説明

弁装置

【課題】弁装置1のシール性能を高める。
【解決手段】弁装置1において、弁体3の外周を樹脂製リング7により包囲して覆う。樹脂製リング7は、従来の金属製シールリングよりも弾性変形しやすいので、上流側のガス圧により付勢されると柔軟に変形して、弁ハウジング5の内周面15や弁体3の外周縁に強固に密着する。すなわち、樹脂製リング7は、ガス圧が大きいほど、より大きく弾性変形しようとして弁ハウジング5の内周面15や弁体3の外周縁に、より強固に密着する。そして、このような樹脂製リング7のセルフシール機能により、主に、流路2の径方向に関する隙間、および、流路2の軸方向に関する隙間をより高度に封鎖することができるので、弁装置1のシール性能を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流路の開度を弁体の回動により可変する弁装置に関するものであり、特に、エンジンの排気系に組み込まれて排気ガスの通過量を操作する弁装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から、図7(a)に示すように、エンジン(図示せず)の排気系に組み込まれて排気ガスの通過量を操作するEGR用の弁装置100では、ガス流路101の開度を可変する弁体102と、弁体102を回動自在に収容する弁ハウジング103とを備えるものが公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
この弁装置100によれば、弁ハウジング103の内周面104によりガス流路101の一部が形成され、弁体102は、内周面104により形成されたガス流路101に収容されている。
【0003】
また、弁装置100によれば、ガスの通過を遮断する全閉状態においてガスの漏れを抑制するため、弁体102の外周縁に外周側に向かって開口する環状の溝105が設けられ、溝105に金属製のシールリング106が嵌め込まれている。そして、弁装置100は、弁体102を回動させて弁ハウジング103の内周面104にシールリング106を環状に接触させることで、ガス流路101を全閉状態にする。
【0004】
ところで、全閉状態では、図7(b)に示すように、シールリング106の外周端107が、シールリング106自身の弾性により内周面104に当接し、シールリング106の下流端108が、上流側のガス圧により下流側に付勢されて溝105の側面109に当接している。そして、外周端107と内周面104との当接によりガス流路101の径方向に関する隙間が封鎖され、下流端108と側面109との当接によりガス流路101の軸方向に関する隙間が封鎖されて、全閉状態におけるガス漏れが抑制されている。
【0005】
このため、弁装置100では、全閉状態におけるガス漏れ抑制能力(以下、シール性能と呼ぶ)は、内周面104と外周端107との密着性、および下流端108と側面109との密着性に依存しており、シール性能向上のために、これらの密着性のさらなる改善が要請されている。
また、シールリング106は、C字状に設けられており、溝105に嵌め込まれて合口を形成する。このため、合口の隙間(ガス流路101の周方向に関する隙間)を通るガス漏れも、シール性能向上の阻害要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/057219号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、弁装置のシール性能を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の弁装置は、流体流路の開度を可変する弁体と、弁体を回動自在に収容する弁ハウジングとを備え、弁ハウジングの内周面により流体流路の一部を形成するとともに、弁ハウジングの内周面により形成された流体流路に弁体を収容する。また、弁装置は、環状の樹脂製リングを備え、樹脂製リングの内周には、弁体の外周縁が嵌まり込む周溝が設けられている。そして、弁体は、周溝に嵌まり込んだ状態で流体流路に収容され、弁装置は、弁体を回動させて弁ハウジングの内周面に樹脂製リングの外周を環状に接触させることで、流体流路を全閉状態にする。
【0009】
これにより、弁体の外周は、従来のシールリングの材料である金属よりも高弾性の樹脂を材料とする樹脂製リングにより包囲されて覆われる。このため、樹脂製リングは、従来のシールリングよりも弾性変形しやすいので、上流側のガス圧により付勢されると柔軟に変形して、弁ハウジングの内周面や弁体の外周縁に強固に密着する。すなわち、樹脂製リングは、ガス圧が大きいほど、より大きく弾性変形しようとして弁ハウジングの内周面や弁体の外周縁に、より強固に密着する。
【0010】
そして、このような樹脂製リングのセルフシール機能により、主に、流体流路の径方向に関する隙間、および、流体流路の軸方向に関する隙間をより高度に封鎖することができるので、弁装置のシール性能を高めることができる。
【0011】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の弁装置によれば、樹脂製リングは、弁体が周溝に嵌り込んだ状態で合口を形成するようにC字状に設けられている。また、合口を形成する2つのリング端には、一方のリング端から他方のリング端に向かって周方向に突出する突出片と、他方のリング端に設けられて突出片を収める欠落空間とからなる突出欠落対が少なくとも1つ形成されている。そして、突出片が欠落空間に収まることで、2つのリング端は、周方向に対向して当接し合う周方向当接面組合せを少なくとも2以上の異なる位置で形成する。
【0012】
これにより、全閉状態において、合口の隙間(流体流路の周方向に関する隙間)を通ってリークしようとする流体の流れは迷路状になる。このため、合口の隙間を経由する流体の漏れが生じにくくなるので、弁装置のシール性能をさらに高めることができる。
【0013】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の弁装置によれば、突出欠落対は2以上形成され、周方向当接面組合せは3以上の異なる位置で形成されている。
この手段は、合口の隙間を迷路状にして流体の漏れを抑制できる構造の一態様を示すものである。この態様により、全閉状態において、合口の隙間を経由する流体の漏れを大幅に抑制することができる。
【0014】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の弁装置によれば、弁体と樹脂製リングとは、周溝に弁体の外周縁が嵌まり込んだサブアセンブリの状態で熱処理(アニーリング)される。
これにより、樹脂製リングが収縮して、より強固に弁体に密着するので、弁装置のシール性能がさらに高まる。
【0015】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の弁装置によれば、樹脂製リングは、外周が円以外の環状をなしている。
これにより、樹脂製リングは、全閉状態において周方向に回転ズレしなくなるので、全閉状態が安定化する。
【0016】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載の弁装置は、エンジンの排気系に組み込まれて排気ガスの通過量を操作する。
この手段は、弁装置の用途の一態様を示すものである。この態様によれば、例えば、弁装置をEGRに適用する場合、還流される排気ガス(以下、還流ガスと呼ぶ)に含まれる凝縮水に対する耐食性を高めることができる。
【0017】
すなわち、EGRでは、一般的に、高温の排気ガス還流による吸気充填効率の低下を阻止するため、還流ガスを熱交換器等により冷却する。このため、還流ガスには、多量の凝縮水が含まれるので、弁装置では凝縮水に対する金属部分の耐食性を考慮する必要がある。このような耐食性に関し、従来の金属製のシールリングに替えて、水に対する耐食性が高い樹脂を材料とする樹脂製リングを用いることで、弁装置の凝縮水に対する耐食性を高めることができる。
【0018】
〔請求項7の手段〕
請求項7に記載の弁装置は、弁体に取り付けられ、所定のアクチュエータからトルクを伝達されて弁体とともに回動する弁軸を備え、弁軸は、弁体と略同一平面をなすように弁体に取り付けられ、樹脂製リングの周方向の少なくとも1部位において樹脂製リングと交差する。そして、樹脂製リングにおいて弁軸と交差する部位は、弁軸が嵌まりながら交差するように凹状に設けられている。
【0019】
エンジンの排気系に組み込まれる従来の弁装置によれば、弁軸は、軸受け部が弁体よりも下流側に配されるように、弁体の面方向に対して傾斜するように溶接等により弁体に固定され、軸受け部へのデポジット堆積が抑制されている(図7(a)参照)。このため、弁軸を弁体に対し傾斜させて溶接するために、弁体を鍛造および切削加工により厚めに設ける必要があり、弁装置は高コストである。また、軸受け部を弁体よりも下流側に配するため、弁装置が大型化している。
【0020】
このような、エンジンの排気系に組み込まれる従来の弁装置の短所に対し、樹脂製リングにおいて弁軸と交差する部位を、弁軸が嵌まりながら交差するように凹状に設けることで、デポジットの軸受け部への進入を阻害して軸受け部におけるデポジット堆積を抑制することができる。
【0021】
これにより、弁軸を弁体と略同一平面をなすように弁体に取り付けて、軸受け部を排気の流れ方向に関して弁体と同位置に配しても、確実に軸受け部へのデポジット堆積を抑制することができる。このため、弁軸を弁体に対し傾斜させて溶接する必要がなくなるので、弁体をプレス等により薄めに設けて、弁軸と弁体とをリベット、ネジ等により簡易に一体化することができる。
以上により、弁装置を小型化することができるとともに、弁装置のコストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)は弁装置を示す説明図であり、(b)は(a)のA−A断面図であり、(c)は(a)のB−B断面図である(実施例)。
【図2】(a)は弁体の正面図であり、(b)は弁体の平面図である(実施例)。
【図3】(a)は樹脂製リングを示す説明図であり、(b)は(a)のC−C断面図であり、(c)は(a)のD−D断面図である(実施例)。
【図4】(a)は樹脂製リングの合口の概念を平面視により示す説明図であり、(b)は樹脂製リングの合口の概念を側面視により示す説明図であり、(c)はリング端の概念を示す斜視図である(実施例)。
【図5】(a)はスプリングを示す説明図であり、(b)は(a)のE−E断面図である(実施例)。
【図6】樹脂製リングの合口の概念を示す斜視図である(変形例)。
【図7】(a)は弁装置を示す説明図であり、(b)は全閉状態におけるシールリングによる封鎖を示す説明図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態の弁装置は、流体流路の開度を可変する弁体と、弁体を回動自在に収容する弁ハウジングとを備え、弁ハウジングの内周面により流体流路の一部を形成するとともに、弁ハウジングの内周面により形成された流体流路に弁体を収容する。また、弁装置は、環状の樹脂製リングを備え、樹脂製リングの内周には、弁体の外周縁が嵌まり込む周溝が設けられている。そして、弁体は、周溝に嵌まり込んだ状態で流体流路に収容され、弁装置は、弁体を回動させて弁ハウジングの内周面に樹脂製リングの外周を環状に接触させることで、流体流路を全閉状態にする。
【0024】
また、樹脂製リングは、弁体が周溝に嵌り込んだ状態で合口を形成するようにC字状に設けられている。また、合口を形成する2つのリング端には、一方のリング端から他方のリング端に向かって周方向に突出する突出片と、他方のリング端に設けられて突出片を収める欠落空間とからなる突出欠落対が少なくとも1つ形成されている。そして、突出片が欠落空間に収まることで、2つのリング端は、周方向に対向して当接し合う周方向当接面組合せを少なくとも2以上の異なる位置で形成する。
【0025】
より具体的には、突出欠落対は2以上形成され、周方向当接面組合せは3以上の異なる位置で形成されている。
また、弁体と樹脂製リングとは、周溝に弁体の外周縁が嵌まり込んだサブアセンブリの状態で熱処理される。
また、樹脂製リングは、外周が円以外の環状をなしている。
【0026】
そして、弁装置は、エンジンの排気系に組み込まれて排気ガスの通過量を操作する。
ここで、弁装置は、弁体に取り付けられ、所定のアクチュエータからトルクを伝達されて弁体とともに回動する弁軸を備える。また、弁軸は、弁体と略同一平面をなすように弁体に取り付けられ、樹脂製リングの周方向の少なくとも1部位において樹脂製リングと交差する。そして、樹脂製リングにおいて弁軸と交差する部位は、弁軸が嵌まりながら交差するように凹状に設けられている。
【実施例】
【0027】
〔実施例の構成〕
実施例の弁装置1の構成を、図1〜図6に基づいて説明する。
弁装置1は、流体が通過する流路2の開度を弁体3の回動により可変するものであり、例えば、エンジン(図示せず)の排気系に組み込まれ、エンジンに還流される排気ガス(還流ガス)の通過量を操作するEGRに適用されている。
【0028】
すなわち、弁装置1は、図1に示すように、還流ガスの流路2の開度を可変する弁体3と、弁体3を回動自在に収容する弁ハウジング5と、弁体3に取り付けられ、所定のアクチュエータ(図示せず)からトルクを伝達されて弁体3とともに回動する弁軸6と、弁体3を外周側から包囲して自身の内周側に保持する環状の樹脂製リング7と、樹脂製リング7の内周側に保持されて弁体3と樹脂製リング7とを強固に一体化させるスプリング8とを備える。
【0029】
そして、弁装置1は、流路2の開度を可変制御する電子制御ユニット(ECU:図示せず)からの指令を受けてアクチュエータを動作させ、アクチュエータの動作により弁体3および弁軸6を回動させて流路2の開度を可変するとともに、流路2における還流ガスの通過量を操作する。
【0030】
弁体3は、図1および図2に示すように、略円板状に設けられている。そして、弁体3は、弁軸6の軸芯を自身の直径と一致させて収容する略半円筒状の弁軸収容部10を有し、弁軸収容部10の図示上下両端には、弁軸6に垂直な平坦面11が形成されている。また、弁軸収容部10には、リベット12を通すための孔13が設けられている。
なお、以下の説明では、特に断わらない限り、軸方向、周方向および径方向は、弁体3および樹脂製リング7に関する方向とする(このため、還流ガスの通過を遮断する全閉状態における軸方向は、流路2における還流ガスの流れ方向と一致する)。
【0031】
弁ハウジング5は、図1に示すように、自身の内周面15により流路2の一部を形成し、内周面15により形成された流路2に、弁体3、樹脂製リング7およびスプリング8等を収容する。
弁軸6は、弁体3と略同一平面をなすように弁軸収容部10に収容されて弁体3に取り付けられる。なお、弁軸6と弁体3とは、リベット12により一体化されている。
【0032】
樹脂製リング7は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)またはPA46(ポリアミド46)等の耐熱性に優れる熱可塑性樹脂を材料として設けられている。
【0033】
樹脂製リング7の内周には、図1および図3に示すように、弁体3の外周縁が嵌まり込む周溝16が設けられ、樹脂製リング7は、周溝16に弁体3を収容することで、弁体3を外周側から包囲して自身の内周側に保持する。そして、弁装置1は、弁体3を回動させて内周面15に樹脂製リング7の外周を環状に接触させることで、流路2を全閉状態にする。
【0034】
また、周溝16の軸方向一方側には、周溝16と階段状に連なるとともに周溝16よりも小径の第2周溝17が設けられている。なお、第2周溝17は、後記するようにスプリング8を収容するものである。
【0035】
また、樹脂製リング7は、直径を構成する2つの部位において弁軸6と交差するように弁軸6に組み付けられる。そして、樹脂製リング7において弁軸6と交差する部位は、弁軸6が嵌まりながら交差するように凹状に設けられて凹状部18をなす。
ここで、凹状部18の外周側は、弁軸6の軸芯に垂直な略半環状の平坦面19をなしており、樹脂製リング7の外周形状は、円の一部が互いに平行な2直線であるトラック形状をなしている。そして、平坦面19は、弁体3が回動するときに、内周面15の一部をなす弁ハウジング5側の平坦面20に回転摺動する。
【0036】
また、樹脂製リング7は、弁体3が周溝16に嵌り込んだ状態で合口23を形成するようにC字状に設けられている。そして、合口23を形成する2つのリング端24、25には、2つの突出欠落対が形成され、3つの異なる位置で周方向当接面組合せが形成されている。
【0037】
ここで、突出欠落対とは、図4に示すように、例えば、一方のリング端24から他方のリング端25に向かって周方向に突出する突出片27と、リング端25に設けられて突出片27を収める欠落空間28とからなるものである。そして、実施例の弁装置1によれば、リング端25からリング端24に向かって周方向に突出する突出片29と、リング端24に設けられて突出片29を収める欠落空間30との間にも、突出欠落対が形成され、突出片27と欠落空間28との間に形成される突出欠落対と合わせて2つの突出欠落対が形成されている。
【0038】
また、周方向当接面組合せとは、例えば、突出片27が欠落空間28に収まることで周方向に対向して当接し合う平坦面32、33の組合せである。ここで、平坦面32は、周方向に垂直な平面として突出片27の先端に設けられ、平坦面33は、周方向に垂直な平面として欠落空間28の最も奥に設けられている。
【0039】
そして、実施例の弁装置1によれば、突出片27が欠落空間28に収まることで、平坦面32、33の組合せ以外にも、平坦面34、35の組合せ、および平坦面36、37の組合せによっても周方向当接面組合せが形成される。
【0040】
ここで、平坦面34は、周方向に垂直な平面として突出片29の先端に設けられ、平坦面35は、周方向に垂直な平面として欠落空間30の最も奥に設けられている。また、平坦面36は、リング端24において、突出片27および欠落空間30の内周側で周方向に垂直な平面として設けられ、平坦面37は、リング端25において、突出片29および欠落空間28の内周側で周方向に垂直な平面として設けられている。
【0041】
なお、実施例の弁装置1によれば、突出片27が欠落空間28に収まると突出片29が欠落空間30に収まるので、突出片29が欠落空間30に収まることでも、平坦面32、33の組合せ、平坦面34、35の組合せ、および平坦面36、37の組合せの3つの周方向当接面組合せが形成される。
【0042】
また、リング端24において、突出片27の軸方向一端側の端面40は、軸方向に垂直に設けられて欠落空間30を形成するように周方向に広がっており、リング端25において、突出片29の軸方向他端側の端面41は、軸方向に垂直に設けられて欠落空間28を形成するように周方向に広がっている。そして、突出片27が欠落空間28に収まることで(または、突出片29が欠落空間30に収まることで)、端面40、41は、軸方向に当接し合う。
【0043】
さらに、リング端24において平坦面35、端面40とともに欠落空間30を形成する周面42、および、リング端25において平坦面33、端面41とともに欠落空間28を形成する周面43は、突出片27が欠落空間28に収まることで(または、突出片29が欠落空間30に収まることで)、それぞれ、突出片29の内周面44、突出片27の内周面45と径方向に当接し合う。
【0044】
スプリング8は、図1および図5に示すように、弁体3の外周縁に沿うように環状に設けられ軸方向に弾性を発揮する。そして、スプリング8は、弁体3と同軸的に樹脂製リング7の内周に配されて前記の第2周溝17に収容されており、弁体3を軸方向他方側に付勢することで、周溝16を形成する軸方向他端側の溝側面48に弁体3を強固に当接させている。
【0045】
なお、弁体3、弁軸6、樹脂製リング7、およびスプリング8は、一体化されてサブアセンブリを構成する。そして、サブアセンブリが弁ハウジング5に組み付けられて弁装置1が構成される。また、サブアセンブリの状態では、周溝16に弁体3の外周縁が嵌まり込むとともに第2周溝17にスプリング8が嵌まり込んでおり、このような状態のサブアセンブリに熱処理が施され、熱処理後のサブアセンブリが弁ハウジング5に組み付けられる。
【0046】
〔実施例の効果〕
実施例の弁装置1は環状の樹脂製リング7を備え、樹脂製リング7の内周には、弁体3の外周縁が嵌まり込む周溝16が設けられている。そして、弁装置1は、弁体3を回動させて弁ハウジング5の内周面15に樹脂製リング7の外周を環状に接触させることで、流路2を全閉状態にする。
これにより、弁体3の外周は、従来のシールリングの材料である金属よりも高弾性の樹脂を材料とする樹脂製リング7により包囲されて覆われる。
【0047】
このため、樹脂製リング7は、従来のシールリングよりも弾性変形しやすいので、上流側のガス圧により付勢されると柔軟に変形して、弁ハウジング5の内周面15や弁体3の外周縁に強固に密着する。すなわち、樹脂製リング7は、ガス圧が大きいほど、より大きく弾性変形しようとして弁ハウジング5の内周面15や弁体3の外周縁に、より強固に密着する。そして、このような樹脂製リング7のセルフシール機能により、主に、流路2の径方向に関する隙間、および、流路2の軸方向に関する隙間をより高度に封鎖することができるので、弁装置1のシール性能を高めることができる。
【0048】
また、樹脂製リング7はC字状に設けられて合口23を形成し、合口23を形成するリング端24、25には、2つの突出欠落対(突出片27と欠落空間28との対、および突出片29と欠落空間30との対)が形成され、3つの異なる位置で周方向当接面組合せ(平坦面32、33の組合せ、平坦面34、35の組合せ、および平坦面36、37の組合せ)が形成されている。
【0049】
これにより、全閉状態において、合口23の隙間(周方向に関する隙間)を通ってリークしようとする還流ガスの流れは迷路状になる。このため、合口23の隙間を経由する還流ガス漏れが生じにくくなるので、弁装置の1シール性能をさらに高めることができる。
なお、突出欠落対を2つ形成するとともに周方向当接面組合せを3つの異なる位置で形成することで、リング端24、25の加工を煩雑化することなく、全閉状態において、合口23の隙間を経由する還流ガスの漏れを大幅に抑制することができる。
【0050】
また、弁体3と樹脂製リング7とは、周溝16に弁体3の外周縁が嵌まり込んだサブアセンブリの状態で熱処理(アニーリング)される。
これにより、樹脂製リング7が収縮して、より強固に弁体3に密着するので、弁装置1のシール性能がさらに高まる。
【0051】
また、樹脂製リング7の外周形状は、円の一部が互いに平行な2直線であるトラック形状をなしている。
これにより、樹脂製リング7は、全閉状態において周方向に回転ズレしなくなるので、全閉状態が安定化する。
【0052】
また、弁装置1は、エンジンの排気系に組み込まれて還流ガスの通過量を操作するものであり、EGRに適用されている。
これにより、弁装置1は、還流ガスに含まれる凝縮水に対する耐食性が高いものとなる。すなわち、凝縮水に対する金属部分の耐食性に関し、従来の金属製のシールリングに替えて、水に対する耐食性が高い樹脂を材料とする樹脂製リング7を用いることで、弁装置1の凝縮水に対する耐食性を高めることができる。
【0053】
また、弁軸6は、弁体3と略同一平面をなすように弁軸収容部10に収容されて弁体3に取り付けられ、樹脂製リング7は、直径を構成する2つの部位において弁軸6と交差するように、弁軸6および弁体3に対して組み付けられる。そして、樹脂製リング7において弁軸6と交差する部位は、弁軸6が嵌まりながら交差するように凹状に設けられて凹状部18をなす。
これにより、凹状部18によってデポジットが軸受け部(図示せず)の方へ向かうのを阻止できるので、軸受け部へのデポジット堆積を抑制することができる。
【0054】
このため、軸受け部を排気の流れ方向に関して弁体3と同位置に配しても、軸受け部にはデポジットが堆積しにくくなるので、軸受け部を弁体3よりも下流側に配するために弁軸6を弁体3に対し傾斜させて溶接する必要がなくなる。この結果、弁体3をプレス等により薄めに設けて、弁軸6と弁体3とをリベット12等により簡易に一体化することができる。
以上により、弁装置1を小型化することができるとともに、弁装置1のコストを下げることができる。
【0055】
〔変形例〕
実施例の弁装置1によれば、樹脂製リング7の合口23では、突出欠落対が2つ形成されるとともに周方向当接面組合せが3つの異なる位置で形成されていたが、樹脂製リング7の合口23の態様はこのようなものに限定されない。
例えば、図6に示すように、リング端24、25の軸方向一端側かつ外周側に1つの突出欠落対を形成するとともに、周方向当接面組合せを2つの異なる位置で形成してもよい。
【0056】
この場合、突出片50は、リング端25の端面51において、軸方向一端寄りかつ外周寄りの位置からリング端24の方に突出するように設けられ、欠落空間52は、リング端24の端面53において、軸方向一端寄りかつ外周寄りの位置からリング端25に向かう方向とは逆の方向に窪むように設けられている。
【0057】
そして、突出片50が欠落空間52に収まることで、1つの突出欠落対が形成され、突出片50の先端面55と欠落空間52の奥面56との間に周方向当接面組合せが形成されるとともに、端面51、53の間に周方向当接面組合せが形成される(つまり、周方向当接面組合せが2つの異なる位置で形成される)。
また、突出欠落対を3以上形成したり、周方向当接面組合せを4以上の異なる位置で形成したりしてもよい。
【0058】
また、実施例の弁装置1によれば、樹脂製リング7は、直径を構成する2つの部位において弁軸6と交差するように弁軸6に対して組み付けられていたが、樹脂製リング7の周方向の1部位において弁軸6と樹脂製リング7とが交差するようにしてもよい。
また、実施例の弁装置1によれば、樹脂製リング7の外周形状はトラック形状をなしていたが、外周形状が円以外の環状をなしていればよく、例えば、外周形状を楕円状に設けてもよい。
【0059】
さらに、実施例1の弁装置1は、EGRに適用されて還流ガスの通過量を操作するものであったが、適用対象はEGRに限定されない。
【符号の説明】
【0060】
1 弁装置
2 流路(流体流路)
3 弁体
5 弁ハウジング
6 弁軸
7 樹脂製リング
15 内周面(弁ハウジングの内周面)
16 周溝
23 合口
24 リング端
25 リング端
27 突出片
28 欠落空間
29 突出片
30 欠落空間
50 突出片
52 欠落空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体流路の開度を可変する弁体と、この弁体を回動自在に収容する弁ハウジングとを備え、
この弁ハウジングの内周面により前記流体流路の一部を形成するとともに、前記弁ハウジングの内周面により形成された前記流体流路に前記弁体を収容する弁装置において、
環状の樹脂製リングを備え、
この樹脂製リングの内周には、前記弁体の外周縁が嵌まり込む周溝が設けられ、
前記弁体は、前記周溝に嵌まり込んだ状態で前記流体流路に収容され、
前記弁体を回動させて前記弁ハウジングの内周面に前記樹脂製リングの外周を環状に接触させることで、前記流体流路を全閉状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載の弁装置において、
前記樹脂製リングは、前記弁体が前記周溝に嵌り込んだ状態で合口を形成するようにC字状に設けられ、
前記合口を形成する2つのリング端には、一方のリング端から他方のリング端に向かって周方向に突出する突出片と、他方のリング端に設けられて前記突出片を収める欠落空間とからなる突出欠落対が少なくとも1つ形成され、
前記突出片が前記欠落空間に収まることで、前記2つのリング端は、周方向に対向して当接し合う周方向当接面組合せを少なくとも2以上の異なる位置で形成することを特徴とする弁装置。
【請求項3】
請求項2に記載の弁装置において、
前記突出欠落対は2以上形成され、前記周方向当接面組合せは3以上の異なる位置で形成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載の弁装置において、
前記弁体と前記樹脂製リングとは、前記周溝に前記弁体の外周縁が嵌まり込んだサブアセンブリの状態で熱処理されることを特徴とする弁装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の内のいずれか1つに記載の弁装置において、
前記樹脂製リングは、外周が円以外の環状をなしていることを特徴とする弁装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の内のいずれか1つに記載の弁装置において、
エンジンの排気系に組み込まれて排気ガスの通過量を操作することを特徴とする弁装置。
【請求項7】
請求項6に記載の弁装置において、
前記弁体に取り付けられ、所定のアクチュエータからトルクを伝達されて前記弁体とともに回動する弁軸を備え、
この弁軸は、前記弁体と略同一平面をなすように前記弁体に取り付けられ、前記樹脂製リングの周方向の少なくとも1部位において前記樹脂製リングと交差し、
前記樹脂製リングにおいて前記弁軸と交差する部位は、前記弁軸が嵌まりながら交差するように凹状に設けられていることを特徴とする弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−12749(P2011−12749A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157269(P2009−157269)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】