる。
(変形例4)流体圧設定バネとして、ダイヤフラムを閉弁方向に付勢する負圧保持バネ66に替え、ダイヤフラムを開弁方向へ付勢するバネを設けてもよい。例えばバネを圧力室43に設ける場合、バネの両端をそれぞれ隔壁側とダイヤフラム側と接着し、ダイヤフラムが圧力室側へ付勢されるようにする。また、ダイヤフラムを外側(大気側)から開弁方向へ付勢するようにバネを設けても構わない。これらの構成によれば、圧力室の流体圧を大気圧以上の値に設定することが可能になる。
【0072】
(変形例5)前記実施形態では、キャリッジを有する記録装置11であったが、キャリッジを有さず複数の流体噴射ヘッドが列状に固定されたフルラインヘッドを有する流体噴射装置(例えばラインプリンタ)に、本発明のメンテナンス装置を採用することもできる。
【0073】
(変形例6)前記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体、ゲルのような流状体、流体として流して噴射できる固体を含む)を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置のメンテナンス装置に本発明を適用することができる。なお、本明細書において「流体」とは、気体のみからなる流体を含まない概念であり、流体には、例えば液体(無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)等を含む)、液状体、流状体などが含まれる。さらに流体は、空気、窒素などの気体でもよい。
【0074】
以下、前記実施形態および各変形例から把握される技術的思想を記載する。
(1)流体を貯留する流体貯留手段(23)から、前記流体を噴射する流体噴射ヘッド(20)へ供給するための流体供給路(35)上において、前記流体を一時貯留し、前記流体噴射ヘッドから前記流体の噴射に伴って、前記一時貯留した前記流体が減少する圧力室と、前記圧力室(43)内の前記流体の減少に伴う負圧を感知して前記流体供給路から前記圧力室への前記流体供給及び非供給を切り換える開閉弁(57,59,60,66)とを有する弁装置において、前記圧力室の壁面の一部を構成するダイヤフラム(42a)と、該ダイヤフラムに設けられた受圧部材とを有し、前記受圧部材は、前記圧力室の流体圧と、前記ダイヤフラムを挟んで前記圧力室と反対側の圧力との差圧に基づいて変位するとともに、該受圧部材の変位に基づいて前記開閉弁が開閉するように構成されており、前記開閉弁が開弁状態から閉弁状態へ至る範囲において、前記ダイヤフラムが前記圧力室側へ凹むように構成したことを特徴とする弁装置。
【0075】
(2)前記付勢手段は弁体を閉弁方向に付勢する第1バネ(59)と、前記圧力室に設けられて前記受圧部材を閉弁方向へ付勢する第2バネ(66)とを備えたことを特徴とする請求項2に記載の弁装置。なお、第2バネは、請求項3、4における流体圧設定バネに相当する。
【0076】
(3)本発明は、流体噴射装置に着脱可能に取付けて使用される流体収容容器であって、上記発明の前記弁装置を備えていることを要旨とする。これによれば、流体収容容器を流体噴射装置に取り付けることにより、流体噴射装置に弁装置が取り付けられ、該弁装置により上記弁装置の発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本実施形態における記録装置の概略構成を示す平面図。
【図2】インク供給システムを示す模式図。
【図3】バルブユニット及び記録ヘッドを示す斜視図。
【図4】印刷時における経過時間とダイヤフラム位置との関係を示すグラフ。
【図5】(a)(b)バルブユニットの図3におけるA−A線断面図。
【符号の説明】
【0078】
11…流体噴射装置としての記録装置、15…キャリッジ、20…流体噴射手段としての記録ヘッド、21…バルブユニット、21A…弁装置としての圧力調整弁、23…流体供給源(流体貯留手段)としてのインクカートリッジ、25…加圧ポンプ、35…流路を構成するインク供給チューブ、40…フレーム、40e…第2筒状部としての筒状部、40f…切欠、42…フィルム部材、42a…ダイヤフラム、43…圧力室、51…隔壁、52…弁孔、53…蓋体、56…流体供給室としてのインク供給室、57…弁手段を構成する弁体、57b…軸部、59…弁手段を構成するとともに付勢手段としての圧縮バネ、60…弁手段を構成するシール部材、60a…凸部、61…弁座、65…受圧部材、65a…第1筒状部として筒状部、66…流体圧設定バネとしての負圧保持バネ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体供給源から流体噴射手段に流体を供給する流路の途中に設けられる圧力調整用の弁装置であって、
前記流路と上流側で連通する流体供給室と、
前記流路と下流側で連通する圧力室と、
前記圧力室の壁面の一部を構成するとともに該圧力室の内外の圧力差によって撓むダイヤフラムと、
前記ダイヤフラムに設けられた受圧部材と、
前記圧力室の流体が減った際の該圧力室の流体圧に基づき前記受圧部材に働く開弁方向の力が強まることに基づき開弁し、該開弁により前記流体供給室から流体が前記圧力室に流入した際の該圧力室の流体圧に基づき前記受圧部材に働く開弁方向の力が弱まることに基づき閉弁する弁手段とを備え、
前記弁手段の開閉により前記流体供給室の流体圧を減圧して前記圧力室を所定の作動圧に保持するように構成され、
前記弁手段が、前記圧力室が前記作動圧にある状態で開弁状態から閉弁状態になっても、前記ダイヤフラムが前記圧力室側へ凹んだ状態に保持されるように構成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
前記弁手段は、該流体供給室に一部収容された弁体と、該弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段とを備え、
前記弁体は前記流体供給室と前記圧力室とを連通する弁孔に挿通された軸部を有し、該軸部は前記受圧部材に直接又は間接的に当接していることを特徴とする請求項1に記載の弁装置。
【請求項3】
前記受圧部材は、前記ダイヤフラムの前記圧力室側の内面に固定され、前記圧力室が作動圧にあるときに前記弁体の軸部は前記受圧部材に当接していることを特徴とする請求項2に記載の弁装置。
【請求項4】
前記圧力室に設けられて前記受圧部材を前記弁手段の閉弁方向又は開弁方向に付勢する流体圧設定バネを備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の弁装置。
【請求項5】
前記流体圧設定バネはコイルバネであり、前記受圧部材は前記流体圧設定バネの一端部を支持する第1筒状部を有し、前記流体供給室と前記圧力室とを区画する隔壁における前記圧力室側の面には、前記流体圧設定バネの一端部を支持する第2筒状部が前記弁孔を囲むように形成されており、前記第2筒状部には径方向に貫通する切欠が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の弁装置。
【請求項6】
流体供給源と、流体を噴射する流体噴射手段と、前記流体供給源の流体を前記流体噴射手段へ供給するための流路上に設けられた請求項1乃至5のいずれか一項に記載の弁装置とを備えたことを特徴とする流体供給装置。
【請求項7】
請求項6に記載の流体供給装置を備えたことを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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