説明

引出し

【課題】家具本体に対する係合機能に優れた引出し用ラッチ装置を提供する。
【解決手段】ラッチ爪11は、引出し2を構成するベース8に設けたホルダー部26に左右スライド可能で水平回動可能に取り付けられており、ばねで前進方向に付勢されている。引手を引いていない状態では、ラッチ爪11は第2連動部材13によって水平回動不能に保持されており、左右スライドのみ可能である。引出し2の押し込み時には、ラッチ爪11は左右方向にスライドすることで本体1の係合穴33に嵌まり係合する。引手を引くと第2連動部材13による規制が解除され、ラッチ爪11は係合穴33から逃げ回動する。引手を引いていない状態ではラッチ爪11は左右スライドしない限り係合穴33から離脱せず、係合解除方向が引出し2の前進方向と直交しているため、係合状態維持機能が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ラッチ装置を備えた引出しに関するものである。
【背景技術】
【0002】
引出しのラッチ装置は、基本構成として、人が操作する引手と、家具本体の内側部に設けた係合部に蹴り込み係合するラッチ爪と、引手の動きによってラッチ爪をフリー状態にする連動部材とを有しており、各部材に関して様々な提案がなされている。
【0003】
引手は回動式になっていることが普通であり、引出し本体の前板(鏡板)に空けた引手穴に設けていることが多いが、特許文献1には、前板の左右側部の裏側に上下長手の引手を配置することが開示されている。
【0004】
他方、ラッチ爪は水平回動のみで家具本体の係合部に係脱させているのが普通であり(特許文献2,3も参照)、引手を引くとラッチ爪がフリー姿勢に移行することで本体に対する係合が解除され、そのまま引手を引くと引出しは手前に引き出される。また、ラッチ爪の先端部にはいわゆる蹴り込み係合を可能にするための傾斜ガイド面が形成されており、引出しの押し込み時には、ラッチ爪はばねに抗していったん逃げ回動して、引出しを押し込み切るのと同時にばねで戻り回動して家具本体の係合部に係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291573号公報
【特許文献2】実開昭63−173476号公報
【特許文献3】特開平11−336405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来のラッチ爪は引き出し時にも押し込み時にもラッチ爪はばねに抗して水平回動する。しかし、引出しを強く押し込むと、ラッチ爪が振れ動きにより(ばねの踊り現象により)、ラッチ爪が係合解除姿勢に戻って、引出しがワゴン本体に衝突してから戻り動(前進動)してしまうことがあった。
【0007】
また、引出しに錠を設けることがあり、その場合、何らかの理由により、施錠した状態で引手を強引に引いて引出しを強引に引き出そうとすることがある。また、何らかの振動等により、ラッチ爪は係合部に係合させた状態で引出しを前進させようとする外力が作用することもある。そして、このような場合、ラッチ爪が水平回動のみで係合部に係脱する方式であると、ラッチ爪は引出しの引っ張りによってラッチ爪は係合部から逃げ回動しようとする傾向を呈するため、ラッチ爪の磨耗が促進されて係合部から離脱しやすくなることが懸念される。
【0008】
また、引手の引き操作でラッチ爪の回動と引出しの前進動とが行われるため、係合爪を係合部に当たった状態のままで回動させることもあり、このため、ラッチ爪の係合面が係合部に擦られても徐々に磨耗し、使用しているうちにラッチ爪と係合部との引っ掛かり(噛み合い)が徐々に甘くなってしまうことも懸念される。
【0009】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、家具本体に前後動自在に装架された引出し本体と、前記引出し本体を前記家具本体に収納した状態に保持するラッチ装置とを有しており、前記ラッチ装置は、前記家具本体に設けた係合部に係脱するラッチ爪と、人が操作する引手と、前記引手の動きに連動して前記ラッチ爪を係合部から離脱可能な状態に移行させる連動手段とを有する引出しにおいて、前記ラッチ爪は、左右方向にスライドすることで前記係合部に係合するように支持部に取り付けられている。
【0011】
本願発明は、請求項2の構成も含んでいる。この請求項2の発明は、請求項1において、前記連動手段は、前記引手で動かされる第1連動部材と、前記第1連動部材で動かされると共に前記ラッチ爪の動きを規制する第2連動部材とを有しており、前記第2連動部材は、前記引手を引くと、前記第2連動部材は、ラッチ爪が係合部から離脱するように逃げ回動することを許容する係合解除状態に姿勢変更する一方、前記ラッチ爪は、前記係合部に係合する状態にばねで付勢されており、前記第2連動部材が係合解除状態に姿勢変更すると、前記第2連動部材とは絶縁された状態で前記係合部から離脱するように逃げ回動し得るようになっている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、ラッチ爪は水平回動によって係合部に係合するのではなく、水平スライドによって係合部に係合するものであるため、ラッチ爪が係合部に係合して引手を引いていない状態では、引出しを引くことによる外力は、ラッチ爪に対して、係合部への係合方向と直交した方向に作用する。
【0013】
すなわち、引手を引いていない状態では、ラッチ爪は左右方向に逃げスライドさせない限り係合部から離脱しないが、このラッチ爪の逃げスライド方向と引出しの引き操作による外力の作用方向とが直交しているため、ラッチ爪には曲げ力が作用するに過ぎず磨耗は生じないのであり、その結果、何らかの理由で引出しにこれを前進させようとする外力が作用しても、ラッチ爪が係合部から離脱することはなく、また、仮に繰り返しの使用によってラッチ爪の係合面が磨耗しても、係合部との引っ掛かり(噛み合い)が甘くなるようなことはない。従って、耐久性・信頼性を向上できるのである。
【0014】
ラッチ爪は左右スライドのみする構成にすることも可能であり、この場合は、引手を引くとラッチ爪が後退して係合部から離脱するように、ラッチ爪と連動手段とを関連させたらよい。
【0015】
他方、請求項2のように構成すると、引手の引き操作によって第2連動部材とラッチ爪とが絶縁されてラッチ爪は係合部から離脱するように逃げ回動する状態になるため、引出しを引くと、ラッチ爪は、爪部の先端を家具本体の内側面に当接させた状態を保持しつつばねに抗して水平回動し、そして家具本体から離脱する。そして、請求項2の発明ではラッチ爪を付勢するばねのばね力が引手に対する抵抗としては作用しないため、引手の引き操作を軽快に行える利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本願発明を適用したワゴンの斜視図、(B)は(A)をB−B視方向から見た概略平断面図である。こ
【図2】図1(A)をII-II 視方向から見た概略断面図である。
【図3】(A)は引出しの前部を左方向から見た斜視図、(B)は引出しの前部を右方向から見た斜視図である。
【図4】引出しの分離斜視図である。
【図5】引出しの分離斜視図である。
【図6】引出しの分離斜視図である。
【図7】(A)は前板とベースと裏板との分離斜視図、(B)は裏板の部分的な斜視図である。
【図8】引出しの前部の左右中央部における縦断側面図である。
【図9】(A)は要部の分離斜視図、(B)はベースの一部の斜視図、(C)はアッパー引手の一部破断斜視図である。
【図10】(A)は一部の部材を省略した要部の斜視図、(B)は一部部材の分離背面図である。
【図11】主として第1連動部材を示す図で、(A)はベースに組み込んだ状態での斜視図、(B)は単体の斜視図,、(C)はベースとの関係を示す側面図である。
【図12】ラッチ爪の取り付け構造を示す図で、(A)は分離斜視図、(B)(C)は組み込んだ状態での斜視図である。
【図13】(A)はラッチ爪の部位の平断面図、(B)は主としてラッチ爪と第2連動部材との関係を示す平面図である。
【図14】フリー状態での要部斜視図である。
【図15】引出しを前進させている途中の分離平面図である。
【図16】押し込みに際してのラッチ爪の動きを示すための平断面図である。
【図17】上部引手と第1連動部材との関係を示す斜視図である。
【図18】作用を説明するための対比模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、家具の一例としてのワゴンの引出しに適用している。以下の説明で方向を特定するため「前後」「左右」の文言を使用するが、これは、図1(A)に表示するように、ワゴンを正面から見た状態を基準にしている。
【0018】
(1).引出しの概略
本実施形態のワゴンは例えば机の内部に配置できるものであり、前向きに開口したワゴン本体1とその内部に前後動自在に装架した3段の引出し2とを有する。3段の引出し2のうち上段のものは最も高さ寸法が小さく、下段のものは高さ寸法が最も大きく、中段のものは両者の中間の高さ寸法になっている。各引出し2はサスペンションレール装置(図示せず)により、ワゴン本体2を構成する内側板に前後動自在に支持されている。敢えて述べるまでもないが、ワゴン及び引出しは正面視で四角形になっている。まず、主として図1〜図8に基づいて引出し2の概略を説明する。
【0019】
図3,4に示すように、引出し2は、底板と左右側板と背面板(図示せず)とを有する収納箱3と、その前端に設けた前板(鏡板)4及び裏板5とを主要部材として有しており、これら三者で引出し本体が構成されている。収納箱本体3における側板の外面にはレール部材7を取り付けている。収納箱3と前板4はスチール製であるが、裏板5は樹脂の成形品を採用している。勿論、裏板4をスチール製としたり前板4を樹脂製とすることも可能である。
【0020】
例えば図4や図7に示すように、前板4は底板(基板)の四周に壁板4a,4b,4cを設けた後ろ向きに開口の浅い箱状に形成されている一方、裏板5も四周に壁板5a,5b,5cを有する前向き開口の浅い箱状に形成されており、両者は離脱不能に嵌合している。そして、前板4と裏板5との間は中空部になっており、この中空部に正面視四角形のベース8を配置している。
【0021】
ベース8は四周に壁8a,8b,8cを有する浅いトレー状に形成されており、前向きに開口した状態で裏板5の内部に配置されている。そして、図6に示すように、ベース8に、前板4の左右側部箇所から指を当てて引き操作できる左右のサイド引手9と、前板4の上部箇所から指を当てて引き操作できるアッパー引手10と、ワゴン本体1に係合するラッチ爪11と、いずれかの引手9,10の引き操作によってラッチ爪11をフリー状態にする第1連動部材12及び第2連動部材13を取り付けている。これら引手9,10、ラッチ爪11,連動部材12,13を構成要素としてラッチ装置が構成されている。ラッチ爪11はベース8の左側部に取り付けている。両連動部材12,13で連動手段が構成されている。
【0022】
第2連動部材13は、ラッチ爪11をワゴン本体1に係合した状態に保持するストッパーとして機能しており、第1連動部材12の動きで第2連動部材13のストッパー機能が解除される。従って、第2連動部材13をストッパー又は規制体と呼び、第1連動部材12を中継部材(或いは連動部材)と呼ぶことも可能である。
【0023】
(2).引出し本体
次に、各部位を詳述する。まず、引出し本体を説明する。例えば図4から容易に理解できるように、裏板5の左右側壁5bは内側にずれた段落ち部5b′を有しており、この段落ち部5bの箇所に収納箱3の前部が後ろから嵌まっている。収納箱3は裏板5に対して離脱不能に保持されている。従って、裏板5は、収納箱3の左右外側に露出した張り出し部5dを有している。
【0024】
また、図8に明示するように、裏板5の上壁5aの前端には上向きの起立片5eを設けている一方、前板4の上部は上壁4aに垂下片4dを設けることで中空状に構成されており、その内部に裏板5の起立片5eをきっちり嵌め込んでいる。裏板5の下壁5cは、前板4の裏面に当接している。裏板5の上壁5aには、アッパー引手10の取り付けを許容するための逃がし穴14が開口している。逃がし穴14は中心線を挟んだ左右両側に配置されており、左右横長の角穴になっている。
【0025】
例えば図4に示すように、裏板5は収納箱3の左右外側に突出した張り出し部5dを有しており、張り出し部5dの外端に連続した側壁5bに、サイド引手9の取り付けと動きを許容するため、前向き開口の切り開き部15を形成している。切り開き部15は上下に長い形態になっている。
【0026】
図4に示すように、裏板5のうち右側の張り出し部5dと段落ち部5b′とに穴16を設け、この穴に、収納箱3を位置決めする部材17を装着している。他方、図7に示すように、裏板5の左側部には、張り出し部5dと段落ち部5b′とに連通した逃がし穴18が形成されており、この逃がし穴18からラッチ爪11を露出させている。
【0027】
図4及び図7に示すように、ベース8の上端と下端との左右両端寄り部位には、側面視鉤形の係合爪19を突設している一方、裏板5の上下壁5a,5cには、係合爪19が嵌まり込む係合穴20を設けている。従って、ベース8を裏板5の内部にある程度の力で押し込むと、それらベース8と裏板5との撓み変形により、係合爪19が係合穴20に嵌まり込む。従って、ベース8は裏板5にワンタッチ的に取り付けられる。
【0028】
図1に示すように、上段の引出しの上端部には錠21を設けており、鍵穴が前板4から手前に露出している。錠21は従来と同じ構成であり、キーを回転させると、デッドボルトがワゴン本体1のカマチに設けた係合穴に係合する。
【0029】
(2).ラッチ装置
次に、従前の図に加えて図9以下の図面も参照してラッチ装置を説明する。まず、主として図9,12に基づいてラッチ爪11を説明する。図12(A)に明示するように、ラッチ爪11は、ベース8の左側壁8bを横切るような姿勢で左右方向に延びる基部23と、基部23のうち左外端部から後ろ向きに突出した平面視L形の爪部24と、基部23のうち右内端部から後ろ向きに突出したストッパー部25とを有しており、従って、ラッチ爪11は平面視後ろ向き開口のコの字形の形態を呈しており、ベース8の左側壁8bを跨ぐような状態で配置されている。
【0030】
例えば図13に示すように、サイド引手9の基板9bに、ラッチ爪11の基部23が入り込む逃がし穴9fを形成している。爪部24の係合面(前面)24aは左右方向に延びる姿勢になっている。他方、係合面23aの後ろの面は、基部23の側に近づくに従って後ろにずれる傾斜ガイド面24bになっている。また、ストッパー部25は、平面視でくの字形になっている。
【0031】
ラッチ爪11は、ベース8の左側部に一体に設けたホルダー部26に取り付けられている。ホルダー部26は請求項に記載した支持部の一例であり、ラッチ爪11の上下と内側から囲うように背面視で横向きU字形になっており、ラッチ爪11は、ホルダー部26のうちベース8の外側に突出した部位に、上下長手のピン27で連結されている。ホルダー部26のピン穴は左右長手の長穴28になっており、従って、ラッチ爪11は姿勢を変えずに左右スライドし得ると共に、ピン27を中心にして水平回動し得る。
【0032】
ラッチ爪11における爪部24には、正面視コの字形の抱持部材29が内側から嵌まっており、抱持部材29とベース8の左側壁8bとの間にばね(圧縮コイルばね)30を配置している。従って、ラッチ爪11はばね30によって左外側に付勢されている。抱持部材29は摩擦係数が小さくて耐久性が高い樹脂(例えばPOM樹脂やナイロン樹脂)からなっており、従って、スライダーと呼ぶことも可能である。また、抱持部材29とベース8の左側壁8bとには、ばね30をずれ不能に保持するばね受け突起を設けている。
【0033】
図13に示すように、ワゴン本体1の側面部は側板31に凸形の補強枠32を固着して中空状になっており、補強枠32に、引出し2を押し込み切った状態でラッチ爪11の爪部24が係合する係合部の一例として、爪部24の先端部が入り込む係合穴33を設けている。そして、ラッチ爪11は、爪部24の先端が係合穴33に嵌まって係合姿勢において、ストッパー部25がベース8の底面に当接又は近接するように設定している。従って、ラッチ爪11は、図13の状態で時計回り方向(爪部24を係合穴33から離脱させる方向で、係合解除方向)には回動し得るが、反時計回り方向には回動できない。なお、係合部としては、内側に突出した係合突起を採用することも可能である。
【0034】
例えば図9に示すように、ベース8の底面のうちホルダー部26の右側にボス状の支軸36を一体に設け、この支軸36に第2連動部材13が回動自在に取り付けられている。すなわち、第2連動部材13は、支軸36に嵌まる筒部13aと、ラッチ爪11における基部23の後ろに延びる略水平姿勢のストッパー部13bと、ストッパー部36bと反対側に延びる受動部13cとを有しており、前後方向に延びる軸心回りに回動し得る。
【0035】
そして、ストッパー部13bがラッチ爪11の基部の後ろに位置した姿勢のときには、ラッチ爪11は水平回動不能な係合維持状態に保持されている一方、第2連動部材13がストッパー部13bを下向き動させた係合解除状態(フリー姿勢)になると、ラッチ爪11も、係合穴33から離脱するように水平回動可能な係合解除状態(フリー状態)になる。
【0036】
例えば図11に示すうに、第1連動部材12は板金加工品であって左右方向に長く延びており、図8に示すように、略垂直姿勢の基部12aと、基部12aから上向きに立ち上がった受動部12bと、基部12aの下端から前向きに突出した駆動部12cとを有する。受動部12bは単なる平板状態である一方、駆動部12cはコの字形の中空構造になっており、駆動部12cの左端部に第2連動部材13の受動部13cが嵌まっている。そして、図11(B)に明示するように、基部12bの左右両端部を細幅することで支軸部12dと成し、左右の支軸部12dを、ベース8に突設した第1軸受け37に嵌め入れている。
【0037】
なお、既述のとおり、第2連動部材13の筒部13aはベース8に設けた支軸36に嵌まっているが、第1連動部材12の駆動部12cが第2連動部材13の受動部13cに嵌まっているため、第2連動部材13は前向き抜け不能に保持されている。従って、第2連動部材13は、ビスのような抜け止め手段は不要である。
【0038】
第1軸受け37は、円形の軸受け穴を有すると共に第1連動部材12の板厚より僅かに大きい幅寸法の前向き開口溝37aを有しており、図11(C)に示すように、駆動部12cをベース8の底面に向けた姿勢で支軸部11dを第1軸受け37に嵌め込み、次いで、基部12aが鉛直姿勢になるように回動させると、支軸部12dは第1軸受け37で回動可能及び抜け不能に保持される。支軸部12dは細幅になっているので、第1連動部材12は左右の第1軸受け37によって左右動ずれ不能に保持されている。
【0039】
例えば図9(A)に示すように、アッパー引手10は指掛け部10aと、指掛け部10aから下向きに突出した左右一対の足部10bとを有しており、左右の足部10bの上下中途高さ部位が、ベース8に設けた左右一対ずつの第2軸受け38,39に回動自在に連結している。そして、足部10bの下端は、第1連動部材12の受動部12bに手前から突設又は近接している。
【0040】
アッパー引手10の足部10bの中途高さ部には断面角形の中空部40が形成されており、中空部40に、フランジ付きの支軸41を嵌め込んでいる。支軸41は中空部40の外側に突出した回転軸を有しており、回転軸が内外の第2軸受け38,39に嵌まっている。この場合、支軸41の先端は半球状の形態を成している一方、内側の第2軸受け38は上向きに開口して開口部がくびれた軸受け穴を有しており、外側の第2軸受け39は切り開かれていない円形の軸受け穴を有している。
【0041】
アッパー引手10の左右足部に設けた支軸41は、上からの押し込みによって第2軸受け38,39に嵌め込み装着され、これにより、アッパー引手10は左右方向に長い支軸41の軸心回りに前後回動自在である。この場合、内側の第2軸受け38を上向きに開口させることにより、位置決め(誘い込み)を容易ならしめている。また、図10(B)に明示するように、外側の第2軸受け39の上端を背面視で内側に向いて下がった傾斜面39aにすると共に、支軸41の先端を半球形状とすることにより、支軸41の嵌め込みを確実化している(第2軸受け39がいったん撓み変形して戻ることにより、支軸41が嵌まる。)。支軸41は、摩擦係数が小さくて耐久性に優れた樹脂で製造されている。
【0042】
図8に明瞭に示すように、アッパー引手10の指掛け部10aは、前板4における上壁4aの垂下片4dの裏側に位置している(すなわち、前板4の上部の裏側に位置している。)。従って、図2に示すように、上下に隣り合った引出し2の前板4の間には、人が指先を挿入できる程度の間隔の空間が空いている。また、図8に示すように、アッパー引手10の指掛け部10aには、裏板5の上壁5aに当たって回動角度を規制するストッパー10cを設けている。
【0043】
例えば図9(A)に示すように、サイド引手9は、上下長手の指掛け部9aと、この指掛け部9aから左右内向きに延びる基板9bとを有しており、基板9bの左右中途部がベース8に設けた上下一対の第3軸受け43に回動自在に取り付けられていると共に、図12(A)に示すように、基板9bのうち端部は第1連動部材12の受動部12bに手前から当接又は近接している。従って、サイド引手9の指掛け部9aに指先を掛けて引くと、基板9bの内端部で第1連動部材12の受動部12bが後ろに押され、これによって第1連動部材12が支持部12dの軸心回りに回動(回転)し、すると、既述のとおり、第2連動部材13はストッパー部13bを下向き動させたフリー姿勢に移行する。
【0044】
図9に示すように、サイド引手9における基板9bの左右中途部には、アッパー引手10と同様に中空部44を介して上下一対の支軸45を取り付けており、支軸45をベース8に設けた上下一対の第3軸受け46に嵌め込んでいる。第3軸受け46は円形の穴が空いた態様であり、例えば図12(C)に明瞭に示すように、第3軸受け46における相対向した面の先端部は傾斜面46aになっている。このため、支軸45の嵌め込みをスムースに行える。
【0045】
図13に明示するように、サイド引手9の指掛け部9aには、裏板5の側壁5bに当たる後ろ向き突出部9cを設けている。このため、人は柔らかい感触を得ることができる。また、サイド引手9の基板9bの付け根には、裏板5の側壁5bの内面に当たるストッパー片9dを設けている。このため、サイド引手9は逆転不能に保持されている。
【0046】
図8から理解できるように、第1連動部材12のうち重量が大きい駆動部12cは回動軸心Oから手前にずれるように配置されており、かつ、受動部12bも回動軸心Oの手前側にずれている。このため、第1連動部材12は、自重により、駆動部12cを下向き回動させるように付勢されており、かつ、自重による回動は、引手9,10によって規制されている。従って、引手9,10による第1連動部材12の回動操作は、当該第1連動部材12の自重に抗して行われ、人が引手9,10から指を離すと、第1連動部材12及び各引手9,10は原姿勢(係合状態保持姿勢)に戻る。従って、引手9,10や連動部材12,13を元の姿勢に戻すためのばねは不要であるが、図14に一点鎖線で示すように、第2連動部材13の筒部13aにトーションコイルばね47を嵌め込むといったことも可能である。
【0047】
(3).動作・まとめ
引出し2をワゴン本体1に押し込んで各引手9,10を引いていない状態では、既述のように、第2連動部材13は係合維持状態にあって、そのストッパー部13bがラッチ爪11の基部23の後ろに位置しているため、ラッチ爪11は回動不能に保持されている。他方、人がいずれかの引手9,10の指掛け部9a,10aに指を掛けて手前に引くと、引手9,10の動きによって第1連動部材12と第2連動部材13とがフリー姿勢に回動し、すると、ラッチ爪11はその爪部24をワゴン本体1の係合穴33から離脱可能なフリー状態になり、従って、図15に示すように、ラッチ爪11は逃げ回動して引出し2の前進動が許容される。
【0048】
つまり、引手9,10を引くとラッチ爪11がフリー姿勢に回動するのではなく、ラッチ爪11は第2連動部材13による規制が解除されて逃げ回動可能なフリー状態に移行するのであり、従って、ラッチ爪11は、その爪部24の先端をワゴン本体1の内側面に当てた状態で水平回動しながら前進動し、ワゴン本体1から外れるのと同時にばね30で元の姿勢に戻る。
【0049】
引出しを押し込むと、図16に示すように、ラッチ爪11における爪部24の傾斜面24bがワゴン本体1の前端面に当たる。すると、ラッチ爪11は長穴28に沿って後退動する。すなわち、平面視の姿勢は変えずに内向きスライドする。そして、引出し2を押し込み切ると、ラッチ爪11はばね30によって外向きに前進動して爪部24の先端部が係合穴30に嵌まる。引手9,10を引いていない状態では、ラッチ爪11は回動不能に保持されており、左右スライドしない限り係合穴33に係脱しない。
【0050】
さて、図18(A)は回動式のラッチ爪50を表示した模式図であり、引出し2を突き飛ばすようにして強く押し込むと、引出しがワゴン本体1に衝突した弾みでラッチ爪50が振れ動いて、引出し2が戻り動することがある。つまり、引出し2の押し込みによってラッチ爪50の爪部50aはばね30によってワゴン1の係合穴33に係合するのであるが、ラッチ爪50は左右方向の振動を受けると水平回動して大きな慣性力を生じる状態になっているため、衝撃に伴って引出し2が左右に振動することにより、ラッチ爪50が係合穴33に嵌まり込んでから衝突・反発によって戻り回動する現象が発生し、このラッチ爪50の戻り回動と引出し2の衝突に伴う反動による前進動とが同期することにより、引出し2が前進動してしまうのである。
【0051】
他方、図18(B)に模式的に示す本実施形態では、引出し2を押し込み切って引手9,10を引いていない状態では、ラッチ爪11は左右方向にスライドして後退しない限り係合穴33から離脱しないが、押し込みに伴う衝撃で引出し2が左右方向に振動しても、ラッチ爪50には左右方向に振れ動くような大きな慣性力は生じず、係合穴33に係合した状態が保持される。従って、引出し2を突き飛ばすように強く押し込んだときに弾みで引出し2が前進してしまう現象を、防止又は著しく抑制できる。
【0052】
また、施錠した状態で引手を強引に引いたり、ワゴンに前後方向の振動が作用したりして、ラッチ爪が係合穴33に係合した状態で、引出し2にこれを前進させようとする外力が作用することがある。この場合、ラッチ爪50が水平回動のみで係合穴33に係脱する方式であると、ラッチ爪50は引出し2の引っ張りによって係合穴33から逃げ回動しようとする傾向を呈し、このため、引出し2に無理に前進させようとする外力が繰り返し作用すると、ラッチ爪50が徐々に磨耗して、ラッチ爪50が係合穴33から外れやすくなることがある。
【0053】
これに対して本実施形態では、引手9,10を引いていない状態では、ラッチ爪11は左右スライドさせて後退動させない限り係合穴33から離脱することはなく、引出し2を前進させようとする力はラッチ爪11に対して曲げ力として作用するに過ぎないため、ラッチ爪11が磨耗することはない。このため、ラッチ爪11が磨耗して係合穴33から外れるといった不具合を防止又は著しく抑制できる。
【0054】
また、従来は引手を引くワンアクションでラッチ爪50の回動と引出し2の前進動とが行われるため、ラッチ50はその係合面50bを係合穴33の前面に当てたままで回動することがあり、このため係合面50bが徐々に磨耗して係合穴33との引っ掛かり(噛み合い)で甘くなってしまう虞があるが、本実施形態では、引手9,10を引いていない状態では、ラッチ爪11はスライドして後退しない限り係合穴33から離脱することはないため、使用しているうちにラッチ爪11の係合面24aに磨耗が発生しても、爪部24と係合穴33とがしっかり嵌まり合った(噛み合った)状態が維持される。
【0055】
(4).その他
本実施形態は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、適用対象はワゴンには限らず、キャビネットや机など各種の家具の引出しに適用できる。引手や連動手段(連動部材)、ラッチ爪の形状は様々に具体化できる。例えば、前板に引手穴に空けて、この引手穴の部位に引手を配置したものにも適用できる。ラッチ爪の蹴り係合を可能にするためのガイド手段は、家具本体のみに設けてもよいし、ラッチ爪の家具本体との両方に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明は実際に机に具体化できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 ワゴン本体(家具本体)
2 引出し
9 サイド引手
10 アッパー引手
11 ラッチ爪
12 連動手段を構成する第1連動部材
13 連動手段を構成する第2連動部材(ストッパー)
23 ラッチ爪の基部
24 ラッチ爪の爪部
24a 係合面
24b 傾斜ガイド面
25 ラッチ爪のストッパー部
26 支持部の一例としてのホルダー部
30 ばね
32 ワゴン本体の内側面を構成する補強板
33 係合部の一例としての係合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家具本体に前後動自在に装架された引出し本体と、前記引出し本体を前記家具本体に収納した状態に保持するラッチ装置とを有しており、前記ラッチ装置は、前記家具本体に設けた係合部に係脱するラッチ爪と、人が操作する引手と、前記引手の動きに連動して前記ラッチ爪を係合部から離脱可能な状態に移行させる連動手段とを有する構成であって、
前記ラッチ爪は、左右方向にスライドすることで前記係合部に係合するように支持部に取り付けられている、
引出し。
【請求項2】
前記連動手段は、前記引手で動かされる第1連動部材と、前記第1連動部材で動かされると共に前記ラッチ爪の動きを規制する第2連動部材とを有しており、前記第2連動部材は、前記引手を引くと、前記連動部材は、ラッチ爪が係合部から離脱するように逃げ回動することを許容する係合解除状態に姿勢変更する一方、
前記ラッチ爪は、前記係合部に係合する状態にばねで付勢されており、前記第2連動部材が係合解除状態に姿勢変更すると、前記第2連動部材とは絶縁された状態で前記係合部から離脱するように逃げ回動し得る、
請求項1に記載した引出し。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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