説明

引出しのラッチ作動機構

【課題】係合部の係脱を把手の引出し作用と同期して確実に行うことができるとともに、引出しを引き出す際に、把手に対し偏心した力が加わった場合でも、ラッチの作動機構が長寸化、複雑化することなく円滑にラッチを作動させることができる引出しのラッチ作動機構を提供する。
【解決手段】
引出し2の把手5を左右広幅の手掛け部6とその左右両側から正面板3に対して摺動可能とした一対の摺動部7を備えるものとし、ラッチ作動機構を、正面視凹字状をなし左右の上向片11が摺動部7から後方に延びる延長部27に連結され、上向片11の下部同士を連結する水平片14が係合部49よりも下方の位置に配置され、その左右において軸部25に傾動自在に軸着された第一の作動体10と、左右の上向片11に連結する左右側端部16と上面視コ字状のスライド軸と軸着した水平部17からなる第二の作動体15とで構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引出しの正面板の前面に設けたラッチ操作用の把手と、該把手の操作と連動して前後摺動するスライド軸と、該スライド軸と連動してスライド軸と直行する方向に摺動する係合部と該係合部と係脱する筐体側の被係合部とを備えたラッチ装置と、を有する引出しのラッチ作動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
引出しの正面板側に設けたラッチ操作用の把手と、該把手の操作と連動して上下方向に摺動する係合部とこの係合部と係脱する筐体側の被係合部とを備えたラッチ装置を有する従来の引出しは、引出しを引き出す場合に、ラッチ操作用の把手を先ず指先で操作して係合部を被係合部から離脱させ、その離脱状体を保持した状態で引出しを手前側に引き出すように構成したものが知られている(特許文献1)。しかしながらこの従来の引出しは、指先でラッチ操作用の把手を操作した後に引き出さなければならず、引出し操作が2段操作となり使い勝手が悪かった。そこで、単に引き出す操作だけでラッチを解除できる機構も開発されている(特許文献2)。この機構は把手を持って引き出せばクランク軸が回動し、このクランク軸の回動によってラッチ軸を作動し引出しの側方に設けたラッチが駆動されるので、引出操作だけで自動的にラッチが解除され便利である。
【0003】
【特許文献1】特開平09−158582号公報(段落0028、図3,4)
【特許文献2】特開平2005−16223号公報(段落0032、0033、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2においては、左右広幅の手掛け部の左右両側に後方に各々延設された一対の摺動部を備えているため、把手に対し偏心した力が加わった場合、一対の摺動部が同期して移動せず、クランク軸に捻れが生じるおそれがあるので、クランク軸が正常に回転するように、変位阻止部材としての棒受け部材をクランク軸の長手方向に渡って設ける必要があり、ラッチの作動機構の長寸化、複雑化が避けられたかった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、係合部の係脱を把手の引出し作用と同期して確実に行うことができるとともに、引出しを引き出す際に、把手に対し偏心した力が加わった場合でも、ラッチの作動機構が長寸化、複雑化することなく円滑にラッチを作動させることができる引出しのラッチ作動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の引出しのラッチ作動機構は、引出しの正面板の前面に設けたラッチ操作用の把手と、該把手の操作と連動して前後摺動するスライド軸と、該スライド軸と連動してスライド軸と直行する方向に摺動する係合部と該係合部と係脱する筐体側の被係合部とを備えたラッチ装置と、を有する引出しのラッチ作動機構において、前記把手を、前記正面板の前方に突出する左右広幅の手掛け部と、該手掛け部の左右両側から後方に各々延設され、前記正面板に対して前後摺動可能とした一対の摺動部を備えるものとし、前記把手により前記スライド軸を作動させる作動手段を、正面視凹字状をなし、左右の上向片が、前記正面板の前面側から挿入された前記一対の摺動部から後方に延びる延長部に連結され、前記左右の上向片の下部同士を連結する水平片が、前記係合部よりも下方の位置に配置され、その左右において、前記正面板の後面から後方に突出した軸部に傾動自在に軸着された第一の作動体と、前記左右の上向片にそれぞれ連結した左右側端部と、該左右側端部と一体に構成した上面視コ字状の前記スライド軸と軸着した水平部からなる第二の作動体とで構成したことを特徴としている。
この特徴によれば、把手に対し偏心した力が加わった場合でも、把手の左右の後方延長部に連結した上向片が水平片で連結され、且つこの水平片が正面板の後面において左右が傾動自在に軸着されているので、左右の上向片は同期的に動くことができ、その左右の上向片に軸着された第二の作動体も左右において同期的に動くようになり、係合部がスライド軸を介して確実かつ円滑に作動することができる。また、係合部の作動機構であるラッチ作動機構が主として正面板の後方に配設した第一及び第二の作動体を組み合わせたもので構成されており、ラッチ作動機構が長寸化、複雑化することがない。
【0007】
本発明の請求項2に記載の引出しのラッチ作動機構は、請求項1に記載の引出しのラッチ作動機構であって、前記上面視コ字状の水平部が、前記正面板の後面に開口された長孔の内壁に前後に移動可能に案内されていることを特徴としている。
この特徴によれば、上面視コ字状の水平部が正面板の後面に開口された長孔の内壁に案内されて移動できるので、第二の作動体の移動が安定し、把手の操作によって係合部が確実に作動する。
【0008】
本発明の請求項3に記載の引出しのラッチ作動機構は、請求項1または2に記載の引出しのラッチ作動機構であって、前記第一の作動体の水平片の上方の空間に、前記係合部が収納された箱体を位置させたことを特徴としている。
この特徴によれば、第一の作動体の水平片の上方の空間に、係合部が収納された箱体を位置させることで、正面板の後方の上下方向の空間を有効利用することができる。
【0009】
本発明の請求項4に記載の引出しのラッチ作動機構は、請求項1乃至3のいずれかに記載の引出しのラッチ作動機構であって、前記両作動体を板状としたことを特徴としている。
この特徴によれば、両作動体を板状としたことで、把手によりスライド軸を作動させるラッチ作動機構の前後方向の厚みを薄く構成でき、正面板の後方に幅のある空間を作動手段のために設ける必要が無くなる。
【0010】
本発明の請求項5に記載の引出しのラッチ作動機構は、請求項1乃至4のいずれかに記載の引出しのラッチ作動機構であって、前記第一の作動体の傾動時に弾性変形可能な弾性体を前記軸部に設けたことを特徴としている。
この特徴によれば、引出しを収納したときに、弾性体により係合部が元の係合可能な位置に円滑に戻るように第一の作動体を作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の実施例における棚板および引出しにラッチ装置が適用された筐体の全体像を示す斜視図であり、図2は、引出しの正面板の中央部を示す背面側から見た分解組立斜視図であり、図3は、第一および第二の作動体と固定板と係合部材の取り付けを示す正面側から見た分解組立斜視図であり、図4は、把手およびカバーケースの取り付けを示す背面側から見た分解組立図であり、図5は、引出しの正面板の中央部を示す一部破断平面図であり、図6(a)は、図5のA−A断面線を示す要部拡大側断面図であり、図6(b)は、図6(a)の把手の操作による第一および第二の作動体の作動状態を示す要部拡大側断面図であり、図7(a)は、図5のB−B断面線を示す要部拡大側断面図であり、図7(b)は、図7(a)の把手の操作によってラッチ装置のロックの解除を示す要部拡大側断面図である。
【0013】
図1に示されるように、筐体1には引出し2が上下3段で設けられ、それぞれの引出し2が筐体内部を区画する枠体4内に個々に収納されている。引出し2の前面には正面板3を有し、この正面板3の略中央位置には、把手5が正面板3から前方に突出して設けられている。以下、本実施例の説明において、図1に図示された筐体1を対面した状態で見て、引出し2の引出し側を前方とし、筐体1の背面側を後方とし、左手側面側を左方、右手側面側を右方として説明する。
【0014】
正面板3の背面の左右略中央位置には上方に向けて突設した係合部に相当する係合突体49が設けられ、この係合突体49と、枠体4の左右中央位置に下方に向けて突設した被係合部に相当する係止突体92とでラッチ装置30が構成されており、引出し2の収納時に係止突体92に係合突体49が係合されることで引出し2の前方移動が規制され、係合突体49の係合解除は把手5の操作により行われるが、ラッチ装置30の作動機構については後述において説明する。
【0015】
図2に示されるように、把手5には前方に突出する左右広幅の手掛け部6と、この手掛け部6の両端から後方に向けて各々延設される摺動部7,7とから構成され、摺動部7,7の後面には前方を向くボルト螺合穴7a,7aが形成されている。この摺動部7,7に対応して合成樹脂材から成型された軸受ブッシュ9,9が設けられており、内部には摺動部7,7を摺動可能な摺動孔9a,9aが形成されるとともに、後部に係止爪9b,9bが設けられている。
【0016】
正面板3の後面の中央位置上部には、左右の長さ方向に向けて長孔3bが開口され、長孔3bの左右両端部に近接して、軸受ブッシュ9,9を取付可能なブッシュ取付孔3a,3aが前後方向に向けて貫通されている。長孔3b周りには3箇所の固定板取付ネジ穴3dが形成され、ブッシュ取付孔3a,3aの下方に離間された位置には軸ネジ螺合穴3e,3eが形成され、さらに左右方向に離間された位置にはケース取付用ネジ螺合穴3c,3cが形成されている。
【0017】
次いで、図2に示されるように、金属板金で成形された板状の第一の作動体10の形状は、左右に上向片11,11と、この上向き片11,11の下部を連結する水平片14とからなる正面視凹字状に成形され、上向片11,11の上部に延長部に相当する上部軸ボルト27,27を挿通可能なボルト貫通孔12,12が形成され、下部に軸部に相当する下部軸ネジ25を挿通可能なネジ貫通孔13,13が形成されている。第一の作動体10の下端部14aは前方に向けてL字状に折り曲げられている。ボルト貫通孔12,12の前面には弾性を有するウレタンやゴム等で成型された上部軸ボルト27,27が挿通する上部筒状弾性体28,28が配設され、同様にネジ貫通孔13,13の前面と正面板3の間には下部軸ネジ25が挿通する下部筒状弾性体26,26が配設されている。
【0018】
金属板金で成形された板状の第二の作動体15は、上面視で前方に向けてコ字状に折り曲げられた水平部17と、この水平部17左右両部に設けた側端部16,16とを備え、左右広幅に成形されている。水平部17の中央位置にはネジ杆63を螺合可能なネジ螺合穴17aが形成され、側端部16,16には上部軸ボルト27,27が挿通可能なボルト貫通孔16a,16aが形成されている。
【0019】
図2,3に示すように、金属板金で成形された板状の固定板20の左右位置に上方を向く凹溝21,21が形成され、さらにその左右両端位置に側端片22,22が形成されている。側端片22,22には上部軸ボルト27,27を挿通可能なボルト貫通孔22a,22aが形成されている。凹溝21,21近傍と中央下部にはネジ貫通孔20a,20a,20aが形成され、正面板3への取り付け時に使用される。固定板20の中央上部位置には嵌合孔20d(図3参照)が形成され、嵌合孔20dの周囲に上下左右4箇所にネジ穴20bが形成されている。
【0020】
ロック装置33は矩形の前面が開口する箱体34と開口を閉塞嵌合する閉塞板78とで覆われ、箱体34の上部から上方に向けて係合突体49が突設され、閉塞板78の略中央位置から前方に向けて環状突体82が突設されている。環状突体82にはネジ杆63を挿通可能なネジ杆摺動孔82aが形成されている。箱体34の四隅には取付孔34aが各々形成され、4本のネジ24が後方より取付孔34aを介して4箇所のネジ穴20bに螺合されることで、ロック装置33が箱体34内に収納されるとともに、嵌合孔20dに環状突体82が嵌合し前方に向けて突設される。
【0021】
次いで、固定板20の凹溝21,21に向けて第二の作動体15を嵌め込むことで、特に嵌合過程は図示しないが、固定板20の前方に水平部17、側端片22,22の後方に側端部16,16が配置される。そこで、側端片22,22と側端部16,16の間隙に第一の作動体10の上向片11,11を挿し入れるとともに、さらに、この上向片11,11と側端片22,22の間に上部筒状弾性体28,28を配置し、後方から前方に向けて左右一対のボルト貫通孔16a,16a、ボルト貫通孔12,12、上部筒状弾性体28,28、ボルト貫通孔22a,22aの順にそれぞれ重ね合わせたうえで、左右一対の上部軸ボルト27,27を挿通させ、把手5のボルト螺合穴7aに螺合させる。
【0022】
次いで、左右一対の下部軸ネジ25,25を第一の作動体10の各々対応するネジ貫通孔13に向けて挿通したのち、下部筒状弾性体26に挿通し軸ネジ螺合穴3eに螺合させる。そして、ネジ杆63を箱体34の後部に形成された挿通孔37から前方のネジ杆摺動孔82aに向けて挿通することで、固定板20の嵌合孔20dを介して第二の作動体15のネジ螺合穴17aに螺着する。
【0023】
さらに、図2に示されるように、3本の固定ネジ23を固定板20のそれぞれ対応する各ネジ貫通孔20aを介して3箇所の固定板取付ネジ穴3dに螺着して、固定板を20を正面板3の背面に固定する。このとき、前方に向けて突設する第二の作動体15の水平部17が、正面板3の長孔3bに対して前後に移動可能に支持される。正面板3の前面には軸受ブッシュ9,9が前方からブッシュ取付孔3a,3aに向けて挿し込み、係合爪9bを正面板3の背面に形設した係合孔に係止させて取り付けられ、この軸受ブッシュ9,9の摺動孔9a,9a内に把持5の摺動部7、7が摺動案内される。
【0024】
そして、図4および図5に示されるように、把手5の摺動部7,7を軸受ブッシュ9,9の摺動孔9a,9aに向けて摺動可能に挿嵌したのち、上部軸ボルト27,27がボルト螺合穴7a,7aに向けて螺合されると、第一の作動体10の上向片11,11の上部および第二の作動体15の側端部16,16と上部筒状弾性体28,28が正面板3から後方に向けて延在する上部軸ボルト27,27に保持されるとともに、正面板3から後方に向けて延在する下部軸ネジ25,25に、上向片11,11の下部となる水平片17の左右端部と下部筒状弾性体26,26が保持される。箱体34の固定板20への取り付け位置は、第一の作動体10の水平片14の上方かつ左右の上向片11,11の間に形成された空間にあり、正面板3の後方の空間が無駄なく利用され、ロック装置33の後方への大幅な突設が避けられ省スペース化が図られている。
【0025】
さらに、前方に開口する箱形のカバーケース31がケース取付ネジ32,32によって、ネジ貫通孔31b,31bを介してケース取付ネジ螺合穴3c,3cに螺合され取り付けられることで、固定板20,第一の作動体10,第二の作動体15,箱体34が外部から遮蔽および保護される。カバーケース31の上部中央位置には、係合突体49を上方に向けて挿通可能な開口31aが形成されており、カバーケース31の取り付け時に係合突体49との抵触が避けられる。
【0026】
図6(a)に示されるように、係止突体92を備えた取付板91は一対のネジ94,94を一対のネジ孔91a,91aに螺着することで枠体4の下面に固定されている。この係止突体92の後面は、ロック装置33から突設される係合突体49とロック時に係合され、引出し2の前方への移動が規制されている。
【0027】
図6(b)に示されるように、手掛け部6から把手5を前方に向けて操作すると、摺動部7が摺動孔9aに沿って案内され、上部軸ボルト27も同時に前方に向けて移動されるとともに、第二の作動体15の両側端部16が上部軸ボルト27のボルト頭27bによって前方に引き出されていくとともに、この両側端部16に同期して第一の作動体10の上向片11、11の上部も前方に引き出される。この引き出しにより、上部筒状弾性体28が、徐々に圧縮され弾性変形されるとともに、下部筒状弾性体26も弾性変形するが、下部筒状弾性体26はあまり弾性変形されずに、第一の作動体10は下部軸ネジ25側を中心として斜め前方に向けて傾動される。
【0028】
そして、第一の作動体10の傾動とともに、第二の作動体15が前方に向けて移動されることで、係合突体49が下方に移動し係止突体92との係合が解除され、引出し2を前方に引き出し可能な状態となる。把手5の前方への引出し操作を緩める若しくは手掛け部6から手を離間すると、上部筒状弾性体28および下部筒状弾性体26の付勢力により、第一の作動体10および第二の作動体15が後方に向けて作動され、係合突体49が元の係合可能な位置まで戻される。
【0029】
次に、ロック装置33の構造及び作動について説明するが、これに関しては、例えば、特許第2761201号「扉のロック装置」に示されるような公知のものであり、詳細についての説明は省略する。図7(a)に示されるように、閉塞板78で閉塞された箱体34のスライダ収容凹部35内には、上下方向に摺動可能なスライダ46が収容され、この上面に上方に向けて突設される係合突体49が形成されている。スライダ46の下部と箱体34との間にはスプリング56が介在されており、スプリング56の付勢力によってスライダ46が通常上方に向けて押し上げられており、この係合突体49は箱体34およびカバーケース31の上部に形成された案内口36および開口31aを介して突出して枠体4側の係止突体92に係合した状態に維持されている。
【0030】
スライダ46には前後に開口して連通された収容室47が形成され、収容室47内に側面視略三角形状のカム体60が設けられている。カム体60には左右方向を向く支軸61が延在されるとともに、左右方向を向く係合突起62が突設されている。支軸61は箱体34の後部内面に設けられた軸受体39に挿着支持されており、支軸61を軸心としてカム体60が回動自在になっている。収容室47の上下略中間位置には、前後方向に向けてスライド軸59が設けられており、スライド軸59の前方部が閉塞板78の環状突体82に形成されたネジ杆摺動孔82aに対して前後摺動可能に保持されている。
【0031】
スライド軸59の後部には係合凹部59aが形成され、係合凹部59a内にカム体60の係合突起62が係合されている。スライド軸59には、予め箱体34の後方の挿通孔37から挿通されたネジ杆63が前後方向に向けて挿通され、前方の先端部63aがスライド軸59の作動手段である第二の作動体15のネジ螺合穴63aに螺合され水平部17に固着されるとともに、後方の大径頭部63bによってスライド軸59のネジ杆63からの抜けが防止されている。
【0032】
そこで、図7(b)に示されるように、手掛け部6を把持しながら把手5が前方に向けて引き出すと、上部軸ボルト27を介して、スライド軸59の作動手段である第一の作動体10が前方に傾動し、第二の作動体15が前方に向けて引き出される[図6(b)参照]。これにより、長孔3bの前方に向けて移動する水平部17に合わせてスライド軸59も前方に向けて摺動し、係合凹部59aに係合される係合突起62が前方に移動される。そして、係合突起62の前方移動によって、徐々にカム体60が支軸61回りに回動移動、スプリング56の付勢力に抗してスライダ46が下方に押し下げられ、係合突体49がスライダ収納凹部35内に収納されるとともに、係止突体92からの係合が解除され、非ロック状態となって引出し2を前方に向けて引出し可能な状態となる。
【0033】
そこで、引出し2を枠体から引き出した状態で手掛け部6から手を離間すると、上部筒状弾性体28および下部筒状弾性体26の付勢力により、第一の作動体10および第二の作動体15が元の位置に復帰されるとともに、それに連動してスプリング56の付勢力によりスライダ46を上方に向けて押し戻すことから、係合突体49が係合可能な位置まで戻される。
【0034】
その後、手掛け部6を把持しながら把手5を後方に向けて押し込むと、係合突体49が係止突体92と当接し、更に押し込むことで係合突体49の傾斜面92aに沿って係合突体49の傾斜面49aが摺接しながら下動し、スプリング56を圧縮してスライダ46を押し下げる。係合突体49が係止突体92を通り抜けることにより、スプリング56の付勢力によってスライダ46が再度押し上げられ、係合突体49が係止突体92に係合されロック状態となって引出し不能となる。このとき、水平部17は長孔3bの内壁に沿って前後方向に向けて案内されることから、第二の作動体15の移動が安定して行われ、把手5の操作によって係合突体49が確実に作動され、係合突体49の係止突体92との係脱が円滑に行われる。
【0035】
このように、ロック装置33の作動機構であるラッチ作動機構は、主として正面板3の後方に配置した第一及び第二の作動体10,15を組み合わせたもので構成されているので、機構が長寸化、複雑化することがない。また、把手5によりスライド軸59を作動させる作動手段である第一および第二の作動体10,15を板状に形成することで、正面板3の後方の前後方向の厚みをより薄く構成できることから、両作動体10,15のために正面板3の後方に幅のある空間を設ける必要が無く、引出し2内に物品等を収納する際にも妨げになることがない。
【0036】
更に、把手5の左右に延びる手掛け部6の前方操作に対して、偏心した力が加わった場合でも、把手5の左右の後方延長部である上部軸ボルト27,27に連結した上向片11,11が水平片14で連結され、且つこの水平片14が正面板3の後面において左右が傾動自在に軸着されているので(図5参照)、左右の上向片11,11は同期的に前方に向けて動くことができ、その左右の上向片11,11に軸着された第二の作動体15も左右において同期的に動くようになり[図6(b)参照]、容易に係合部である係合突体49がスライド軸59を介して確実かつ円滑に作動される[図7(b)参照]。
【0037】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれ、例えば上記実施例では、正面板3の長孔3bに沿って第二の作動体15が案内されるので、係合突起49が確実に作動されることから好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、長孔3bを形成することなく、上部軸ボルト27および下部軸ネジ25を後方に延伸することで、第二の作動体15の前方への移動スペースを確保することできる。
【0038】
また、上記実施例では、第一の作動体10の四隅に上部および下部筒状弾性体28,26を設けたことで、把手5の非操作時に両弾性体28,26の付勢力により第一及び第二の作動体10が元の位置に円滑に戻る事から好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、両弾性体28,26を設けない構成でも良く、把手5を後方に向けて押し戻す弾性体を他の部分に設けるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例における棚板および引出しにラッチ装置が適用された筐体の全体像を示す斜視図である。
【図2】引出しの正面板の中央部を示す背面側から見た分解組立斜視図である。
【図3】第一および第二の作動体と固定板と係合部材の取り付けを示す正面側から見た分解組立斜視図である。
【図4】把手およびカバーケースの取り付けを示す背面側から見た分解組立図である。
【図5】引出しの正面板の中央部を示す一部破断平面図である。
【図6】(a)は、図5のA−A断面線を示す要部拡大側断面図であり、(b)は、図6(a)の把手の操作による第一および第二の作動体の作動状態を示す要部拡大側断面図である。
【図7】(a)は、図5のB−B断面線を示す要部拡大側断面図であり、(b)は、図7(a)の把手の操作によってラッチ装置のロックの解除を示す要部拡大側断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 家具等の筐体
2 引出し
3 正面板
3a ブッシュ取付孔
3b 長孔
3d 固定板取付ネジ穴
3e 軸ネジ螺合穴
4 枠体
5 把手
6 手掛け部
7 摺動部
7a ボルト螺合穴
9 軸受ブッシュ
9a 摺動孔
9b 係止爪
10 第一の作動体(スライド軸の作動手段の一部)
11 上向片
12 ボルト貫通孔
13 ネジ貫通孔
14 水平片
14a 下端部
15 第二の作動体(スライド軸の作動手段の一部)
16 左右の側端部
16a ボルト貫通孔
17 水平部
17a ネジ螺合穴
20 係合部材の固定板
20a ネジ貫通孔
20c ネジ杆挿通孔
20d 嵌合孔
21 左右の凹溝
22 左右の側端片
22a ボルト貫通孔
23 固定ネジ
25 下部軸ネジ(軸部)
26 下部筒状弾性体
27 上部軸ボルト(延長部)
27a 先端部
27b ボルト頭
28 上部筒状弾性体
30 ラッチ装置
33 ロック装置
49 係合突体(係合部)
59 スライド軸
63 ネジ杆
63a 先端部
63b 大径頭部
91 取付板
92 係止突体(被係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引出しの正面板の前面に設けたラッチ操作用の把手と、該把手の操作と連動して前後摺動するスライド軸と、該スライド軸と連動してスライド軸と直行する方向に摺動する係合部と該係合部と係脱する筐体側の被係合部とを備えたラッチ装置と、を有する引出しのラッチ作動機構において、
前記把手を、前記正面板の前方に突出する左右広幅の手掛け部と、該手掛け部の左右両側から後方に各々延設され、前記正面板に対して前後摺動可能とした一対の摺動部を備えるものとし、前記把手により前記スライド軸を作動させる作動手段を、正面視凹字状をなし、左右の上向片が、前記正面板の前面側から挿入された前記一対の摺動部から後方に延びる延長部に連結され、前記左右の上向片の下部同士を連結する水平片が、前記係合部よりも下方の位置に配置され、その左右において、前記正面板の後面から後方に突出した軸部に傾動自在に軸着された第一の作動体と、前記左右の上向片にそれぞれ連結した左右側端部と、該左右側端部と一体に構成した上面視コ字状の前記スライド軸と軸着した水平部からなる第二の作動体とで構成したことを特徴とする引出しのラッチ作動機構。
【請求項2】
前記上面視コ字状の水平部が、前記正面板の後面に開口された長孔の内壁に前後に移動可能に案内されている請求項1に記載の引出しのラッチ作動機構。
【請求項3】
前記第一の作動体の水平片の上方の空間に、前記係合部が収納された箱体を位置させた請求項1または2に記載の引出しのラッチ作動機構。
【請求項4】
前記両作動体を板状とした請求項1乃至3のいずれかに記載の引出しのラッチ作動機構。
【請求項5】
前記第一の作動体の傾動時に弾性変形可能な弾性体を前記軸部に設けた請求項1乃至4のいずれかに記載の引出しのラッチ作動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−218050(P2007−218050A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43044(P2006−43044)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】