説明

弗素系樹脂モノフィラメント、その製造方法および工業織物

【課題】長さ方向の線径変動が従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べてはるかに小さく、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこのモノフィラメントを使用した工業織物を提供する。
【解決手段】エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる直径0.05mm〜1.5mmのモノフィラメントであって、線径変動率が5%以下である弗素系樹脂モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、長さ方向の線径変動が従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べてはるかに小さく、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこのモノフィラメントを使用した工業織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂などのいわゆる汎用エンプラまたはスーパーエンプラと称される熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントは、耐熱性、強度、剛性などの優れた特性を有することから、各種の産業資材用途に好ましく使用されてきた。
【0003】
また、近年では特に優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を有する弗素系樹脂が注目され、ポリフッ化ビニリデン樹脂などからなるモノフィラメントが、水産資材用途などに好ましく使用されている。
【0004】
一方、工業織物の分野においても、優れた特質を有する弗素系樹脂からなるモノフィラメントの要求が高まってきたが、特に製紙業界の製紙用具用織物用途に使用されるモノフィラメントは、織物の均質性を得るために、とりわけ長さ方向の線径の均一性が求められており、線径変動の小さいモノフィラメントを得るための種々の検討が従来よりなされてきた。
【0005】
かかる線径変動の小さいモノフィラメントに関する従来技術としては、(A)冷却を均一に行うことによって得られる糸斑のないモノフィラメントおよびその製造方法(例えば、特許文献1参照)、および(B)線径変動率の小さい溶融液晶性ポリエステルからなる芯鞘型複合繊維およびその製造方法(例えば、特許文献2参照)などがすでに提案されている。
【0006】
また、(C)ミスト冷却によって得られる線径変動率が小さい高融点モノフィラメントおよびその製造方法(例えば、特許文献3参照)、および(D)ミスト冷却によって得られる線径変動率が小さいポリオレフィンモノフィラメントおよびその製造方法(例えば、特許文献4参照)についてもすでに提案されている。
【0007】
しかしながら、上記(A)、(B)、(C)および(D)で提案されている従来技術は、いずれも目的とする特性を付与することについては所期の効果が認められるものの、製紙業界の製紙用具用織物用途に使用されるモノフィラメントなどのように、より小さな線径変動が要求される用途においては、いずれもその効果は必ずしも満足できるものとはいいにくいものであった。
【0008】
また、これらの従来技術に、弗素系樹脂、特にエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を適用したとしても、線径の長さ方向の線径変動率を5%以下に押さえたモノフィラメントを得ることはできなかった。
【特許文献1】特開平11−93015号公報
【特許文献2】特開平9−296324号公報
【特許文献3】特開2001−279522号公報
【特許文献4】特開2002−88568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの特質を遺憾なく発揮できると共に、長さ方向の線径変動が従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べてはるかに小さく、工業織物の少なくとも一部に使用した場合に、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができるエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント、その製造方法およびこのモノフィラメントを使用した工業織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明によれば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる直径が0.05〜1.5mmのモノフィラメントであって、アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が5%以下であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメントが提供される。
【0012】
また、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・冷却するに際して、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置すると共にこの筒状体中へ不活性ガスを流通せしめ、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに前記筒状体を経て冷却媒体浴へと導いて冷却し、次いで得られた未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取り、引き続き少なくとも1段以上の多段で延伸または延伸/熱セット処理を行うと共に、その際の最終引き取り速度を25〜75m/分で行うことを特徴とする。
【0013】
そして、本発明の工業織物は、上記弗素系モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、特に製紙用具用織物用途、フィルター用織物用途、ベルト用織物用途などの工業織物用途に適用した場合に、その効果を遺憾なく発揮する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる弗素系樹脂モノフィラメントは、長さ方向の線径変動が、従来のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメントに比べて飛躍的に改良されたものであることから、工業織物とした場合に筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができ、弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの効果を良好に維持した工業織物、特に製紙用具用織物やフィルター用織物およびベルト用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明のエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなるモノフィラメント(以下ETFEモノフィラメントと記す)は、その線径変動率が5%以下と、従来のETFEモノフィラメントに比較してきわめて小さいことを特徴とするものである。
【0017】
ここで、本発明のETFEモノフィラメントの長さ方向の線径変動率(%)とは、モノフィラメント試料について、まずアンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用して、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して求めた値である。
【0018】
本測定法は、レーザー散乱光によってモノフィラメントの外径を長径、短径を含めて測定するものであり、従来のマルチフィラメントの繊径変動を誘電率の変化から求めた断面積の変動で測定する方法とは異なるものである。
【0019】
次に、本測定条件は、モノフィラメントの外径測定を長さ方向に約2.5cm毎に1回、約25mの長さにわたって行い、その測定点1024回分のデーターを処理して標準偏差(σ)を求め、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率(%)を評価するものである。
【0020】
なお、このような測定法で測定した本発明のETFEモノフィラメントの長さ方向の線径変動率は、5%以下、好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下である。
【0021】
上記のように線径変動率がきわめて小さい本発明のETFEモノフィラメントは、工業織物とした場合に、筋、縞、段などの目ずれの発生を効果的に抑えることができることから、線径変動率が問題とされる各種の工業織物用途に好ましく使用することができるが、なかでも製紙用具用織物やフィルター用織物およびベルト用織物として好ましく適用することができ、その場合には従来にない優れた効果を発現することができる。
【0022】
本発明のETFEモノフィラメントを形成するポリマーは、上記のようなモノフィラメントの特性を満足するエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0023】
なお、本発明で用いる上記エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂には、必要に応じて、例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤および可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合行程、重合後あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0024】
上記の特性を有する本発明のETFEモノフィラメントは、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
【0025】
まず、上記ETFEモノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、ETFE樹脂を先端に計量用ギヤポンプとスピンブロックを有するエクストルーダー型紡糸機に供給し、紡糸温度を285〜325℃で溶融混練した後、その溶融物を紡糸口金から溶融押出す。
【0026】
このように溶融押出した紡出糸条を冷却媒体浴に導いて冷却するに際しては、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置して、この筒状体中へ不活性ガスを流通せしめ、紡出糸条を直ちに前記筒状体を経て冷却媒体浴へと導いて冷却し、次いで得られた未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取って未延伸糸を得る。
【0027】
この筒状体中へ不活性ガスを流通せしめることにより、ポリマーの酸化を抑制し、口金孔周辺に滞留する熱変性異物等を減少させ、安定した線径の未延伸糸を得ることが可能となる。さらに、紡糸口金にはニツケル合金製口金を用いることによって、口金孔周辺に滞留する熱変性異物等の離形効果が向上する。
【0028】
また、未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取ることが重要であり、引取速度が5m/分より遅い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で蛇行してしまい線経バラツキを悪化させる傾向にあるため好ましくないばかりか、隣同士の未延伸糸条が融着してしまい得ることができなくなる。
【0029】
一方、未延伸糸の引取速度が15m/分より速い場合は、未延伸糸が冷却媒体浴内で引き延ばされてしまい真円性が損なわれ、これまた本発明の目的とする均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、未延伸糸が途中で断糸してしまい得ることができなくなる。
【0030】
次に、得られた未延伸糸を、少なくとも1段以上の多段で延伸または延伸/熱セット処理を行うと共に、その際の最終引き取り速度を25〜75m/分で行いETFEモノフィラメントを得る。
【0031】
所望の強伸度や熱収縮特性を得るために、少なくとも1段以上の多段で延伸する。安定な延伸性を得るためには、延伸温度は、一段目の延伸温度よりも高い温度に二段目は設定し、かつ総合延伸倍率が4.0〜6.0倍になるように行う。
【0032】
これは、延伸倍率が低すぎると得られるETFEモノフィラメントに所望の強伸度や熱収縮特性が得られにくくなり、逆に高すぎると糸切れの原因となりやすいためであり、より良好な熱収縮特性を得るためには、さらに4.5〜5.5倍であることが好ましい。
【0033】
また、延伸温度が低すぎると延伸時に高い張力が掛かり、糸切れの原因となりやすく、逆に高すぎるとETFE樹脂の融点に近くなり、延伸浴内で糸切れが発生しやすくなるため、延伸温度を80〜200℃とすることが必要であり、さらには70〜200℃とすることが好ましい。
【0034】
ここで、延伸工程で使用する熱媒体としては、ETFEモノフィラメントの表面から容易に除去することができ、かつETFEモノフィラメントに対して物理的、化学的な変化を本質的に与えることがない物質であれば如何なるものをも使用することができるが、本発明は比較的低い温度で一段目の延伸を行うことから、経済的には温水浴または加熱空気浴が好適である。また、二段目の延伸工程で使用する熱媒体としては、一般的に、高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などの加熱装置が好適である。
【0035】
少なくとも1段以上の多段で延伸されたETFEモノフィラメントは、延伸工程で得られた所望の強伸度や熱収縮特性をさらに向上させ、かつそれを保持するために、必要に応じて熱セット処理に供されるが、このセット処理の温度は120〜240℃とすることが必要であり、さらには140〜220℃とすることが好ましい。
【0036】
また、セット倍率は0.85〜1.20倍で、所望の熱収縮特性を得るために必要な条件である。
【0037】
このセット倍率が低すぎると、得られるETFEモノフィラメントの熱収縮率が低くなるため、工業織物の熱セット後の納まりが悪くなるばかりか、筋、縞、段などの目ずれ等も発生しやすくなり、逆にセット倍率が高すぎると、糸切れの原因となりやすいため、好ましくはセット倍率を0.90〜1.05倍とすることが必要であり、さらには0.95〜1.01倍とすることがさらに好ましい。
【0038】
ここで、セット処理工程で使用する加熱装置としては、上述した二段目の延伸と同様な高沸点の不活性液体を満たした液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉および高周波炉などを挙げることができる。
【0039】
そして、セット処理されたETFEモノフィラメントは、その表面に必要に応じて油剤が付与され、その後巻具に巻き取られる。
【0040】
最終引き取り速度は25〜75m/分で行うことが好ましい。
【0041】
上記の通り、未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取った後、所望の強伸度や熱収縮特性を得るために少なくとも1段以上の多段で延伸または延伸/熱セット処理を行うことで長さ方向の線径変動が小さいETFEモノフィラメントを得ることができる。
【0042】
この最終引き取り速度は未延伸糸引き取り速度に延伸倍率または延伸倍率/熱セット処理倍率を掛け合わせて求められるが、最終引き取り速度が25m/分より遅い場合は、延伸斑の原因となり、均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくないばかりか、所望の強伸度や熱収縮特性が不均一となりやすくなる。
【0043】
また、最終引き取り速度が75m/分より速い場合は、糸切れの原因となりやすいためであり、より良好な均一な線径や所望の強伸度および熱収縮特性を得るには、最終引き取り速度は30〜65m/分であることが好ましい。
【0044】
こうして得られた本発明のETFEモノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントにはない小さい線径変動率のため、このETFEモノフィラメントを工業織物の少なくとも一部に使用することが可能となるのである。
【0045】
また、本発明のETFEモノフィラメントからなる工業織物は、製紙用具用織物やフィルター用織物およびベルト用織物に使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、筋、縞、段などの目ずれが発生しにくく安定した織面を保持することが可能であり、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体樹脂の持つ易成型性、耐薬品性、電気特性、高耐候性、難燃性、安全性、非粘着性、二次加工性などの優れる特性を遺憾なく発揮する。
【0046】
なお、本発明のETFEモノフィラメントは、一本の連続糸であるが、必要に応じて複数本合わせて撚糸・熱セットしたもの、および単糸を捻って熱セットしたものであってもよい。
【0047】
また、本発明のETFEモノフィラメントの断面形状については、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉,6葉,7葉,8葉などの多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型および馬蹄型などを挙げることができ、また、これらの形状を一部変更したものであってもよい。
【0048】
さらにまた、本発明のETFEモノフィラメントの直径についても、その用途に応じて適宜選定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、工業織物用途としては、直径0.05〜1.50mmのものが主に使用される。
【0049】
このように、本発明の弗素系樹脂モノフィラメントは、従来のETFEモノフィラメントよりも小さい線径変動が要求される各種織物用途にきわめて有用である。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
【0051】
[線径の変動率]
アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用して、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件で外径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した値を線径変動率とした。
【0052】
[操業性]
連続押出し紡糸を行う際の状況を観察し、糸切れや原料の紡糸機への押し込み安定性から次の3段階で評価した。
○:全く問題なく、至って良好であった、
△:糸切れがややあったが操業可能であった、
×:糸切れや原料の押し込み不良が多発するため操業性が困難であった。
【0053】
[目ずれ]
フィルターの目ずれ評価については、得られたフィルター1mを目視で外観(筋、縞、段)検査し、目ずれの程度を次の3段階で評価した。なお、○を外観品位が良好な水準とする。
○:筋、縞、段が判らない、
△:筋、縞、段が認められる、
×:筋、縞、段の発生が著しい。
【0054】
[実施例1]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径2.0mmのニツケル合金製の紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量12.2g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置し、この筒状体中へ窒素ガスを流通せしめて、12.3m/分で引き取って得た未延伸糸を延伸温度90℃、160℃、かつ延伸倍率を4.80倍で2段延伸し、引き続き処理温度が170℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行った。その際の最終速度を55m/分で行い、直径0.40mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0055】
[実施例2]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径0.8mmのニツケル合金製の紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量0.24g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置し、この筒状体中へ窒素ガスを流通せしめて、8.2m/分で引き取って得た未延伸糸を延伸温度85℃、140℃、かつ延伸倍率を4.60倍で2段延伸し、引き続き処理温度が150℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行った。その際の最終速度を35m/分で行い、直径0.07mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0056】
[実施例3]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径4.5mmのニツケル合金製の紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量27.1g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置し、この筒状体中へ窒素ガスを流通せしめて、9.0m/分で引き取って得た未延伸糸を延伸温度90℃、190℃、かつ延伸倍率を5.30倍で2段延伸し、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行った。その際の最終速度を40m/分で行い、直径0.70mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0057】
[実施例4]
弗素系樹脂としてETFE(旭硝子(株)製 フルオンETFE−C88AXP)を使用し、これをエクストルーダー型紡糸機に供給して紡糸温度を315℃で溶融し、孔径8.0mmのニツケル合金製の紡糸口金を通して単孔当たりの吐出量66.9g/分で紡糸し、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに50℃の水浴中浴に導いて冷却するに際し、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置し、この筒状体中へ窒素ガスを流通せしめて、9.0m/分で引き取って得た未延伸糸を延伸温度90℃、190℃、かつ延伸倍率を4.80倍で2段延伸し、引き続き処理温度が225℃、かつセット倍率が0.93倍のセット処理を行った。その際の最終速度を40m/分で行い、直径1.10mmかつ円形断面のETFEモノフィラメントを得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、筒状体中へ窒素ガスを流通しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0059】
[比較例2]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を4.0m/分に、最終速度を17.9m/分に下げたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0060】
[比較例3]
実施例1において、未延伸糸の引取速度を17.5m/分に、最終速度を78.1m/分に上げたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0061】
[比較例4]
実施例1において、延伸倍率を4.80倍から6.80倍に上げて最終速度を77.8m/分に上げたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.40mmのETFEモノフィラメントを得た。
【0062】
以上、上記実施例1〜4および比較例1〜4で得られた各ETFEモノフィラメントの線経変動率結果を表1に併せて示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から明らかなように、本発明のETFEモノフィラメント(実施例1〜4)は、いずれも長さ方向の線径の変動率が5%以下と極めて小さいものである。
【0065】
一方、口金面直下での窒素ガスの流通、未延伸糸の引取速度、モノフィラメントの最終速度が本発明の条件を満たさない製法により製造されたETFEモノフィラメント(比較例1〜4)は、いずれも操業性が悪く、長さ方向の線径の変動率が大きいもの(比較例1〜2)や、延伸切れ(比較例3〜4)して製糸できなく、本発明が目的とする効果を十分に満たすものではなかった。
【0066】
また、実施例1および比較例1〜2で得られた直径0.40mmのETFEモノフィラメントをそれぞれ経糸、緯糸に使用して平織物を製織し、さらにこの織物を190℃で熱セットして目付500g/mのフィルターを作製したところ、長さ方向の線径変動率が小さくかった実施例1のETFEモノフィラメントをフィルター構成線材として使用したフィルターは、目ずれが発生しなかったのに対し、比較例1、2のETFEモノフィラメントは、筋、縞、段が認められるなどの目ずれが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明のETFEモノフィラメントは、長さ方向の線径変動が従来のETFEモノフィラメントに比べて飛躍的に改良されたものであることから、例えば製紙用具用織物やフィルター用織物およびベルト用織物などの工業織物用としての使用が極めて有用である。
【0068】
また、本発明の製造方法によれば、長さ方向の線径変動率が極めて小さいETFEモノフィラメントを効率的に製造することができる。
【0069】
さらに、本発明のETFEモノフィラメントを用いた工業織物は、製紙用具用織物やフィルター用織物およびベルト用織物などに使用することもでき、得られたこれらの各種工業織物は、その織面の筋、縞、段などの目ずれが発生しにくく安定した織面を保持することが可能であり、さらに弗素系樹脂が有する優れた耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、電気特性、摩擦特性、非粘着性、耐候性などの効果を遺憾なく発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体からなる直径0.05mm〜1.5mmのモノフィラメントであって、アンリツ製レーザー外径測定機KG601Aに準じた外径測定機を使用し、測定速度15m/分、測定間隔0.1秒/回、測定点1024回の条件でモノフィラメントの線径を測定し、さらにキーエンス製データー処理機NR−250&PCに準じたデーター処理機を使用して、前記線径の長さ方向の線径変動を評価し、その結果をJIS−Z8101−1で定義される変動係数[標準偏差(σ)/平均値×100]で表した線径変動率が5%以下であることを特徴とする弗素系樹脂モノフィラメント。
【請求項2】
エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を溶融紡糸・冷却するに際して、口金面直下から冷却媒体浴中にかけての紡出糸条通路にその少なくとも下面が冷却媒体中に浸漬するよう筒状体を配置すると共にこの筒状体中へ不活性ガスを流通せしめ、口金から溶融押出した紡出糸条を直ちに前記筒状体を経て冷却媒体浴へと導いて冷却し、次いで得られた未延伸糸を5〜15m/分の速度で引き取り、引き続き少なくとも1段以上の多段で延伸または延伸/熱セット処理を行うと共に、その際の最終引き取り速度を25〜75m/分で行うことを特徴とする請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメントの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の弗素系樹脂モノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業織物。
【請求項4】
製紙用具用織物であることを特徴とする請求項3に記載の工業織物。
【請求項5】
フィルター用織物であることを特徴とする請求項3に記載の工業織物。
【請求項6】
ベルト用織物であることを特徴とする請求項3に記載の工業織物。

【公開番号】特開2008−248404(P2008−248404A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87990(P2007−87990)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】