説明

引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】加工性に優れた引張強度440MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】組織として、面積率が60%以上のフェライト相と、面積率が20〜30%のパーライト相と、面積率が1〜5%のベイナイト相を有し、前記フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%以下である。製造するにあたっては、連続溶融亜鉛めっき処理では、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品等の用途に好適な引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の観点からCO2などの排気ガスを低減化する試みが進められている。自動車産業では車体を軽量化して燃費を向上させることにより、排気ガス量を低下させる対策が図られている。
車体軽量化の手法のひとつとして、自動車に使用されている鋼板を高強度化することで板厚を薄肉化する手法が挙げられる。また、フロア周りに使用される鋼板には高強度化による薄肉化とともに防錆性が求められており、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の適用が検討されている。鋼板の高強度化とともに延性が低下することが知られており、高強度と延性が両立する鋼板が求められている。また、フロア周りの部品は複雑な形状に成形加工されることが多く、延性とともに伸びフランジ性が求められている。高強度鋼板の強度レベルは、引張強度で590MPa級以上の開発が進められているが、実際にフロア周りの構造用鋼板として用いられている鋼板の強度レベルは440MPa級が主流であり、該強度レベルにおいて延性および伸びフランジ性の優れた鋼板が求められている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、低降伏比で強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性の優れた高強度溶融亜鉛メツキ鋼板の製造方法として、連続溶融亜鉛メツキラインにおいて、均熱加熱後の急冷帯で所定の速度で冷却し、所定の温度域で保持することによって、ベイナイト変態を生ぜしめ、溶融亜鉛メツキ、合金化処理後に急冷することによりマルテンサイト変態を生じせしめ、鋼板組織をフェライト+ベイナイト+マルテンサイト3相複合組織とする方法が開示されている。しかし、鋼板組織にマルテンサイトを導入しているため、強度レベルは490MPa級を超えており、440MPa級の強度と延性のバランスおよび伸びフランジ性については何ら考慮されていない。
【0004】
特許文献2には、加工性に優れた高強度鋼板の製造方法として、焼鈍均熱後、650℃から溶融亜鉛浴に入るまであるいは450℃までの平均冷却速度を規定し、溶融亜鉛めっきをする前もしくは溶融亜鉛めっきをした後に300〜450℃の間の温度域で所定の時間保持することで鋼板組織に残留オーステナイトを生成せしめ、強度と延性のバランスに優れた高強度鋼板を製造する方法が開示されている。しかしながら、残留オーステナイトの変態誘起塑性を活用したTRIP鋼であるため延性には優れるものの、伸びフランジ性が劣るという問題がある。
【0005】
さらに、引張強度が440〜1500MPa級で先端60°の円錐ポンチにて穴周囲に割れが生じるまでこの穴を拡げる穴広げ試験により評価した曲げ加工性(λ値(λ:穴拡げ率))に優れる高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法として、特許文献3では成分組成を適正範囲に調整し、亜鉛めっき工程の後に再加熱工程を設け、更に、再結晶焼鈍工程の後で且つ再加熱工程の前に、所定の冷却速度で冷却することで鋼板組織を焼戻しマルテンサイトとする方法が開示されている。しかし、引張強度は600MPa以上であり、440MPa級の穴拡げ試験による評価結果については何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第1922459号公報
【特許文献2】特開平4-26744号公報
【特許文献3】特開平6-108152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、加工性に優れた引張強度440MPa以上の高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋼板組成および金属組織の観点から鋭意検討を進めた。その結果、成分組成を適正範囲に調整し、金属組織を適切に制御することが極めて重要であることを見出した。そして、面積率が60%以上のフェライト相と、面積率が20〜30%のパーライト相と、面積率が1〜5%のベイナイト相を有し、前記フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%以下である金属組織とすることで引張強度が440MPa以上で、加工性(延性および伸びフランジ性)を両立できることを見出した。
【0009】
また、一般に高延性を得るための金属組織としては、フェライト相とマルテンサイト相の2相複合組織が好ましいことが知られている。しかし、この2相複合組織は、フェライト相とマルテンサイト相の硬度差が大きいために高い伸びフランジ性(穴拡げ性)が得られない。
上記に対して、本発明者らは、上述したように鋼板組成および金属組織を規定することにより、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相を有する複合組織において、引張強度が440MPa以上で延性と伸びフランジ性の両立を可能とした。すなわち、金属組織としてフェライト相を主相として延性を確保し、第2相としてベイナイト相、パーライト相を導入することで強度を確保し、フェライト相、ベイナイト相およびパーライト相の面積率、フェライト相の粒内のセメンタイト相の面積率を適切に制御することで高い伸びフランジ性を確保しつつ、高い延性を得ることを可能とした。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]成分組成として、質量%で、C:0.100〜0.200%、Si:0.50%以下、Mn:0.60%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.010〜0.100%、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、組織として、面積率が60%以上のフェライト相と、面積率が20〜30%のパーライト相と、面積率が1〜5%のベイナイト相を有し、前記フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%以下であることを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]成分組成として、質量%で、さらに、Cr:0.05〜0.80%、V:0.005〜0.100%、Mo:0.005〜0.500%、Cu:0.01〜0.10%、Ni:0.01〜0.10%、B:0.0003〜0.2000%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする前記[1]に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[3]成分組成として、質量%で、さらに、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする前記[1]または[2]に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[4]亜鉛めっきが合金化亜鉛めっきであることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を用いて、Ar3点以上の温度で仕上圧延を行ない、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、連続溶融亜鉛めっき処理を行うにあたり、前記連続溶融亜鉛めっき処理では、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を用いて、Ar3点以上の温度で仕上圧延を行ない、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、冷間圧延したのち、連続溶融亜鉛めっき処理を行うにあたり、前記連続溶融亜鉛めっき処理では、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[7]前記溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を施すことを特徴とする前記[5]または[6]に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0011】
なお、本発明において、高強度とは、引張強度TSが440MPa以上である。本発明では、特に、引張強度が440〜490MPaで加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。また、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、亜鉛めっきの下地鋼板として冷延鋼板、熱延鋼板のいずれも含むものであり、溶融亜鉛めっき処理後合金化処理を施さないめっき鋼板(以下、GIと称することもある)、合金化処理を施すめっき鋼板(以下、GAと称することもある)のいずれも含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。また、本発明では、Mn等の合金成分を削減し、合金コストを低減した廉価であり、かつ延性、伸びフランジ性を改善した高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られている。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は延性および伸びフランジ性に優れているため、例えば、自動車構造部材に用いることで車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は格段に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明において、鋼成分組成の各元素の含有量の単位は「質量%」であり、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0014】
先ず、本発明で最も重要な要件である、成分組成について説明する。
C:0.100〜0.200%
Cは、所望の強度を確保し、組織を複合化して強度と延性を向上させるために必須の元素であり、そのためには0.100%以上必要である。一方、0.200%を超えて添加すると強度上昇が著しく、所望の加工性が得られない。したがって、Cは0.100〜0.200%の範囲内とする。
【0015】
Si:0.50%以下
Siは、フェライト相生成元素であり、鋼を強化するため有効な元素である。しかし、添加量が0.50%超えとなると著しく強度が上昇し、所望の加工性が得られない。従って、Siは0.50%以下とする。
【0016】
Mn:0.60%以下
Mnは、Cと同様に所望の強度を確保するために必須の元素であり、オーステナイト相を安定化させ、ベイナイト相等の第2相の生成を促進する。しかし、0.60%を超えて過剰に添加すると、第2相組織の面積率が過大となり、延性が低下する。従って、Mnは0.60%以下とする。
【0017】
P:0.100%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、添加量が0.100%を超えると粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。従って、Pは0.100%以下とする。
【0018】
S:0.0100%以下
Sは、MnSなどの非金属介在物となり、穴拡げ試験での打抜き穴加工時に穴端面が割れやすくなり、穴拡げ性が低下する。Sは極力低いほうがよく、Sは0.0100%以下とする。また、製造コストの面からもSは0.0100%以下とする。好ましくは、Sは0.0070%以下とする。
【0019】
Al:0.010〜0.100%
Alは、鋼の脱酸のため、0.010%以上添加する。一方、0.100%を超えるとめっき後の表面外観が著しく劣化するため、Alは0.010〜0.100%の範囲内とする。
【0020】
N:0.0100%以下
Nは、通常の鋼に含有される量0.0100%以下であれば本発明の効果を損なわない。従って、Nは0.0100%以下とする。
【0021】
残部はFeおよび不可避的不純物である。
上記した成分が基本組成であるが、本発明では上記した基本組成に加えて、Cr、V、Mo、Cu、Ni、B中から選ばれる1種以上の元素を含有することができる。
Cr:0.05〜0.80%、V:0.005〜0.100%、Mo:0.005〜0.500%、Cu:0.01〜0.10%、Ni:0.01〜0.10%、B:0.0003〜0.2000%の中から選ばれる1種以上の元素を含有
Cr、Vは、鋼の焼入れ性を向上させ、高強度化する目的で添加することができる。Moは鋼の焼入れ性強化に有効な元素であり高強度化する目的で添加することができる。Cu、Niは強度に寄与する元素であり、鋼の強化の目的で添加することができる。Bはオーステナイト粒界からのフェライトの生成を抑制する作用を有するので必要に応じて添加することができる。それぞれの元素の下限は、所望の効果が得られる最低限の量であり、また、上限は効果が飽和する量である。
以上より、添加する場合は、Crは0.05〜0.80%、Vは0.005〜0.100%、Moは0.005〜0.500%、Cuは0.01〜0.10%、Niは0.01〜0.10%、Bは0.0003〜0.2000%とする。
【0022】
Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%の中から選ばれる1種以上の元素を含有
Ca、REMは、硫化物形状を球状化し、伸びフランジ性を改善する目的で添加することができる。それぞれの元素の下限は、所望の効果が得られる最低限の量であり、また、上限は効果が飽和する量である。以上より、添加する場合は、Caは0.001〜0.005%、REMは0.001〜0.005%とする。
【0023】
次に、本発明の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の組織の限定理由について説明する。
【0024】
フェライト相の面積率:60%以上
高い延性を確保するためには、フェライト相は面積率で60%以上必要である。好ましくは、65%以上である。
【0025】
パーライト相の面積率:20〜30%
強度確保および高い伸びフランジ性を得るためパーライト相の面積率は20%以上必要である。一方、パーライト相の面積率が30%を超えると過度に強度上昇し、所望の加工性を得られなくなるため、パーライト相の面積率は30%以下とする。
【0026】
ベイナイト相の面積率:1〜5%
所望の強度を確保するためにベイナイト相の面積率は1%以上必要である。一方、5%を超えると過度に強度上昇するため、ベイナイト相の面積率は5%以下とする。
【0027】
フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率:5%以下
良好な伸びフランジ性を確保するためには、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率は5%以下とする必要がある。面積率が5%を超えて過剰に存在すると、伸びフランジ性が劣化するため、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率は5%以下とする。
なお、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相以外の組織としては、残留オーステナイト相を含むことができる。この場合は、伸びフランジ性の観点から残留オーステナイト相の面積率は1%以下であることが望ましい。
【0028】
金属組織は、鋼板圧延方向に平行な板厚断面1/4位置を研磨後、3%ナイタールで腐食し、2000倍の倍率で10視野にわたり走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その画像をMedia Cybernetics社製の画像解析ソフト”Image Pro Plus ver.4.0”を使用した画像解析処理により解析し、各相の面積率を求めた。すなわち、画像解析により、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相をデジタル画像上で分別し、画像処理し、測定視野毎に各々の相の面積率を求めた。これらの値を平均(10視野)して各々の相の面積率とした。
【0029】
次に、引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0030】
上記した成分組成を有する溶鋼を、転炉等による溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の鋳造方法で鋼素材(スラブ)とする。
【0031】
次いで、得られた鋼素材を用いて、加熱し圧延して熱延板とする熱間圧延を施す。この時、熱間圧延は、仕上圧延の終了温度をAr3点以上とし、600℃以下の温度で巻取ることとする。
【0032】
仕上圧延の終了温度:Ar3点以上
仕上圧延の終了温度がAr3点未満となると、鋼板表層部にフェライト相が生成し、その加工ひずみによるフェライト相の粗大化等により、板厚方向の組織が不均一となり、冷間圧延および連続溶融亜鉛めっき処理後の組織においてフェライト相の面積率を60%以上に制御できない。従って、仕上圧延の終了温度はAr3点以上とする。なお、Ar3点は次式(1)から計算できるが、実際に測定した温度を用いてもよい。
Ar3=910 - 310×[C] - 80×[Mn] + 0.35×(t-0.8) ・・・(1)
ここで[M]は元素Mの含有量(質量%)を、tは板厚(mm)を表す。なお、含有元素に応じて、補正項を導入してもよく、例えば、Cu、Cr、Ni、Moが含有される場合には、- 20×[Cu]、- 15×[Cr]、- 55×[Ni]、 -80×[Mo]といった補正項を式(1)の右辺に加えてもよい。
【0033】
巻取温度:600℃以下
巻取温度が600℃を超えるとパーライト相の面積率が増加し、連続溶融亜鉛めっき処理後の鋼板において、パーライト相の面積率が30%超の組織となり、過剰な強度上昇を引き起こす。したがって、巻取温度は600℃以下とする。なお、熱延板の形状が劣化するため巻取温度は200℃以上とすることが好ましい。
【0034】
次いで、酸洗後、或いはさらに冷間圧延を行なう。
酸洗工程では、表面に生成した黒皮スケールを除去する。なお、酸洗条件は特に限定しない。
冷間圧延の圧下率:40%以上(好適条件)
冷間圧延の圧下率が40%未満となるとフェライト相の再結晶が進行しにくくなり、連続溶融亜鉛めっき処理後の組織において未再結晶フェライト相が残存し、延性および伸びフランジ性が低下する場合がある。よって、冷間圧延の圧下率は40%以上が好ましい。
【0035】
次いで、連続溶融亜鉛めっき処理を行う。この時、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理する。
【0036】
10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱
加熱する温度域が650℃未満の場合、フェライトの再結晶が進まず、連続溶融亜鉛めっき処理後の鋼板においてフェライト相の面積率が60%未満となり、延性が劣化する。平均加熱速度が10℃/s未満の場合、通常よりも長い炉が必要で消費エネルギーが多大となりコスト増加と生産効率の悪化を引き起こす。
【0037】
700〜(Ac3-5)℃の温度で10秒以上保持
焼鈍(保持)温度が700℃未満の場合や、焼鈍(保持)時間が10秒未満では、焼鈍時にセメンタイトが十分に溶解せず、オーステナイト相の生成が不十分となり、焼鈍冷却時に十分な量の第2相(パーライト相、ベイナイト相)が確保できず、強度不足となる。また、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%を超え、伸びフランジ性が低下する。一方、焼鈍(保持)温度が(Ac3-5)℃を超えると、オーステナイト相の粒成長が著しく、連続溶融亜鉛めっき処理後の鋼板のフェライト相の面積率が60%未満となり、延性が劣化する。焼鈍(保持)時間の上限は特に規定しないが、600秒を超える保持は効果が飽和するうえ、コストが増加するため、焼鈍(保持)時間は600秒以下が好ましい。なお、Ac3点は次式(2)から計算できるが、実際に測定した温度を用いてもよい。
Ac3=910 - 203×√[C] - 15.2×[Ni] + 44.7×[Si] + 104×[V] + 31.5×[Mo] + 13.1×[W] - 30×[Mn] - 11×[Cr] - 20×[Cu] + 700×[P] + 400×[Al] + 120×[As] + 400×[Ti]・・・(2)
ここで[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
【0038】
10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却
平均冷却速度条件は、本発明において重要な用件の一つである。300〜500℃の温度域まで所定の平均冷却速度で急冷することで、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率を制御し、かつパーライト相とベイナイト相の面積率を制御できる。平均冷却速度が10℃/s未満の場合は、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%を超え、伸びフランジ性が低下する。平均冷却速度が200℃/sを超える場合は、フェライトの析出が十分でなく、パーライト相またはベイナイト相が過度に析出するため強度が上昇し、延性が劣化する。また鋼板形状の悪化にもつながるため、平均冷却速度は200℃/s以下とする。
【0039】
300〜500℃の温度域で30〜300秒保持
この温度域での保持は、本発明において重要な用件の一つである。保持温度が300℃未満もしくは保持時間が30秒未満の場合には、ベイナイト変態が進行せず、連続溶融亜鉛めっき処理後の鋼板のベイナイト相の面積率が1%以上存在する組織が得られず、強度確保が困難となる。保持温度が500℃を超える場合は、ベイナイト変態が緩慢となり、連続溶融亜鉛めっき処理後の鋼板のベイナイト相の面積率が1%以上存在する組織が得られず、強度確保が困難となり、また、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%を超え、伸びフランジ性が低下する。保持時間が300秒を超える場合は、ベイナイト相が過度に析出するため強度が上昇し、延性が劣化する。また、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%を超え、伸びフランジ性が低下する。
【0040】
次いで、溶融亜鉛めっき処理する。あるいはさらに亜鉛めっきの合金化処理を施した後、室温まで冷却する。
溶融亜鉛めっき処理に引き続き合金化処理を行うときは、溶融亜鉛めっき処理をしたのち、例えば、450℃以上600℃以下に鋼板を加熱して合金化処理を施し、めっき層のFe含有量が7〜15%になるよう行うのが好ましい。7%未満では合金化ムラが発生したりフレーキング性が劣化する。一方、15%超えは耐めっき剥離性が劣化する。
以上により、本発明の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
なお、本発明の製造方法における熱処理では、上述した温度範囲内であれば保持温度は一定である必要はなく、また冷却速度が冷却中に変化した場合においても、規定の冷却速度の範囲内であれば問題ない。また、熱処理では所望の熱履歴を満足されれば、いかなる設備を用いて熱処理を施されても、本発明の趣旨を損なうものではない。加えて、形状矯正のために調質圧延を施すことも本発明範囲に含まれる。本発明では、鋼素材を通常の製鋼、鋳造、熱延の各工程を経て製造する場合を想定しているが、例えば、薄スラブ鋳造などにより熱延工程の一部もしくは全部を省略して製造する場合も本発明の範囲に含まれる。
さらに、本発明において、得られた高強度溶融亜鉛めっき鋼板に化成処理などの各種表面処理を施しても本発明の効果を損なうものではない。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明を、実施例に基いて具体的に説明する。
表1に示す成分組成を有する鋼素材(スラブ)を出発素材とした。これらの鋼を、表2、表3に示す加熱温度に加熱した後、表2、表3に示す条件にて、熱間圧延し、酸洗した後、次いで冷間圧延、連続溶融亜鉛めっき処理を施した。一部の鋼板(鋼板No.5)については、冷間圧延を施さなかった。次いで、一部を除いて、連続溶融亜鉛めっき処理後に合金化処理を施した。
なお、連続溶融亜鉛めっき処理設備では、GAは0.14質量%Al含有Zn浴を、GIは0.18質量%Al含有Zn浴を用いた。付着量はガスワイピングにより調節し、GAは合金化処理した。
【0042】
以上により得られた溶融亜鉛めっき鋼板(GAおよびGI)に対して、組織観察、引張特性、伸びフランジ性(穴拡げ試験)について、評価した。測定方法を下記に示す。
【0043】
(1)組織観察
鋼板圧延方向に平行な板厚断面1/4位置を研磨後、3%ナイタールで腐食し、2000倍の倍率で10視野にわたり走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、その画像をMedia Cybernetics社製の画像解析ソフト”Image Pro Plus ver.4.0”を使用した画像解析処理により解析し各相の面積率を求めた。すなわち、画像解析により、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相をデジタル画像上で分別し、画像処理し、測定視野毎に各々の相の面積率を求めた。これらの値を平均(10視野)して各々の相の面積率とした。
【0044】
(2)引張特性
得られた鋼板の圧延方向からJIS5号引張試験片を採取し、引張試験(JISZ2241 (2011))を実施した。引張試験は破断まで実施して、引張強度、破断伸び(延性)を求めた。引張特性で破断伸びが35.0%以上を延性に優れる鋼板とした。
【0045】
(3)伸びフランジ性
伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格(JFS)T1001(1996)に準拠して実施した。得られた鋼板を100mm×100mmに切断し、クリアランス12%で直径10mm(d0)の穴を打抜き加工で打抜いた後、内径75mmダイスを用いてしわ押さえ力9tonで押えた状態で60°円錐ポンチを穴に押し込み、穴縁に板厚貫通クラックが発生した時点での穴径dbを測定して、次式で定義される限界穴拡げ率:λ(%)を求めた。この限界穴拡げ率の値から伸びフランジ性を評価した。
【0046】
λ=100×(db-d0)/d0 (1)
以上により得られた結果を条件と併せて表2、表3に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
表2および表3より、面積率60%以上のフェライト相と面積率20〜30%のパーライト相と1〜5%のベイナイト相を有し、前記フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%以下である本発明例では、引張強度(TS)440〜490MPaにおいて、延性および伸びフランジ性が高い。
一方、比較例では、延性、伸びフランジ性のいずれか一つ以上が低い。特に、成分組成が適切でない比較例は、フェライト相の面積率、パーライト相の面積率、ベイナイト相の面積率、フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率を適正化しても延性および伸びフランジ性は改善されないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、加工性に優れ、自動車の車体そのものを軽量化かつ高強度化するための表面処理鋼板として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成として、質量%で、C:0.100〜0.200%、Si:0.50%以下、Mn:0.60%以下、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、Al:0.010〜0.100%、N:0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
組織として、面積率が60%以上のフェライト相と、面積率が20〜30%のパーライト相と、面積率が1〜5%のベイナイト相を有し、前記フェライト相の粒内に存在するセメンタイト相の面積率が5%以下であることを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
成分組成として、質量%で、さらに、Cr:0.05〜0.80%、V:0.005〜0.100%、Mo:0.005〜0.500%、Cu:0.01〜0.10%、Ni:0.01〜0.10%、B:0.0003〜0.2000%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
成分組成として、質量%で、さらに、Ca:0.001〜0.005%、REM:0.001〜0.005%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
亜鉛めっきが合金化亜鉛めっきであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼素材を用いて、Ar3点以上の温度で仕上圧延を行ない、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、連続溶融亜鉛めっき処理を行うにあたり、
前記連続溶融亜鉛めっき処理では、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼素材を用いて、Ar3点以上の温度で仕上圧延を行ない、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、冷間圧延したのち、連続溶融亜鉛めっき処理を行うにあたり、
前記連続溶融亜鉛めっき処理では、10℃/s以上の平均加熱速度で650℃以上の温度域まで加熱し、700〜(Ac3−5)℃の温度で10秒以上保持し、次いで、10〜200℃/sの平均冷却速度で300〜500℃の温度域まで冷却し、該300〜500℃の温度域で30〜300秒保持したのち、溶融亜鉛めっき処理することを特徴とする引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を施すことを特徴とする請求項5または6に記載の引張強度440MPa以上の加工性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−36069(P2013−36069A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171520(P2011−171520)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】