説明

引戸

【課題】引戸において、ユニバーサルデザイン化を促進し、なおかつ、風雨の進入をより確実に防ぐ。
【解決手段】扉20の開扉状態において、人等が下レールを横切って引戸開口部12を通行する際に、下レール24が踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、下レール24の、床板14の上面からの突出高さを変化させる。最大で床板14の上面と同一高さとなる下死点の位置まで突出高さを減少させ、床面のフラット化を実現する。又、下レール24が床面14から突出していることで、扉20の下縁との隙間を塞ぎ、車外から車内への風雨の進入を、より確実に食い止める。なお、扉20の開閉時や閉扉状態等における下レール24と直行する方向の荷重を受けて、床板14の上面からの下レール24の突出高さが変化することはなく、下レール24による、扉20の下縁のガイド機能や風雨の進入防止機能に、支障を来たすことは無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引戸に関し、特に、鉄道車両用の引戸にも適するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、公共交通機関や公共施設におけるユニバーサルデザイン化の要請から、床面のフラット化が推進されており、引戸を採用する出入り口においても、段差や凹凸を解消することが望まれている。
例えば、鉄道車両の側引戸については、従来、扉の下縁をガイドする下レールが、引戸開口部の床面からの突起物となっていたが、この下レールの突起を無くす構造が、種々、考案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−193803号公報
【特許文献2】特開2006−015185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、鉄道車両の側引戸は、車内と車外とを隔て、閉扉時には風雨の進入をより確実に防ぐことが必要である。このような観点からすれば、従来通り、下レールが床面から突出していることで扉の下縁との隙間を塞ぎ、風雨の進入をより確実に食い止めることが望ましい。そこで、本発明者らは、図2、図3に示されるように、鉄道車両10の、引戸開口部12に面する床板(くつづり)14の上面から突出する下レール16の一部を除去し、フラット面18とした引戸を発案している。図1(b)において、符号20aで示される部分は、扉20(図3(b)参照)の下縁に沿って設けられたスリ板であり、図示の如くスリ板20aが下レール16を覆うコ字形の断面形状をなすことで、扉20の開閉時及び閉扉状態において、扉20は下レール16によって確実にガイドされる。
【0005】
このように、下レール16の一部を除去した場合には、フラット面18を、図3(a)に破線矢印で示されるように、車椅子、歩行補助車、ベビーカー等の車輪が通過するための、走行面として使用することが可能となり、ユニバーサルデザイン化の要請に応えることができる。しかしながら、図3(b)に示される扉20の閉扉状態においては、フラット面18と扉20の下縁との間に隙間が生じ、この隙間を通じて風雨が車内に侵入するおそれがある。なお、図2、図3は、鉄道車両10の引戸を例に挙げたものであるが、同様の構造を有する他の引戸においても、同様の問題が生じるものである。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、引戸において、ユニバーサルデザイン化を促進し、なおかつ、風雨の進入をより確実に防ぐことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。又、各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。よって、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)引戸開口部に面する床板の上面から突出する下レールによって、下縁がガイドされて開閉する扉を備える引戸であって、前記扉の開閉の全行程のうち少なくとも一部に係る部分の前記下レールの、前記床板の上面からの突出高さを、前記下レールが受ける下方向への荷重に応じて、上死点から床板の上面と同一高さとなる下死点の間で変化させる調整手段を備える引戸(請求項1)。
【0008】
本項に記載の引戸は、扉の開扉状態において、人等が下レールを横切って引戸開口部を通行する際に、下レールが踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、扉の開閉の全行程のうち少なくとも一部に係る部分の下レールの、床板の上面からの突出高さを変化させることで、最大で床板の上面と同一高さとなる下死点の位置まで減少させ、床面のフラット化を実現するものである。又、下レールが床面から突出していることで扉の下縁との隙間を塞ぎ、風雨の進入をより確実に食い止めることとなる。
なお、本発明の調整手段は、下レールが受ける下方向への荷重に応じて、上死点から床板の上面と同一高さとなる下死点の間で変化させるものであることから、扉の開閉時や閉扉状態等における下レールと直行する方向の荷重を受けて、床板の上面からの下レールの突出高さが変化することはなく、扉の下縁のガイド機能や風雨の進入防止機能に、支障を来たすことは無い。又、下レールを上方へと付勢する力の大きさは、少なくとも、扉の開閉時や閉扉状態等において下レールを上死点の高さに維持し得る程度であれば良く、かつ、人等が下レールを踏みつけるようにして引戸開口部を通行する際には、下死点まで下降する程度であることが望ましい。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記調整手段は、前記床板の下方に位置して前記下レールを下方から支持する台枠と、該台枠に支持された前記下レールが前記床板を貫通するための、前記床板に形成された溝と、前記下レールの一部又は全部、ないし、前記下レールと前記台枠との間に介在する支持手段の少なくとも一方を構成する弾性部材と、を含む引戸(請求項2)。
【0010】
本項に記載の引戸は、下レールの、一部又は全部が弾性部材で構成され、又は、下レールと台枠との間に介在する支持手段が弾性部材で構成されて、床板の下方に位置して下レールを下方から支持する台枠により支持され、床板に形成された溝を貫通して、床板の上面から突出するものである。そして、扉の開閉時又は閉扉状態では、弾性部材の弾性力によって下レールを可動範囲の上死点へと押し上げ、扉の下縁をガイドする。又、扉の開扉状態では、下レールが踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、高さを最大で下死点の位置まで突出高さを減少させ、床面のフラット化を実現するものである。
【0011】
なお、下レールの一部又は全部が弾性部材により構成されている場合には、下レールの一部又は全部が下方向への荷重を受けて弾性変形することにより、下レールの、床板の上面からの突出高さを変化させるものである。又、下レールと台枠との間に介在する支持手段が弾性部材により構成されている場合には、下レールの一部又は全部が下方向への荷重を受けて支持手段が弾性変形することにより、下レールの、床板の上面からの突出高さを変化させるものである。
【0012】
(3)上記(1)(2)項において、前記調整手段の設置位置には、少なくとも、車椅子、歩行補助車及びベビーカーの何れかが、前記下レールを横切って前記引戸開口部を通行する際の車輪の通過位置が含まれる引戸(請求項3)。
【0013】
本項に記載の引戸は、前記調整手段の設置位置には、少なくとも、車椅子、歩行補助車及びベビーカーの何れかが、前記下レールを横切って前記引戸開口部を通行する際の車輪の通過位置が含まれることで、扉の開扉状態において、少なくとも、車椅子、歩行補助車及びベビーカーの何れかが、下レールを横切って引戸開口部を通行する際、それらの車輪により、下レールが踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、扉の開閉の全行程のうち少なくとも一部に係る部分の下レールの、床板の上面からの突出高さを変化させることで、最大で床板の上面と同一高さとなる下死点の位置まで減少させ、床面のフラット化を実現するものである。
なお、車椅子、歩行補助車、ベビーカー等の車輪の位置(幅方向の位置)は、その使い勝手から概ね決まった範囲に収まることから、前記調整手段の設置位置についても、概ね特定されるものである。又、ここで挙げた車椅子、歩行補助車、ベビーカーについては、あくまでも一例であり、車輪を備え引戸開口部を通過する全てのものが対象となり得るものである。
【0014】
(4)なお、上記(1)から(3)項における引戸を、鉄道車両用引戸に採用することが可能である(請求項4)。
本項に記載の引戸は、下レールが床面から突出した状態では、下レールによって扉の下縁との隙間を塞ぎ、車外から車内への風雨の進入を食い止める。又、下レールが受ける下方向への荷重に応じて、上死点から床板の上面と同一高さとなる下死点の間で変化させることで、上記(1)から(3)項と同様の作用が得られるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明はこのように構成したので、引戸において、風雨の進入を防ぎつつ、ユニバーサルデザイン化を可能とすることにある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る鉄道車両用引戸を示すものであり、(a)は、開扉状態の引戸開口部を示す立体模式図、(b)は、(a)のA−A線における断面図であり、引戸開口部に面する床板の上面から上死点まで突出する下レールを示しており、(c)は、(a)のA−A線における断面図であり、引戸開口部に面する床板の下死点に位置する下レールを示すものである。
【図2】従来の鉄道車両の引戸開口部の周辺構造を示すものであり、(a)は、引戸開口部周辺の平面図、(b)は(a)のB−B線における拡大断面図、(c)は下レール端部の平面図及び側面図である。
【図3】(a)は、従来の鉄道車両用引き戸の、開扉状態の引戸開口部を示す立体模式図であり、(b)は、同閉扉状態の引戸開口部を示す立体模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る引戸22は、図1(a)に示されるように、引戸開口部12に面する床板14の上面から突出する下レール24によって、下縁がガイドされて開閉する扉20を備えるものである。そして、下レール24の、床板14の上面からの突出高さを、下レール24が受ける下方向への荷重に応じて、図1(b)に示される上死点から、図1(c)に示される、床板14の上面と同一高さとなる下死点の間で変化させるものである。
【0018】
そして、下レール24の、床板14の上面からの突出高さを、上死点から下死点の間で変化させるための調整手段は、床板14の下方に位置して下レール24を下方から支持する台枠(車体構体)26と、台枠26に支持された下レール24が床板14を貫通するための、床板14に形成された溝14aと、下レール14及び台枠26の間に介在する支持手段28としての弾性部材とを含むものである。
【0019】
なお、図示の例では、下レール24はハット状の断面を有する金属部品が用いられ、その鍔部24aが床板14の下面に当接することで、下レール24の上死点における上面からの突出高さは、扉20が下レール24によって確実にガイドされるのに必要な突出高さとなるように調整されている。具体的な突出高さとしては、扉20の下縁に設けられたスリ板20a(図2(b)参照)に下レール24が係合し、下死点において鍔部24aが台枠26の上面に当接するように、下レール24の全高が決定されている。更に、支持手段28にはコイルばねが用いられている。なお、上死点及び下死点の位置を定めることが可能であれば、下レール24の断面形状は図示のハット状に限定されるものでもない。
【0020】
又、図示の例では、下レール24は、扉20の開閉の全行程に渡り一体をなしており下レール24の全体が昇降するものであるが、図2、図3に示されるように、下レール16の一部を除去したフラット面18に、溝14aを形成し、台枠26上に支持手段28を介して下レール24を配置しても良い。この場合には、少なくとも、車椅子、歩行補助車及びベビーカーの何れかが、下レール16を横切って引戸開口部を通行する際の車輪の通過位置に、上記調整手段が設置される態様となる。
【0021】
更には、下レール24の一部又は全部を弾性部材で構成し、台枠26上に下レール24を直接載置して、下レール24が受ける下方向への荷重に応じ、下レール24自体が、図1(b)に示される上死点から、図1(c)に示される下死点の間で弾性変形することとしても良い。更には、下レール24の一部又は全部を弾性部材で構成し、なおかつ、台枠26上に弾性部材からなる支持手段28を介して下レール24を配置しても良い。又、支持手段28も、コイルばねに限定されるものではなく、板ばね、ゴム等他の弾性体であっても良い。又、下レール24を上方へと付勢する力の大きさについては、少なくとも、扉20の開閉時や閉扉状態等において、下レール24を上死点の高さに維持し得る程度であれば良く、かつ、人等が下レール24を踏みつけるようにして引戸開口部12を通行する際には、下レール24が下死点まで下降する程度であることが望ましい。
【0022】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。
まず、本発明の実施の形態に係る引戸は、扉20の開扉状態において、人等が下レールを横切って引戸開口部12を通行する際に、下レール24が踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、下レール24の、床板14の上面からの突出高さを変化させることで、最大で床板14の上面と同一高さとなる下死点の位置(図1(c))まで減少させ、床面のフラット化を実現することができる。又、下レール24が床面14から突出していることで、扉20の下縁との隙間を塞ぎ、車外から車内への風雨の進入を、より確実に食い止めることが可能となる。なお、扉20の開閉時や閉扉状態等における下レール24と直行する方向の荷重を受けて、床板14の上面からの下レール24の突出高さが変化することはなく、下レール24による、扉20の下縁のガイド機能や風雨の進入防止機能に、支障を来たすことは無い。
【0023】
又、下レール24の、一部又は全部が弾性部材で構成され、又は、下レール24と台枠26との間に介在する支持手段28が弾性部材で構成されて、床板14の下方に位置して下レール24を下方から支持する台枠26により支持され、床板14に形成された溝14aを貫通して、床板14の上面から、下レール24が突出するものである。そして、扉の開閉時又は閉扉状態では、弾性部材からなる支持手段28の弾性力によって下レール24を可動範囲の上死点(図1(b))へと押し上げ、扉20の下縁を下レール24によりガイドすることができる。又、扉20の開扉状態では、下レール24が踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、高さを最大で下死点の位置(図1(c))まで下レール24の突出高さを減少させ、床面のフラット化を実現することができる。
【0024】
更には、調整手段として、少なくとも下レール16の一部を除去したフラット面18(図2(b)参照)に、溝14aを形成し、台枠26上に支持手段28を介して下レール24を配置することとすれば、扉20の開扉状態において、車椅子、歩行補助車及びベビーカー等、下レール24を横切って引戸開口部12を通行する際、それらの車輪により、下レール24が踏みつけられることにより受ける下方向への荷重に応じて、下レール14の、床板14の上面からの突出高さを変化させ、床面のフラット化を実現することができる。
【0025】
なお、本発明の実施の形態では、本発明を鉄道車両用引戸として適用した場合を例示して説明したが、同様の構造を有する他の引戸において採用することで、同様の作用効果が得られるものであることは、理解されるであろう。
【符号の説明】
【0026】
10:鉄道車両、12:引戸開口部、14:床板、14a:溝、20:扉、22:引戸、24:下レール、26:台枠、28:支持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸開口部に面する床板の上面から突出する下レールによって、下縁がガイドされて開閉する扉を備える引戸であって、前記扉の開閉の全行程のうち少なくとも一部に係る部分の前記下レールの、前記床板の上面からの突出高さを、前記下レールが受ける下方向への荷重に応じて、上死点から床板の上面と同一高さとなる下死点の間で変化させる調整手段を備えることを特徴とする引戸。
【請求項2】
前記調整手段は、前記床板の下方に位置して前記下レールを下方から支持する台枠と、該台枠に支持された前記下レールが前記床板を貫通するための、前記床板に形成された溝と、前記下レールの一部又は全部、ないし、前記下レールと前記台枠との間に介在する支持手段の少なくとも一方を構成する弾性部材と、を含むことを特徴とする請求項1記載の引戸。
【請求項3】
車前記調整手段の設置位置には、少なくとも、車椅子、歩行補助車及びベビーカーの何れかが、前記下レールを横切って前記引戸開口部を通行する際の車輪の通過位置が含まれることを特徴とする請求項1又は2記載の引戸。
【請求項4】
鉄道車両用引戸であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の引戸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153212(P2012−153212A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12900(P2011−12900)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)