説明

弗素含有廃液の処理方法

【課題】 弗素イオンと重金属イオンを含む弗素含有廃液の中和処理する過程において、析出する弗化カルシウムと金属水酸化物に分離し、それぞれ、製鉄業における滓化促進剤や弗化水素酸の蛍石代替原料、ステンレス原料として十分使用できる弗素含有廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】 弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程と前記工程の処理液に高分子凝集剤を添加して、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する工程と前記凝集体を生成する工程の処理液を固液分離して、弗化カルシウム主体の粒子を固体部として回収する工程とを有し、前記回収した固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入し、固体部中の弗化カルシウム主体の粒子に、更に弗化カルシウムを析出させて粒子径を増大化し、当該増大化した弗化カルシウム主体の粒子を前記固液分離により固体部として回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス製造過程や半導体製造過程から排出される弗素イオン及び重金属イオンを含んだ弗素含有廃液から弗素成分、又は弗素成分及び重金属成分を分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステンレス鋼板などの製造工程では、表面光沢、耐食性、加工性などを向上させるため、熱間圧延あるいは冷間圧延後の鋼板に連続焼鈍および酸洗が施される。この酸洗には、硝酸と弗酸を混合した酸洗液が使用されることが多い。酸洗を継続して行なうと、酸洗液中の金属イオン濃度が上昇し、酸洗効力が劣化する。そのため、酸洗効力の劣化した酸洗液の一部を抜き出すとともに、新しい酸洗液を補充して酸洗効力を維持する必要がある。この抜き出した弗素イオン含有廃液中には、金属分(主に、Fe、Cr、Ni)および弗素イオンが多く含まれており、環境保全上、この弗素イオン含有廃液をそのまま処理系外に放出することができない。
【0003】
したがって、この弗素イオン含有廃液は、従来、カルシウム系中和剤で中和し、pH8〜9に調整し、金属分は水酸化金属として、弗素イオンは弗化カルシウムとして同時に析出させ、それに凝集剤を加え、沈殿槽で沈降分離し、処理水は放流し、沈降した水酸化金属や弗化カルシウムからなる汚泥は脱水機などで脱水し、その脱水汚泥を廃棄物として最終処分していた。
【0004】
また、半導体製造工程においても、エッチングの際、弗化水素酸が使用されるため、弗素イオンを含有した弗素イオン含有廃液が排出される。この弗素イオン含有廃液も、従来、カルシウム系中和剤で中和し、pH8〜9に調整し、弗素イオンは微細な弗化カルシウムとして析出させ、それにポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、硫酸アルミニウムや塩化鉄などの無機凝集剤および高分子凝集剤を加え、フロックを形成させ沈降しやすくし、沈殿槽で沈降分離し、処理水は放流し、弗化カルシウムと無機凝集材である水酸化アルミニウムや水酸化鉄などを含んだ汚泥は脱水機などで脱水し、その脱水汚泥を廃棄物として最終処分していた。
【0005】
このような状況に対し、弗素イオン含有廃液にNaOHまたはKOHを添加して、弗素イオン含有廃液のpHを上昇させて、金属分を水酸化物として沈殿させ、さらに、水酸化物を沈殿除去した上澄液に、そのpHが7±1の範囲内になるまでCaCl2またはMgCl2を添加し、弗素イオンを弗化物として沈殿させる方法が、特開平11−322304号公報(特許文献1)で開示されている。しかしながら、この技術では、高価な中和剤であるNaOHやKOHや、高価なカルシウム源やマグネシウム源であるCaCl2またはMgCl2を使用するため、金属成分と弗素分を分離することができるものの、非常に処理費が高くなる。
【特許文献1】特開平11−322304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対し、本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液から、弗化カルシウム主体の粒子、又は弗化カルシウム主体の粒子と重金属主体の粒子を安価に分離回収可能で、かつ、回収した粒子の粒子径を大きくして含水率を低下させることが容易である弗素含有廃液の処理方法を提供することを第一の目的とする。また、分離した重金属主体の粒子はステンレス原料等として再使用し、分離した弗化物(弗化カルシウム)は蛍石代替等として再使用できるような、弗素含有廃液の処理方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、以下のことを見出した。まず、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる弗化カルシウム析出槽内の弗素イオン含有廃液に、廃液中でカルシウムイオンを生じる物質を連続的に投入すると、弗素イオンは弗化カルシウムとなり析出する。その析出した弗化カルシウムからなる超微細な粒子(0.1μm以下)は、ブラウン運動領域であり、そのままでは沈殿しないため、凝集剤を添加するなどの手段により沈降しやすくし、沈降分離などの固液分離操作により液体部と分離し、弗化カルシウムからなる粒子を、再度、弗化カルシウム析出槽内に戻した状態にすると、弗化カルシウムからなる粒子は、0.1μm以下の超微細な粒子から0.3〜200μm程度の粒子に成長する。粒子径が大きくなることで、かつ、凝集剤の添加などにより、フロックを形成するため、より沈降しやすくなる。また、粒子径を大きくすることで、脱水した際のケーキ水分を低減することができる。
【0008】
次に、弗素イオンと、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンなどの重金属イオンを含む弗素イオン含有廃液から、弗素イオンを分離する場合、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンはpHによってそれらの溶解度が異なり、3価の鉄イオンはpH4以上で、2価の鉄イオンはpH8以上で、3価のクロムイオンはpH6以上で、ニッケルイオンはpH9以上で水酸化物として析出する。
一方、弗素イオンは弗化カルシウムとして析出するため、弗素イオンとカルシウムイオンの溶解度積(ks)に達しているかどうかで析出するかが決まる。弗素イオンとカルシウムイオンの溶解度積も酸性側になると大きくなる傾向があり、酸性側で弗素イオンを弗化カルシウムとして析出する場合、カルシウムイオンを生じる物質をより多く投入する必要がある。
【0009】
後述する理由により、カルシウムイオンを生じる物質(カルシウムを含む物質と呼称する)としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの1種または2種以上が適当であるが、これらは、中和作用があり、弗化カルシウム析出槽内のpHを上昇させる。すなわち、結果的に弗化カルシウムの溶解度がpH上昇に伴って変化すると考えることができる。3価の鉄イオン、2価の鉄イオン、3価のクロムイオン、ニッケルイオンのうち、もっとも低pHで析出するのが、3価の鉄イオンであり、3価の鉄イオンと弗素イオンの分離が重要なポイントとなる。
【0010】
ステンレス製造工程から排出される、弗素イオン、3価の鉄イオン、3価のクロムイオン、2価のニッケルイオンを含有する酸性の排水では、カルシウムを含む物質を投入すると、pH3.7以下の領域で、好ましくはpH3.0以下の領域で、弗化カルシウムと水酸化金属との間の溶解度差により、弗化カルシウムが主体に析出し、3価のクロムイオンおよび2価のニッケルイオンは析出が少なく、3価の鉄イオンの析出をある程度抑制することができ、弗化カルシウム分50質量%以上の成分を有する析出物となることを見出した。
【0011】
また、回収した弗化カルシウム主体の粒子からなる固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入することで、固体部中の弗化カルシウム主体の粒子に、更に弗化カルシウムを析出させて粒子径を増大化し、濾過性や脱水性が向上し、かつ、弗素イオンと重金属イオンとに効率的に分離できることを見出した。そのためには、定常状態となった弗化カルシウム析出槽内の固形物量をA(kg)とし、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子が新たに析出する量をB(kg/日)としたとき、つまり、
A(kg)=弗化カルシウム析出槽容量(m3 )×弗化カルシウム析出槽内SS濃度(kg/m3
B(kg/日)=弗素含有廃液処理水量(m3 /日)×(弗素含有廃液中の弗素イオン濃度(kg/m3 )―弗化カルシウム析出後の液体部の弗素イオン濃度(kg/m3 )÷弗化カルシウム析出槽内析出物中弗素含有量(質量%)、
ここで、弗素イオン濃度は、弗素イオン電極による分析(イオン電極法)が好ましい。
【0012】
A÷Bを0.05(日)以上、1.0(日)以下となるように、反応槽内の大きさおよび回収した弗化カルシウム主体の粒子からなる固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程へ投入する量を調整することが重要で、0.05(日)未満であれば、新たに析出する弗化カルシウム分が既に発生している弗化カルシウム主体の粒子表面へ析出せずに、超微細な(0.1μm以下)新たな粒子を形成し、その結果、粒子径が増大せずに、濾過性や脱水性を十分に高めることができないばかりか、超微細な粒子が多量に存在するため、高分子凝集材を多量に使用しなければならない。一方、1.0(日)より大きくしても、さらなる濾過性や脱水性の向上あまり見込めず、反応槽容量が過大となり攪拌動力を多く必要となり、もしくは、回収した弗化カルシウム主体の粒子の一部を析出させる工程へ投入する量が過大となりポンプ動力を多く必要となり、経済的でない。
【0013】
また、ステンレス酸洗廃液や半導体廃液のように、弗素イオン濃度が異なる2種類以上の弗素含有廃液が存在し、かつ、それぞれが濃度変動を伴う場合、従来よりよく行われる一定量混合では、濃度変動が大きく、前記の弗化カルシウム主体の粒子の増大化が適切に行われず、超微細な粒子が多量に発生する。その結果、濾過性や脱水性を十分に高めることができないばかりか、超微細な粒子が多量に存在するため、高分子凝集材を多量に使用しなければならない。そこで、弗素イオン濃度を一定にするように制御することが重要である。この際、弗素イオン濃度の制御値は高い方が、前記の弗素イオンと重金属イオンとの分離性が向上する。弗素イオン濃度が低いと、弗化カルシウム析出後の液体部の弗素イオン濃度をより低く抑えることが必要となり、溶解度積の関係から、より多くのカルシウムイオンを投入する必要があり、経済的でなくなるためである。
【0014】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程と、前記工程の処理液に高分子凝集剤を添加して、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する工程と、前記凝集体を生成する工程の処理液を固液分離して、弗化カルシウム主体の粒子を固体部として回収する工程とを有し、前記回収した固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入し、固体部中の弗化カルシウム主体の粒子に、更に弗化カルシウムを析出させて粒子径を増大化し、当該増大化した弗化カルシウム主体の粒子を前記固液分離により固体部として回収することを特徴とする弗素含有廃液の処理方法。
【0015】
(2)前記回収した弗化カルシウム主体の粒子からなる固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入する際に、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程内の固形物量をA(kg)とし、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子が新たに析出する量をB(kg/日)としたとき、
A÷Bを0.05(日)以上、1.0(日)以下にすることを特徴とする前記(1)記載の弗素含有廃液の処理方法。
【0016】
(3)前記固液分離によって固体部と分離される重金属イオンを含む液体部を、pH6超10以下に調整して重金属主体の粒子を析出させる工程と、当該重金属主体の粒子を析出させる工程の処理液に高分子凝集剤を添加して、重金属主体の粒子の凝集体を生成する工程と、当該重金属主体の凝集体を生成する工程の処理液を固液分離によって重金属主体の粒子を固体部として回収する工程とを更に有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【0017】
(4)前記金属イオンにCr3+、Ni2+の少なくともいずれかを含む場合、前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる際のpH調整をpH3.8以上6以下とすることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の弗素含有廃液の処理方法。
(5)前記金属イオンにFe3+を含む場合、前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる際のpH調整をpH2.0以上3.7以下とすることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【0018】
(6)前記回収した重金属主体の固体部の一部を前記重金属主体の粒子を析出させる工程に投入し、固体部中の重金属主体の粒子に、更に重金属イオンを接触させて粒子径を増大化し、当該増大化した重金属主体の粒子を固液分離により回収することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法。
(7)弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素濃度の異なる2種類以上の弗素含有廃液を混合して処理する場合、弗素イオン電極を用いて、混合後の弗素含有廃液中に含まれる弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法。
【0019】
(8)弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する工程での処理液を、固液分離した後の液体部の弗素イオン濃度を連続又は間欠に測定し、当該測定濃度に応じて弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程へ投入するカルシウムを含む物質の投入量を制御することで、その弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法。
(9)前記固液分離して固体部として回収した弗化カルシウム主体の粒子を、金属精錬過程のスラグの滓化促進剤、又は弗化水素酸の原料である蛍石の代替物として使用することを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法。
【0020】
(10)前記固液分離して固体部として回収した重金属主体の粒子を、ステンレス原料、又は合金鉄原料として使用することを特徴とする前記(3)〜(9)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法。
(11)前記添加するカルシウムを含む物質が、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の弗素含有廃液の処理方法にある。
【発明の効果】
【0021】
以上述べたように、本発明により、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液から、弗化カルシウム、又は弗化カルシウムと鉄・クロム・ニッケルなどからなる水酸化金属とに分離し、安価に回収することができる。また、製鉄業における滓化促進剤や弗化水素酸の蛍石代替原料と、ステンレス原料として有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明に係わる弗素イオン含有廃液の処理方法は、弗素イオンと重金属イオンを含む弗素含有廃液をその処理対象とする。弗化カルシウム析出槽に、弗素イオンと重金属イオンを含む弗素含有廃液を投入した後、又は、投入すると共に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子を析出させた(粒子径0.1μm以下)後、高分子凝集材を加え、沈殿法などの固液分離により弗化カルシウム主体の粒子を回収することができる。
【0023】
しかしながら、そのようにして作成した粒子径は小さく、脱水性が悪い。そこで、さらに、析出した弗化カルシウム主体の粒子に、弗素イオンとカルシウムイオンを接触させることで、粒子径を増大化することができ、直径0.1μm以下の粒子を0.3〜200μmの緻密な粒子にすることができ、高分子凝集材を加え、沈殿法などの固液分離により脱水性が改善された弗化カルシウム主体の粒子を回収することができる。
カルシウムを含む物質としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、石膏、硝酸カルシウムなどがある。塩化カルシウム、石膏、硝酸カルシウムは価格が相対的に高く、石膏は反応性が悪く、実用性に乏しい。よって、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムがカルシウム源として実用的である。
【0024】
更に、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムはスラリー化するとpH12程度の高アルカリであり、炭酸カルシウムはpH9程度の弱アルカリであるため、pHを調整するアルカリ剤としても使用できる。これらのアルカリ剤を弗素含有廃液に投入すると、アルカリ剤の粒子近傍は高アルカリ状態となり、その粒子近傍領域では重金属イオンが水酸化金属として析出する。一度、析出した水酸化金属は、再溶解するのに時間がかかる。よって、重金属イオンと弗素イオンを分離する際には、pH制御が重要であるため、炭酸カルシウムがより好ましい。
【0025】
次に、弗化水素酸を含む酸洗液でステンレス鋼板を酸洗する際に発生する、弗素イオンに加え、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンを含有した弗素イオン含有廃液を処理する場合、pH操作によって弗化カルシウム主体の析出物と重金属を主体に含む析出物とに分離することができる。弗化カルシウムの析出は、弗素イオンとカルシウムイオンの溶解度積(ks)で決まるが、pHに対する溶解度積は、図1に示すように、酸性側になると大きくなる。つまり、酸性側で弗素イオンが弗化カルシウムとして析出する場合、カルシウムイオンをより多く投入する必要がある。
【0026】
前述のようにアルカリ剤でもある酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの1種又は2種以上をカルシウム源として使用し、重金属イオンと弗素イオンを分離する場合、弗素イオン析出に必要なカルシウム源を投入すると、pHが3.7以上となり、重金属イオンとして3価の鉄イオン(Fe3+)を含む場合に、3価の鉄イオンと分離できなくなることがある。このような場合、カルシウム源として、塩化カルシウム、石膏、硝酸カルシウムのような投入してもpHの上昇がほとんど起こらない塩を使用することができる。あるいは、弗化水素酸を含有する酸洗液、もしくは、弗化カルシウム析出槽に、塩酸、硝酸などの酸もしくはそれらを含む廃酸を投入し、弗化カルシウム析出槽内のpHを2.0〜3.7、好ましくはpHを2.0〜3.0にすることで、3価の鉄イオンとの分離を促進することができる。
【0027】
重金属イオンとしてクロムイオン(Cr3+)とニッケルイオン(Ni2+)を含む場合、例えば、弗素イオンと3価の鉄イオンを分離せず、クロムイオンとニッケルイオンを弗素イオンから分離するケースでは、弗化カルシウム析出槽のpHは3.8〜6にすればよく、前記のような塩、酸もしくは廃酸を投入する必要性は少なくなる。重金属イオン混入量が少なく重金属イオンと分離する必要がない場合(例:半導体製造過程から排出される弗素イオンを含んだ酸排水)では、弗化カルシウム析出槽のpHを6超10以下、好ましくは7〜9に制御することで、排水中より弗素イオンを弗化カルシウムとして析出することができる。
【0028】
弗素含有廃液として、弗素濃度が異なる2種類以上の弗素含有廃液があり、かつ、その弗素イオン濃度が著しく変化する場合(通常、これに伴って、重金属イオン濃度も変化する)、弗化カルシウム析出槽中での析出量が不安定になり、かつ、微細粒子が多く発生し、高分子凝集材の量が不足し、フロック化が不十分となり、安定的な固液分離操作が難しくなる。また、弗素イオン濃度の変化が激しいと、弗素含有廃液中の重金属イオン濃度も伴って変化するが、水酸化金属の溶解度はあるpHに対して一定であるので、各重金属イオンの大部分が析出するpHが変化し、弗化カルシウム析出槽で弗化カルシウム主体の粒子を析出するための最適なpHは常に変化してしまい、安定的な分離率を得ることはできない。これに対し、弗素イオン濃度を連続的に測定しながら、弗素イオン濃度を一定に調整するよう弗素イオン濃度の異なる2種類以上の弗素含有廃液を混合することにより、弗素イオンと重金属イオンとの分離率を安定的に維持することができる。
【0029】
前記の析出した弗化カルシウム主体の粒子は高分子凝集剤投入後、沈澱槽、遠心分離機そして濾過装置などで分離することができる。分離した一部の弗化カルシウム主体の粒子を再度弗化カルシウム析出槽に投入することにより、弗化カルシウム主体の粒子に、さらに、弗素イオンとカルシウムイオンを接触させて粒子径を増大化することができ、直径0.1μm以下の粒子を0.3〜200μmの緻密な粒子にすることができる(粒子径測定方法:レーザー回折・散乱法)。
【0030】
この場合、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる反応槽内の固形物量をA(kg)とし、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子が新たに析出する量をB(kg/日)としたとき、
A÷Bを0.05(日)以上、1.0(日)以下にするのがよい。
具体的には、沈殿槽で分離、もしくは、濾過装置で分離した弗化カルシウム主体の粒子からなるスラリー濃度を適宜測定しながら、弗化カルシウム析出槽内に投入するスラリー量を決定したり、あるいは、弗化カルシウム析出槽内のスラリー濃度を連続測定することで、弗化カルシウム析出槽内のスラリー濃度を一定にする。このようにして粒子径を増大化した粒子を含むスラリーは、一部、引抜かれ、脱水機により脱水されケーキ(弗化カルシウム系脱水ケーキともいう)となる。
【0031】
弗素イオンを分離した後の3価の鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンなどの重金属イオンを含む廃液は、アルカリ剤を投入して、pH6以上10以下にすることで、水酸化物として析出する。これらの水酸化物からなる粒子は、高分子凝集剤投入後、沈澱槽で分離したり、または、濾過装置により分離することができる。分離された重金属主体の粒子を含むスラリーは、引抜かれ、脱水機により脱水されケーキ(重金属系脱水ケーキ)となる。
【0032】
また、重金属系脱水ケーキを、ステンレスあるいは合金鉄原料として利用する場合、他原料との混合比に大きく左右されるが、弗素含有量をおおよそ20質量%(ドライ換算)以下、好ましくは10質量%(ドライ換算)以下にする必要がある。弗素含有量が20質量%超(弗化カルシウム換算で41.1%超)のような弗化カルシウムを多量に含んだ脱水ケーキをステンレス原料もしくは合金鉄原料として使用した場合、下記(1)式の反応により弗化水素(HF)が生成し、ステンレス原料中の弗素含有量が高いと(1)式はより顕著となる。この弗化水素は該精錬炉の排ガス系や排ガス処理水系等の設備を腐食させてしまう。
CaF2+H2O→CaO+2HF ・・・(1)
【0033】
よって、重金属析出槽内で析出する金属鉄主体の粒子中の弗素含有量をおおよそ20質量%(ドライ換算)以下にするためには、弗化カルシウム析出槽から排出される処理水中の弗素イオン濃度を測定し、弗素イオン濃度を制御する必要がある。
具体的には、弗素イオン濃度を手分析、好ましくはイオン電極を用いた連続分析(イオン電極法)で把握し、その弗素イオン濃度値が制御値より高い場合には、弗化カルシウム析出槽中にカルシウムを含む物質を入れ、弗化カルシウムを析出させ、弗化カルシウム析出槽からの処理水中の弗素イオン濃度を制御値まで下げるようにする。
【0034】
制御値としては、重金属析出槽内で析出する金属鉄主体の粒子中の弗素含有量をおおよそ20質量%(ドライ換算)以下にするように、金属鉄主体の粒子中の成分を随時測定しながら決定する。また、ステンレス鋼板を酸洗した場合に発生する弗素含有廃液としては、通常、鋼板の酸洗した後の濃厚な酸廃液と、鋼板の表面に残存した酸を水で洗い流す際に発生するリンズ廃液がある。リンズ廃液中の弗素イオン濃度は100〜3000mg/Lと低濃度であるが、濃厚な酸廃液中の弗素イオン濃度は80〜300g/L程度と高濃度であり、濃度差が非常に大きく、かつ、それぞれ大きく変動する。
【0035】
このような濃度変化が激しい弗素含有廃液を混合して処理すると、弗化カルシウム析出槽中での析出量が不安定になり、安定的な固液分離操作が難しくなる。また、弗素イオン濃度の変化が激しいと、弗素含有廃液中の金属イオン濃度も伴って変化するが、水酸化金属の溶解度はあるpHに対して一定であるので、金属イオンが析出するpHが変化し、弗化カルシウム析出槽で弗化カルシウム主体の粒子を析出するための最適なpHは常に変化してしまい、安定的な分離率を得ることはできない。
【0036】
これに対し、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液に、弗素イオン濃度の高い酸廃液を少量ずつ一定量投入し弗素濃度変動の平準化を行うことが有効となる。より好ましくは、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液と弗素イオン濃度の高い酸廃液を混合する原水調整槽において、弗素イオン濃度を弗素イオン電極にて連続的に測定しながら、弗素イオン濃度の高い酸廃液の投入量を制御し、弗素イオン濃度を一定に調整することがより有効である。または、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液と弗素イオン濃度の高い酸廃液を、それぞれ弗素イオン電極にて連続測定を行い、それぞれの濃度から各廃液の混合比を決定することが有効である。
【0037】
弗素濃度が著しく変化する3種類以上の弗素含有廃液を混合する場合においても、原水調製槽において、弗素イオン濃度を弗素イオン電極にて連続的に測定しながら、1つの弗素含有廃液の投入量を制御し、弗素イオン濃度を一定に調整することが有効である。または、それぞれの弗素含有廃液を、それぞれ弗素イオン電極にて連続測定を行い、それぞれの濃度から各廃液の混合比を決定することが有効である。
【0038】
弗素イオン濃度が著しく変化する複数の弗素含有廃液を混合した混合液中の弗素イオン濃度を一定に制御しても、弗素イオン濃度に対する3価の鉄イオン濃度の比が変化すると、弗化カルシウム析出槽内のpHをある値に制御していても、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を含有するスラリーを固液分離によって生じる液体部の弗素イオン濃度も変化し、所定の弗素分離能力を安定的に維持できない。例えば、弗酸を含む酸でステンレス材を酸洗していくと、徐々に酸洗液中の3価の鉄イオン濃度が上昇する場合に起こる現象に相当する。
【0039】
これに対して、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を含有するスラリーを固液分離によって生じる液体部の弗素イオン濃度を連続又は間欠に測定し、その弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することが重要になる。制御方法としては、固液分離によって生じる液体部の弗素イオン濃度を弗素イオン電極にて連続又は間欠に測定し、カルシウムを含む物質の投入量を制御するのが良い。
【0040】
制御時間間隔は、カルシウムを含む物質を投入する弗化カルシウム析出槽から液体部を得る固液分離までの水理学的滞留時間(通常1〜3時間)の1倍から3倍とするのが良い。具体的には、固液分離によって生じる液体部の弗素イオン濃度が設定値に対して差異がある場合、数時間から10時間毎に、弗化カルシウム槽のpHを0.05から0.5程度ずつ微調整を行うか、前記の酸の投入量を段階的に変化させるか、または、塩化カルシウム、石膏、硝酸カルシウムなどのカルシウムを含む塩の投入量を段階的に変化させるかが良い。このようにすることで、固液分離によって生じる液体部の弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することができる。
【0041】
カルシウムを含む物質が炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ剤である場合には、酸もしくは廃酸を添加し、3価の鉄イオンが廃液中に存在しない場合、または、3価の鉄イオンが混入してもよい場合は、弗化カルシウム析出槽のpHを6以下に調整し、3価の鉄イオンの混入を低下させる場合は、pHを3.7以下、より好ましくはpH3.0以下にすることで、重金属イオンが析出するのを抑制することができる。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸などがあげられるが、石膏析出を伴う、硫酸の適用はあまり好ましくない。
【0042】
弗化カルシウム析出槽で析出する弗化カルシウム主体の粒子の粒子径は、200μm以下であり、粉砕した蛍石(例えば、0.3μm〜1mm)と比べ、粒子径が小さく比表面積が大きい。このため、弗化カルシウム析出槽で析出する弗化カルシウム主体の粒子は、蛍石と主成分が同じ弗化カルシウムであるため、金属精錬過程のスラグの滓化促進剤、あるいは、弗化水素酸の原料である蛍石の代替物として使用することができ、しかも、粉砕した蛍石より比表面積が大きいことより、反応性が良く、スラグの滓化時間の短縮や弗化水素酸の生成速度を上昇させることができる。
【0043】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図2には、本発明の弗素含有廃液の処理方法に係る処理装置の一例を示す。図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る弗素含有廃液の処理方法に適用される処理装置1は、(1)原水調整工程、(2)弗素イオン析出工程、(3)重金属イオン析出工程、の3工程からなる。
まず、原水調整工程は、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液2の投入量を制御するレベル計7とバルブ4と、弗素イオン濃度の高い濃厚な酸廃液3の投入量を制御する弗素イオン電極8とバルブ5と、原水調整槽6内を攪拌する攪拌機10と、原水調整槽6内のpHを測定するpH計9と、原水調整槽6内の弗素含有廃液を弗化カルシウム析出槽12(弗素イオン析出工程)へ送るポンプ11からなる。
【0044】
次の弗素イオン析出工程は、原水調整工程からの処理水を受け入れる弗化カルシウム析出槽12と、弗化カルシウム析出槽12内を循環する攪拌装置13と、弗化カルシウム析出槽内のpHと弗素イオン濃度を測定するpH計15と、原水調整工程からの処理水中の弗素イオンを弗化カルシウムとするためにカルシウム源となるカルシウム剤を投入するバルブ16と、弗化カルシウム析出槽内のpHを制御するpH調整剤を投入するバルブ17と、弗化カルシウム析出槽12からのスラリーを受け入れ、凝集剤19と混合する凝集槽18と、凝集槽18からのスラリーから液体部を分離する沈澱槽20と、沈澱槽20で分離した液体部中の弗素イオン濃度を測定する弗素イオン電極14と、沈澱槽20で回収した沈澱スラリーを弗化カルシウム析出槽12へ送液するポンプ21とからなる。沈殿槽20で分離された液体は、次の金属析出工程へは自然流下で移送される。
【0045】
最後の重金属析出工程は、弗素イオン析出工程からの処理水を受け入れる重金属析出槽23と、重金属析出槽23内を攪拌する攪拌装置24と、重金属析出槽23内のpHを測定するpH計25と、弗素イオン析出工程からの処理水のpHを制御するためのアルカリ剤を投入するバルブ26と、重金属析出槽23からのスラリーを受け入れ、凝集剤27と混合する凝集槽28と、凝集槽28からのスラリーから液体部を分離する沈澱槽29と、沈澱槽29で回収した沈澱スラリーを重金属析出槽23へ送液するポンプ32とからなる。沈殿槽29で分離された液体(処理水)は、配管31により排水される。
【0046】
次に、図2に基づいて、本発明である弗素含有廃液の処理方法の一実施形態について説明する。
ステンレス鋼板を酸洗した際や、半導体製造工程のエッチング工程などで発生する弗化水素酸を含有した酸性液で、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液2をバルブ4により、弗素イオン濃度の高い濃厚な酸廃液3をバルブ5により、原水調整槽6に投入する。原水調整槽6内のpH計9および弗素イオン濃度計8でpH値および弗素イオン濃度を連続して測定する。
【0047】
ステンレス鋼板を酸洗した際に発生する弗素イオン含有廃液は、pH1〜3で、弗素イオンを0.1〜300g/L含み、Fe、Cr、Ni等の金属を総量で1〜100g/L溶解しており、これらの金属のほとんどは金属イオンとして溶解して存在している。半導体製造工程のエッチング工程から排出される弗素イオン含有廃液は、pH1〜3で、弗素イオンを0.1〜300g/L含み、Siなどの元素を微量に含んでいる。
【0048】
ステンレス鋼板を酸洗した際に発生する弗素イオン含有廃液としては、通常、鋼板の酸洗した後の濃厚な酸廃液と、鋼板の表面に残存した酸を水で洗い流す際に発生するリンズ廃液がある。リンズ廃液中の弗素イオン濃度は100〜3000mg/Lで低濃度であるが、濃厚な酸廃液中の弗素イオン濃度は80〜300g/L程度で高濃度であり、濃度差が非常に大きい。弗素イオン析出工程での弗素イオン除去率を一定にするためには、原水調整工程での弗素イオン濃度の平準化が重要であり、弗素イオン濃度の平均値に対する変動幅を±50%以下、より好ましくは±20%以下に平準化することが重要である。
【0049】
そこで、弗素イオン濃度の低いリンズ廃液2に弗素イオン濃度の高い濃厚な酸廃液3をバルブ5を操作して少量切り出しにより投入したり、原水調整槽6内に設置している弗素イオン濃度計8の測定値で弗素イオン濃度の高い濃厚な酸廃液3の投入量をバルブ5で制御したりすることで、原水調整工程での弗素イオン濃度の平準化が可能である。
【0050】
次に、原水調整槽6に連結したポンプ11を作動して、原水調整槽6内の弗素イオン含有廃液を弗化カルシウム析出槽12に投入する。沈澱槽20からの処理水中の弗素イオン濃度を弗素イオン濃度計により、連続もしくは間欠に測定しながら、バルブ16により弗化カルシウムとするためにカルシウム源となるカルシウム剤の投入量を制御し、弗素イオンを弗化カルシウムとして析出させる。また、弗化カルシウム析出槽内に塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などの酸およびこれらを含む廃酸からなるpH調整剤をバルブ17により投入し、pHを2.0〜3.7に制御することで、好ましくはpHを2.0〜3.0に制御することで、3価の鉄イオンを含む重金属イオンとの分離を促進することができる。
【0051】
制御時間間隔は、カルシウムを含む物質を投入する弗化カルシウム析出槽から液体部を得る固液分離までの水理学的滞留時間(通常1〜3時間)の1倍から3倍とし、具体的には、数時間から10時間毎に、弗化カルシウム槽のpHを0.05から0.5程度ずつ微調整を行うか、あるいは、前記の酸の投入量を段階的に変化させるか、あるいは、塩化カルシウム、石膏、硝酸カルシウムなどのカルシウムを含む塩の投入量を段階的に変化させるかが良い。
【0052】
なお、弗化カルシウム析出槽内の水理学的滞留時間は5分〜60分程度が妥当である。弗素イオンと3価の鉄イオンを分離せず、クロムイオンとニッケルイオンを弗素イオンから分離する場合、弗化カルシウム析出槽のpHは3.8〜6にする。析出した弗化カルシウムを含むスラリーは、弗化カルシウム析出槽12から凝集槽18に投入され、そこで、高分子凝集剤19(アニオン系高分子凝集剤)を添加することにより凝集体を形成し、そのスラリーは沈澱槽20に導き弗化カルシウムを主に含む粒子群は固体部として沈降し、液体部と固液分離を行う。
【0053】
沈降して固体部として分離した弗化カルシウムを主に含む粒子群をスラリーとしてポンプ21によって弗化カルシウム析出槽12に投入し、弗化カルシウム主体の粒子に、さらに、弗素イオンとカルシウムイオンを接触させて粒子径を増大化することができ、凝集体中の1つ1つの粒子は、当初、直径0.1μm以下の粒子であるが、0.3〜200μmの粒子にすることができる。なお、凝集槽の水理学的滞留時間は5〜15分程度が妥当であり、沈澱槽のOFR(水表面積負荷)は、通常、20〜100m/D程度が妥当である。
【0054】
粒子径を大きくするには、弗化カルシウム析出槽、凝集槽、沈殿槽の容量にもよるが、SRT(汚泥滞留時間)で数時間から数日程度かかる。沈澱槽20から引抜かれるスラリーの一部を図示していない脱水機(フィルタープレス脱水機、真空脱水機、遠心分離機など)に投入し、脱水を行い、弗化カルシウム主体の脱水ケーキ作り、それを乾燥させて蛍石代替として利用する。また、重金属イオン混入量が少なく重金属イオンと分離する必要がない場合(例:半導体製造過程から排出される弗素イオンを含んだ排水)では、弗化カルシウム析出槽のpHを7〜9に制御することで、弗素イオンを含んだ排水中より弗素イオンを弗化カルシウムとして析出することができる。
【0055】
次に、重金属析出槽23内には、沈澱槽20で分離された液体部を連続して供給するとともに、第2回目の中和処理として、バルブ26を作動して、苛性ソーダ、生石灰、消石灰、水酸化マグネシウムののうちの1種又は2種以上からなるアルカリ剤の水溶液又はスラリーを添加して、pHを6以上10以下の範囲に調整する。重金属析出槽23内に設置している攪拌装置24により重金属析出槽23内を攪拌し、3価鉄イオンは水酸化鉄(III)、3価のクロムイオンは水酸化クロム、ニッケルイオンは水酸化ニッケルとして析出し、水酸化金属主体の粒子になる。
【0056】
重金属析出槽23から排出された水酸化金属主体の粒子を含有するスラリーは、凝集槽28において高分子凝集剤27(アニオン系高分子凝集剤)によりフロックを形成し、その後、沈澱槽29で液体部と固形部に分離され、液体部は放流される。固形部を再度、重金属析出槽23に戻し、3価鉄イオンと3価クロムイオンおよび2価ニッケルイオンは、重金属析出槽23に戻された固形部表面で析出し、水酸化金属主体の粒子は大きくなる。粒子径を大きくするには、重金属析出槽、凝集槽、沈殿槽の容量にもよるが、数時間から数日程度かかる。大きくなった水酸化金属主体の粒子を含むスラリーは、沈澱槽29で分離し、一部、脱水機(フィルタープレス脱水機、真空脱水機、遠心分離機など)によって脱水し、弗素分が少ない水酸化金属主体の脱水ケーキを製造する。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
弗素イオン含有廃液であるリンズ廃液と濃厚な酸廃液として、表1に示すように、弗素イオン、3価鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンを含み、大きく時間的に濃度変動がある弗素含有廃液を使用し、図2の処理装置を用いて、この弗素イオン含有廃液の処理を行った。原水調整槽、弗化カルシウム析出槽、重金属析出槽の容量はそれぞれ、30L、60L、60Lであり、沈澱槽20、29の直径は60cmである。
【0058】
【表1】

【0059】
原水調整槽6内に設置したレベル計7によってバルブ4を開閉し、リンズ廃液2を原水調整槽6に間欠に供給した。原水調整槽内6内に設置した弗素イオン電極8によって、原水調整槽6内の弗素イオン濃度が1250mg/Lになるように、バルブ5を開閉し、濃厚な酸廃液3を原水調整槽6に間欠に供給し、攪拌機10によってリンズ廃液2と混合し、均一化した。ポンプ11によって、原水調整槽6内の弗素含有廃液を弗化カルシウム析出槽12に連続的に投入(2L/分)するとともに、弗化カルシウム析出槽内のpHを一定に3.0になるように、バルブ17を操作し、酸化カルシウムスラリー(100g/L)を弗化カルシウム析出槽12内に断続的に添加し、攪拌機13で弗化カルシウム析出槽12内を攪拌して弗素イオンを弗化カルシウムとして析出させながら、重金属類の析出を抑制した。
【0060】
弗化カルシウム析出槽12からでるスラリーに高分子凝集剤19(アニオン系高分子凝集材)を凝集槽18で添加しフロックとした後、沈澱槽20で固液分離を行った。沈澱したスラリーはポンプ21によって、再度、弗化カルシウム析出槽12へ500ml/分(スラリー濃度270〜330g/L)で戻し、析出する弗化カルシウムを主体に含む粒子の粒子径を増大化した。この際、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する弗化カルシウム析出槽内の固形物量をA(kg)とし、新たに析出した弗化カルシウム主体の固形物量をB(kg/日)としたとき、
A÷Bは0.5〜0.6(日)となった。
【0061】
間欠的に、沈澱槽20で回収したスラリーの一部を配管22から抜き出し、0.5MPaの加圧力を有するフィルタープレス脱水機で脱水して、脱水ケーキ(弗化カルシウム系ケーキ)とした。沈澱槽20からの処理水を一部採水し、弗素イオン電極14によって連続測定し、弗素イオン濃度が190mg/Lとなるように、弗化カルシウム析出槽12に希塩酸を連続投入した。希塩酸の投入量の変化は、弗化カルシウム析出槽12から沈澱槽20までのタイムラグである6時間ごとに微調整した。
【0062】
沈澱槽20で分離した処理水(液体部)を、自然流下で重金属析出槽23に投入し、バルブ26を操作することによって酸化カルシウムスラリー(100g/L)を投入し、重金属析出槽内のpHを8に維持した。重金属析出槽23内は攪拌装置24により攪拌している。重金属析出槽23内からのスラリーに高分子凝集剤27を凝集槽28で添加しフロックとした後、沈澱槽29で固液分離を行った。沈澱したスラリーはポンプ32によって、再度、重金属析出槽40へ500ml/分(スラリー濃度230〜285g/L)で戻して、析出する水酸化金属を主体に含む粒子の粒子径を増大化した。
【0063】
この際、水酸化金属主体の粒子の凝集体を生成する重金属析出槽内の固形物量をA(kg)とし、新たに析出した水酸化金属主体の固形物量をB(kg/日)としたとき、
A÷Bは0.9〜1.1(日)となった。
間欠的に、沈澱槽29で回収したスラリーの一部を配管30から抜き出し、0.5MPa(ゲージ圧)の加圧力を有するフィルタープレス脱水機で脱水して、脱水ケーキ(水酸化金属系ケーキ)とした。この際の原水調整槽6からの処理水質、弗化カルシウム析出工程の沈澱槽20からの処理水質、重金属析出工程の沈澱槽29からの処理水質を表2に、弗化カルシウム系ケーキと水酸化金属系ケーキの成分を表3に示す。
【0064】
原水調整槽6からの処理水中の弗素濃度の平均値に対する変動率は約±15%に抑制し、それに伴い、重金属濃度の変動も抑制でき、その結果、沈殿槽20からの処理水のSS(浮遊物質濃度)を10〜20mg/Lと抑制でき、かつ、弗化カルシウム析出槽12において、原水調整槽6からの処理水中の弗素イオン、3価の鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオンは、それぞれ、おおよそ85%、20%、4%、2%析出し、鉄の析出を抑制しながら弗素イオンを分離することができた。弗化カルシウム系ケーキ中の弗化カルシウム量は約95%になり、重金属系脱水ケーキ中の弗素濃度は低下し、重金属濃度が相対的に増加し、ステンレス原料として利用できる成分組成になった。また、弗化カルシウム析出槽および重金属析出槽中の粒子径は、それぞれ1〜85μm、1〜27μmであり増大化した。その結果、脱水後の水分は低下した。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
原水調整槽6内で弗素イオン濃度制御を実施せずに、リンズ廃液に濃厚な酸廃液を少量ずつ切り出して混合した場合、原水調整槽6からの処理水中の弗素濃度は大きく振れ、弗素濃度の平均値に対する変動率は約120%にも達し、それに伴い、重金属濃度の変動も抑制できず、その結果、沈殿槽20からの処理水のSSは300〜500mg/Lと高くなり、重金属系ケーキ中(固形物成分)の弗素成分およびカルシウム成分はそれぞれ24%、26%にもなり、原水調整槽6における弗素イオン濃度制御の重要性が証明できた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】pHと弗化カルシウムの溶解度積の関係を示す図である。
【図2】弗素含有排水の処理方法に供する装置の1例を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 弗素含有廃液の処理装置
2 リンズ廃液
3 濃厚な酸廃液
4 バルブ(リンズ廃液投入用)
5 バルブ(濃厚な酸廃液投入用)
6 原水調整槽
7 レベル計
8 弗素イオン電極
9 pH計
10 攪拌機
11 ポンプ
12 弗化カルシウム析出槽
13 攪拌機
14 弗素イオン電極
15 pH計
16 バルブ(pH調整剤投入量)
17 バルブ(カルシウム源投入用)
18 凝集槽
19 高分子凝集剤
20 沈澱槽
21 ポンプ
22 配管
23 重金属析出槽
24 攪拌装置
25 pH計
26 バルブ(アルカリ剤投入用)
27 高分子凝集剤
28 凝集槽
29 沈澱槽
30 配管
31 処理水
32 ポンプ


特許出願人 新日鐵住金ステンレス株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1名



【特許請求の範囲】
【請求項1】
弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程と、前記工程の処理液に高分子凝集剤を添加して、弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する工程と、前記凝集体を生成する工程の処理液を固液分離して、弗化カルシウム主体の粒子を固体部として回収する工程とを有し、前記回収した固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入し、固体部中の弗化カルシウム主体の粒子に、更に弗化カルシウムを析出させて粒子径を増大化し、当該増大化した弗化カルシウム主体の粒子を前記固液分離により固体部として回収することを特徴とする弗素含有廃液の処理方法。
【請求項2】
前記回収した弗化カルシウム主体の粒子からなる固体部の一部を前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程に投入する際に、弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程内の固形物量をA(kg)とし、弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素含有廃液に、カルシウムを含む物質を添加して、弗化カルシウム主体の粒子が新たに析出する量をB(kg/日)としたとき、A÷Bを0.05(日)以上、1.0(日)以下にすることを特徴とする請求項1記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項3】
前記固液分離によって固体部と分離される重金属イオンを含む液体部を、pH6超10以下に調整して重金属主体の粒子を析出させる工程と、当該重金属主体の粒子を析出させる工程の処理液に高分子凝集剤を添加して、重金属主体の粒子の凝集体を生成する工程と、当該重金属主体の凝集体を生成する工程の処理液を固液分離によって重金属主体の粒子を固体部として回収する工程とを更に有することを特徴とする請求項1または2に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項4】
前記金属イオンにCr3+、Ni2+の少なくともいずれかを含む場合、前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる際のpH調整をpH3.8以上6以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項5】
前記金属イオンにFe3+を含む場合、前記弗化カルシウム主体の粒子を析出させる際のpH調整をpH2.0以上3.7以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項6】
前記回収した重金属主体の固体部の一部を前記重金属主体の粒子を析出させる工程に投入し、固体部中の重金属主体の粒子に、更に重金属イオンを接触させて粒子径を増大化し、当該増大化した重金属主体の粒子を固液分離により回収することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項7】
弗素イオンと重金属イオンを含有する弗素濃度の異なる2種類以上の弗素含有廃液を混合して処理する場合、弗素イオン電極を用いて、混合後の弗素含有廃液中に含まれる弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項8】
弗化カルシウム主体の粒子の凝集体を生成する工程での処理液を、固液分離した後の液体部の弗素イオン濃度を連続又は間欠に測定し、当該測定濃度に応じて弗化カルシウム主体の粒子を析出させる工程へ投入するカルシウムを含む物質の投入量を制御することで、その弗素イオン濃度の変動幅を±50%以内に制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項9】
前記固液分離して固体部として回収した弗化カルシウム主体の粒子を、金属精錬過程のスラグの滓化促進剤、又は弗化水素酸の原料である蛍石の代替物として使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項10】
前記固液分離して固体部として回収した重金属主体の粒子を、ステンレス原料、又は合金鉄原料として使用することを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。
【請求項11】
前記添加するカルシウムを含む物質が、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムのうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の弗素含有廃液の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−196177(P2007−196177A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19997(P2006−19997)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】